真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-
第百肆拾参話 ~ 揺れゆく馬車に舞いし想い ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
【最近の悩み】
幸い、前日の調理大会での被害者と言うか急患は次の日には全員回復するに至ったが、……それは多分試食と言う特性上、摂取量が少なかったおかげではないだろうかと思っていたりする。
原因は、………まぁ、追求する訳にはいかないので、表向きには
ちなみに食中毒騒ぎでそれ所じゃなかったが、厳正な集計のもと優勝者は、北郷隊第一分隊、副官こと丁奉の作った牛の血の煮こごりを使ったスープで、本人曰く、勝因は…。
『鍛えに鍛えたこの肉体が生みしは、武のみならず。
鍛えた肉体と感性を正確無比に扱いさえすれば、料理ぐらいなんて事は無い。
見よっ!この髪の毛一筋程も狂いなく均等に切られた材料をっ!』
らしい。確かにそう言う使い方もあるだろうけど。力なんてなくても呼吸とリズムで材料なんていくらでも均等に切る事は出来る。その辺りが丁奉はまだまだなんだよね。
だいたいそう言う事を大声で言ったら、収まりがつかなくなる人がいる訳で。
「武で鍛えし力を、生きる糧となる調理に使おうと言う心意気は、流石は呉の武人と称えれよう。……が、そう言われたのならば、この趙子龍とて黙ってはおれぬ。神槍とまで謳われたこの趙子龍の槍捌きをとくと見るがよい」
そう言って、先日は参加しなかった星の片手には甕が握られているけど………あの、それはもしかしなくてもメンマですか? メンマの細切りにでもしようとか?
「待て星。そう言う事ならば、私とて黙ってはおれぬ。 いくら戯れの料理大会とはいえ、武が劣っているが故に敗退したと言われては、この青龍偃月刀に込められし民の想いを裏切る事へとなる。この関雲長、今一度手合せを願おう。 なに、先日は慣れぬ得物ゆえの不覚」
……あの愛紗さん、あれってそう言うレベルの料理でしたか?
と言うか慣れぬ得物って、もしかして包丁を握ったのは昨日が初めて、とか言いませんよね?
「くだらぬ催しだが、鍛えられた肉体と言うのは面白い。
其処の小僧。我が金剛爆斧を受けてみるがよい」
更には、先日不在だった華雄さんまで、なにかを勘違いしたままで参加を表明し出す始末。
そうして丁奉の不用意な発言によって、第二回調理大会は止める間もなく周りの熱気に押されて始まってしまったのだが、結果は言うまでも無く中断。
龍牙や青龍偃月刀と言った長獲物だけでなく、金剛爆斧なんて言う超重量級量の獲物。しかも止せばいいのに丁奉まで三人に触発されて愛用の斧槍を両手に持ち出し、冗談やパフォーマンスで終わるかと思いきや。本当にそのまま得物を構え。それぞれの得物をまな板のメンマに振り下ろせば結果など言うまでもなく…。
愛紗と星は桃香に。華雄も月と詠に、それぞれ食べ物を粗末に扱うなんてとこってり怒られ。
丁奉は俺が叱る以前に北郷隊の女性陣全員に……。えーと、どう聞いても料理大会で優勝した事が、他の参加した女性陣の面子を潰したとか言う内容にしか聞こえないんですけど……。
まぁいいや。とにかく反省してくれれば俺としては問題ない訳で、問題があるとしたら………。
「なんで斬っただけなのに、あんな事に?」
目を向けた先に在ったのは、青龍偃月刀によってまな板どころか机ごと斬られたメンマであった物体。
え? 何故、過去形なのかだって?
それは俺が聞きたいくらいだ。 だって、あれどう見てもメンマには見えないぞ。 と言うか食べ物にすら見えん。
うん、謎だ。謎だけどこれだけは言える。
俺を拾ってくれたのが明命で良かったと。
もし、間違って愛紗に拾われていたら、アレを食べさせられていたんだろうなと。
あっ、いや、その時は俺が食事当番になってただけか?
