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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第八十二話 ランスター兄妹との出会い

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-06-20 01:34:38 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:27778   閲覧ユーザー数:24733

 「ありがとうございましたー」

 

 ミッドチルダの北部メイデン。

 その中でもデザートに定評のある店に俺は足を運んでおり、丁度今俺を含めた家族全員+α分のケーキやプリンを買い終えた。

 ここはメガーヌさんに教えて貰った店で

 

 『久しぶりにあそこのケーキ食べたいわ』

 

 と言っていたので俺が直接買いに来た。

 俺達の住む地球ではもうゴールデンウィーク。連休真っ最中。

 俺達が学校行ってる間メガーヌさんには家の事全て任せてるし、ルーテシアの世話もしていて大変だろうからコレはいつも保護者代理人としてお世話になっているお礼のつもりだ。

 それにディアーチェ、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかも所属する部活、委員会が決まったし。

 ディアーチェは陸上部に入部したし、なのはは美化委員会、フェイトはソフトボール部、はやては図書委員会、アリサは生徒会の会計、すずかは飼育委員、亮太はハンドボール部、椿姫はテニス部、直博は本人の言う通りサッカー部、謙介は囲碁部に入部した。

 そして問題児3人……その内期限までに決める事が出来なかった2人…西条は風紀委員会で吉満は相撲部へ強制的に放り込まれ、暁はテニス部に入部した。

 椿姫…………乙。

 …………と、言いつつ俺は椿姫の不幸を喜ばずにはいられないぜ。

 海中では最低1ヶ月は勝手に部活や委員会を辞められないからな。

 

 「そういや、椿姫の奴も今日は防衛隊(コッチ)に来てたっけか」

 

 一応、地上勤務組のスケジュールは事前に聞いてある。

 シュテル達は全員家にいるし、亮太もミッドには来て無い筈だ。『ゴールデンウィーク中は出勤する事無いから地球でのんびり過ごす』って言ってたもんな。

 

 「それにしても結構な行列だったなぁ」

 

 開店の20分前に来たんだけど、もうそこそこの人達が並んでた。

 

 「流石人気店と言わざるを得ないな」

 

 宝物庫にケーキとプリンの入った箱を収納してから俺は店の方を振り返る。

 店から出た今はかなりの人が行列を作って順番待ちをしている。てか最後尾が見える範囲に無い。

 ほとんどは女性客…OLっぽいけど地上本部所属の管理局員であろう人達も混じっていて男性客は片手の指の数で足りる程度の人数。

 しかし管理局員であろう人達はまだ昼休みという時間帯でも無いのにこんな所で油を売る様な事していて良いのかねぇ?

 

 「…ま、俺には関係無いか」

 

 上司に怒られたとしてもソレは仕事を抜け出して店に来ている人が悪いんだし。

 そんなことよりも今はさっさと家に帰って皆にケーキとプリンを配ろう。

 そして俺が再び歩き出そうとした時に

 

 「っ!!?」

 

 不意に魔力を感じた。

 

 「(魔力?しかも街中でか?)」

 

 魔力を感じた方向を見やる。

 

 「《ユウ君、これって…》」

 

 「《ダイダロスも感じたか?》」

 

 「《うん。しかもただ魔力を発してるって訳じゃないよね》」

 

 「《ああ、誰かと誰かが交戦してるな(・・・・・・)》」

 

 「《どうするの?》」

 

 「《どうするも何も放っておく訳にはいかないだろ》」

 

 街中で魔力を放ち、ドンパチしてるなんてロクな事じゃない。十中八九事件か何かが起きている。

 

 「やれやれ…休日ぐらいゆっくりさせて貰いたいぜ」

 

 俺は小さく溜め息を吐き、小声で愚痴りながらも魔力反応がある場所に向かって走り出した………。

 

 

 

 「この辺、結構入り組んでるなぁ」

 

 表通りとは打って変わって人通りの少ない薄暗い裏路地。

 迷路みたいに構造が複雑になっており、目的の場所に辿り着くまでちょっと時間が掛かりそうだ。

 

 「……もう飛行魔法使っちまうか」

 

