No.612224

真・恋姫†無双~絆創公~ 中騒動第一幕(エピローグ)

エピローグが一番文字数が多いという結果に。

和やかな雰囲気で終わりたい方は2ページでお戻りください。

絵の投稿も少しずつしていきたいのですが、小説連載の妨げになりそうなので不安です。

2013-08-25 06:07:24 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1309   閲覧ユーザー数:1174

真・恋姫†無双~絆創公~ 中騒動第一幕(エピローグ)

 

 内緒の結婚式騒動から一夜明けて、ここはその起点となった大広間。

 

 ところどころが半ば瓦礫と化し、全体的にみすぼらしい姿を晒している中、大が二つと小が一つの円卓が室内には置かれている。

 

 大きな円卓の方では、その周りを多数の美女たち、そして一人の青年とその家族が囲み、数冊の本を眺めながら楽しげに騒いでいる。

 

 

 その美女たちとは、魏に所属するメンバーであった。

 

 そして、皆が眺めている本。

 

 それは、現代日本の結婚式の案内や、ウェディングドレスのカタログであった。

 

 皆は口々に、意見を交わしあう。

 

 その中で青年、北郷一刀は一人の少女に声を掛ける。

 

「ん? 凪はこれが気に入ったのか? さっきからずっと眺めてるけど」

「た、たた隊長っ!? いえっ、自分は……!!」

 顔を真っ赤にしている凪を見て一刀の母、泉美も近寄ってきた。

「あら、綺麗ね~。でもこれ長袖だけど、いいの?」

「じ、自分は……その……肌が……」

「凪……。俺も、母さんたちも気にしていないって。もっと自信持てよ」

「そうよ……。だから、もっと積極的に探しましょ? 私たちだって、凪ちゃんの思い出をちゃんと作りたいの……」

「……はい。頑張ります……///////」

 

「たいちょー。ウチのも見てくれへん?」

「おう、待ってくれ。今そっちに行くから」

 

 呼ばれた一刀はぎこちない動きで少女、真桜の下へ近付く。

 

「で、どれだ?」

「これなんかエエと思うねんけど」

 真桜が指したのは、割と控えめな印象を受けるドレスだった。

「へぇー、珍しいな。真桜の事だから、もっと露出あるヤツかと思ってたんだけど……」

「隊長も分かってへんな~。こーいう大事な服やからこそ、慎ましくありたいっちゅー女心やんか~……」

「そうか? だったらこれなんか似合いそうじゃないか」

「それやと可愛い過ぎやって。ウチこんな服着たことあらへんもん」

「じゃあ、着てみりゃいいじゃないか。俺はこーいう服は真桜に似合うと思うぞ」

「……まあ、隊長がそない言うんやったら、考えてみぃひん事もあらへんけど……///////」

 

 