一刀視点:
机上にお盆ごと置かれた塊を、指で突いたり摘まんだりして弾力を確かめてみる。もっとも、この状態の物を触れた事が無いので、これで本当に良いのかどうかは不明だけど。傍から見たらそうは見えないんだろう。俺の一挙一動に眼を平らにして息を呑み込んでいる職人さん達一同。
ごめん、そんなに見つめられると、凄く責任重大に思えてくるから勘弁してください。 ただの興味本位で触れただけですから、其処まで此方の一挙一動に緊張してもらうと大変申し訳ないと言うか。 とにかく、そんな居心地の悪さから逃げるって言う訳じゃないけど。
「良く練れていると思う。 じゃあ此れを半分に分けて、片方には炭を細かく砕いた粉を混ぜてもう一度練り直してくれ。炭は乳鉢で磨るくらい細かくね。それが済んだら其々を細かく分けて型に填めたら低温焼成になる。
二つは微妙に性質が変わるから、用途によって使い分ける事になるし、焼成温度はもちろん炭の比率を変えてみたり、網を挟み込んだりすれば、更に用途が細分化されるから色々試して見てくれ。実用化に向けては其れからかな」
今後の指示と言うか、記憶にあるだけの不確かな知識を口にしてゆく。
材料も本来の物の代替品で、蒲公英の乳液でも問題なく作れると言うニュースを頼りにしたもの。おまけに製法ですら夕食を取りながらTVを流し見ていたにすぎないが、それを足掛かりに開発していく事は可能だ。
少なくても零では無い。と言う事は物を開発する上で限りなく大きい。何せ完成形が見えているのだからスタートの段階からして大きく違う。
さっそく職人さん達は俺の指示を元に動き始めるのを余所に、七乃に案内されて次の視察場所へとに足を向ける。
孫呉の本拠地たる建業の街に帰って来た俺を待っていたのは、仕事の山、山、山。
書類仕事はもちろんのこと、視察まで彼方此方に入っている始末。その仕事量の多さときたら某元王様が十回は姿を眩ますくらいの量は軽くある。
別に、俺が政治の世界に深くかかわるようになったと言う訳では無い。冥琳達は其方にももっと関わって欲しいみたいだけど、これではとてもそれ所では無い。
仕事の山の正体。それは以前からこの街で始めていた天の知識を用いた政策により発生した問題点や改善方法を求める書類。むろんそれなりに事前に対処はしてきたが、そんなものはあくまで予想される範囲での事でしかなく。想定外の問題には対応しきれるわけが無い。
だけどある意味、それは当然と言えば当然の結果だと言える。幾らこの世界に合わせて建策したとはいえ、発達した政策と言うのは、その下地となった政策や失敗が土台となっている部分が存在し。そういった長年培た知識や経験のノウハウが為政者にも民にもあって始めて機能しえうるんだ。当然ながら天の知識を活かした政策には、その下地が双方共に圧倒的に不足している。
決まり事だからではなく、なぜそうする必要があるのか? そう言った思考が出来上がっていないため双方に齟齬が生じるのは当然だろう。
そして更に俺を忙しくしているのが、使えそうな天の技術の開発だ。
技術開発そのものが時間が掛かるのは当然だが、その為の準備期間も当然ながら必要で、検案や設計図を提出してても、直ぐに初期開発に当たれるものから、材料の入手や治具の開発から始めないといけない物など様々。
そう言った幾つもの開発が、試作が出来たものから、材料をやっと揃え終えて指示待ちの物まで、俺が不在中にどんどんと貯まってゆき。ついでに天の技術だけではなく自分達の技術の開発における問題点の解決案の相談まで、俺の所に上がってきているときている。
相談事は多岐に渡っており、政策、技術開発、医療、農業、商業、畜産、など様々だ。
むろん、あくまで相談程度。政治って言うのは堅実でないといけないので、俺の所に来るのは、解決したらいいなぁ~。何とかなったらいいなぁ~、といった程度の物が殆どだ。彼等からしたら不確かな知識であろうと方向性が分かるだけでも大助かりなのだろう。そうだとしても、俺一人に出来る事なんてたかが知れているし、教えるわけにいかない知識や技術の方に関連する事があるため、それなりに気を使う。
それにしても、幾らなんでも仕事が溜まり過ぎじゃないのか?これ?
