No.606570 恋姫無双 決別と誓い 二十八話コックさん 2013-08-08 12:07:12 投稿 / 全12ページ 総閲覧数:2705 閲覧ユーザー数:2393 |
「報告します!籠城している呉軍は今だに士気は高く、此方に降伏するようには見えません!ただ避難民を保護しているらしく表だっての戦闘は未だにありませんが・・・・・」
「そうですか~。では攻撃に転じるのは敵軍が横からチョッカイを出してきた時だけですか~」
「攻撃するときと守る時と区別をつけるところはさすがですね・・・・」
と軍師二人が報告を聞いて作戦を練り直しを余儀なくされていた。一人は頭に変な人形を乗っけたのんびりした言動の女と一人は対照的でキビキビと無駄がない動きを見せており、かけているメガネがその印象を一層際立たせている。
その二人を取り囲む形で魏の将兵たちが机に広げられた地図の一点を睨んでいた。
「呉の重要拠点やから見捨てへんとは思っとたけど、まさかこんなチンケな方法でくるとは考えてなかったわ。将が相当ひねくれとるはずや。しかもうちらの部隊の長を狙ってるって話やん?」
将兵であるひとりの女は何処か気に入らないのかケッと唾を地面に吐き捨てていた。
恐らく正々堂々と真正面から戦わないところが気に食わないらしい。
「え、ええ。しかもかなりの手練だと。十手も受けないうちに我々の兵が殺されていくと聞きます。敵部隊の練度もそうですがその相手もかなりの実力なのかと。森に隠れると何処にいるのかを見つけるのは難しく、偵察、哨戒部隊にはかなりの驚異であると」
と傷だらけの体を頑丈そうな鎧が隠すように覆っている少女が口を開くがその雰囲気は重々しい。
「要塞の城壁の破壊工作なのですが螺旋では破壊できないのですか・・・?」
とメガネをかけた女が言うとゴーグルをつけたいかにも機械いじりが得意そうな少女に聞いてみるが、
「あかんわ。あの城壁は固くてうちの螺旋では破壊できひん。投石器があればいけるかもしれんけどな」
「城壁がいくつも重なっていて突破するどころか迷っちゃうか心配なの~」
とこの重苦しい雰囲気に場違いなイマドキな服装をした少女が続けて進言する。
「このままほっておいても蚊が血を吸いにくるようなもんやけど、うちの部下たちを、特に部隊長ばかりを殺していくのは気に入らんわ。風、うちが出てあいつらを叩くってのはどうや?」
「ん~。それはおすすめできませんねぇ」
「なんでや?敵は少ない部隊で奇襲をかけてんのやろ?そうなれば数にモノを言わせてぶっ叩いたらええやん?」
「まぁまぁ、姉ちゃん熱くなんなよぉ。答えはメガネのお姉さんがいってくれるからよ~」
と目を細めて飴を舐める少女の頭の上にある奇妙な人形が受け答えをするとその人形に突っ込むことなく言われたとおりに張遼に説明する。
「確かにそうした方が早いかもしれませんが、それが敵の狙いだとしたら?」
「「敵の狙い?」」
「はい。恐らく敵は強襲を掛け続けることで我々を焦らして標的目標を自分たちに向けさせようと考えているはずです。言うまでもなく我々が攻めているのは食料等を貯蔵している重要な拠点のはず。
そうであるなら物資だけでも外に持って撤退したいと考えるはずです。さらに呉は水軍を持っていますので・・・・」
とメガネをかけた女、郭嘉は新しく黒石を地図の外側つまり海に置く。
「水軍と連携して海上輸送すると我々は踏んでいます。ですので迂闊に討伐部隊を出せば、脱出させてしまいます」
「つまり我慢比べというわけですよ~」
「逃げ遅れた避難民を保護しながら戦うのは至難の業やさかいに、敵が何か行動を起こした時がうちらが反撃に転ずるときってわけやな?」
「そうゆうことです」
とまとめるように郭嘉がメガネをクイッと持ち上げる。
怒りを顕にする張遼はやはり釈然としない。
部隊長ばかりを狙い、武人としてかなり外道極まりないこの敵部隊の大将をこのまま好き勝手にやらせておけば自分の武人としての誇りを傷つけることにもつながるからだ。
名前を名乗らず時には自分を囮に仲間が狙撃するなど武人としてあるまじき戦闘方法は董卓連合戦での春蘭と戦っていたあの頃を思い出す。
最高の武人には最高の敬意を払って相反するのが張遼のスタンスであり、それを邪魔されるのを良しとしないのが彼女であった。
だから戦う時は1対1の勝負。
邪魔することは自分の実力を信じていない、相手を侮辱するというという隠れたメッセージなので彼女は部下にそれをやらせないし、部下もわかっているのでそれをしようとはしない。
だが敵の強襲部隊の長はそんなこと関係ないとせせら嗤うかの如く状況に応じて戦い方を使い分けていくと聞いている。
「たく。ホンマにいけ好かんやっちゃ。そやけど・・・、この借りは必ず返したる・・・・!覚えてきや。敵部隊の大将」
と苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめて呟く。
彼女は必ず部下の仇をとってやるという使命に燃えていたのであった。
張遼が天幕を出てもイライラは収まらず、舌打ちをする。
(あかん。イラついてるわ。こうゆう時はさっさと寝たほうがええな)
いつもは戦のあとは酒を部下たちと飲み、労うのが彼女の習慣だったが、今回は酒を飲んでも悪酔するだけだろう。
そうゆうときは切り替える意味でもさっさと寝てしまったほうがいい。直ぐには確かに切り替えられないが何時までもウジウジしていても意味がないからだ。
張遼が自分の天幕に向かおうとすると直ぐに傷だらけの体を鎧で覆った少女、凪(なぎ)が後を追いかけてくる。
「ん?どうかしたん?」
「いえ。軍議では言わなかったんですが生還した兵士たちの話はまだあるんです」
と深刻そうな表情で告白する彼女に張遼は若干身を強ばらせる。
「・・・・・・どしたん?ええよ。うちは口硬いし」
と言葉少なめに話すと、
「実は敵部隊は三隊に分かれての時間差攻撃ですが、その長が天の御使いであると・・・」
「・・・・んな、あほな。董卓連合、孫策がいた頃は兵士じゃなかったはずやで」
「ですが敵部隊の者が呼ぶときに
『北郷』
と言っていたそうです。信ぴょう性は高いかと」
董卓連合の際に彼の相貌をみたがとても人を殺すようには見えなかった。
むしろ戦いを見ていて顔を青ざめ、吐き気を催していたぐらいだったからそもそも戦うことすらできないと張遼は思っていた。
それがなんと張遼をイラつかせる張本人であるとは誰が予想しようか?
