No.588808 真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ四十四2013-06-18 20:56:12 投稿 / 全13ページ 総閲覧数:5084 閲覧ユーザー数:3928 |
此処は南陽と孫呉の境界線にある山である。
次の日には一刀と蓮華が会談を持つ場所となる為、双方の兵士達によって
準備が進められていた。
「よし、これで一刀様達の宿泊場所の設営は終わったな」
一刀側の準備責任者に任命された凪は一通りの準備が終わった事を確認す
ると、近くの木陰に座って水を一口飲んでいた。
「精が出るわね、凪?」
そこへ孫呉側の責任者である雪蓮が声をかける。
「これは雪蓮様…いえ、この程度の事など大した事はありません。明日から
の一刀様達の苦労に比べれば」
雪蓮が声をかけてきたので、凪は直立不動でそう答える。
「相変わらず固いわね~。でもずっと此処で指揮を執っていて疲れたでしょ
う?私が見ておくから少し向こうで休んできたら?」
「いえ、風様より此処で必ず自分の眼で見ておくように言われておりますの
で。私は大丈夫ですからお構いなく」
雪蓮は休憩を勧めるも、凪はそれをはねつける。
「そう、あまり無理はしないようにね」
雪蓮はそう言ってその場を去ったが、
「…本当に固いわね。だからこそ風も彼女を責任者にしたんだろうけど」
そう苦い顔で呟いていた。
ちなみに雪蓮は凪が眼を離した隙に自分の行動に都合がいいように宿舎を
改造しようと考えたのは言うまでもない。
それから二刻後。
「凪ちゃん、ご苦労様ですー」
風が先発隊を率いてやってきた。
「風様、言われた通り設営は終わりました」
「はいー、それで設営中には何も無かったですかー?」
「雪蓮様が『私が見るから少し休んでれば?』と仰られましたのですが、自
分の眼で見ますのでと言ったら、それ以上は何も言わずに行かれました位
ですが」
「…そうですか、それは重畳です。さすがは凪ちゃん、期待通りですね」
凪のその報告を聞いた瞬間、風の眼は鋭く光っていたのであった。
「それでは風は会談場所の状況を見てきますので、後はよろしくですー」
・・・・・・・
「どうやらこっちには何も無いようですねー。後は孫呉側の宿舎ですけど…
あっちに近付けさせなければ問題無しですねー」
風がそう一人ごちていると、
「あら、風じゃない。早かったわね」
そう雪蓮が話しかけてくる。
「はいー、お兄さんが来る前に何も問題が無いか確認するのが軍師たる風の
仕事ですからー」
「あら?私達とそっちは盟友同士、何か問題が発生するはずもないんじゃな
いの?」
「念には念を入れるのですー。例えばお兄さんが夜にちゃんと眠れるように
なっているかとかお兄さんが朝になったら精根尽き果てるような事が無い
かとかですねー」
そう風はとぼけた様子で言っていたが、その眼は決して笑っていなかった
のであった。
「…ただいま」
「戻ったか、雪蓮。あっちはどうだった?」
「風が来たわ。おそらくこっちの意図に気付いているわね」
雪蓮は宿舎に戻ると、冥琳に報告に行く。それを聞いた冥琳は眉間に皺を
寄せながら険しい目付きになる。
「そうか…ならばこちらも慎重に動かねばなるまい」
「でも慎重にばっかりやってたらまた機会を逃しちゃわない?」
「急いては事を仕損じるという事だ。今回の会談の期間は五日間、何れかで
目的を達成出来れば良いのだ」
「そう?まあ、細かい事は任せるわ」
「そうだな、お前に全て任せたらまた力技に出かねんからな」
「ぶう、どうせ私は短絡的ですよ~」
二人がそう話し合っている所へ伝令の兵士が入ってくる。