「そんなのツケに決まっているからじゃないですかぁ。
いきなり相談もせずに劉備さんの色気に負けて、益州までお尻を追いかけて行っちゃうからですよ」
と、まるで俺の考えを読んでいたかのように、いつものニコニコした笑顔で隣を歩きながら答えてくれる七乃に、突っ込んだら負けと分かってはいてもつい口にしてしまう。
「前半はともかく、後半のは人聞き悪いから止めてくれ」
「ああ、そうですよね。劉備さんといったらやっぱり、お尻じゃなくて胸ですよね」
「確かにあれだけ立派…っじゃなくて! 違うからっ!」
「つまり御主人様は女性らしい膨よかな胸やお尻では無くて、未発達な幼い娘が好みで孔明さんや鳳統さんのつるぺたおっぱいや、小ぶりなお尻を追いかけて行ったわけですね……なるほど、翡翠さんや明命さんを見る限り、確かに其方の方が可能性がありますよね」
「だ・か・らっ、好みどうこうじゃなくて、そもそもお尻を追いかけて行ったような前提で言うのを止めてくれと言っているの」
「だったら、最初からそう言ってくだされば良かったじゃないですか。
まぁ、御主人様の性癖はどうでもよいので、この際おいて置いてですね。此れ、歩きながらでも良いから見てくださいね」
とまぁ、相変わらず人をおちょくるだけおちょくって、さも当然の事のようにいきなり仕事の話に戻る当たりの手際の良さはもう、流石と言うべきか、それとも神業的と言うべきか……。
あっ、周りの皆さん違いますからね。其処で驚いたように引かれると、まるで今のが本当の事のように思えるので止めてください。って言うか、そっち侍女の皆さんも、其処でひそひそと此方を横目で話さないでください。 一応、今のは七乃の冗談だと説明はするものの。皆さん、とっとと自分のお仕事に戻られていくわけで…、そんな光景を情けない溜息を吐きながら、七乃から手渡してきた物を確認。
手にしたそれはちょっとしたお盆くらいの大きさの漆器で、黒漆と赤漆による龍鳳の装飾が施されている。
新たな工芸品の試作の一つだろうけど、細部まで精緻に彫刻されたそれは躍動感があり、今にも中の龍と凰が翔び出して行きそうだ。むろんただの漆器では無く。通常は漆器は木に彫刻を施して漆で彩色をして砥ぐわけだが、この漆器は何の彫刻が施されていない木のお盆に、黒漆と赤漆を何層にも厚く塗り重ね。それを彫り込む事で通常の漆器では出せない強い深みと透明感を与えられている。
ただこの漆器の最大の欠点は、その厚く塗られた黒漆と赤漆の狭間を正確に彫り込み。時にはあえて不均衡に混ぜ合わせてある層を、刃先から指先に伝わる微かな感触と職人の勘を頼りに彫り込んでいかねばならい事。
むろん漆を通常よりかなり厚く塗るため、お金と時間は掛かるけど、それだけの価値がこの漆器には在る。
「いいねぇ。これだけできれば、後は職人の技量や発想で更に良いものが出来るようになるだろうね」
他にも天の知識を基に、この世界で独自に再現した金蒔絵や螺鈿細工が施された漆器や白磁。切子硝子はおろかレース編みまで様々な工芸品を手渡されてはそれぞれ感想や注意点を口にして行く。
こういった工芸品は一見政治には関係ないかもしれないが、今の孫呉で最も力を入れているものの一つで、権力者へ贈るためや民の生活に使う為と言うより新たな財源の確保として。
この地の生活品や工芸品は遠く離れた土地では珍品や美術品、いわば嗜好品として非常に高い価格で取引される。
孫呉は海に面しているため西域や、さらに西にある欧羅巴諸国と貿易する事により、数十倍~数百倍の価格で売れる可能性を秘めている。それが、この時代にはあり得ない品々ならば尚更の事。
むろんあちらさんの貨幣が此方で役に立つわけがないので物々交換となるのだが、向こうの生活必需品や工芸品は、此方でもまた高値で取引される。言わば交易による外貨の獲得。
この時代における外貨の獲得の最大のメリットは、この国で飢饉が起きても食料などの物資をそれでも賄う事が出来ると言う事だ。 そうすれば凶作による餓死者を一人でも減らす事が出来る。
むろん農業改革は行ってはいるけど、一朝一夕で出来る性質のものではないし、作物に豊作不作は付き物だし、天候や蝗害にも大きく左右される。
