「長谷川、次の土曜日は空いてるか?」
「……すみませんシグナムさん。模擬戦の相手なら別の人にお願いします」
俺は丁寧にシグナムさんに断りの返事をする。
「待て!!勝手に模擬戦だと決めつけるな!!」
「違うんですか?」
「模擬戦はまた次の機会にだ。今回は違う」
次の機会とやらが来ても絶対に断ろう。
「まあ、模擬戦じゃ無いと言うのなら一体何ですか?」
任務の手伝いとかか?
シグナムさんはなのは達みたいに本局で働かず、地上の航空武装隊なんだよね。
「うむ…じ、実はだな……
ゆっくりと俺の前に差し出してきたのは
「…遊園地のチケットですか?」
俺の誕生日の時、ユーリと一緒に行った遊園地のチケットだった。しかも2枚。
「ああ…実はちょっとした事があってこのチケットを貰えてな。せっかく貰ったのだからも、もし良ければ…一緒にどうかと……お、思ってだな////」
土曜日……予定は特に無いな。
「別に良いですよ」
「そうか……良いのか………って、い、いいい、良いのか!!?」
いや、アンタが予定聞いてきたうえに誘ってきたんでしょうが。
「き、聞き間違いではないな!!?嘘を言ってる訳でもないのだな!!?////」
「はい、俺は大丈夫です」
素直に頷き、答える。
「本当だな!!?もうキャンセルは聞かんぞ!!?嘘吐いてたらレヴァンテインで1000回斬ったり突き刺したりするからな!!?」
何それ怖い…。
針千本じゃなくてレヴァンテインを振るうだなんて。
…仮に刑を受けるとして非殺傷設定……ですよね?
「だ、大丈夫ですから落ち着いて下さい!」
「あ、ああ…失礼した。つい興奮して…(そ、そうか。土曜日は私に付き合ってくれるという事か)////」
恥ずかしそうに頬を染めるシグナムさんの表情は新鮮だねぇ。滅多に見れる様な事じゃないし。
「で…では土曜日は私に付き合って貰うからな!!当日の集合時間と待ち合わせ場所はお前に任せる!!ではな!!」
言いたい事をやや早口で言ってそのまま走って去っていくシグナムさん。
……誘われたのは俺なのに、俺が集合時間と待ち合わせ場所を決めなきゃいけないのかよ………。
土曜日…。
先日、俺は午前9時30分に駅前で待ち合わせる旨を連絡した。一旦八神家に電話で連絡した際
『八神家へ直接電話するのではなくレヴァンテインにメールで連絡してほしい』
って、電話越しに力強く言われ、電話を切られたのでわざわざメールで連絡し直した。
駅前の時計が示す時刻…現在は9時15分。
「1ヶ月ぶりの大人モード…どこも変じゃない…よな?」
シグナムさんが『今日は絶対大人モードで来い』と届いたメールに書かれていたから今俺は大人モードになっているけど何でシグナムさんが大人モードの事知ってるんだ?言った覚えは無いんだけど。
「《はやてちゃんが言ったんじゃないかな?》」
ダイダロスが言う。
だよなぁ。シグナムさんがファッション雑誌読むとは思えんし、こう言っちゃあ悪いが読んでる姿が想像出来ん。
はやてがポロッと漏らしたと考えるのが妥当か。別にバレて困る訳じゃないから良いけど。
今回の服装はバリアジャケットを私服に構成したりせず、普通に服屋で買った物だったりする。
「《ていうか今、大人サイズの服買う必要無かったよねユウ君?》」
「《い、良いじゃんか!一目見た瞬間何故か気に入ったんだから!》」
ぶっちゃけ衝動買いである。
お金が勿体無いとも取れるがちゃんと10年経って成長した時も着るよ?ホントだよ?
