まえがき。
今回、一部のキャラの批判めいた文章書いておりますが、あくまで演出と考えて頂けると幸いです。
当方にそのキャラを貶す気は全くございません。
愛紗と思春の要求をどうするかなぁと頭を悩ませる日々が続いていたけど、陳琳に『秘策があります』と言われて半信半疑でそれを聞いてみた。
駄目元だし、乗ってみますか。と桃香と蓮華に話してみると桃香は死んだ眼で、蓮華は苦笑いでGOサインを出してくれた。
陳琳曰く愛紗と思春には私から話を通すとの事なので仲介して貰って数日後、まずは愛紗と待ち合わせの喫茶店(オープンテラス)でボケーッとしていると、すんごい美人さんに声を掛けられた。
「ご主人様、申し訳ありませんお待たせしてしまって」
「いや、全然。待ってるのもワクワクするし」
それなら良かったです。と愛紗は最近見せなくなった朗らかな笑みを浮かべると、恥ずかしそうに膝丈ぐらいのスカートの裾を押さえて俯いてしまう。
何時もの服とはまた違う、お出かけ仕様の淡い緑のワンピースに身を包んだ愛紗は、パッと見良家のお嬢様に見える。
実際背筋はビシッと伸びてるし、歩き方も綺麗だし、あの激戦を潜りぬいた顔は凛々しいし、外見はパーフェクトなんだけど……なぁ。
「えーっと、ホントにお出かけで良いの?」
「えぇ勿論。そ、その為に、その、こういう衣装を買ったと言いますか、あの……」
「うん、とっても似合ってる」
ヒラヒラした服はあんまり好みじゃないのか落ち着かないのか、肩口を直したり袖を弄ったりと忙しない。
「急ぐ事もないんだし、座ったら?」
「は、はい。それでは、お言葉に甘えまして……」
○のテーブルに四つある椅子の内、対面にある椅子を腕で引いて―――少し悩んで、それを戻すと俺の横の椅子をズゴゴゴッと引くと、俺の隣に真っ赤になって俯きながらも座る愛紗。
「あの、ご迷惑でしたら、言って下さいね」
「いや迷惑って事はないけど、どうしたの? いやホントに迷惑とかじゃないけど」
「……今日は、素直になろうと決めたのです」
どれだけ丹念に梳かしたのか、俯いた顔を上げた拍子にサラーッと流れた黒髪は触ったら気持ち良いだろうなぁって程に柔らかそうで。
黒い髪と白い素肌に強調された赤い頬は、恥ずかしさだけで染まっている物じゃないと漸く分かった。
「……珍しい、ね。 お化粧してきてくれたの?」
「あ、はい……折角の機会、ですし」
唇はツヤッツヤだし、なんつーか、全身が輝いてる?そんな感じ。
店員さんに愛紗の分と、自分の新しいお茶を頼むと、少しだけ気まずい沈黙が漂う。何喋っていいかわからんとか久しぶりだ。
店員さんがお茶を持って来たのを切欠に、こっちから口火を切る。
「あー……最近は玲紗とかどう? 今は交換留学中で仲達さんが面倒見てるんだっけ?」
「あの子は、どうしたらいいんでしょうね…… やはり私の義娘にするよりは、紫苑か桔梗に頼んだ方が良かったのではと思ってしまいます」
「んー……でも玲紗も藤香も、桃香と愛紗に憧れてた訳だし、まぁ将来の予行演習と思ってさ?」
「それは、まぁ、そうですが……紫苑は凄いなぁと思ってしまいますよ」
「おーけーその話は置いておこうか。 あの二人も、少しは落ち着きを学んでくれるといいんだけどなー」
「魏の司馬仲達といえば、朱里ですら一目置く人物と伺っています。
汐里からの報告を聞く限りでは、桃香様の威に臆する事無く非常に厳しく指導を行っているとの事ですし、司馬懿殿に任せておけば心配は要らないのでは」
「んー……それなんだけど、ちょっと悩んでるんだよね」
どういう事ですか?と身を乗り出して愛紗が迫ってきたので、たゆんとしたオパーイが腕にむにっと当たる。
その事に当然気付いた愛紗は恥ずかしそうに胸を腕で隠すと、椅子に座り直したんだけど、なんだ、今日の愛紗は一体どうしたんだ?
「おっほん。 ええっとね、仲達さんに関しては俺も全く心配してないんだ。仲達さんより人を育てるのが上手い人って探すの難しいと思う」
「そう、なのですか?」
「だって六人の妹さんの面倒見て、士季を内弟子に取りながら魏の事務仕事こなして、俺の面倒見ながら鄧艾も育て上げてるんだよ?