国としては、それ等に対しての保険は幾らでもあるに越した事はない。
それにしても七乃のやつ、さっきから随分と適当に扱ってるけど大丈夫なのか? 最初に渡されたお盆なんて、俺から返されるなり後ろの侍女に軽く放るようにして渡していたけど、あれって現代だったら数百万じゃ収まらない気がするんだけど、この世界だとその程度の価値でしか無いのか? それとも七乃からしたらその程度の事なのか……。 多分、後者だよなぁ。侍女も必死な表情で体全体で受け止めていたし。
今でこそ俺の秘書みたいな事をしているが、七乃ってよくよく考えたら超お嬢様だよな。王であった美羽の一の臣下とか言ってるけど、実質的には美羽に代わって国政を仕切っていた訳だし。美羽のお姉さんと姉妹のようにして育てられたとかも言ってたから、王族の乳母姉妹だったということだ。 そう考えると普通の人間の価値観と違っていて当然だよな。きっとあの常識とズレた所のある性格もそのせいかもしれない。
「そうそう明後日から、これらの工房のある土地を廻りますから、それまでに処理仕事を片付けておいてくださいね」
「ぶっ!」
まるで当たり前かのように口にする七乃の言葉に、俺は思わず吹き出す。ちょっとまて、あの書簡や竹簡の山を明日中に片づけろと? 中も見ずに署名したり印を打つだけならともかく、俺の所に来る仕事がそんな性質のものなんぞ殆どないぞ。はっきり言って今から徹夜で処理したところで、半分どころか三分の一も終わらせられない自信がある。…できない事を自信に持つと言うのも、どうかとは思うけどね。
「と言うのは冗談でして、優先順位の高そうなもの順に並べ直しておきましたから、出立までに出来る範囲で構いません」
「ぷはーーーーーっ吃驚したーっ。其れなら分かる。幾らなんでもあれを一日で終わらせろだなんて冗談にしても心臓に悪い」
「いえいえ、な~んか失礼な事を誰かさんが思ってらしたような気がしたので、ちょっとしたお茶目です♪」
「……ははっ…ははっ…、き、気のせいじゃないかなぁ」
「そうなんですか?」
ええ、そうです。頼みますからそう言う事にしておいてください。
なんというか、此方の考えが全部筒抜けになっていそうで怖いので其処で話を打ち切る。
だってもしここで『全部顔に出てますから♪』なんて言われた日には、もう仮面を被って毎日を過ごすしかなくなるぞ。そんな何処かの鉄扇を持った
現実逃避とも言うが、この際その言葉は心のポケットの奥底にでもしまっておく。
……あれ? そう言えば、変な事言ってたな。
「優先順位の高そうなものって、もしかしてアレだけの書類の山を全部読んだの?」
「ええ、軽くですけど」
まるで当たりまえの事のように応えるけど。軽く目を通す程度にしたって、とても簡単に言える量じゃないぞ、アレ。
この世界の文字に慣れていない俺が読むのが遅い俺と比べるのが間違っているにしたって、流石と言うかなんというかとにかく凄い。 最近は慣れてきていたつもりだったけど、この世界の人間、とりわけ将の職につく人間は基本スペックが出鱈目だ。
だから七乃が軽くと言うなら軽くなのかもしれない。
でも、そうだといっても手間や苦労が無くなるわけじゃないし、その労力の割に報われる内容の類の仕事ではないはず。
「ありがとうな」
「え? 何です。いきなり急に?」
俺の感謝の言葉に、七乃は首を傾げるなり胸元や腰回りを確認しはじめたと思ったら、近くの侍女に声を掛けるなり。
「すみません何処か服が解れて、下着でも見えちゃってますか?」
「まていっ!」
がたごとと車輪が立てる音を背景に、俺はムスッと馬車の外の景色を眺めながら心を落ちつくよう努める。
理由は今更言うまでもない事だが、七乃に言わせれば俺が悪いらしい。
『私は御主人様の道具なんですから、道具としてのお仕事をするのは当然です。いちいち礼を言われる事じゃないんです。 それなのに、いきなりあんな所で礼なんて言われたら、御主人様の目を楽しませるような事があったのかと疑って当然じゃないですか』
と、いったい七乃は俺をなんだと思ってるんだろうか?