ただ呉ではここ最近御使いを見ることはなく、消息不明であった。
これにより御使いという傀儡をやめ戦場に身を投じたんだとすればこの消息不明にも説明はつく。
(孫策が死んだからか・・・?復讐っちゅーわけかい)
孫策を暗殺した魏を恨んでいるのなら、このような行いはなるほど納得がいく。
だがあの部隊を完全に統率していることからもうあのような優男ではないはず。
むしろあのような統率ができるなら張遼と同程度かそれ以上の実力を誇っていると考えてもいいだろう。
臨機応変で作戦を柔軟に変え、それを完全に体現できる用兵術。
まるで死んだ江東の小覇王という異名を持っていた孫策の移り変わりなのではとさえ思えてくる。
「しっかし、たったの五~六年でそこまでようやるわ・・・。ったく孫策が死んでからうちらにはロクなことがあらへんわ」
「それほど彼女の存在が大きかったのが今この戦いを通じて伝わってきます・・・。孫策は死して尚我々の前に立ちはだかる・・・。私にはこの戦いがそう思えてなりません」
「・・・・・・・冗談で言ったかもしれんけどな、凪。その台詞は全然笑えんわ」
と口調はおどける様ないつもの張遼だったが普段は凪には見せないしかめっ面を見せてたあと休もうと踵を返した。
「報告します。呉が魏と王朝の連合軍に開戦を決断!!現在赤壁を目指し進軍中」
私はこの報告を聞いても別段驚いていない。周りを見ても同じでやはりなといった感じだ。
「じゃあ雛里ちゃん、私たちも出よう?」
「あわわ・・・。は、はい。本体は呉と赤壁で合流するようにしましゅ・・・」
と相変わらずおどおどとしてはいるが彼女はそれが自分の頭がうまく働いている証拠だと言っていた。
仕草とうって変わって目は軍師特有の鋭い目つきがそれを物語っている。
ここで朱里ちゃんがいてくれたらと思わずにはいられない。
これから戦う巨大な強敵に参謀の責任者、戦の命運が雛里ちゃんにのしかかるのはよろしくない。
どうする?今から朱里ちゃんを呼び戻すか?
でもそれでは時間がかかりすぎる。
ここは音々音ちゃんと詠ちゃんを使っていくか?
だけど音々音ちゃんは恋ちゃんの専属の軍師で彼女と恋ちゃんの二人でないと恋ちゃんが上手く立ち回れない。
それに留守にする政府のこともあるし・・・・。
と出来ない頭を最大限に働かせるが妙案が生まれてこない。
がしかし、結局は簡単かつ明瞭な答えしか思い浮かばない。
私は愛紗ちゃん、鈴々ちゃんをチラリと見遣ると強い眼差しで頷いてくれた。
この二人は、桃園の誓いを結んだ二人にはお見通しだったようだ。
「愛紗ちゃんと鈴々ちゃん、翆ちゃん、星ちゃん、そして紫苑さんを中心に軍を組織して先遣隊を派遣。
急いで呉の北面方面軍と連携をとって防御を固めて。
それと同時に赤壁で呉の本隊と合流を目指して」
「「御意」」
「桃香殿。恋殿はどうするのです?」
と音々音ちゃんが聞いてくる自分たちが呼ばれていないことを聞いているのだろう。
私の代わりに雛里ちゃんが説明してくれた。
「恋さんは紫苑さんと部隊を統合してください。今回は恋さんを独自で行動させるよりはそれを支えながら部隊を展開させたほうがいいと思いますから」
「ん・・・・」
と納得したようにこくんとゆっくりと首を縦に揺らし、音々音ちゃんも彼女にならってうんうんと頷く。
「馬岱ちゃんと
「ちょっと待てよ桃香。桃香はどうすんだよ?」
と慌てた様子で質問を呼びかける。
「ごめん。私はちょっとやらなきゃいけないことがあるの・・・・。直ぐに戻るから」
「お、おい。そんなこんな緊急時に・・・・」
と翆ちゃんが言ったのを星ちゃんが右手をサッと翆ちゃんの前に上げて、
「翆、主は今この非常時だからこそこうした行為をするのだろう。察してやれ。主よ、私の部隊の兵を幾分か出しましょう」
「・・・・ありがとう。星ちゃん」
「なに。礼はいりませぬ。私自身もいまこの瞬間貴方と共に戦えることを誇りに感じておりますゆえ」
「・・・・星がそこまで言うなら私も止めないけどさ・・・・」
と星の真剣な顔つきに事態を理解したらしく渋々了承してくれた。
「桃香様、どうか気をつけて・・・・。この関雲長、例え手足をもがれても戦う心得です!」
「鈴々にはよくわからないけど、お姉ちゃんを応援するのだ!」
「私たちにお任せ下さい桃香様」
と五人皆が私に行けと言ってくれている。こんな私に、今迄王として何一つしてやれなかったのにこうして未だに私を、この国を信じていることに目頭が熱くなる。
泣いてはだめだ。
もう泣かないと決めたのだ。
だから・・・・。
