No.587816

楽しく逝こうゼ?

piguzam]さん

第32話~真剣で俺とバトりなさい!!ん!?何か違う!?その②

2013-06-16 08:45:54 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:21645   閲覧ユーザー数:18673

 

 

前書き

 

 

な、何とか間に合った(汗)

 

実は今日、6月16日で、この「楽しく逝こうゼ?」は1年を迎えましたッ!!

 

皆さんこれからもよろしくお願いしますッ!!

 

それと、出来ればコメントには話の感想についてを書き込んで下さい。

その方が色々と自分の作品の糧になりますので(土下座)

 

尚、前回と今回の戦いのBGMは、イギーのテーマを聴きながらご鑑賞下さい♪

 

それでは、どうぞッ!!!

 

 

「…………冗談だろ?」

 

幾つものコンソールが光り輝くアースラのブリッジルーム。

そのシーンとした空間に、『鉄槌の騎士』の異名を持つ少女、ヴィータの呆然とした声が響く。

今まで闇の書の守護騎士として数多の戦場を共に駆け抜けてきたシグナムがこうも連続で手玉に取られる姿等、彼女には想像も付かなかった様だ。

 

「……まさか、あの冷静なシグナムに1杯食わせるとは思わなかった……焦っていないシグナムを待つ事で焦らせ、あの場にシグナムを留める為に敢えて姿を晒し、話術であの場を繋げる……今までに戦った事が無いタイプだ」

 

「ゼン君の戦い方は、私達『騎士』のソレとは根本的に違うわ……利用できるものは全部使うっていう正に、なんでもアリの戦い方……シグナムがあそこまで策に嵌る所なんて、初めて見たもの」

 

それはヴィータだけでは無く、同じ守護騎士であるシャマルとザフィーラも同じ気持ちなのか、目を見開いて驚愕している。

 

「……(私がゼンと戦った時は、『クレイジーダイヤモンド』を使った力任せの戦闘スタイルだったが、スタンドを使わずともここまで戦えるとは……)」

 

一方で、このシグナム対禅の戦いを終始無言でモニターを見つめていたリインフォースは、内心で禅の戦い方に舌を巻いていた。

今の完全復活したリインフォースの力を持ってすれば、最初に病院の屋上で戦った時の様な拮抗は有り得ないだろう。

それこそ近距離での近接戦闘に限定しても、リインフォースは禅と『クレイジーダイヤモンド』を圧倒出来ると確信していた。

しかし、例えそうであってもシグナムも歴戦の猛者だ。

自分より戦闘の経験は遥かにある上に彼女は闇の書の守護騎士たるヴォルケンリッターのリーダーを張っている。

並の魔導師なら瞬く間に倒してしまうだけの実力は十二分に備わったシグナムに、たった1週間前後で食らいつける程に成長した禅。

リインフォースはその並を遥かに超える禅の成長に驚きを隠せなかった。

 

「うわぁ……シャボン・ランチャーの集中爆撃とか、ゼンも随分とエグい作戦を考えるよ」

 

「あぁ、全くだ。あのシャボン一つで、プレシアの魔導傀儡兵を粉微塵に吹き飛ばす威力があるというのに……幾ら気絶する程度に加減したとしても、アレはやり過ぎだろう」

 

「ある意味、『クレイジーダイヤモンド』有りの戦闘の方がマシだったんじゃあ……」

 

「いや……アイツなら……アイツの性格なら、『クレイジーダイヤモンド』を使いつつ、さっきまでの作戦を敢行していただろうな」

 

「…………そうだね」

 

ユーノの心底同情する様な声に反応して、モニターを見ながら渋い顔をするクロノも同意する声を挙げた。

普段罵り合ってる2人が息を合わせた非難の声を飛ばす程、目の前のモニターに映る光景は悲惨なモノだった事を如実に物語っている。

何故ならモニターに映る禅の見ている先は、シャボンの一斉爆破によって木々が薙ぎ倒され、まるで台風でも通ったかの如く破壊されているからだ。

ただ、ここに禅が居たならば、彼は真顔でこう返していたであろう――――『なのはの極悪コンボ(バインドで縛り上げてからのSLB)より数百倍マシだろーが?』と。

 

