第26剣 ぶつかり合うこと
和人Side
―――~~♪~~♪
「ん、九葉…? (ぴっ)はい、もしもし」
『和人さん、もしかして寝起きか?』
「まぁな、ふぁ~……昨日、色々あって疲れていたんだよ…」
九葉からの電話に気付き、話しをする。ふと、時計を見てみれば時間はなんと昼の1時前、寝過ぎてしまった…。
「それで用件はなんだ? お前が電話を掛けるくらいなんだから、面倒事なのか?」
『和人さん、それ本気で言ってるのか? 今日は明日奈さんがスリーピング・ナイツと一緒にフロアボスの攻略に行くだろ?』
あぁ、そういえばそうだった…。どうにも疲れて熟睡していたせいで考えが追いつかないな…。
『問題は最近起こっているボス攻略でのトラブルだよ。しかも例の大ギルド、黒っぽい…』
なるほど…何処かのギルドやパーティーの攻略失敗を後に、攻め込むつもりか…。
「…分かった。俺もなるべく早くに行けるようにするから、明日奈達を頼む」
『了解……っと、他のメンバーには連絡した方がいいかな?』
「いや、しない方がいい…。アウトロードで動くとなると、俺達が決めたボス攻略の条約に違反することになる。
面倒は避けたいから、俺が向かう」
通話を切り、行動に移す。まずは朝食、次に顔洗ったり歯磨きしたり、身支度も整えて……とにかく急ごう!
和人Side Out
アスナSide
昨日、スリーピング・ナイツのみんなと会った宿屋を訪れた私は、ユウキ達の装備を見てさすがと思った。
全員が
少人数なのだから相当な実力じゃないとここまでの装備は整えられないのだから。
そして、6人とポジションを確認した。ユウキとジュン、テッチが
シウネーが
そして、いざ迷宮区へと向かおうとした時、そこにクーハ君がやってきた。
「良かった、間に合ったか」
「どうしたの? 何かあったのかな?」
「いや、ボス部屋までオレも着いて行こうかと思って。ボス戦には参加しなければいいし」
「え、いいの?」
彼に聞いてみるとそう答えた。ボス戦までの間、手伝ってくれるというクーハ君の言葉に、
ユウキは嬉しそうに訊ね返して、彼もそれに頷いて応じる。だけどわたしはそれに少し違和感を感じた。
「(ぼそっ)もしかして、何かわかったの?」
「(ぼそっ)…例の大ギルド、どうも黒っぽいんだ。だからその警戒だよ」
みんなには聞こえないように聞いてみると、そう返答してきた。
なるほどね、それなら彼に任せた方がいいかもしれない。
「それじゃあクーハ君、ボス部屋までの援護お願い」
「よろしく、クーハ♪」
「おう」
わたしとユウキの言葉を聞いて任せろという風である。改めてわたし達は迷宮区へと向かうことにした。
迷宮区に着いたわたし達は
マップデータは予め情報屋から購入しておいたのでそれを見ながら進んだ。
3時間は掛かるだろうと思っていたのだけど、1時間と少し経過した頃にボス部屋前の回廊へと到着してしまった。
早かったのはユウキ達の連携の良さだと思う。
まるで『神霆流』の男の子達の戦闘を見ているようで、小さな身振り手振りだけで連携を行っていたからだ。
まぁ、キリトくん達はアイコンタクトだけで連携するし、わたしとキリトくんだったら《接続》で済むんだけどね…。
その時、わたしは視界の一部分に違和感を覚えた。
どうやらそれはクーハ君も同じようで、ユウキ達前衛の3人に止まるよう指示を出している。
クーハ君と視線を交わし、頷き合ってからわたしはスペルを唱え始める。
隠蔽呪文を看破する為の『サーチャー』召喚魔法、そしてそれは見事に正解し、
違和感を覚えた場所の空間が破れて3人のプレイヤーが現れた。
インプ2人にシルフ1人、けれど
しかも彼らのエンブレムは最近問題の噂になっている大ギルドだ。
わたしとクーハ君は相手の攻撃に備えて武器を構え、ユウキ達もそれに倣う。
「ま、待ってくれ! 戦う気は無いよ!」
「それなら武器を仕舞いなさい!」
慌ててそう言った男に対し、わたしは声を張りつめながら言い返す。
ビクリとした彼らは顔を見合わせてから装備である短剣を仕舞った。
わたしはシウネーに警戒して《
「何が目的でハイドしていたの?」
「待ち合わせだよ。仲間が来るまでの間、Mobにタゲられないようにな」
目的を聞き、リーダーらしきインプの男がそう言った。
理由としては別に不自然ではない、けれど彼らの状況を考えれば不自然だ。
ここまで辿り着いておきながら、今更Mob相手に後れを取ることはないだろう。
それに隠蔽呪文中はMPの消費もかなり高いのに、態々高価であるMP回復ポーションを使用するなど考えられない。
やはり怪しいと思い、クーハ君に視線を向けると彼は首を振った。