「うん・・・。行ってくるね・・・」
鼻がツーンとして視界がグニャグニャにねじれ、前が見えないがそれでも無理やり笑顔にして送り出してくれる家臣たちに精一杯の誠意を見せるべく応じる。
さぁ行こう。
そして立ち上がれ。劉玄徳。
今こそ王の仕事の時だ。
そう心で自分を叱りつけ、両頬を手で叩いて引き締めて成都をあとにした。
現在も敵の攻撃は続いてはいるが夜になると収まってくる。流石に兵士も四六時中戦争やってる訳はない。
夜俺は単独で友軍が死守している要塞に入る。
やはりこの要塞も魯粛が設計したような何十もの城壁を設けてという守備にかなり特化したものだが、すぐ味方とのコンタクトには成功した。
そして中に入り天幕に入ると疲れきった表情だが目つきは鋭いという戦士独特の顔つきをした司令官と話をする。
劉備軍も恐らく救援にはくるが数はあまり期待できない。だが司令官はまだ自分たちが捨て駒にされていないことに感謝と感激をしていたようだった。
「俺たちはちょくちょく牽制はしてるがまだ魏には動きはありません。恐らくこちらの考えを読んでいるのでしょう」
「ええ。では・・・・」
と司令官が人払いをして改めて
「ここには魏の間諜がいます。さっき人払いをしたのもそのせいです」
「やはりそうですか。ここが重要な拠点だと魏に分かっていたのは・・・・」
「はい。ですがそれを逆手にとってみましょう」
とにやりと司令官がいうと説明を続ける。
「今ここに避難民がいるのは北郷殿もお分かりになっていると思う」
「ああ。まぁ少ないが逃げ遅れた避難民がいるようですが・・・」
だが孫権が発した厳戒態勢に抜かりはなく、戦場になると思われる地域すべてに退去命令が出ている。
その動きは徹底されており逃げ遅れるということは有り得ないはず。
(もしや・・・・)
目の前にいる司令官の考えていることはわかるが、そのためには駒が足りない。
「さすがは北郷殿。どうやら私の考えていることが分かったようで」
「ええ。ですがそのための詰めの部分が甘いかと・・・・」
「確かに仰るとおりです。我々がひと芝居うっても敵は何も変わらない。ましてやここにある物資を持って撤退は厳しいでしょう」
と言うと立ち上がり付いてきてくださいと言って天幕から出る。
そして暫く歩くと要塞内で全く人気のない場所へと。
「ここは昔袁術が孫堅様の権限を吸収する形でここを使用してました。といっても今ほどこんな大規模なものではなかったのですが・・・。そのあと孫策様の決起の成功のために孫策様を支持する豪族が密かに作った坑道があります」
「そんな話聞いたことがないですが・・・」
「私もここの司令となって初めて知りました。恐らく呉の最高責任者の者ぐらいでしか知らないかと」
あの頃の雪蓮も冥琳にもそんなことは一言も話さなかった。
ただあれだけの大量の兵士を潜ませるのにはかなり厳しいと考えてはいたがそうゆうわけか。
それだけレジスタンスを支援する坑道が機密扱いとなっていたのだろう。
(もしかしてこの作戦を許可した黄蓋はこのことを見通して・・・)
とふと上官である黄蓋を思い出す。彼女ならこの坑道の存在を知っているのだから合点がいく。
なんにも考えてなさそうで合理的に考えている彼女はやはり宿将と呼ばれるだけある。
「でその坑道は今でも使用できるのですか?」
「はい。物資と逃走はここを使います」
「この坑道はどこまで続いていますか?」
「部下に調べさせたところ、沿岸部に続く道にたどり着くと聞いてます。恐らく決起した者たちは海から坑道を利用してここを強襲したようです」
「となると周泰二佐がいるところへの合流は可能ですね」
と聞くと司令官は自信アリげに強く頷いて俺が予想していた作戦を話し始めた。
「はい。これから負傷した兵士たちを集めてここを使って撤退させます。そのあと魏に休戦を持ちかけて時間を稼いでいる間に我々は必要物資を運びここは完全に放棄します」
「ではやはり避難民は・・・・」
「はい。呉の間諜たちですが休戦に相手は乗ってくるかが問題です・・・」
と司令官は顔を僅かに曇らす。確かに戦争状態なのにいきなりある地域だけを休戦させるのは前代未聞だ。
「いえ。恐らく奴らはのってくるでしょう。我々の部隊が横からちょっかいをかけましたが、俺は彼らの敵将ばかりを倒しています。そろそろ奴らも頭に血がのぼってくる頃合です」
「つまり貴方方を討伐するために私たちに対する攻撃を一旦止め、戦力を振り分けると?」
「はい。張遼は部下を重んじる性格ですので、俺をなんとしてでもと考えているはずです。それに張遼は戦況を客観的にみて行軍できますが、自分のこととなるとどっこい、他の魏の武将と同じです」