「…しかし今日も日差しが強いなぁ」
シャツの胸元部分をパタパタとさせながら呟く。夏なんだから当然と言えば当然なんだが。
「ま…待たせたな!!////」
ふと背後から声を掛けられたので振り返る。シグナムさんが来たか。
「いえ、そこまでま………」
『待ってませんよ』と言い終える前に俺は言葉を止めてしまった。
振り返った先には確かにシグナムさんがいたのだが…
「////////」
顔を赤くしてガチガチに緊張した様子のシグナムさん。
「……………………」
俺はそんなシグナムさんを見たまま立ち尽くしていた。
「そ、その……どうだろうか?たた、たまには気分転換のつもりで着てみたのだが……////」
「……………………」
「や、やはり私にはこの様な格好は似合わないだろうか?////」
「……………………」
「は、長谷川?」
「……………………」
「長谷川!!」
「はいっ!!?」
「ど、どうした?さっきから呼び掛けても返事しないとは…どこか調子でも悪いのか?」
「い、いやいやいや!!そんな事無いですよ!!ただ…」
「ただ?」
「シグナムさんが
「うっ……や、やはり似合わないか?」
「そんな事無いです!!凄く似合ってますよ!!」
この言葉に嘘偽りは無い。
今日のシグナムさんの服装は肩を丸々露出させたライトグリーン色のベアトップに、黒色と白色のチェック柄が入ったショートパンツを穿いている。
それに普段はリボンで纏めているポニーテールの髪形も止め、ストレートに下ろしている。
「(何つーか…目のやり場に困るというか…)//」
ベアトップと素肌の合間から見える胸の谷間や、モデルのようにスラッとした美脚はこの上ない凶器としか言い様がない。
今日に限ってやたらと肌を露出させてる恰好のシグナムさん。
『八神家でシグナムさんとリンスだけはファッションなんかに興味無いんじゃ…』なんて先入観を持っていたけどそんな事は無かったのか。
道行く人は男女問わずにコチラを見ている。
「(これ…コーディネイトしたのははやてか?シャマルさんか?)」
八神家のメンバーで真っ先に思い浮かんだのはその2人だが…。
「////////」
そもそもこんなに顔を真っ赤に染めてモジモジしてるのが普段のシグナムさんと同一人物だとは思えないんだが?
ミーンミーンミーン…
セミの鳴き声が聞こえる中、俺達はお互い無言でいるがこのまま何もしないでいるのも時間が勿体無いので
「…とりあえず行きましょうか?」
待ち合わせの時間より少し早いが。
「そ、そうだな////」
俺達切符を買って改札機をくぐり電車に乗る。
電車は俺達を乗せ、目的地に向かってゆっくりと動き出すのだった………。
やって来ました遊園地。
「むぅ…今日は人が多いな」
「まあ、世間は夏休みの時期ですからねぇ」
周りにいる人達はほとんどが子連れだ。親と仲良く手を繋いで歩いていたり元気にはしゃいでいる姿は見ていて微笑ましいモノがある。
「うーん……ルーやジークも近い内に連れて来てやろうかな?」
俺が引き取って2ヶ月程経ったジークは当然だが、よく思い出したらルーテシアも遊園地に連れて来た事は無いな。
「ジークというのはお前が引き取ったという子だったな」
「そうですよ」
「ミッド出身の子だと聞いたが?」
「ベルカ領に家がある子ですけどね」
現在は忍さんに作って貰った『
「…そういえばつい先日だが、テスタロッサも子供を保護したと言っていたな」
「そうなんですか?」
初耳だ。
「違法研究の施設で軟禁されながら非人道的な扱いを受けていた子らしくてな。重度の人間不信に陥っていて未だ誰にも心を開こうとしないらしい」
………それってエリオの事だよな?助けられて間もない頃だからまだ心が荒んでる時期か。
「テスタロッサも随分と気に掛けてはいるらしいのだが…」
「そうですか…。まあフェイトならその子の事、何とか出来ると思いますよ」
「何故そう思う?」
「フェイトは執務官として違法研究の捜査を担当する傍ら、そういった境遇の子供達を保護し、救う事も自分自身に課しているみたいですし。それにアイツ、結構子供に対して過保護な一面がありますから」