実績だけ見たら無茶苦茶な事こなしてるからね、彼女。まぁ上司が桐花ってのも大きいんだろうけど」
「桐花殿は……まぁ、優秀、ですよね」
色んな意味で。と言った瞬間の愛紗の目つきは此処最近見慣れた物だったけど、自分でもそれに気付いたのか頭をブンブン振ると深呼吸。
「あの、ご主人様……それで、悩まれているというのは?」
「あー……玲紗と藤香ってほら、自由というか天真爛漫というか、歯に絹着せないというか、羞恥心が無いというか」
「恥ずかしい限りです……」
「もうバッサリいくけど、楓の拒否感がすっごいんだよ。『鄧艾に悪影響が出る!』って。実際あんまり係わらせない様にしてるみたいだし」
「では、あの子は」
「まぁ落ち着いて。桐花が『一発かまします』って言ってたし、他の子も目を光らせてるみたいだし。期間一杯は大丈夫だとは思うんだけどね」
「しかし、詠から聞きましたがまたもご主人様に一服盛ろうとして恋に締められたと」
「あれで懲りては……くれないよなぁ……」
二人してはぁ。と重い溜息を零してしまった。
まだ出産も済んでないのに、何で子育てで悩んでるんだろう。とちょっと可笑しくなる。
「ま、なるようになるさ。悩んでても仕方ない」
「そう、なのでしょうか?」
「そうそう。 そろそろ行こっか?」
手を差し出すと、はにかみながらも元気よく「はい!」と言って、手を握ってくれました。
その後は適当に町をブラついて、屋台で買い食いしたり、警邏中の凪達を冷やかしたり冷やかされたり、まぁそんなのを色々やって。
日が暮れてきてさぁどうするか。いやまぁ、このまま帰すってのは俺は嫌だし今日の愛紗はなんかもう初々しくて我慢出来ないし。
城に戻るか例の酒屋に行くか。それとも宿に泊まってしっぽりくんずほぐれつか。と頭を悩ませていると、愛紗が道中ずっと抱きついていた腕に込める力を強くした。
「あの、ご主人、様」
「どうしたの?」
「あの……引かないで、ください、ね」
愛紗に腕を引かれるまま歩くと、人気の無い裏路地に着いた所で歩みは止まった。
最近の街の立地には明るくないけど、此処は確か、現代で言う所のラブを育むホテル郡だった気がします。
「今日一日、私の願いを聞いて下さって、ありがとうございました」
「えっと、俺も楽しかったし、そこまで感謝してくれなくてもいいよ?このぐらいなら言ってくれれば何時でも付き合うし」
「……まだ、今日は終わってない、ですよね?」
愛紗が、スカートをジワジワと持ち上げる。
膝、太股、その付け根。
「わ、私の事は、可愛がってはいただけませんか?」
陳琳。反則だろこれは。
えぇ、腕を引いて近くの宿に入りましたとも。
一刀にたっぷりと可愛がって貰った次の日、約束のあった愛紗は一人、ルンルン気分でとある酒屋に向かっていた。
自分の顔を見るや否や、すっ飛んできた店の責任者に待ち合わせをしている胸を告げると、見事な営業スマイルで以前と同じ部屋に通された。
「ご主人様は」
「犬が好き」
コンコンとノックをすると、部屋の中から唐突に告げられた合言葉をノータイムで返す愛紗。
扉を開けると、幾分血走った眼の思春が出迎えてくれた。
事実無根の合言葉を交わす仲になった愛紗と思春。しかし両者の表情は非常に対照的だった。
片や愛紗は深く根付いた己の欲望が漸く発散できた!とツヤツヤしており、片や思春は目付きがギラギラしていて、心なしか鼻息が荒い。
「どうだったのだ。陳琳の策は」
「……思い出だけで生きていける。そう思うぐらい満たされた」
「マジでか?!」
うむ。と凛々しく頷く愛紗に思春は酒を注ぐと、愛紗は勝利の美酒に酔いしれる。
「いや、陳琳殿は素晴らしい頭脳をお持ちだ!」
「『押して駄目なら引いてみろ』だったか……それほどまでに、その……アイツは昂ぶったのか?」
「『ぎゃっぷ萌え』とは素晴らしい!!少し自分の言動を変えるだけで、ご主人様があんなにも///」
「……しかし、確かに愛紗ならば『思わず一刀が苛めたくなるような、純情可憐なお嬢様』というのも出来るだろうが」
「臆するな!いいか思春、これはプレイだ!というか立場的にはお前が有利だ!」
「その心は?」
「陳琳殿の助言の通り私は街に繰り出したが、お前はご主人様のお部屋で二人きりの密室空間だ!
それに彼女から『無表情事務口調えろメイド』の話は頂いているのだろう?」
「お、おう……しかし、何時もと対して変わらんと思うと、些か不安なのだが」
「大丈夫だ、私もそう思っていたが―――この通りだ」
次は思春の番だな!と盃を上げた愛紗に、思春は鼻息荒く頷くと自分の盃を合わせて、ちぃん!と音が鳴る。
そのまま飲んで喰っての宴会になったが、二人が程よく酔った所で唐突に愛紗が思春にダメ出しを始めた。
「いいか思春!心して聞け! 一度に全てを求めては此度の策、水泡に帰すぞ!」
「なん……だと……」
「尻を打たれ、頭を押えこまれて後ろから激しくされるのは確かに我等の理想だ!それは間違いない!
しかし今回それはなかったのだ!」
「待て愛紗。しかしお前は確かに満たされたと言ったのではないのか」
「むふ、むふふふ……♪ 確かに荒々しく、私たちが常日頃強請っている様に蹂躙される物ではなかった!