と小馬鹿にするように頭をコンコンと叩いてみせる。
「ですが魏の増援の可能性というのも・・・」
「問題ありません。その点については北面方面軍が今大規模な攻撃をしていますので、まず確率は低いかと」
と実は黄蓋は巨大戦力である魏とは個別で戦うのを諦め、撤退し部隊を終結させて敵の戦端を伸ばそうと考えていた。そのためには持久戦になるため必要な物資は極力無くしたくない。
黄蓋は直々に前に出て大規模な攻防戦を繰り広げることで注意を引きつけ撤退をさせている。
黄蓋は秘密扱いとなっている坑道を知っているため北面方面軍の撤退は容易だという結論に至っているようだった
さらに大将が直々に出ればその効果は倍増される。
これは俺もつい最近聞いた話だったが、黄蓋は恐らく大本営にいる冥琳にもその作戦の旨を伝えているらしく、決戦は赤壁と決まったらしく全戦力を赤壁に集結させるべく部隊を集結させているようだった。
つまりこれから俺たちは一応の天下分け目の戦い、ターニングポイントでもある赤壁の戦いに身を投じることとなるのだろう。
おれが言うと司令官はしばらく唸っていたが決心がついたように頷いた。
「ほかに道はないですな。それでは我々は交渉に入りますので北郷さんもくれぐれも慎重に」
「ええ。では私は・・・・」
と話している途中に小刀を暗闇に無造作に投げるとドスっと鈍い音がすぐさま帰ってきた。
投げた方向に行くと暗闇に足に投げた小刀が刺さったひとりの男が、
「こいつと少し話をしてきます」
と言うと同時に顔面に強烈なパンチを食らわせ気絶させる。
「そうですか。対処につきましては北郷さんに任せます」
「感謝します。では・・・」
気絶した男を肩に担いで、もといた天幕へと向かっていった。
----劉備が出立する一ヶ月前-----
呉で一からの出発となってから早三年近く。
終了の期限が迫る中私たちは今魯粛さんが総督する山越にいた。
『久しぶりです魯粛さん』
『おう。来たか。で?こんな田舎に何の用だ?』
『魯粛様・・・・、その態度は・・・・』
私たちの歓待ということで来ているこの彼は全くこちらを歓迎しているようには見えず、それを隣にいる副官に嗜まれる。
『こんな形では私は一体どうして周瑜様方に報告できましょうか?』
と副官が言うと魯粛さんは軽く舌打ちをする。どうやら冥琳さんには頭は上がらないのは相変わらずらしい。
『っち。わかってるよ、ったく。それよりどうしてここに貴方が来たのですか?もう嫌というほど自分を磨いたと聞いていますが?』
とどこか皮肉めいた口調で話し掛けてくる。がその響きは以前、蜀でのあの頃よりも軽い気がする。
『はい。確かにそうですが、最後はここにしようと私自身決めてましたので・・・・』
『・・・・そうか』
と言うとそれっきり追求はしてこなかったが、ふと思いついたようにこちらの顔をじっと見て、少し俯いて溜息をつくと
『それはなにより・・・・』
とどうでもいい感じで応対した。
『俺はお前さんたちに何も教えてはやれないぞ?
それにひょっとしたら江東の飯よりもここは上手くはないし、寝心地だって悪い。
それでもいいのか?』
『はい!もともと私たちは旅行しにこの地に来たのでありません。だから覚悟は出来ています』
『お前さんが蜀を出ていく時に・・・・か?』
『はい』
と言うと後ろにいた有志たちも深く頷く。
そうだ。私たちは後戻りできない。変わると、変えてみせると覚悟した時から。
貴方に偽善者と罵られたあの時から私は覚悟できていたのだ。
そうして私と魯粛さんはしばらく視線を交わしあうと、根負けしたかのように小さく笑う。
『くくく・・・・。そうでなきゃな、孔明さん。それでなきゃ張り合いがない・・・・。
今のお前さんはいい目をしてる・・・・。軍師はそうでなくちゃな!!』
とうとう耐えられなくなったのか大きく腹を二つに折って笑い出した。
魯粛さんの行動を副官は、
『申し訳ありません・・・。彼は夜寝てないので少々気分がおかしくなっているものでして・・・・』
と言うと、そこ、うるさいと魯粛さんが黙らせる。
『よ~しよしよし、一生懸命やる有志たちを門前払いするほど俺も酔狂ではないさ。よろしく朱里。君たちを改めて歓迎する』
と一礼をして私のことを真名で呼び笑顔を向ける。今までの確執が壁がなくなった瞬間でもあった。
『はい。短いあいだですがよろしくお願いします』
と言ってこちらも頭を下げた。
それからは魯粛さんが率先し、私たちを色々な現場を見せ、連れて行ってくれた。