「でも、周りを全部囲って逃げ道を潰してからああやって攻撃するのは凄い有効なの――――レイジングハート?私も同じ様な魔法が使えないかな?」

 

『It is thought whether it is possibility,Because I search a similar method and constitute it(可能かと思われます。類似する魔法を検索、構成しておきますので)』

 

「ありがとうレイジングハート♪またユーノ君とクロノ君にトレーニングの相手(と言う名のサンドバック)してもらわなきゃね♪」

 

『If it is them, a partner of the training will not have most suitable for(彼等なら、トレーニング相手には申し分無いでしょう)』

 

「ねえなのは?お願いだから僕で新しい魔法を試そうとするのは止めて下さいお願いします。クロノなら別に良いからさ」

 

「おい待てフェレットもどき!?さり気なく逃げようとするな!!お前はなのはの師匠だろうが!!キチッとなのはのサンドバック役を努めろ!!」

 

「師匠って言えば済まされる問題じゃないんだよ!!僕はまだ死にたくない!!」

 

「そんなの僕だってそうだ!!多少の痛みは我慢出来ても、誰が好き好んで拷問なんて受けなきゃならないんだ!!」

 

「ねえ二人共!?私の魔法の事どんな風に認識してるの!?ねぇ!?ねぇ!?ねぇってばーーーッ!!?」

 

余りにも悲惨な言われように、なのはは泣きそうな顔で2人に抗議するが、2人はそれどころじゃないらしく、未だにサンドバック役を押し付けあっている。

オマケとばかりに2人の真剣……というか必死な顔が、どれだけなのはの新技を受けたくないかを態度で表現してしまっていた。

更にはこの場に居る誰もがなのはの事を擁護しようとする姿勢を見せないのが、クロノとユーノの意見を全肯定している事の証明でもある。

それを理解したなのはは、今度何が何でも目の前で言い合ってる2人に自分の魔法の存在を改めてもらおうと強く決意した。

主に自分の魔法を骨に染みこむまで叩き込んで身体で理解してもらうという遣り方で。

 

「うぅ~ん……でも、幾らゼンの作戦が上手くいったからって、ちょいとあっけなさすぎる気がするけどなぁ」

 

「そ、そうかな?アタシは、今のゼン君とシグナムさんの戦いって凄く緊張したけど?」

 

と、ここでモニターを見ていたアルフが、何やら首を傾げながらモニターに映るシグナムが爆破された場所を見ながらそう漏らした。

そのアルフの呟きに、エイミィはコンソールに手を置いたまま苦笑いして言葉を返すが、それでもアルフの表情は全く変わらない。

正しくアルフは、今まで戦い続けてきた事で身に付いた『野生の勘』とも言うべき本能が訴えるからこそ、この様な呟きが出たのだ。

 

「まぁまぁアルフさん。何であれこの模擬戦はこれで終了よ……(ガチャ)『ゼン君、お疲れ様ね。これで模擬戦は終了だから、シグナムさんを治してくれるかしら?』」

 

そして、アルフとエイミィの遣り取りを傍で聞いていたリンディは、アルフを宥める様に言葉を掛け、そのまま訓練室と通信を繋いだ。

何にしても、シグナムは負傷している筈なので、禅の『クレイジーダイヤモンド』で傷を治してもらわないといけないとリンディは考えていた。

 

『……』

 

『……?ゼン君、聞こえてる?』

 

だが、リンディの言葉に返って来たのは返事では無く、無言のみだった。

実際モニターに映っている禅はその場から動かず、ただ真剣な表情でたった今吹き飛ばした場所をジッと見据えている。

その動きに隙は無く、まるでまだ模擬戦は終わってないと訴えている様な佇まいだ。

その模擬戦が終わったと思えない禅の緊張した構えに、ブリッジに居る全員の視線が再び集まり――――

 

 

 

 

 

『――――紫電、一閃ッ!!!』

 

『ちっ!!銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライヴ)ッ!!!』

 

 

 

 

 

まだ、彼等の戦いの幕が降りていないという事実を認識させられた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「紫電一閃ッ!!!」

 

「ちっ!!銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライヴ)ッ!!!」

 

ギュゴァアアッ!!と空気と炎が起こす摩擦音を奏でながら、シャボン・ランチャーを爆破させた森から飛び出してくるシグナムさん。

ヤッパあの程度の攻撃でこの人が気絶するわきゃねえよなぁ畜生ッ!!

