No.600802

超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編

さん

その9

2013-07-23 20:30:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:764   閲覧ユーザー数:732

 

ーーーネプテューヌを殺せ。

 

 

そう恩人であるイヴォワール教院長はそう言った。

頬に流れる汗すら、体の中に流れる血流すら、激しく生きていることを証明する心臓ですら、その言葉を前に一瞬だけ全て停止した。

死んだと仮想するほどの驚愕、そんな巨大なことに俺は表情なんて隠せるはずがなかった。

ただ、その写真に雑談しながら笑みを浮かべるネプテューヌの姿を殺せと言われたことに黙ることしかなできなかった。

 

「……酷く顔色が悪いが、体調が良くないのか?」

 

歯が鳴らないように、渾身の力で拳を握りしめる。

爪が皮膚を突き破って、痛みと熱さが手から広がっていく。

けど、頭の中は海淵でも沈められたように冷たくて暗い。

 

「理由を……教えて、くれますかッ…」

 

歯を食い縛り、要約発せられた声は蚊の飛び音のように弱弱しかった。

 

「理由、それは本心からきた言葉か?」

 

「…………」

 

「紅夜さん、その反応からあなたはこの三人と面識があるようですね」

 

最早隠す気力も沸いてこらず、力弱く俺は頷いた。

 

「……そうですか、それは私も心痛いです。……この三人と共にいたこと、つまりラステイションでの一件もあなたは知っている又は関与していたのですね?」

 

「……俺は、ただ、良かれと、思って……」

 

モンスターを討伐するだけで帰る予定だった。

ラステイションの状況を知っても、俺にはどうすることも出来ないと諦めかけていた。

けど、ネプテューヌ達は引っ張ってくれたおかげで、滅茶苦茶だったけど、当てずっぽうだったけど、アヴニールと国政院の不正な繋がりを暴いて、あのロボットを倒して不正に働いていたアヴニールを解体に追い詰めた。ただ、自分のやっていることが正しいことだと信じて。

 

「しかし、彼女は私たちは信仰するグリーンハート様の対等の存在であり、打倒すべき存在、パープルハートなのですよ?」

 

「……………」

 

「彼女がいなくなれば、守護の力を失ったプラネテューヌの住民のシェアは一斉にリーンボックス、ルウィー、ラステイションに渡ります。しかし、ラステイションはアヴニール事件によりシェアは低下気味、ルウィーは異端者の集まり、故に温暖な気候、自然豊かな大地、治安もいい我らの大陸に集まるでしょう。更にプラネテューヌの技術力もあれば我々らの大陸は更に発展する!---紅夜さん」

 

イヴォワール教院長は荒々しく気持ちを抑えきれないように強く言い放ち、立ち上がって俺の肩を掴む。その握力は中年とは思えない程、強かった。

 

「さぁ、立ち上がってください。この大陸がよりよいものとなるために!貴方の一振りは、グリーンハート様に捧げる者なら、ーーー答えは既に決まっている筈です」

 

混乱する。頭が思考をフル回転させるために酸素を要求して、呼吸を高速化させる。

この大陸の輝かしい未来の為に、ネプテューヌをーーー殺す?

 

 

ーーー私はネプテューヌ!ねぷねぷかねぷ子でも可!

 

最初は、無作法な奴だと思った。

仮にも俺の方が歳上だったのに、敬語ひとつも使わないし自分勝手に動き回るから迷惑だと思うときもあった。

 

 

ーーー私たちはパーティーよ。言わば運命共同体、仲間を犠牲にするようなことは絶対にありえないわ

 

アヴニールの策略にあっさりと嵌められてしまい、目の前には巨大なロボット、周囲には50体以上は余裕でいるほどのモンスターの大群に囲まれた絶望的な状況で、ネプテューヌ達を逃がして俺は身代わりになると言ったが、彼女はそれを一番強く断った。とても仲間思いで、とても甘くて、とても強かった。

 

 

ーーーこぅちゃん。

 

頭の中に幾度もなく思い浮かぶのは、向日葵の様な彼女の笑顔だった。

拳に込めていた力が弱まる。息をゆっくりと整える。約束をしたんだこの大陸を紹介するって、あいつのことだ、また俺の家に遊びに来るはずだ。ーーーそうと決まれば、答えは決まった。

 