 と、真桜と話していた一刀は、自分を手招きする天和の姿が視界に入った。またもやぎこちない動きで、自分を呼ぶ天和たち三姉妹の下へと寄っていく。

「ね~ぇ、一刀ぉ。一刀は私にどの意匠を着てほしい?」

「何だ、俺優先か? 着てみたいのとか無かったのか?」

「あるにはあるけどー。多分全部私に似合うと思うから、だから一刀が好きなのにしようかなって♪」

「そーですか……。でも俺が好きなのって言われても、これに関しちゃそんなに見た訳じゃないし……」

 天和が楽しそうに円卓の上で差し出してきたカタログを、一刀は困ったように見つめている。

 そんな彼の意識に割り込んできたのは天和の妹、地和であった。

「ねぇ、一刀! だったらちぃに似合うのを選んでくれない? 天和姉さんが全部似合うんだったら、ずーっと後回しにしても構わないでしょ!?」

「えーっ、ちぃちゃんダメー! お姉ちゃんが先だよー!!」

「お姉ちゃんなんだから、妹のちぃに順番を譲ってくれても良いじゃないの!!」

「いや、二人とも。俺を間に挟んで言い争わないでくれ」

 ライブとは違ったうるさい不協和音が、一刀の両脇から始まろうとしていたが。

「姉さんたち、静かにしてて。一刀さんの家族もいるんだから……」

 一人でじっとカタログを見ていた人和が、ジト目で二人の姉に視線を移していた。人和の言葉に、はしたない姿を見せたと思った二人は、一気に沈静してしまった。

「あら、気にしなくて良いのよ。それだけ熱が入っているなら、きっと素敵な結婚式が出来ると思うから……」

 黙り込んでしまった二人に対して、泉美は優しく笑いかける。

「だから天和ちゃんも地和ちゃんも、カズ君とじっくり話し合ってちょうだいね? 私も精一杯協力しますから……」

「……はい、ありがとうございます!」

「まっかせてください! お義母さまたちの涙が枯れるほど、感動的な物に仕上げてみせますっ!!」

「フフフッ……。楽しみにしてるわ♪」

「でも姉さんたち。盛り上がるのは良いけど、あまり一刀さんに触らないほうが良いわ。これ以上怪我が酷くなったら困るから……」

 溜め息を吐きながら、人和は姉二人に念を押す。

 

 そう。先ほどから一刀がぎこちない動きをしているのは、先の騒動で負った傷がまだ癒えていないからだ。

 

 一刀が叫び声を上げた時、凪の気弾を受けた。

 しかしそこは不本意ながらも、色々鍛えられている一刀。そのまま逃げ続けてはいたのだが。

 

 騒ぎを聞きつけた、そして乙女の勘で羨ましそうな事をやっていると察した他の二国の陣営が参加して、ボロボロとなったのであった。

 

 現在彼は、頭に包帯を巻き、左腕を吊り、右足をギブスで固めており、右の脇には松葉杖を挟んでいる。

 

 

 そして今、皆が何をやっているのか。

 

 これまでの説明で何となく分かるかもしれないが、今回の一件を内密に行った罰(というよりは女性陣のヤキモチ)で、北郷一家は皆の婚儀の会議に参加する事となったのだ。

 

 とはいえ、北郷家としては罰でも何でもなく。寧ろ楽しんで参加しているのだが。

 

「……申し訳ございません、隊長。あの時の自分は怒りに狂って、隊長に大変失礼な事を……!」

「いや、凪は悪くないって……」

 本来の礼儀正しさを取り戻した凪が、深々と頭を下げる。

「せやで。突き詰めていけば、悪いんは凪やのうて、隊長の節操の無さなんやから」

「……こればかりは言い返せん」

「あらあら。カズ君も大変ね~……」

 

 

 

「うーん……。ボクこーいう服着たこと無いから、どれが良いかなんて分からないよー……」

 唸りながらカタログとにらめっこをしている季衣は、両脇に流琉と一刀の父、燎一を座らせている。

「もうちょっと季衣はオシャレに気を遣ったら良いのに……。父様もそう思いませんか?」

「そうですね……。髪を下ろした季衣さんは大人っぽく見えると、一刀から聞きました。ですからきちんとすれば、ずっとお綺麗になると思いますよ」

「そー言われてもさー……」

 二人の助言を受けても、季衣は眉間の皺を戻す事なく唸り続けている。

「あ、ところで流琉さんは何かご希望は……?」

「あっ……。私は……これ、かなって……」

「ああ……。これは流琉さんに似合いそうな、可愛らしい服ですね」

「でも…………」

「どうかしましたか?」

 提案した後にモジモジしている流琉を見て、燎一は首を傾げた。

「こっちも良いと思うんです……」

 流琉が指差したもう一つのドレスは、エンパイアラインドレスであった。

「おお、こちらも素敵ですよ。……何か問題でも?」

「こっちは凄く大人びた意匠ですから、似合わないんじゃないかって……」

「消極的になるよりも、一度着てみれば良いと思いますよ?」

「いえ……。あの、私の背が少し伸びたらで良いです……」

「でしたら尚更着てみるべきですよ。今の流琉さんに似合うのであれば、本来のご希望の意匠を身につけれるのですから」

 泉美が天和と地和にしたように、燎一は流琉に微笑みかけた。

「はいっ! 分かりました!」

 

 

「うーん…………」

「季衣さんはまだ唸ってますね……」

「……私たちも探してあげましょうか」

 

 

 

