No.581738 恋姫無双 決別と誓い ~二十七話~コックさん 2013-05-30 23:22:17 投稿 / 全12ページ 総閲覧数:1979 閲覧ユーザー数:1792 |
ひたすら歩く。
何の目的もなくただ先の見えない暗闇を歩き続ける。
それはまるで自分の人生を暗示してるかのように。
この先待ち受けているものが何もないと予言しているかのように。
それでも俺は歩き続ける。
そう、いつもの夢だ。
しばらくしたら死人が俺を闇に引きずり込む。
夢だ。
だがいつもの夢とは違った。歩く先に一筋の光が・・・・。
それにたどり着き光に触れると、何もない景色が一掃され見たこともない空間が俺を包んだ。
例えるなら宇宙。
何もないの空間を小さな光を中心に惑星のような幾重もの丸い球体が漂っている。
『うふふ~ん。元気そうねぇご主人様』
と何処からか猫なで男の声が・・・・。
『ごめんなさいねぇ。まだ終わってないから姿を見せられなくて~ん。今は元気でやってるかを直にチェックしに来たと思ってくれたらいいわぁ~ん』
「今は・・・・?」
男の言葉が気になる。
今は・・・・と。ということは俺はこいつと何度もあっているということか?
しかしその肝心の記憶が思い出せない。
まるでそこの部分を消しゴムや修正液で消されたかのように、すっぽりと抜け落ちている。
だが頭の隅では
この男のことを知っている
と囁いている。それがなおさら混乱を引き起こさせる。
(どうゆうことだ?俺はこいつを知っているとでも・・・・)
ぼやけていた記憶を何とかして復元しようと試みるが上手くいかない。
『混乱しているようねぇ。でもこの外史ももうすぐ終わる。その時にでもお話しましょう』
「どういう意味だ!?」
しかし男はそれには回答せずに辺りはまた暗闇が支配する。
(外史・・・?終わる・・・・どうゆうことだ?)
男が言った言葉が頭に絡みつき不愉快だがいつまでも答えが出ないこの疑問に俺は暗闇の中呻き声を上げるしかなかった。
その光は俺の質問に答えることはせず、俺から逃げるように姿を消し、再び闇が支配する。
この世界は一体・・・・?
だが俺にはあいつの言ってることの半分もこのときは理解できず苛立ちをぶつけるかのように地面を強く蹴ることぐらいしかできなかった。
「はっ?!」
目が覚めるとそこは見慣れない天井。自分が住んでいる長屋は天井がこんなにも離れてはいない・・・。それにいつもは寝るときこんなしっかりとした寝具ではない。
「ああ、そうか。ここは冥琳の・・・・」
ぼやけていた記憶が定かになっていくにつれ、先ほど見ていた夢が入れ替わりのように霞んでいく。
周りを見渡すと空になった瓶が乱雑に置かれ、二人しか居ないのにまるで宴会でもあったかのようだ。
冥琳が落ち着いたあとは二人で飲み、それで・・・・。
今に至ると・・・・。
俺の隣りには静かに寝息を立てている彼女の姿が、いつもは結んでいる恍惚とした黒髪が今は解放されており、かるたでみる小野小町なんかもこんな感じだったのかなというどうでもいい感嘆に浸っていたら、彼女は体勢を変えて向こう側を向いていた顔をこちらへと移した。
いつもこの顔を見ると恐れてしまう自分がいる。
そう。あまりにも完璧すぎるゆえ恐れ多いといった感じか。
凡人を受け付けないとでもいうのか、そういった躊躇を感じてしまうらしい。
「さすが美周朗と呼ばれていたことはあるかな・・・」
