No.592095

すみません。こいつの兄です。64

妄想劇場64話目。ついに7ビット目がたちました(二進表記)。清純派美沙ちゃんが好きだった人には、ごめんなさいと言う他はない最近の美沙ちゃんのエクストリーム・ラブっぷりです。

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(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2013-06-28 21:33:02 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:998   閲覧ユーザー数:932

 中間試験が終わった。そして、結果が発表される。

 父と母に叱られた。お前は何をやっている。受験生の自覚があるのか。真菜を見習いなさい。最初の二つには、返す言葉もない。最後の一つは、無茶言うな。あいつは数学を丸暗記で切り抜けて、学年三位だ。またひとつ順位を上げた。わが妹ながら大したものである。先日聞いたら、常人は九九を覚えるところを、あの馬鹿二十七の段まで丸暗記していた。そりゃ、計算問題も爆速で解けるわけだ。インド人か貴様。

 つまり、俺の中間テストの結果は惨憺たるものだった。俺の頭が悪くなったわけではない。だけど、今年の俺は進学理系クラスにいる。全般的に成績があまりよくない連中の大部分は就職クラスに行った。理系教科が苦手な連中は、文系クラスに行った。そして、進学理系クラスは文系教科の数が少ない。自然と、俺より下の成績だった連中がごっそり抜けた。

 すなわち、最下層。

 最下位ではなかったが、下から一割に入っている。

 きわめてまずい。

 極めてまずい成績を取った息子には、説教。実に納得のいく叱られ方である。

 お父さん、お母さん、ごめんなさい。心を入れ替えて勉強する。

 ということで、部屋に戻ってすぐに明日の予習。

《んああーっ!しゅ、しゅご…しゅごいのっ!しゅごいのきちゃうー》

予習をしようと、部屋に戻ると妹が俺のパソコンでエロゲーをやっていた。なんだこれ。

「自分の部屋でやれ」

「いーじゃないっすか。中間テスト終わったばかりっすよー」

「お前はよくても、俺はよくないんだ。それに、なんでお前がエロゲを俺の部屋でやるんだよ」

「にーくんのパソコンにかインストールしてないっすしー」

「自分のにもインストールしろよ。お前、けっこういいノートパソコン持ってるだろ」

「ここでやるのがいいんすよ。ここでやるのも含めてプレイっす」

《りゃめぇーっ。おにいちゃああーんっ!あひぃいーっ》

妹が、妹もののエロゲを実兄の部屋でプレイしているんだが、どうしたらいいんだろうか。

 そこに、スカイプの着信音がなる。

「あ。美沙っちっすー。ほいほーい」

妹が俺にかかってきたスカイプコールに勝手に出る。

『あれ?真菜?お兄さんは?』

「にーくんは、妹とエッチするゲームやってるっすー」

「やってねーよ!お前だ!やってんのは!」

とんでもないことを美沙ちゃんに吹聴するな。俺の命が危ないだろ。妹からマイクを取り上げる。

『お兄さん…なにしてたんですか?』

「勉強」

『真菜とエッチなゲームじゃなくて?』

妹とエロゲーをするのは、小説的にパクリのそしりを免れない。そんなことにはなっていない。

「してないよ。真菜が勝手にやってただけだよ」

『アタマおかしいので、すぐにやめてください』

「そうだ。おまえ、すぐにやめろ。ばかたれ」

百パーセント同意する。うちの妹はアタマおかしい。スカイプの背後でコマンド待ちになっていたエロゲを閉じる。

『それより、お兄さん…お願いがあります』

「なに?」

『また、勉強教えてください。ピンチです』

そうだった。自分の成績の下降率がひどくて忘れかけていたけれど、美沙ちゃんもピンチだったんだ。

「むりっすよー」

妹が横から会話に割り込んでくる。マイクが近くの音しか拾わないので、スピーカーで音を出したまま話せるのが仇になった。邪魔すんな。

『無理なの?』

「むりっす。にーくんは、人の面倒見てる場合じゃないくらいバカになったっす」

バカというストレートな罵倒に憤慨しそうになるが、妹は学年三位。俺は、下から一割というアリサマなので反論のしようがない。テストで測ることの出来る利口馬鹿指数では、明らかに妹は利口の部類であり、俺は馬鹿カテゴリーに入る。事実に憤慨するのはよろしくない。せいぜい気分を害するくらいにしておこう。

