“タカのめ”で得たラ・ロシェールの位置情報をもとに、ルイズ、才人、ギーシュの三人を超特急で追うこと一時間。
ようやくルイズ、才人、ギーシュ、そしてある男を視界にとらえた。
「あいつが“トレチャラス・ヴァイカウント”か・・・・・・」
“トレチャラス・ヴァイカウント”
これは
意味は“裏切りの子爵”。
その名の通り、あの男はルイズを裏切る。
自らの野望のためだけに。
俺は取っ組み合いをしていた才人とギーシュの二人に怒鳴りつけているワルドを、目を細めて見つめる。
(はぁ・・・・・・。やっぱり面倒だ、助けるの。ワルドもそうだが、“レコンキスタ”の貴族どもや“無能王”ジョセフに目をつけられたら、嫌だし。ただなぁ。じじぃに助けてやるって言っちゃったし、やるしか・・・・・・、まてよ? 昨日の事件、もしかしてこいつの差し金ってことないか? こりゃ、非常に面倒なことになってるじゃねぇか、たく・・・・・・)
俺はため息を吐くと、“レムオル”の呪文を唱えた。
そしてルイズ達に追いつくと、低空飛行でグリフォンと並行しつつ、ワルドと今後どのように関わっていけば良いか考えていく。
このあとの展開如何では、面倒なことになりかねんしな。
ある程度は想定しておかねぇと。
(・・・・・・とりあえずは、これで大丈夫・・・・・・、かなぁ? まぁいいや。臨機応変に立ちまわるとしよう)
ワルドに神竜の姿で会わないことを基本方針として色々なことを考えた俺は、ワルドを一瞥してからグリフォンを追い抜いた。
そして徐々に高度を高くしながらスピードを上げていく。
「さて、大掃除といこうか・・・・・・」
俺は地上を注視しつつ、アルビオンへの玄関口であるラ・ロシェールへ向かった。
**********
馬を何度も替え、飛ばしてきた才人たちはその日の夜中にラ・ロシェールの入り口についた。
才人は怪訝そうにあたりを見回した。
港町だというのに、ここはどう見ても山道であったからだ。
疑問に思いながらも才人はギーシュとともに、月夜に浮かぶ険しい岩山の中を縫うようにして進むと、峡谷に挟まれるようにして街が見えた。
街道沿いに、岩をうがって造られた建物が並んでいる。
「なんで港町なのに山なんだよ」
才人が呟くと、ギーシュが呆れたように言った。
「きみはアルビオンを知らないのか?」
すでに二人とも、体力の限界であったが、これで一息つけるという安心感から
「知るか!」
「まさか!」
「ここの常識を、俺の常識と思ってもらっちゃ困る」
「少し静かにしてもらえるかな? 君たち」
才人が笑うギーシュに反論しようとしたとき、ワルドにたしなめられた。
「すいません」
「・・・・・・すいません」
ギーシュは素直に謝った。
才人も謝ったが、『大きい声を出していたわけではないんだから、別にいいじぇねぇか』という気持ちが顔に出ていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「どうかしたの? ワルド」
才人とギーシュを黙らせたワルドは、ゆっくりグリフォンを歩ませて崖の上を見上げていた。
ルイズが覗き込むように訊ねたが、『なんでもないよ』と答えたワルドはルイズに向き直った。
『う、うう・・・・・・っ』
「な、何?」
その時、か細い声がルイズの耳に届いた。
ルイズは怪訝そうに見回すが、人影すら見当たらなかった。
「・・・・・・・・・・・・うめき声のようだ。君たち、辺りに人が倒れているらしい。探してみてくれないか?」
ワルドは一瞬苦虫を噛み潰したような表情をするが、すぐに元に戻り、後ろの才人とギーシュに辺りに倒れている人がいないか探すよう頼んだ。
才人はすぐに行動を開始したギーシュと、こちらをみつめるルイズの手前、渋々馬から降りるとデルフリンガーを引き抜いた。
左手のルーンが光る。
くたくたに疲れていたが、身体が軽くなったことで、疲労感が軽減された。
「相棒、寂しかったぜ・・・・・・。鞘に入れっぱなしはひでぇや」
才人はデルフの呟きを無視し、崖の下の方を見つめた。
「おい、ギーシュ。あ、あそこ」
「む? あれは・・・・・・、人のようだね」
ギーシュも才人が指差した場所を見つめて人影を確認した。
慎重に近づく二人。
そして目に飛び込んできたのは、うつ伏せで倒れている人だった。
その人の周りには血だまりができていた。
「ひゃぁあっ!?」
「う・・・・・・っ!?」
ギーシュは尻餅をついて驚き、才人も吐き気を催して口を抑えた。