と小さく呟く。
周公瑾は端正な顔立ちと音楽や文学をこよなく愛したこと文化人でもあったことから美周朗と、つまり日本で言う光源氏のような扱いであったと聞く。
周瑜は楽器を引いていた人を、
『そこは音が違うぞ』
と音を聞いただけで間違いに指摘したのはあまりにも有名な話だ。
それは彼女を見ていても当てはまる。
政治、経済でもあまり日の当たらない文化や芸術を内務卿の冥琳は保護しているらしい。
これはかなり珍しく、
政治家が当時削るところは文化からだった。
そんなものに金を時間をかけても何もならないという考えから来ているのだろう。
日本でも太平洋戦争の学徒出陣でも最初に徴兵猶予を外されたのは美術大学や文学部といった文化人からだった。
文化を育成しても何ら国策に好影響を与えないという見解からだ。
それは世界史でも言えるところでイタリアのフェレンツェ、ギリシアにあった貴重な文化財を価値観もわからず破壊の限りを尽くしたのは見逃せない。
まぁあれは戦争という混乱状態であったことが最大の要因なのだが今と昔では文化の保護にはかなりの温度差があるのは確かだ。
脱線したが冥琳は歴史的に見れば極めて珍しい政策をとっているようだった。
現に雪蓮が文学をまず弾圧の対象にいれようとしてもそれに待ったをかけてたのは冥琳だった。
言論を弾圧したら、様々な有効な意見が消失しそれこそ本末転倒だと。
そうゆう意味では進んだ感性の持ち主なんだと思う。
ただこういった政策が評価されるのはあと何百年もあとのことになるのだが・・・・。
「どうした?急に」
と人を決して不快にさせない、落ち着きのあるアルト調の声が横から。
どうやら起こしてしまったらしい。
「いや、なんでもない・・・・」
先ほど見た不気味なモノが頭に過る。それはネットリと絡みついて不快極まりないがどういった内容かさえわからない。
(別に夢なんだし、ガキでもあるまいし・・・・な)
「そうか・・・・?」
そう言って出来うる限り優しく頭を撫でる。
冥琳は少し恥ずかしさと嬉しさが混じったような顔をしたがやめろとは言わず身を任せていた。
こんな平和が続けばいいなと思うが近いうちまた大規模な戦乱がやってくることは確実。
そうなったらたくさんの死人がまた出る。
今迄お世話になった人々が少しでも安全に暮らせられるようにという決心と覚悟をして平和という束の間の休息を噛み締めるように再び瞼を閉じていった。
それから俺は黄蓋将軍率いる部隊に入り、北面方面軍へ合流を果たすために北へと向かった。
北へ北へと向かうこと暫く。
俺たちは北面方面軍の参謀たちがいる前線基地へと到着した。
「ようこそおいでくださいました。将軍」
と笑顔で司令官が歓迎してくれる。今は一人でも多く人手が欲しい。そう言った意味で大本営が直属の部隊を寄越したことに彼らもまだ見捨てられていないと安堵の表情を作っていた。
「うむ。久方ぶりじゃな。そちらは相変わらずか?」
「ええ。索敵と警戒は常に怠らないでいますが・・・・」
「そうか・・・・。今迄少ない人数でよくやってくれたの」
と一通りの挨拶は済んで部隊を統合しての行動となった。俺は第三十四特務大隊という部隊を率いることとなった。
黄蓋は司令長官として全体を統率する。
特務部隊というからには流石に最前線とまではいかないが前線に配置されることとなり、ここらにいる兵士も精鋭の強者が多い。