机に置かれたネプテューヌ達が写っている写真を持って、俺は立ちあがる。

目の前には、喜びに満ちたイヴォワール教院長がいた。

その表情に一瞬、心がチクリと痛んだ。仮にも相手は、俺に住む家を与えて、この世界の知識を教えてくれた恩人だ。

 

「俺は---」

 

それでも、俺は嫌だ(・・)

ビリッ、とイヴォワール教院長の前で俺は、その写真を両手で千切った。

 

「なっーーー!」

 

「たった一人の少女(・・)を殺して、産まれる発展なんかに興味なんてねぇ!!!」

 

ーーー言った。言ってやったぞこの野郎!。

女神だろうが、俺はあいつの仲間(・・)だ!

千切った写真を放り投げて、俺はイヴォワール教院長に指を向けた。

 

「この世界の邪悪なる敵、モンスターからの脅威から人々を守るだけに俺はいままで、そしてーーーこれからも剣を振るう!それ以外のことなんて知ったことか!!!」

 

女神みたいに導くことも、象徴になることも、守護の力もない人間である俺。

ただ、がむしゃらに暴力を振るうように俺に出来ることはただ人々の恐怖であり、絶望であるモンスターを狩ること……ただ、それだけだ!!

 

「………なるほど、紅夜さん。あなたはいい駒(・・・)だと思っていましたが、残念です」

 

イヴォワール教院長は、俺から数歩下がって、指を鳴らすとバンっと強引に扉が開けそこから拳銃など物々しい突撃銃を装備した教院関係者たちが入り込み、迷いなくその銃口を俺に向けられた。

 

「もう一度、命令します。パープルハートを殺害しなさい」

 

「断る!!」

 

力の限り俺は叫んだ、考える刹那も必要ない、即答だ。女神だろうが、今を誰よりも楽しんでいる少女、光の様な存在を誰が摘むものか。イヴォワール教院長の言っていることは、理に適っていることかもしれない。それでも、それでも俺は間違っていると叫ぶ。知った事かと。

 

「……やれ」

 

その言葉と同時に躊躇なく引き金は引かれ、銃声が響き、幾多の銃口から掃射された弾丸は、容赦なく体を抉り込み体内を破壊しながら貫通していった。

超高速で回転運動する凶弾は、右手に着弾して引き飛びそうになる。左足に弾丸が抉り体制が崩れ双になった時、腹部に数発が突き刺すように着弾して、一瞬足が浮かぶ。摩訶不思議なダンスを踊らされる。

 

カチカチっと弾切れの音が聞こえた時、俺は血沼に沈んでいた。

感覚は一切ない。全身の神経を切断されたように体が動かない。

痛みも、恐怖もない。ただ、外に体を構築する物が、流れていくだけ、とても寒い。

 

「チッ、化物め。まだ生きている」

 

左は真っ暗、右は真っ赤。

それが、俺の見える世界だった。

壁に叩きつけられ、崩れ落ちた姿勢。

真紅の空間の中で、誰かが歩いている。足音は聞こえない。

 

「異端者は粛清あるのみだ」

 

頭に何かを突きつけられる。止めなんだろう。あともう少しで俺は、確実に死ぬ。

人は死ぬ前に今までのことを思い出すとか聞いたことがあるが、何も思いつかない。思考は何もないの海に漂っているだけ。

どうしようもなく、悲しくなってきた。

俺はいなくなれば、ベールはどうなるんだろうか?ケイブ先輩とチカだけでちゃんとあの重課金者を止められるんだろうか?

ネプテューヌ達は、どうなるんだろうか?俺の一方的な想いであったけど、あいつ等と一緒にいて楽しかった。ラステイションで教院側の隠れ家に言った時、俺はリーンボックスからのスパイと疑われ銃口を向けられたとき、俺をその身で庇って違うと訴えてくれた。何の得もないのに……。会ってまだ指で数えれるぐらいしか、関係はなかったのに。

ノワールから頼まれた仕事も、まだ何も分かってないのに。

 

 

ーーーよく、言ったね。紅夜(・・)

 

意識が黒く染まっていく中で、禍々しく九つの瞳が輝く。

いつもの『ニヒル』はどうしたんだデペア?いつもの呼び名はどうした?なんで俺を名前で呼ぶ。

 

 

ーーー…………君は間違っていない。おつかれさまだよ。

 