既に何人かの子供達を保護した事もあるみたいだしな。今では施設で元気に遊び回っているとも本人は言ってた。
「……随分テスタロッサの事を理解してるみたいだが?」
「はは……シグナムさん達より付き合いは短いですけどもう皆と出会って2年は経ってますから」
「そうか…。それに学校でも同じクラスらしいから嫌でも理解する様になるな」
「…シグナムさん、怒ってます?」
「怒る?何故怒る必要がある?」
その理由が分からないから聞いたんですけど。
フェイトの事について自分なりの意見を述べると不機嫌そうになったシグナムさん。言葉にもやや怒気が含まれている様に感じる。
「……いえ、俺の勘違いですね。すみません(何か変な事言ったら俺の身が危うくなりそうな気がするし…)」
「分かればいい(むう…テスタロッサの事を良く見ているというのが腹立たしいな)」
隣に並んで歩いているシグナムさんに頭を下げる。
何か気に障る事言ったつもりはないんだけどなぁ…。
~~シグナム視点~~
長谷川と遊園地内を歩き、どのアトラクションに行くかお互いに考える。
「(それにしても…)//」
私は隣に並んで歩く彼をチラリと盗み見る。
「(10年後の長谷川…か)//」
中学生の彼より背が高く、どこか幼さが残っていた顔付きも完全に無くなり1人の『成人』としての雰囲気を晒し出している。
「(あ、主はやてがシュテルに嫉妬したというのも頷けるな)////」
以前、やけに落ち込んで学校から帰ってきた主はやてに聞いたのは長谷川とシュテルが大人の姿で雑誌に載せられていたという事だった。しかも普通の服装では無くタキシードとウエディングドレスを着た新郎新婦の姿でありせ、せせせ、接吻している場面も撮られていたとか。
「(くっ…何故その時私が長谷川の隣に立っていなかったのだ!!)」
そう思い、悔やまれる。
しかし、すぐに気持ちを切り替える。
「(し、しかし今日は私と2人だけなのだ!!まだ挽回の余地はある筈!!)//」
そうだ!!過去の事ばかり気にしていても仕方あるまい!!
「(そ、それに…)//」
今日はその……異性と出掛けるで、でで、でででで、デート用に容姿や服装を変えているのだ。
とはいえ、こういった事に関しての知識は無いに等しい私だ。主はやてやシャマルに相談でもしたら済む事なのだが、もしすれば今日の事を間違い無く疑われるだろうから服屋の店員にアドバイスを聞き自分で鏡を見て、試行錯誤しながら見た目を整える事4日と20時間16分57秒。
だが、それだけの時間を掛けた甲斐合って長谷川も私の姿を褒めてくれた。
『そんな事無いです!!凄く似合ってますよ!!』
この言葉だけで私の苦労は報われた。
普段と違いやたら露出の多い服装や下ろした髪形にしたが、これで『似合わない』とでも言われたら介錯も辞さない覚悟だった。
長谷川の言葉からはお世辞といった感じではなく本当に褒めてくれた事が嬉しかった。
『まずは見た目を変えて意中の相手の視線を引き付けてみましょう』
本屋で密かに購入した『デート戦術指南書』とやらにも書いてあったが…。
確かに長谷川の視線は時折コチラに向く様になった。
しかしこれで視線を引き寄せるって別の意味ではないのか?感じる視線の先はどう考えても私のむ、胸元だし。
「(だ、だがこれぐらいせねば長谷川は私の事を意識せんだろう。これで気が引けるというのならば安い代償だ。)////」
そうだな、まずは意識させる事が重要だ。恥ずかしいが我慢我慢。
「ところでシグナムさん?」
「(ビクッ!)なな、何だ!!?」
「どのアトラクションにするか決めました?(うっ、怯まれた…。やっぱり俺がちょくちょく胸元見てるのに気付かれてたか…けどあの格好で『目を向けるな』って言われるのも難しいし…ホント、思春期って厄介なモンだよなぁ…ハア)//」
「む…その、済まん。この手の事に私は疎くてな(し、視線を若干逸らしながら話し掛けるとは長谷川らしくないな……アレか!?効果有りか!!?)////」
こ…コレはいけるのではないか!?明らかに私(の胸)を意識している!!
いける!いけるぞ!!ここで攻めずに何時攻める!!?
