No.593428

すみません。こいつの兄です。65

妄想劇場65話目。最近、考えすぎで更新頻度が落ちていたので、初心に返って、妄想するがままに垂れ流すことで更新頻度を上げることにしました。久しぶりに三島由香里回です。暴力シーンはありません。三島なのに。

最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411
メインは、創作漫画を描いています。コミティアで頒布してます。大体、毎回50ページ前後。コミティアにも遊びに来て、漫画のほうも読んでいただけると嬉しいです。(ステマ)

2013-07-01 23:00:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:834   閲覧ユーザー数:774

 模試を受けた。結果を受けて、進路指導のための三者面談。母とゾッド宮元、そして俺本人の面談だ。国公立を狙うなら、相当厳しいと言わざるを得ないとゾッドが冷徹に告げて、母が気丈に「知ってます」と答えていた。

「あんた、どうすんの?他人事みたいな顔してないで!」

ゾッド宮元と母親が話している間に時間が過ぎ去ってくれないかと、願っていた。しかし、その願いも空しく矛先が俺に向いた。

「どうって言われてもー。高望みしないで、受かりそうなところにー。まー、そのー、国公立じゃないと学費が厳しいというなら、就職クラスでもー」

「あんた、今時、高卒で就職とか、そりゃ、家が自営業ならそれでもいいかも知れないけど…」

そうなのだ。うちの学校は、意外と家が小さな商店をやっていたり、大きな機械をあつかう小さな会社をやっていたりという家が多い。わりと大きな商店街があちこちにあったりする土地柄だからかもしれない。大学進学率が八割近い今の世の中、就職クラスがあるうちの高校でも、いわゆる昔ながらの高校卒業で就職口を探す連中は多くない。

「つまりだな。二宮。俺もお母様も『まじめに勉強しないと死ぬぞ』と言っている」

ゾッド宮元の声で聞くと、後半に「それは、俺が殺すからだ」と付いているように聞こえる。総毛がよだつ。

「はぁ…がんばります」

早く時間が過ぎないかなぁ…。

 

 限界まで引き伸ばされた一時間の面談が終わって解放される。

「失礼します」

「しつれいしまーす」

母親が礼儀正しく、俺が少し疲弊して辞去する。ちょうど、隣のもうひとつの進路指導室から三島が出てくる。隣にいるのは、三島の母親だろうか。初めて見た。顔立ちは三島にあまり似ていない。シャープな顔立ちの三島とは対照的に、丸顔でいかにもやさしそうな印象だ。お姉さんの方には少し似ているかな。

「二宮…くんも、三社面談だったの?」

「ああ。三島もか」

三島がちょっとバツが悪そうに話しかけてくる。『二宮くん』とか言われて、若干不気味だがお母さんの手前、少しやりづらいのは俺にもわかる。俺たちの隣では、親同士で、「あらあらまぁまぁ、お世話になっております、こちらこそ、あらまぁまぁ」と挨拶を交わしている。

「お母さん、私、先に帰るわ。二宮、くん、一緒に帰るでしょ」

「ああ…」

母親と一緒に帰るよりは、三島のほうがましかもしれない。

 背後に三島母の『二宮さんの息子さん、ハンサムでいらっしゃるから…。うちの由香里ったら』という心にもない、居心地の悪い会話を聞きながら三島と玄関を出る。

「う、うちの母が、親バカで悪かったわ」

校門を出たところで、ようやく三島が口を開く。隣を歩く、その顔を見ると耳が赤く染まっていた。母親を見られたのが恥ずかしかったのか。やさしそうな良いお母さんだけどな。