その声はとても優しく、温かった。全身に力が抜ける。否、流れてしまった。それでも、充実した気分になれた。一年だけだったけど、濃密な日々を過ごせたのだから。

 

 

そうだ俺は、正しいこ『ダンッ!!』ーーー……………

 

 

 

 

 

 

 

 

彼ら達の目の前の肉塊は倒れた。

小さくも強く燃える蝋燭が最後に輝き、崩れ消えるような最後だった。

 

「おい、こいつを裏山に埋めて、家を焼け」

 

彼らの中でも一番豪華な祭服姿の中年の男性が部下に指示を出した。

 

「はい」

 

部下は頷き、予めこの部屋に置いている真っ黒なゴミ袋から縄などの拘束器具取り出して作業を開始した。

他の部下たちは掃除道具を持って来たり、周囲に人を近づけないために拡散していく中で、一人の部下がイヴォワール教院長に恐る恐る口を空けた。

 

「……よろしかったでしょうか?」

 

「何がだ?」

 

「彼は、グリーンハート様とプライベートでも会うほどの仲だと噂されています。確かに彼を殺すことに対して異議はありませんが、………これでは」

 

「問題ない。グリーンハート様は女神。我らとは違う次元に降臨している存在だ。こんな有象無象の化物に興味を出したのは、きっと気まぐれにしかすぎない。それに噂は噂だ、信憑性に欠けている情報を鵜呑みするな」

 

「す、すいません」

 

ぺこりと深く謝罪の姿勢を出す部下は逃げるように去っていく。

流石にこの遺体を教会から誰にも目撃されず、持ち出すのは骨がいる。しかし、そんなことは大陸で一番の権利を持っていると言ってもいい彼からすれば、造作もないことだ。

 

「……チッ」

 

この手で殺しても気に入らないようにイヴォワール教院長は遺体を見下ろす。

自分が信仰するグリーンハートが命令されたとはいえ、彼にこの世界の知識を教え、住む家を用意したまでは良かった。それで、終わりだと思っていた。

しかし、グリーンハートもこの若造も、秘密裏で良く会い遊んでいることをイヴォワール教院長は知っていた。可笑しい、なんなのだこの差は、長年この大陸に生まれグリーンハートの神々しさに触れ、人生の全てを消費して仕えたいと、グリーンハート様こそがゲイムギョウ界を総べる存在だとありとあらゆる手を使ってきた。

なのに、いきなり現れた新米が、今までの努力を嘲笑うようにグリーンハート様の近くにいた。その可憐な笑顔を独り占めすることが出来た。女神ではなく、ただ一人の少女としてグリーンハート様は輝いた。

 

 

ふざけるな、ふざけるな!!

 

 

イヴォワール教院長は、黒い感情を抱きながら憤慨する。

抹殺する。グリーンハート様を女神から堕落させる不純物をこの手で消す。

そして、この時、女神としての尊厳を危めた悪鬼をこの手で殺すことが出来たが、その死に顔は絶望でも恐怖でもなく、まるで大仕事を要約終えたような豊かな表情だった。

意味が分からない。右手は原型を保っておらず、左手は腕はあるが手がない。左足は一皮で繋がっているような物、右足は肉が限りなく吹き飛び骨が露出している。腹部は蜂の巣ような穴が形成されており、その顔は左目は確実に失明して、両耳は使い物にはならない。

 

 

なのに、なのに、どうしてそんな顔が出来る!?

 

使い潰してやる、少しでも反抗すれば即殺してやると考えていた。

そして、パープルハートが彼の知り合いであることを知り、今回の依頼を思いついた。

最高だった。顔面は血が抜けた様に青くさせ、その手と手の間には血が流れている。

苦しんでいる。誰がどうみても苦しんでいる姿に誰よりもイヴォワール教院長は歓喜に震えた。これが罰だ、天罰だ!女神を殺せば、また使い潰してやる断ったのなら殺してやる。

若造が選んだのは、断る。そして今回の殺害に及んだ。最初の動揺を隠せない表情は、今は気持ちよく眠る表情。

 

「何が、……奴を…変えた…?」

 

死体は、既に部下が持っていた。

残されたのは、バケツでぶちまけたような鮮血痕。

イヴォワール教院長は、それを見ながら忌々しそうに再度舌を鳴らせた。

 


 
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