 街中で飛ぶには飛行許可が下りないといけないのだが、こうも道が複雑で目的地まですぐに辿り着けないとイライラが少しずつ募る。

 

 「駄目だよユウ君。ルールはちゃんと守らないと!」

 

 「いや、分かってるんだけどね…」

 

 直線で進めば最短距離なのに何回も右へ左へ曲がるのがメンドくさくなってきて。

 

 「しかもいつの間にか戦闘終わってるっぽいし…」

 

 先程まで行われていたと思われる交戦反応が無くなっていた。

 

 「片方の魔力の持ち主は現場からどんどん離れて行ってるな」

 

 「サーチャー飛ばして追い掛ける?」

 

 「そうだな」

 

 ダイダロスの言葉に頷き、サーチャーをいくつか展開し、操作して現場から離れて行く魔力反応を追わせる。

 もう1人の魔力反応は…っと、まだ動いてないけど

 

 「何だか弱々しくなっていってるな」

 

 「ていうか生命反応も段々小さくなっていってるよ!!」

 

 「マジか!!?」

 

 これはヤバい!!

 そう思った俺は身体強化を自分に施し、一気に目的地まで走る。

 何度か道を曲がってやっと魔力反応のあった現場に辿り着いた時には

 

 「……………………」

 

 血まみれで倒れている管理局の制服を着た男性と

 

 「うっ…えぐっ……えぐっ……」

 

 その男性にしがみつき、泣いている少年がいた。

 歳は9~10歳ぐらいか?俺より若干年下っぽいな。それよりも…

 

 「これは!!?」 

 

 「っ!!?」(ビクッ)

 

 俺の声に反応し、泣きじゃくっていた少年が顔を上げる。

 

 「済まない。ここで何があったか教えて貰えるか?」

 

 「お…お兄さん……誰?」

 

 泣きながら質問してくる少年。若干怯えている様に見える。

 俺は管理局員だと証明するデータをディスプレイに映し出し、自分の名を名乗る。

 

 「時空管理局救助隊所属の長谷川勇紀陸曹だ」

 

 「管理…局?」

 

 聞き返す少年の問いに静かに頷く。

 

 「さっきここから魔力を使った交戦反応があったんでな。今日は非常勤だけど現場の調査n「お願いです!!この人を助けて下さい!!」…うおおっ!!?」

 

 俺が最後まで言い切る前に男性の側から俺に寄って来た少年が涙を流したまま服の裾を強く握って俺に言う。

 

 「僕の…僕のせいでこの人が……悪い人にやられて……えぐっ……お願いです!!この人を…この人を助けて下さい!!」

 

 「分かった!!分かったから!!その人の状態を診るからとりあえず手を離してくれ!!」

 

 俺がそう言うと少年が手を離してくれたので、俺はうつぶせで倒れている局員に近付き、心臓の部分に耳を当てる。

 

 トクッ………トクッ………

 

 「(まだ生きてるけど脈が弱くなっていってる。それにこの出血量……顔色もかなり悪いし、治療魔法じゃ助けられるか分からない)」

 

 …仕方ないか。レスティアと再ユニゾン出来る様になって1ヶ月程しか経ってないけど

 

 「レスティア!!」

 

 俺は自分のユニゾンデバイスの名を叫び、モンスターボールを投げる。

 地面にぶつかり、モンスターボールが開く。中から出て来たのは闇を象徴するかの様な容姿と衣装を身に纏っている少女。

 

 「勇紀」

 

 俺の名を口にするユニゾンデバイス…レスティアが静かに地に立つ。

 

 「済まないが、修正天使(アップデイト)を使いたいのでユニゾンしてくれないか?」

 

 「私に許可を求める必要は無いわよ。貴方がソレを望むなら私は喜んで力を貸すのだから」

 

 微笑みながら答えるレスティア。本当に良い相棒だよコイツは。

 そして視線は俺の側で倒れている局員に向く。

 

 「その人を助けるのね。間に合うの?」

 

 「まだ息はあるから大丈夫だ」

 

 「そう…じゃあ、早速始めましょうか」

 

 俺とレスティアはお互いに頷き合い

 

