「ご主人様がいない?」
「うむ……。どうやらこっそり城を抜けだされたようだ。何か心当たりはないか?」
「またか、主はちょくちょく抜けだされるな、ここのところ」
「んー、警邏んときに町を一人で歩いてんの見たことあるけど、見失ったからなぁ……」
「私も主がどこにいったか、心当たりはないな……。」
「まぁ、構わぬではないか、仕事に支障をきたしているわけでもあるまい?」
「よくなどない! 全く、護衛もつけずに外出などと!」
会話しているのは翠と星と霞、愛紗、華雄の5人。愛紗が仕事で一刀の部屋に行った所そこに居なかったというのだ。
月や詠、そのほかの侍女についても知らぬ存ぜぬの一点張り。
「軍師三人には行き先を聞いてみたりはせなんだのか?」
「これからいくところだ」
何やら不機嫌そうな様子で愛紗は廊下を歩いていく。
紫青を見つけ、問いただしてみるも。
「いえ、私は存じません」
とのこと。紫青が自分のことを紫青、というのは一刀の前でだけらしい。
相変わらずニコニコと笑顔を浮かべ、取り付く島も無い。
続いて桂花に声をかけてみるものの。
「知らないわよ」
と、不機嫌そうに一刀両断。
最後の望み、と朱里にも声をかけてみたが。
「わ、私は何も知りません」
問い詰められたくないのか、仕事があるので、と、ドアをしめて部屋に引きこもってしまった。
「んー、手がかりが欠片もあらへんなぁ……」
「ふむ、桂花のあの不機嫌そうな様子といい、誰にも言わず、こっそり城を出たことといい」
星が考え、何か意味ありげな表情をする。
「星、何か心当たりでもあるのか?」
「おそらく、女ではないか?」
「お、女ぁ!?」
「こんだけ美人に囲まれといて誰にも手ぇ出さへんとおもたら、外に女囲うとったんかいな」
「探しに行く!」
「私もいく!」
「私もだ!」
駆け出していく華雄、翠、愛紗の3名。それを見送る猫モードの霞と楽しそうに笑う星。
「ま、主に限ってそれはないだろうがな。それに、あれだけ殺気立って走って行っては気取られてまかれて、それでしまいだろうに」
星が3人の様子に呆れたようにため息をつく。
「そやなぁ、ほんでも、あの子らからかい過ぎたらご主人様がえらい目にあうんちゃう?」
砂塵を巻き上げ、ものすごい足音とともに走って行く3人をみて溜息をつく霞。
「霞は走って行かない所を見ると、何か気づいたか?」
「女関係でもないやろし、やましいとこも無い気がするけどなぁ。
女やったら桂花は絶対もっと不機嫌なハズやし。紫青はわからんけど、朱里は何か知っとる感じやし。
朱里が知っとるんやったら、他2人も知っとるって考えるのが自然やしなぁ。
定期的に軍師3人と部屋にこもって仕事しとるし。
それにほんまにやましい事やったら、軍師3人もしらんやろうしな」
「たしかに、霞の言うとおりだな」
星が霞の言葉に、もっともと頷く。
「ふとおもたんやけど、ひょっとしてご主人様って、ちんまい子にしか興味ないんやろか?
桂花の事よー気にかけとるし、軍師3人みんなちんまいし」
「いや、そうではないのではないか?。白蓮や紫苑ともよく仕事をしているようだし」
「そやなぁ……。まぁ、軍師3人にもっかい話し聞いてみる?」
「そうだな、そうしよう」
星と霞はしばし考えて。同じ結論に至ったようだ。
おそらく、紫青が一番ガードが固く、ついで桂花、朱里が一番ガードが甘いだろう、と。
「朱里殿、おられるか?」
「あ、はい。何か御用で、はうあっ!?」
「ちょっと邪魔するでぇ……?」
朱里が少しドアを開けた瞬間に、ドアの隙間に足をねじ込み、一気にドアを開けて星と霞が部屋に押し入った。
「な、なな、なんですか!?」
「んやー、朱里はご主人様の行き先しっとるんやないかとおもてな」
「は、はうぅ……。わ、私は何もぉ……」
徐々に後退りして壁に追い詰められる朱里。じりじりと距離を詰めていく星と霞。
「何も、知らないです……」
消え入りそうな声でそれだけ絞りだし、泣きそうな朱里。この2人に詰め寄られれば仕方ないかもしれない。
「ふむ、ではやはり、主が行ったのは女の所だろうかな?」
「そやなぁ、ご主人様も健全な男のコやもんなぁ……」
「女の人の所なんかじゃないですよぉ!? ……あ」
しまった、という表情の朱里だが、もう遅い。星と霞が邪悪な笑みを浮かべていた。
「やっぱり、何や知っとるんやな?」
「ごめんなさいぃ。で、でも、武官の人には言わないようにって口止めされてるので、教えるわけには……」
「ふむ、主の命か。では無理に聞くわけにもいかんか」
「そやなぁ、ほんでもどないしよか。愛紗らがごっついいきおいで探しにいってもーたけど」
詰め寄ってきた2人の視線がそれたので朱里はほっとむねをなでおろす。
