No.600096

超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編

さん

その8

2013-07-21 20:38:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:570   閲覧ユーザー数:551

お昼頃のちょうどいい時間に俺は、教会のベールの部屋にいた。

あれから、ずっと真夜中送られてきた依頼書を片付けていたから、すっかり日が昇ってしまった。

今日は特に用事はなかったから、横になった瞬間狙った様にベールから連絡が来て断りたかったが、断る暇もないまま切られたので、重たくなった体を動かしてこうやって来たわけだが……。

 

「紅夜、紅夜。これを見てください!」

 

「ふぁ……一体なんだよ…」

 

襲い来る眠気と戦いながら、対象にベールは太陽の様な明るさでそれを見せつけてきた。

それは、ブレード・アート・オンラインというプラネテューヌの方で新しく造られているVRMMORPGの応募結果が掛かれた手紙だった。

今は、ベータテストで1000人だけ応募受付中だったが、ベールはその1000人中の枠組みに入れたのか……それは、凄いな。

 

「ところで聞きたいんだが」

 

「なんでしょうか、紅夜?」

 

とてもいい笑顔だ。それこそ今にでも天に昇っていきそうなほどに。

友人として、それは同じく喜ぶことだろうが、一応聞かなければならないことがある。それはーー

 

 

「女神の特権ーーー使ってないよな?」

 

ワーイ、と勝ち誇って応募結果表を持ち上げて読むベールの体が止まった。首からロボットのように機械音が鳴らしてこちらを向く。

 

「………ド、ドイウ意味デショウカ…?」

 

「安心しろ、お前のその様子で大体は分かった」

 

はぁと頭に手を置いてため息を吐く。職権乱用ここに極まり。

いつかはすると思ったが、本当にしやがった……。

 

「しかし、手札にあるもの無駄なく効率よく、有効に使うのはゲームも現実も……あいたっ!」

 

「はいはい、言っていることは正しいかもしれないけど、やってることは酷いからな」

 

問答無用とばかりベールの頭にチョップを決める。

俺があれがあれこれ言っても大して反省もしないだろうから、とりあえず形だけでも叱っておく。

それにしても、相変わらず凄い部屋だ。

半裸の男性のポスターや、何らかのアニメのカレンダー。

大きい透明のガラスケースには様々なフィギュアがポーズを決めて収められており、デュアルどころかトリプルモニターの高性能パソコン。正にオタクが自分の趣味に没頭するための理想形の部屋だと思っていい。

 

「女神がそれでいいのか?」

 

「守護の力は、なにをしなくても無意識上で働くので問題はないですわ。シェアもここの所好調ですし。それにしてもレディの頭にいきなりチョップするなんて酷いですわ。横暴ですわ!」

 

「お前は表面ではきっちりとしているが、日常生活がダメダメだ。徹夜でゲームをよくするし、お金の扱いとか誰かが財布の紐を握ってないと危ないし、三日とか四日で徹夜した時なんていつ倒れても可笑しくないほど酷かったぞ」

 

雄大なる緑の大地の女神グリーンハートことベール。

露出の多い、色鮮やかな緑と白を基本としたチャイナドレスのような服装。

いつも微笑むように見えてしまう下がり眉と穏やかな雰囲気を感じる容姿と腰まで届きそうな山吹色の髪先はふんわりとして、そのグラビアアイドルようなスタイルは母性的な要素を醸し出している。

 

しかし、その実態はアーケードのガンシューティングゲームで、ヘッドショットを狙わせたら右に出る者はいないというオンラインゲームでの世界では生きる伝説と称えられる☨グリーンハート☨のアバターの使用者。

BLゲームや乙女ゲーム等、興味を持つ者には見境なく手を出す極度のゲーマー。

更に、オンラインゲームでは思わず課金してしまう金銭面で雑な扱いをすること部分もあり、深夜にいきなり電話で今月分の課金代がお小遣いより、上回ってしまったからクエストを手伝ってと半泣きで頼まれて、連れまわされることもあったり、ゲームに集中しすぎて時間を忘れてしまい女神仕事を後始末にしておいて、自身は体調を悪くして寝込んだこともあったのだ!その仕事は秘密裏に俺とケイブ先輩とチカが片付けたけど!