本に書かれていた次の段階は確か…
『さりげなく意中の相手と密着しよう』
だった筈だ。
「(み、密着か…だが、どうすればいい!?)」
何か良い手は無いものか…
そこへ1組のカップルの会話が私の耳に入る。
「ねえジョー、ジョーったら!」
「何だいリンダ?」
「さっきのフリーフォール、すっごく怖かったわ」
「ああ、中々スリルがあったな」
「見て。怖くて今も私の手が震えてるの」
「そりゃいけねえや!!」
ギュッ
「どうだい?少しは震えが止まったかい?」
「ええ、ありがとうジョー////」
「これぐらいはお安い御用だぜリンダ////」
「ジョー…////」
「リンダ…////」
「「「「「「「「「「カップル死すべし!!リア充死すべし!!」」」」」」」」」」
ドゴッ!!バキッ!!ボカッ!!ゲシゲシ!!
「ひぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!?」
「ジョーーーーーーーーー!!!!!!?」
イチャイチャしていたカップルの男の方を通りがかりの一般人の群れが暴行し、去っていった。
……………………
………………
…………
……
コレダーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!
「長谷川!!今すぐフリーフォールに乗るぞ!!!」
「は!?いきなり何ですか!!?」
「説明する時間は無い!!『善は急げ』だ!!」
先程のカップルの様にすればさりげなく手を握って貰えるではないか!!!
私は長谷川を急かし、フリーフォールとやらの元へ向かい、最後尾の後ろに並ぶ。
「シグナムさん、急にどうしたんですか?この手の事に関しては疎かったんじゃあ…」
「い、いや!以前この遊園地にあるアトラクションについて聞いた事があったのを思い出してな//」
「そうなんですか?」
「う、うむ。このフリーフォールも人気アトラクションの1つらしいし、折角来たのだから乗らねば損だろう?」
「まあ、そうですね(以前ユーリと来た時は乗った事無いアトラクションだし…乗るのも悪くは無いな)」
徐々に順番待ちの列は消化されてついに私達の番がやってくる。
こ、このアトラクションが終われば…。
安全装置を装着し、フリーフォールのライドが後方に移動した後、私達を乗せてゆっくりと上昇していく。
このままタワーの最上部まで運ばれたら後は地面に向かって急降下。このスリルがフリーフォールの醍醐味らしいな。
「ドキドキするなー」
「うう…やっぱり乗るんじゃなかった。…怖いよぅ」
「天国のじいちゃん。今ソッチに向かいます」
他の客も各々口から言葉を漏らしている。逆に長谷川は落ち着いた感じで静かに前を見つめている。
最上部に辿り着いたライドがゆっくりと前進し、トラック上にセットされて数秒後…
ゴオーーーーーーーッ!!!
ライドは垂直に落下して行き、気付けば私達は空を見上げている格好になっていた………。
「長谷川…フリーフォールはどうだった?」
「いやぁ…落ちたと思ったらもう空を見上げる格好になっていてビックリしました」
「そ、そうか……実を言うと私はな、少し怖かったのだ//」
「は?全然そんな風に見えないんですけど?」
「ほ、本当だぞ!見ろ!!腕が振るえるほど怖かったんだ!!」
ブンブンブン!!
「……そんな大振りで震える人なんて初めてみたんですけど…」
う…少し大袈裟過ぎたか。
何だか呆れた感じの顔で見られてるし、もう私の格好にも見慣れたのか普通にコチラを向いてるし。
「(くっ…加減を間違えたか)」
『長谷川と手を握る』というミッションは失敗に終わってしまった。
肩を落とし、落胆する私だが
「(いや!まだ時間は充分にある!アトラクションだって沢山あるのだ!!)」
そうだ!まだまだ機会等いくらでも巡ってくる筈だ!!たった一度の失敗で落ち込んでいてどうする!!
「この程度で私は挫けたりはしない!!」
「(ビクッ!)ど、どうしたんですかシグナムさん!?いきなり叫んだりして…」
…………はっ!!?