だがしかーし! その代わりに可憐な花を優しく手折るかのように、じっくりねっとりと【見せられないよ!】で嬲られるのは癖になるぞ」
「そんな、ものか……? それでは物足りんと思うが」
「思春、眼を瞑って今から私の質問に答えろ」
「おう」
素直に眼を瞑る思春にあわせて、酔っ払った愛紗も何故か眼を瞑る。酔っ払いのテンション怖い。
「いくぞ―――此方から強請って、どう攻めるのかが分かっている猛々しいご主人様と、行為自体は優しいけれど、自発的にいぢめて下さるご主人様、さぁどっち!?」
「迷う事無く後者です本当にありがとうございます!!」
「思春いえーい!!」「愛紗いえーい!!」
「「忠犬がなんぼのもんじゃーい!!」」
ハイタッチを交わすと二人は酒を更に注文し、ノリノリの宴会は扉が叩かれるまで続いた。
幕間、あるいはプロローグ。
張勲―――七乃は、意外にも一刀から重宝されている。
理由は多々あるが、ざっくりと分けて説明するならば二つに分けられ、一つは美羽の保護者件監督者の立場にあるという点。
そしてもう一点は、一刀の寵姫の中で一番『つーかー』な仲である。という点である。
前者は兎も角、後者は自他共に認める、というよりそう思わざるを得ない。
時折ある会話が
「七乃さん、アレ何処にやったっけ?」
「アレならあそこに置いたじゃないですか。もう耄碌ですか、嫌ですねー」
みたいなのや、午後の公務をこっそり抜け出して城下に出かけよう。と密かに意気込む一刀に対して
「一刀さーん。 女性のお尻追っかけまわす暇は今日は無いんですからチャキチャキ働いて下さいねー」
「……なんでわかったの?」
「そんな顔してたら気が付かない方が間抜けじゃないですかーばかー?」
みたいに釘をさして、しかもその時気が付いたのは七乃だけ。みたいな事があったり。
かと思えばちょっとしたイタズラは手伝ったり見て見ぬフリをしてみたり。と一刀の感情の機微を捉えるのは実は月より上手だったりする。
かといって詠や稟の様にキツめの口調で一刀を炊きつける姿は一切見せない、というかそんな事をする必要が無いので、傍目には一刀を口八丁で丸め込む奸臣ぐらいにしか映ってない。
しかも当の本人がそれを否定しないので、一刀の意向もあり仲良しこよしな『お手付き』の面々には、そんなに好意的には受け止められない。
例外は日々歪んだ愛情を与えられている美羽と、一刀の名が挙がると静かなる発狂モードに突入する仲達さんぐらいのものである。
それはともかく。
そんな女の私室に招かれた陳琳は、昔からあまり良いイメージを持っていない七乃に面倒くさげな半眼を遠慮無くぶつけながら持ち込んだ茶なんぞ飲んでいる。
「私思うんですけど、美羽様って絶対土壇場でヘタレるんですからもうドMで良いと思うんですよねー」
「そうですか」
「やだー陳琳ちゃんったらノリわるーい」
「くっだらない妄想を垂れ流したいのなら、どうぞ壁に向かって喋って下さいな」
「美羽様がヘタレMなのは現実なんですけどねぇ。 所で陳琳ちゃん、下着の趣味が随分変わりましたねー」
「いけませんか? 一刀様の趣味に合わせたので、アンタの美意識なぞ知ったこっちゃありませんが」
「あー陳琳ちゃんも大きく勘違いしちゃってる側ですか」
「どういう意味だ」
「あの女垂らしの十枚舌が女性に向かって『その下着お前に似合ってない、萎えるわ』なんて言う訳ないじゃないですかー」
「アンタのその物言いは十二分に不敬罪だ」
「不敬罪があるなら、盲目罪も適応するべきだと思うんですよねー私」
七乃はすくっと立つと、身構える陳琳を素通りして棚から乾燥菓子(いわゆるクッキー)を取り出してモシャモシャと食べる。
「食べますー? 朱里ちゃんのお手製ですから、かなりイケますよ?」
「……一枚、頂こう」
ベーシックなプレーンクッキーを陳琳は手に取って、さて匂いを嗅ぐかどうかで少し悩んでそのまま食べた。
態々朱里の名前を出した所からみるに下手な仕込みはしていないだろうし、もし仕込んでいたとしても一刀経由で朱里に罪を擦り付けておもっくそ泣かせるつもりだろう。
「そんな警戒しないで下さいよ。今日呼んだのはお礼みたいな物なんですから」
「美羽様の事を言っているのであれば、礼なぞ不要だ」
「美羽様すっごい可愛かったんですよ!私は一言も“持ってる”とか“あげる”って言ってないのに、期待と希望に満ちた眼で他人の恥部をベラベラ喋っちゃうんですから」
「お前は一度ぐらい首を跳ねられる冪だな」
「アレ以来美羽様ってソッチの趣味に目覚めちゃったみたいで、穴あきの下着をこう顔を真っ赤にして抱えて帰ってきたりしちゃってもー!」
「似て非なる路線だと思いますがね」
それではこれで。と立ち上がった陳琳に向かって、少しも焦る事無く七乃はお茶を一口飲んで、言った。
「随分余裕ないですね。 そんなに禁書が出回った事を負い目に感じてるんですか?」
「貴様……」
「あんなの喋っちゃう方にも責任ありますけど、でもやっぱり一刀さんに断罪される冪は書いた本人ですよねぇ?」
「……それが、私が負う罪だ」
「身嗜みに気なんて使った事が無い、半分女捨ててた陳琳ちゃんがそこまで入れ込んじゃった男性に見限られるってのはどうなんですかねぇ?もう死んじゃいます?」
「一刀様はその様な偏狭なお方ではないわ!」
「そりゃそうですよ。 両手両足の指でも足らない数垂らしこんでるんですから。 でも、腹を割って話せる間柄じゃ無くなっちゃいますよねぇ?」
「……何が言いたい」
「なまじ頭良い癖に繊細なのって一番性質悪いですよね、華琳さんとか蓮華さんみたいなの。正直見ててウザいったらありゃしないんですよねアレ」