『彼は何だかんだ言っても貴方を支援するつもりだったのでしょうね。そうじゃなきゃ貴方方が来ると言ったら間違いなくここに来るなと拒否するでしょうしね』
『そうだったんですか・・・・。まぁ魯粛さんらしいといえばらしいですが・・・・』
『それ故味方も多いですが、同じくらいに忌避者もいます。まったく・・・・、私に架かる負担を考えて欲しいものです・・・・』
と副官が行っていた通りで村民の長やその住民との触れ合いや遅くまで白熱する議論にも魯粛さんは嫌な顔一つせず参加していた。
また言葉が通じない村民には魯粛さんを通して話が行われたりと通訳をしてくれることに大きく助けられた。
自分も忙しいはずなのに可能な限り時間を作り真剣にこちらと向き合ってくれる姿勢に私たちは頭が上がらないといった感じだ。
そうして一ヶ月が過ぎた。
「開戦決定か・・・・。蓮華はやはり枠に収まるヤツじゃなかったらしいな。雪蓮」
俺は報告を聞いてむしろ驚きよりも納得といった感じで椅子の深く腰掛けた。
「姉の劣等感関係なしでこの決断とは・・・・。さすがといったところかな?」
あとは冥琳、お前の仕事だなと小さく呟くと慌ただしく副官が入ってくる。
「なんだ?」
「い、いや、その・・・・・、劉備様が此方に来たことを報告に・・・・・・」
「はぁ?!劉備が?成都からここまでどれだけあると・・・・、お忍びの旅行というわけではないよな」
「はい。護衛の兵士とこちらに来たようです。ただ体力を大きく消耗してますので当分は療養はやむを得ないかと・・・・」
「会話はできるか?」
実際成都からここまでは軽く三ヶ月以上かかるはず。それをあの首脳会談からしばらく経ってないことを考えたら有り得ない速度で此方にきたことがわかる。
兵士もそうだが休みもなしでここまで馬で飛ばしてきたのだろう。
衰弱はかなりのものだというのは想像に容易い。
「いえ。まともに会話ができる状況では・・・・」
「そうか。では回復してきたら事情を聞いてだな・・・・。ん?待てよ。劉備が来たのなら他の軍将も来ているはずだが?」
国の頂点にたつ者を護衛するのに軍将ひとり連れて行かないはずがない。首脳会談でも趙雲や関羽といった名ある軍将が護衛の責任者ということでついて行ってる。
「いえ、護衛兵のみです。兵士から聞く限りでは本隊は呉を支援するべく赤壁、北へと進軍していると」
「なんと・・・・」
となるとここに来る理由は孔明、朱里が目当てというわけだ。
軍師が不足している中、呉で留学している朱里の力は必要不可欠というわけか・・・・。
だからといって彼女本人がわざわざこんな僻地に赴くなんて・・・・。
一体なにが彼女をこうさせたのか?という疑問がどうしても頭から離れない。
「とにかく回復が進んだら俺が話を聞く。それまで丁寧な対応をするように」
「はい」
副官が慌ただしく戻っていくのを見送りながら、先ほど眺めていた景色をまた一瞥する。
「ということだ。これから俺たちがどうなっていくかをそこで期待して見ててくれよ」
とまた一人、ぼそりと呟いたが俺の顔に悲壮感はなくむしろこれから起こるであろう波乱を楽しみにしている自分がいる。
蓮華が歴史を変えるか、それとも旧体制を望む曹操がそれをねじ伏せるか。
俺自身あの頃、雪蓮が死んだ時のような無力感も感じなくなっている自分に少し驚く。
彼女に何もしてやれなかったという思いが今迄俺を突き動かしていたというのに。
それもこれもあの男のせいか・・・・。
彼とともに過ごした時間はあまりないが彼がいるなら大丈夫だという確信が何故かあった。
アイツなら俺ができない、できなかったことをやり遂げてくれるはず、・・・と。
『少し骨のある奴がいてね・・・。名前は北郷っていうんだけど・・・・・』
と雪蓮が言ってはいたがここまで来るとはあの世で彼女も驚いているのではないだろうかと思うと可笑しくて、周りの者に解らないよう口端を僅かに上げて笑うのだった。
周りは騒がしくて慌ただしい。
それに魯粛さんは顔をみせないことから何かあったのではと通りすがった人に聞いては見たが、
『魯粛准将は今手が離せないとのことですので、孔明殿たちで独自にやってくれて構わないとのことです』
『何かあったのですか?』
と聞くと何処か申し訳なさそうな顔をして、
『申し訳ありません。貴方に知る資格はないため教えられません・・・・。時間が来たらわかると思いますので心配はありませんよ』
と頭を下げ仕事に戻っていってしまった。この慌てっぷりは恐らく呉で何かあった、もしくは蜀などの同盟国に何かあったのでは?
