―――ここは・・・どこ・・・?
<さぁ、今日は恋が黄巾賊三万人を退けた景気祝いよ!この勢いのまま、ボクたちが太平の世を築いていく!>
―――確か、恋さんが黄巾賊三万人を一人で倒したのをお祝いしたとき・・・?
<じゃあ、ボクら董卓軍の一層の発展を祈念して!!>
<<<<<かんぱーーーーーーい!!!!!!>>>>>
―――ふふ、あの頃は、黄巾の乱で世の中が乱れ始めていたけど、不思議と毎日楽しかったなぁ・・・
<ほれほれ酒や酒!!もっと酒持ってこんかーい!!>
<さすが張遼さん!いい飲みっぷりッス!>
<いやー何だか盛り上がって来ましたなぁ!では、ここはあっしが一つ芸を―――>
<おい曹性、テメェもし奉先様の前でその兜とってハゲ面さらすつもりなら、この双戟でその首跳ね飛ばしてやるぜ!>
<ハァ、しょうがないですね、ではここは私の縛り技の数々を披露するといきますか>
<はっ!おい魏続!てめぇはいっつもそればっかだな!>
<いやいやなんかもーワタシお腹いっぱい胸いっぱいって感じだよー。まぁどうでもいいんだけどねー>
<ちょっと郝萌ちゃん!そんな胸いっぱいとか言ったら陳宮さんや高順さんに殺されますよ!>
―――霞さん、侯成さん、曹性さん、臧覇さん、魏続さん、宋憲さん、郝萌さん、成廉さん。
八健将の皆さんは、個性豊かで、賑やかな人たちだったなぁ・・・
<さぁ恋殿!ねねがお注ぎしますぞ!>
<ねね、抜け駆けは許しませんよ。さぁ恋様、私がお注ぎしますね>
<ななはどいてろです!今はねねが恋殿にお注ぎしているのです!>
<ねねは黄巾賊討伐の時恋様とご一緒してたじゃないですか!誰が譲ってあげたと思っているのですか!ここは私に譲ってください!>
<・・・二人とも、喧嘩はダメ>
―――ねねちゃんとななちゃんは、いつも恋さんをめぐって仲良く喧嘩してたっけ・・・
<確かに呂布の武は認めるが、私だってやろうと思えば黄巾賊の三万人ぐらい余裕というものだ!>
<まぁ某も華雄殿も、敵運がなかったということでしょうな>
<そうよ!徐栄殿ほどの腕があれば、三万人だろうが四万人だろうが楽勝よ!>
<おだまりなさいジジイ趣味!確かに徐栄様はお強いかもしれませんが、巫女姿の華雄様に敵うものなどいないのですわ!>
<ほらほら~張済はんも樊稠はんも落ち着き~や~>
<おい李傕!お前陳宮たちの真似するんじゃねぇ!俺が董卓様にお注ぎするのだ!>
<じゃあこうしよう、今から手合せして、勝った方が董卓様に、敗けた方が賈駆様にお注ぎするってのはどうだ?>
<郭汜!李傕!アンタ達、いったいボクを何だと思っているの!?>
―――華雄さん、徐栄さん、張済さん、樊稠さん、りっちゃん、郭汜さん、李傕さん、詠ちゃん。
私が軍を率いるようになったころから一緒にいる、かけがえのない仲間・・・
<お!?なんやなんや仕合か!?ウチもまぜてーな!!>
<私もだ!仕合と聞いては退くわけにはいかんな!>
<・・・恋もやる>
<れ、恋殿!?>
<なら、私も出ないわけにはいきませんよね>
<ほなら、いっそのこと、今から董卓軍全員で武闘大会でも開きはったらどうです~?優勝者にはゆえちゃんへのお酌の権利が、
敗けた人は残念賞として、賈駆ちゃんへのお酌の権利が貰えるゆ~ことにして~♪>
<李儒!アンタまでボクの扱い酷すぎない!?>
―――本当にこの頃は毎日が賑やかで楽しかったなぁ・・・こんな日々を過ごすために、私たちは戦ってたんだよね・・・
<ちょっと!月まで笑わないでよ!>