今までいた周泰、朱然、徐盛もこの部隊に入っているが大隊のため顔を合わす機会がなかなかったが再会を果たしたのは軍議が行われたときであった。
「北郷さん。お久しぶりですね!」
「ご無沙汰。よろしく頼むぜ。三佐殿」
「お久しぶりです三佐。というのは建前でまたお前さんと戦えること嬉しく思う」
と相変わらず元気な姿で安全した。俺たちは劉備軍の到着を待ちつつも監視を怠らずという体勢を続けた。
が問題だったのはこの荊州南部の基地は食料を備蓄する重要な拠点でもあったが魏軍はそこを総攻撃したのである。
ここに来て魏が大きな動きを見せた。
朱然が部屋に入って状況を説明する。
「北郷、荊州の前線が押されてる俺たちは救援に向かうことになった」
「なに?あそこは食料が・・・・」
「そうだ。あそこが陥落したら不味いことになる。なんとしてでもあそこは死守せねばならん」
と顔を朱然はしかめるが俺にも彼に何かが引っかかっている。
前線基地の重要な拠点であるのはわかるがここに食料を備蓄していることなど魏にはわからないはず。
「あそこは補給基地でもあるからな。北面方面軍の糧食備蓄割合の四割は占めてる計算だが・・・?」
四割、確かに一つの場所に集中させると補給をするうえでは大きく役に立つ。
補給をバラバラにしたところで戦場に満足のいく補給は期待できない考えからだが・・・・。
「朱然、水軍との連携は?」
「水軍?・・・・そうだな連携を取れるよう言ってみる」
とそそくさと戦支度をしながら出ていった。いよいよ始まる。
俺は生き残れるようにと自分に祈る。
そう。神なんてこの世にはいないのだ。信じられるのは自分と戦友のみ。
(俺は自分を信じてやるだけだ・・・。生き残ってみせる・・・!)
と心の中で決意し出陣に備えるべく俺も急いだ。
それから三週間が経過・・・・・。
最短距離で到着するが味方は籠城状態で懸命に立てこもっている。
が相手は大軍、このままでは数の暴力で陥落も時間の問題。
俺は黄蓋にある作戦を提案していた。
『ふむ。あの貯蔵基地から食料を持って撤退。殿はお前が務めると・・・?』
『はい。あそこを奪われたら、補給がままならなくなり戦端が瓦解することは目に見えていると思います。ですので我々の部隊を囮にして脱出を図り、防衛線を縮め守りを固めます』
『食料輸送についてはどうするのじゃ?』
と質問すると周泰が間髪いれずにその疑問を補完させる。
『甘寧三佐が率いる水軍と連携をとり海上輸送させます。敵は水軍の練度が低く追ってくることはないと思います。自分たちは攻めている敵を脇から強襲し引きつけます。その隙に部隊は水軍と合流し撤退をするという作戦です』
『じゃが敵は楽進、李典、于禁を前線に配備し後ろには神速の張遼じゃが・・・・』
黄蓋は迷っているようだった。神速と言われる張遼率いる騎馬隊はかなりの機動力を誇るため、足が遅くなってしまう撤退戦では勝ち目はないのではと考えているようだった。
『何度も何度も脇からちょっかいをかけてやれば相手も腹が立ってくるものでしょう・・・・。それを利用します』
黄蓋は暫く考えていたがニヤッと不気味な笑顔を見せる。面白そうだとでもいう感じだ。
『最後の詰めがチト甘いが悪くないの・・・。それに前線にいる兵を無駄に死なせるわけにもいかん。では今回の作戦お前に任せる。明命、お主は水軍と思春と連携をとり海岸を制圧した後は北郷の部隊と合流し攻撃に参加。朱然を中心にほか軍師で策を練り部隊救出に全力を挙げるように』