俺は心の中で盛大に悪態を吐きつつ、コートの裏ポケットから手に持ったまま待機していた武器に波紋を流し込んで、シグナムさんのレヴァンティンを受け止めた。

そのまま俺とシグナムさんは互いの武器をぶつけて鍔迫り合いの体勢に入り――――

 

「だぁあッ!!!(ギャイィイイインッ!!!)」

 

「ちょどぅおわぁああああああああッ!?」

 

武器が触れ合った瞬間に弾き飛ばされた、ってどんだけ強いんだよこの斬り払いッ!?

何と俺がシグナムさんの剣を受け止めた瞬間、シグナムさんはそこから更にパワーを掛けて、俺を武器事弾き飛ばしてしまった。

力比べと剣速じゃまるで勝負にならなかった事に男として惨めな気持ちになるも、俺は足で地面を滑りながら少しした地点で停止する。

見上げた視界の先では、シグナムさんは剣を振り払った体勢から既に正眼の構えに戻っていた。

 

「ハァ……ハァ……今のは本当に危なかったぞ……鞘の防御魔法(パンツァーガイスト)を全身に展開し直さなかったら、アレで終わっていた」

 

「……俺としては、シャボン・ランチャーをしこたま食らっといてそんだけ元気なのがかなりショックなんスけど」

 

言い返せば爆弾の山に埋まってた様なもんの筈なんですけど?ドンだけタフだよドン引きだよ。

かなり息の上がったシグナムさんは疲れまくった声でそう言いつつも、目だけはまったくもって闘志を失っていない。

オマケに彼女の騎士甲冑の下半身を囲っている左右のスカートアーマーは七割ほど無くなって、もはやミニスカ状態だ。

でも前と後ろの真ん中部分の甲冑はしっかり残ってて……なんつうか褌の余った部分みてえで大変な事になってらっしゃる。

健康的でムッチリとした足を惜しげ無く晒す綺麗というよりカッコイイ系の美女……素敵です(キリッ)

つうかそんだけ騎士甲冑ボロボロなのになんでやる気はそれに反比例して上がってんだよ!?アンタ背水の護符でも持ってんのか!?

そう叫びたい気持ちでいっぱいだったが、今のシグナムさんにそんな隙見せたら一撃でヤラれちまう。

力の限りツッコミたい思いを抑えて、俺は手に持つおニューの武器に波紋を篭めて更に強化していく。

今のシグナムさんから繰り出された『紫電一閃』って炎を纏った斬撃を一瞬受け止めただけだっつーのに、もう既に俺の武器は凹みかけていた。

まぁこの試合が終わった後で治したら良いだろ。

 

「……所で、タチバナ……それは『武器』のつもりか?」

 

と、目前で凹んでしまったおニューの武器を見ていたら、シグナムさんから怒気が混じった言葉が飛んでくるではないか。

え?なしてそんなに怒ってんのよ?

 

「つもりって……どっからどう見たって正真正銘の武器――」

 

「『フライパン』が武器などに数えらるかぁああああああああああああッ!!!?」

 

「うおぉっ!?」

 

今まで真剣に、かつシリアスな雰囲気を携えていたシグナムさんは俺の持った『フライパン』を指差して吠えた。

しかも前回のジュエルシード事件で使ったモノとは別の『卵焼きとかに使う長方形のフライパン』、今回の色はメタリックブルーです☆

更に今回のフライパンはなけなしの小遣いをはたいて買った俺のオーダー品、行き付けの調理器具屋のおっちゃんが快く彫ってくれた文字入りだ。

柄の部分に彫り込まれるは、『幸運と勇気』を示す英語のスペル入り。

 