 

「うぅ、耳が痛いですわ…」

 

「もっと、自分の体を気遣ってくれ……お前が具合を悪くすれば俺の心臓も悪くなる」

 

「……心配してくれますの?」

 

「当たり前だ。俺はお前のこと、大切に想っているからな」

 

やる時はやるって性格で、ダンジョンで倒れていた見知らぬ俺を助けてくれた。

何も分からない無知な俺に様々なことを教えてくれた。

心の底から感謝している。お前がいなければ今の俺はいないと断言できるのだから。

 

「…さ、さすがに真正面からそう言われると照れますわね……」

 

「何か言ったか?」

 

「な、なんでもありませんわ!」

 

微かに頬を紅潮しながらボツボツと呟いても何も聞こえないぞ。

 

ーーーこれが鈍感補正という奴か……ニヒル、一体君は何人を落すつもりだい?

 

落すって……どういうことだ?俺はただベールに対して思っていることを口に出しただけだ。

ベールは俺にとって、とても大切な人だ。それを曲げる気もないし、偽る気もない。

 

ーーーあー、なんていうか純粋だね……悪意を感じる程に

 

純粋なのに悪意?今一意味が分からない。俺が大切にしている想いは悪意なのか?

 

ーーーダメだ。こりゃ、話が通じない……切るよ

 

ブチっ、と強制的に話を終わらされた。

……デペアは何を伝えたかったんだろうか。

 

「紅夜?」

 

「あ、悪い」

 

デペアと話をして意識がそっちに行っていた。

 

「ところで……俺を呼んだのは、それが当選して自慢したかっただけ?」

 

「えぇ、そうですわ」

 

ニッコリと微笑ベールに対して俺は目を細めた。……徹夜づけで仕事するほど忙しいのにな……これから各地の教会に連絡して、詳しく被害状況を聞いたりして、この分野にて特化しているハンターとかにも連絡しないといけないのになぁ……。

なんだか、とてつもなくデカい脱力感が襲ってくるが、ベールに悟られないほどの小さなため息をつく。

 

「私には、こうやって一緒に笑ったり遊べる友達が少ないですから……ひょっとして迷惑でした?」

 

女神という存在は人々から崇拝される存在。故に孤独、その神々しさに、その高貴さに、その強さにどれほど人々が崇めても、女神の姿を知れても、心はきっと理解できない。

何故なら女神と人間は別次元の存在だからだ。人から一歩別の視野から見えるこそが神と呼ばれる領域だと思っている。

けど、少しぐらいならベールだって生きているのだから。ワガママの一つくらい胸に納めていないで開放しても絶対に罰はない。俺は首を振ってベールの言葉を否定する。

 

「ちょっとこっちの都合を考えてほしい時もある。けど、お前と一緒にいれて楽しいからいい」

 

「下ろして、上げるだなんて……酷い殺し文句ですわ」

 

ベールは、俺から目を逸らして耳まで真っ赤になった。

こっちは、ちょっと皮肉を入れたから文句を返されると思っていたんだが……これは、予想外だ。

何とも話しかけづらい空気に困っていると頭に中に少し前に言われたことを思い出した。

 

「あ、そういえば、今日イヴォワール教院長様に呼ばれているんだった」

 

「教院長に…?」

 

「あぁ、大切な依頼があるから絶対にくるようにって」

 

ベールの部屋に行こうとしたら、教院関係者が俺にそう言ったんだよな。

時間まではそれなりにあるから、ベールの所まで行ってからでいいかと思ったんだけど……相手はとても忙しい方だから、待たせずに直ぐに内容が効けるようにと考えた時、時間的にはそろそろここを出ないと不味いかもしれない。

 

「そうですか、格ゲーで一試合くらいしたかったのですが……」

 

「流石にちょっと、無理かな。しばらくはリーンボックスにいると思うから、時間が空いたら連絡するよ」

 

お互いに反射神経がいいので、格ゲーは長期戦になるだよな俺達。

それを分かっているのか、ベールも残念そうな顔をしながら引き下がってくれた。

 

「……分かりましたわ。それじゃ、また」

 

「おう、またな」

 

今日は教会に用事があるので、窓から降りなくていい。

こっそりとベールの部屋のドアを開けて人気がないのを確認すると素早く、後ろで手を振るベールに俺も手を振りながら急いで待ち合わせの場所まで音を立てないように走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忙しい中、すまないね紅夜くん」