といった流れで作戦が許可されたのだ。部隊は数はおよそ一万。数的には心細ないが強襲する際はこのくらいがちょうどいい。
合流予定となっている周泰隊の兵数は五千人弱。およそ1万5千の兵力という必ずしも多くはない兵力だ。
「しかしお前も大胆な作戦を提案したもんだ」
「全くだぜ。俺はお前が首を刎ねられないかヒヤヒヤだったよ」
と徐盛と朱然がちょっかいを出してくる。
「以外と勢いでいけたら何とでもなるもんだ。あの方も勢いというか気合というかそうゆうのが好きな人だからなぁ」
「くくくっ。違いねぇ」
と思い出したかのように徐盛が笑うが直ぐに顔が引き締まる。いよいよ攻撃が始まるからだ。
第一派は俺、二派は朱然、最後に徐盛と波状攻撃を仕掛ける。今魏軍は基地いる友軍を取り囲むように攻めている。
そこを四方から強襲する狙いだ。
顔中に緑と黒の絵の具のようなもので顔全体、腕と肌が露出する部分全部に塗る。いわゆるフェイスペイントというやつだ。
服も近代の迷彩服のようになっており、これは俺が迷彩効果について提案したものが通った影響である。
皆同じように塗りたくっているし、弓兵はさらに背中から葉っぱを被せている。ギリースーツというやつだ。
これは今の技術でも応用できるものなので作り出せた。山越での戦いでも試作段階で少数が配備されたが大きな効果があり、試作段階から量産化が決定。
低価格でいて敵に発見されにくというこのスーツが呉の部隊の死亡率を大きく下げるのに貢献している。今では環境に応じた迷彩装備をするよう指導されている。
今回も森の中なのでかなりの迷彩効果が期待できる。
「それでは作戦を開始する。俺たちは敵を撃退することが今回の任務ではない。あくまでも敵の注意を引き付けることが目的だ。くれぐれも深追いはするな」
作戦が開始される兵士に緊張が走ってはいるが分かっているというふうに皆冷静に聞いてくれている。
流石精鋭とでも言おうか。
こういった状況には、常に冷静に判断できていることが生き残るための重要なファクターだと皆気づいている。
「よろしい。では部隊を分けて四方から強襲をかけるぞ。敵は恐らく我々を警戒して索敵部隊をここらに展開してるはず。くれぐれも警戒は怠るな。常に団体行動で、単独行動は避けろ。いいな」
「「はっ」」
「では展開するぞ」
といって部隊を四分割に分けて展開していた。その四分割した部隊をさらに四人組に分割させて皆常に見つからないよう警戒しながら進んでいく。
嗅覚、聴覚、視覚といった五感をフル活用し進んでいく。音を立てず背景に同化して進んでいくとやはり偵察部隊を発見した。人数はおよそ五十人程度。
俺は見える仲間たちに手話で状況を知らせる。
向こうは気づいていないし、くっつくことなく離れて単独行動をしている。どうやらこういった練度には此方に分がある。
皆バレないように慎重に敵に近づくと、羽交い絞めにする。
「?!!!」
敵はようやく存在に気づくが遅い。口を抑えると頚動脈に小刀を突き刺し切り裂く。
ハサミで紙を切るようにすっぱりと切れ、切れた相手は声も出せず大量の血を首から出しながら静かに息を引き取っていく。
一人、二人と工場でライン作業をする従業員のように隠れては殺すを繰り返す。
森を出ると直ぐに前線基地が見える小さな丘に出会い仲間との合流をまつ。
下では金属のぶつかり合う音と怒号がここまで聞こえてくる。