 

 

 

 

その名も――――『luck(幸運)Pluck(勇気)のフライパン』だ。

 

 

 

 

 

うん、とりまブラフォードさんゴメンナサイ。

何か謝っとかないと殺される気がががが。

 

「私の紫電一閃を防いでおきながら僅かに凹むだけとは一体どんな造りのフライパンだ!?それで何を調理する!?龍か!?龍の肉でも焼くのか!?それとも私などそのフライパンの上で美味しく調理されるだけの肉だという皮肉のつもりかぁあああッ!!?」

 

このフライパンの何処かが勘に障ったのか、シグナムさんはとんでもない声量で俺に吠えかかってきた。

落ち着けって、もうなんか支離滅裂過ぎて、見てて痛いから。

しかも肉肉言いすぎて言葉が肉々しい、それに何をどうやったらそこまで自傷的な考えに及べるかが謎すぐる。

っていうかフライパン舐めんなこのピンク頭。

 

「最初の糸は肌触りから特別なものだと理解出来た!!その後のコーラも栓を撃つという考えから納得出来たさ!!だがフライパンだと?貴様戦いを舐めるのも大概にせんかぁああッ!!?その様な武器にもならん鉄の調理器具を振り回す等、戦闘は料理じゃないんだぞッ!!」

 

「あぁ~ん!?コラァてめフライパン舐めてんじゃねえよ!!少なくともそーゆー台詞はアンタの『紫電一閃』とやらの火力でこのフライパンを溶かしてから言ってみやがれってんだ!!それすらも出来ねーウチから人の武器にイチャモンつけてんじゃねーー!!」

 

フライパンを馬鹿にしたシグナムさんに、フライパンの偉大さをフライパンを叩きこむ事で教える事にした俺は、走り込んで接近しながら波紋を込めて横から思いっ切り殴りつける軌道を取った。

対してシグナムさんも同じ様に反対の横合いから斬りこむ動きを見せて、俺達は再び鍔迫り合いの体勢に入る。

 

「ならそうさせてもらうぞッ!!ハァッ!!」

 

「オラアッ!!『フライパンチ』ッ!!!」

 

2つの武器が、己の強さを誇示せんと唸りを上げて衝突し――――

 

ガギィイインッ!!!

 

研がれた刀身と打たれた鉄の塊が、耳に響く嫌な音を奏でてぶつかり合った。

その勢いで弾かれた俺とシグナムさんだったが、まだまだと言わんばかりに、俺達はもう一度武器を構えて接近する。

 

「セイッ!!らあっ!!はぁあああッ!!!(ガギンッ!!ギャンッ!!バシィイイッ!!)」

 

「オラオラオラオラオラァアッ!!!(ガンッ!!ズギィッ!!ズドォオッ!!!)」

 

斜めから斬り込めば斜めに跳ね返され、横合いから殴れば軌道を逸らされ、突きを飛ばせば上から殴って弾かれる。

お互いに身体を休める事無くひたすらに剣を、フライパンを振るう。

俺もシグナムさんももはや全力で1歩も引かずにその場で打ち合いを続けるが、段々とその拮抗も崩れだしてきた。

 

「ハアッ!!ダァッ!!(ギィンッ!!ズバァッ!!)」

 

「ぐおっ!?んの、ヤロォッ!!!(ゴォンッ!!ガンッ!!)」

 

俺の方が段々とシグナムさんの剣撃に耐えられなくなってきてる。

斬り払いの速度と重さが最初より強くなり、シグナムさんは全体的に余裕を見せ始めてるんだ。

一方で俺の方は、シグナムさんの攻撃をいなしたりした時に身体が後ろ向きに飛びそうになってる。

そこで何とか足を踏ん張って攻撃を返すが、そこからの返しも鋭くなってきやがった。

さすがに騎士を名乗るだけあって、剣というか近接戦闘は俺の何倍も強い。

このままじゃジリ貧になる――――そう考えた瞬間、シグナムさんの力強い切り上げを食らって、俺は今までで一番の隙を見せてしまった。

ってマズイッ!!?

