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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第八十四話 モデルのバイトを引き受けます

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-06-30 06:53:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:34461   閲覧ユーザー数:30174

 我が家に新たなメンバーが加わって少し時間が流れ、もうすぐ6月になろうという今日この頃。

 家に来たばかりの頃はガチガチに緊張気味だったジークも今ではすっかりシュテル達と打ち解けている。

 これでシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリにもルーテシアとは違い、正式に『長谷川』の苗字を持つ妹が出来たって訳だ。

 ただ、未だに『お姉ちゃん』と呼んで貰えないのがやや不満らしく4人の中で誰が最初に『お姉ちゃん』と呼んで貰えるか競い合ってるとか。微笑ましいねぇ。

 後はなのは達にも顔合わせしてあげないとな。既にジークの事は簡単に伝えてあるが実際にまだ会わせてはいない。

 そんなジークの現状は平仮名、片仮名、漢字といった日本で使用する文字を俺達が教えている。海鳴市で住む以上、完璧に把握してもらわないといかんし。

 9月からはジークも小学校に通わせてやりたい。海小か聖祥…または別の小学校に通わせるか。

 あと俺は海鳴にいる知り合いの力を借りて現在もジークの『エレミアの神髄』がいきなり発動しないで済む方法を模索して貰っていた。

 それと並行して俺は息抜きも兼ねてある魔法の練習もしていた。

 

 パアアアッ

 

 魔法陣の中で光に包まれた後、出て来た俺の姿が変わる。

 それを鏡で確認して

 

 「お、成功したか」

 

 満足気に頷く。

 今の俺の姿は丁度、10歳程年上の青年の姿(・・・・・・・・・・・)になっている。

 

 「ViVidっていえば大人モードだよなー」

 

 変身魔法じゃなく身体強化に分類される魔法だけど。

 悪魔図書館(あくまとしょかん)使って術式を調べ、早速やってみたが上手くいって良かった良かった。

 ちなみに大人モードになった際、纏うバリアジャケットのデザインは普通の私服に変更している。身体強化だけど戦うためにこの魔法使った訳じゃないし。

 

 「しかし…10年後の俺は大体こんな感じになるのか。良くなく悪くなくってトコだな」

 

 鏡を見ながら自己評価する。

 もしこのまま健康に育つ事が出来れば10年後…ViVid原作の時期では大方この様な容姿になるんだなと理解し、魔法を解除しようとする。

 

 コンコン

 

 「ユウキ、少し良いですか?」

 

 この声はシュテルだな。

 

 「いいぞー」

 

 ガチャッ

 

 「失礼し……」

 

 俺の方を見て固まるシュテル。

 そういやまだ魔法を解いてなかった。

 俺はすぐさま魔法を解除する。

 

 ポンッ

 

 「で、シュテル。何か用か?」

 

 「……………………//////」(ポー)

 

 「シュテル?」

 

 「はっ!?なな、何ですか!?////」

 

 「いや、それ俺の台詞だから」

 

 用があって来たんだろ君は?

 

 「そ、そうでした!!晩ご飯が出来ましたのでリビングに来て下さい!!////」

 

 あ、もうそんな時間だったのか。

 

 「分かった。すぐ行くよ」

 

 「はい…ところでユウキ」

 

 「ん?」

 

 「先程の姿は一体?////」

 

 あ、やっぱ気になるか。

 

 「身体強化魔法の術式をちょっと弄ってみたんだよ」

 

 「身体強化?変身魔法ではないのですか?」

 

 やっぱ変身魔法の分類だと思うか…。

 

 「残念だけど身体強化魔法だ」

 

 「そう…ですか。でも何故術式を弄って成人の姿に?」

 

 「単純に自分の10年後はどんな姿なのか興味持ってな。もっとも絶対あの姿になるって訳じゃ無い。順調に育てばああいった感じになるかもっていう程度だよ」

 

 「成る程(凄く格好良かったです。思わず見惚れてしまいました)////」

 

 俺が大人モードについて説明すると納得いったのか頷くシュテル。けど顔赤いよ?

 

 「ユウキ、その魔法私も使えますか?」

 

 え?シュテル、興味持っちゃった?

 

 「はい。未来の自分がどんな姿かっていうのには興味があります」

 

 「そうだなぁ。晩ご飯食べ終わってからでいいなら教えるけど?」

 

 「本当ですか!?是非お願いします!!」

 

 そんなに楽しみなのか…。これも元『理』のマテリアルだったからなのか?

