赤壁の戦い。
黄巾の乱以降始まった長きに渡る戦いも、ようやく決着をみることができそうだ。
今、この大陸の行く末は、魏、蜀、呉の三国に委ねられている。
『魏』
天幕の中は少し蒸し暑く、そして静かだった。
その中で瞑想していると、戦前の喧騒が聞こえてくる。
外では、船同士を鎖で繋げる作業を行っているようだ。
華琳「黄蓋、鳳雛の案だけれど……彼女達は何を企んでいる?」
天幕で一人、考えを巡らせていると。
桂花「失礼します、華琳様。船の準備が整いました」
華琳「そう。では右翼の配置を確認して来て頂戴」
桂花「御意」
疲れているだろうに、それでもきちんと臣下の礼を取り、桂花は仕事に戻った。
そして、天幕の中はまた私一人だけになる。
華琳「………」
無意識に天幕の中を見回していた。
まるでそこにある筈の何かを探すように……。
最近は、気が付くとそうしている自分が居る。
風「華琳様~」
凛「失礼致します」
華琳「え…ああ、どうかしたの?」
つい、惚けた言葉を口にしてしまった。
華琳「……いえ、ごめんなさい。黄蓋の様子はどうかしら?」
風「はい~、黄蓋さんは今のところ怪しい動きは見せていませんねぇ」
凛「船酔い対策も理に適った物だと思います」
だとすると、注意すべきは火計の方ね。
華琳「ねぇ、あなたはどう――」
私は、誰もいない右隣に意見を求めていた。
誰もいないのだから、当然答えなど帰ってくる筈もない。
しかし、そんな自分の不可解な行動以上に驚いたことに――。
華琳「風、凛……?」
風「ふぇ?」
凛「あ……」
――二人も、私と同じように、誰もいない私の右隣を見詰めていた。
華琳「ねぇ、あなた達今………いいえ。何でもないわ」
言いかけて、止めた。
恥ずべきことだけれど、なぜか口に出す勇気が無かったのだ。
風と凛には別の仕事を言い渡し、天幕から退かせた。
華琳「何とも分からないものに怯むなんて、お笑いね……」
そして、私はまた一人、孤独を持て余す――。
『蜀』
あなたはどう思いますでしょうか?
周喩殿と黄蓋殿の争いが演技――朱里の見立ては本当なのでしょうか?
私のような無骨者には、情けないことですが、判断が付きません……。
翠「なぁ、呉との同盟、考え直した方が良くないか?」
鈴々「翠の言う通りなのだ!あんな風に命令される覚えはないのだ!」
星「しかし、呉との同盟を破棄してどうする? 我々は魏とは相容れまい?」
焔耶「魏も呉もまとめて叩き潰せば良いだろう!」
雛里「あ、あわわ……皆さん、落ち着いて下さい……」
皆、不安を抱えています。もちろん、それはこの方も――。
桃香「はぁ……」
最近の桃香様は、一人で密かに溜息を付くことが多くなりました。
恐らく、上に立つ者の、王としての重圧を感じているのでしょう。
義妹ですが、臣下でもある私では、その重みを分かち合うことはできません。
こんな時、あなたが居てくれれば――。
つい、思い出せないあなたに、縋ってしまいます。
桃香「愛紗ちゃん。軍議を始めよう?」
愛紗「はい、今行きます」
こんな私を、あなたは笑うでしょうか?それとも叱るでしょうか?
ふふ、きっとあなたは、「大丈夫だよ」と優しい笑顔で包み込んで下さる気がするのです。
そんな風に思ってしまうのは、私の甘えでしょうか?