<いいえ~ゆえちゃん、ここは笑うところであってますよ~♪>
―――詠ちゃん、りっちゃん・・・大切な大切な、私の友達・・・
―――こんな幸せな日々がずっと続けばいいと思っていた・・・
―――でも、私が未熟だったせいで、張譲さんに隙を作ってしまった・・・
―――私のせいで、みんなと笑い合える日々を壊してしまった・・・
―――ごめんね、みんな・・・ごめんね・・・
―――だから、せめて、一人でも多く、生き残ってほしい・・・
―――生きて、みんなが笑顔でいられる日々を勝ち取ってほしい・・・
―――だからどうかお願いです、天の御遣い様・・・みんなを太平の世にお導き下さい・・・
―――私の大切な、大好きな仲間を・・・
―――あぁ・・・もう行かないと、ダメみたい・・・
―――みんなに、会えなくなるのは、寂しいな・・・
―――お話したいこと・・・まだまだ・・・いっぱい・・・あったのにな・・・
―――せめて・・・・・・最後に・・・・・・これだけは・・・・・・言いたかったな・・・・・・
―――・・・・・・・・・
董卓「(・・・今まで・・・ありがとう・・・ございました・・・・皆さんのこと・・・・大好き・・・・・です・・・・・・)」
動かなくなった賈駆の胸の中、董卓はかつての幸せな日々を夢見、一筋の涙の流して、ゆっくりと目を閉じ、永遠の旅路へと歩を進めた。
そして、董卓の意識が消えると共に、各地で戦う董卓軍の頭に、電撃が走った。
【司州、虎牢関内部】
董卓の死を告げる曹操の雄叫びを聞いた高順の頭の中は真っ白になっていた。
その体には、紙一重で攻撃をかわすことによってついた、致命傷とはならないようないくつもの切り傷がついている。
夏候惇「残念だったな!キサマもあきらめてワタシに討たれるがいい!」
夏候惇は腕に刺さった小刀を平気な顔で抜き取りながら、再度獲物を捕食すべく、七星餓狼を構えなおした。
高順(月が討たれた・・・そんな・・・それでは詠も・・・)
何か予感めいたものがあったものの、実際事実であると認識した時のダメージは想像を絶するものであった。
高順の握る三節棍がプルプルとふるえている。
しかしその刹那、高順の脳裏にある言葉がよぎった。
<万が一月が敵に討たれたら、生き残っている人はすぐに長安に落ち延びてほしいの>
<私はみんなの平和への思いを絶やさないでほしいのです。一人でも多く生き残ってこの乱世を終わらしてほしいのです>
高順(長安へ・・・!)
夏候惇「死ねぇえええっっ!」
夏候惇は高順の見せた一瞬のすきを見逃さなかった。
高順に刺された小刀を地面に投げ捨てると、一気に距離を詰め、袈裟懸けに必殺の一撃を叩き込んだ。
しかし、夏候惇の一撃が高順に届くよりも数秒早く、高順が先手を打った。
高順はやけに長い袂から玉状のものを取り出すと、間髪入れずそれを地面に叩きつけたのだ。
すると、地面とぶつかった衝撃によって弾けた玉状のものから粉塵が巻き上がり、城内一面を覆い尽くした。
夏候惇「くそっ!小癪な真似を・・・!どこだ!どこにいるッ!」
しかし高順の返事はない。
粉塵のせいで辺り一面何も見えなくなってしまったため、夏候惇は無暗に七星餓狼を振り回すが、手ごたえは一切感じられなかった。
高順はすでにその場から離脱しており、封鎖されている正門ではなく、
虎牢関右翼への最短距離である、曹操軍が使った城壁からの侵入口を目指していた。
高順(長安へ・・・月と詠の思い、無駄にはしません・・・!)