 新しい事とかになると真っ先に飛びつく事がよくあるからなシュテルは………。

 

 

 

 週末…。

 俺は駅前で待ち合わせをしていた。……大人モードで(・・・・・・)

 待ち合わせているシュテルが『隣町へ買い物に行きたい』と申し出てきたのだ。

 ま、特にする事も無かったし他の皆は家でのんびりするみたいだし。

 けど『2人で出かける事は誰にも言わないで下さい!!』と念を押されて言われた。別に出掛ける事伝えても問題無いと思うんだけどねぇ。

 ま、シュテルの言う通りに従って出て来たけどそろそろアイツ来る頃だよな?

 俺は携帯の画面に表示されている時計で時間を確認する。

 待ち合わせの時間は10時で今現在9時57分。

 

 「お、お待たせしました……//」

 

 後ろから声が掛かる。シュテルだな。

 

 「いや、別にま……」

 

 『待ってないから大丈夫』と言おうとしたが振り向いた瞬間、言葉が止まってしまった。

 俺の目の前にいるシュテル…。

 

 「ど、どうでしょうか?//」

 

 その姿は大人モード(・・・・・)だった。

 

 「……………………」

 

 「ど、どこか変ですか?(し、失敗してるんでしょうか?)//」

 

 「い、いや!!そんな事無いぞ!!ちゃんと成功してるし」

 

 「そうですか?可笑しい所は無いでしょうか?//」

 

 「うん、大丈夫」

 

 目の前にいるシュテルは『ホッ』と一息吐く。

 大人モードのシュテルはViVid時のなのはがショートカットになった姿そのものと言っても良い。

 まあ、元がなのはなんだからこうなるのは当たり前っちゃー当たり前なんだけどさ。

 

 「(それにしても…)」

 

 俺は恥ずかしそうに下を向き、身を少し縮こませているシュテルをチラチラと盗み見る。

 中学生の現在よりも成長した姿。形も良く大きく膨らんだ女性を象徴するバストにくびれたウエスト、丸みを帯びた艶やかなヒップ。見事なまでの『ボン・キュ・ボン』スタイルだ。

 ……うん、女性としての容姿で言うなら完全に勝ち組だろう。現に道行く男は皆シュテルに視線が向いてるし。

 

 「ていうか上手く出来たんだな大人モード」

 

 「え…ええ。そこまで難しい術式じゃありませんでしたから//」

 

 「けどわざわざ買い物行くのにこの姿になる必要あったのか?」

 

 「り、理由がないといけませんでしたか?(こ、この姿でデートしたかっただなんて言える訳無いじゃないですか)////」

 

 「いや、そうは言わんけどな」

 

 「そうですか。じゃあこの姿のままで行きましょう」

 

 俺の手を取って自分の腕を絡めてくるシュテル。

 

 ムニュッ

 

 「(むむっ!)」

 

 腕を絡められた時に感じる柔らかい感触。

 小学生の時やつい最近でもシュテルはよく腕を絡めて来る事がある(シュテルだけじゃないけど)。

 けど今みたいな『ムニュッ』っていう感触を感じる事は無い。

 まあ、今は成長途上だし…。

 でも俺の隣にいるシュテルは現在大人モード…しかも抜群のスタイルである以上、嫌でもその立派なおムネ様が当たっている訳で…。

 

 「(うー…これ、俺に対する試練だとでもいうのか?)//」

 

 コッチを見る男性たちの殺気の籠もった視線が鬱陶しい事この上ない。

 かと言ってシュテルと絡めている腕を離すつもりもない。

 通学の際にもよくやってる事だし。

 

 「ユウキ、行かないのですか?」

 

 「あっ、そうだな!行こう行こう!」

 

 今は買い物の事だけ考えるか。

 俺とシュテルは券売機で切符を買い、隣町へ出掛けるのだった………。

 

 

 

 隣町のショッピングモールへ買い物にやって来た。

 

 「で、何か買うのか?」

 

 「そうですね……夏物の薄着でも買おうかと思って今日は来たつもりですから」

 

 『気に入ったデザインのモノがあればですけど』とシュテルは言葉を付け足す。

 ここ、海鳴市の隣町にあるショッピングモールはそれなりに大きく、休日は結構な人の数でごった返している。

 家族連れ、恋人同士、友人同士……ほとんどが2人以上で来ており、1人で歩き回ってる感じがするのはごく稀に見掛けるぐらい。

 

 「にしてもこの人数はまた…移動するのが大変だな」

 