 「「ユニゾン・イン!!」」

 

 俺とレスティアは1つになる。

 久しぶりのこの感覚…。

 確か明夏羽っていう妖と戦った時以来だもんな。俺の魔力にレスティアの魔力が上乗せされる。もっとも今から修正天使(アップデイト)を使うのですぐに解除され、また2ヶ月間はユニゾン出来なくなるが今は人命救助優先だ。

 すぐさま、俺から放たれる光が男性局員を優しく包み込む。

 

 「修正天使(アップデイト)

 

 光の中で瞬く間に傷口が塞がり、大量に出血して悪くなっていた顔色も段々と良くなっていく。

 

 「わあぁ……」

 

 俺達の行動を見守っていた少年も目の前の光景に目を奪われ、声を漏らす。

 やがて光が収まり、少し時間が経つと

 

 バシュッ

 

 俺とレスティアのユニゾンが強制的に解除される。

 

 「これでこの局員の人は大丈夫。……ていうか……」

 

 改めて倒れている人の顔を見て

 

 「(こういう風に原作イベントに関わる事になろうとは…)」

 

 『Stsで軽く語られていたなぁ…』と原作知識を頭の中に引っ張り出しながらそう思う。

 俺は完全に治療をし終えても、未だに意識が戻らず倒れている人物…ティーダ・ランスター(・・・・・・・・・・)を見ていた………。

 

 

 

 それから少しして、この辺りの警備を担当してる陸士隊の管理局員が十数人やってきた。俺が治療した後に通報しておいたのだ。局員さん達が来てすぐにティーダ・ランスターはクラナガンにある総合病院まで搬送された。治療はしたが念のため精密検査を行うらしい。

 俺は身分を証明して、ここで俺がした事をざっと話し、現場にいた少年を紹介する。そして少年も何があったのかを局員さんに正直に話す。

 元々少年は親に頼まれたおつかいで買い物に行く途中、裏路地を通った方が近道になる(あの迷路みたいな裏路地が近道というのは信じられなかったが)という事で裏路地に入った所、管理局員と違法魔導師が交戦している現場に遭遇してしまったのだという。

 その時、違法魔導師が殺傷設定で攻撃してきた魔力弾を管理局員が庇い、致命傷を負わされたとの事。

 少年は何が出来る訳でも無く、『死なないで!!』『誰でもいいからこの人を助けて!!』と泣き叫ぶ事しか出来なかったらしい。そして、局員…ティーダ・ランスターに縋り付いて泣いていた所に俺が現場に着いたという訳だ。

 

 「…そうか。それで、その違法魔導師はもう逃げたという訳だな?」

 

 「ええ。ですがサーチャーで追跡しているので場所は分かります」

 

 「本当か!?今は何処に!!?」

 

 「……もうベルカ領に入ってますね」

 

 途中で車を盗み、ベルカ自治領に入った犯人。聖王教会とは全く違う方向……山奥の方へ向かってる。

 

 「ベルカ領か…」

 

 『ハア~』と深く溜め息を吐く局員さん。まあ、気持ちは分かる。

 このままだと追い付こうにも追い付けないし、聞いた所この部隊には飛行魔法使える魔導師がいないらしいし。

 

 「《ユウ君、手伝ってあげたら?》」

 

 「《……やっぱそうなる?》」

 

 俺だったら飛行魔法も使えるし、今は救助隊に所属してる身だけど一応管理局員だから違法魔導師を追い掛ける事自体は問題無い。

 うう…せっかくの休日が。

 俺は心の中で悲観に暮れるがこのまま帰るのも後味悪いし。

 

 「あの…俺、飛行魔法使えるんで許可さえ下りれば現地まで飛んでいけるんですが…」

 

 小さく挙手してこの場を仕切っている部隊長さんに意見する。

 

 「本当かね!?いや、手伝ってくれるなら有り難いのだが君は救助隊でこういった違法魔導師を逮捕したりする任務がメインじゃないだろう?」

 

 「違法魔導師を逮捕した経験なら既にありますし、救助隊に異動する前に陸士部隊で現場捜査に携わった事もありますから」

 