どうやら私は声を出していたみたいだ。
長谷川だけでなく、私の声が聞こえた他の一般人の視線も全てコチラに集まっている。
「な、なななな、何でも無いぞ!!ホントだぞ!!////////」
両手をブンブンと振りながら、慌てて取り繕う。
「そ、そんな事より次だ!!次はどのアトラクションに乗るか決めたか長谷川!!?////」
「え?そうですねぇ……」
『う~ん』と頭を捻って考え込む長谷川。
そこへ1組のカップルの会話が私の耳に入る。
「ねえジョー、大丈夫?」
「ははは、これぐらい怪我の内にも入らないよリンダ」
「良かった。凄く心配したのよ」
「ふっ、俺のタフさは
「さっきのジェットコースター?すっごく怖かったわ。ジョーは?」
「ああ、俺を多少ビビらせるなんて大したアトラクションだぜ」
「それに急旋回が激しくて……見て。今も私、フラフラしてまっすぐに歩けないの」
「そりゃいけねえや!!」
グイッ
「どうだい?こうやって俺がエスコートしてやればフラつく心配も無いだろ?」
「ええ、ありがとうジョー////」
「これぐらいはお安い御用だぜリンダ////」
「ジョー…////」
「リンダ…////」
「「「「「「「「「「人前で堂々とイチャつくカップルはここで死すべし!!!!」」」」」」」」」」
「な、何だアンタ等は!!?」
「「「「「「「「「「我等、大鉄人
「な、何いっ!!?」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおっっっっっ!!!!!」」」」」」」」」」
ドゴッ!!バキッ!!ボカッ!!ゲシゲシ!!ゴキッ!!ボゴンッ!!ズドドッッ!!
「ひぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!?」
「ジョーーーーーーーーー!!!!!!?」
ズルッ…ズルッ…ブンッ……ガコンッ
イチャイチャしていたカップルの男の方を18人の僧正が一方的に暴行し、適当に引き摺ってから無造作に放り投げるとゴミ箱に見事入り、それを見届けてから僧正達は去っていった。
……………………
………………
…………
……
コレダーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!
「長谷川!!今すぐジェットコースターに乗るぞ!!!」
「は!?いきなり何ですか!!?」
「説明する時間は無い!!『善は急げ』だ!!」
「いや!!?さっきと同じパターンの様な気がするんですけど!!?」
先程のカップルの様にすればさりげなく腕を組んで貰えるではないか!!!
私は長谷川を急かし、ジェットコースターとやらの元へ向かい、最後尾の後ろに並ぶ。
「このジェットコースター…」
「ん?どうかしたのか?」
「いえ…以前ユーリと来た時は身長制限で乗れなかったヤツなんで」
「(むっ!)ユーリと?いつの話だ?」
「え?去年の誕生日の時ですけど?」
「ああ…そんな事あったな」
「…シグナムさん?」
「……ふん」
私はやや不機嫌になりながらも順番を待ち、徐々に列は消化されてついに私達の番がやってくる。
ユーリの事など今は気にするな。
こ、このアトラクションが終われば…。
安全装置を装着し、ブザーが鳴ると同時にジェットコースターのコースターがゆっくりと進み、段々と私達を乗せて上昇していく。
先程のカップルの話によればこのコースターはやたらと急カーブの多い構造で出来ているらしいからな。
「うわっ!高っけーなー」
「うう…もう降ろしてほしい。…怖いよぅ…怖いよぅ…」
「偉大なるご先祖様達。俺は今から風と一体化します」
他の客も各々口から言葉を漏らしている。逆に長谷川はフリーフォールの時同様に落ち着いた感じで静かに前を見つめている。
最上部からゆっくりとコースターは前進し、垂直にも等しいぐらいの角度をしているレール上まで来ると…
ゴオーーーーーーーッ!!!
とんでもない速度でレール上を走り、私達は右へ左へと身体を揺らされていた………。
「長谷川…ジェットコースターはどうだった?」
「いやぁ…あのスピードは中々楽しめて自分的には満足しましたよ」
「そ、そうか……実を言うと私はな、あのカーブがキツかったせいで平衡感覚が少しやられてしまったみたいなのだ//」
「は?シグナムさん、空戦行う際にああゆう急旋回とか経験した事あるんじゃないんですか?空戦の急旋回に比べたら全然マシだと思うんですけど?」
「ほ、本当だぞ!見ろ!!全然真っ直ぐ歩けず身体が左右に揺れてるんだ!!」
ブンブンブン!!
