No.624132

太守一刀と猫耳軍師 第32話

黒天さん

拠点の予定でしたが、予定を変更して呉との開戦となります。
拠点は呉との戦が終わるか、一段落した所でガッツリ入れていく予定です。デレて欲しい人募集はまだやってます。

2013-10-01 01:29:23 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8448   閲覧ユーザー数:6419

「国境の街を呉の軍勢が襲ったですって?」

 

耳を疑う報告が飛び込んでくる。今は一刀が不在だというのに。

 

とにかく、真偽を確かめなければならないし、本当であったならそれを迎撃しなければならない。

 

私は早急に軍をまとめて出陣の用意にかかる。一刀は華歆の領地についた頃か。

 

伝令を飛ばすが、返事を待っている暇はない。

 

すぐに動ける人間、鈴々、翠、華雄、白蓮、紫苑、そして私の6人で軍を率いて国境へ向かった。

 

星や朱里、詠は現在他の街に行っているためにすぐには動けない。

 

正直この人員で軍を動かすのは不安があった。特に鈴々、翠、2人と、マシになったとはいえ華雄も根っからの猪武者だ。

 

「時期が良すぎる……、確かに他の領主も威圧するために進軍を隠しもしなかったけれど……」

 

軍の看板ともいえる人員で向かわせたのはそのためもある。

 

もちろん、曹操が何かしでかしたときのための保険でもあったのだけど……。

 

黙ってみているわけにもいかず、国境の村へと兵を率いて急ぐ。

 

その街へついてみれば酷い有り様。街は焼かれ、負傷者があちこちに座り込んでいる。

 

私は鈴々、翠、華雄、白蓮に周囲の警戒を任せ、紫苑と共に街を見て回る。

 

あちこちに呉の旗や、呉が好んで使う赤い武具が転がっている。

 

自分たちがやりましたと、宣伝しているかのように……。

「……、まさか」

 

「桂花ちゃん、やっぱりあやしいとおもうかしら?」

 

「確証はないけど、おそらく計略。駆虎呑狼の計の可能性が高いわ……、

 

張飛隊、馬超隊、華雄隊に急いで伝達! 呉の軍が現れても攻撃してはダメ! 衝突したら思う壺よ!」

 

近くに居る者を走らせ、負傷者の救助に回した人員を呼び戻す。

 

すぐに動けないのがもどかしい。

 

それから数分もしないうちに、兵士が私の所へと駆け込んでくる。

 

「報告します! 呉の軍勢を発見し、張飛隊と馬超隊が突出しました! 華雄隊はまだ後方にいますが、こちらも援護に向かう構えです!」

 

「後手に回ったわね。相手にはおそらく陸遜か周喩のどちらかは居る。

 

あの2人だけじゃ相手の策にハマりかねないわ」

 

「白蓮ちゃんじゃ、ちょっとあの2人を抑えきれなかったみたいね」

 

「急いで援護に向かうわ、華雄隊にはこちらと歩調をあわせるように伝えて!」

 

ここで兵を無駄に損ねるわけにはいかない。損害をどれだけ減らせるか……。

 

相手はおよそ6万、こちらは3万。兵力に差がありすぎる。

 

星や朱里、詠達に援軍を出すように言ってあるし、時間を稼げば一刀達も来る。

 

この状況では被害を減らすように迎撃に徹するのが最善手のはず。

 

ただ、鈴々と翠が突出してしまっているのでこの手は既に潰れた事になる。

 

呉は既に両翼から2人の隊を包囲しにかかってきている。

 

華雄と白蓮の隊に両翼を抑えるように指示を出すがどこまで持つか。

 

敵を殲滅できればいいが、呉の兵を相手に殲滅し切る自信はない。

 

期を見て最寄りの城まで一気に引いて籠城するぐらいしか無いだろうか。

 

問題はそれを呉のが許すかどうか……。

 

「本当にマズいわ……」

 

空を仰ぎ見る。

 

旗を見る限り、主要な将はきていない。見えるのは孫と陸の旗。

 

おそらく孫権ではなく孫尚香。

 

さらに兵の数に対して将の数が少ないために、一部の動きが甘い。

 

そこを突くしか無いか。

 

考える、必死で頭を働かせ、最寄りの城への撤退を前提として組み立てる。

 

時間は無い。

 

「2万、せめて1万5千は残して城に入らないと……」

 

私は各隊へ指示を飛ばした。

───────────────────────

 

華歆子魚。紫苑と同じく未亡人

 

現在治めていた領の領主の娘として生を受ける。

 

子供は娘が一人、幼い頃より重病を患っていて、中央に納める税を減らし、医者を遠方から呼ぶために使っていた。

 

もとより取る税が少なかった事と、人柄が良く、喧嘩や揉め事に対する裁定でも公平であり、

 

民には慕われていたし、税のごまかしに気づく人間がいても、黙認していたらしい。

 

外部からは私腹を肥やしていたとは言われるがその生活は質素だったと関係者は語る。

 

医者を探して呼ぶにも、遠方になればなるほど出費がかさみ、税をごまかすぐらいでは足りなくなった。

 

丁度その頃、呉の有力者に気に入られたため、頼み込んで娘をその有力者の縁者と婚姻させてもらい、そちらに治療を任せる事になる。

 

娘は体調が良い時期を見て相手のいる呉に移った。

 

娘が自分の手を離れ、税をごまかす必要がなくなると、善政を敷いていたそうだ。

 

呉に移った後は、娘とは手紙で頻繁にやりとりをしていたとのこと。

 