そして城壁へと到着した高順は、躊躇なく地面まで何メートルもある城壁を飛び下りた。
【司州、虎牢関左翼】
虎牢関左翼にも、はっきりと董卓の死を告げる曹操の雄叫びと共に、曹操軍の鬨の声が聞こえていた。
張遼「んなアホな・・・月が討たれた・・・ほなら賈駆っちも・・・」
すでに馬を潰されていた張遼は主君の死を聞いて呆然と立ち尽くしていた。
張遼にも高順同様何か予感めいたものがあったのだが、
信じまいと思考から排除していただけに、実際事実を突きつけられ思考が停止してしまっている。
孫堅「やはり曹操に先を越されたか。まったく、食えぬ小娘じゃ。それにしても、ブタ退治のためにわざわざ江東から出向いてやった
というのに、何の手柄もなしとは・・・迷惑なブタじゃ」
孫堅は心底つまらなさそうに述べながら肩をすくめた。
しかし、
華雄「何だと・・・」
黄蓋と対峙しているはずの華雄は、主君に対する罵りを聞き逃さなかった。
孫堅「なんじゃ、主君をブタ呼ばわりされたのが許せんか?じゃが事実じゃろう?洛陽ではやりたい放題じゃったそうじゃないか?」
華雄「貴様は董卓様の何を知っているというのだ!!!!」
不敵な笑みを浮かべながら言い放たれる孫堅の言葉はあからさまな挑発であったが、
主君を馬鹿にされて頭に血が上ってしまった華雄に冷静に考える余裕などなかった。
華雄は孫堅に向かって突撃し、金剛爆斧を孫堅目掛けて振るった。
これまでに幾人もの猛者たちを屠ってきた、自慢の一撃必殺。
―――しかし・・・
張遼「アホ!華雄やめ―――」
華雄「がっ・・・!?」
孫堅「まったく、猛将華雄ともあろうものが、安い挑発に乗り、戦いの最中に敵に背を向けるとは・・・」
華雄が孫堅に突撃することで見せた隙を黄蓋は見逃さず、多幻双弓によって放たれた二本の矢は、確実に華雄の背中を捕えていた。
孫堅「まったく、まだまだ青いのう」
そして孫堅は、グラついた華雄に、正面からためらいなくとどめの一撃を振るった。
華雄「ぐわっっ・・・く・・・そぉ・・・・・・!」
張遼「華雄!!!!!!」
孫堅の袈裟切りをまともに受けた華雄は、そのまま膝から崩れ落ち、自身の血の海に沈んだ。
孫堅「さあ、どうするんじゃ?」
孫堅は剣を一度切り払って滴っていた血を振り払うと、肩に乗せて張遼に問いかけた。
張遼は怒りで体を震わせながら孫堅に向かって叫んだ。
張遼「孫堅!!アンタら卑怯やで!後ろからやなんて・・・!」
しかし、孫堅はそんな張遼の怒りを理解できぬといった風に淡々と返した。
孫堅「卑怯?張遼とやら、お主、何か勘違いをしておらんか?」
張遼「何やと!?」
孫堅「お主は、これを仕合か何かと勘違いしておるのか?これは戦いじゃぞ?卑怯も何もない。勝者こそが正義。どんな手を使ってでも
敵を倒さねば、自身の、そして仲間の命が危うくなる。そんなことも知らんと戦場に立っておったのか?」
張遼「くっ・・・!」
孫堅の言葉に、張遼は言い返すことができない。孫堅はさらに続ける。
孫堅「戦場では、背後から狙った黄蓋より、わしの安い挑発に乗った華雄が責めを受けるのが当たり前。まあわしとしては、主を侮辱
されて馬鹿正直に突っ込んでくる奴は嫌いではないがな」
