No.613339

真・恋姫†無双 ~夏氏春秋伝~ 第一話

ムカミさん

しばらくは書き溜めがありますので、短いスパンで投稿していきたいと思います。

本日はPrologueと合わせて2本の投稿です。

2013-08-28 13:17:47 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11574   閲覧ユーザー数:8583

 

白い宇宙。まるでそう表現したくなるような真っ白な空間の中を一刀は漂っていた。辺りには結晶のような物体が無数に浮かんでいる。

 

意識の無い一刀はフワフワと空間を漂い続ける。不思議なことに、一刀に周囲の結晶がぶつかることはなかった。

 

しかし、しばらくすると、探し人を見つけたかのように一つの結晶が一刀に近づいてくる。

 

結晶が一刀に触れた瞬間、結晶から淡く発せられていた光が徐々に大きくなる。そして、結晶の光が一刀を飲み込んだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りだったか?総員周辺を探索せよ!何かを発見した場合は即座に報告せよ!」

 

『はっ!!』

 

ここはとある山中。そこに賊討伐からの帰還の途上にあった部隊の姿があった。

 

何故こんなところに軍がいるのか。その答えは半刻前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半刻前。

 

賊の討伐指令を無事こなし、部隊は平原を駆けていた。

 

そんな一同を突然眩い光が包む。

 

「なんだ?!何が起こった?!」

 

部隊の先頭にいたリーダーらしき人物が自身の傍にいた部下に慌てて尋ねる。それに対して部下は原因を確認してすぐに答える。

 

「て、天が!天が輝いております!しかも、その光はどうも移動しているようです!夏侯僥様、如何いたしましょう?!」

 

夏侯僥と呼ばれたその男は部隊全員に対して即座に命を下す。

 

「総員、何が起ころうともすぐに動けるようにしておけ!」

 

よく見てみると光の正体はただの流星であったのだが、時刻は真昼間である。こんな時間に何故流星が見えるのか。不思議に思った夏侯僥達は警戒したまま、暫くその流星を見つめていた。

 

流星は消えることなく落ち続け、やがてそのまま地に堕ちた。

 

ここでようやく心に余裕が出来てきた夏侯僥は、予てより聞き知っていた『予言』のことを思い出し、これは何かある、と直感した。

 

「皆の者!我らはこれより進路を変え、あの流星の探索を行う!」

 

そう言い放った夏候僥に最も近くにいた兵士が慌てた様子で声を掛ける。

 

「しかし、夏候僥様!あのような得体の知れないものは危険やも知れません!」

 

「なればこそ、余計に我々軍が探索を行うべきであろう。無辜の民をむざむざ危険に晒すわけにはいかん」

 

「そ、それはそうですが…わかりました。ですが、夏候僥様。くれぐれも無理はなさらないでください」

 

「ああ、わかっている。では皆の者、行くぞ!」

 

結局兵士が折れて流星の探索へと向かうことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り、山中。

 

探索を開始してから1刻。夏侯僥の下に一人の兵が現れ、報告を行う。

 

「夏侯僥様!流星の落下地点と思しき場所を発見いたしました!ただ、その場に不審な人物が一人居りまして、現在周辺にいた兵を集めて警戒態勢をとっております!」

 

「そうか。報告ご苦労。私もそちらに向かおう。案内してくれ」

 

「はっ!」

 

そうして夏侯僥は流星の落下地点へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

一刀は混乱していた。

 

覚醒してまず目に入ったのは鬱蒼と茂る森林だった。勿論、一刀はその景色を見たことがない。そもそも一刀の家の周辺に森林など存在していないのだ。

 

しかし、現実に一刀は森林のど真ん中にいる。

 

初め、一刀は誘拐を疑った。しかし、すぐにその考えを否定する。誘拐であれば森林に放置する意味が無いからである。

 

そうであれば、何故一刀は今森林にいるのか。夢遊病?今までそんなことは一度もありはしなかったからそれはない。神隠し?それこそ荒唐無稽もいいところだ。

 

一刀は思考を廻らせ続ける。しかし、いくら考えても答えは出なかった。

 

一刀には眩暈に襲われた後の白い空間の記憶はなかった。例えあったとしても余計に混乱するだけだと思われるが。

 

これ以上考えていても仕方ない、と一刀は考え、ひとまず、自身の現状を把握することにした。

 

まずは体の状態。少々頭がぼんやりとはしているが傷ついている箇所はなく、これは特に問題はなかった。

 

次に服装。一刀は確かに寝間着を着ていたはずであった。しかし、今一刀が着ているのは普段から着ている洋服だった。何故洋服を着ているのかは分からないが、とりあえずこれは一旦スルー。

 

それから、袋。何故か一刀の傍には布袋が落ちていたのである。

 

取り敢えずその中身を確認してみると。

 

「…何でこんなもんが入ってんの?」

 

そこには聖フランチェスカ学園高等部の制服が入っていたのであった。

 

「俺、まだ中等部だし、こんなもん買った覚えもないのに…」

 

袋の中身を確認しても状況に益々困惑するだけなのでこれもスルーすることにする。

 

「それよりも…」

 

最後に…武器。

 