 変わってこちらはもう片方の大きい円卓。ここでも先のメンバーと同じように、楽しげな雰囲気でカタログを眺めている。

「これが沙和が着ていた意匠だな……」

 見覚えのある服の写真を指差した秋蘭は、隣にいる一刀の妹、佳乃に話しかける。

「うん、そう。でも秋蘭お姉ちゃんはスタイルが良いから……」

「すたいる?」

「あ、えっと。恰好が良いから……こういう服も似合うんじゃないかな?」

 そう言いながら佳乃が指差したのは、マーメイドラインドレスであった。

「ふむ、これか…………」

「だ、ダメだったかな……?」

「いや、なかなか良いと思っていただけだ。感謝するぞ……」

 心配そうな顔の佳乃の頭を軽く撫でながら、秋蘭は微笑みを浮かべた。

 佳乃は照れくさそうに、小さく笑う。

「佳乃ちゃん、こっちのお姉ちゃんの話も聞いてくれませんかね~」

「あっ、はいっ!」

 半分からかうような風の呼び掛けに、佳乃は律儀に元気な返事を返した。

「え、えっと……、どれですか?」

「この中ではどれが良いと思いますかね~」

「あ、まだ迷っているんですか?」

「いえ。この中のどれが一番お兄さんの欲情を駆り立てるのか、解らないんですよ」

「……ハイッ!?」

 予想の斜め上を行く発言に、佳乃の声が裏返った。

「これだけの人数と式を挙げるからには、何かで差を付けなければ印象には残りませんからね~。ですから、風は扇情的に攻めようかと。なので、佳乃ちゃんがお兄さんの性癖などに詳しければ、それを参考にしようかと思いまして」

「せ、性癖なんてそんなの知りませんよ!」

「おやおや。それは残念です……」

 言葉とは裏腹に、口元を隠して面白そうに微笑んで、顔を真っ赤にして慌てる佳乃を眺めている。

 

 

「張文遠殿。随分とお悩みのようですが……」

 一刀の祖父、耕作が声をかけたのは霞。彼女は紫の髪をガシガシ掻きながら眉根を寄せていた。

「だーーーっ、何で全部ヒラヒラしとんねん!? ウチはこんなん似合わへんねん!!」

 ちゃぶ台をひっくり返すような。しかし他の皆も本を眺めているので、あくまで似た動作で天を仰ぎ叫ぶ霞。その大声に反応した一刀が近寄る。

「ハハハ……。そういや霞はこういう服苦手だったっけ」

「こんな服ばっかやったら、もうウチは着んでええわ!」

「何もこれが全部って訳じゃないぞ? 探せばまだあるはずだって。ホラ、前に霞に買ってやった馬邑の服に似たヤツもあるかもしれないし」

 一刀のその言葉に反応したのは耕作だった。

「ほう。馬邑の服、か……。一度見てみたいな」

「へぇっ!? ちょ、一刀何言うてんねん……!?」

 霞が制止するのを気に留めずに、一刀は耕作に話を続ける。

「あの服着た霞は、今まで以上に綺麗にだったんだよ。爺ちゃんも興味あるの?」

「うむ……。一刀がそこまで言うのなら、さぞや魅力的なお召し物なのでしょうな、張文遠殿?」

「そ、そない大したモンでも……」

 と、否定しようとした霞を妨害したのは、別の円卓で話をしていた泉美であった。

「あらっ! だったらその服で結婚式を挙げたらどうかしら?」

「ハアッ!?」

 驚いて目を見開く霞を余所に、さらに燎一が加わってきた。

「それも良いかもしれませんね。なんでしたら、馬邑の婚儀の方式などがあればそちらを採用して……」

 自分の意志と反してどんどん進行する話の展開に、霞は追い付けなくなっている。

「だってさ。どうする、霞?」

「ど、どないもこないも……」

「霞だってあの服を着て、満更でもない感じだったじゃないか」

「せやけど…………」

 大人同士で盛り上がっている北郷家の面々をチラチラ見ながら、霞は居心地が悪そうに縮こまった。

「俺と同じなんだよ。爺ちゃんたちも、霞や皆が好きだからここまでしてくれるんだ。分かってくれよ……」

「……………………」

 一刀の問い掛けには応えず、霞は一度見るのを止めたカタログに再び目を向けた。

「霞……?」

「一刀から貰たあの服を着たくない訳やない。何でも一刀や、一刀の家族にして貰う自分が嫌なだけや。ウチかて一刀が好きやもん。自分から動かな、すぐに出し抜かれてまう……」