「……足を地に付けたまま器用に身体振れる人なんて初めてみたんですけど…(メトロノームみたいだな)」
う…またもや少し大袈裟過ぎたか。
再び呆れた感じの顔で見られてるし。
「(くっ…これでも加減が浅いというのか)」
『長谷川と腕を組む』というミッションは失敗に終わってしまった。
肩を落とし、落胆する私だが
「(いや!まだ時間は昼前だ!今日はまだ終わった訳ではないのだ!!)」
そうだ!!!この程度の失敗で落ち込んでいてどうする!!目の前の壁が高ければ高いほど達成した時の充実感、満足感は得られる筈なのだ!!
「この程度で諦めてなるものか!!」
「(ビクッ!)ど、どうしたんですかシグナムさん!?また叫んだりして…」
…………はっ!!?
どうやら私はまた自分の決意を声に出していたみたいだ。
先程と同様に長谷川だけでなく、私の声が聞こえた他の一般人も私を注目していた。
「な、なななな、何でも無いぞ!!ホントだぞ!!////////」
両手をブンブンと振りながら、慌てて取り繕う。
「そ、そんな事より次だ!!次はどのアトラクションに乗るか決めたか長谷川!!?////」
「え?そうですねぇ…。俺としてはそろそろ昼食を取るのも良いかなと思うんですけど…」
『どうでしょうか?』と聞き返してくる長谷川。
そこへ1組のカップルの会話が私の耳に入る。
「ねえジョー、本当に大丈夫?」
「ははは、これぐらい日常茶飯事だぜリンダ」
「もう…凄く心配したのよ」
「ふっ、この程度で参る様じゃお前を守るなんて事出来ないからな」
「も、もうジョーったら。また調子の良い事言って…////」
「リンダ…////」
「ジョー…////」
ラブラブしているカップルの側に1人の男が近付いている。
「!!おう、ちょっと待ちなそこの兄ちゃん」
「???俺の事か?」
「そうだ、お前も俺をボコろうと思ってやがんな。だがそうはいかねえ。さっきまでは油断してたが今回は違うぜ。俺は高校時代ボクシング部に所属していたんだ。俺の右ストレートがお前を捉えるぜ!!!」
「???よく分からんが俺と
「おうともよ!!」
「ふっ、いいぜ。そこまで言うならお前さんがどこまでヤレるか見極めてやる。こっちに来な」
「へっ、望む所だぜ」
「ジョー…」
「心配すんなリンダ。あんなオッサンなんざ5分もかからねえ内にKOしてやるぜ」
カップルの男性と男は人気の無さそうな場所に移動していく。
「あれ?あの人って阿部先生じゃ?」
「知り合いか長谷川?」
「ええ、あの人です」
長谷川が指差したのはカップルの方では無くもう1人の男性の方だった。
私が見た限り、その阿部先生という人はカップルに喧嘩を売る気など無く、普通に前を通り過ぎようとしていただけの様に見えたのだが…
「着ているのは作業服みたいだが?」
「うーん…まさかとは思うんですけど設備のメンテナンスをしに来たとか?」
「教職に就いているのにか?」
2人して首を捻る。
「(っと、今は他人の事より私達の事だ。長谷川の言う通り先に昼食を済ませるか)」
そう決めた私は長谷川に『昼食を済ませるぞ』と伝え、2人でその場を離れて園内のレストランへ向かう。
そして歩き始めてしばらくしてから
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
どこかで男性の叫び声の様なモノが聞こえた気がした。
~~シグナム視点終了~~
昼食を食べ終え、再び園内を歩き始めた俺達。
「ジーーーー……」
「……何ですかシグナムさん?」
「別に何も無いぞ(手を繋ぐ…腕を組む…手を繋ぐ…腕を組む…)」
何も無いならどうしてコッチをガン見しているんでしょうか?