 「仕方ないと思いますよ。休日ですから」

 

 「人混みで離れたら探すのが大変だな」

 

 「大丈夫です。こうやって腕を絡めていたら離れ離れになるとは思いませんから//」

 

 そう言って絡めている腕に籠める力が増す。

 大人モードはあくまで身体強化魔法だからあまり強く力を入れられると痛いんだけどねぇ…。

 

 「とりあえず服を買うのなら服屋に行くか?」

 

 「はい」

 

 俺とシュテルは2人で人混みの中を移動する。服屋…服屋…っと。

 歩き始めて10数分、ショッピングモール内にある服屋へと足を運んできた俺達はようやく人混みから解放された。

 今日は気温も多少高く、清々しいくらい空は晴れ渡っていたので直射日光も強く、更に人混みの熱気のせいも相まって店の中に入った時には若干ながら汗を掻いていた。

 

 「少し、暑かったですね」

 

 「そうだな」

 

 店内は冷房など空調による温度調節は行われていなかったが充分涼しく感じられる。それだけ外が暑かったって事なんだけど。

 店内をウロウロと移動しながらシュテルは自分の好みに合いそうな服を探していく。俺は店の入り口付近で待っていても良かったのだが、シュテルが腕を絡めて引っ張る様に先へ先へと歩いていくので、それは叶わぬ願いとなってしまった。

 やがて立ち止まったシュテルは絡めていた腕を解いてくれ、1つずつ服を手に取って品定めをし始める。

 

 「むう~……着心地は良さそうですが服の柄が好みじゃありませんね。これは逆に柄が良くて着心地が今一つって感じですし……」

 

 唸りながら感想を漏らすシュテル。

 しばらくは自分だけで服の評価をしていたが

 

 「ユウキ、ユウキはどう思いますか?」

 

 俺に意見を求めてきた。

 

 「服の柄はどうしても必須事項なのか?そこまで重要視する必要無いなら動きやすさを考慮して選んだらどうだ?」

 

 外に出歩く際に着る服で動きにくいのを着てもしょうがないっしょ。

 

 「一理ありますが私としてはやはり柄を重視したいです」

 

 「何で?」

 

 「服も女性の魅力をアピールする材料の1つなんです」

 

 「んん?シュテルは誰かに自分の魅力をアピールするために見せたい相手でもいんの?」

 

 「……ど、どうでしょうね?////」

 

 この反応!!

 頬を若干染めてプイッとそっぽを向くシュテルの態度を見て俺は確信した。

 

 「(いるんだ!見せたい相手が!!)」

 

 誰だろ?クラスの男子か?それとも上級生?別の学校の生徒とも考えられるし…。

 

 「(シュテルにも春が…春がきたのか)」

 

 もしそうだというのなら家族として心から祝福してやらなきゃ。

 

 ギュウッ

 

 「ヒハハハハ!!」(痛たたたた!!)

 

 突然シュテルに頬を抓られた。

 すぐに離してくれたけど頬がヒリヒリして痛い。

 

 「むー……」

 

 「いきなり抓るとは何事か?」

 

 「ユウキがおそらく盛大な勘違いをしてたのだろうと思いまして。少しイラつきました」

 

 むくれながら答えるシュテルはややご立腹のご様子。

 むう…祝福してやろうと思ったのに怒られるなんて、解せぬ。

 

 「それよりユウキの意見を聞かせて下さい」

 

 意見…ねぇ。

 

 「正直、俺の意見なんて当てにならんかもしらんぞ?」

 

 「構いません。異性の意見も充分参考になる事がありますから(案外、ユウキの好みの服装とかが分かるかもしれませんし)」

 

 そこまで言われたら答えない訳にはいかんか。

 シュテルに似合いそうな服か。

 俺は思案しながらシュテルに似合いそうな服を探すため、店内をチョコマカ動く。その後をシュテルは静かについて来る。

 ………お?