 フフフ…『高ランク』の違法魔導師を嫌という程逮捕してきたよ。嫌という程ね。

 

 「《で、ユウ君が関わる以上、今回の違法魔導師も高ランクなんだろうね》」

 

 HAHAHAHAHA………言わないで下さいダイダロスさん。

 

 「むう…ならばお願いしてもいいかね?」

 

 「了解です」

 

 ちゃちゃっと終わらせて早く帰ろう。あまりに帰るのが遅くなると皆を心配させるし………。

 

 

 

 裏路地から飛行許可を貰い、飛び立って10数分。

 俺は一気にベルカ領へと入る。

 違法魔導師はベルカの領の山奥にある大きな屋敷の前に車を止めたのをサーチャーで確認している。

 ドアを強引に破って入って行ってたから殺人未遂、公務執行妨害に加えて不法侵入も追加だな。

 もっとも向こうさんはサーチャーの存在に途中から気付いてたっぽいし。サーチャー自体も屋敷に不法侵入する直前に破壊されてしまったけど屋敷の場所自体はもう把握してるから問題無い。

 

 「(おそらくは不法侵入したあの屋敷の中にいる人を人質にでもするつもりか)」

 

 悪人らしい手口だ。

 

 「《ふっ、お師さん。ネズミがネズミを捉えた所で我々には何の影響も無いでしょう。ネズミは纏めて潰しましょう》」

 

 影響あるわ!!管理局員が人質の民間人に手ぇ出してどうすんねん!!

 相変わらずのサウザー。俺以外の人は全て見下してるし。どうにかならんもんかねこの性格。

 …綺麗な性格のサウザーってのも想像出来ないけどさ。

 

 「(…っと、そろそろ降りて徒歩で近付かないとな)」

 

 俺は地面に降り立って、少しずつ屋敷の方へ歩いていく。

 

 「(やっぱり拒絶観測(キャットボックス)を使って犯人の側まで近寄り、一気に確保っていう手段が無難かな。人質になってるであろう民間人には怪我を負わせない様に…)」

 

 頭の中で行動方針を決めて行き、目的の屋敷を肉眼で確認できる距離にまで近付いたので俺は拒絶観測(キャットボックス)を使い、存在を消してからゆっくりと忍び寄る。

 正面玄関の扉のドアノブを回すと鍵はかかっておらず、あっさりと扉は開いた。

 屋敷の中は驚くほど静かだ。

 

 「(待ち伏せられてるのか?)」

 

 周囲を常に警戒しながら屋敷の中をくまなく調べる。

 …ていうか可笑しい。

 

 「(結構大きな屋敷なのに人の気配がしない?)」

 

 何故か屋敷の中からは人の気配が感じられない。誰も住んで居ないかの様に…。

 

 「(…いや、つい最近までは住んで居たみたいだ)」

 

 屋敷内にある家具自体は放置されて数日ってところか。ほとんど埃を被っていないのだから長期間放置されていたって事は有り得ない。

 

 「(……この屋敷の事は気になるがまずは違法魔導師の事だ)」

 

 そうだ、今はこの屋敷の不思議な現状より違法魔導師の事を考えないと。

 この廊下を少し進んだ先にある僅かに開いている扉。あそこから2人分の生命反応があるとダイダロスが教えてくれた。

 あの部屋に違法魔導師…そして、この屋敷の住人が人質としているのだろう。

 

 「(まずは中の様子を確認しないと…)」

 

 そして部屋の中を覗いた先の光景は俺の想像とは全く違った状況だった。

 

 「なっ!!?」

 

 バタン!