「……おう、その意気だ。あの時以上に俺を腑抜けにする霞を見せてくれ」

 やる気になってくれた霞の肩を、優しく叩いた一刀。

 

 と、一刀の視界に珍しい光景が映った。一人の少女が瞬きもしないで、ただじっと本を眺めていたのだ。

 

 

 桂花である。

 

 

 その姿に驚きながらも、彼女に気付かれないように。ぎこちないながらもそっと後ろに回り……。

 

「桂花はそれが着たいのか?」

 

「ッ!!!?」

 

 声を掛ければ、声にならない叫びを上げている。

「ほ、北郷っ!? いつから後ろに!?」

 桂花の驚く様を無視して、一刀は彼女が見ていたページを覗き込む。

「へーぇ、なかなか良い感じの服だな。桂花に似合うんじゃないか?」

「バカ言うんじゃないわよ!! その口にも包帯巻きなさいよ!! 私が着るんじゃないわよ! 華琳様に献上する服の参考として……」

「あら。私に……?」

 静かな呟きと共に、桂花の隣に華琳が近付いた。

「か、華琳様!!」

「ふぅん。確かに見立ては良いとは思うわ。でも、これ。貴女が着るような印象の服だと思うけど?」

「な、何を仰るのですか!? 私がこの服を……」

「あら。私の見解が間違っているとでも?」

 弄ぶような妖しい微笑みに、桂花は押し黙ってしまった。

 しかし、意外な人物が彼女に助け船を出した。

 

 一人の猪だ。

 

「馬鹿かお前は!! 華琳様に似合うのはこっちの気品溢れ、尚且つ可憐さを内に秘める意匠に決まっているだろうが!!」

「は、はぁ!? 何言ってんのよ!? あんたのような脳筋に、そんな高尚な雰囲気なんて感じ取れるハズないでしょ?!」

「何だとぉ!? 貴様は華琳様の何を見てきたんだ!! だいたい貴様はいつも…………!!」

 いつもならば鬱陶しく思い、邪険に扱う桂花であったが、今回はこれ幸いとばかりに噛みついていった。

 彼女を良く理解している一刀と華琳は、どこか楽しそうに口論を続けている桂花を苦笑しながら眺めている。

「……まあ、何というか。分かりやすいよな、アイツって」

「……ところで、一刀」

 耳元に感じる吐息混じりの甘い囁き。

 気が付けば、華琳がかなり接近していた。

 先程円卓を覗き込む体勢になっていたので、椅子に腰掛けている華琳と目線も同じになっている。

「何だ? 華琳」

 愛しい女性の声に特に動揺することもなく、一刀はあっさりした表情で聞き返す。

 その反応を華琳は若干不服に思ったが、それを悟られまいと努めて平静を装う。

 

「この意匠、全部着ても問題無いんでしょう?」

「全部ぅ!?」

 

 あまりの衝撃に、少し前の佳乃のように声が裏返る。

「そんなに驚く事無いじゃない。貴方のお義母様も言ってたでしょう? 何着も試着してから決める、と」

「確かに言ってたけど、流石に全部は……」

「私を誰だと思ってるの? 魏の君主がここで妥協したら、下々の者達に示しがつかないわ」

「いや、だからって……」

 

 

「何? まさかここまで来て、私に付き合うのが面倒だとか思ってるのかしら?」

 

「いえ滅相もございません」

 

 とてつもなく緊迫した空気に、これを誰が恋人同士の会話と思うだろうか。

 

 悲しいかな、これが二人には普通だったりするのだ。

 

「そう。なら続けるけど、これはどう思うかしら? 一刀の意見を訊きたいのだけど」

 ほんの少し嬉しそうな顔になった華琳が差し出した本に写っていたのは、背中が大きく開いたスレンダーラインドレスであった。

「これはまた大胆な意匠だな……」

 一刀は小さく唸る。その反応を見た華琳は軽く眉を寄せた。

「……気に入らないの?」

「いや。綺麗だし、華琳に似合うと思うさ。けど……」

「けど?」

 

