華琳は直接最後の警告を行うために領主の城へと訪れていた。
傍らには秋蘭と春蘭の2人が控えている。
「あなたに求める事は以上よ、
今すぐに改善するのなら大目に見る、と、北郷は言っているわ
もし拒否するのなら、軍を動かし、あなたを処罰する事になる」
「曹孟徳も落ちたものね、あんな甘い王の使いっ走りにされているとは」
領主が大仰ため息をつく。ここの領主も他の例にもれず、女性であった。
「こたえは否、こちらにもいろいろと事情がある、口を挟まないでもらいたい」
「北郷軍が実力行使に踏み切る覚悟だとしても、かしら?」
「呉とにらみ合いをしている最中に、内に力を向ける余力があるのかしらね。
今もって北郷は魏との戦いの傷が癒えない、今、呉が同盟を破れば相当に苦戦するのは火を見るより明らか。
そんな時にわざわざ国内で戦をして呉に付け入る隙を与えるなんて、バカのすることよ」
「言いたいことはそれだけかしら?」
「ええそうよ、分かったらさっさと去りなさい、『小娘』
目障りよ」
「貴様……!」
飛びかかろうとする春蘭を、華琳が片手で制する。あくまでここにきたのは警告のため。
北郷から勝手に領主の首をはねたりすることは厳しく禁止されている。
それに今ここにいるのは3人だけ、一斉に兵に襲い掛かられてはいくら華琳達といえどどうにもならない。
当然それが分からない華琳ではなかった。
「では北郷にあなたは警告を無視したと伝える。
じきに北郷軍があなたを叩き潰しに来る。覚悟しておくのね」
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「まったく、ご主人様は節操なしが過ぎます。なんだって曹操のような者を……」
現在俺達がいるのは隣の町、そこで軍を編成し、華琳達がかえってくるのを待っていた。
その間、俺は愛紗からずーっと説教というか小言をもらっている。
まぁ曹操の登用について最後まで文句を言ってたからなぁ。
「聞いていらっしゃいますか!」
「聞いてるよ。愛紗の言ってる事も理解できるけど、
華琳が本当に暗殺の件に関係なかったのは、投降した魏の兵達から聞いた話しからも明らかになっただろ?
本人はそういうことするような人間じゃないよ」
「ですが!」
「報告します、曹操殿が戻られました!」
「ん、分かった。報告を聞く。紫青、いくよ。愛紗は待機してるように」
「何故ですか!」
「……、ここに来がけに華琳と口論になった回数、覚えてる?」
「う……」
曹操と愛紗がモメた回数は軽く二桁。正直士気に関わるからやめてもらいたいのだが。
あと仲裁に入る俺の命がいくらあっても足りない。
そんなわけで、俺は愛紗を部屋に残して華琳の元へ向かった。
「以上が警告を与えた結果よ」
華琳の報告を聞いて俺は大きくため息をつく。
「華琳が言えばおとなしく従うかとおもったけど、そうもいかないか」
「王であったころならともかく、今の私は相手からみればお情けで生きている、捕虜上がりの下っ端よ。完全に舐められてるわ」
相当な事を言われたのだろう、華琳の表情は固く、手は強く握りしめられている。
「仕方ない、これだけ警告しても聞かないんだ、実力行使といこう」
「相手は捕獲する、という方向で動くのかしら? 私は首を落とすべきだとおもうのだけど」
「取り敢えず、可能なら捕獲で頼むよ。紫青、どう動くのがいいとおもう?」
「相手はこちらの半数ですから、鶴翼の陣を用いて一気に包囲殲滅するのがまず基本になりますね」
「おそらくそれぐらいのことは読んで来るでしょうから、鋒矢の陣を取って一点突破で本陣を狙ってくる可能性があるわ。
もっと思い切りが良ければ長蛇の陣という可能性もありね」
確かに、鶴翼の陣は本陣までの防備が薄いので一点突破には弱い。
長蛇の陣というのは、文字通り、隊毎に一列に兵を並べてしまう、本当に一点突破しか考えていない玉砕覚悟の陣形になる。
「偃月の陣を使うのはどうかしらね?」
「……マジ?」
偃月の陣は本陣を先頭に三日月形に陣形を取る方法。鋒矢の陣の縦棒がなくなり、大将が最前線に来る形といえばわかりやすい所か。
一騎当千の猛将が行くならともかく、一般ピープルもいいところな俺には不向きな陣形だ。
大将が最前線に立つから、兵の士気は上がりやすいんだけど……。
「あなたに最前線にでろとはいわないわ。本来大将がいるべき中央には私達が行く。
左翼に張遼の隊、右翼に関羽の隊を置き、期を見て横撃をかけてくれればいいわ。
あなたと仲達の隊は、中央の後方から弓で援護してくれればいい」
「私としても、一番目立つ所に曹操さんが出るのは賛成です」