「不敬だぞ」
「べっつに誰に聞かれてても気にしませんけどー? だって華琳さんや蓮華さんに養って貰ってる訳じゃないですしおすし」
「張勲」
「華琳さんとか蓮華さんが一刀さんにどうやって愛されているか知ってます?いや知る訳ないですよね、聞いたの私だけですもん。
思春さんや愛紗さんみたいにもう全部ぶっちゃけちゃえば気持ちも軽くなるし一刀さんだってヤりやすいのに、言葉にしなくてもわかってよもう!みたいなの、どう思います?」
私だいっきらいです。とシニカルな笑みを浮かべる七乃に、陳琳は空いた口を閉じる事が出来なかった。
鯉の様に口をパクパクとさせながら、仮にも三国の王の内の二人を徹底的に詰った七乃を、斬るかどうか思案する。
(いや、私の一存で決めて良い話ではない。 仮にもコイツは一刀様の女だ)
「まぁ座って下さいよ。話は此処からなんですからー」
「……もうさっさと用件だけ話せ。 正直、貴様の顔を見る気にならん」
「一刀さんにどうやって謝ります?」
「………頭を下げるしかあるまいよ」
「だから、そんなの許されるに決まってるじゃないですか。 私が聞きたいのはその先。どうやって挽回するんです?」
「それは……一刀様の役に立つ事でだな」
「うわーまわりくどーい」
「きさ「もっと手っ取り早く、しかも眼に見えて一刀さんからの信頼と感謝を受けられる手段があるって言ったら、のりますか?」
コイツは悪魔だ。甘言を用いて、人の心を意のままに操る悪魔だ。
「……」
「別に私は貴女じゃなくても良いんですよー? 地方からコッチに移りたいっていう子なんて沢山いるんですから、その辺りを適当に見繕ってやらせちゃえばあら不思議!」
「何を、どうする」
やはり悪魔だ。自分の言葉を待ち構えていたかの様な、意地悪な笑み。
策を伝授して、しかし納得しきれていないかの様な顔で出て行った陳琳を笑顔で見送ると、七乃は懐から何やら木簡を取り出す。
「さってさて、此方の仕込みは上々。後は結果をご覧じろ。と」
さっさっさーと何やら書き込むと、んー。とか言いながら唇を尖らせて何やら思案しながら、言う。
「頭良い癖に繊細な人ってホント操縦が楽でいいですよねー。
コッチはあくまで可能性の話をしてるだけなのに、勝手に『見限られた』とか『失望された』とか思い込んでくれちゃいますもん。
普通に考えたら、あの激甘な一刀さんが一度や十度や百度の失態で自分を慕う女の子見限るとか有り得ないって、なんでそんな簡単な事見失えるんですかねぇ!?」
バン!と机を叩いて声を荒げても、答えは帰って来る筈が無い。そんな状況であれば七乃は本心を見せたりはしない。
おっといけない。こういう所から謀はバレてしまうのだ。
七乃はてへっ。と自戒すると、次のターゲットを崩しに掛かる事に決めた。
「さてさて、あの変態姉妹もちょーーーっとオイタが過ぎちゃってますし、キツーいのお見舞いしておいた方がいいですよねー」
おまけ
一刀から直々に『半日ぐらい、時間取れないかな?どうしても仲達さんに頼みたい事があるんだ』と請われた、我等がちゅーたつさん。
予定は投げ捨てるもの。と即答でOKした後、その足で自身の日程を確認しに行き、桐花に有給の申請書を提出して無事に許可を頂け、本人は気付いていないが鼻歌なんぞ歌いながら帰っていた時の事である。
「諸葛亮様」
「はわわ!?」
ばったりと、もう日も落ちようかという時刻、つまり仕事終わりに蜀漢の臥龍と出会ってしまった。
さて困ったのはお互い様である。一刀が絡むとちょっとだけ可笑しくなる仲達さんはまさか自分のあの発言を朱里が聞いていたとは思っていないし、そもそも問題がある発言だとも思っていない。
なので何故朱里がこうも遜った応対をするのかが真剣に分からない仲達さんは、うーむと内心唸ってしまう。
『一刀様に逆らったのなら処刑で問題ないだろjk』を地で行くちゅーたつさん。この場合桐花が上司というのはブレーキがいないという事でもある。怖い怖い。
「先日は結構な物を頂きまして。お返しをさせて頂いたのですが、お手元に届きましたでしょうか?」
「い、いえいえ、こちらこそ大変結構な物を頂戴しまして、あの、お手数をお掛けして申し訳ありませんでした殺さないで!」
「はい?」
「な、なんでもありません……」
対して、『あの眼光に似た物を過去に一度だけ見たことがある。海ちゃんに『くたばれド貧乳』と罵られた時の華琳さんと同じだった』と雛里に泣きながら恐ろしさを語った朱里は完全に仲達さんに呑まれていた。
此処に居たら殺される((((;TДT))))。と小刻みに震えながら、どうにかして逃げ出さないと。と何とか用事を思い出そうとする朱里だったが、一手、遅カッタナ……
「実は、諸葛亮様にご相談がありまして。申し訳ありませんが、お付き合い願えないでしょうか?」
「(あれ、北斗七星の脇に輝く、あの小さな星はなぁに?)な、なんでございましょうか」
「……立ち話もなんですので、何処か落ち着いた場所へ移りませんか? 良い酒楼を存じております」
「(大きな星が点いたり消えたりしてる……大きい……彗星かなぁ?)は、はひ……」
促されるまま、(朱里にとっては)処刑台への道を歩こうとするが、お腹に力をきゅっと込めて、眼を瞑って言葉を勇気ごと吐き出す朱里。
「さ、最後にご主人様にお別れさせてくださいっ!!」
「あの、諸葛亮様。先程から一体何を仰っておられるのでしょうか……」
「お願いします!せめて最後にご主人様のお顔を!」
「あの……」
「なにとぞっ!なにとぞっ!!」