「ヤナギさんたちがまた手伝うんだったら、華琳の肌を見ることになるから、さ……。俺以外の男が見るのは……やっぱり、嫌だったりするというか…………」

 

 後半の方はトーンが小さくなっていったが、華琳にはちゃんと聞こえていた。

「……意外だわ。貴方がそんな事気にするなんて。節操なしの種馬だとばかり思っていたのに」

「うわ、ひでぇ。結構真剣に悩んでたのに」

 クスクスと笑う華琳の横で、一刀はガックリと肩を落としていた。

 

 それ故に、気付かなかった。

 

 隣の愛しい女性が、薄く頬を染めて“ありがとう”と小さく呟いた事を。

 

 

 

 そして、もう一つ気付いていなかった。

 

 魏に所属する一人の軍師が、自分達の後ろに立っていた事を。

 

「か、華琳様の……背中が…………」

 

 顔を真っ赤にして、掛けている眼鏡まで震わせて興奮していた事を。

 

「り、稟!? いつの間に後ろに!?」

 

 一刀が問い掛けたが、その軍師は何も話さず、さらに震えだした。

 

「まずいっ! 皆、本を持って避難しろ!!」

 

 合図と共に、皆が一斉に軍師と円卓から距離をとる。

 

「プハァーーーーー!!」

 

 その鼻から赤色のアーチを描いて、稟はそのまま床に仰向けに勢い良く倒れた。

 

「はーい、稟ちゃーん。トントンしましょうねー」

「想像で鼻血出すなんて。今更だけど、稟の鼻血はどんどん酷くなってないか?」

「か、一刀殿……。私は鼻血が目立たない意匠を、お願いいたします……」

「この状況で希望を言うのかよ!!」

「鼻血の目立たないドレス……。あったかしらね……」

「母さんも冷静に探そうとしないで!! まずは稟の手当てが先だよ!!」

 

 

 ……どちらにしろ、騒がしくなるのはお決まりであったようだ。

 

 

 

おまけの小ネタ

 

「カズ君にドレスを着せるのも面白いかもしれないと思ったんだけど、やっぱり止めたの」

「……色々言いたい事はあるんだけど、どうして止めたの?」

 

 

 

「“投票の結果、素敵な純白のドレスをこちらで着させましたので大丈夫ですよ”って声が聞こえてきたの」

 

 

 さて、お気付きの方はいらっしゃるだろうか。

 

 先程のやり取りの中で、魏に所属していながら一切参加していなかった女性がいたことを。

 

 彼女は真名を沙和と言い、今回の一件で一番良い思いをした女性である。

 

 彼女は一体どこにいたのか。

 

 そして今まで何をしていたのか。

 

 

 彼女は二つの大きな円卓から少し離れた、残る小さな円卓の方で一人で座っていた。

 その容姿は、眼鏡に片方の三つ編み。そしてチャームポイントのソバカスと、普段の彼女に戻っていた。

 

 しかも彼女は一刀に最後まで庇われたので、傷一つも負っていなかった。これに関しては、騒動を傍観するしかなかった数多の兵士も、一刀に賞賛の声を上げたと言う。

 

 そして彼女は、円卓の上を眺めながら始終ニコニコ笑っていた。

 

 端から見れば、気味が悪く感じられるだろう。だが、よくよく見れば円卓の上に小さな紙が数枚、まばらに置かれているのが確認できる。

 

 沙和はずっと、それを眺めていたのだ。

 

「エヘヘヘヘ~…………♪」

 

 締まりのない顔で頬杖をつきながら、まだ沙和の笑いは止まらない。

 

 

 その紙とは……。

 

 沙和、そして一刀の結婚式の写真であった。

 

 忘れている方がほとんどだろうが。一刀の父、燎一の趣味に写真撮影がある。

 

 沙和の思い出を残そうとして、式の最中に何枚か撮影していたのだった。

 

 そのフィルムを、ヤナギ達に頼んで手早く現像してもらったのが、今の沙和が眺めているそれであった。

 

 つまり。

 

 沙和は自分が誰よりも最初に味わった、良い思い出の余韻に浸り続けている訳で。

 