名前も知らないあなたへ。
やはり私には……私達には、居るかどうかも分らない、あなたという存在が必要なのです――。
『呉』
雪蓮「うーん……思い出せないわね~」
冥琳「また悩んでいるのか?」
雪蓮「そうよ~。何だったか……いえ“誰だった”かしら?」
冥琳「まったく、人が一世一代の策を講じているというのに……」
雪蓮「何よ。祭との小芝居のこと?無事に曹操のところに入り込んだんでしょう?」
冥琳「まぁ、気付いていたとは思ったけど、あなたに言われると自分の能無振りが嫌になるわ」
赤壁での軍議中、祭と冥琳が阿吽の呼吸で打った一芝居。
祭は呉を抜け魏に亡命。現在、魏軍の中で火計の準備、実行のタイミングを計っている。
雪蓮「何言ってるのよ。冥琳の才能を信頼してるから全部任せてるんだからね」
冥琳「物は言いようね。でも、ありがとう」
雪蓮「お礼を言うなら冥琳も一緒に考えてよ~」
冥琳「何か……いや、誰か忘れている気がするというやつか?」
最近の雪蓮が、度々思い悩んでいることだった。
酷い時など、戦闘中に敵の兵を斬り殺しながら悩んでいることもある。
冥琳「今は他に考えることがあるでしょう?それに、あなたの影響で蓮華様と小蓮様まで――」
少し離れたところで、姉と同じ顔で思い悩んでいる妹二人の姿が。
雪蓮「あ、そうか!二人と考えれば良いんじゃない♪」
雪連は、私ってば頭良い~♪と上機嫌で妹達に駆け寄って行った。
冥琳は止めようとして、止めた。
冥琳(まぁ、私自身、知りたい答えでもあるしな……)
雪蓮と同じように、冥琳自身もずっと違和感を抱えていたのだ。
軍議の時、朝議の時、いつも最後に誰かの意見を聞こうとしていた。
冥琳(それはいったい、誰だったのかと――)
決戦の準備は整った。
後は知と武を以って雌雄を決するのみ。
魏は船上にて総攻撃の命令を待ち、蜀呉はその魏軍から火の手が上がるのを待っていた。
雪蓮「う~ん…あれ?なんか、私の大切な人だったような……?」
蓮華「いいえ、姉様。私の、その…はっ伴侶だった気がします!」
小蓮「ううん、違うよ!確か、シャオの旦那様だった気がする!」
いずれも“誰か”を自分の物だと主張する三姉妹。逞しい。
冥琳「まったく、まだやっているのか?」
雪蓮「だってぇ~」
冥琳「だってじゃない。もうすぐ火の手が上がる筈………むっ!なんだあれはっ!?」
冥琳は空から落ちてくる一筋の光を見つけ、驚愕の声を上げた。
――ドカァアアアンン~~ッ!!!
けたたましい音が響き渡る。遠くに流れ星が落ちたようだ。
そしてその瞬間、三国の恋姫達の脳裏に、ここではない世界の、在りし日々の記憶が蘇る。
華琳「一刀――!」
雪蓮「一刀っ!!」
桃香「ご主人様!」
三国が動き出す。もはや天下などを争っている場合ではない。
華琳「一刀は向こう岸の下流に落ちたわ!全軍前進!!」
春蘭「華琳様に続け!他国に先を越されるな!!」
雪蓮「かずとぉおお~っ!!!」
冥琳「ちょっ、一騎駆けはやめなさいっ!!」
桃香「愛紗ちゃんっ!行こうっ!」
愛紗「はい!全軍突撃!ご主人様をお守りするのだ!!」
雄叫びと「北郷!」「一刀!」の大合唱。
土煙を上げながら、三国全軍が流れ星の墜落現場へ。
華琳「一刀っ!!」
雪蓮「かずとぉお~!!」
桃香「ごぉしゅぅじぃんさぁあまぁああ~っ!」
三国の王が我先にと駆けよる。
見えた――光り輝くような白い衣。目標の少年は大地に横たわっているようだ。
そして、その彼の両脇には巨大な人影が立っていた。
「ぶるぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