「申し上げます!孫権様、甘寧様ご到着です」
「あら、意外と早かったわね」
「ふふふ、何だかんだ言っても蓮華様も北郷と会いたくてたまらんのだろう」
「あらあら、すっかり乙女ね」
「だからこそ想いを遂げさせて差し上げたいというものだ」
二人はそう言って笑いあいながら、蓮華の出迎えに行ったのであった。
そして次の日。
「遅くなって申し訳ない」
朝早く会談場所に着いた俺は風と燐里を伴って蓮華達のいる宿舎へ出向き
到着が遅れた事を謝罪した。
「ふふ、別に一刀が遅かったわけではないのだから、そんなに気にする事で
もないわよ」
蓮華はそう笑って許してくれていた。
「それじゃまずは会談の前に皆で朝食ね」
「ああ、それならこっちで準備してる。流琉にも来てもらってるしね」
「あら、流琉の手料理なんて嬉しいわね」
俺達は食堂兼会議場へ足を運ぶ。
「あっ、兄様。準備出来てますよ」
そこには流琉の作った朝食の品々が並んでいた。どれも美味そうだな。
「ふうむ…酒は無いのか?」
「祭さん…此処は会談を行う場だし、今は朝なんだから少しは自重してくだ
さい」
「何言ってるのよ、私達にとって少々の酒はむしろ会談を潤滑に進める為に
必要な物じゃない」
「姉様、そんな人は何処にもいませんから」
相変わらずの祭さんと雪蓮の飲んだくれコンビの言葉に苦笑しつつ、俺達
は朝食の席につこうとしたその時、
「やっと、とうちゃ~~~く!」
そう言って一人の女の子が騒々しく扉を開けて入ってくる。あれっ?この
娘ってもしかして…?
「お待ちください、小蓮様~っ!」
続いてその後ろから慌てた様子で亞莎が入ってくるが、そこにいた俺達の
姿を見て、縮こまったように袖の後ろに顔を隠す。小蓮?やっぱり…。
「小蓮様!?何故此処に?」
「何故じゃないわよ~、冥琳ってば何時も何時もシャオの事留守番ばっかり
でさ!もうつまんないから追いかけてきたんだよ!」
入ってきた女の子は頬を膨らませながらそう冥琳に言っていた。
「なあ、蓮華。もしかして…」
「ええ、妹の孫尚香よ」
やはり…この娘も前の外史とまったく同じ姿だ。今までは建業で留守番を
していたので会う事は無かったのだが。
当の尚香さんは冥琳と何か言い合いをしていたが、それが終わるや否や俺
の方に駆け寄ってくる。
「あなたが北郷?」
「あ、ああ…そうだけど?」
「へぇ~、姉様達から聞いていたけど本当にいい男ね。シャオの事は小蓮っ
て呼んでね♪」
そしていきなり真名を預けてくる。
「えっ!?…いいのか?一応初対面だよね?」
「いいの♪その代わりシャオがあなたの妃になってあげるから♪」
俺は一応そう聞くと、尚香さんは突然とんでもない事を言い出す。
その言葉にその場は騒然となるが、特に…。
「シャ、シャオ!?いきなり何言ってるのよ!!」
蓮華が一番激しく反応を示していた。
「だってさ~、此処に集まったのってこの山がどっちの領土か決める為でし
ょ?でも両方の民の心情もあるから簡単に決めれないよね?だ・か・ら♪
シャオが北郷のお嫁さんになって親戚同士って事になれば問題無いよね」
それを尻目に尚香さんはそう言い放つ。
実際の話、親戚同士になったからといっていきなり領土問題が解決するわ
けでもないのだが、彼女の提案に雪蓮と冥琳は『その手があったか!』と
いったような顔をしていた。
「ね、いい案でしょ?」
「しかし尚香殿…」
「小蓮って呼んでって言ったでしょ!それとそっちの真名も教えてよ♪」
「えっ…ええっと…真名ではないけど、一刀…」
「一刀ね♪不束者ですが、末永くよろしくお願いします♪」
尚香さん…小蓮はそう言うとその場で三つ指をついて礼を取る。あれっ?
こっちでもそうするんだったっけ?