『…でも、私、お兄さんじゃないと駄目だと思う…』

「大丈夫っすー。美沙っちには、私が教えるっすよー。学年三位の私が教えるっすよー」

妹の教え方は、丸暗記しろって強制するだけだから、あれはあれで駄目だ。それでも、俺は、まず美沙ちゃんに勉強を教える前に自分のほうをなんとかしないといけない。人の面倒を見ている場合ではないのである。

『そうじゃなくて、真菜。私、お兄さんと一緒にいないと勉強が手につかないの…』

「美沙っち、いいかげんにーくんは諦めるっす。これ、馬鹿っすよ」

今日の妹は、バカ連発で罵倒のラッシュが止まらない。俺の自尊心はずたずたである。しかし、中間テストの成績が正真正銘のバカを証明しちゃっているので、反論のしようもなく、精神を鍛えるスパーリングをあえて受け続けるしかなかった。将来、営業職やサポートセンターの仕事とかに就いてお客様に罵倒されるのが仕事になった場合に役に立つかもしれない。でも、たぶん社会の罵倒は、この十倍くらいひどいのだろうなとも思う。

 

 果たして、翌日。土曜日。昼間。

 うちの居間に、俺と、美沙ちゃんと、妹がそろっている。勉強会だ。中間テストが終わってすぐの週末なのに勉強会だ。美沙ちゃんは、伝説の零点こそ取らなかったものの、驚愕の一桁のスコアを連発している。野球の点数みたいだ。去年と同じく、一学期の期末試験もこの調子で行ったら、夏休み返上の補習の危機だ。まぁ、去年は結局補習を免れても、真奈美さんに付き添って、夏休みもほぼ毎日学校に行っていたんだが…。

 そして、俺は試験の点数自体は、美沙ちゃんほどの驚異的低スコアではなかったが、学年順位的には相当にまずい。期末テストの前に、模試も一度ある。受験する目標校選択の基準にする模試だ。そこで、あまりバカっぷりを披露すると両親が俺の行く末を案じることになる。すでに若干案じている。よろしくない。

 なので、勉強会だ。

 美沙ちゃんには、妹が教える。俺は、ひたすら自力でがんばる。妹に教えてもらっても無茶な記憶力を要求するから、あまり役には立たないと思うが、それでも美沙ちゃんは黙々と問題集をこなしていく。まじめでひたむきな表情も可愛らしくて素敵だ。こういう勉強会なら、われわれの業界ではご褒美だ。俺には、幸か不幸か教える人もいないので、問題集の問題に詰まっては、解き方のヒントを探して教科書を行きつ戻りつする。この教科書が丸ごと脳みそにプリントされている妹をうらやむ。

 そうやって勉強をしていると、携帯電話が鳴る。液晶モニタに表示されるのは「つばめちゃん」の文字。

「はい?なに?」

『あ、直人くん?なにしてた?』

「勉強」

『あら。感心。えらいわ。そうなの。それで電話したのよ。なんだか、中間テストの成績がとても悪かったみたいだから…』

「はぁ…ありがとうございます。でも…いいんですか?」

『なにが?』

「いや。なんだか、土曜日にまで電話をかけてきて心配してくれたりして…」

俺の成績がいくら悪いと言っても、最下位というわけでもない。うちの学校の教師であるつばめちゃんが心配して電話をするなら、順番としては俺じゃない。でも、たぶん下から順番に電話をしてくれているわけでもない。たしかに、つばめちゃんとは友達みたいな遊び方もしているけれど、そうやって一人だけ贔屓するのは責められるかもしれないことだ。

『…直人くんにたしなめられちゃった。たしかに、そーね。とにかく、勉強がんばって。理系クラスに行っちゃったから、現代国語担当の私は、あんまりお手伝いできそうにないけどね。それじゃ、なにかあったらいつでも電話していいわよ』

ぷっ。電話を切る。

「にーくん、よほどバカに見えるっすね」

「お兄さん、バカにされてますよ」

この一週間で、すっかりバカキャラ扱いになってしまった。なんとか取り戻さないと…。基本、のんきな俺も若干の焦りを感じて、真剣に問題集に取り組む。

 