小隊に分かれ兵たちは合流する。
「よし、けが人はいないな。これから俺たちは敵の横っ腹を叩く。俺たちが魁(さきがけ)で俺たちの攻撃を合図に別れた部隊が攻撃する。何度も言うがまだ死に急ぐなよ。死ぬときは俺が教えてやる。それまでお前たちの命俺が預かる。いいな」
「「はっ!」」
「よし。じゃあいくぞ・・・・!!攻撃開始」
と剣を抜き攻撃を開始した。
「な?!なんでこんなところから?!!」
「くっ、散開だ!!!散開!!!」
と横腹を突かれた魏軍はうろたえる。邪魔されないよう索敵部隊を周囲におき完全に魏の勢力圏になっていたからだ。
死角なしの状態からの強襲にうろたえる。
「遅い・・・・」
剣を急所をめがけて振り下ろす。首がなくなり血が大量に吹き出でて体にかかる。
後ろから弓兵の狙撃で支援しながら俺たちは前へと前進するべく敵をなぎ倒す。
「こいつら・・・・、今までの呉軍の奴らと違うぞ・・・・」
「うるさい!!違うからなんだ!!!囲んで撃退しろ!」
と部隊長が怯む兵士に叱りつける。が、気がつくとそこには返り血を浴びた若者が目の前に。
「貴様・・・・、良くも部下を・・・・」
部隊は敵の素早い強襲に体勢を立て直せず、撤退をしているが敵は追撃はしない。
(去り際をも分かってるとはいい上司に恵まれたもんだな)
と魏の部隊長は感心するが、同時に畏れていた。
部下を自分の手足のように自由自在に動かすにはかなりの手練でないとできない。
それこそ夏侯惇、夏侯淵といった魏の頂点に立つ者ほどしかできないことをたった一部隊が・・・、目の前のこの男がやっているとでもいうのか。
格が違いすぎる・・・・・。
こいつに適うのは籠城戦で前線にいる張遼しかいない。
だが男は逃げられない。一人でも混乱し、負傷した部下を見捨てるわけにはいかないからだった。
がこの男の判断は間違いであった。
彼は痛手をおった部隊に撤退を指示し友軍に支援要請をするべきであったことを。
血がベットリとついた男に一瞬怯む。
戦士として戦ってきたがこれまで怖いと感じたのは彼が初めてだった。
「名を名乗れ!!!このままお前を返すわけにはいかない」
と言うとその男は口を僅かに歪ませる。笑っているのだ。そこで男の背筋が凍る。
(こいつ・・・・。この状況を楽しんでやがる!)
味方が少なくちょっとした誤りが命を落とすこの攻撃でも彼は全く恐怖を感じてないのか?
かつて呉に大敗したときもそうだ彼らはどれだけ矢が刺さろうとも、剣で切りつけられても攻撃の手を緩めなかった。
それに加え、卓越した傭兵術と一人で数多の部下を返り討ちにした実力。
戦闘での愉悦はそれを反映させている。
「お前は俺の名前を知って何の意味が・・・!?ここでお前は死ぬのだから」
と言い終える前に前に出てきた。速いうえに踏み込みも甘くない重い斬撃をなんとか躱すが・・・。
「・・・・・・」
素早い斬撃に手が痺れ、一瞬握力がなくなる。
男はつまらなさそうな目つきで俺を見ると剣を再び振りかざすが受け止めるがそれと同時に剣を持たない腕を取られるグイっと強い力で引っ張られる。
(しまった・・・・)
体勢を崩した隊長はその腹に強烈な蹴りを入れられる。
「がはっ」
すかさず男は掴んでいた腕の関節に膝蹴りをいれ腕を反対方向に捻じ曲げられる。
この世のものとは思えない激痛に声も出ない・・・・。いや出せないのだ。
(え・・・・?)