 

「ッ!!(ガシャコンッ!!)紫電一閃ッ!!!」

 

「(ガイィイイイインッ!!!)のわぁあああああああッ!!?」

 

そして、案の定といった具合にシグナムさんは大技を繰り出し、炎に包まれた剣で斬りこんできた。

その絶体絶命の攻撃に、何とかギリギリ防御を合わせたが、それを受けた瞬間拮抗もせずに俺は吹っ飛ばされてしまう。

地に足が着かない状態で俺は10メートル程の距離を吹き飛ばされたが、途中で身体を回転させて地面に着地する。

直ぐにその場でフライパンを構えるが、シグナムさんはさっきの地点から動かずに俺を注意深く見ている。

ふと、構えたフライパンに目をやれば、シューシューという音を出している上に火を受ける底の部分が真っ赤な色に染まっていた。

ど、どんな熱量発してるんだよシグナムさんの炎は!?銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライヴ)をエンチャントしてなかったらドロドロに溶けてるぞ!!

 

「……紫電一閃をあれだけまともに受けても、ただ赤くなるだけか……忌々しいフライパンだな」

 

油断なく構えるシグナムさんはそう言いながら、俺のフライパンを憎々しげに睨んでくる。

だからアンタに一体何があったんだよホント?世界中探したってそこまでフライパンを恨む人も普通はいねえ。

しかしまぁ、波紋で強化してなきゃ最初の紫電一閃を喰らった時に溶けてたっての。

だがしか~し……コレは正しく怒らせるチャンスなり。

このチャンスを逃さんとばかりに、俺は真剣な表情を崩してニヤニヤとした笑みを作る。

しかし、さっきまでの経験で俺の魂胆が判っているのか、シグナムさんの方が俺より先に口を開いた。

 

「くだらん挑発なら止めておけ。貴様のバカげた行動や言動に先ほどまでは翻弄されたが、もう何を言われても反応せん。喋るだけ無駄な事だぞ、女にだらしない遊び人の小僧め」

 

彼女はそう言って、俺に向かって馬鹿にするような嘲笑を送ってくる。

しかし俺はその言葉には特に反応せず口を開いた。

やれやれだな、シグナムさん?挑発ってのはこうやるんですぜ?

 

「ハッ!!俺のフライパンを溶かすどころか、『コンロ』と『同じ様な火力』しか出せないとか……デカイのはおっぱいと口だけッスか?あぁ、後尻もか。いやゴメンナサイっす、『コンロ侍』さん♪」

 

「よーし分かったその喧嘩買ったぞ今直ぐ微塵切りにして消し炭に変えてやるからそこ動くなよブッ絶KILL」

 

「おやおやおやおやおや?俺の言葉には反応しないつってたから独り言を言っただけなんスけどぉ~?……どうしたんだい?先輩www」

 

俺の畳み掛けるバカにする言葉の連続に、シグナムさんは俯いてプルプルと震えだした。

グレート、効果覿面過ぎだろっていうか反応良すぎだぜ。

 

「フッ……負フ婦歩歩ふ不腐フフ。み、微塵切りは止めだ……身体中に私の炎を灯して、貴様の身体をグツグツのシチューにしてくれるわぁああああああああああああああああッ!!!!!」

 

ちょおまっエシディシ様じゃないでしょうに!?

もはや天元突破もかくやという勢いで咆哮したシグナムさんは、その凛々しいお顔に鬼気を宿して俺を睨んでいる。

それこそブチ切れたヴァニラ・アイスより怖えよ……っていうかシグナムさん乗せられやすすぎだろ。

目の前で臨界点突破状態のシグナムさんがカートリッジを5個、レヴァンテインから排夾するのを眺めながらそんな事を考え……お~いちょい待て5個だと?

アレオカシイナー?と思いつつも地面に散らばったカートリッジを見てみるが、やはり5個だった。

そしてさっきよりも豪快な炎がメラメラと燃え盛るレヴァンテイン、そして般若の様な笑顔を浮かべるシグナムさん。

……やりすぎた?