 

 「これはどうだろう?」

 

 俺が取ったのは一着のワンピース。

 夏用なんだろう。肩の部分は露出させており、服の生地もかなり薄く風通しが良さそうだ。

 生地の色は赤。シュテルにはピッタリのイメージだと思う。

 

 「これ…ですか?」

 

 「あくまで俺の意見だからな」

 

 「はい、ありがとうございました(これですね…覚えました)」

 

 服を戻して、それからも店内を歩く。時折立ち止まって服を見て元の位置に戻す作業を繰り返すシュテル。

 せっかくなのでシュテルと一旦別れ、俺も男物の夏服を見に行く。

 

 「(うーん……これといって欲しいと思う様な服は無いなぁ)」

 

 何着か手に取ってみたけどすぐに戻す。

 

 「……服を買うのは次の機会だな」

 

 今回は何も買わず大人しくシュテルを待つ事にする。

 一足先に店の入り口前で待っている事数分……シュテルが俺の元までやってくる。

 左手に握られた袋の中には包装された薄い箱が…。

 

 「服買ったのか?」

 

 「はい。少々目に留まった物があったので」

 

 ふーん。

 

 「気になりますか?」

 

 「気にならないと言えば嘘になるな」

 

 「そうですか。まあ機会があればお見せします」

 

 「ん、楽しみにしとく」

 

 「ええ、楽しみにしておいて下さい」

 

 『フフ…』と軽く笑うシュテル。そんなに良いモノが見つかったのか。

 

 「それで、これからどうしようか?」

 

 「少し早いですけど、何処かでお昼にしませんか?」

 

 時計の時間は11時24分。

 確かにお昼というには早いな。

 

 「…けど昼過ぎになったら店が混んで昼ご飯を食べる時間が遅くなるか…」

 

 「はい」

 

 じゃあ、早めにお昼取るってのも悪くないな。

 俺はシュテルの言う通り早めの昼食を取るため、服屋を出て飲食店へシュテルと共に向かうのだった………。

 

 

 

 昼食を終えた俺達は引き続きショッピングモール内を散策している。

 人混みの多さは多少マシになっている。他の人達も昼食を取るためどこかのレストランなり飲食店なりに入っているのだろう。

 

 「これからどうしようか?」

 

 「そうですね……」

 

 今は特に目的も無く2人でウロウロしている。

 このまま時間を無駄に消費していくぐらいなら少し早いが家に帰るのも選択肢の1つだろう。

 

 「ねえ…そこのお二人さん」

 

 そんな俺達に声を掛けて来る女性がいた。

 …………誰?

 俺はシュテルに視線で尋ねるが、シュテルは小さく首を横に振る。

 

 「実は私、こういう者なんだけど…」

 

 女性が手渡してきたのは名刺でそこには名前と、とあるファッション雑誌の編集者らしい事が書かれていた。

 そんな人が俺とシュテルに何の用なんだろう?

 

 「実は来月号の特集でジューンブライドについて載せようと思ってるのよ」

 

 「「はあ……」」

 

 そういや6月って言えばジューンブライドだな。この月に結婚すれば幸せになれるってよく聞くけど。

 

 「で、雑誌に載せるモデルを探してたんだけど2人共時間無いかな?もし良かったらモデルをやってもらいたいんだけど?勿論バイト料は出させてもらうし」

 

 「モデル……ッスか?」

 

 「そうそう。2人共美男美女のカップルだし、結構良いモノが撮れると思うんだ」

 

 「び、美男美女のカップルですか(い、今の私達は他人から見ればカップルに見えるという事ですか)////」

 

 ……隣のシュテルさんが『悪くない…悪くないです』とか呟いてるけどモデルに興味津々なのか?

 

 「あの…俺達は別に恋人同士n「やります!!わたしとユウキでモデルをやらせて下さい!!」…ってオイ」

 

 編集者の人が誤解してる様だから訂正しようとしたのにシュテルの言葉に遮られ、伝えられなかった。そしてシュテル、やっぱりモデルに興味津々みたいであっさりと承諾した。

 …………俺の意思を無視して。

 

 「本当に!?ありがとう!!実は本来のモデル役の子が急病で来れなくなってどうしようか不安だったの!!今日中に撮らないと来月号が発行できなかったから!!」

 

 編集者さんは感極まって何度も頭を下げ、お礼を言う。

 …俺は何も言ってないのに。

 

 「(……まあ)」

 

 隣のシュテルは乗り気みたいだし、する事無いから良いっちゃー良いんだけどさ。

 ただシュテルよ。俺の意思もちゃんと確認してから決めようぜ………。

 

 

 

 編集者さんにスカウトされ、俺とシュテルは撮影現場であるスタジオに案内されたがすぐに別の男性スタッフによってお互いが別々の個室へ連れて行かれる。

 撮影用の衣装に着替えるためだ。

 てか衣装のサイズ合うのか?サイズが合わないと良いモノが撮れるとは思わない。

 その事を男性スタッフの人に聞いたが『一通りのサイズは揃えてあるので心配無用』だとさ。

 そして着替えるための個室に入ると

 

