#47
月ちゃん達も料理や品出しに完全に慣れ、そろそろ長沙に戻って妹たちとイチャコラしたいなーと考え始めた頃のこと。俺はいつものように、本日の仕入れに来ていた。
「恋たんは大工の手伝いだっけ」
「そうなのです」
今日の相方はねねたん。いつも恋たんにべったりだが、今日は別行動だ。朝早くにごそごそやっていたのは寝ぼけながらに気づいていたが、細かい事は聞いていなかった。という訳で、確認。
「今日は何が安いかなー」
「いつもと変わらないのでは?」
俺は空の荷車を引き、ねねたんはその上に座って脚をぶらぶらさせている。
「おっ、北さん。今日はきゅーちゃんと仕入れかい?」
「おすおす。相変わらず朝早くからやってんねー」
声をかけてきたのは、いつも通る道に朝食用に点心を作って売っている屋台のおばちゃん。一応ねねたん達の本名を晒す訳にもいかないので、天和たちのように姓は『北』を名乗っている。
「おばちゃんも毎朝ご苦労なのです」
「おやおや、ありがとねぇ。これ、持っていきな。蒸し上がったばかりだから美味しいよ」
「ありがとうなのです!」
「またなー」
気のいいおばちゃんは、俺とねねに1つずつ肉まんを渡すと、ちょうどやって来た客の相手に移行した。
「はふはふっ、熱いけど相変わらず美味しいのです」
「ごっそさーん」
「はやっ!?」
だって片手が塞がってると荷車を引きにくいし。
そんなこんなで仕入れを終え、帰宅途中。
「うぇぇえええん! おかぁさーーーん!」
どこからか、幼女の泣き声が聞こえてきた。俺とねねたんは顔を見合わせる。
「フラグだな」
「なのです」
ねねたんも慣れてきたようだ。
「おー、こんな所でどうした璃々ちゃん」
「あっ、おにぃちゃーーーん!」
「よーしよしよし」
腰にむしゃぶりついてくる璃々ちゃん。可愛いなぁ、もぅ。
「変態なのです」
「よーしよしよし、ねねたんも可愛がってあげよう」
「うがーーーーっ! 離すのです! 抱き締めるななのです!」
右手で璃々ちゃんの頭を撫でつつ、空いた左手でねねたんを捕まえて抱き締める。
「照れちゃって、可愛いなぁ」
「誰も照れてなどいないのです!」
「うぇーーーーん!」
幸せって、こういう事をいうのかもな。
落ち着いた璃々ちゃんを荷車に座らせ、その傍に膝を曲げて屈む。
「どうしたんだ、璃々ちゃん」
「お母さんがいないの……」
ま、予想通りだな。
「そっか、黄忠さんとはぐれちゃったか」
「うん、お母さんがしょーか? と話してる間、璃々ひまだったから遊んでたの」
「商家ですな。きっと、陳情の対応か何かの話し合いなのです」
腕を組んで、ふむふむと頷くねねたん。
「あれっ? ねねたんが頭のいい発言をしてる?」
「ねねは軍師なのですぞ! 設定を忘れたら困るのです!」
「きゅーおねーちゃんは、璃々と同じ立ち位置だと思ってたのに」
「璃々っ!?」
「ほぇ?」
「ん?」
「ぬっ?」
電波が飛んできたようだ。
「ねねたんが頭いいぶってるのはおいとくとして」
「おいとくななのです! というか、ぶってる訳じゃ――」
「それじゃ、詰所にでも行って、黄忠さんに連絡してもらおうか」
「いいの、お兄ちゃん?」
「あぁ。あの人も必死に探してるだろうからな」
そんなこんなで。
「――――ほい、ねねたん」
サラサラっと竹の板に筆を走らせ、ねねたんに渡す。
「おつかいだ。これを近くの詰所に持っていってくれ」
「一刀はどうするのです?」
「流石に暑いなか食材を引き回したくはないからな。璃々ちゃんを連れて、先に店に戻ってるよ」
「わかったのです」
聞き分けのいいねねたん。俺から竹簡を受け取ると、通りを駆けて行った。なんだかんだで頭のいい娘っこだ。至近の詰所くらい難なく覚えているのだろう。
「んじゃ、璃々ちゃんはお店で待っていようか」
「うんっ、ありがとー!」