「なんでここに虎鉄が…」

 

一刀の傍らには祖父から譲り受けた日本刀が横たわっていた。

 

「虎鉄は確かに蔵の奥にしまわれていたはずなんだけどな」

 

言いながらも一刀は刀に手を伸ばす。刀を手に取り、鞘から刀身を抜き出して確認する。

 

「うん、本物だ」

 

それは紛れもなく一刀の虎鉄であった。一刀は虎鉄を鞘に収める。虎鉄を手にしたことで一刀の心に幾分かの余裕が生まれた。

 

あらためて辺りを見回してみると、自身の周りの木だけが不自然に倒れていることに気が付いた。

 

そのことを不思議に思いつつも、とりあえず周辺を探索しようと歩きだそうとしたその時。繁みがガサガサと音を立てた。

 

(大型の野生動物にでも出てこられたらたまったもんじゃない!)

 

一刀は音を立てた繁みに警戒を向ける。はたして、繁みから出てきたのは鎧を身に纏った兵士と思しき人影だった。

 

兵士は一刀を確認するとすぐさま腰に佩いていた剣を一刀に向けて叫んだ。

 

「貴様、何者だ!ここで何をやっている!」

 

「…え?」

 

わけがわからない。一刀の心中はそんな言葉で埋め尽くされた。それはそうだろう。現代日本において兵士と遭遇するようなことがなければ、その人物に剣を向けられることなど更にありえない。兵士の問いかけに答えることすら忘れ、一刀はただひたすらに混乱していた。

 

そうこうしている内に先程の声を聞いた兵士がその場にやってくる。

 

「どうした?何か見つかったのか?」

 

「不審な人物を発見した!夏候僥様に伝令と周辺の兵を集めてくれ!」

 

「おう、まかせろ!」

 

そんなやり取りをした後、後から来た兵士が去っていく。そして、幾何もしない内に一刀は多数の兵に囲まれていた。

 

その状態のまましばらくすると、他の兵とは明らかに様相の異なる人物が現れた。

 

「あいつが報告の人物か。何かわかったことはあるか?」

 

「いえ、奴は何も答えておりません。ずっと何事かを考え込んでいるような素振りを見せています」

 

夏候僥の問いかけに最初に一刀を発見した兵士が答えた。それを聞いた夏候僥は一刀を警戒しつつも問い掛ける。

 

「お前は何者だ?名を名乗れ!」

 

新たな人物の登場で、一刀はようやく我に返った。

 

「お、俺は、いえ、私は北郷一刀と言います。東京の聖フランチェスカ学園付属中学校の学生です。これは映画の撮影…とかじゃないですよね?」

 

「せ、せんと…?何とも面妖な言葉を使う奴だ…して、『とうきょう』とはどこの州に属する邑だ?」

 

「は?いえ、日本の東京ですけど…」

 

「『にほん』?聞いたことが無いが…誰ぞ、知ってる者はおるか!?」

 

夏侯僥は兵士に問うが、当然兵士の中に日本を知る者はおらず、答えは返ってこない。そのまま、夏侯僥は何事かを考え込んでしまう。それを見た一刀は思い切って質問することにしてみた。

 

「あの!ここはどこなんでしょうか?」

 

「ん?ああ、ここは兗州の陳留に近い山中だ」

 

「え、兗州?陳留?」

 

一刀とてその地名を知らないわけではない。むしろよく知ってはいる。かの『三国志』にて曹操が一時期拠点としていた街として有名だからだ。わからないのは何故今その地名が出てくるのか。

 

(そういえば、さっき兵士みたいな人が『夏侯』僥様、って言ってたな。そして、兗州、陳留…もしかしたらもしかするのか?)

 

一刀は自分でも突拍子の無い考えだとは思いつつも、一つの考えに行きついていた。そこで確認の意味を込めてとあることを聞いて見ることにした。

 

「もうひとつすいません。今は後漢王朝の時代でしょうか?」

 

「何を当たり前のことを言っている?現在大陸を治めているのは漢王朝で今代の皇帝が劉宏様であるのは常識であろう?」

 

(ここまで揃ってしまうと、確定かな…)

 

それを聞いて、一刀は状況をほぼ理解した。どうやってかはわからないが、どうやら自分は三国志の時代へとタイムスリップしてしまったようだ、と。

 

「夏侯僥様。こやつの言動から考えますに、もしやあの『予言』と何か関係があるのでは?」

 

「ふむ。私もちょうどその可能性を考えていたところだ。そろそろ日も暮れる。この者を街へ連行し、じっくりと話を聞くとしようか。北郷とやら!今からお前には街へ来てもらい、そこで尋問の続きを行う!何か今問うことはあるか?!」

 

「いえ、ありません」

 

「では、連行に当たりお前の持っている剣はこちらで預からせて貰う!問題無いと我々が判断すれば、その時にその剣は返そう!」

 

「わかりました」

 

ここで抵抗したところで一刀には何をすることも出来ない。であるので、一刀はおとなしく夏侯僥に従うことにした。

 

 

 

 

 

こうして、一行は一刀を連れて夏侯僥の治める街へと帰還していった。

 


 
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