張遼(アカンアカンアカン・・・ウチじゃコイツには勝てへん・・・)
張遼は実力、経験共に孫堅に劣っていると実感していた。
さらに、華雄が討ち取られたことで、華雄隊はほぼ瓦解状態に陥っていた。
そこへ、浮足立った華雄隊の兵士たちを、黄蓋が次々に射殺していく。
左翼の董卓軍が潰されるのは、もはや時間の問題であった。
孫堅「ではおしゃべりもここまでじゃ。わしもそろそろ腰に来そうでな。さっさと済まさせてもらうことにするかの」
すると孫堅はゆっくりと張遼に向かって馬を歩かせた。
張遼(ここで死ぬんか、ウチは・・・月、賈駆っち、華雄にもすぐ会えそうやな・・・)
張遼の瞳にはもはや生気は宿っていなかった。しかし、生きることをあきらめかけたその刹那、張遼の脳裏にもある言葉がよぎった。
<万が一月が敵に討たれたら、生き残っている人はすぐに長安に落ち延びてほしいの>
<私はみんなの平和への思いを絶やさないでほしいのです。一人でも多く生き残ってこの乱世を終わらしてほしいのです>
張遼(長安や・・・長安に行かんと・・・)
しかし頭ではそう思っていても体が言うことを聞かなかった。
孫堅は徐々にその距離を縮めている。
万事休す。その言葉が似つかわしい状況であった。
しかしその時、ドドドドという音が虎牢関右翼方面から聞こえてきた。
その音はどんどん大きくなっていく。
何事かと孫堅が動くのをやめ、音のする方を見てみると、大量の馬の姿が見えた。
黄蓋「堅殿、何やら向こうから馬の大群が」
孫堅「黄蓋よ、さすがのわしもそこまで目は衰えておらんぞ。見えておるわ」
??「張遼さーーーん!」
その大量の馬を引き連れていた主は張遼の名前を呼んでいた。
張遼はその声、そしてその幼さを残した童顔の持ち主を知っていた。
張遼「アンタ・・・侯っちやんか・・・!」
孫堅「チッ・・・!」
侯っち、つまり侯成は、大量の馬を引き連れたまま、孫堅に向かって突っ込んでいった。
もはや兵器とも呼べるその馬でできた巨大な弾丸に怯んだ孫堅は、下がらざるを得なかった。
侯成「馬を持ってきたッス!もう左翼は撤退が完了したッス!呂布さんたちのところにも高順さんが向かってるッス。だから、ここも
すぐに退却するッス!」
張遼「何でアンタ・・・それにその馬どこから・・・」
張遼は目の前で何が起きているのか理解できずにいた。
侯成「高順さんに頼まれたッス。張遼さんのところに撤退用の足を持っていくようにって・・・」
<侯成!手傷を負っているところ悪いですが、ちょっと頼まれごとをお願いできますか!?>
<ぅわわっ!?高順さん!?急に背後から声かけないでくださいッス!びっくりしたじゃないッスか!っていうか何でこんなところに
いるッスか!?それに、さっき董卓さんの・・・いや、こっちの話ッス。それより、曹操の雄叫びは本当なんッスか・・・?>
<はい・・・すいません、間に合いませんでした・・・、ですが、自身の無力さを悔いるのはまだ先です。話していたように、ただちに
長安に撤退します>
<そう・・・ッスか・・・。董卓さんも、賈駆さんも、みんなやられちゃったッスか・・・それで、オレはどうすればいいッスか?