魏が発足した後は、戦を起こして民に負担をかける事を嫌い、早々に魏の傘下に入る。

「ふむ……」

 

華歆の周囲の調査を軽く行っただけでこれだけの事がわかった。

 

殺さないで欲しい、という嘆願も多くあったらしい。

 

現在、その町から遠くない城にいる。

 

「ということは、呉から何らかの要求があったのか……?」

 

「話を聞く限り、孫権はそういうことをする人では無いでしょうし、周喩が何かを企んでる可能性がありますね。

 

娘が婚姻を結んだ先は、周喩の縁者らしいという報告もありますし……。」

 

そこへ、早馬が飛び込んでくる。火急の用件だと、息も絶え絶えに俺に報告を始めた。

 

呉が国境の村を襲った。というのだ、それに対応するために出撃したのが鈴々、翠、華雄、白蓮、紫苑、桂花。

 

愛紗と霞、それに俺の不在がかなり響いたらしい、鈴々や翠の手綱を握りきれる人物がおらず、

 

2人が突っ走ったために、かろうじて追い返したが、ほぼ敗北状態、という結果になったらしい。

 

現在国境から少し下がった地点でにらみ合いをしている。

 

報告では、計略を仕掛けられた、とのこと。

 

駆虎呑狼の計。

 

桂花が看破したらしいのだが、既に呉の軍勢が現れた後、それを伝える暇もなく、鈴々達が突撃していってしまったという……。

 

確か史実だと荀彧が用いた策のハズだから看破できて当然か。

 

華歆の領地が、本拠地から結構離れているのも災いしたようだ。

───────────────────────

 

「華歆、以上がこっちの推測だけど、間違ってる?」

 

俺は牢屋の華歆の所へきていた。

 

確かに急いで桂花達の援軍に向かわなくてはいけないのはわかっているが、軍をまとめるのに少しかかる。

 

その間に少し話しをして、事実関係をハッキリさせたかった。

 

ここにいるのは俺と華歆のみ、牢番も下がらせ、話しやすいように配慮したつもりだ。

 

「そこまで調べたなら、もう隠す必要は無いかしら。

 

公瑾の手の者に子の命を握られ、脅された。

 

北郷軍の注意を引けと。

 

私は子の命のために、国を売った。だからあなたに殺せと言ったのよ。

 

首をはねられて当然の事をしたのだから。

 

税を引き上げ、不自然無くそちらに気づかれるように工作を行った。

 

再三の警告に無視を貫いたのも軍を動かすため。

 

既に戦は始まった、戦はもう止められないでしょう。

 

私の役目はこれで終わり。

 

さぁ、首をはねなさい、私が生きていては、あの子がまた危険にさらされる……」

 

やりきれない思いになる。はじめは月が両親を人質に取られ、次は紫苑が、次は華歆が。

 

思わず、強く歯を噛み締め、ギリと、音を立てる。

 

それが聞こえたのだろうか、華歆はさらに言葉を続ける。

「策に嵌って悔しいなら殺しなさい。でなければあなたは甘い王のままよ。

 

もっとも、あなたが殺さなくとも、曹操が私を殺すでしょうけど。

 

ふふ、あの曹操を、『小娘』と呼んで侮辱してやったのだから」

 

自嘲気味に笑いながら、華歆は牢屋の天井を見上げる。

 

俺は牢の扉を開けてゆっくりとその中へ入っていく。

 

「軍の注意を引くのが目的なら、何故うって出た?

 

籠城すればもっと時間は稼げただろうに」

 

「籠城ともなれば民にも大きな被害が出る。

 

それに兵にも大きな苦労をかけることになる

 

命の惜しい者は逃げていい、投降していいと最初から言ってあった。

 

早くに勝負がつくように、戦術も甘くした。

 

私のために本気で戦う必要など無いと言ったのに。

 

皆ついてきてしまったけど」

 

確かに、華琳からは特に本陣は強く抵抗してきたという話しを聞いた。

 

主は逃げるつもりもなく、もとより死ぬつもりだったというのに。

 

「俺が華歆を斬れば、それでいいのか?」

 

「斬りなさい。それが当然の処置であり、私の望み。

 

私のために、あなたの大切な仲間が危険にさらされたのでしょう?」

 

剣を抜く。普段つかわない剣はいつも以上に重い。

 

俺が剣を抜いたのを見れば、華歆はうつむきその首を差し出す。

 

ゆっくりとその剣を振り上げて、大上段に構える。

 

「さようなら……」

 

小さなつぶやきは、俺と華歆しか居ない牢屋に大きく響き、当然俺の耳にも届く。

 

別れの言葉の後に続いたのは華歆の娘の名だろうか。

 

剣を持つ手が震える。本当に斬っていいのか? 華歆を斬る事ができるか?

 

葛藤していた時間は数秒か、数分か。時間の感覚がわからなくなる。

 

「あああぁぁ!!」

 

俺は叫びとともに剣を振り下ろした。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

華歆さんについて少し掘り下げて書いてみました。

 

この人の出自や娘のあれこれ、というのは演義とも史実とも無関係で完全に黒天の独自設定です。

 

話の展開上、拠点を挟む余裕がなくなってしまいましたが、

 

作品の説明に書いたとおり、拠点は呉との戦の後か、原作のように戦の合間に差し込む形で書いていきます。

 

原作だと呉との戦のあとにまた3回拠点がありますし、そっちは結構ガッツリ書くと思われます。

 

この華歆さんを気に入ってくれた人がいれば、生存ルートでまた話しを書くつもりにしてます。

 

その場合また真名を考えるので悩みそうですがw

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
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