「いや、うちは…まぁ、息子のほうがバカでゾッドに圧力をかけられたばかりだからな」

なにが、だからなのか分からないが、言ってみる。

「私も、圧力をかけられたわ」

「三島が?」

意外だ。三島は、そんなに成績が悪いほうじゃないはずだ。トップクラスということもないけれど、平均よりは上だ。

「もっと上が狙えるってね。成績が悪くても良くても圧力をかけるんだわ。この時期は」

「ああ。なるほどね」

納得する。下には下の競争が、上には上の競争がある。きっと一番上まで行っても、追いつかれないようにする競争があるのだろう。

「…二宮は、どこの大学を狙っているの?」

「実家から通えて、合格できそうな大学」

俺は現実を見据えているので、条件で選択しているのだ。

「具体的には?」

「このままだと受かるところがない。ぴんち」

「ばか」

「存じております」

この数ヶ月、すっかりバカキャラになってしまった。アイデンティティの危機を感じるが、成績が悪いくらいでバカキャラ属性が付くくらいにしかキャラの立っていなかった自分を反省したりもする。一応、リアル閻魔大王とリアル牛頭・馬頭とリアル・ワルキューレに会ったことのある地獄帰りの男なのだけど、どうにもキャラ立ちに活かせていない。リアル地獄より、ベトナムやイラクの地上の地獄じゃないとキャラ立ちには使えないみたいだ。

 駅に到着すると、人がホームからあふれていた。駅員が出てきて、なにかを拡声器で言っている。

「なんだ?」

「なにかで、電車止まっちゃっているみたいね。まぁ、しかたないわ」

「バスか?」

「そんなに長くとまらないでしょ。その辺で、じ、時間つぶしましょう。…い、いや?」

三島が駅前の低価格ファミリーレストランを指差す。学校最寄のファミレスに三島と二人で入るとか、あまり同じ学校の知り合いに見られたい状況ではないな。特に美沙ちゃんに見られると、命が危ない。とはいっても、もう夕方で、部活をしている連中がちらほら残っているくらいだ。リスクは少なかろう。

「まぁ…いいかな」

「よかった」

「ん?」

「た、退屈しなくて良かったってことよ」

三島がくるりと後ろを向いて、つかつかとファミレスへと歩を進める。相変わらず綺麗な脚だ。脚だけのパーツモデルになれるんじゃないかな。まぁ、顔も美人顔だから、丸ごとでもモデルを目指せば目指せるくらいでもある。もちろん、それでも美沙ちゃんの足元にも及ばないけどな。

 

 二人で、ファミレスに入る。高校生がファミレスで頼むものといえば、ドリンクバーとフライドポテト。それしかない。俺はその場で濃縮還元の還元が見れる百パーセントのオレンジジュース。三島は紅茶を取って席に戻る。

「……」

「……」

退屈しなくてよかったと言っていたわりに、三島は無言で機嫌が悪そうだ。俺の顔を見ようともしない。ファミレスで学友の殺害に及ぶとは思えないが、なにせヴェロキラプトル三島である。注意しなくてはならない。

 退屈しなくてよかったというのは、ひょっとして『楽しいトークをして、退屈させるな』という命令だったのだろうか。

 ありうる。

 面白いことを話さなくてはいけない。よし。

「三島、あのな」

「な、なにかしら」

三島が紅茶のカップを持ち上げようとして、こぼしそうになって中止する。

「うちに妹がいるのは知ってたよな」

「真菜ちゃん?二年生の元気な子でしょ。頭もいいんですってね。学年四位ってうわさの」

「三位になってたよ。その妹なんだけどさ」

「うん」

三島が両手で紅茶のカップを持ち上げて慎重にすする。

「最近、妹モノのエロゲばっかりやってるんだよ」

ぶげばっ。

 三島がむせた。しまった。面白すぎたかもしれない。なんと言っても、作りようによってはライトノベルが大ヒットして、アニメ化されて、ゲーム化されて、千葉のモノレールでキャンペーンを組むようなネタだからな。