 ちゃららちゃー。ちゃーちゃらー。

 

 最初の一時間で、勉強を教えるのに飽きた妹がゲームを始めた。

 ちらりと、画面のほうに目をやる。視線を教科書に戻す途中、美沙ちゃんと目があう。「(あいつ、うぜぇ)」「(うざいです)」。無言のうちに共通の認識を交換する。しかし、バカ連合には学年三位に文句を言う権利はない。せめて妹が平均くらいの成績だったら、文句のひとつも言えそうだが、学年三位だ。一番じゃないところがまたウザい。しょせん三位のくせに、されど三位なのだ。

「お兄さん」

「うん」

「真菜が頼りになりません」

「つーか、邪魔だよね」

「バカ連。うっせーっすー。その単元とっとと終わらせて、一緒に遊ぶっすー。いつまでかかってるっすかー」

「…」

「…」

美沙ちゃんと、また一瞬視線が交錯する。「(激ウザ・ファナリアリティ・ドリーム)」共通の認識を交換する。

 視線を問題集に落とし、解き方のヒントを探して教科書をめくる。

 美沙ちゃんも、歴史の年号を書き込んでは裏側を見て、答えあわせをしてがっかりという表情をする。どうやら、どうしても覚えられないらしい。

「…」

「…」

「お兄さん」

「うん」

「私、今日のここまで正解できるようになったら…」

「うん」

「…ご褒美が欲しいです」

「うん」

「お兄さんも、ご褒美欲しくないですか?」

「欲しい」

「じゃあ、終わったら、アイス買ってあげます」

「買ってくれるの?」

「はい。だから、コンビニまで手をつないで連れて行って欲しいです。いいですか?」

「よろこんで」

やっぱり、アイスは俺が美沙ちゃんの分も買わねばなるまい。

「にーくん。私もアイス欲しいっすー」

お前の分は買ってやらん。絶対にだ。

 妹がやっているRPGは順調に物語を進めていっている。序盤のお使いクエストは、そろそろクリアに差し掛かっている。

 俺の数学も、じわりじわりと進んできた。教科書と首っ引きになってやれば、なんとかなるくらいにはなってきた。

 美沙ちゃんは、ほとんど進んでいない。歴史の年号と、人物の名前。デジタルの記憶容量なら、三十二バイトくらいのデータがどうしても覚えられないらしい。

「お兄さん」

今度の美沙ちゃんの声は、ちょっと涙声だ。庇護欲がもくもく湧き上がる。

「う、うん」

「どうしても覚えられません」

「が、がんばって…」

「印象深くしてください」

「はい?どうやって?」

「自分で考えてください」

無茶振りだ。

「どれ?」

「ここ」

どうしても覚えられなくて、ちょっと涙目で仏頂面になった美沙ちゃんが赤いマーカーが引かれた教科書を指差す。仏教伝来から壬申の乱あたりまでだ。なるほど。蘇我入鹿なんて漢字を覚えるだけで大変そうだ。物部守屋とか、すでに人の名前か?それ?って感じすらするし、小野妹子って名前の男も若干ジェンダーフリーがすぎる。これで平安時代になると、小野小町という美女が出てくるのだからまぎらわしい。

 混乱するのも分かる。同情した。それはそれとして、どうやって印象深くしてあげればいいんだろう。語呂合わせなんて、とっくに試しているだろう。暗記が苦手な人というのは、語呂合わせのどこが数字かわからなくなるものなのだ。俺もそうだから分かる。