鬼気迫る様な表情を浮かべているモンだから俺に冷や汗が流れる。
「おとーさーん、私パレード観に行きたーい!」
「そうかそうか。じゃあ観に行くぞー」
「わーい♪」
ふと、俺達の側を通り過ぎた親子の言葉が耳に入る。
パレードか。以前ユーリと来た時、昼間にはやってなかったんだけど。
「シグナムさん、パレード観に行きませんか?」
「…私はどちらでも構わん(手…腕…手…腕…)」
「じゃあ観に行きましょうよ」
ギュッ
「っっ!!?////」
俺はシグナムさんの手を引いてパレードがやっている方向へ行こうとする。
「ままま、待て!!いいい、いきなり手を握るとは何事か!!?斬られたいのか!!?(ててて、手を繋げたーーーーー!!!)////////」
「えっ?あ、済みません」
いきなり手を引いたのは失礼だったか。俺は握っていたシグナムさんの手を離す。
「ははは長谷川ぁーーーっっ!!!いきなり手を離すとは何事だ!!レヴァンテインで斬られたいのか!!!(な、何故離す!?)////」
俺にどないせーっちゅうねん!!!
手を繋ごうが離そうが斬られるなんて、理不尽過ぎる選択肢だ。
「いや…いきなり手を引いたからてっきり怒ってるんだと思いまして…」
「そそそ、そんな事はないぞ!いきなり握られたからビックリしただけで嫌な訳ではないぞ!!本当だぞ!!//////」
「で、でも『斬られたいのか』って…」
「こ、言葉のあやというものだ!気にするな!////」
「は、はあ…」
えっと……繋いで良いって事……だよな?
「さ、さあ…繋ぐぞ!手をチョー繋ぐぞ!!////」
……シグナムさん、キャラが壊れてきてないか?
シグナムさんの気迫に内心ビクつきながらも再びシグナムさんの手を取って軽く握る。
ギュッ…ギリギリギリ…
「い、痛たたた…シグナムさん、痛いんですけど!?」
「わ、私は大丈夫だ!!全然痛くないぞ!!////」
いやいやいや!!痛いのは俺の方ですから!!!シグナムさんが今込めている握力半端ねーッスから!!!
「~~♪~~♪////////」
うう…握力緩めてくれそうな気配が無い。
このまま痛いのも嫌なので身体強化を掛け、シグナムさんの握力に対抗する。
「ふふ…ふふふ…//////」
当の本人は緩々の表情で笑い声を漏らす。
……シグナムさん、やっぱりキャラが壊れ始めてきてる。
「何を突っ立っているのだ長谷川!パレードを観に行くぞ!!////」
「……了解ッス」
手を引くどころか逆に手を引かれた状態で俺とシグナムさんはパレードを観に行くのだった………。
「~~♪~~♪」
「何だか嬉しそうですねシグナムさん?」
「むっ?そう見えるか?」
「はい」
隣で腕を組んで歩いているシグナムさんは超ご機嫌だ。
「ふふ…まあ楽しかったからなパレードは♪(それに今こうしてう、腕も組めているしな)////」
「…アレはパレードとは言いませんよ絶対」
俺達が観に行ったパレード。
…しかしその眼に映ったのは行進しながら剣を振るい、チャンバラのごとく打ち合い、鍔迫り合いが続くコスプレ集団の方々。
更に一般人も参加、乱入OKという意味不明なパレードだった。
この光景に目と心を奪われたシグナムさんもバリアジャケットを纏い、レヴァンテインを振るって嬉々とした表情で乱入していった。
ほとんどがノリで参加してる人達。剣の腕前なんて素人同然で時折、剣道の経験者なんかが乱入者に混じっている程度。けど歴戦の勇士であるシグナムさんに敵う訳が無くて、気が付けば周囲は死屍累々となっていた。
だがシグナムさんの独壇場に観客は盛り上がり、俺はその『シグナ無双』を見て
「(少しは手加減してあげればいいのに…)」
そう思わずにはいられなかった。
「というか長谷川、何故お前は参加してこなかったのだ?」
「…何で遊園地に来て剣を交えないといけないんですか?」
「むぅ…お前が乱入してくれれば私はもっと心躍る戦いが出来たのに…」
膨れっ面で文句を言うシグナムさんを見て俺は苦笑せざるを得なかった。
「でもシグナムさんは剣を振るっている姿が一番良いと俺は思いますよ」
「ななな、何だと!!?////」
「何だかんだで俺もシグナムさんの剣舞に見惚れてましたし」
「ひひひ、卑猥な目で私を見ていたのか!!?斬るぞ!!!////////」
「アンタ頭の中でどういう解釈してんだよ!!?」
純粋に『カッコイイ』て思ってただけなのに何でエッチな目で見てた事になるんだ!?