つまり、ここで手を出すなということ……それなら、彼に任せよう。
「分かったわ。わたし達はボスに挑戦しに来たから、先にやらせてもらうわね」
「勿論、構わないさ。ま、頑張ってくれ」
リーダーらしき男の言葉に仲間のシルフがハイドの魔法を使用し、再び彼らの姿は消えた。
わたしはその場所を少し睨んでから、ユウキ達に声を掛け直す。
みんなに戦闘の基本行動を伝え、シウネーの
「頑張ってこいよ、ユウキ」
「うん、頑張ってくるよ!」
クーハ君が拳を突きだしたので、ユウキもそれに応えるように拳を突きつけた。
「みんなも頑張れ」
スリーピング・ナイツのみんなとわたしにも拳を向けたので、わたし達もそれに応えた。
「行きましょ!」
開いたボス部屋の扉、クーハ君は残り、わたし達は部屋の中へと足を踏み入れた。
参加猶予時間を炎が宿り、そして消えていく。
武器を構え、ボスの出現を待つ……参加猶予時間の炎が完全に消え、扉が閉まる。
そしてついに、円形の部屋の中央に巨大なポリゴン塊がポップした。
人型へと合体していき、ボスモンスターへと実体化する。
4mは超えている身の丈の黒い巨人、逞しい胴体から上には2つの頭と4本の腕を生やし、
凶悪そうな破城鎚並みのハンマーを2つ持つ。そしてわたし達は戦闘を始めた!
アスナSide Out
クーハSide
「さて、と……見送りも済んだことだし、帰るとするか…」
アスナさん達を見送ったオレはそう呟いてからボス部屋の前の回廊を去る。
直線の回廊を出て、モンスターと戦闘をしながら一度距離を空ける……そして、
モンスターに紛れているその生き物を発見し、偶然を装ってそれを斬った。
斬られた生き物はすぐにポリゴン片となって消滅した。
「サーチャーと《
間違いなく先程の3人がオレに付けたものだろう。
ならオレもやらせてやろうじゃないか……ゲームで積んだ経験も、実戦の前には無力と見せてやる。
予め用意しておいた多量のアイテムを確認し、スペルを唱えて自身の姿を消す。
同時に、オレ自身の気配も消した…。
クーハSide Out
アスナSide
ボスとの戦闘に敗北してしまったわたし達は第27層『ロンバール』の街の中央広場に面しているドーム状の建物へと転送された。
わたしはすぐにみんなに円陣を作らせ、人がいないのを確認してから話しを始めた。
さっきの3人は大型ギルドの
それによって彼らに情報を与えてしまったこと、
そして25層と26層のボス討伐も同じ手法だということを話した。
ユウキ達は驚き、それでもまだなんとか間に合わせることも、
ボスを倒せるということも伝えると彼女達はやる気を取り戻した。
そして一気に迷宮区へと向かい、移動を始める。
迷宮区に着いたわたし達は最初のルートと同じ道を進み、現れるMobのリーダー個体だけを斬り捨て、
他のMobにはノリの幻惑魔法で足止めし、なんとか最上階のボス部屋近くまで辿り着けた。
なんとかなる……そう思って、ボス部屋の前に到着して、愕然とした。
「なんだい、これ…!?」
そこには20人以上のプレイヤーが集まっており、しかもボス部屋の目の前で陣取っている。
ユウキ達はその様子に驚いているけれど、わたしはこの人数を見て思った、まだ間に合う。
最大人数の49名の半分なのだ、あと1回くらいは挑戦できるはず。
「行きましょう、みんな」
「え、うん…」
ユウキとみんなに声を掛けて、わたしは先頭を歩きながら集団の中を歩く。
彼らに焦りの表情はない、まるでこのあとの展開を楽しんでいるかの様子だ。
わたしは代表してリーダーらしき装備をしているノームの男に話し掛けた。
「わたし達、ボスに挑戦したいんです。通してもらえますか?」
「悪いな。ここは閉鎖中だ」
「っ、どういう意味ですか…?」
思わぬ回答、いや…ある意味予想していた回答に、思わず声が張ってしまう。
「これからウチのギルドが挑戦するからな、その準備中だ。しばらく待っていてくれ」
「どのくらいですか?」
「ざっと1時間というところだ」
ギリッと手を握り締める。スカウト達に偵察と情報収集に当たらせるだけでなく、
攻略が成功しそうなチームが現れれば、集団による大人数で閉鎖行動を起こすつもりだったのね。
まさか、中立地帯で露骨な占領行動が行われているなんて……SAO時代の『軍』並みに下卑た行動ね。
「それならわたし達が先に挑戦します。わたし達はいますぐ挑めるので」
「おいおい、こっちは先に来てならんでいるんだ。順番は守ってもらわないとな」
悪びれる様子もなく、ノームの男はそう言った。周囲も似たような様子だ。
はぁ、どうして楽しくゲームが出来ないのかなぁ? わたしは自身の空気を変え、再び話し始める。
「普通は準備を終えてから来るものですよ。