 「おお…」

 

 大量の衣装がハンガーに掛けられていた。

 

 「ていうかこれって…」

 

 「まあ見ての通り、新郎が着るタキシードです」

 

 室内にある衣装は全て白いタキシード。

 

 「撮影ってもしかして新郎の姿を撮るって事ですか?」

 

 「そうです。特集が『ジューンブライド』なので。彼女さんは新婦らしくウエディングドレスを着ての撮影となります」

 

 シュテルのウエディング姿……。

 見た目が良いんだからドレス姿も似合うだろう。

 

 「貴方の背格好からすると……このぐらいのサイズが丁度良いかもしれませんね」

 

 スタッフの人が一着のタキシードを手に取りカッターシャツ、ネクタイ、革靴と一緒に俺の前に持ってくる。

 

 「隣の試着部屋に鏡がありますので。このサイズが合わない場合は私に言って下さい」

 

 「ありがとうございます」

 

 タキシードセット一式を受け取り、隣の部屋に移動する。

 すかさず下着以外の私服として構成していたバリアジャケットだけを解除し、パンツ一丁の姿になる。

 そしてズボンを履いて中に白いカッターシャツを、その上からタキシードに袖を通し、鏡を見ながらネクタイを結ぶ。

 

 「(うーん……こんなもんかな)」

 

 パパッと着替え、何度か鏡で自分の姿に変なところがないかを確認してから革靴に履き替え、試着部屋を出ると男性スタッフさんはコチラを見て驚いた様な表情を浮かべている。

 

 「ほお……中々様になってますよ」

 

 「そうですか?」

 

 「ええ、コレは相当良いモノが撮れそうです」

 

 満足そうに頷くスタッフの人に言われ、一緒にスタジオまで戻る。

 撮影現場に来た瞬間、他のスタッフからも注目を浴びる羽目に。

 恥ずかしい…。

 

 「(シュテルはまだ来てないのか?)」

 

 キョロキョロと見回すが当人の姿は無い。

 

 「彼女さんの事が気になりますか?」

 

 「ええ……後彼女じゃないです。シュテルは家族ですから」

 

 「はっはっは。照れなくても良いじゃないですか」

 

 照れてないし。

 

 「まあ、女性は支度に時間が掛かるものですから。申し訳ありませんが彼女さんが来られるまで少々お待ち下さい。それでは私も撮影準備の手伝いをしてきますので」

 

 男性スタッフの人もそう言って撮影の段取りをしている人達の方へ行く。

 取り残された俺は1人、その様子を眺める。

 

 「(…………ヒマだ)」

 

 シュテルの着替えが終わってここに来てくれたら会話でもして時間潰せるんだけど。

 特にやる事が無いのでしばらくの間ただ見ている事しか出来なかった俺だが、何やらザワザワと騒がしくなる。

 

 「(ん~?)」

 

 その理由は撮影現場の入り口方面にあるらしくゆっくり視線を向けると

 

 「~~~~////////」

 

 今回の撮影対象であるもう一人のモデル、純白のウエディングドレスを纏っていたシュテルがいた。

 シュテルは顔を赤らめながらもゆっくりと俺の方に近付いてくる。

 ただ歩いてくるだけの動作を男性スタッフ全員は一時も見逃すまいとするかの様にシュテルに注目しており、撮影の準備をする手は完全に止まっている。

 

 「……………………」

 

 俺も普段とは全く違う姿のシュテルに、目を奪われていた。

 

 「ユウキ、ど、どうでしょうか?初めて着るモノだったから意外に手間取りまして…////」

 

 「……………………」

 

 「あの…ユウキ?」

 

 「んあっ!?」

 

 「どうでしょうか?……似合ってませんか?」

 

 「いや!!その姿で『似合わない』なんて言う言葉自体有り得ないぞ!!////」

 

 「あ、ありがとうございます////」

 

 素直に評価するとお礼を言って俯くシュテル。

 シュテルが着てるウエディングドレスはアルファベットのAのように、バスト下やウエストから直線的に裾が広がった型。

 頭には薄いヴェール、首からは首飾りを身に付けている。

 ……驚いたな。シュテルがここまで変わるなんて。

 

 「2人共、凄くお似合いよ。私の思っていた以上に」

 

 俺達をスカウトした編集者さんが近付いて来て褒めてくれる。

 

 「これなら凄く良い写真が撮れそうだわ。ほらほら貴方達、手を止めてないでさっさと準備をしてちょうだい」

 