しかも……。
『御主人様のそう言うお気持ちは嬉しいですけど、少なくても屋敷の外では無用な気遣いです』
と釘を刺される始末。 確かに美羽や七乃の立場を考えたら、そうなのかもしれないけど、春寿の街では其処まで徹底してなかったよな。まぁ、あそこでは身内が多かったから甘えれたと言うのもあるんだと思うけど。七乃がそんな人の目を気にする性格とは思えないし。
……やっぱり、そうせざる得ない状況と言う事なんだろうな。
はぁ……翡翠か雪蓮辺りに相談してみるか。
七乃(張勲)視点:
がたごとと揺れる馬車の中で、一刀さんの百面相を横目に見ながら、荘園やお店
ちなみに、今、手にしているのは始めたばかりの季刊誌【袁々】に対する報告の纏めだったりします。 概ね好評のようです。とくに天の国で言う【アンケート】とかいう質問に対する答えも、大陸中の様子を知るうえで大きく役に立ちます。その内容は大根一本の値段から各地の流行や、民族間の抗争の悩みまで様々で、玉石混交ではありますが、まさに情報と言う名のお宝です。
一刀さんは『よくこんなに揺れる馬車の中で読めるなぁ』とか言いますが、私にとって此れくらいの事は何でもありません。天の知識による重ね板発条などを用いたこの馬車は、以前の物と比べ物にならないほどの快適な乗り心地。つまり一刀さんにとって、これほど快適になった馬車も、天の世界の乗り物に比べたら快適には程遠いと言う事。 本当に一刀さんはそう言う事に関しては迂闊すぎです。
つまり、それを可能とする技術がまだまだあると言う事を一刀さんは何気なく口にし、それを私達に知られてしまった。
幸い外で馬を操りながらも聞き耳を立てている御者は、翡翠さんの手の者ですから安心ですが、それが絶対に外に漏れないとは限りません。
御屋敷の件もそうです。確かに孫権さん達は一刀さんへの感謝の気持ちが主なのは確かですが、孫呉の老人達やその周りはそう思っていません。
その目的は天の御遣いの威光を高め。その存在と知識を徹底的に利用するため。
そして周瑜さんはそれを認めながらも、そんな人達の思惑を利用して、一刀さんや一刀さんが家族とする人達を守るため。
むろんその前提には、あの人達同様に一刀さんを利用する事が含まれてはいますが、その利用の仕方に絶対的な差があります。
自分達の権威を高め、旨い汁を吸うため。
孫呉と言う国を大きくし、安定させるため。
どちらも国として生まれて当然な思惑であり、それ等を否定しては、国そのものが成りたたなくなります。……ただ袁家に寄生していたあの人達と違う事は、本当の意味で自分達の事しか考えないような人は少ないと言う事。
それは当然でしょう。信義を重んずる孫呉の中でおいて、そんな人間は其処まで力を付ける事は出来ないからです。それだけの地盤が出来ているのが孫呉の強みであり、同時に弱点でもあったんですけどね。
「なぁ、もう少し何とかならないのか?」
そんな事を脳裏の片隅に浮かべていた時に掛けられた一刀さんからの問いかけ。その意味が分からないほどワタシは鈍くありません。と言うかこういう時の一刀さんって、本当に考えている事が顔に出ているんですよね。だからこそ、よけいそうでない時の一刀さんに皆は騙されるんでしょうけど。
一刀さんが言ったのは、碌に名前も覚えていないような侍女達や職人達への私の態度。
それが私達を心配しての事は分かってはいますし、そのお気持ちは嬉しいですよ。
でも、そんな必要はないんです。
「あの人達が、私に求めているのは結果で在って、過程じゃありません。
なら、気を使うだけ無駄です」
別に横暴な振る舞いをしている訳ではありません。 さっきも興味の無い物を興味の無い人達に渡しただけです。 それにあれでも一応ちゃんと受け取れる様に渡しているだけマシですし、きちんと相手を選んでいます。
宮中では、もっと横暴な振る舞いが幾らでも行われています。 それでも、周りの侍女や兵達は全神経を巡らせてその横暴な振る舞いに対応して見せているんです。 そして、それほどまでに神経を鋭くさせる必要が、宮中では必要なんです。
それが孫呉では欠片も出来ていないんです。