俺が混乱しながらそう考えていると、
「恐れながら、我らだけでそのような事を簡単に決めるわけにはいきません。
例えそれを実行した所で問題が解決するわけでもなく、勝手に諸侯同士で
婚姻関係を結べばそれは反逆とも取られかねません。私達は今日の所はこ
れで失礼します。皆様はごゆっくりお食事を」
横から燐里がそうまくし立てると、俺の手を掴んでそのまま外へ引っ張っ
ていった。
「確かに燐里ちゃんの言う通りですね。では会談は改めて明日にという事で」
風もそう言って出て行くと、北郷軍の面々もそれについて行き、その場に
は孫呉の者達だけが残されていた。
「何よ一体~。そんなにシャオが一刀の妃になるのが気に入らないわけ!?」
小蓮はそう言って頬を膨らませていたが、
「シャオ!あなたがいきなりやってきて勝手にあんな事言うからでしょう!」
蓮華からそう言われると、
「だって、それが一番良いって思ったんだもん!それに、一刀って思ったよ
りいい男だしさ♪この際、シャオのものにしちゃいたかったのよね~」
そう悪びれもなく言っていた。
「な、ななななな…何ですってぇ~!シャオ…誰が誰を誰の物にするですっ
て~!?」
それに対する予想以上の蓮華の怒りは思春ですら後じさりする程であった。
「シャオ…ちょっとこっちに来なさい」
蓮華はそう言うと小蓮を引っ張って宿舎の方へ戻っていった。
「あ、あの…一体どうすれば…?」
亞莎がおずおずと聞いてくるが、
「まっ、なるようになるでしょ。とりあえずは朝ご飯、朝ご飯」
雪蓮は気にするでもなく食卓に並べられた食事を食べ始める。
「まあ、仕方ないな。小蓮様の事は考えておくとして…これだけの食事を残
すのはもったいないな」
冥琳のその言葉で残った孫呉の面々はとりあえず食事を摂る事にしたので
あった。
「待て、おい、燐里!いきなりあんな対応は無いだろう!?」
宿舎に戻った俺は手を掴んだまま離さない燐里にそう問う。
「いえ、燐里ちゃんの対応に間違いないですねー。あのまま尚香さんの言う
がままにするのは問題がありましたしねー」
風がそう答えると、燐里はようやく俺の手を離す。
「…あんなポッと出の女に先を越されてたまるもんですか」
「?…何か言ったか?」
「いえ、何でもありません。とりあえずは明日の会談の内容について吟味す
る必要がありますので、私はこれで」
「なら風も一緒に」
二人はそのまま連れ立って去ってしまった。
「…一体何がどうなってるんだ?」
俺はどうする事も出来ないまま、ただ立ち尽くしていた。
・・・・・・・
「とんでもない事になりましたねー」
「ええ、まったく。いきなり現れて…何よ、あの言い草。幾ら蓮華様の妹だ
からって何しても許されるわけじゃないってのに」
風と燐里は部屋に入るなり、小蓮の事について話し合っていた。
「でも、尚香さんが現れた時の孫呉の方々の驚きぶりから考えると、本当に
勝手にやってきただけのようではありますねー」
「だからこそよ。大体あんな事を言ってこれからの会談に悪影響が出るかも
しれないとか考えないのかしら?」
「多分、あの人は今までそういう事を考えた事が無いのでしょうねー。甘や
かされて育ってきた感じがしますし」
「そもそもいきなり出てきて『一刀様の妃になる』なんて…皆、思ってたっ
て言えないのに…」
燐里はそう言うとますます不機嫌な顔になっていた。
「そもそもお兄さんは朱里ちゃん以外の人と夫婦になるつもりは無いみたい
ですしねー。陛下とだってああなっても祝言を挙げないみたいですねー」
「あの子はそれを分かって…いないわね」
「良くも悪くも自分の感情に忠実に生きてきたんでしょうねー。我々軍師と
は正反対ですねー」
「正直、予想外の相手が出てきたけど…誰であろうともやる事は一緒ね」
二人はそれからしばらく協議を続けていたのであった。
・・・・・・・
「シャオ!あなた一体何を言ったか分かってるの!?」
場所は変わり、孫呉側の宿舎にて。
空き部屋へ小蓮を連れてきた蓮華は怒りが収まらないまま、そう詰問して
いた。
「何って、別に悪い事じゃないでしょ~っ?シャオと一刀が夫婦になったら
全部解決じゃん」
当の小蓮は何故そこまで姉が怒っているのか、全く理解せずに悪びれもな
くそう言っていた。
それを聞いた蓮華の顔はまるで夜叉の如くに歪んでいた。
「一刀も私達も漢の要職にある身分なのよ!その立場にある者同士が簡単に
婚姻を結べないって、さっき燐里…向こうの軍師も言ってたでしょう!!
