冬の寒い日。ポケットの中から出てきたのは三角帽子をかぶった妖精だった。
雪が降り積もり、ダンボールの豪邸は暴風によって無残にも破壊され、凍死寸前まで追い込まれたクリスマスの夜。神さまは彼に聖夜の奇跡をお贈りになった。つまるところ三角帽子の妖精である。
ポケットからちょこんと顔を出し、悩ましげな視線を彼に向ける妖精。しかし、彼はそんな視線など感じる余裕などはないのだった。空腹のみが彼を支配していた。刹那的な生にしがみつこうとする彼の五臓六腑。うつろな瞳で曇る空を見上げる彼。しかし、その姿は妖精には自己の存在の無視にしか映らなかった。
せっかく不幸な彼に幸福を与えんと現れてやったというのに。無視。虫けらに無視された虫サイズの妖精。妖精はその怒りに震えた。
「よかろう……そこまでこの妖精さまを侮辱した人間は貴様が始めてだ。褒美を与えてやろうじゃないか」
そうして妖精は背中から自身と同じほどの背丈のマッチ棒を取り出すと、それを彼の衣服でこすり上げ、紅蓮の炎を灯らせた。ゆらゆらと燃え盛るマッチの炎が彼に語りかける。
「ヨー兄チャン、クタバリそうナノか? イマおれガ助ケテヤルゼ!」
そうしてマッチの炎は彼の衣服に燃え移った。それはもう聖夜にふさわしい聖母のようなぬくもりのある炎だった。グズグズブスブスと燃え上がる彼に妖精は粛々と語りはじめる。
「これでもう妖精さまを無視するような暴挙はできまい。ふはははは…………うあああちいいいいいいいい! 焼けてる! おい! 俺まで焼けてるって!」
「オイオイ馬鹿イッちゃイケナイぜ。ポケットにハイッテんダカラトウゼンダロ?」
「なんとかしろぉぉぉぉぉ! あちいいいい! げっ、帽子まで焼け始めたぞ! 早く何とかしろおおおおおおおお!!」
「ムリ。オレのセンモンハ燃ヤスコトダゼ。オマエさんモシッテンダロ」
「うわああああ! こいつ使えねえええええええっ!!」
妖精の絶叫はシンシンと降り積もる雪にかき消されていった。
彼は何とか消し炭になる前に妖精によって助け出された。なんとか一命はとりとめたものの、全身包帯のミイラ男になってしまっていた。ただでさえボロボロだった彼のダンボールハウスはその燃えやすさも手伝って全焼。みごとに彼は住居を失ったのだった。
住所不定無職。もともとこの肩書きを持っていた彼ではあったが、これによって正真正銘の家なき子に成り下がった。それもこれもすべては神の御力によるものである。
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沸いている。俺の頭が沸いている。もう、だめだ。