孫堅さんや雪蓮さんの大らかな人柄が其れを必要としなかった。それだけの事なんですが、その必要性が此れから出てきてしまう。
孫呉の用意した私達の家。それがその事を物語っているんです。
この先、孫呉はきっと【帝】を否定する時が来る。
遅かれ早かれ、その必要性が出てくるからです。
正道を好む曹操さんはともかく、都を手中にした麗羽様が【帝】を利用しない訳がないからです。
そして陛下の命によって放たれた討伐命令に対抗する手段として。【天の御遣い】の存在を孫呉は利用するはず。
「だいたい、私が人の目を気にする性格だと思います?」
「……普通、自分で聞く事じゃないと思うけど?」
「其処は、きちんと否定するのが優しさだと思いませんか?」
「…ぁっ、いや、そう言う意味じゃ」
「ふふっ、冗談です。 ただ、ああいう事には
一刀さんは人を惹きつけます。
男も女も関係なく老若男女分け隔てなく、惹きつけるんです。
多くの蝶が蜜を求めるかのように、【天の御遣い】と言う華に集まってきます。
そして、その中には毒蛾も当然ながら含まれている。…まるで吸い寄せられるかのように。
いいえ、既に集まってきている。
「お嬢様の下で散々こき使われた雪蓮さん達に散々殺意の籠った目で睨みつけられたり。
「いや、…その、なんて言っていいか」
「一刀さん何を想像したんです? ちょっとえっちな顔をしてましたよ」
「違っ、いや違わないって言うか、とにかく、それは違うから」
「じゃあ、今はその言葉を信じておきますね。 ついでに一刀さんが私達を心配してくれている事も。
でもその心配は不要です。さっきも言いましたが、ああいう場において
それに興味の無い人の視線なんて、私は欠片も気になりません」
犬や猫が幾ら吠えても気にならないように、私にとって興味の無い人の視線はその程度の事。
他に気にすべき事は他に幾らでもあるんです。
お嬢様を守るために……。
お嬢様と夢をかなえるために……。
帰るべき家と家族を守るために……。
「と言っても一刀さんに言っても無理ですね。
私達にとって必要な行動だと、今は理解しておいてください。
周瑜さんや翡翠さん達が何も言ってこない事が、その証しと言う事です。
そう言う訳でこの件についてのお話はもう終わりです」
話を一方的に打ち切り、馬車の椅子になっている部分の天板を外して、中から目的の物を探します。
椅子の下の収納部分は、縄や馬車の消耗部品なども詰まっていますが、他にもちょっとしたものが詰まっています。
「えーと、確かこの中に……やっぱりありました」
「いきなり外套なんか出してどうしたの? いまのところ雨が降る様子はないけど」
「いえいえ、誰かさんのえっちな視線を躱す為です。それとも隠されるのが惜しいんですか?
誰かさんがどうしてもと言うなら仕方ないですけど」
「ど、どうぞ……はぁ…」
少し暑いですが、剥き出しだった足に外套を膝掛け代わりにし、竹簡に再び目を通して行きます。
一刀さんがあの人達とは違うと分かっていても、やっぱり気になる物は気になります。
気恥ずかしさを隠すかのように、念のため深めに被せた膝掛けに、一刀さんはちょっぴし残念そうな顔で外の景色を眺める辺りが素直と言うか可愛いと言うか、翡翠さん達が一刀さんをからかいたがる気持ちが少しだけ分かります。
えっ? 私ですか? 私はお嬢様を一刀さんに取られた腹いせが主ですよ。
他にも、よく分からない腹正しさの八つ当たりとか色々です。
でも一刀さんも悪いんですよ。そうやって受け止めてくれるところが。
本当に厄介ですよね。
この感情は…。
冥琳(周瑜)視点:
「便座に関しての報告は以上になります」
翡翠の現状報告を聞き終えた所で私は筆を置く。
書きし溜めていた書簡は、私の視線と共に弟子の一人が手にし、前に書きし溜めた竹簡へと結合わせて行く。
「なるほど、要望が強いのなら開発を急がせても良かろう。
文官達にとって、痔は大きな悩みの種らしいからな。ときに翡翠、痔を患った経験は?」
「冥琳様」
「冗談だ。そう怒るな。お前に笑みのまま怒られては心臓に悪い。
ただ、此ればかりは経験した者でないと辛さが分からぬらしいからな。聞いてみただけだ」
「あくまで要因の一つにすぎないようですが宜しいので?