 三島がこぼした紅茶をおしぼりで拭きながら、恨みがましい目でにらみつけてくる。怖い。せっかく、おもしろい話をし始めたのに…。

「え、エロゲ?い、妹さんが?どんなのなの、それ?」

意味が分からないよという、宇宙怪獣の目をしながら三島が尋ねる。

「妹モノのエロゲ…って言ってもわからないか…。つまり、プレイヤーが兄の視点で、ゲームの中の架空の妹とエッチなことをするゲームだ」

「…それを、妹さんがやってるの?」

「そうなんだ。おもしろいだろ」

「……」

沈黙が返ってきた。

 おかしいな。どうみても面白い話のはずなんだけど。

「もうすこし、詳しく教えてくれる?妹モノの…エ、エ、ロゲ…って、どんなストーリーなの?」

どんなと問われてもな…。あいつ、けっこう何種類もやっているからな。

「この間やってたやつは…たしか…」

「うん」

「…兄が一人と、妹が二人いて」

「うん」

「上の妹とお風呂に入っているときに…」

「ちょっと待って」

「なんだ?」

「その架空の妹って何歳?」

「登場人物はすべて十八歳以上です」

「……十八歳以上の兄と妹が一緒にお風呂に入るとは思えないわ」

「制服着て『学園』に通ってて、妹は『ジュニアクラス』だったけどな」

あと、うちのリアル妹も十六歳だが俺の布団にもぐりこんでくるぞ。やっぱ普通やらないよな。先日は丸め込まれたが…。

「……で?」

「ついつい、エッチな流れになってシーンリプレイの枠が埋まって」

「シーンリプレイ?」

三島には、こっちの世界の常識が通じていない。しかたなく説明してやる。三島の眉間にしわが寄る。

「その晩、目を覚ますと、主人公はベッドに縛り付けられていて…その様子を見ていた下の妹が馬乗りになっているんだ」

「ちょっと待った」

「なんだ?」

「その下の妹は、何歳なの?」

「登場人物はすべて十八歳以上です」

「……」

「そして、シーンリプレイ枠クリア」

三島の目つきが、なんとも表現できない目つきになる。たとえるなら、大人の汚さを見た十代のすさんだ目つきの裏と表をひっくり返したような目つきだ。十代の汚さを見た大人の目つきというものがあるとすれば、そんな目つきだ。

「……」

沈黙がつらい。ことここに到って、話題を間違えたことに気が付く。

「…というゲームを、俺の部屋でリアル妹がプレイしているんだが、俺はどうしたらいいでしょうか?」

三島の瞳が揺れる。なぜ自分が話しかけられているかも理解できない。そんな瞳だ。

 数秒の空白の時間のあと、薄い唇がゆっくりと開く。

「二宮…。あんた、まさか妹さんに何かしたことないでしょうね」

「ねーよ」

コンマ一秒の隙間も空けずに否定する。妹だぞ。実の。

「じゃあ、なんでそんなことになってるの?」

妹の行動を理解できないのは俺も一緒だ。これに限ったことじゃない。妹のすることで、俺が理解できることのほうが少ない。

「知らない」

「……」

「うちの妹は、エキセントリックなんだ。三島、去年の文化祭でデス屋敷って行ったか?」

「ああ…あの一年生のクラスがやってたイカれたお化け屋敷?」

「あれも、うちの妹の発案らしい。あと以前は『小悪魔メイク』に勝とうとして聖飢魔Ⅱみたいな悪魔メイクをしてた」

ぷっ。

 あ。

 三島がようやく笑い始めた。こらえていた笑いをこらえきれなくなった。そんな感じで三島が笑い転げる。めったに見ない馬鹿笑いする三島は、掛け値なしに可愛かった。いつもこうやって笑っていれば、かわいいのにな。

 ひとしきり笑い終わって、三島が目じりに浮かんだ涙をおしぼりで拭う。

「あー。おかしい。二宮…あんたの妹、アタマおかしいわ。単純にアタマおかしいのね。面白すぎよ」

「楽しんでもらえればなにより。妹も喜ぶ」

珍しく笑顔の余韻を残す三島の背後に、走っていく電車が見える。

「電車動き出したみたいだな…。帰るか」

「うん。そうね」

二人で、きっちりワリカンにして支払いを済ませる。改札をくぐる。

「まぁ、姉妹って変なものね。うちの姉もかなり変だもの」

三島がつり革にぶら下がるみたいにしながら、そんなことを言う。笑ったからか、いつもの三島よりもずっと子供っぽく見える。

「三島の姉さんって…あれか…俺をモデルにして漫画を描いている…」

「そうそう。あれよ。ゲームもすごい変なのばかりやってるわよ」

「知りたくない」

「そう?」

電車がうちの最寄り駅に到着する。

「それじゃあ、また明日な」

「そうね。また…あした…」

電車を降りる。閉まった扉の向こうでまだ三島が小さく手を振っている。三島の唇が動いてなにかを言う。聞こえないぞ。

 俺も手だけ、振り返す。

 

(つづく)


 
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