大気と大地を揺らす咆哮。実際に地震が起きてしまった。
三国の乙女達は、愛しの男まであと僅かというところで足を止めることになった。
春蘭「何者だ!」
愛紗「桃香様、お下がりください!」
祭「策殿。こ奴は相当の手練れ、ここはわしが……」
王を守るように、筆頭の武将達が前に出る。
貂蝉「いやぁん!槍を向けちゃだめぇ~ん☆」
卑弥呼「や、優しくして欲しいのじゃ~」
装甲車のような筋骨隆々の肉体をくねらせるバケモノ二体。
対物ライフルでも効果があやしい連中が何を言うのか……。
筆頭武将達は思わず一歩後退した。
華琳「こら春蘭!後退は許さないわよっ!」
雪蓮「祭!いつもの威勢はどうしたの!?」
桃香「愛紗ちゃん頑張ってよぉ~!」
ここぞとばかりに部下を叱咤する三国の王達。
春蘭「ぅ、うわぁああんっ!来いぃ~ばけものぉ~っ!!」
泣きべそをかきながら剣を構える春蘭。
祭「お怨みいたしますぞ、策殿――」
もの凄い怨念の籠ったガンを垂れ、弓を構える祭。
愛紗「うぅ…ご主人様ぁ……」
愛紗はさめざめと涙しながら槍を構えた。
その光景を目の当たりにした他の武将達は、次に自分が当たらぬよう、挙って誰かの背中に隠れようとしている。
しかし、次のバケモノの言葉によって――。
貂蝉「あら、や~ねぇん。せっかくご主人様を届けに来たのにぃん」
卑弥呼「ダーリンがどの陣営の物になるか、重要な話があるのじゃが……」
――今度は挙って前に出ることとなった。
バケモノは、ムキムキのオカマだった。
今、長江の川辺では、三国の乙女達がオカマから説明を受けるという、大変シュールな光景が展開されていた。
卑弥呼「今のダーリンは、どこの陣営での記憶もないまっさらな状態じゃ」
貂蝉「ご主人様がどこの陣営の記憶を継承するかはあなた達次第よん♪」
卑弥呼「各陣営の代表者が、眠れるダーリンに熱いキッスをするのじゃ」
貂蝉「そうすれば、ご主人様は接吻の相手陣営の記憶を受け継ぐわよん」
ムキムキのオカマ達による説明が終わる。
すると、早速各国の王達がお互いを牽制し始めた。
雪蓮「まぁ、魏は無しよね」
桃香「うん、そうだね」
華琳「なっ、何を勝手なことをっ!」
雪蓮「だってぇ~、魏の陣営に行ったら、最終的に一刀は天に帰っちゃうでしょ~?」
桃香「もう、雪連さんっ!本当のことだけど、そんなはっきり言ったらかわいそうだよぉ~」
華琳「い、良い性格してるわね、あなた達っ……!」
怒りに震える華琳。だが、彼女自身も、一刀を失うのは二度とご免だというのも事実だった。
雪連「あれぇ?曹操ちょっと涙目になってない?」
桃香「あはは、そんなまさか~。え……本当に?」
華琳「なっ、泣いてないわよっ!」
雪連「そーそー泣いてるぅ~(笑)」
桃香「ぷっ、あははははっ!曹操さん可愛い~」
華琳「泣いてないっ!!」
もはや子供の喧嘩……というか、いじめっ子といじめられっ子のような構図になっている。
そして華琳がシリアスな空気を取り戻そうと、愛刀の『絶』に手を掛けた――その時だった。
蓮華「姉様!いい加減にして下さいっ!!」
関羽「桃香様も!お戯れが過ぎますよっ!!」
呉蜀のやきもち……もとい、常識人の二人が止めに入ったのだ。
雪連と桃香は仲良く悲鳴をハモらせた後、二人並んで正座させらることになった。
特に愛紗は、先程の生贄の件があるため、いつもの倍の説教となりそうだ。
華琳「ふんっ、当然の報いね」
幾分か冷静さを取り戻した華琳は、叱られる二人のいじめっ子を見て、冷たく言い捨てた。
風「華琳様~大丈夫ですか~」
華琳「ええ。でも、やはり春蘭を連れて行くべきだったわ。春蘭はどこ?」
風「春蘭ちゃんならあちらにいますよ~」
――ガギン!シャキンッ!