 手をパンパンと叩き、止まっていた男性スタッフ達を急かして準備を再開させる。

 こうして俺とシュテルのモデルのバイトは行われる事となった………。

 

 

 

 パシャッ…パシャッ…

 

 モデル被写体のバイト自体は滞りなく進んでいる。

 新郎役()だけで撮る写真、新婦役(シュテル)だけで撮る写真、新郎新婦(俺とシュテル)が揃って撮る写真と3パターンで撮られた。

 ただ、俺とシュテルが一緒に撮られる際に男性スタッフ全員が呪詛を呟きながら殺気を飛ばしてくるのはホント勘弁願いたい。

 

 「……………………////」

 

 シュテルも自分の撮影中はキッと表情を引き締めているが、俺が撮影されている最中は顔を赤くしながらも緩々な表情(モノ)になっている。

 

 「…大体は撮れたわね。じゃあ次で最後にしましょうか」

 

 編集者さんがそう言う。

 もう終わりか。長かった様な短かった様な……。

 

 「最後は新郎新婦が『誓いのキス』をするシーンを撮らせて貰うから2人共、準備をお願いね♪」

 

 ふむ……キスシーンを撮って貰えばいいんだな。

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 キスだとおおおおおぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!?

 

 俺はバッとシュテルの方に勢いよく顔を向ける。

 

 「////////////////」(プシュー)

 

 ああっ!!?シュテルの顔がこれまで見た事も無いぐらいに真っ赤に!?

 頭から蒸気も発してる!!!

 

 「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい流石にそれは勘弁して貰えませんか!!?////」

 

 「あら?どうして?」

 

 「だだだ、だってキスしてる写真載せられたら大勢の購読者に見られるじゃないですか!!」

 

 「そりゃあ当然よね」

 

 「見知らぬ人達に見られるなんては、恥ずかしいッスよ!!//」

 

 「別に直接見られる訳じゃないんだし、そこまで照れなくても」

 

 無理無理無理!!

 普通のポーズとかを撮るぐらいならともかくキスなんて…キスなんて…。

 

 「な、何を恥ずかしがる必要があるのですかユウキ!!」

 

 「んあっ!!?」

 

 顔は赤いままだがシュテルが大きい声を上げる。

 

 「こ、この程度…毎日知り合いの前でしている事じゃないですか!!!////////」

 

 「おまっ!!?何言ってんの!!?」

 

 事実無根だよ!!お前とキス自体した事ねえじゃねえか!!!

 

 ブワアアッ!!

 

 そして周囲の殺気が一気に膨れ上がり、今にも俺に襲い掛かってきそうな雰囲気を曝け出している。

 

 「周りの事なら気にしなくていいわよ。全員既婚者だし。ただ、若くて綺麗な彼女持ちの君に嫉妬してるだけだから」

 

 だからシュテルは彼女じゃないんだけどなぁ。

 否定しても信じてくれないし。

 

 「さあユウキ、さっさとき、キスを済ませましょう。これもモデルのバイトを引き受けた以上ちゃんと完遂しなくては!!(チャンスです!!ユウキとキスするチャンスです!!!)////////」

 

 「カメラさーん!準備は良いかしら~?」

 

 「……オッケーでーす(クソ!!あんな可愛い子とキスなんて羨まし過ぎるぜ!!!)」

 

 カメラ担当の人、凄い形相してコッチ見てるんですけど?

 

 「ゆ、ユウキ……////」

 

 シュテルはそっと目を閉じ、『ん~』と唇を突き出してくる。

 …………マジでやんの?

 周囲の視線は好奇心やら嫉妬やら…。

 編集者さんも『GO!!』と視線で訴えてくる。

 で、目の前にはキス顔のシュテル。

 

 「《ユウ君、早くキスしないと帰れないよ》」

 

 ダイダロス。お前まで『キスしろ』と言うのか?相手はシュテルだよ?家族なんだよ?