 

 思わず声を上げ、乱暴に扉を開けて強引に部屋の中に足を踏み入れる。

 そこには……

 

 「「……………………」」

 

 俺が追っていた違法魔導師と小さい女の子がうつ伏せで倒れていた。女の子はおそらくこの屋敷に住んで居る子だと思う。

 女の子の方は無傷で特に違法魔導師に何かされた様な跡は無かった。だが違法魔導師の方は何者かに襲われたのか全身傷だらけで(・・・・・・・)倒れている。そして…

 

 「これは…」

 

 部屋の一部が天井から壁に至るまで無残にも破壊された痕だった。

 

 「一体…ここで何があったんだ?」

 

 俺の口から漏れ出た問いに答えられる者はこの場にはいなかった………。

 

 

 

 次の日…。

 俺はミッド中央、クラナガンの総合病院に来ている。

 理由は2つ。

 1つは昨日搬送されたティーダ・ランスターの様子を見に来た事。

 そしてもう1つはこれまた昨日、この病院に運ばれた女の子の様子を見に…だ。

 昨日全身傷だらけで倒れていた違法魔導師はかなりのダメージを負っていたので、一通りの治療魔法を施した上で警察病院の様な怪我した犯罪者を治療する別の病院に搬送された。

 

 「…ていうか何で俺が女の子から事情聴取しなきゃいかんのだ?」

 

 納得いかん。

 確かに女の子を保護し、病院で検査する様に手配はしたけどさ。

 俺、一応今は救助隊で、こういう仕事は陸士部隊の人がするもんでしょ?もしくは査察官みたいな人が…。

 

 「……まあ、確かにあんな風に部屋を破壊したのがどんな奴か気にはなるけどさ…」

 

 あの違法魔導師はA+ランク相当の実力者らしい。そんな奴を倒すんだから相当な手練れがあの場にいたんだろうな。

 もしくはあの女の子がやったとか…

 

 「…それは無いか」

 

 あの女の子がやったならその場で倒れていた理由が分からん。

 少なくともあそこまで部屋を破壊出来る様な者ならそう簡単に倒れたりはせんだろうし。

 

 「…けど現場にいた以上、あの子は何か見てるだろうから色々聞かなきゃいけない…か」

 

 ホント、ゴールデンウィークぐらいゆっくりしたいぜ。

 そんな事を思うと目的の病室が見えてきた。

 病室のプレートには『ティーダ・ランスター』と表示されている。

 女の子の方へ行く前にまずはコッチからだな。

 俺は病室の扉の前で軽く深呼吸をしてから部屋の中に入る。

 

 「失礼します」

 

 そう言って入った先にはベッドの上で上半身を起こしている、俺が会いに来た目的の男性『ティーダ・ランスター』と彼の乗っているベッドの傍らにある椅子に腰掛け、髪の毛の両サイドを黄色いリボンで縛ってツインテールにしている少女、そして…

 

 「何で椿姫(お前)がここにいんの?」

 

 椿姫の奴が病室内の窓際に立っていた。

 

 「何でって…病院に入院している人に会いに来る理由なんてお見舞い以外に何かあるかしら?」

 

 そりゃそうだけどさ。

 お前、家族でも何でもない赤の他人じゃん。

 それともコイツ、ティーダ・ランスターと接点なんてあったのか?

 

 「表情に出てるわよ勇紀」

 

 「おっと」

 

 「まあ隠す事じゃないから別にいいのだけれど。ティーダさんとは以前一緒の任務に就いた事があるのよ」

 

 「へー」

 

 初めて聞いた。ならシュテル達も知ってるのかねぇ?

 

 「あの…滝島さん。彼は一体?」

 

 「ティーダさん、彼が貴方のいた現場に居合わせた管理局員ですよ」

 

 「どうも」

 

 「君が?そうか…助けてくれてありがとう。僕はティーダ・ランスター。首都航空隊に所属しているんだ。階級は一等空尉だよ。」

 

 「長谷川勇紀陸曹です。救助隊に所属してます」

 

 「り、陸曹!?」

 

 驚いた表情を浮かべるティーダ一等空尉。

 驚く程か?ソッチの方が階級上なのに。

 

 「驚いたな。その歳でもう陸曹だなんて。僕が君ぐらいの時はまだ二等空士だったから…」

 

 「それ程驚く様な事でも無いと思うんですけど。それよりもお体の方は大丈夫で?」

 

 「あっ、うん。おかげ様で」

 

 良かった。修正天使(アップデイト)の効果は相変わらず抜群だ。

 

 「あの……」

 

 そんな俺達のやり取りを見ていた少女が声を掛けてくる。

 ……どう考えてもこの子ティアナだよな?