小さな体を精一杯折り畳んで頭を下げる朱里に、一体どうすれば……と悩んでいると、第三者が第四者を伴って現れた。
美人さんの危機に駆けつける事に定評のある一刀さんマジカッケェっす。
「何やってんの?」
「おや、仲達殿。 その切はお世話様でした」
最近良く見る(仲達主観)組み合わせ、一刀と陳琳だった。
「ご、ご主人様……これで、これでもう、思い残す事はありません……」
「何、どうしたの朱里。何があったの仲達さん」
「あ、いえ、その……折り入ってご相談がありまして、立ち話も何ですので三国一へお誘いしたのですが……何故か、この様に」
「相変わらず仲達殿は愉快ですねぇ」
くっくっと忍び笑いを零す陳琳。何か良い事でもあったのか、心なしか何時もより機嫌が良さそうに見える。
視線を仲達さんと朱里の交互に送り、成程成程。と呟く陳琳は何かに気付いたのか、一刀の肩に顎を乗せる様に顔を近づけると、吐息の掛かる距離で何やらボソボソと呟く。
「あー、成程。 ねぇ仲達さん。俺達も混ぜてもらえない?「喜んで」」
「ありがとー」
「これは良い話が聞けそうです。筆を持ってくるとしましょう」
では酒楼で。と陳琳は一度別れを告げ、三人は三国一へ向かった。
今日中に殺される事はなさそうだ。と朱里は薄い胸を撫で下ろし、忌まわしい酒楼、三国一へと突入した。
何時かの様に「お母さんと来てね、お嬢さん」と言われる事も無く、さりとて対してお酒に強くない朱里は漂う酒精に胸焼けを覚えながら、何とか個室へたどり着く。
「朱里は先に水の方がいいかな?」
「はわわ……も、申し訳ありません」
「私の不手際でした。 今からでも場所を移しますか?」
「陳琳と待ち合わせしてるし、個室だからまぁ大丈夫……だよね?」
「はい、大丈夫ですよ、司馬懿さm、司馬懿さん」
「でしたら良いのですが……」
コンコン。とノックされた音に一刀が返事をすると、注文を取りに来た店員さんだった。
採譜から品物を適当に注文すると、去って行く店員さんを見送りながら、一刀は「あー」と納得したかのような声を出す。
「一刀様? 何かございましたでしょうか?」
「いや、あの店員さんなんだけどさ。 そういや凪と此処に来た時に一悶着あったなーって」
「なんと!?」
「いやそんな大した話じゃないよ? 一般……でもないんだろうけど、それでも市井から選んだ子だったから、俺の事知らなくてさ」
「あはは……桃香様や華琳さん、それに雪蓮さんなんかに比べると、ご主人様のお顔は確かに広まってはいませんね」
「まぁ上手に回ってるならそれでいいんだけどさ。『このお店は男性はお断りなんですけど』ってかなり冷たく断られて、凪がキレそうになって危なかったなーって」
「それは……凪の判断が正しいと思いますが」
「いやそこでぶっちゃけちゃうとあの子も立つ瀬ないじゃない? 幸い店長さんが直ぐに気付いてくれたから揉め事も無かったし」
「しかし……」
「あ、あの、司馬懿さん。ご主人様は、偉ぶる方ではありませんからその辺りで……」
朱里の発言に思うところがあったのか、仲達さんは確かに。と零しながら、しかし何処か納得いかないといった顔で押し黙ってしまう。
幸い分かりやすいお姉さんなので、一刀はガス抜きがてら仲達さんの手を取ってギュッと握ると、手の甲を軽く擦ってあげる。
それだけで朱里の眼にはぴん!と伸びた犬耳が見えた。尻尾も揺れるおまけつき。チョロ達ってこの事かー。と納得しながらお冷をクピクピと飲んで喉を潤す。
(結構、可愛い人、なのかな……)「あの、司馬懿さん。 それで、ご相談というのは?」
「! は、はい……内弟子の鄧艾が大変お世話になっている様で、ありがとうございます」
「いえいえ此方こそ。藍ちゃんまで結構な物を頂きまして」
「いえ。 それで、鄧艾の事なのですが、彼女の才能は一目置く物があります。師としては他国へ赴かせ、見聞を広めさせたいと思っているのですが……」
「あー。 そんなら交換留学して貰えばいいんじゃない? なんだったら一筆書くよ、俺」
この後に及んで自分の影響力を理解しきれていない一刀さん。
呆れたように、困ったように朱里は笑うとちょっとだけ釘をさす。
「ご主人様が一筆書いちゃったら、もう決定になってしまいますよ?」
「そなの?」
「勿論でございます」
聞いた相手が仲達さんなのでイマイチ信憑性に欠けるが、蜀でも三指に入る立場の朱里が直接聞いたとなれば、口約束でも決定稿になるぐらいの影響力はある。
「それで、その……鄧艾なのですが、才は素晴らしいのですが生来気弱らしく、見知らぬ人の中に入ってしまうと本来の力を発揮しきれぬ恐れもあります。
つきましては、何卒諸葛亮様に御目溢し頂きたく」
「あはは……私程度で宜しければ喜んで」
「まぁ大丈夫じゃないの? 蜀には藍居るし、汐里も鄧艾の事は知ってるんでしょ?」
「確かに、一刀様の仰る通りですね」
気休め程度の一刀の言葉も、仲達さんにとっては魔法のソレである。
先程の親御さんの様な弱さは何処へやら、一気に立ち直ってしまった。
と、そこに扉を叩く音がして、また一刀がはーい。と返事をすると、相変わらずの浪人スタイルで陳琳が入ってきた。
「いや、お待たせしました」
「はわわ……陳琳さんだ……」
「ん? 朱里は陳琳知らないっけ?」
「お会いするのは初めてですね」
空いている椅子に腰掛けると、朱里はキラキラした眼で陳琳を見る。さっきはテンパっていて気付かなかったらしい。
なにせ当代随一の大作家様である。一度で良いので話をして、その勢いで八百一モノを書いて欲しいと願って何が悪いかっ!