今日のシグナムさん、ホンマ可笑しいって!!
「ま、紛らわしい言い方をするな(そ、そうか…私の姿に見惚れていたのか…悪くない、悪くないぞ!!)//////」
紛らわしいか?普通に感想を述べただけなんだが…。
「し、しかしアレだな。午後はほとんど回る事が出来なかったな」
ええ、パレードのせいで回れませんでしたね。
「私としてはもう少しいたかったのだが…(せめて観覧車とやらに乗りたかった…。だ、男女が良い雰囲気になるのにはもってこいのアトラクションだというではないか)」
「また今度行けば良いじゃないですか。その時に載れなかったアトラクションに乗ればいい訳ですし」
「…そうだな。その時は当然長谷川も付き合ってくれるよな?」
「はい?俺がですか?」
「だ、駄目なのか?」
「いえ…別に良いですけど」
てっきりはやて達と行くものかと思ってたんだけどなぁ。
「そうか!それを聞いて安心したぞ!(ふふふ…こ、これでまた2人で遊園地に行く口実が出来たな)////」
…ま、シグナムさんも嬉しそうな表情してるし、別に良いか。
「…あ、俺コッチですから」
丁度、長谷川家と八神家への分かれ道に差し掛かった。
「今日はどうもありがとうございました」
「い、いや…私こそ『ありがとう』と言わねばな。わざわざお前の時間を使わせてしまったんだ」
俺は『気にしなくていいですよ』と軽く返しておく。
「じゃあ、俺はこれで…」
「ま、待て!長谷川!!////」
踵を返した瞬間に手を掴まれたので
「何でs…!!?」
『何ですか?』と聞こうとしたのだが振り返った瞬間に
「…んんうっ……////////」
シグナムさんに唇を塞がれた。
柔らかいモノに唇を塞がれ、こんなに至近距離でシグナムさんの顔を拝んでいるという事は
「(え!?き、キス!!?シグナムさんが俺にキスしてる!!?)」
それしか答えが浮かばなかった。
「ん……ふうっ……////////」
やや荒い鼻息が俺に当たる。
少ししてシグナムさんの顔と唇がゆっくりと離れて行く。
「きょ、きょきょきょ、今日のお礼だ!!私のは、はは、初めての接吻だぞ!!う、嬉しいか!!?(も、もう少し話したかっただけなのにせ、せせせせ、接吻してしまった!!!)////////」
「え…えーっと……////」
「ウレシクナイノカ?」
チャキッ
「嬉しいッス!!チョー嬉しいッス!!!」
だから俺の首筋に添えているレヴァンテインをどけて下さい。
「そ、そうか!安心したぞ!!(接吻…雰囲気も何も無い状態だが長谷川と接吻……ふ、ふふふふふふふふふふふふふふ)////////」
今は緩み切った表情を浮かべているシグナムさんだが数秒前は怖かった。
俺が言葉を詰まらせただけで瞳から光を消して、レヴァンテインを躊躇なく俺の首に……。
「(うう…マジでビビった)」
この人、実は趣味が辻斬りとかじゃないだろうな?
「で…では私も帰る。言うまでも無いと思うが気を付けるのだぞ////」
「……はい。お疲れ様です」
「うむ」
今度こそ俺は背を向け、前に歩く。しかし数歩歩くと
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ(接吻♪接吻♪長谷川と接吻♪これで主はやてやテスタロッサ達に並んだぞ♪)////////」
背後から笑い声が聞こえてきたので思わず振り返る。
声の主は言うまでも無くシグナムさん。上機嫌でスキップしながら帰っていく後ろ姿を眺め
「本当に今日のシグナムさんは可笑しい…」
そう言う事しか出来なかった。
「(まあ…)」
シグナムさんにキスされるとは思わなかったけど
「(…決して悪いモノじゃなかったし)」
むしろラッキー……だったのかなぁ………。
~~あとがき~~
乙女なシグナムを書くのは難しい…。
ていうか全然乙女っぽく書けてない様な気がする。どっちかというと暴走…かな?
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。