「えぇと……。紫青ちゃんに聞いてみるといいとおもいます。私はこの件に関しては詳しくしらないので」
それならば、と2人は紫青の元へと向かう。
紫青の部屋のドアを叩けば、先ほどと同じように、笑顔の紫青が現れる。
「なんでしょう?」
「ご主人様のことなんやけど」
「またそれですか? 知らないと申し上げたばかりじゃないですか」
「朱里から紫青がこの件に詳しいと聞いたのだが」
紫青が大きくため息を付く。
「朱里にはあとでお説教しておかないといけませんね。
そうですね、会いに行かないと約束できるなら、教えないでもないです」
「では、約束しよう」
「ウチも約束するで。事と次第によっちゃ、探すしか無いってこともあるけどな」
「ご主人様が向かった先はですね……」
紫青から話しを聞けば、星も霞も納得したようで
「なるほど、我らに隠れてそんなことを、な」
「本当は今日は付き合うつもりだったのですが、あの3人が町中を探しまわっているとなると、
私のほうがつけられて見つかりそうな気がするので諦めました」
「そやなぁ、ウチらが連れてったってもええけど」
「ですが……」
「まぁ嗅ぎまわったお詫びっちゅうことで」
────────────
「よし、こんなもんか」
掃除を終わらせて、香に火を灯し、花を供えて。目を閉じて合掌。
俺が来ているのは町はずれにある少し大きな墓。
早々に居ないのがバレたらしく、愛紗達を巻くのに随分かかってしまった。
後ろに気配を感じて振り返れば、そこに居たのは紫青と、霞と、星。
「バレちゃったか」
「むしろなんで黙っとったんやか。別に悪いことやないやん。
死んだ兵士も、墓作ってもろて、こうやって仕えた主にねぎろうてもろたら嬉しいやろし
こういうんも大事やとおもうけどな」
ここは兵士の墓、下に死体は埋まってないし、そんなにバカでかいものではないけど。
せめてしっかり供養ぐらいはしてあげたいとおもっていたし、お金にも余裕ができたので作ったのだ。
紫青と霞と星は三者三様にお供え物を持ってきてそれを墓前それを供える。
花束と、お菓子と、メンマ。流石にメンマには苦笑い。
「所で、愛紗達がすごい形相で俺のこと探してたんだけど」
「あぁ、それは……」
何だかかわいそうなものを見る目で星がコチラを見てくる。
「いやー、1人でこっそりとおらんなったから、ひょっとして町に女でも作ったんちゃう? って話しんなって」
「我らは考察を述べていただけなのだが、どうにも早とちりしたようでな」
「そりゃ困ったな」
大きくため息、本当にどうしたものやら。暴走した愛紗達に見つかったら殺されかねないぞ……。
「主はなにもやましい事はしていないのですから堂々としておればよいのです。
それに墓にやかましい護衛を連れてくるなど、それこそ死者が起きだしてきてしまいましょう」
「そやな、愛紗らにはウチらから言うとくから、気にせんでええよ。
やましいことは無いとは思う取ったけど、こんな真面目な事で城コッソリ抜けだしとるとは思わんかったし」
「そう言ってくれると助かる」
「ほんなら、ウチと星は先いくわ、愛紗らに話しつけとかなあかんし。ご主人様もあんまり遅ならん程度に帰ってきいや」
背を向けて帰っていく星と霞。その背が見えなくなると、服の袖が軽く引っ張られる。
「あの……。ごめんなさい、2人にご主人様のことを教えてしまって」
先ほどから黙っていた紫青が引っ張っていた。俯いて表情を隠して。
「あの2人に問い詰められたら仕方ないよ」
紫青の頭に手を乗せて軽く撫でて。さらさらした髪が手に心地いい。
「しかし……。紫青は命を破ってしまいました」
「じゃあ、そのうち何か無理でも聞いてもらおうかな、今は保留で。取り敢えず城に戻ろう。まだ仕事も途中だしね。
ほら、こっちむいて笑って」
「はい……」
俺達は2人並んで城へと向かって歩いていった。
あとがき
どうも黒天です。
すっかり投稿が遅くなってしまいました。
お気に入り登録数がとうとう200人を超えて230人になりました。
こんなに応援してくださる方が居るとは……。とても嬉しいです。
今回は珍しく一刀の出番が少ないです。
原作で墓参りとかしてるような描写がなかったんでやってみたくなってやってみました。
何故一刀が武官達に黙っていたかは、ご想像にお任せします。
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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桂花さんの出番は少なかったり……。
今回メインで動くのは霞と星ってとこですかね。
誰の拠点でもないかもしれないです。