オレにできることなら何でも言ってくださいッス>
<はい、ところで、公孫賛軍の姿が見えませんが>
<そうなんスよ!白馬長史は、臧覇さんと戦っている内に、戦線が拮抗したからか、退いちゃったんスよ!・・・まぁそのおかげで
戦況が楽になったッスけど・・・>
<そうですか、さすがは臧覇ですね。しかし、なら好都合です。ここは臧覇たちに任せて大丈夫でしょう。実は撤退用の足に目星は
ついているのですが、私ではあれだけ大量のものを扱えなくて、ですが、あなたなら誰よりも馬の扱いに長けていると思います>
侯成「この馬は、曹操軍から奪ってやったッス!」
つまり、高順は自軍の撤退用に、曹操軍が乗り捨てた(捨てたわけではないだろうが)軍馬をごっそり頂戴したというわけだった。
張遼「なな・・・おおきに侯っち、そんなにボロボロの状態やのにこっちに来てくれて。ていうかどないしたんやそれ?普通に戦ってて
そんなんなるか?」
良く見ないでも、侯成の体中は武器類による傷以外の傷でボロボロであった。
侯成「いやー、これはあれッスよ。向こうで幽州の白馬義従とやってきたんスけど、思わず見とれてたら踏みつぶされちゃったッス」
結局侯成は、臧覇らの忠告の甲斐なく、公孫賛の白馬の軍団に文字通り蹴散らされてしまったのであった。
張遼「はは、侯っちらしいな・・・」
侯成「まあ、こんな傷、張遼さんたち仲間を助けるためなら痛くもかゆくもないッスけど」
張遼「仲間を助けるためか・・・」
侯成は、董卓軍の元気印である張遼の、普段と明らかに違う雰囲気を感じ取っていた。そこで、次のように話しかけた。
侯成「オレらは負けたッス。たくさん仲間が死んじゃってとても悲しいッス。けど、今は悲しんでる場合じゃないッス!董卓さんの
意志を継ぐためにも、なんとしてでも生き残って長安に行くッス!さあ、ささっと逃げて、また一緒に酒を飲むッス!」
張遼「・・・なんやそれ、主君殺されとんのに酒楽しむとか、舐めとんのか・・・」
侯成が張遼を元気づけようと発した不謹慎な発言に、張遼は俯き気味につぶやいた。
侯成「え・・・いや!そんな、楽しむとかそんなつもりで言ったんじゃ―――」
張遼「フッ、まぁええわ。さっさと長安に行ってヤケ酒や。存分に付き合ってもらうで!」
しかし、この侯成なりの、張遼を元気づけようとするマイペースさは、張遼の乱れた心にしみわたった。
張遼の瞳には、再び生気が戻っていた。
孫堅「いいところ悪いんじゃが、お主らを逃がすと思っているのかの?」
しかし、侯成が止まったことで、馬の兵器がただの馬の大群に成り果てていたため、再び孫堅が前に出てきていた。
張遼「せや、アイツはアカン。逃げ切れへん・・・」
しかしその時、華雄隊の中からある男が名乗り出た。
??「それならば、某の隊が殿を致そう」
名乗り出たのは、鼻下に立派なひげを蓄え、全身を白金の鎧で覆い、兜に紫色の羽根飾りを閃かせた、歴戦の武将然とした男であった。
張遼「徐栄のおっちゃん!アホな!おっちゃんこの状況で殿とか絶対―――」
徐栄「張遼殿、某は元より董卓様亡き世を生きていくつもりなどござらぬ。どうせ死ぬのなら、せめて仲間の命をお救い致そう」
董卓配下の中でも、呂布一派を除けば華雄の次か、あるいはそれ以上に腕の立つと言われる猛将、徐栄は、
張遼の言葉を遮り、自身の命と引き換えに、張遼たちを逃がすという思いを伝えた。
張遼「おっちゃん、アンタ・・・」
張遼の瞳は涙でにじんでいた。
侯成「張遼さん、急ぐッス!」
張遼は一度目を閉じ、おおきに、と一言つぶやいた後、意を決し、生き残っている全兵に向かって叫んだ。