という推測がなされるが資格がないと言われたらコチラもどうしようもない。
というわけで今に至り私たちは山越での経済活動の支援政策に重点をおいて資料や経済の循環をよくするための経済政策についての議論をしていると・・・・。
「途中申し訳ありません孔明殿は?」
「はい?」
と魯粛さんの副官が出てきた。ここ二週間弱、魯粛さんが来なくなった時期と重なるわけだが、来ていない。
顔色は悪く憔悴しきった感じであるがそんなこといちいち指摘するほど私たちは無粋ではない。
「何の報告もなしでバタバタしていたのですがようやく処理できましたので我々と一緒に来ていただけませんか?」
「・・・・・分かりました」
そして別室へと移動して暫く待つと魯粛さんが入ってきた。
「申し訳ない。待たしたようだな」
「いえ、気になさらないでください」
「感謝する。さて本題なんだが、朱里、俺たちがここ最近バタバタしていたのは知っているよな?」
「はい」
「実はお前さんたちの国の要人がここに来てな。かなり衰弱していたため看病やそれに伴う情報の規制で話すことができなかったんだ」
「その要人とはなんでしょうか?」
「劉備様だ」
「え?!」
信じられないまさか桃香様が直接ここに・・・?それに衰弱していたというのが気になり主君の安否が気になり胸がザワザワと不快に騒ぐ。
「その・・・と、桃香様がどうして・・・・、それに容態の方は?!」
「成都からここまで休みなくここに来たらしい。体力の消耗が激しくてまともに話ができる状況ではなかったが他に怪我等はなく問題はない」
「そうですか・・・・」
と強ばった体が糸の切れた人形のように力なく座る。しかしどうしてここにという疑念が消えない。
(やはり私たちが・・・・・)
とすぐに混乱からとけた頭が明確に答えをだす。実は呉にいた時も桃香様は私のところに寄ってきたことがある。
戻ってきて欲しい。自分も初心にかえって一からやり直すからと。
だが私はまだまだ学び足りないとひどく痛感していた時期でもあり丁重に断りをいれていた。
だが本当のところは桃香様自身が表立って出ることで政治の駆け引きや過程、利益団体の利害調整などの仕事を学んで欲しいという思いがあった。
政治は腕力では勝てない。それを桃香様自身が感じ取ってくれればと。
実際桃香様がどういった状況なのかは雛里ちゃんの手紙で分かっていたし、今手助けをしても彼女のためにはならないと判断したからだ。
それに桃香様ならその苦しい状況を必ず打破できると信じていたからでもあった。
「では要件はやはり私になるのでしょうか?」
「うむ。これから起きることにお前さんの力がどうしても必要らしい・・・・」
「必要・・・・?」
「蜀、呉の連合軍と魏が戦争状態に入ったことは分かっているな?」
「そんな・・・・・・・・・・・・・」
その情報に言葉を失った。
情報が初耳であったのもある。
雛里ちゃんの手紙は来ることは来るが届いた日にちのおよそ三ヶ月ほど前のモノだし、手紙を書いたとしても間に合わないだろう。
それより驚いたのは曹操さんの行動だ。
確かに連合は対魏のための勢力であったがこうして曹操さんが仕掛けてくることに私は恐れおののいた。
天下が欲しい。自分の力を試せる場所が欲しいとでも言っているこのようだ。
「彼女がここまでしてきたということは余程力を必要としているのだろう。まず劉備様の話を取り敢えずは聞いて欲しい」
「桃香様とお話をなされたのですか?」
「ああ」
とだけいって彼はそれ以上話そうとしない。恐らくは自分で確かめろと思っているのだろう。
「分かりました。我々は帰国の準備を急ぎます。今迄ありがとうございました魯粛さん。この御恩私を含めた有志たちは決して忘れはしません」
「俺もお前さんたちといろいろやれて良かった。頭の回転が速い奴と一緒にいるとこちらも回転が速くなるし、それに他の連中らもお前さんらの真摯な姿勢に尊敬の念を抱いているようだしな。
いい刺激になったよ。ここにいる全ての者の代表として礼を言わせてもらう」
と彼は笑顔でそう言った。今迄不満顔ひとつもせず付き合ってくれた魯粛さん。
友には義と忠を尽くす。
それが呉の風情でもあり文化でもあると分かっているがここまでしてくれるとは思ってもいなかった。
私は胸に込み上げるものがあった。
「さ、劉備様のところに行け。お前さんを待っているはずだ・・・・」
「はい」
私は去り際にもう一度魯粛さんに礼をしてから桃香様が待つ部屋へと向かっていった。
それから私は急いで桃香様が休んでいる部屋へと向かう。
我が主の容態を心配する傍ら私は自分の胸が高揚していくのを自覚する。
彼女がもしかしたら・・・・。
そんな希望とも高揚ともいえぬそれでいて不快ではない心持ちで弾む息を一層弾まして走るのであった。
「朱里ちゃん・・・・・。来てくれたんだね」
部屋に入ると桃香様は顔を歪ませ、声がかすれる。自分のやったことに私が呆れてもう姿を現さないのではないか。
自分はずっとこのままなのだろうか。
そんな不安が顔に出ているのを私は職業病であるこの観察癖で悟る。
「桃香様・・・・、お体の方は?」
「う、うん。もう大丈夫・・・・。あはは・・・、私って体が丈夫なのが取り柄でしょ?お母さんに投げ飛ばされても無傷なんだから笑っちゃうよね」
と無理矢理にでもこの雰囲気を和らげようとしてくださる姿勢が痛々しかった。
がそこにはあえて触れず、核心に触れてみることにした。
「桃香様、どうして貴方がここに?今戦争状態であるのなら貴方が先頭にとっていかなければならないはず・・・」