春蘭「うむ、さすが飛将軍と言っておこう!」
恋「おまえも、強い……」
翠「なぁ夏侯惇!次はあたしとやろうぜ!」
春蘭「いいだろう、いつでも来い!」
霞「ウチも忘れんといてーな~、誰かやろ~」
星「ふむ、では私がお相手いたそう」
皆で、和気あいあいとじゃれ合っていた。
華琳「まったく何をやっているのよ……。お目付役の秋蘭は?」
風「あちらです~」
――ヒュガッ!ヒュガッ!
秋蘭「フ、こんなものだ」
紫苑「まぁまぁ……といったところかしら?」
祭「ふん、ひよっこ共が、手本を見せてやる。ハッ!」
三人の弓使いは、遠くに突き立てた旗に向け遠的などに興じていた。
そして、100m以上離れているにもかかわらず、祭は見事に旗の竿を粉砕して見せた。
祭「見たか!弓は気合いじゃ!」
紫苑「いいえ。繊細さですわ」
秋蘭「平静こそが重要だ」
三人は睨み合い、再び弓を構えた。
華琳「秋蘭まで……まさかとは思うけど、風は変なことしてないでしょうね?」
風「う~ん、風はこの度、新しい団体に所属しまして~。その御報告に参ったのですよ」
話の流れから、絶対に碌でもないことと思いつつも、華琳は頬を引き攣らせながら尋ねた。
華琳「いったい、どんな団体に入ったと言うの……?」
風「あれです~」
と、風が指さす先には――。
桂花「貧乳は能力である!貧乳は希少価値である!」
明命「おっぱいは敵なのです!貧乳万歳!」
朱里「貧乳万歳ですぅ!」
雛里「貧乳ばんざぁい!」
季衣「あはは!ばんざーい!」
流琉「ちょっと季衣っ、意味分ってるの……?」
そこでは、ついに集ってしまった三国の貧乳達による決起集会が行われていた。
周りには「数え役萬☆姉妹の地和は、貧乳党を応援しています」と書かれた旗も立っている。
華琳「桂花……それに、季衣や流琉まで……」
風「しかし、風はなかなか侮れない一団だと思うのですよ」
華琳「あれのどこが侮れないというのよ」
風「実は、貧乳党には、風も含めて十五名の構成員がいるのですが~」
華琳「あら、結構いるのね」
風「はい。その中で、三国で軍師をしている者が四名います」
華琳「ふむ……」
華琳の表情が、人材好きの王の顔付きになる。
思想はともかくとして、団体の構成に興味を持ったようだ。
風「他にも、隠密や一騎当千の武将、王族の方までおられますね~」
華琳「なるほど」
確かに捨て置けないかもしれない。
人材もさることながら、どんな者でも集団になると発言力も増すものだ。
華琳は後で桂花を呼び出し、貧乳党を解党させることに決めた。
凛「華琳様」
華琳「あら、凛。あなたは変な真似はしていないのね」
凛「はい。残念ながら私は、貧乳ではありませんので」
クールな澄まし顔で決める凛。ちょっぴり優越感に浸っているようだ。
彼女は咳払いを一つすると、華琳に向き直りこう告げた。
凛「華琳様。呉と蜀が一刀殿の話の続きをと言っておりますが」
華琳「そう。お説教は終わったのかしら?」
凛「先程の非礼についても、孫権と関羽から謝罪がありました」
華琳「孫策は英雄だけど阿呆ね。戦でしか分からないこともあるけど、逆もまた然り」
先程の屈辱を思い出してか、華琳は引き攣った笑みで皮肉を吐いた。
そして、己の考えの硬さも反省したところで、彼女は再び話し合いの場へと赴く。
華琳「待たせたわね」
蓮華「曹操。我姉が失礼した、非礼を詫びよう」