 

 「えっと、君は…?」

 

 「ティアナ・ランスターです。ティーダ・ランスターの妹で10歳です」

 

 「これはどうも。長谷川勇紀です」

 

 ペコリと頭を下げて自己紹介するティアナ。俺も名を名乗る。

 確かこの頃のティアナはまだ素直な性格なんだっけ?

 それが将来、ツンデレにジョブチェンジするんだよなぁ…。

 

 「それで…少し良いですか?」

 

 「ん?良いよ。何か俺に用でも?」

 

 「はい。出来れば人のいない所で…」

 

 そう言ってチラッと自分の兄の方を見るティアナ。ティーダ一等空尉は小さく頷くだけ。

 しかし人のいない所で…って、一体何の用だろうね?

 

 「…ま、いいか。とりあえず俺達は一旦部屋を出ますんで」

 

 俺もティーダ一等空尉に軽く頭を下げて、先に部屋を出たティアナを追い掛ける様に部屋から退出する。その時椿姫から念話で『頑張って♪』とか言ってたが無視した。

 ティーダ一等空尉の病室から少し離れた所にある休憩スペース。そこで俺は自販機で買ったジュースをティアナに手渡し、まずは一服。

 ティアナは俺と向かい合う様に対面に座る。

 お互いに黙ったまま少し時間が過ぎる。

 しかし意を決した様な様子のティアナが口を開く。

 

 「今回は兄さんを助けて頂き、ありがとうございました」

 

 「いやいや、俺があの場に居合わせれたのは偶々だし、人の命を救うのが救助隊の仕事だからね」

 

 「それでもその『偶々』がなければ今頃兄さんは命を落としてたって聞きましたから」

 

 立ち上がって深く頭を下げ、お礼を言うティアナ。

 

 「もし、兄さんも死んでしまったら私は1人になるところでしたから…」

 

 「1人って、失礼だけどご家族は?」

 

 「両親は事故でもう…」

 

 「……ゴメンね」

 

 「いえ…」

 

 う……少し気まずい雰囲気。俺が悪いんだけどさ。

 

 「そ、それで!?人のいない所で話したい事って何かな?」

 

 とりあえずこの雰囲気を何とかしたいので彼女の本題に入る様促す。

 

 「あっ、言いたかったのは兄さんを助けてくれたお礼だったので」

 

 「ん?それぐらいだったら別に病室で言ってくれても良かったのに」

 

 「いえ、兄さんは兄さんであの人と2人きりになりたいんじゃないかと思って」

 

 あの人って椿姫の事だよな?

 

 「こう見えて私、空気読むタイプですから」

 

 「何かティアナちゃんの言い草だとティーダ一等空尉って…」

 

 「多分、長谷川さんの思っている通りです」

 

 アイツ……また1人堕としたのかよ。

 

 「《自覚無しに異性を堕とす奴ほどタチの悪いものってないよな?ダイダロス》」

 

 「《………そうだね》(そしてユウ君もその『タチの悪い人』に該当するんだけどね)」

 

 全く…クロノもユーノもザフィーラもスカリエッティも苦労するだろうな。

 

 「しかし、椿姫にねぇ…。ならしばらくは病室に戻らない方がいいのかな?」

 

 「そうしてあげましょう」

 

 うーん…この頃のティアナってお兄ちゃん大好きっ子だった筈なんだけど、目の前のティアナは言うほどお兄ちゃんっ子じゃないみたい。普通ならもっとティーダ一等空尉にくっついてそうなモンだし。

 これも原作と違うIF世界の影響か?