 

 「《レヴィちゃん、ディアーチェちゃん、ユーリちゃんも家族だけどキスしたよね?》」

 

 「《うぐっ…》」

 

 それを言われると反論出来ない。

 

 「《別にキスしたら死ぬって訳じゃないんだし》」

 

 「《そうだけど……》」

 

 「《それにこのままだとスタッフの人達にも悪いよ。無駄に時間を消費させてるんだから》」

 

 ……そうですね。俺とシュテルがキスしてる写真を撮らない限り、スタッフさん達に迷惑掛ける事になる。

 ……俺は覚悟を決める。

 

 「《あー……シュテル?》//」

 

 「《な、何ですか?》////」

 

 「《最初に謝っとく。ゴメンな》//」

 

 念話で謝罪しながらヴェールをそっとのけ、シュテルと唇を重ねる。

 

 「…んううっ……////////」

 

 「…んん……////」

 

 パシャッ…パシャッ…

 

 カメラ担当のスタッフがキスしている俺とシュテルを撮影する。呪詛なんてものは聞こえない。聞こえないったら聞こえないんだ。

 時間にして10秒程唇を合わせ、ゆっくりと顔を下げる。

 

 「えっと……ホントにゴメンな//」

 

 「ききき、気にしなくていいですよ。写真を撮るために仕方なく…仕方なくなんですから(や、やっとユウキとキスが出来ました)////」

 

 『2人共お疲れ様~』と声を掛けてくる編集者さんと血涙を流し、睨んでくる男性スタッフ陣。

 こうして俺とシュテルのバイトは終わり、元の服装(バリアジャケット)になって家路につくのだった………。

 

 

 

 夜……自室にて。

 

 「ユウ君、今日はやたらとシュテルちゃんの事見てたよね?」

 

 「そうか?まあ、大人モードのシュテルだったからな。普段から見れる姿じゃないだろうし」

 

 「ついでに言えばシュテルちゃんの『胸ばっか』見てたよね?」

 

 「…………ナンノコトヤラ」

 

 「誤魔化しても駄目だよ。私、ユウ君の視線が何処に向いてるか知ってるんだからね!」

 

 ……よく見てるね。流石は相棒ってトコなんだけど。

 

 「俺だっていつまでも子供のままじゃないって事だ」

 

 中学生にもなったし、前世の人生でもほぼ今と同時期だったので『そろそろか』と思ってたらドンピシャだった。

 俺にも思春期(・・・)が到来した。

 

 「(今までは肉体年齢に精神が引っ張られていたってコトかねぇ?)」

 

 小学生の時は前世の分と合わせたら26~32歳相当の精神年齢だった俺でも異性の身体になんて全く興味沸かなかったんだけど。

 

 「(ハア~…)」

 

 確かにダイダロスの言う通り、今日の俺はシュテル(の成長した身体)ばっか見てた気がする…てか見てた。ええ、見てましたとも。

 けどあの『ボン・キュ・ボン』スタイルに見惚れるなというのは無理じゃね?それだけ大人モードのシュテルは魅力的なモノに見えたんだよ。ウエディングドレス姿も似合ってたし。

 

 「でもなダイダロス。異性(シュテル)の身体つきに興味はあったけど欲情はしてないぞ」

 

 流石に家族相手に欲情する程俺は鬼畜じゃない。

 

 「そうなんだ……(別に血が繋がってる訳じゃ無いんだし、むしろシュテルちゃんだったらユウ君に欲情して襲い掛かられても『どんと来い』って感じになると思うけどなぁ…)」

 

 何だか返事の途切れが悪いダイダロス。

 何か言いたい事でもあるのかねぇ?

 

 「ふああ…」

 

 不意に欠伸が出る。

 むぅ…今日は意外に疲れてたみたいだな。今の俺は夕食を食べ終え、風呂から上がったばかりの状態…一気に疲労感が押し寄せてきた。

 

 ガチャッ

 

 「兄さん、メガーヌさんがアイスを用意してくれるみたいなんやけど下に降りて一緒に食べへん~?」

 

 そこへ扉を開けてやってきたのはリスの絵がプリントされたパジャマ姿のジーク。

 

 「あー、俺はいいよ。もう寝ようと思うから」

 

 「そうなん?」

 

 「ん、今日は疲れたから」

 

 「じゃあ兄さんの分はいらんって(ウチ)が伝えとくわ」

 

 「サンキューなジーク」

 

 「別にええよー。けど後でまた部屋に来るから(ウチ)が寝られるスペースは空けといてやー」

 

 「はいよ」

 

 そういってパタンと音を立てて扉を閉め、ジークの足音が遠ざかっている。

 

 「ジークちゃんは相変わらずユウ君にべったりだねぇ」

 

 「そうだな」

 

 家にいる時のジークは大抵俺の側に居る。ジーク用の部屋もちゃんと用意してあげたんだけど寝る時は決まって俺のベッドに潜り込んでくるし。

 俺が引き取る前のジークは周りを拒絶しつつも1人寂しい思いをしてたんだろうからその反動で今は思い切り甘えてくるってトコかな。

 