 

「いえ、俺もリーンボックスの住民です。この国で困った事があれば、喜んで力になりますよ」

 

待ち合わせた場所は、来訪客用に造られた綺麗な部屋だった。

リーンボックスのいい所を見せつけるために雄大な自然を見せつけるためにこの部屋は、かなり高い位置にあって街の風景やその向こうの山々を見通せる一種の企業的交渉の場として使われている。

目の前の中年の男性ーーーこのリーンボックスでは、ベールが不在時にこの国の政治を任されているイヴォワール教院長様だ。

俺に住む家……あの木造の家を用意してくれた人でもある。

因みに俺とイヴォワール教院長様は対面する形でソファに座っている。

 

「ふむ、君のそのひたすら真っ直ぐな崇拝心にはいつも感銘を覚える。君の様な若者がいて私も誇らしい」

 

「ありがとうございます」

 

この国は、俺にとって生まれの地だ。

あの家も、この国にも、一年という短い月日だが掛け替えのない思い出がたくさんある。

 

「無知だった俺を拾ってくれたグリーンハート様のために、なにより俺に住む場所を与えてくれた。この国のためなら、なんだってやります。……けど、今の自分じゃモンスター討伐くらいしか出来ませんけど」

 

「そう自分を過小評価するでない。君ぐらいの歳では、まだ自分の道を捜索している者もたくさんいる。そんな中で自分の出来ることを探し出して君は実行している…素晴らしいではないか」

 

「……恐縮です」

 

小さく、頭を下げる。

本当に、この人には頭が上がらない。

 

「……そろそろ、本題に入ってよろしいかな?」

 

「あっ、はい!」

 

背筋を整えて、息も整えて。

こうやって、伝達ではなく直接会っての依頼だ。きっと、とても大切な案件のはずだ。

一語一句、聞き逃すことがないように集中力を高めて、真剣な表情のイヴォワール教院長様を見る。

 

「君は他国ではなんと呼ばれているか……知っているかね?」

 

「え?」

 

その質問に俺は思わず頭を傾げた。

 

「君は凄腕のモンスターハンターだ。その剣術と魔法で如何なるモンスターでも臨機応変に戦闘スタイルを変えて、打ち滅ぼしてきた。君の特徴、その黒い大剣の閃光は誰にも止められないことから『黒閃』ーーーそう呼ばれているね」

 

「あ、はい……」

 

てっきり、いきなり仕事の話から始まると思えば予想外に俺のことを話し始めたイヴォワール教院長様。

 

「そしてもう一つーーー女神に匹敵するほどの実力者(・・・・・・・・・・・・・)

 

「……えっと、それはどっかのギルドが適当に流した噂で」

 

「いや、君は一年だけの時間でゲイムギョウ界で一位、二位を争うほどの実力者になった。君なら出来る、いや信頼している」

 

ーーー嫌な予感がした。

褒め言葉を言ってくれているのに、イヴォワール教院長様の言葉はまるで相手がモンスターではない(・・・・・・・・・)と言っている様に思えて不信感が溢れたからだ。

 

「君には大変な仕事を頼むことになる。しかし、これが成功した暁にはリーンボックス全体の発展に繋がるんだ」

 

そう言って、イヴォワール教院長様は机に一枚の写真を置いた。

その写真に写っていたのは、リーンボックスの街の商店街だった。

ドクンっ、心臓が大きく高鳴った。

なぜなら、写真の中心点には三人は見知った……昨日会った少女が映っていたからだ。

アイエフ、そしてコンパ、目で追って姿を確認して、もう一人ーーーその名が浮かぶ前にイヴォワール教院長様は、彼女を指差した。

 

 

「この娘は他国の女神。我が国の女神グリーンハート様の敵、プラネテューヌの女神」

 

いつの間に力強く握っていた拳に汗が落ちた。

許されるのなら、今にでも耳を塞ぎたかった。

それでも、それをしなかったのは心のどこかで間違いだと、諦めなかった自分がいたからだ。

 

 

「---ネプテューヌ。彼女を殺せ(・・)

 

しかし、現実は残酷だった。

 

 

 


 
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