第一、ボスへの挑戦は領主・ギルド会議にて基本的に挑戦権はその時に戦えるものからということになっています。
私は領主・ギルド会議にも出席しているので、そこは間違いないはずですが……あなた方のギルドリーダー、
またはサブリーダーは会議に参加していないのですか?」
「そ、それは、だな…」
「それに、いまアナタ達が行っているのは
ゲームをプレイする者として、そんなことをして恥ずかしくないのですか?」
「う…」
私が捲し立てながら言うと、男は何も言い返せないでいる。
ユウキ達は私の変化に戸惑い、周囲のプレイヤーも動揺したり、嫌悪感を示す者もいる。
少なくとも、相手の中にウチの学校の生徒はいない。
ウチの生徒ならば私を見た瞬間に敵対行動をすればどうなるか理解しているからだ。
だから彼らは分からない、気付けない……そこに彼がいることに…。
「まったくだ。順番を守れないって言うんなら、それはアンタらの方じゃないのか?」
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
「あ、やっぱりそこに居たんだね……
突然掛けられた声に驚く私以外のプレイヤー達。
その声はボス部屋の扉の前から聞こえた、その扉の景色が歪み、膜が破れると人が現れる。
スプリガンの少年、クーハ君だ。
「い、何時からそこにっ!?」
「ていうか、お前あの時帰っていったはずじゃ!?」
「いつって、アンタらが集団で集まる前からだよ。
斥候の3人、看破は当然得意みたいだけど気配にも気を付けた方が良い、じゃねぇと見逃しちまう。
システムっつっても、完璧じゃねぇんだよ」
斥候を担当していたインプが彼に聞くと、普通に答えた。その回答に当然みんなが絶句する。
ま、気配とか第六感とかそういうのは信じないのが普通だもんね。
でも、SAOをプレイしたり、キリトくん達と関わるとそれも信じる要素になるんだよ。
「なぁユウキ。お前はここからどうしたい?」
「え…?」
そこでクーハ君はいきなりユウキに訊ねた。
「譲れないものが互いにある時、お前ならどうする?」
「っ!……そうだね…。うん、ありがとう、クーハ」
何かを思ったのか、ユウキは不敵な笑みを見せている。
彼女は私の隣に立つと、ノームの男にいつも通りの元気な声で話し掛けた。
「つまりキミ達は、ボク達がこれ以上お願いしても、そこをどいてはくれないんだよね?」
「…まぁ、そういうことだな」
「そっか……なら仕方ないよね、戦おうよ」
「な、なんだとっ!?」
「あっはっはっはっ! やっぱりそう言うと思った!」
ユウキはそんな問答を行った。男は驚愕の声を上げ、クーハ君は笑っており、周囲も驚きに呆然としている。
けれど、スリーピング・ナイツのみんなは笑みを浮かべていて、私は思わず彼女の様にキリトくんの影を見た気がした。
勿論、大手ギルドとの諍いは下手をすればその後や現実、ゲーム外のネットコミュニティにまで持ち出されることもある。
そのリスクは当然高いが、いまの彼女を見ているとそんなことは些細なことのような気がしてきた。
「ぶつからなきゃ伝わらないこともある。ボク達の真剣さを、キミ達にも分かってもらわないといけない」
「ふふっ、ユウキの言う通りだね」
彼女の言葉に私は、わたしは同意する。そうだ、ぶつからなければ伝わらないことはある。
わたしはそれをSAOの時にキリトくん達から学んだ。スリーピング・ナイツのみんなも、クーハ君も武器を構える。
「ボク達は真剣だよ、覚悟もある。キミの、キミ達のこの場所を守り続けるという真剣さと覚悟も、見せてほしい」
ユウキから笑みが消え、真剣そのもの表情。わたしも、何時になく冷たくなる心が分かる。
これは何時以来だろうか? そう、アレは確か……あの男を、
「さぁ、武器を取ってよ…」
彼女の言葉にノームの男は
アスナSide Out
To be continued……
後書きです。
ウチのアスナさんはキリトさんがいないと結構キリッとしていますw
原作ではノームの男の言葉に動揺したり、怯まされたりしますが、これでは思いきり正論で捲し立てますw
さらには魔法に加えて気配を消すことで認識されなかったクーハ、なんて恐ろしい子w
アスナさんはなんとなく彼が手を打っているのに気付いていました。
そして次回はちょっとした戦闘になります・・・というか、我らがキリトさんが参上します!
それではまた・・・。
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第26剣です。
さて、アスナとスリーピング・ナイツがフロアボスのところに行く話しです。
どうぞ・・・。