 「…けどいつまでも一緒に寝るっていう訳にもいかんし」

 

 いつかは兄離れ……してもらわん……と……な……。

 そう思った所で俺の意識は途絶え、ベッドに腰掛けていた状態から倒れ込んで深い眠りにつくのだった………。

 

 

 

 ~~シュテル視点~~

 

 モデルのバイトを引き受けた日から数日経ち、6月に入ってすぐの事でした。

 昼休みである現在、私は学校の屋上にいます。

 理由はディアーチェに呼び出されたからです。その背後にはいつものメンバー……レヴィ、ユーリ、なのは、フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずかもいます。

 …どことなく不機嫌そうですね。

 ユウキはいません。今日は救助隊の仕事でミッドに行ってるからです。亮太と椿姫も首都防衛隊の方に。

 それと例の3人はユウキのクラスの男子達に連行され、何処かで激しいバトルを繰り広げている筈です。

 

 「さてシュテルよ。ここに呼び出された理由に思い当たる事は無いか?」

 

 「いえ全く」

 

 ピキッ

 

 仁王立ちで私に尋ねてきたディアーチェに返答すると何やら皆の不機嫌度が増した様な気がします。

 

 「そうか…ならシュテルよ。これに見覚えは無いか?」

 

 ディアーチェがそう言うとアリシアが一冊の雑誌を取り出し、パラパラとページをめくります。

 そしてあるページのところで手が止まりました。そこには…

 

 「こ、この雑誌の特集に載っている新郎新婦(・・・・)の写真、ここ、これはお前とユウキではないのか?」

 

 ディアーチェの声がかすかに震えています。

 確かにこの前、ユウキと一緒に受けたバイトで撮られた写真が載っていますね。

 どうやらクラスの子がこの雑誌を買ったのでしょう。それで一緒に読んでいたこの中の誰かが大人版の私とユウキを見た……という所でしょうか。

 

 「そうですね。私とユウキです。それが何か?」

 

 「な、何で勇紀君とシュテルが新郎新婦の姿で写っているのかな?(ううう、羨ましいの!!こんな綺麗なドレス着て一緒に写るなんて!!)」

 

 「それに、この写真の勇紀君とシュテルちゃん、…どう見ても大人になってるよね?何で?(わ、私だって妄想の中でしか勇紀君と新郎新婦になった事がないのに)」

 

 なのはとすずかも声を震わせながら尋ねてくるので私は当時の出来事を正直に語ります。どうせこの雑誌の特集を見られたら皆に聞かれると思っていましたから。

 全て聞き終えた頃、皆は…

 

 「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」

 

 orzの状態になっていました。

 

 「ああ、それから今回のキスの一件ですがユウキの方から(・・・・・・・)私にしてくれたんです////」

 

 「「「「「「「「「なっ!!?」」」」」」」」」

 

 一斉に皆が顔を上げましたがその表情は驚愕に染まっています。

 やはり予想外だったみたいですね。『ユウキからキスしてくれた』という事実が。

 

 「ふふふ…これで私が一歩抜き出たという事ですね」

 

 今でも目を閉じ、鮮明に思い出す事が出来ます。あの甘美な一時の事を。

 

 「う…嘘や!!あの勇紀君からキスするなんて事信じられるかい!!」

 

 「そ、そうだそうだ!!事実をシュテるんは捏造しているんだ!!」

 

 「じゃあ証拠をお見せしましょうか?」

 

 私はルシフェリオンに撮らせていた例のシーンを皆に披露します(実はこっそり録画しておきました)。

 ヴェールをかき上げ、ユウキから顔を近付けて私の唇に触れる映像。

 その映像を見た皆は…

 

 「「「「「「「「「そ、そんな……」」」」」」」」」

 

 再び顔を下に向け、嘆いていました。

 そんな皆を見下ろしながら私は優越感に浸ります。

 

 「(後はこのままユウキと本当に恋人に……そ、そそ、そして将来的にはユウキの妻に…)//////」

 

 そんな妄想を抱きながら時間は過ぎ、昼休みは終わりを迎えるのでした………。

 

 

 

 ~~シュテル視点終了~~

 

 ~~あとがき~~

 

 勇紀が思春期を迎えました。

 …といっても異性の身体やえちぃ事に興味を持ち始めただけで、相変わらず自分に向けられている好意には一切気付きませんがね。

 


 
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