男の攻撃はもう終わっていた。素早く離れるとまた部隊長をつまらない虫でも見るような目つきで見ていた。
「所詮は庶民からの寄せ集め軍団か・・・」
と男が言って踵を返していくのを呼び止めようとするのだがどうやっても声が出ない。
出てくるのはごぼごぼという液体が口から溢れている音だけで首から何かが流れ出る感触・・・・。手を当てるとそこには血が。
そう首が切れて出血していたのだ。それも大量に・・・。声が出ないのもそのせいか。
どんどんと血が出てくる。止まらない。自分の体に何があったかが今だに理解できない。だが彼はこれだけはわかった。
死ぬ。自分はこの世にもうすぐいなくなると。
隊長はようやく自分の死を自覚し、迂闊に彼に勝負を挑んだ自分の浅はかさを憎んだのであった。
俺は恐らくこの部隊の隊長であろう者を倒すと撤退を開始。
「た、隊長が・・・・。退却!!退却しろ!!!」
「う、うあぁぁぁあぁああぁ」
と倒した男が率いていた部隊が退却していく。それと同時に籠城から一転攻撃を仕掛ける友軍に魏は挟み撃ちで挟撃されていると混乱を極めている。
俺たちが来たことを無駄にせずこれを守備から攻撃へと移すのはさすがといったところか。
俺は放たれる弓矢を切り落とし、避けながら部下たちに撤退を指示する。
短い攻撃だが十分だ。これ以上続けるとこちらも侵害を出すだけだろう。
隊長格も倒したし指揮系統を破壊した。十分すぎる収穫だ。
撤退を始めると追撃してくる敵を今度は待ち伏せした兵が突如姿を現し、返り討ちにする。
これから魏は攻撃だけでなく左右からの攻撃に目を向けなければいけなくなったはず。
これで友軍の負担が少しでも軽くなればいいのだが・・・・。
また夜には友軍に伝令通じて作戦を伝達させる手はずになっている。それで士気も持つだろう。
全ての部隊が合流すると負傷者はいるものの死人は少なく完全に作戦は成功したが、何人かはやはり帰っては来ない。
戦争で死人が出るのは当たり前だが部下が死亡することにまだ俺は慣れていない。恐らく一生慣れることはないだろう。
人を殺すことよりも彼らが死ぬことのほうが実は耐えられなかったりもする。
再び怒号と金属がぶつかり合う音、そして血の匂いが近くでする。
今度は朱然が攻撃を仕掛けたようだ。時間差での攻撃と篭城し戦う兵士の懸命な防御に魏は手を焼くことだろう。
だが俺は撤退中も死んだ部下のことについて考えていた。
彼らは何を思って死んでいったのだろうか?
家族?死ぬことへの恐怖?それとも・・・・
俺は再び思考を停止させる。今それを考えたらいけない。考えたら俺は剣を持てなくなるからだ。
死んだ部下の名前は全部知っていた。
声、性格、顔も家族構成も全て・・・・。
だがそれをできるだけ顔に出さずに部隊を撤退させた。
北郷が戦闘するおよそ三ヶ月前・・・・。
呉の行政府は魏からの手紙についての議論が沸騰していた。
開戦か否か。
消滅か服従か。
行政府は意見が真っ二つに分かれ話が進まない。
「魏に恭順はしますが今後の外交次第ではある程度の自治権を認めるかもしれません」
「しかし、その肝心の外交が失敗に終わったらどうするのだ?希望的観測に基づく決断はそれこそ破滅を意味するぞ」
「ですが、戦争をすることで民に甚大な被害を被るかもしれません。それにこのままでは此方が国賊になります!我々における支配権の確立が大きく揺らいでしまう・・・」
「なんの為の軍改革だったのだ?急な言いがかりをつけ、呑むことのできない要件を突きつけてきたのはあちらではないか!!幾ら王朝といえども今こそ戦う時。徹底抗戦だ!!」
と張昭率いる旧豪族の助けを借りていた恭順派と陸遜、周瑜率いる抗戦派での攻防が続く。
そんな中最高決定権をもつ彼女、孫仲謀は決断しかねていた。
百万の兵という情報が孫権に重くのしかかる。
軍改革がうまくいき軌道に乗ってきたがそれでも百万の兵を相手は劉備軍との連合でも正直勝機が見えないというのもまた事実。
(このとき母様、姉様はどうするか・・・・)
もちろん戦うのだろう。