「お待たせいたしました」
しゃなり。と音がしそうな上品さで、食事と酒を運んで来た店員さんと店長さん。
や。と一刀が軽く手を挙げ、それにはにかんだ笑みを零したのは店長さんだけだったが、コレが広まるのも時間の問題だろう。一刀さんははじけて混ざれ。
「では旦那様、ごゆっくり」
「ありがと」
さて、食べよっか?と一刀が箸を手にとって、各々思い思いに箸を伸ばした。
飲んで食ってしばらくして、妙に騒がしい声が四人の耳にも届いた。
「一刀様がいらっしゃるというのに何と無粋な。ええもう私が懲らしめてきます」
「……あれ、どっかで聞き覚えのある声だな。あと仲達さん落ち着いてね、お水飲む?」
「愛紗さん……いやでも、まさか、ですよね?」
しこたま酔わせた(一刀が酌をすれば直ぐだった。チョロい)仲達さんの言葉に耳を傾けつつ何やら書いていた陳琳だったが、仲達さんがふんすーと怒ったのを見て筆を休める。
「くっくっくっ……いや全く、一刀様の周りは賑やかで宜しい」
「『いいか思春!』って聞こえたけど、空耳だよね?」
「あっはっはっ!! ちょっと確認してきましょう!」
もう間違いない。ヤツ等がいる。
そう判断した三人(仲達さんは除く。酔ってるからね)のうち、陳琳はあまり酒を飲んでいなかったので、確かな足取りで問題の部屋へ向かう。
「……なぁ朱里、なんで愛紗と思春、ああなっちまったんだろう」
「二人は逝ってしまったんですよ、均一なる性癖の裂け目の向こう、広大な知識のどこか。
そのすべての領域を喰らいつくして、ご主人様に求められた証を自慢したいなら、その道はドMの数だけあるんですよ」
泣こうか、いや男の子は泣いちゃいけない。そう堪えた一刀の耳に届いた「「忠犬がなんぼのもんじゃーい!!」」という雄たけび。
「……ご主人様。愛紗さんの事、なんですけど」
「愛紗は死んだ。もういない」
「諦めないで下さいご主人様!!諦めたらそこで試合終了だって教えて下さったのはご主人様じゃないですか!」
「諦めなくても試合は終わるんだよ!時間制なの!時間が一番残酷で優しいんだよ!」
「なっ……だ、大体ご主人様はズルいです!ズルっこなんです!!可愛がるのは魏とか呉の子ばっかりで、私たちの事はぜーんぜん可愛がってくれないじゃないですか!」
「おー言ったな朱里!! 俺が何時贔屓しましたかー!?俺は全員等しく愛を振りまいてますー!八方美人だ何だって罵られたってこれが俺の全力なんですー!!」
「その事に文句は言ってないじゃないですか!!私が言いたいのは、なんで蜀にご主人様の名前を関する二つ名が定着してないのかって事で、それが贔屓に繋がってるんじゃないかって事ですー!」
「そんなの俺知らねぇもん! それに居ないっていうなら呉だっていないじゃん!っていうか二つ名って何?!今初めて聞きましたけどー?!」
「『天衣殿』『懐刀』『左剣』『十字に侍る深紅の呂旗』『北郷三羽烏』ほら!こんなに一杯あるじゃないですか!」
「俺が言い出したんじゃないだろ?! 周りが言い出したヤツじゃんそれ!」
「私だって臥龍じゃなくてなんかもっとこうご主人様に繋がる様な渾名で呼ばれたいんですよぅ!!
っていうか詠ちゃんばっかりズルいんです!風ちゃんだってそう言ってるんですから!」
「あーあー聞こえない!!っていうか風までかよ?!爆弾できてんじゃん!口に出してるってもう破裂するトコじゃんか!」
滅茶苦茶にヒートアップして、ついに感情をぶっぱなして泣き出す朱里。何時の間にか、随分と呑んでいたようだ。
えー俺泣かせたのー?と一刀は慌てたが、視界の端に移った腕の主に視線を送ると、彼女は眼が据わっていた。
「(裂きイカを食べながら)むぐむぐ……一刀様。 一刀様は首輪を付けた女でないと興奮されないというのは本当でしょうか。いえ姉様がその様な事を言っていたのですが。
勿論私も一刀様が求められるのであれば着ている服をかなぐり捨て、言語の全てを忘却して「わん」と鳴くだけの犬に成り果てる覚悟は初めて抱いて頂いた折から持っております。
ええ勿論その程度の覚悟は皆様お持ちでしょうし、私程度の容姿で何をほざくとお思いでしょうが、もう最近は一刀様の御尊顔を見かけるだけで堪えきれなくなってきております。
一刀様を思うだけで生きていけると思っておりましたが、浅ましいまでに一刀様に求められる事を願っております。
(とりあえず目に付いた酒をラッパ飲みして)……ええと、何処までお話したでしょうか?あぁそうです、一刀様が首輪を「仲達さーん。こっちおいでー」はい、一刀様」
あかん。と一刀が仲達を落ち着ける為に膝の上に乗せて抱えたのと、陳琳がマル危さんを引き取ってきたのは同時だった。
「―――おや、随分と仲が宜しい」
「私だっておっぱい大きくしたいのにぃぃぃぃ!!」
「ちょっと待って朱里泣き止んでお願い!」
「泣いてからが本番だろうが!!」
「思春はちょっと黙ってろバッキャロウ!!
何故か恍惚の表情になった思春は羨ましそうな視線を送る愛紗に手を引かれ、唯一素面に近い陳琳は店員に酒の追加を言伝る。
あまり余裕は……と零す店員に財布から大目の銭を握らせ、申し訳無いが他所からでも仕入れて欲しい。と頼むと、座っていた椅子に腰掛ける。
「いやぁ楽しいですなぁ一刀様」
「俺結構な修羅場にいるんだけど」
「なぁに。三人よれば何とやらと申しますでしょう?」
酔っ払って格差社会を嘆く朱里、視線定まらぬまま如何に一刀に愛される事が素晴らしいかを延々と垂れ流すちゅーたつさん。
そんな二人をみて思春と愛紗は酔いが覚めたのか、脇にやられた椅子を引っ張ってきて座った。
「あの、ご主人様……一体どの様な状況、なのでしょうか?」
「全く……何故休みの日まで貴様の顔なぞ見なければならんのだ。ちょっとだけでいいからさっきみたいに罵ってくれ」