「わかってる。頂点に立つ者が今立ちはだかる壁に立とうとしないことはね。でもね朱里ちゃん、私は思うんだ・・・。私自身が前に立つ必要があるのかなって」
「?」
「私自身朱里ちゃんがいないときにない頭で必死に考えた。王としてどうあるべきなのかを。曹操さんや孫策さんのようになろうって無謀な努力をしたこともある・・・。でもね幾ら曹操さん、孫策さん、蓮華さんが優秀な王であってもそれを、やり方を真似することは出来ても信念、価値観までは真似することはできないって気づいたんだ。
だって育ち方、環境が違うのにどうして同じことができるのかなって。
そう思ったとき私の信念、そして何故ここにいるのかを自分なりに今まで考えたんだ。私自身前に出るんじゃなくて朱里ちゃん、愛紗ちゃんのような私を支えてくれる人たちが私のように道を見失わないように支えていく。皆と力を合わせて、そして時には喧嘩をするかもしれない。そんなときに私が責任を負う。
その為に私がいるんだって、私自身が皆を支え、支えられるようになる・・・って。
当たり前のことかもしれないけど・・・・、そんな当たり前のことを私は見落としていたんだなって。ごめんね・・・・・。質問の答えにはなってないかもしれないけど。これが私の答え・・・。
馬鹿だと嘲笑う人もいるかもしれないけど、馬鹿になれるのも私の長所だと思うしね・・・・」
と最後は苦笑している桃香様を見て彼女が少しずつだが変わっていこうとしているのが見て取れた。
これからのことを考えたら本当に小さな一歩かもしれない。だが私に、そして彼女にとっても『確かな』一歩となるだろう。
私は首をゆっくりと横に振ると私自身の思いも口にした。
「そんなことはありません。自分の原点を今までの情勢、環境といった要因によっていつの間にか忘れてしまう。私もそうでした。争いのない平和な時代を夢見て邁進してきましたが自分の影響力をどう残すかということばかりに着手していたと今更ながら思います。
けれどそれに気づくのは難しいのも事実です。自分の名誉、誇り、そして今まで積み重ねてきた努力と自信がそれを支えているからです。
私自身このしがらみをなくすのに苦労しました。その為に呉、山越に行ったというのも強ち間違いではないと思います。
ですが桃香様はそんな壁を容易く乗り越えて行きました。これは物事に対して常に真正面から見ようとする桃香様だから出来たといっても良いでしょう。
どうか自分を卑下なさらないでください。
いろいろな紆余曲折があって桃香様の原点がなんなのかが分かったのなら、私はただついていくだけです。
諸葛孔明、微力ながら貴方の為に尽力します」
と改めて跪き頭を垂れた。今ならこの主の、蜀の未来を託してもいいと誓える。
そう思えた。
「・・・・・・・有難う。これからも宜しくね朱里ちゃん」
と俯き気味で何かを堪えるかのように、何かを噛み締めるかのようにハッキリと言うと笑顔を私に見せてくれる。
その目尻には微かに水滴があったがそれがなんのかが分からないハズはなかった。
そう。遅すぎるかもしれないが、それでもこれからは前を向いて歩いていける。
ここに私と同じく前を向いて戦おうとしてる人がいるのだから・・・・。
劉備と諸葛孔明のこの誓いは歴史的にかなり有名であり、今まで戻ってきて欲しいと言ってその二回ともが断られており三回目に新たに忠誠を誓ったこの出来事は
《三顧の礼》
として後に語り継がれることとなるのであった。
霞は今高揚していた。
念には念を入れて徹底的に北郷たちが潜む潜伏先を調べた。
地形、敵の撤退する際の道程を全て洗い出し敵が一番潜伏にふさわしい場所がどこなのかを霞は独自に追跡隊を組織し調査していた。
そして呉の休戦という絶妙の好機がやってきており、霞は軍師たちの反対を押し切りこうして攻撃の機会を今か今かと待ち伏せていた。
軍師たちはこの休戦には反対であった。
『私はこの休戦には賛成しかねます。以前提案したように成功法でこのまま持久戦に持ち込み敵を撃破するのが一番かと』
『風も凛ちゃんに賛成なのですよ~。ムシが良すぎる。なにかキナ臭いのです』
特にいつもは穏やかな風が珍しく真剣な表情で。
だが霞を含む武官たちの怒りは頂点に達しており魏を代表する軍師であっても手綱を持て余してしまうという深刻な自体に発展していた。
『じゃあこのまま兵士が、貴重な将兵たちが死ぬのを只々黙って見ているしかないのですか!?』
『敵の攻撃は卑劣かつ外道です。このまま奴らを泳がせたままでは死んでいった仲間に顔向けができません!!!!』
と敵強襲部隊が将兵を集中的に攻撃することで何時もは部下を抑えている上官たちがいなくなり指揮系統に支障がきたしていたこと、霞を含む武将たちはこの事を重く受け止めていたことがこのような自体を招いてしまっていた原因でもあった。
よって休戦を利用して討伐がされこととなったのである。
休戦するということはあの基地を攻撃しなければいいのであって、あの部隊を攻撃することには何ら異論がないからだ。
そして今攻撃の合図であるホラ貝が吹かれた。
部隊は意気揚々とそれでいて素早く敵が潜んでいるであろう場所を囲んだ。
がいない。いくら探しても敵が全く見当たらないのだ。霞は馬から降りて焚き火で焼かれたであろう焼き焦がれた木に手を当てる。
微かにだが温かい。時間からしておよそ三~四刻ほど経った後だろう。
敵は戦況挽回が難しいので撤退したのか?それとも陣地を移動したのか?