孫呉の覇権を譲るわけにはいかないと、自ら剣を持ち皆を鼓舞するに違いない。
だが孫権は恐らく長期化する戦争に巻き込まれる国民に危惧していた。
難民、高騰する物価、食糧不足、財政の傾斜。
戦争の負の側面ばかりがこの戦争において目立つのであろうことは否定できない。
だがこのままでは孫呉の為に命を散らした者たちに示しがつかない・・・・・。
そういった狭間で大きく揺れている彼女だったが、実は結論は決まってはいた。
ただ踏ん切りがつかないといった感じだ。
これから自分がする行動は歴史的にも、今この時に見ても、うつけ者にしか映らないかもしれない。
それが怖かった。
ひょっとしたら歴史を変える大きな分岐点にでも立っているかのような重圧感が彼女の体を押しつぶさんかのように働いていた。
議論が白熱するなか孫権は一人、外の空気を吸いに外に出ていった。
考えをまとめたいとは言ったが頭がてんで整理がつかないままだ。
劉備軍の戦力では合わせても六十万が限界だ。山越と南蛮の支援を取り付けてもまだ足りないだろう。
それに問題はどうやって勝つかということだ。
「蓮華様」
と後ろに冥琳がついてきていた。どうして付いてきたのかは彼女にはよくわかる。
分かっている。冥琳は軍諜報部とも連携をとって工作をしてきたことを。
彼女はほうと小さく息を吸う。
「分かっているわ。ただ踏ん切りがつかない・・・。こうするしか道がないと分かっていながら違う道を模索してしまう情けない自分もいる」
「お気持ちはわかります。どうか、ご決断を・・・」
「ええ・・・・・」
そういって冥琳は踵を返した。
彼女も孫権に嘘たらしい、恩着せがましい励ましではなく、簡潔にそしてキッパリと彼女に決断をと言ったことに孫権は感謝していた。
イロイロと五月蝿く言うよりもこうして言ってくれた方がいい。
それが孫権にとって一番だと理解していたし、またそんな計らいに孫権も内心感謝する。
「「王様、ご決断を」」
重鎮たちのやかましい催促に聞こえない程度に小さく息を吸う。
さぁいこうか孫仲謀。
そしてこの瞬間を喜べ。
今日から私は姉の、家族の呪縛から解き放たれる最高の瞬間にいるのだぞ。
「諸君我々は・・・・、いや私はこの戦、戦うべきかを悩んだ。
私も孫呉の王である以上母、姉と築いたこの国を守るべく戦いたい。
しかしそれに伴う犠牲が、出血が多すぎる。
こんなことを言ったら王ではないと笑うかもしれないが、
私はこれ以上民の血を流したくはないし、人を殺すことが唯一許されるこの行為そのものが嫌いだ。
山越に行ったとき、死んだ母親の乳房を泣きながらかじっている赤ん坊の姿が今でも目に焼きついて離れない・・・・・。
私はもうこれ以上争いを命を、そして希望を奪いたくはない。
だが私は戦う。
孫呉の民の命、希望そして生きる権利が脅かされるのである以上私は鬼になろう。
国民を守れるのであるならば何百もの敵を殺してみせる。
私は今そう決心と覚悟をした。
どうか私に、いや孫呉の民たちに力を貸してやってはくれないだろうか」
と孫権は王座から立ち上がると、このとおりと頭を下げた。
「・・・・・?!」
王が頭を下げるなどあってはならぬこと。
統治者が頭を下げるということはもはやその国の支配者ではないという表しでもあったからだ。
だが孫権のこの行為は先ほど言った決意が見て取れる。
殺戮者、そして只の凡人に成り下がる覚悟を彼女は既にしていたのだということを。
孫堅、孫策は孫呉の繁栄を第一に考えていた。
国が栄えれば生活も豊かになると。
だが孫権は民がいるから我々は存在を許されていると今までの二人の王とは対極の考えの持ち主であるといえる。
つまり自分よりも他人の為にという孫呉の精神をある意味で体現している王であるといえる。
重鎮たちはそんな王の姿に孫策や孫堅とは違った巨大で大きな王に映って見えていた。
このあと開戦やむなしと決断。
国防などの重要な政策、方針を決める国策要綱で北方での戦力増強と蜀との連携を強化、そしてあくまでも防衛、自衛戦争であるという位置づけから過度な侵略行為は控えるとここは戦争が嫌いな孫権らしさ-いい意味でも、悪い意味でも-が出た要項が打ち出されることとなった。