 そんな事を考えながら俺とティアナはしばらくここで会話をしながら時間を潰すのだった………。

 

 

 

 10~15分程経ったか…。

 

 「ティアナ、もうそろそろ病室に戻ろうか?」

 

 「そうですね。勇紀さん、ジュースご馳走様です」

 

 会話してるとすぐ仲良くなれた俺とティアナは名前で呼び合う様になった。俺の場合は『ちゃん』を外しただけだが。

 2人で腰を上げ、空き缶をゴミ箱に捨てて休憩スペースを後にする。が、歩き始めてすぐの場所で意外な人物が視界に入る。

 

 「れ、レジアス中将!?」

 

 「む?長谷川陸曹ではないか?」

 

 廊下でバッタリ会ったのは地上のトップ、レジアス中将。その後ろにはオーリス三佐と…

 

 「(誰?)」

 

 何故か片方の頬が赤く、顔を青褪めさせて2人の後ろを歩く中年の人がいた。

 

 「あの…どうしてレジアス中将がここに?」

 

 俺はレジアス中将に敬礼し、ここにいる理由を尋ねる。

 

 「なに、陸曹も関わった昨日の一件の事でな。病院に搬送されたという局員の様子を見に来たのだよ。もっとも当人は健康そのものだったので入院する必要は無いと思うのだがな」

 

 『ハッハッハ』と笑いながら答えるレジアス中将。

 まあ修正天使(アップデイト)で完治させたんだし、精密検査でも問題は無かった筈。実際は形だけの入院してる様なもんだしなティーダ一等空尉は。

 

 「もっとも、少し急用が出来たのでロクに見舞いも出来んかったがな」

 

 あれ?声のトーンが少し下がった?

 ……レジアス中将、もしかして怒ってるのか?

 それと謎の中年さんはビクッと反応した後、微妙に震えてるけど、どうしたんだ?

 

 「ともあれワシはここで失礼する」

 

 「あっ、はい。お疲れ様です」

 

 俺の横をレジアス中将、オーリス三佐、謎の中年さんが通り過ぎ、俺はその背中が見えなくなるまで見送った。

 

 「…で、ティアナは何で俺の後ろに隠れてるの?」

 

 「あのお髭生やした人が少し迫力あったものでつい…」

 

 お髭…レジアス中将の事か。

 確かにいきなり怒気を発し始めた時は迫力あったし。

 

 「あの人、偉い人なんですか?」

 

 「ああ、地上のトップだからな」

 

 「そんな凄い人が兄さんのお見舞いに来るなんて…何だか信じられないです」

 

 何かビックリした表情を浮かべて言うティアナ。まあ、地上のトップがただの局員1人を見舞いに来るなんて普通は無いわな。

 

 「けど『急用が出来たから』って言ってすぐに帰ってしまったな」

 

 「忙しいんでしょうね」

 

 「だな。…っと、立ち話してても仕方ないしティーダ一等空尉の病室に戻ろう」

 

 「はい」

 

 再び歩き出し、病室に戻って来た。

 扉を開けるとさっき同様、部屋の中にいたのはティーダ一等空尉と椿姫だけだった。

 

 「(ん?)」

 

 その時、少し違和感を感じた。

 何だろ?俺とティアナが部屋を出る前と何か違う様な…。

 

 「お帰りなさい。デートは楽しかった?」

 

 いきなり何言ってんのコイツ?

 

 「はい。勇紀さんとは仲良くなれました」

 

 笑顔で答えるティアナ。

 ていうか『デート』ってところはまず否定しようぜ。

 

 「ほ…ほう。既に名前で呼ぶぐらい仲が良くなったのか。羨ましいなぁ、はは…」

 

 あれ?ティーダ一等空尉ちょっと怒ってますか?

 どことなく恭也さんと同じ様なオーラ出してますよ?

 

 「ふふ…もう少しここにいたいけど、そろそろ時間だし私は失礼するわ」

 

 「何だ仕事か?」

 

 「昨日からやってる書類作業を続けないといけないのよ」

 

 ほほう。2日連続でお仕事とはご苦労な事だ。

 

 「…なら俺もそろそろお暇しようかな」

 

 「???勇紀も仕事?」

 

 「まあな」

 

 俺も他人(ヒト)の事言えんか。昨日……そしてこれから仕事する訳だし。

 俺と椿姫はティーダ一等空尉に『お大事に』と伝え(実際は言う必要無いけどね)病室を後にする。

 そして部屋を出て少ししてから

 

 「そういやさっきレジアス中将と会ったぞ。ティーダ一等空尉の見舞いに来たらしいからお前も部屋で会った筈だよな?」

 