「エヘヘヘヘ~…………♪」

 

 普段の自分とは違う、昨日の綺麗な姿。

 

 そして、その隣に映っている、少し緊張した様子の男性。

 

 枚数にすれば少ない数だが、それは確かな自分だけの思い出だ。

 

 それを認識すれば、ますます顔は緩んでしまう訳で。

 

 

 そしてそれを見せつけられている他の女性陣は、あまりいい気はしない訳で。

 

「さっきからずっとああだ……」

「一発思いっきり、ど突いたろか……」

 

「凪も真桜も、今は稟の介抱を優先してくれ!!」

 

 一刀の呼びかけに、恨めしそうな視線を向けていた二人も一刀に加勢する。

 

 

 

 そんな中、沙和は周りが見ていないのを確認して、身に付けているポシェットに手を入れた。

 

 目的の物の感触を指先で確かめると、それを皆に見つからないようにこっそり取り出して……。

 

 

 自分の左手薬指に、ゆっくりとはめる。

 

 

 あの後、泉美にこっそり話して貰い受けた、誓いの指輪。

 

 今は一時の思い出の証として。

 

 そして、いつか本当の誓いを交わした際には。

 その誓いをずっと守り続ける証として。泉美に返す約束をした、その指輪。

 

 

「隊長……♪」

 

 

 誰にも聞こえないように囁いた、その声。

 

 沙和は、薬指の甘い輝きにそっと口付けをした。

 

 

 

-続く-

 

 

※警告

 

 ここから先は当初予定していた、少しカオスなオチです。

 前のページの裏話的な内容です。

 ですので、これまでの和やかな雰囲気を壊したくない方は素早くお戻りください。

 

 それでも読んでくださるという、心の広い方はこのまま読み進めてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな和気藹々とした雰囲気を醸し出す集団とはかなり離れた場所にある、ここは鍛錬場。

 

 ここでは異様な雰囲気が漂っている。

 

 そこにいたのは、輪になって集まっている五人の男女。

 

 今回の一件に関与した、役員一同である。

 

 その中のリーダーである主任。ヤナギは、普段とは違うかなり縮こまった態度を見せている。

 

 そして残りの四人。彼の部下たちは、半ば呆れたような視線を向けていた。

 

「主任だけは落ち着いた対応をしてくれると信じておりましたのに……。まさか見張りの二人と同様に、気絶してしまうとは……」

「…………申し訳ない」

「まさかノリノリで手助けするなんてさー……。“お二人の愛を貫きなさいっ!!”だっけ?」

「……………………申し訳ない」

「僕らなんて怪我した上に、嘘吐いた罰で老酒とか食事とか。本当に色々奢らなきゃなんないし……」

「まあ、奢りの件に関しては主任も費用を捻出しますから、少しは気が楽ですがねぇ……」

「……………………本当に、申し訳ない」

 

 部下たちの非難を浴びて、ヤナギは何度も何度も頭を下げている。

 

「で、主任。次は我々にどうしろと仰るのです?」

 腰に手を当てたアオイが、うんざりしたように口を開く。

「君たちに……、撃退してほしいモノがある……」

「……で、これがその為の物資ってコト?」

 クルミが視線で示したモノは、自分たちの横にある黒い山。

 

 それをよく見れば、ハンドガンやマシンガン、さらにはバズーカ砲やロケットランチャーなどの様々な火器が、まるでオブジェのように積まれている。

 

 そしてその傍らには、ノートパソコンのような機械も設置してある。

 

「そうだ。これをいくら使ってくれても構わない。いや、下手したらこれでも足りないかもしれない……」

「その撃退するモノとは、今回の敵の一派でしょうか?」

「いや、それは違うぞリンダ。なんというか、とにかく厄介な存在だ」

「それを消せ、と仰るのですか?」

「いや、撃退してくれるだけでいい。というか消すのは多分……いや、絶対無理だ」

「消すのは無理なのに撃退は出来る……なんとまあ、矛盾した存在ですねぇ」

 盛大な溜め息を吐くリンダ。

「そう。なんとも矛盾だらけの存在なんだ。だから何としても、ここに近付ける訳にはいかないんだ! 皆、心してかかるんだ!!」

 