張遼「全軍、撤退や!例の場所まで退くで!」
張遼の号令と共に、一斉に張遼隊と華雄隊が撤退を開始した。
孫策「ちょっと!逃げるの!?」
郝萌「いやいやこれは戦略的撤退であって逃げるとか卑怯者呼ばわり的な発言されても困るんだけどー。まぁどうでもいいんだけどねー」
孫策と対峙していたのは、手入れの行き届いていないボサボサの黒髪が無造作に伸びており、
額当てが目元までずり落ちているせいで、その表情は全く見えず、
唯一鎧の上からもはっきりとわかる立派なバストから、女性であることがわかる、八健将第三位の
彼女は手にした血まみれの
成廉「ほら郝萌ちゃん、そんな無駄口叩いてないで早く逃げましょうよ!」
マイペースな郝萌とは対照的に、すでに馬に乗っている、やや控えめな胸部装甲のビキニアーマーに、
ダークブラウンの髪を二対のお団子に結った気弱そうな少女は、八健将第五位の
彼女は手にした二本の剣をぶんぶん振り回しながら、おろおろした様子で急かした。
郝萌「いやいや無駄口とかそんなつもりは毛頭ないんだけどー。まぁどうでもいいんだけどねー」
孫策「ちょっと!どうでもよくないわよ!まだ私は全然暴れたりな―――チッ!」
そう孫策は叫び、だらだらと撤退を開始した郝萌を追撃しようと動き出したがその時、徐栄隊の何人もの兵士が立ちふさがった。
孫堅「またお主か、徐栄殿。お主にはこれまでに随分辛酸を嘗めさせられたものじゃ。じゃが、今回ばかりは命はありませぬぞ」
徐栄「油断は禁物ですぞ、孫堅殿。死にもの狂いの人間ほど、何をするのかわからぬのですからな」
徐栄は槍をくるくる回して孫堅をけん制した。
孫堅「そうじゃな。では、油断せずに屠るとするかの」
孫堅も南海覇王を構え、臨戦態勢に入った。
そして、言い終わると同時に二人は動き出した。
張遼「(もっとや・・・もっと強くならなアカン・・・仲間を守れる強さが欲しい・・・!!)」
長安へ撤退している最中、張遼の胸に、確固たる志の火が、根深く、強く灯った瞬間である。
【司州、虎牢関正門前】
虎牢関正門前にも、当然曹操の雄叫びと共に曹操軍の鬨の声が聞こえてきていた。
陳宮「そ、そんな・・・」
セキト「くーん・・・」
呂布「・・・月・・・詠・・・」
守れなかった、ただそのひとフレーズのみが呂布の頭をぐるぐると駆け廻っていた。
すでに予感めいたものが頭をよぎってからから呂布はおかしくなり始めていたが、
今となっては、呂布からはもはや常人離れしたオーラもプレッシャーも感じられず、
鋭い眼光も失われ、後に残ったのはただの一人の無口な少女であった。
呂布は完全に戦意を喪失してしまっていた。
関羽「もう戦う必要はなさそうだな」
張飛「戦う気のない呂布と戦っても意味ないのだ」
関羽も張飛も、そんな呂布の様子を見て、戦闘態勢を解いた。
陳宮「月・・・詠・・・李儒・・・みんな・・・。ねねのせいです・・・ねねが恋殿のお力にばかり頼るあまり、正門の手勢を最小限に
抑えたせいで、本陣に援軍を送れなかったです・・・いや、そもそも、迂回路の可能性に気づけていたら・・・」
予感めいたものが現実となり、うなだれる陳宮の瞳の光は失われつつあったが、
その刹那、やはり陳宮の脳裏にもあの言葉がよぎっていた。
<万が一月が敵に討たれたら、生き残っている人はすぐに長安に落ち延びてほしいの>
<私はみんなの平和への思いを絶やさないでほしいのです。一人でも多く生き残ってこの乱世を終わらしてほしいのです>
陳宮(長安へ・・・そうです・・・今はとにかく長安へ落ち延びるです・・・ここでねねがしっかりしないとです・・・!)