荷車からぴょんっと飛びついてくる璃々ちゃん。可愛いなぁ、もぅ。
「あ、お帰りなさい、一刀さん」
店に戻れば、月ちゃんと詠たんがまったりしていた。まだ仕込みには早い。仕事前の一服は必要だ。
「おねーちゃん達、やっほー」
「やっほー。で、なんで璃々もいるの?」
出迎えに立ち上がろうとする2人を手で制しつつ、璃々ちゃんを荷車から降ろす。
「なんでも、黄忠ねーさんとはぐれちまったみたいだ」
「仕事で出てきてたのかしらね」
「どうもそうらしい」
「はい、どーぞ」
「ありがとー!」
月ちゃんは璃々ちゃんにジュースを出している。後で黄忠さんに請求しておこう。
「ねねは?」
「黄忠ねーさんに言伝。近くの詰所に行ってもらったよ」
言葉を交わしながら、俺たちは準備に入る。
「ふわぁああ……おはよーざーまぁす」
「遅ぇぞ、波才!」
「ひぃっ!?」
昨晩、ラストまで入っていた波才が起きてきた。
璃々ちゃんは料理をあまり作らない詠たんに任せ、俺と月ちゃん、そして波才は仕込みに入る。
「昼はやっぱ
「ま、肉体労働者ばかりだからな、この辺りは」
「でも、皆さん凄い勢いで食べていきます。一刀さんの料理が気に入られている証拠ですね」
「ま、男の食いたいもんは、同じ男の方がわかるからな」
月ちゃんと波才は食材を切っていき、俺は味つけなどなどをしている。
そんな時。
「お前達、動くなっ!」
血気盛んな男の声が聞こえてきた。
「んぁ?」
顔を上げれば、警備の兵が20人ほど。1人を除いて、みな槍を構えている。その1人はといえば。
「うぅー…一刀ぉ……」
「へぅ…ねねちゃんが……」
ねねたんを縛り上げ、俺を指差していた。
「なんだなんだ。うちの妹をふん縛るなんざ、どういう了見だい」
手を拭き拭き、調理台から回ってその兵に相対する。
「お前か! 黄叙様を誘拐したというのは!」
おっと、いきなりキツイ発言だねぇ。
「ちょっとちょっと!いきなり何を言ってるのよ!」
そして食いかかる詠たん。嬉しいなぁ。
「こいつは確かに金儲けが大好きだけど、犯罪に手を出すような奴じゃないわ! どんな証拠があるっていうのよ!」
三白眼で睨む詠たんに怯むことなく、警備隊の隊長は事もなげに言う。
「この娘が、この文を持ってきた」
そして、俺たちの足下の地面に、竹の板を放り投げた。
「ねねが? ……いったい何だっていうのよ」
んで、それを拾い上げる詠たん。板を開いて目を通す。月ちゃんもビクビクしながら隣から覗き込んだ。
「なになに? 『黄忠将軍の娘は預かった。無事に返して欲しくば、〇〇まで来い』……ん?」
「へぅ……」
詠たんはその内容を理解できないらしく、首を傾げ、月ちゃんは頬に両手を当てて、困ったように眉尻を下げている。
「……ねぇ、一刀?」
「どした?」
俺に話し掛ける詠たん。
「これ…書いたのアンタ?」
「そだけど?」
俺の返答に、詠たんは俯いてしまった。よくよく見れば、ぷるぷると生まれたての子鹿のように震えている。
「どうした、詠たん?」
「……」
「生理か?」
プチッ
「……ぷちっ?」
「死ねぇぇぇえええええええええっ!!!」
「いやぁぁあああああああああああああああ!!!」
結局俺は、詠たんにボコボコにされるのでした。
おまけ
「……ねねを、放せ」
「「「「ぎゃぁあぁああぁぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!?」」」」
ねねたんのピンチに駆けつけた(仕事帰り)恋たんに、警備隊がボコボコにされたのは別のお話。
あとがき
そしてまた時間をもらうんだぜ。
すまぬ………すまぬっ………………!!
バイバイ
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ごめんね。
マジ〇いA-2をやってて、なかなか投稿できなかったんだ。
どぞ。