「いや最初は仲達さんが朱里にお願いがあるって話だったんだけど……」「無視か。放置プレイか」
「おぉ、司馬懿殿ではないか! 義娘が大変世話になっている!」
「―――ですから私が何を言いたいのかを一言で纏めますと、一刀様の御心に触れてしまった今、身を襲う欲情に抗う事は大変に難しい事であり、しかし一刀様の負担になる様な真似は決してしたくないという事です。
一刀様に優しくお声を掛けて頂いた日などは、独りでは中々寝付けず、つい頂いた筆を浅ましい真似に使用してしまう事がもはや日常となっている訳で……何処までお話しましたでしょうか?」
「おい、大丈夫かこの酔っ払い」
「仲達さーん? ちょっとこっちでお水飲もうか?」
「はい、一刀様」
一刀に声を掛けられると瞬時に反応し、キチンと視線も定まって一刀の傍へ歩み寄る。
「まさか……もう、躾は済んでいるというのか……」
「羨ましいですか、思春殿」
「なんのはなしだ?わたしはそのようなしゅみはない」
「思春さん!思春さんは味方ですよね?!たゆんたゆん揺れる肉塊は敵ですよね?!」
「巨乳死すべし!」
「落ち着け朱里、それに思春も……胸など「だまらっしゃい!!愛紗さんに何が分かるんですか!!弟子に……可愛がっていた弟子におっぱいでぶたれた私の何が分かるんですか!!」
「朱里……お前ちょっとおかしいぞ? 思春も何とか言ってやれ」
「巨乳に人権は無い」
「愛紗さんに……巨乳の愛紗さんにはわかりませんよ!妹にブラのサイズが追いつかれた哀れな姉の気持ちなんてっ!」
「どうしてこうなってしまったんだ……」
「おまえがいうなど変態!!」
「なっ……それは、侮辱と取っていいのだな?」
「あっはっはっはっ!!」
ひいこら言いながら届けてくれた酒を眺めながら、一度皆でクールダウン。落ち着きって大事。
朱里だけは中々酒が抜けなかったが、思春と愛紗、そして仲達さんは冷静な思考を取り戻した。
「さて……皆落ち着いた所で話を戻そうか。 先ずは鄧艾の話」
「それはもう解決したんじゃ……」
「あれ、そうだっけ。 んじゃ、朱里と雛里はなるべく多く係わってあげるって事で。この際だし、担当は愛紗でいいかな?」
「あの、ご主人様。私には何の話かさっぱり……」
「あー。 いやね、魏から蜀への留学生を鄧艾にしようかって話なんだけど、あの子ちょっと人見知りするから、担当は仲達さんみたいに優しくて面倒見が良い人がいいねーって話なんだけど」
「鈴々ちゃんは……ですし、かなり大人しいとなれば翠さんもちょっと……星さんは、真面目にやって下されば文句無く推すんですけどね」
「そういう事ですか。 玲紗が世話になっている司馬懿殿の願いであれば、喜んで」
「何卒お願いします、関羽殿」
あれ、そういや星に鄧艾の事お願いした事なかったっけ?とおぼろげな記憶を辿った一刀だったが、まぁ酒の席での話だし、気にかけてくれる人は何人いてもいいし。と言葉を飲み込む。
俺も飲もーっと酒瓶に手を伸ばすと、珍しい事に思春が注いでくれた。いやホントに珍しい。
「一刀、呉にはこんのか?」
「あー……その辺どうなの?」
大いなる意思(hujisai様)にその辺りはお任せするとして、次は蜀の問題児達である。
朱里や愛紗としては頭の痛い問題で、当事者である仲達さんがいるのなら話さないという選択肢はないだろう。
「では、書記なぞ勤めましょう」
「陳琳が書記とは、随分豪華な話だな」
「褒めても何も出ませんよ?」
「えっと、仲達さん。あの二人はどう?」
「はい。 元直の言い分では『殺さなければ何でもあり』との事でしたが実際そういう訳にもいかず、さりとて何の成果も上げない訳にもいかず困っている、というのが現状です。
桐花様が一肌脱いで下さっているのですが……効果があるようには……」
「「マジでサーセン!!」」
土下座する勢いで、というか土下座して仲達さんに謝る愛紗と朱里だったが、下げられた仲達さんはオロオロとするばかりで解決には向かわない。
「第三者の思春、意見はないかな?」
「………あやつら、お前に何度か盛ろうとしているだろう?アレがちょっと問題になっていてな。
恋がシバき倒したから少し溜飲は下がっているものの、完全にはな」
「マジでか」
「詠がボロクソに桃香殿を罵っていた。と蓮華様から伺った。月も止めなかった事から、実際に怒っているのは月だろう」
「あの、思春さん……それ、本当ですか?」
「ああ。 『乳にばっかり栄養が行ってるから義娘の教育もままならないのよ!!』と大声で罵ったらしい。完全な八つ当たりだとは思うが」
おあずけだった酒を飲みながら言う思春の意見は非常に効果的で、朱里と愛紗はずーん。と落ち込んでしまった。
「あーそれで桃香元気無かったのか……」
「貴様の事だから慰めはしたのだろうが、このままだと不味いぞ」
「華雄さんに頼んでシゴき直してもらうか?」
「それで効果が出るとも思えん」
「うーん……あんまり手荒な事はしたくないんだよなぁ……あ!そうだ楓さんは?美羽の教育してくれてたし!」
「失礼ですが一刀様、お嬢様はこの件に関しては……」
「あーそっか……どうしよ?」
うーん。と全員で悩んでしまった。
最終的な手段として凌遅刑(かつて審配が受けたアレ)があるが、あの変態共は味を占めてしまう可能性もある。
そうなるといよいよ打つ手がなくなるので、他の手段を考えるしかないのだが。
「あ、月におしとやかになる様に教育してもらおうか?」
「月、ですか……確かに礼儀作法はかなりの物ですが、果たしてあの子達が言う事を聞くでしょうか?」
「あいつら殺されるぞ」(ボソッ
「え? 思春なんて言ったの?」
「いや、現状魏に預けているのに、其処に横槍を入れるのはどうだろうとな」
「確かに、天衣殿なら確実ですねぇ」
思春の零した言葉を拾っていた陳琳はくっくっと楽しげに笑い、酒を飲むと筆を走らせる。