「サイト、どうしたの?」
「来るな!」
近づこうとするルイズを怒鳴って止まらせた才人は、吐き気に襲われながらも、ルイズやワルドに弱さを見せたくないという気持ちで必死に耐え、倒れている人の生死を確認しようと仰向けにし、ドラマでやっていたように手をかざした。
「どうだい?」
「い、息はしてるけど、だんだん弱々しくなってる気がする」
近づいてきたワルドに才人は震えながらも報告した。
ワルドは頷き、才人を離れさせてから倒れている人の身体を慎重に診ていく。
そして一通り診終わったワルドは振り返り、才人とグリフォンの背に跨っているルイズを見つめた。
「今、息を引き取ったよ。手遅れだった。もう少し早く来ていれば助かったかもしれない」
「一体、誰がそんなこと・・・・・・」
「分からない。だが、傷の様子から相当な者の仕業であると推測できる」
ワルドはルイズの呟きに答えると、腰を抜かしていたギーシュを立ちあがらせる。
そして死体を地中に埋めるのを手伝わせた。
そのとき・・・・・・、ばっさばっさと、羽音が聞こえてきた。
才人たちは顔を見回せた。
月をバックに姿を現したのは、見慣れた幻獣だった。
ルイズが驚いた声をあげた。
「シルフィード!」
確かにそれはタバサの使い魔であった。
地面に降りてくると、赤い髪の少女が幻獣からぴょんと飛び降りて、髪をかきあげた。
「お元気?」
「お元気じゃないわよっ! 何しに来たのよ!」
「助けに来てあげたんじゃないの。朝方、窓から見てたらあんた達が馬に乗って出掛けようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
キュルケはシルフィードの上のタバサを指差した。
寝込みを叩き起こされたらしく、パジャマ姿であった。
タバサは服ではなく、崖の上をしきりに気にしていた。
「ツェルプストー。あのねぇ、これはお忍びなのよ?」
「お忍び? だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃ分からないじゃない。まぁ、そんなことはどうでもいいの。あなた達に訊きたいことがあるのだけれど」
「な、何よ?」
「崖の上に複数の男たちが倒れているのだけれど、あなた達がやったの?」
「「「!!」」」
キュルケはタバサが気にしていた崖の上を指差した。
才人たちは目を見開て驚き、ワルドはすぐに“グリフォン”に跨ると崖の上に向かった。
タバサはその様子に何かがあると踏んで、ワルドの後を追いかけていく。
「な、なんなのよ? 一体・・・・・・」
キュルケだけが、事情が分からずに首を傾げていたのだった。
*****
崖の上に到着したワルドは、グリフォンをルイズ達のところへ戻してから辺りを見回した。
漂う何とも言えない死臭に険しい表情をしながらマントで鼻を覆う。
「・・・・・・死んでる?」
「・・・・・・ああ。どうやらそうらしい」
ワルドは傍に気配のないまま近づいていたタバサに少し警戒しながら答えた。
タバサはそんなワルドには興味なさそうに『そう・・・・・・』と答え、死体の群れを眺めている。
「・・・・・・誰?」
その時、奥から生きている人の気配を感じたタバサは、杖を構えた。
その声に応じたように、その者はゆっくりと近づいてきた。
ワルドもまた杖を抜き、タバサよりも前に進み出る。
いつでも魔法を放てるように杖を構え、何者なのかを訊ねた。
「君は誰だね?」
「おっと魔法はやめてくれないかい。俺はただの旅人、それ以上でもそれ以下でもない者さ」
ワルドとタバサの前に現れたのは、青い帽子と青いマントを身につけた若い男だった。
そのマントから剣が見え隠れしている。
ワルドは警戒を解かず、男を睨みつけていた。
「(この者たちを)
「当たらずと
「なに?」
「俺は、こいつらを殺してはいない。こうやって眠らせただけだ」
男は不用意に背を向けると歌いだした。
タバサは訊いたことのないメロディに怪訝な表情になる。
しかし、それがいけなかった。
「!?」
まともに歌を訊いてしまったタバサは、睡魔に突然襲われて膝についてしまった。
そして意識を手放すときに見たのは、背を向けた男に杖を振るったワルドの姿だった。
Tweet |
|
|
6
|
3
|
追加するフォルダを選択
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。
第十八話、始まります。