 そう尋ねた途端に椿姫の表情が不機嫌そうな表情(モノ)に変わる。

 

 「…レジアス中将の他にオーリス三佐ともう1人いたでしょ?」

 

 「ん?そういやいたな」

 

 「その人、『モウロ』っていう名前で階級は准将なんだけど、最初はそのモウロ准将だけがティーダさんの病室に来たのよ」

 

 「ふむふむ」

 

 「そこで彼に向かって開口一番こう言ったのよ。『犯人を追い詰めながら取り逃がすなんて首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態をしおって!!例え死んでも取り押さえるべきであろうが!!』って」

 

 「おい、それって…」

 

 「『任務を失敗する貴様の様な役立たずは航空隊には必要無い!!この無能が!!』……つまりはそういう事よ」

 

 椿姫の言葉を聞き終え、俺は握る手にグッと力を入れる。

 

 「原作でティアナが無茶をしてでも力を求めるきっかけになった心無い上司の暴言イベント。まさかそのイベントに立ち会う事になるとは思わなかったわ」

 

 そう語る椿姫の言葉にも怒気が含まれているのを感じる。

 

 「で、その言葉を聞いてカッとなった私がつい、モウロ准将の頬を引っ叩いてね」

 

 そういや片方の頬は赤かったねぇ。

 

 「アレはお前がやったのか。階級が上の相手に何の躊躇もせず叩くとは…」

 

 「あの暴言を聞いて黙ってろって言う方が無理よ」

 

 まあ、そうだろうな。俺も椿姫の立場だったら殴りかかってただろうし。

 

 「で、向こうは自分の地位がもつ権力を使って私に罰を与えようとしたみたいだけど、お見舞いに来たレジアス中将がその暴言を聞いていたみたいでね」

 

 「あー、そういう事か…」

 

 「そ。自分より上の地位にいる、しかも地上トップのレジアス中将に聞かれたのが准将の運の尽きね。レジアス中将、『少し貴様と話さねばならん事が出来たな』って言って静かに怒りながら准将を連れて行ったから」

 

 そのタイミングで俺とティアナはレジアス中将等と鉢合わせた訳か。

 

 「あの准将さん…終わったな」

 

 「多分ね。左遷させられるんじゃないかしら?」

 

 「ついでに降格処分も免れないかもな。ま、自業自得だ」

 

 これで准将が顔を青褪め、震えていた理由も判明した。准将……乙。

 あと、俺が病室で感じた違和感…それは俺とティアナが病室を出る前はいつも通りだった椿姫が、病室に戻って来た時はいつも通りの表情を浮かべつつも完全に怒りを鎮めきれていなかったという事だった。

 ちなみに後日、この事件はニュースで語られる事になるのだがレジアス中将が

 

 『自分の身を挺して民間人の少年を守った誇りある管理局員』

 

 と、ティーダ一等空尉を絶賛してたという事を知るのはもう少し先の話だったりする。

 そして暴言が公表されなかったこの一件でティアナがコンプレックスを抱く様にならなくなった事を知り、『未来が変わった』と確信するのも…。

 なのはの『頭冷やそうか』フラグ……折っちゃったなぁ………。

 

 

 

 俺と椿姫はエレベーターに乗り、それぞれ『3階』と『1階』のボタンを押す(ちなみにティーダ一等空尉が入院してたのは6階です)。

 

 「???何故3階なの?」

 

 「さっき言っただろ?『仕事する』って。事情聴取しなきゃいけない相手が3階の病室にいるんだよ」

 

 「そうなの?昨日の一件絡み?」

 

 「ああ」

 

 椿姫の問いに頷きながら答える。

 エレベーターが3階で止まり、俺が降りるとエレベーターはすぐ閉まり、椿姫を乗せて下の階へ。

 

 「(やれやれ…昨日の一件とこれから行う事情聴取は休日出勤手当つくのかねぇ?)」

 

 そんな事を思いながら俺は女の子が入院してる病室に向かうのだった………。

 

 ~~あとがき~~

 

 ティーダを生存させ、尚且つティアナが無茶するフラグを潰しました。

 


 
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