「しかし一刀様、天衣殿にも予定はあるでしょう。此処は一つ、仲達殿の手腕を信じてみては?」
「……そうか。愛紗さん、ちょっといいですか?」
「ん? どうした朱里」
愛紗を引っ張って、隅でこそこそと話す朱里。
時折愛紗がびっくりしているが、話自体は簡単だったのか、直ぐに戻ってくる。
が、愛紗は席には座らずに一刀の背後に回り、それを確認してから朱里が口を開いた。
「あの、司馬懿さん」
「なんでしょうか?」
「藤香さまと玲紗ちゃんは、桃香様と愛紗さんの義理の娘な訳です」
「はぁ。それは存じておりますが」
「となると、ご主人様にとっても義娘という事になります。此処までは宜しいですね?」
「はい」
「もしこのままあの二人が品行下劣なままで育ってしまうと―――便宜上とは言え義父上であるご主人様が多大な風評被害を被ってしまうという事は、ご理解頂けるでしょうか?」
「朱里?なんで「すいませんご主人様! 後で存分に甚振っていただいて構いませんから!バッチコイっすから!」
口を挟もうとした一刀の口を愛紗が塞ぎ、それを見た仲達さんの視線がギロッと光る。
が、口を挟ませる前に朱里が畳み掛ける。
「今あの二人を正す事は、そのままご主人様への評価へと繋がります。もうこの際五月蝿い事は言いません。ご主人様の為に、あの二人どうにかして下さい」
「司馬懿殿。ご主人様の為なのだ」「んーっ!」
「仲達殿。今こそ、貴殿の忠誠を示す頃合かと」
(面白そうだから乗っかろう)「司馬懿、一刀の為だ」
待て仲達、これは孔明の罠だ!と一刀は言いたかったが、愛紗と力比べで勝てる道理もない。
仲達の視線が定まったのを、諦めた様な顔で眺めた。
「お二人に確認したいのですが」
「なんでしょう?」「なんだ?」
「―――少々手荒になりますが、よろしいか」
下手をすると腕の一本もへし折りますが。と告げる仲達さんを見て、愛紗と思春は正しく『コイツは敵ではない、強敵(とも)だ』と認識を改めた。
「えぇもう構いません!淑女と呼ぶに相応しくなるのであればもう!」
「では、その様に致します。 それと関羽殿、一刀様にその様な振る舞いは無礼ではありませんか」
「あ、あぁ。その通りだ。 申し訳ありません、ご主人様。四つん這いでも何でも致しますのでさぁどうぞ!」
「ぶはっ!! ……まぁ、仲達さんなら酷い事はしないだろうし、信じてるよ」
「はいっ、一刀様っ!」
ぱぁ。と明るく輝く笑顔を朱里と陳琳は微笑ましく見ていたが、愛紗と思春は『成程こういう顔をすれば犬と呼ばれる様になるのか』と研究していた。
あとがき。
勝手に話を広げるのは私の悪い癖なので直したいです。手が勝手に動くんだ、と言い訳はしておきます。ごめんなさいhujisai様。
作者様本人に嫁認定いただけましたので、陳琳さんはこれから贔屓したいと思います。名前間違えてましたけれど。
マイナー萌えな私ですが、今回は登場させられなかった。くやしい、でも(ry
七乃さんが途中黒いのは本家様の七乃さんがあんまり可愛かったのでムラムラしたんです、悪気は無かったんです。
七乃さんと秋蘭と星は見えない所はデッレデレだと思うんだ!
PS. 当方の【項羽様マジ乙女】に少し追加しております。よければそちらも御覧下さいませ。
お礼返信
ちゃあ様 冥琳なら…冥琳なら何とかしてくれる!
BellCross様 変態ってやーねー
hujisai御大 式は洋風で宜しいか(迫真
HIRO様 朱里の台詞をご参照くだしあw
zero様 人の夢と書いてなんとやら。 ちゅ~たつさんマジ天使!!
kaz様 月=世界 恋=星の白銀 詠=愛人だと勝手に妄想してます。詠ちゃん逃げて!!
ミドリガメ様 照れる美熟女は正義。異論など存在する訳が無い(キリッ
naku様 「なんだ、また種馬様か」でFAですね!
月光鳥~ティマイ~様 愛紗(清潔)の話書きましたよ!酒楼での二人?ハハハ、コヤツメ!
前原 悠様 ここだけの話、月様の容姿が冥琳クラスのボンキュッボンだったら私は抗えなかったと思います。おや、誰か来た様だ。
七夜様 お客様の中にお医者様は?!
ちきゅさん様 もうなんか平和ならそれで良いんじゃないかなって思い出しました。
牛乳魔人様 平和(一部)って、素晴らしい
観珪様 圧制(精神的)スキルとか持ってますよきっと。 愛紗&思春「じ……おも?」
D8様 一刀の嫁として、至極一般的な要求ですよ。
平野水様 愛紗「プレイなら主変えてもノーカン」思春「いや全くその通り」
朱月 ケイワ様 一刀「何時から俺がヤラれてばかりだと錯覚していた?」
悠なるかな様 コメディは相変わらず苦手ですけど頑張りました!!
帽子屋様 その内hujisai様に書きあがったテキストを送ろうと思いましたが、調子に乗りすぎなのでやめました。
チマ様 マジレスすると風ちゃんはかなーり詠ちゃんの待遇に納得いってない、と以前の一触即発事件から妄想しました。
MiTi様 追い込まれた美人って怖いですねw
happy envrem様 今回がんばりました!可愛いかどうかはさておいて!
叡渡様 思春の要求なんて可愛いものだと思うんですよjk
呂兵衛様 大陸の平和と一刀の心労、どちらが大切かは分かるな?(但し仲達は除く)
SRX-001様 愛紗は逝っちまったのさ……
Alice.Magic様 味を占めてどんどん年齢遡って璃々様と決闘ですね!わかります!
shirou様 私もそう思ってちょっとしたネタで書いただけだったんですけどね……
メガネオオカミ様 お薬だしときますねーw つ【思春の妄想シリーズ】
アルヤ様 ナゼナンダロウナー検討モツカナイナー
Tweet |
|
|
48
|
8
|
追加するフォルダを選択
諸葛亮VS司馬懿っぽい話です。ゴングと同時に勝負つきそうですが。
8/11誤字修正。ご指摘ありがとうございます。まだあったら恥ずかしい。