寸前のところで、陳宮の瞳に光が戻った。
呂布(・・・守れなかった)
そして、呂布の脳裏にも、あの言葉がよぎった。
<万が一月が敵に討たれたら、生き残っている人はすぐに長安に落ち延びてほしいの>
<私はみんなの平和への思いを絶やさないでほしいのです。一人でも多く生き残ってこの乱世を終わらしてほしいのです>
呂布(・・・恋も、月や詠のところに・・・)
それでも、それらの言葉は呂布の心には届かなかった。
しかし、呂布が生きる意味を見失ったその時、陳宮が叫んだ。
陳宮「全軍!撤退するです!例の場所まで落ち延びますぞ!」
高順「皆さん、この馬にお乗りください!」
陳宮が叫んだのとほぼ同時に、高順は侯成が曹操から盗んだ大量の馬を引き連れてやって来た。
二人の間には、もはや言葉によるコンタクトは不要であった。
関羽「何!?」
張飛「何なのだ!?」
陳宮の突然の撤退宣言や、突如として現れた大量の馬に、関羽も張飛を状況把握が追いついていなかった。
陳宮「恋殿!早く馬にお乗りくださいです!」
呂布(恋に、生きている資格はない・・・)
しかし、陳宮の言葉でさえ、呂布には届かなかった。
その間にようやく状況を把握した関羽と張飛が、呂布を逃すまいと立ちはだかった。
関羽「待てッ!みすみす逃がすと思っている―――くっ!?」
張飛「のだー!―――にゃ!?」
しかし、二人の前にもまた、立ちはだかる二つの影が躍り出てきた。
魏続「まったく、しっかりして下さい、呂布殿」
宋憲「はっ!それでも天下無双の呂奉先かよ!」
魏続と宋憲は、劉備らの相手を伏兵に任せ、それぞれ関羽と張飛が呂布に狙いを定めた瞬間に、死角から襲撃したため、
完全に虚を突かれた関羽と張飛は、本来ならば、魏続、宋憲との実力差は歴然であったが、
対応できず後手後手の防戦一方となってしまっていた。
高順「恋様、失礼します」
そしてその隙に、高順は未だ放心状態の呂布を抱えて馬に乗って、
やけに長い袂から取り出した玉状のものを関羽、張飛に向かって投げつけた。
玉状のものが地面にぶつかると同時に大量に粉塵が舞い上がる。
関羽「くそっ・・・何だこれは・・・!?」
張飛「にゃー、何にも見えないのだ!」
そして風が吹き荒れ、粉塵が晴れた時には、すでにその場に呂布軍の姿はなく、全員馬に乗って虎牢関を離脱していた。
ここに、虎牢関の戦いは、董卓の死と、呂布を中心とする董卓軍配下の撤退によって終結を迎えた。
【第十七回 番外編:虎牢関の戦い④・長安へ 終】
あとがき
第十七回終了しましたがいかがだったでしょうか?
4回に渡って投稿しました過去編も今回で一応終了です。お付き合いいただきありがとうございました。
この過去編をご覧いただくことで、各勢力の動きや、呂布軍の面々の考え方の変化などを感じ取ってもらえれば幸いです。
特に恋や霞なんかは結構変わっているかなと思ってます。
この後、呂布軍は長安編、兗州編などの暗黒時代を経て、第零話へとつながっていくわけですが、
この辺りは正直文章化する予定は今のところ全くありませんのでご容赦ください 汗
さて、それでは恒例のオリキャラ紹介をば、、、と言いたかったのですが、
なにせ人数が多いのと、文量的にもそろそろということで、
次回、短めの予定だった息抜き回(つまり女子会)の前に、虎牢関編の補足的話を挿入しつつ、
オリキャラ紹介を入れようと考えております。
相変わらずのだらだらマイペース投稿ではありますが、今後ともよろしくお願いします。
最後に、次回私用(というか帰省ですね)につき、少し投稿が遅れると思われます(恐らく18日の昼過ぎ、遅くて夜)
0時頃の投稿にこだわってきたわけですが、どうかご了承ください。
それではまた次回お会いしましょう!
これだけ濃いキャラ揃ってたら董卓軍のサクセスストーリー出来るんじゃね?と思いながら書いた月ちゃんの走馬灯でした T¬T
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お久しぶりです。または初めまして。
今回は過去編の四回目。これで過去編は終了です。
月の死を受けて、各々は何を感じているのでしょうか、、、
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