一言に痔と言っても症状も原因も様々らしく、華佗さんもそのように言っています」
「だが、それでも減るならばその価値はあろう。実証出来れば富裕層に売れる技術ではある」
「……受け入れれられれば、ですけどね」
翡翠の溜息に、私もその原因も納得する。
ほぼ毎日使っている翡翠ですらまだ慣れないと言っているのだ。頭では有効な事と分かってはいてもやはり気恥ずかしさが先に出てしまうのだろう。
あの明命ですら、知らずに使用してしまい夜中にあらぬ声で悲鳴を上げたほど。
ようは清潔に保てばいいのだと言う事だが、確かにあの技術はそう言う意味では優れているのは確か。
「北郷の言う水道設備の開発もある、そのついでと思えば良い」
「と言うと思いましたので、一刀君には視察の最初の方に向かってもらいました」
「なるほど。して北郷自身は?」
「………いつものように魘されてはいます。ですが、回復は時間の問題でしょう」
「そうか、強くなったな」
「……ええ」
悲しげに、それでいて誇らしげに頷く翡翠。
愛しい人間をまた苦しませると分かっていて、立ち直らせるのだから……。
立ち直らせた愛しい人間を、再び地獄へと叩き落とすのだから……。
いくら愛しい人間が自分達のために成長する姿を見せようとも、素直には喜べぬのだろうな。
「屋敷の方はどうだ?」
「予想していた通り戸惑っています。やはり天の世界と此方では、価値観や意味に大きく隔たりがあるようです。 七乃ちゃんが用意させた服にも、困った顔をしていましたから」
「最上級の白絹を、北郷好みに派手にならぬ様に白糸と銀糸で刺繍を施した一品に、まさか不満を口にするとわな」
「洗い晒された麻か、木綿で十分だとぼやいてましたよ」
「奴らしい。 アレでも北郷が着ていた天の世界の服には遠く及ばないと言うのに、やはり張勲を付けて正解だったな。欲が無いのは美徳だが、此れからはそう言う訳にはいかん」
「やはり、最初からそのつもりだったんですね」
「最初と言うのは何時の事だ?」
我ながら意地が悪い質問だとは思う。 だがさすがは翡翠。幾らでも変える事の出来る答えなどと言うものを安易に口にする事は無く、ただその微笑みでもって答えてくる。『そんな事、口にするまでも無い事です』と、まるでこちらの考えを読むかのように…。
張勲の能力は正直惜しい。だが使える状況が限られる以上、使える状況を最大限に活かすだけの事。此方の手駒を浪費する事無くな。
「アレの人の見る目は私や雪蓮以上だ。それは袁家の老人達に囲まれていながら、あれだけの事を成し遂げた事が証明している。しかもその袁家の中にいたおかげで、宮中にもそれなりに詳しい」
「七乃ちゃんの性格からして、やり過ぎる可能性もありますが」
「だろうな。だが、本当にやり過ぎる事は無い。 ならば問題はあるいまい」
「裏切る可能性も残ってます」
「自分が思ってもいない事を言われても、説得力に欠ける。 だろう?」
当初は確かにその心配もした。 事実、翡翠と明命以外にも、多くの者達に目を光らせた。
だが、その心配は杞憂でしかなかった。 アレはああいう人種だ。
目的のためなら、他人を騙す事や陥れる事に欠片も躊躇う事無く、…少なくても表面上は私などより、よっぽど冷徹に事を運ぶだろう。それが例え親しい人間であれ平気で裏切って見せれる。
だが、己が信念……いや、彼女の強すぎるそれは、既に信念なんて甘い言葉では無く、ただそれを成す為だけに生み出された能力。いわば道具が持つ能力と言えばいいのだろうか。とにかくそれを逸脱する事は出来ない。道具が道具でしかないように、彼女の生まれ育った環境が彼女をそうさせてしまったのだろう。
結局何が言いたいかと言うと…。
「張勲、彼奴はお前や明命を裏切る事に躊躇はしないだろうが」
「美羽ちゃんや一刀君は裏切らない…ですか」
「いや、
それは彼女にとって、存在意義そのものを否定する事と同じ。
己が魂にまで刻んだ盟約に近い物なのだろう。
彼女の魂に刻んだ盟約はおそらくこの二つ。
『家族を裏切らない』そして『問答無用に幸せにして見せる』
何とも可愛らしく、そして人間味のある想い。
此れが、ただの市位の者ならば私は微笑んで見守っただろう。
私も雪蓮も、そう言った想いを持つ者達を守りたいと思うからこそ、今まで頑張ってきたし、これからも全てを駆けて行くのだと言える。
だが、張勲のようにある意味心の壊れた人間にとっては、その誓いは凶悪と言わざる得ない。
袁家を滅亡に追い込んだように、そうする必要と感じたならば、ああいう人間は躊躇などしない。
例え、その身に何が起ころうともな。