 拳を握って部下の士気を鼓舞するヤナギ。

 しかし、その熱さとは裏腹に、彼の四人の部下はうんざりしたような暗い顔になる。

 

「どうした皆!? やる気を出してくれ!!」

 

「言わせてもらうっすけど、主任。今回の結婚式騒動で一番乗り気だったのも、こうやってこの世界にはない兵器を取り寄せているのも、貴方じゃないっすか」

「うっ!!!?」

「そうですねぇ。皆さんに隙を与えているのも、歴史の流れを狂わせかねない事をしているのも、ヤナギ主任ですねぇ……」

「…………」

「昨日の騒動で、今日は魏の方々が挙式会議をして。残る蜀と呉の方々は、次はどちらが挙式会議をするか、という会議をしております」

「…………」

「さっき通りがかったら、呉の方が優勢だったかなー。子供がいるからちゃんとしときたいって主張だったと思うよ」

 

「……すまない。本っ当にすまない!!」

 

 部下の前でとうとう土下座をしたヤナギ。そこには主任の威厳は微塵も感じられなかった。

 

 心底呆れたように、アオイがこめかみを掻きながら口を開く。

「そもそもですが、その撃退するものは本当に近づいてきているんですか?」

「ああ、それは本当だ!! さっき探知機を作動させたら反応が……」

 

 

-ビーッ! ビーッ! ビーッ!-

 

 けたたましく鳴り響くサイレン。発信源は、先程のノートパソコンに似た機械。ヤナギの言う探知機とは、どうやらこれの事のようだ。

 

 それに反応したのはアキラで、素早く駆け寄り、そのモニターを見つめながらキーを叩いた。

 

「し、主任の言う通りです! 確実にこっちに近付いています!! 恐ろしいほどの速度が測定されてます」

 アキラのその声に反応して、残る全員が機械に近寄った。

「やはり来てしまったか!! アキラ、あとどれくらいでこちらに着きそうだ!?」

「もう三分と掛かりません! 映像と音声を出しますか!?」

「頼む!!」

「了解っ!! 今出ます!!」

 

 

 

-ぬぅぅぅぅぅぅぅふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! ご主人様とぉぉぉぉぉ! ヴァァァァァァジンロォォォォォォォドォォォォォォォ!!!!-

 

-ご主人様とぉぉぉぉぉ!! 純白のドォォォォォォォレスがぁぁぁぁぁぁぁ!! 儂らを待っておおおおおおおるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!-

 

 

 

「ギャアアアアア!! 何これ何これヤダヤダヤダヤダ気持ち悪ーーーい!!!!」

「な、生身で空を飛んでいる!!!? これは人間なのですか!!!?」

「主任……ゲテモノは俺の守備範囲じゃ無いので、帰してくれませんかねぇ……?」

 

「皆の気持ちはよく分かる! だがここで我々が頑張らなければ、もっと酷い結果が待っているんだ!!」

 

「うう……。分かったよお、こうなったらやれるとこまでやってやるんだ!!」

「一目見て色々と危険な存在だと判断致しました! 命の限り、全力で侵攻を阻止致します!!」

「…………了解」

 

「ありがとう、皆!! アキラ! お前はもしもの時に備えて、北郷家の皆様を安全な場所まで避難させてくれ!!」

「了解っす!! けど一つ聞かせてください!!」

「何だ!?」

「味方でもあるお二方を、意地でも妨害する理由って何なんすか!?」

 

「至極単純っ!! ドレス姿が気持ち悪いからだ!!」

「納得っ!!」

 

「主任!! 射程距離内に入りました!!」

「良しっ!! どんどん撃ち込んでくれ!!」

「ダメだよ主任っ!! ミサイルが弾かれた!!」

「俺も駄目です!! 血の一滴も確認できません!!」

「諦めるなあっ!! 最後の最後まで粘るんだあ!!!!」

「了解っ!!」

「違ぁうっ!! 返事はサーイエッサー、だっ!!!!」

「主任が壊れだしたーーー!!!?」

 

 

 

 その後、燃え尽きて真っ白になった五人の勇敢なる戦士と、一人の青年の雄叫びだけが残ったとか、残らなかったとか。

 

 

 

 

 

-続く?-


 
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