愛紗「こちらも礼を欠いていた、謝罪させていただく」
律儀に頭を下げる両者。華琳は内心舌打ちをした。
華琳(頭まで下げられたら、非礼を引き合いに一刀を要求できないわね……)
華琳は頭を切り替え、別の手を探ることにする。
華琳「別にかまわないわ。それで、話の続きはあなた達とするのかしら?」
蓮華「ああ、よろしく頼む。それで、一刀の処遇についてだが……」
愛紗「やはり、魏には御遠慮頂きたい。ご主人様が消えてしまうのは貴殿も避けたい筈だ」
感情に任せた言葉ではなく、しかし瞳には有無を言わさない迫力がある。
華琳「ふむ……でもそれは、私が天下を取った場合でしょう?」
蓮華「むっ!?」
愛紗「どういうことだ……?」
まさか……と嫌な予感を感じる二人。華琳は涼しい顔で言い放った。
華琳「天下を諦めるわ。さらに魏の領土もあげる。割譲して呉と蜀で統治すれば?」
蓮華「なっ……!!」
愛紗「くっ……!!」
恐れていた事態だった。
蓮華(はやりそう来たわね曹操。確かに国一つで一刀が手に入るなら安いものだわ)
もの凄く不謹慎なことを思う呉の王族。そしてついに――。
蓮華「ならば我々も呉を差し出そう!……一刀は渡さないわよ!」
最後には完全に“女の顔”で恋敵を睨みつける蓮華。
話し合いの雲行きが再び怪しくなってきた。
桃香「なら!こっちだって蜀をあげるよ!なんだったら愛紗ちゃんも付けちゃう!」
愛紗「ちょっ!桃香様!?」
突如割り込んできた蜀王は、ソッコーで自国と妹分を売りに出した。
当然、売りに出された妹分は激しく抗議する。
愛紗「と・う・か・さ・まぁああ~っ!?」ムギュ~!
桃香「いひゃひゃぁっ!!」
白くてもちもちの頬っぺたを引っ張られる桃香。
涙目になり、腕を左右でバタバタさせている。弱っちぃ…。
桃香「痛いよぉ!愛紗ちゃん何するの~!」
愛紗「何するの~ではありません!人をなんだと思っているのですか!」
桃香「仕方ないよ。蜀は小さいし……それに、曹操さんって愛紗ちゃん欲しがってたよね!」
華琳「フ――残念だけど、一刀に比べたら石ころ同然ね」
蓮華「……一刀のいないところでは偉く素直なんだな」
愛紗「というか、勝手なことを言わないで頂きたいのだが……」
勝手に売り出された揚句、石ころ呼ばわりされた愛紗は疲れたように溜息を付いた。
桃香「じゃあ鈴々ちゃんも付けるよ!」
鈴々「お姉ちゃん!目を覚ますのだ!」
ピシャッ!と、飛んできた鈴々がフライングビンタ。
桃香「いったぁ~い!」
愛紗「桃香様。いい加減にして下さい」
桃香「うぅ~私負けないもん!」
涙目で頬を膨らませる桃香。
売りに出された妹二人は、乾いた瞳で姉を見詰めていた。
蓮華「はぁ……このままじゃ埒が明かないわね」
華琳「やはり総力戦で決着を付けるべきでは無くて?」
桃香「むぅ~!ダメだよ!私達に不利っ……じゃなかった。ご主人様が許さないよ!」
華琳「あなた本当に良い性格してるわね」
華琳はその図太さに呆れを通り越して関心すら見せた。
そこに、ここぞとばかりに割り込む桃色の影。
雪蓮「そうなのよ!桃香ってば、一刀が呉に降りた時、すごい腹黒だったんだから!」
華琳「へぇ~」
良いことを聞いた、と嫌な笑みを浮かべる華琳。
桃香「そ、曹操さんだって!ご主人様をぞんざいに扱ってたくせに!」
蓮華「そういえば、魏ではただの警備隊長止まりだったな」