「其処まで分かっていて、……ですか」
「其処まで分かるようになった。と言うべきだろう。
なにせ、私も雪蓮もあの二人には長らく騙されて来たからな」
ある意味あの三人は似通っているのだろう。
偽りの家族に、それを拠り所にしているところや、其処に在る狂気とも言える想いも。
「ならば冥琳様は大切な事を一つ見落としています。
例え七乃ちゃんを教育係りとしたとしても、一刀君は変わりませんよ」
「……だろうな。アレは染まらぬし染められぬ。
アヤツは自覚していないが、アレは人の上に立つ人間だ。
自分から変わる事はあっても、誰かにその在り方を犯される事は無い。
私とて其処まで望んではいないさ」
「教育すべきは、一刀君の周りに集まる人間と言う訳ですか」
「そうだ」
認めたくはないが、張勲も、そして袁術もまた人の上に立つべき逸材。
北郷自身を変えれる事は出来なくとも、周りを変えれる事は出来る。
そしてそんな二人を北郷はそうと知らずに支え、そして導くだろう。
二人の真の主としてな。
「すまんな。
お前達の仲を邪魔する気はないが、お前にも明命にもやってもらいたい事が山とある。
なに張勲との約束もある。お前達家族が同じ日に休みを取れるようにはするさ」
「お気遣いなく。 私も私の夢のために一刀君を利用している身。
そう言う事もあると覚悟はしています」
「……覚悟はだろ。
私がこういうのもなんだが翡翠、あまり自分を追い詰めるな。後が辛いぞ」
翡翠は翡翠で、明命とは別の意味で苦しんでいるのは知っている。
その想いの在り方も、自分を追い詰めてしまう想いも理解はできる。
「そう言う部分をアヤツに吐き出してみせるのも、女の可愛さと考えれぬか」
北郷の辛さや悲しみを背負っている翡翠に、それは出来ないと分かっている。
だが、それでもなお、共に背負って見せるのもまた恋人同士の在り方ではないのか?
雪蓮と私がそうであったように。
「冥琳様、冥琳様は一刀君相手にそれが出来ますか?」
「……生憎と可愛げのない女だと自覚している」
「私もですよ」
どこか悲しげな微笑みを残して、翡翠は部屋から退出して行く。
話が雑談に入った時点で既に用は済んでいると分かっている以上、彼女も、そして私にも残された仕事は山ほどある。
我ながら失敗ばかりだ。張勲に関しても翡翠や明命に関しても、自分の無力さを思い知らされる。
雪蓮ではないが、その場その場で繋いで行っているに過ぎない事など数多くある。
今もそうだ。翡翠は私と北郷が恋人関係だと仮定した場合を聞いて来た。
そして、それは私と雪蓮の恋人関係が、男のそれとは全くの別物である事を思い知らされる事となり。同時に私の持っている知識が所詮は知識でしかなく。感情の塊である其れには程遠い事だと、翡翠はそれとなく突いて来たのだ。
そしてそれはまた、あの翡翠ほどの人間がそれほどまでに振り回され、思い通りに行かずに苛立っている事を物語っている。
まったく、厄介な感情だな。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第百肆拾参話 ~ 揺れゆく馬車に舞いし想い ~を此処にお送りしました。
お待たせしました。
今回は一刀君と七乃ちゃんと冥琳お姉様の視点でお届けいたしました。
え?冒頭のオマケが酷い事になっていると? まぁそんな事実は抹消して、複雑になって行く孫呉の情勢に合わせて、一刀君を取り巻く環境の変化を題材に描いてみました。( いま題材じゃなく課題と書いてしまう所でした。もう夏休みも終わりなのに殆ど終わってな~い地獄から解放されたばかりだからかな(汗 )
さて、そろそろ舞台を移そうと考えています。
曹操 VS 袁紹
蜀の人々の日常と混乱騒ぎ
孫呉 VS 反乱軍&呂布(武威五将軍)
一刀と翡翠の怠惰で淫靡な日常
さて、どれを書こうかな♪
……問題は、大学の課題とサークル活動とバイトは今更ですが、兄が終わったからと貸してくれたゲームの数々かな♪
「意義ありっ!」
とか(w
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
『そう言う訳で、一刀さんの御小遣いは私が管理させていただきます。
此れで浮いたお金でお嬢様に新しい服でも、って、いやですねぇ半分は冗談に決まってるじゃないですか~。 どっちが冗談かは教えてあげませんけど』
と、まったく冗談に聞こえない七乃の言葉に、頬を引きつらせながら建業での生活が始まった一刀。
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