「ならそれでいこうか。くれぐれも気をつけるようにな」
「それと、曹操さんに一つ提案があります。一刀様の許可も必要なのですが」
しばし曹操と紫青が話しをし、俺はその横で軽く頷き、手はずを愛紗や霞達とも確認した上で出陣することになった。
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軍が動いたという報は既に相手にも知れていたのだろう、相手も兵を途中まですすめてきていた。
相手の兵の数は予想通りおよそ5000。
華琳の隊には、曹、夏侯の旗2枚の他に、十文字と魏の旗が寄り添うように立っている。ただ、魏の旗の色は青ではなく緑色だが。
両軍が対峙したところで華琳が前に進み出て声を張り上げる。
口上の中身は厳しい糾弾と兵士たちへの降伏勧告。
曹と魏の旗と、華琳の言葉の効果だろうか、敵に動揺が走っているのが見て取れる。
流石はもと魏王といったところか。
「兵の練度はあまり高くないですね、陣形を整えるのが遅いように見えます」
「うん、確かに動きが悪いな」
敵の兵を見て感じるのがまずこれ。そもそも、ここの領主には軍を率いる才能というのも無いのかもしれないが。
華琳の話しだと、普通に文官って感じだったらしいし。
それに優秀な将であったり、軍を率いる才があったりしたなら、華琳が放っておくわけないだろうし。
まもなく両軍が激突し……。結果から言ってしまえば、数の差、練度の差、士気の差、すべてにおいてこちらが優勢だったため圧勝。
華琳達の隊の戦いぶりは初めてみたが凄まじく、よくうちの軍はこれに勝ったなぁ、なんて思ったり。
夏侯惇はといえば、今までの鬱憤を晴らすべく、ものすごい勢いで暴れていた。
前線が崩れたあたりで敵兵のうちからばらばらと投降するものが現れはじめ、
それに合わせるように、両翼から愛紗と霞の隊が横撃をかけ、一気に勝負を決めにいった。
華琳はその領主を見事に捕らえ、縛り上げて俺の前へ引きずってきた。
「殺せ」
領主は俺の前に引き連れてこられるなりそういう。
「取り敢えず話しが聞きたいんだけど、俺は北郷一刀。名前を教えてくれる?」
「性は華 名は歆 字は子魚。話す事は無い」
華歆-かきん-。か。確か史実と演義で扱いが真逆の人だ。演義だと悪人として描かれている。
逆に史実では公平で良い人であるらしい。
元々は呉の人のはずだけど……。まぁ紫苑も北方に居たしな。
この様子だと多分演義準拠かなぁ。
「で、この女をどうするのかしら?」
「華琳ならどうする?」
「魏を治めていた頃の私なら斬るわ、聞くまでもないわよ」
「ま、処分は事の次第を聞いてからの話しだな。
情状酌量の余地があるならそこは汲むし。
今、詳しい内情の情報収集をやらせてるところだしね」
「甘いわね」
「ま、それが俺だしな」
華歆は取り敢えず城に連れて行って処分が決定するまで牢屋行きとなった。
ほんとは牢屋にいれるのは心苦しいんだけど、
首をはねないのは良いにしても、戦の捕虜ではなく、罪人なのだから然るべき対応を取るべき、
と、華琳に強く言われて牢屋に放り込む事になった。
この後、不正を行うと曹操が軍を率いて粛清しにくる、という噂が魏領に広まり、不正は一気に減った。
詳しくは教えてくれなかったが、紫青がわざわざ魏の旗を掲げさせたのもこの噂の効力を高めるためだろう
あと、魏の旗を北郷軍の緑に塗りつぶす事で、魏は北郷の傘下に入ったというような意味合いを表に出そうとしているのでは? とも思っている。
そうなら、よく曹操が良いと言ったものだけど。
「さて、それじゃあ帰還と行きますか。新しい領主に誰を据えるかも決めなきゃいけないし……」
また仕事が増えるなぁ、などと少し気が重くなりつつ、華歆を連行し城に戻る事になった。
あとがき
どうも黒天です。
今回は不正領主改め、華歆との戦闘でした。
チョイ役なんだけど名前が無いのもなー……。というので、無印での于禁、楽進あたりとおなじく、
名前だけで登場、みたいな感じと思ってもらえれば間違いないです。
容姿も詳しくは考えてないので描写してません。おそらく年増枠? のような気がしてますが。
もしこの人のエピソードを見てみたい人がいれば、こっそり書くかもしれません。
話しは変わりますが最近、華琳にメイド服を着せようとかいう野望があります。
でも着てもらおうとおもうとデレさせないとなー……などと悩みつつ。
取り敢えず今回のことで華琳は捕虜という立場から脱出予定です。
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回は対不正領主戦です。