そうでなければあの基地にいる兵士、物資が・・・・・・。
と考えていると慌ただしく凪、真桜、沙和が走ってやってきた。
「霞様!出し抜かれました。休戦していた呉軍はもはやもぬけの殻でした」
「なんやて!!!!????」
「風たちがウチたちとは別に基地を偵察させたら、基地がやけに静かやさかいに・・・」
「進軍したら敵が一人も城壁にいないから進んだら中には誰もいなかったの~」
「物資も全てなくなっていました。あったのは運べなくなったために破棄された物資であった焼けクズと自決した兵士たちしかいませんでした。かなり重度の者は撤退ができなかったと思われます」
三人の報告に霞の血が逆流した。
怒りのあまり側の立木を殴る。
「しかしどうないして敵は逃げたんかさっぱりや」
「真桜の言う通りだ。監視は怠ってないそれなのに‐‐‐‐‐」
と不思議がる部下たちの会話など霞にはさっぱり耳に入ってはこない。
腹が煮えくり返り、血が頭から引いたり、上ったりを繰り返して思わず吐き気を催す。
握りこぶしで食い込んだ手のひらが強く握り締めるあまり白くなり、食い締める唇から微かに鉄の味が口の中に流れ込んでくる。
『お前には俺を殺せない』
と嘲笑っている気がした。うまいこと敵の手のひらで泳がされていたのが自分たちであるなんて、北郷からしたらさぞ可笑しくて滑稽に映ったことだろう。
屈辱
その二文字が彼女の頭を埋め尽くしたのと同時に優秀だった彼女を初めて打ち負かした瞬間だった。
「上等やんけ。北郷一刀ぉ・・・・。お前はウチが必ず仕留めたる。覚えときや・・・・、このままでは済まさんでぇ」
と苦々しい口調で呟くと俯きながら三人の部下に撤退という敗北宣言を下したのであった。
今回の補給基地攻撃作戦は拠点を奪うことには成功したが敵の心臓部を叩くことに失敗し、長期戦の様相を見せ始めていた。
それから魏の進軍は快調であったが、拠点は手に入れても敵の物資等は全てを奪取することはできなかった。
黄蓋が北方の戦線に見切りをつけ、会戦する前に蜀と協力し早期に撤退を完了させたのが原因とだった。
それ故連合軍に大きな打撃を与えることはできず点と線だけが確保されるという状況が続いていた。
物資を持ち素早く南方へと撤退する呉軍は戦端を伸ばし伸びきったところを叩くといった戦法を採り、密林が南へと向かうごとに多くなりそれに伴い敵の強襲も増えていく。
密林のどこから敵が来るかわからない状況に魏は神経質にならざるを得ず行軍も自ずと遅くなり、短期決戦を目論んでいた魏の首脳陣たちは大きくシナリオを加筆、修正が迫られていた。
曹操は補給線を立て直すために各拠点に補給物資をある程度充実させるように図ったが、それでも奥へと引き込まれていくに従い食料、医療品等の到着が遅れていった。
補給物資を持って出ていった留守を狙う、大人数でなく少数に組織された部隊による強襲は行軍速度を鈍化させ、補給基地にも兵力を分散させなければならなくなり、前線では思うような戦いができなくなってしまった。
さらに悪いことが続き海では呉の水軍が制海権を完全に掌握しており海上輸送が難しく、陸では足が遅い補給部隊は少数精鋭で構成された連合軍に手を焼かれていた。
それでも曹操は卓越した統率力と圧倒的な軍事力を使い粘り強く戦う連合軍相手に勝利を重ね、いよいよ建業を守る自然要塞でもある大きな河川である赤壁へとたどり着く。
ここを越せば建業はすぐそこ。
ただ敵は部隊を早期に撤退したため、損害は少なく数は多い。
聞けば呉の敵国だった山越も参戦。連合軍は蜀、呉、山越の三国となり戦力が増したという知らせもある。
それに比べ曹操軍は補給が行き届いておらず、慢性的な食糧不足と伝染病が流行したことで曹操他軍師たちにも早く戦争を終わらせなければならないと焦りが見え始めていた。
それでも赤壁に立ちはだかる水軍に打ち勝つには容易ではなく、足ふみ状態が続いていた。
というのも曹操軍は船での戦闘における練度はあまり良くなく、船酔いしながら戦うなんてのも稀ではなかった。
そんな状態ではまともに戦うことは難しく、また船の構造が違うのか連合軍、特に呉に関しては艦船の速度はどの軍よりも早く素早く、高い機動性を持っていたこともありやはり苦戦が続いていた。
間諜の情報を活かして船を鎖でつなぐことで揺れを軽減させるなど改良を施すも戦況は硬直状態が続く。
そんななか、曹操の耳にこの戦況を打開できる情報を耳にしたのである。
呉の参謀本部という軍の組織のトップに立つ周瑜が宿将である黄蓋を更迭、蟄居処分としたのである。
原因は上官に対する反抗罪、縁が最も深いであろうはずの孫権に対し批判を繰り返したことによる不敬罪によるものだということだった。
連合軍も我々と同じくかなり切羽詰った状況であるのではないか?
そう思わせるほど呉のトップが行った処分がスキャンダラスなものであったことから、魏の参謀たちの顔色が次第に良くなっていった。
だがこのなかで歴史上の大きな分岐点に立たされていると自覚することはいくら聡明かつ有能な曹操でも難しいことだった。
未来から来た御使い北郷一刀を除いて・・・・。
どうも皆さんおはこんばんにちわ。コックです。
結構行き当たりバッタリな部分がありましたがどうか目をつぶってくれたらと・・・・。
今回書いた戦い方は日中戦争の中国、ナポレオンがロシアに攻め入ったときのモスクワをモデルに書いています。
呉は蜀、山越とこの世界では同盟を結んでいます。
よって南下する相手を引き込めるのが戦いやすいだろうし、魏の支援者があまりいい顔をしていない
という設定なので長期戦に持ち込むことが連合国軍(山越、蜀、呉)の狙いでもありますので・・・・・。
今回挙げたモデルなら十分だろうという結論に至りました。
次は赤壁の戦いですね。
この分だとあっさり終わるのではないかと・・・・。ただ張遼の因縁ですが決着はつけさしたいと思います。
ただあのガチホモさんが出てきますのでね。どうなるかはちょっとまだわからないですが・・・・・。
戦争が冥琳と一刀はどうなるのか?
それも楽しみにしていただけたらと思います。
え?今回はあとがきがマトモだって?
何言ってるんですか!いつも私は真面目ですよ(棒)
二次創作でキャラを崩壊させすぎたせいで、自分も性格崩壊をしてしまったのかもしれませんね♪(白目)
ではまた再見!!
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お待たせしました。
終局まであと少しとなりました。
ついでに今回は関西弁を使うキャラが出てきますが、自分は同じ関西弁でも京都弁ぽっいニュアンスになっています。
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