行政府は孫呉の国民に出来うる限り迅速に開戦を通達し、北方に住む人々は避難を最優先とした。
国民は先の戦役からまだ時間が経過しておらず反対する可能性があったが、
「我々も戦うが国民もそれを知る必要があるだろう」
という孫権の配慮から来ていたこの通達に思わぬ誤算が生じた。
なんと建業を中心とした地方都市から義勇軍が組織し、本隊と合流をしたのである。
その数は三万。
戦争が始まるのに無理やり徴兵することなく避難させる政府の姿勢に国民も感激し、自分もこの国のために戦いたいと国民が立ち上がったのだ。
こうして義勇軍と大本営本隊の三十万と水軍の戦力十万が加わることとなり義勇軍を後方支援に回せることで多くの練兵、将兵を前線へと送り込むことができるようになった。
『この戦争、勝機が見えてきた・・・・!』
と大本営の者たちは胸を躍らし、決戦の地と決めた赤壁に陣を構えるべく出陣したのであった。
この戦の前に実は周瑜が曹操に使者からの手紙に返事を送っており、こう書かれてある。
『貴方の寛大な処置に私も王であられる孫権様も感謝している。
だがこの江東の地を、孫堅様が発展させ、我が盟友であった孫策が取り戻したこの母なる大地を譲る気はない。
ましてやこの大陸を混沌とさせた大罪人を罰することもなく、むしろ政治の道具として利用する貴方のその姿勢には、法と責任を重視する我々とは相容れないものであると思われる
そんな国に我々は一切屈さないし恭順もしない。
我々、呉は王朝の支配からの脱退と新たな江東の繁栄を誓うことをここで明らかにしたいと思う。
その為にこの地の安全、自由を守るためなら例え一人になっても剣を取り戦い続ける。
それが亡き孫策の遺志を受け継いだ孫呉の民たちの答えである』
と書かれた手紙が今でも残っており、
これがアジア初の立憲君主制国家であり、そして自由主義の国でもある
『呉』
の産声でもあったのである。
後に曹操はこの手紙をみて
『やむなし』
と言って大いに悔しがり顔をしかめたと伝えられている。
皆さんコックです。
今回は遅れてしまい申し訳ありませんでした。
待っている方々にはそれしか言えません・・・・(´Д` )
え?なになに?そもそも待ってないって?
そうなのかぁ~(棒)ならもっとゆっくり作れるね(マジキチスマイル)
さて結構長いと思いますがもっと長くしようと思ってたんですよ。次回から載っける予定だった朱里、桃香の関係の改善とか一刀の戦闘を最後まで入れて終わろうとか考えてましたけど。
長いわ!!!
と思い次回に回します。楽しみに!!
なんかかなりブッ飛んだ内容になっていますし、肝心の主人公はキャラが崩壊してるはでうまくいっていませんがこの戦いで私自身群雄割拠の時代を終えたいと思いますので自分よがりですが気持ち込めて行きたいなと・・・。
それと呉の名前なんだけれども、なんか候補があればリクエストしていただけたらそれを使うように本文を修正しますよ(^O^)
立憲国家なのに呉だけじゃなんかインパクト不足かなと思いまして・・・。
まぁないならいいですけどねぇ。
ついでですが曹操さんが悔しがったシーンは日本の戦国時代末期でも徳川家康の権力集中において従うようにという趣旨を書いた手紙を上杉家に出したのですがそれを直江兼続が正当な理由ではねのけている。
という話をモチーフにしてますね。
でも正しいこと言っててもダメなのは歴史で物語ってますしねぇ。
少しぐらいは姑息なぐらいがちょうどいいのかもしれませんね。
ではこれぐらいでまた!!
再見!!!
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遅れてしまい大変申し訳ないです。
あともう三、四話でと言っていたのはなんだったのか・・・・。
戦争になるとやはり長くなってしまうようですね。
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