それをあなたって人は考えもなしに…」
「そんな難しい事、シャオ知らないも~ん」
結局、事の重大さを理解していない小蓮には何を言っても無駄のようであ
るのは蓮華にも分かっているのだが、自分の感情の中でこのまま引き下が
れない何かが怒りをこみあがらせていたのである。
「もういいわ!シャオ、あなたには即刻建業へ帰るか会談が終わるまでこの
部屋にいるかどちらかを選ぶ事を命じます!」
「え~っ、何よそれ!何でそんな命令聞かなきゃならないわけ~!」
「これは当主としての命令、あなたに拒否権は無い!どちらも嫌だと言うの
なら、このまま拘束して建業へ送り返すだけよ」
小蓮は尚も反論しようとするが、蓮華はただじっと小蓮を見つめたままで
あった。
「ぶう~っ、分かったわよ~。此処でおとなしくしてればいいんでしょ?」
姉の剣幕に押されたのか、小蓮は渋々それを承諾する。
「なら決まりね。部屋の前と窓の外には兵を配置しておくから逃げ出そうと
したってそうはいかないわよ」
蓮華はそれだけ言うと部屋を出て行った。
「まったく…一刀の妃になれるのなら私がなりたいわよ」
その蓮華の呟きが小蓮に聞こえる事はなかったのであった。何故なら…。
「べぇ~っだ!どれだけ兵を置こうともシャオの魅力の前には何の役にも立
たないんだから!」
小蓮はそう根拠の無い事を自信たっぷりに一人ごちていたからである。
そして次の日。
「昨日は妹が粗相をしたわね。ごめんなさい」
「いや、別に粗相って程では…」
開口一番、蓮華がそう謝った後、
「それでは、これまで両国の間で懸案となっていた山の帰属についての会議
を始めます。ちなみに陛下からは『両者の間でよしなに決めるよう』との
お言葉を頂いております」
司会役の亞莎からのこの言葉で改めて会談が始まったのであった。
・・・・・・・
その頃。
「ねぇ~っ、シャオちょっとだけ外の景色が見たいなぁ~」
「孫権様より『会談が終了するまで一歩たりとも外へ出すな』と厳命されて
おりますればご勘弁を」
「そんな事言わないでさぁ~、出してくれたら『い・い・こ・と』してあげ
るから♪」
「………………」
「ぶぅ~っ、何よ!?その『まったく興味ありません』って視線は~!?」
小蓮はずっと番兵に外へ出せと交渉するもまったく聞く耳を持たれず、色
仕掛けをしてみても何の反応も持たれなかったので、部屋の中で不機嫌な
顔をしていた。
「あっ、痛たたた…」
「どうされました!?」
「急にお腹が…お願いちょっと外の空気を…」
「おい、今すぐ医者を『…もういいわよ』…そうですか?具合が良いのであ
れば何よりです」
(何よ、この兵士達!何処まで真面目なのよ!)
小蓮は心の中でそう愚痴っていた。それもそのはず、この番兵達は蓮華が
兵士達の中でも特に愚直な者達を厳選して配置したので、此処で番をしろ
と言われれば一年でも二年でも真面目に番をしているような面々なのであ
った。当然、小蓮を出させない為の人選である事は言うまでもない。
「むぅ~、絶対に此処から出てやるんだから~っ!」
小蓮は一人そう喚いていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は…小蓮が暴れてただけで申し訳ありません。
小蓮は実は初登場でした。今までまったく出る機会
が無かったもので…このまま出さないというのも考
えたのですが、結局登場させる事にしました。
次回は会談の続きと小蓮の暗躍をお送りする予定です。
それでは次回、外史動乱編ノ四十五でお会いいたしましょう。
追伸 次回は朱里の出番もある予定…。
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お待たせしました!
境界線の問題を解決する為に会談を持つ事になった
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