 さてと。

 どうしたものか…。印象深くと言われてもなにも思いつかない。

「あっ!そうだ!いいこと思いつきました!」

美沙ちゃんが、ぱっと顔をひらめかせて胸の前で手を打ち合わせる。かわいい。胸、Dカップだし。素敵だ。ふんわりしたワンピースの上からでもどきどきする可愛さ。

「お前、俺の中で…」

「真菜、黙れ」

美沙ちゃんの可愛さに変なイメージをつなげようとした妹をけん制する。

「お兄さん。これですよ」

そう言って、美沙ちゃんがバッグの中からウォークマンを出す。

「お兄さんが、暗記するものを録音してください」

「あ、そっか。暗記の基本だよね。目で見て、手で書いて、口に出して、耳で聞いて覚える…。そっか、それ、美沙ちゃん自分で吹き込んだほうが効果あるよ」

「だめです。お兄さんやってください」

よく分からないが美沙ちゃんがそう言うなら、そうしよう。可愛いは正義という言葉もある。

 美沙ちゃんに先導されて、二階の俺の部屋に上がる。

 スカイプに使っているマイクを握らされて、録音ソフトを起動する。

「あーあー。マイクのテスト中」

音量を調整する。少し照れるが、美沙ちゃんのためだ。がんばる。

「大化の改新六百四十六年。中臣鎌足。蘇我入鹿暗殺。孝徳天皇即位」

「だめです。リテイクです」

噛まずに言えたのに、美沙ちゃんの無慈悲なリテイク指示が出る。

「え?間違った?」

「そうじゃなくて、こう言ってください」

美沙ちゃんが、ノートに書いた台本(?)を渡してくる。

 げ?

「まじで?」

「はい」

美沙ちゃんの表情にひとつも冗談は含まれていない。微笑すらない。百パーセントシリアスだ。

 わかった。

 美沙ちゃんのためだ。覚悟を決めよう。マイクに口を寄せて、録音ボタンをクリックする。

「み、美沙ちゃん。た、大化の改新は六百四十六年だよ。いい?わかった?大化の改新は六百四十六年。中臣鎌足が蘇我入鹿を暗殺して、孝徳天皇が即位したんだよ。……そう?おぼえた?さすが、俺の美沙ちゃんだ…」

恥ずかしくて死にそう。

「い…いいです…け、けど、も、もう一度です!」

美沙ちゃんが、少し変わっているけれどもやはり天使な笑顔で、リテイクを出す。だめなのか?すごく恥ずかしいのを我慢して言ったのに…。

「お、お兄さん。いいですか。こ、ここの最初のところ、もっとブレスを入れて、耳元でさ…ささやくみたいに言ってください。へ、ヘッドフォンで聞くんですから!そ、それと、この『そう?おぼえた?』のところ、もっと嬉しそうに!嬉しそうに!」

指示が細かすぎる。声優スクールみたいになってきた。

「じゃ、じゃあ、テイクスリー行きますよ!」

美沙ちゃんがマウスを奪って、録音ボタンをクリックする。

「美沙ちゃん。大化の改新は六百四十六年だよ。いい?わかった?大化の改新は六百四十六年。中臣鎌足が蘇我入鹿を暗殺して、孝徳天皇が即位したんだよ。……そう?おぼえた?さすが、俺の美沙ちゃんだ…」

「それです!いただきました!じゃあ次はこれ!」

う…。

「大宝律令はね。文武天皇が七百二年に頒布したんだ。わかった?ん?そっか。覚えられない?もう一度言うよ。大宝律令は、文武天皇が七百二年に頒布。ふふ。美沙はアタマがいいな」

パソコンの中に、俺の恥がWAV形式で録音されていく。恥ずかしくて死にそうだ。

「ぶひひひっ!に、にーくん、なにしてるっすか?アホ…ふぎゃーっ!」

「出てけーっ!」

部屋に入ってきた妹に向かって突撃した。全力ダッシュの体当たり攻撃で妹が廊下に吹っ飛ぶ。

「な、なにするっすかーっ」

「終わるまで下に行ってろ!隣の部屋にも来るな!来たらっ!殺す!」

そのときの俺は、人生最高に魂のこもった『殺す』を言えた自信がある。妹もさすがに大人しく一階に降りて行く。

 部屋に戻る。

「お兄さん」

「な、なに?」

しまった。妹をぶっ飛ばした罪で美沙ちゃんにお叱りを受けるだろうか?

「今のもいいですね」

「はい?」

「おまけで、これも言ってください。今の迫力で!」

ほっそりとした指先が差し出すルーズリーフを見る。

《俺の美沙を泣かしたやつは、だれだろうと許さない!》

「…かんべんしてください…」

美沙ちゃん、意味わかんない。

 

 三時間後、美沙ちゃんの白いウォークマン・タイプAに俺の恥がパンパンに詰まっていた。

 

(つづく)


 
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