愛紗「蜀でのご主人様は国主の一人でした」
自慢気に胸を張る愛紗。余程言いたかったのだろう。我慢できず、話に割り込んで来た。
雪蓮「蓮華。呉では最終的に一刀はどうなったの?」
蓮華「ほぼ国主と言って相違ないです」
桃香「え?でも、二国間協議ではいつも蓮華さんが……」
蓮華「ああ。表向きは私が出ていたが、最終的な決定権は全て一刀にあったから」
雪蓮「えっ!?それって、ほぼというか完全に国主じゃないの?」
蓮華「表向きは私でしたが……そうですね。呉は一刀の国でした」
事も無げに頷いて見せる蓮華。雪蓮的には“何言ってんのこいつ”という心境だった。
袁術からやっとの思いで領地を取り戻し、戦乱の世を血で血を洗いながら孫呉の再興を果たした。
それがどうだろう?妹いわく、旦那にあげちゃった、と言うのだ。さすがの雪蓮も腰砕けになるというものだ。
雪蓮「っ………」
華琳「あの、大丈夫?」
華琳はすごく気を使った。
雪蓮「き、聞いたかしら……曹操。ごっ呉は、国自体を一刀にあげちゃったわょ……?」
地に手を付き、これ以上ないほど落ち込んでいるが、雪連は気丈にも呉の功績として言い切った。
華琳「えっと………心中お察しするわ」
雪蓮「っ――そんな反応が欲しいんじゃないっ!!」
子供のように叫んで、雪連は駆けだした。
愛紗(まさか、呉がそのようなことになっていたとは……)
桃香(うちだって、私とご主人様の二人国主制だったのに……)
蓮華「姉様ったらどうしたのかしら?」
華琳「……呉で一番恐ろしいのは間違いなくあなたね」
蓮華「?」
人はいつだって、得体のしれないものには一定の恐怖心を覚えるものなのだ――。
しかし、いよいよ話が煮詰まり、収集が付かなくなって来た。
そもそも、三国共に天下を諦め、国すら差し出している時点で結論など出る筈がない。
皆、それほどまでに自分達との記憶を一刀に継承してほしいのだ。というか、一刀が欲しいのだ。
華琳「ふぅ……ねぇ、やはりこれしかないんじゃない?」
気だるそうに『絶』掲げる華琳。
桃香に愛紗、蓮華が顔を見合わせ、まぁ仕方ないかぁ……という空気が出来上がる。
愛紗「このままですと、明日になっても結論が出るとは思えませんし……」
蓮華「これも止む無しか……」
桃香「ご主人様をあのままにしておけないしね」
やれやれと、剣や槍に手を掛ける乙女達。
華琳「さて――」
蓮華「ええ――」
愛紗「いざ――」
チャキッ……と獲物の刃を返す音。鋭い眼光からは刺すような殺気。
見れば、周りで遊んでいた他の武将達も同じように睨み合っていた。
まさに、一触即発――。
するとそこに。
「空気」を「からけ」と読む男が通り掛かり。
華佗「むっ、こんなところに人が倒れている? よし、人工呼吸だ!」
――ぶちゅう…。
乙女一同「「「「え……?」」」」
華佗「ぷはっ!これで大丈夫なはずだ。ん?この男……一刀!?」
一刀「う、う~ん……あれ、ここは?」
華佗「一刀!久しぶりだなぁ!」
一刀「え……華佗? 華佗じゃないかっ!」
熱い漢達の友情が、再び始まるっ――!!!
記憶回帰 ~『漢』エンド~
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一刀のいない世界の赤壁の戦い直前から始まります。
拙い文章ですが、お読み頂ければ幸甚です。