No.607613

ソードアート・オンライン 黒と紅の剣士 第十七話 等価交換

やぎすけさん

大地が空を嫌う理由(?)

2013-08-11 03:36:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1920   閲覧ユーザー数:1868

勝者を告げるディスプレイが現れ、紫色の文字列がフラッシュする。

それを見たスカイが右手をパチンと鳴らすと、突き刺さったままの剣が柄頭から崩れ落ちるようにして消滅した。

 

スカイ「降参。君たちの意志の強さは伝わったよ。」

 

アスナ「じゃ、じゃあ・・・!?」

 

スカイ「うん。約束だからね。絶剣クンの病気は治してあげる。」

 

驚いた顔をするアスナとユウキに向けて優しそうな笑顔を見せたスカイは、今度は左手を振ってメニューウインドウを呼び出す。

 

デュオ「待て。」

 

ログアウトボタンを押そうとしたスカイを、立ち上がったばかりのデュオが引き止める。

 

デュオ「お前、どういうつもりだ?」

 

スカイ「どういうつもりとは、ずいぶんだね。僕はただ勝っても負けても結果が同じだったからこういう結果を作っただけだよ。」

 

光を取り戻してはいるが、それでも鋭い眼で睨むデュオに、スカイは何でもないことのように返した。

 

デュオ「解せないな。」

 

スカイ「君にとってはそうかもね。」

 

スカイは言葉を切り、視線をウインドウに戻してから続けた。

 

スカイ「でも、僕は自分の決めた規律(ルール)、“等価交換”に従うだけだから。」

 

思わせぶりな言葉を残し、スカイはログアウトして消えた。

 

デュオ「等価交換、か・・・」

 

デュオはスカイが立っていた場所を睨み付けると、背中に剣を戻して呟いた。

 

明日菜視点

謎の男性プレイヤー【スカイ】との戦闘の翌日、驚くべきことが起こった。

その日母は朝早くから仕事で家にはおらず、わたしは1人で朝食を摂ってから部屋に戻ると携帯端末から着信音が鳴り響いた。

横浜港北総合病院からの連絡だった。

 

明日菜「もしもし?」

 

倉橋「あっ、明日菜さんですか?倉橋です!」

 

連絡してきたのは、ユウキの主治医である倉橋さんだ。

よほど慌てていたのか、息が荒い。

 

明日菜「大丈夫ですか?慌てていらっしゃるようですが?」

 

倉橋「ええ、大丈夫です。それよりも大変です。木綿季(ユウキ)くんの体からHIV(ウイルス)が消えました!」

 

倉橋さんの言葉に、わたしは驚きのあまり3秒ほどフリーズしてから、思わず飛び上がって喜んだ。

 

明日菜「本当ですか!?」

 

倉橋「はい。とにかく一度こちらに来てください!」

 

明日菜「は、はい!」

 

すぐに家を飛び出し、電車を乗り継いで横浜を目指す。

駅のホームから出て、タクシーを拾い病院へ向かう。

携帯端末を支払いパットに押し当て、精算サウンドが響いた瞬間にはもう、わたしは「ありがとう!」と叫んでタクシーを飛び降りていた。

病院の面会受付窓口で看護師からプレートを受け取り、逸る気持ちを抑えながらユウキの病室を目指して歩く。

無意識のうちにセキュリティゲートのセンサーを通過し、白く無機質な通路を記憶を頼りに進む。

最後の角を曲がると、ついにユウキが眠る無菌室のドアが視界に入った。

その途端、わたしは眼を見開いて立ち尽くした。

以前訪れた時は、当然のように固く閉ざされていた無菌室のドアが、今は大きく開け放たれている。

その奥で、薄い診察衣をまとった小さな少女が上体を起こしているのが見えた。

 

明日菜「・・・ああ・・・」

 

わたしの喉から、声が洩れた。

そして、吸い寄せられるかの如く、室内に入って行く。

すると、それに気付いた倉橋医師がこちらを見て、にっこりと微笑んだ。

その様子を見た少女が、倉橋医師の視線を追うようにしてこちらに視線を向けた。

永い眠りから覚めたばかりで、まだ夢を見ているような光を宿した黒い瞳が、わたしの瞳をまっすぐに見つめる。

 

明日菜「ユウキ・・・」

 

わたしは、音にならない声で呼びかけた。

痛々しいほど肉が落ち、透けるように色素の薄い容姿は、まるで本物の妖精なのではないかと思うほど、神秘的な美しさを持っている。

そんな少女は、わたしの声を聞いて、ふわりと微笑む。

 

木綿季「アスナ・・・」

 

初めて聴く、その声にわたしの両目から涙が溢れた。

わたしは、そっと木綿季の手を取る。

痛々しいほど細く、今にも消えてしまいそうなほど弱々しい。

しかし、それでいて温かい。

自分がまだ生きているの必死に主張するかのような、生命(いのち)の温かさをわたしは感じた。

 

通常視点

空「やっぱり、何事もハッピーエンドが一番だよね。」

 

病室の外で隠れるようにしている空が、満足げに頷く。

その様子を見て、付添人の女性社員が訊ねる。

 

女性社員「社長はご挨拶にいかれないのですか?」

 

空「なんで僕がそんなことをするの?」

 

分からないことを親に訊く子供のような態度の空に、女性社員は呆れつつも冷静に答える。

 

女性社員「HIV、その他の特効薬の開発から、患者たちの腫瘍摘出手術、その他にも多くのことをなさったことを知ったら・・・」

 

空「わざわざ医者たちに、言わないように口止めしたことを何で自分から言いに行くんだい?」

 

女性社員「ですが、明日菜(彼女)は結城家の人間です。」

 

空「だから、恩を売っておけって?小さいこと言うね君。僕が、弟の友達をそんなことに使うわけないだろ。あまり下らないこと言ってると、君の“頭”が飛ぶかもよ。」

 

不吉な笑みを浮かべた空の言葉に、女性社員が凍りつく。

 

空「まあ、いいや。そろそろ会社に戻るとしようか。車の手配よろしく。」

 

女性社員「は、はい。」

 

我に返った女性社員が、スタスタと歩いて行った後、空は眼を閉じて呟く。

 

空「何か用かな?我が弟よ。」

 

空がそう言うと、通路の角に隠れていた大地が姿を現した。

鋭い眼で自分を睨む大地に、空はゆっくりと近づき、その肩に手を置くと、耳打ちした。

 

空「心配しなくても大丈夫。今回は“誰も殺してない”から。」

 

大地「そうか。なら・・・」

 

大地が続きを言うより先に、空が続ける。

 

空「ただ、木綿季(あの娘)とその家族を攻撃した方々に、少々お手伝いいただいた。」

 

大地「どういうことだ・・・?」

 

一度解けかけた警戒心を、再び強めて大地が問い返す。

 

空「大丈夫。殺してはいないよ。」

 

空は一度言葉を切ると、横目で大地を見て続けた。

 

空「ただ“死ぬ以外に正気でいられる(生きられる)道を無くしただけ”さ。」

 

大地「・・・っ!?」

 

大地は眼を見開いた後、歯を食いしばり、震えるほど拳を握り締める。

そこへ女性社員が戻り、「車の準備が出来ました。」と伝えた。

 

空「それじゃあ、行こうかな。またね大地くん。」

 

空はそれだけ言い残すと、病院を後にした。

 


 
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