 

「くっくっく……地獄の炎なぞ、生温いと思える煉獄の炎を味わせてやろう……『紫電――――』」

 

青筋の走りまくった顔でそう告げると、シグナムさんは体を大きく屈めて何時でも斬り掛かれる体勢を作った。

それを見て慌てて俺もフライパンを構えて防御の体勢を取る。

 

「一閃ッ!!ハアアッ!!(ゴォウッ!!!)」

 

そして、まるで弾丸の様に飛び出したシグナムさんは、フライパンを構える俺に炎で出来た大剣を思いっ切り振り下ろしてくる。

だがレヴァンテインにエンチャントされた炎がとても大きく、コッチが防御の体勢を取るのは簡単だった。

なんせ太刀筋が大きな炎の軌跡で良く判るからな。

俺は余裕の気持ちで、シグナムさんの繰り出した剣に自分のフライパンを合わせようと防御の姿勢を取った瞬間――――。

 

「ッ!!ココだぁあああああああああッ!!!(ゴガンッ!!!)」

 

「どわっ!?う、ウッソォーーーーッ!!?」

 

何とシグナムさんは剣を降ろすと見せかけて、途中で剣を止めたまま蹴りを放ち、俺の手元のフライパンに正確に当ててきた。

この蹴りを受けて、俺の手に納まっていたフライパンは弧を描きながら、俺の手元からスッポ抜けてフライアウェイしてしまう。

ぶ、武器を蹴り飛ばされちまった!?まさかあそこから蹴りで来るなんて!?

驚きで口をあんぐりと開けてしまう俺を見て、シグナムさんは表情を歓喜に染めていく。

 

「フッ……私の言動に惑わされて防御の体勢を取ったのがマズかったな……あ、ああ、あの程度の言葉で、こ、ここここの私が激昂するとでで、でも?ん?(ピクピクピググッ!!)」

 

してますね。カンッペキに疑いの余地無く激昂してらっしゃいますよね?右の瞼がピクピク痙攣してますもん。

額にバッテンマークが3つぐらい出てるし、レヴァンテインを握ってる柄の部分からギリギリって軋む音が聞こえてくるぜ。

そしてシグナムさんは手に持った轟々と燃え盛るレヴァンテインを再び大上段に構え――――。

 

「改めてぇ――――紫電、一閃( く た ば れ )ッ!!!(ゴォオウッ!!!)」

 

今なんか物騒な副音声入らなかったかオイ!?

途轍もない気迫と共に振り下ろしてきた。

まだ振り下ろす始めの段階だが、今の俺とシグナムさんの距離は近距離。

今からコートの武器を取り出してたんじゃ全然間に合わねえ。

 

「(くそッ!?手詰まりか……いやッ!!まだ手はあるッ!!これならどうだッ!!)おりゃぁああああああああああッ!!!(ブウンッ!!)」

 

武器を取り出してる暇はねえと諦めた俺は、腕に波紋を篭めてシグナムさんに向けてパンチを放つ。

何の変哲も無い普通のパンチ。

その行動を見たシグナムさんは、とても厳しい目を俺に向けてくる。

 

「そんな位置から拳を振るっても、私には届かんぞッ!!(まだ防御に徹すれば状況は違っただろうに……)」

 

彼女の言葉は正しく的を射たモノで、俺の拳は狙っているシグナムさんの顔面まで漠然な距離がある。

元々、大人と子供じゃ身長差の所為でリーチがかなり短いって弱点がある。

このまま放った所で俺の拳は空振るのは誰の目から見ても明らかだろう。

 

 

 

――――只の『パンチ』ならな?

 

 

 

俺はシグナムさんにパンチを放ちながら、腕全体に波紋の治癒エネルギーと強化エネルギーを流し込んでいく。

波紋で強化された筋力で放たれるパンチは、俺の体のキャパシティを大きく超えた強大な力を与えてくれる。

しかしキャパシティを超えるという事は、それ以外の部位が動きに着いてこられなくなるのと一緒だ。

そして――――。

 

ゴギンッ!!ボギッ!!ゴキッ!!

 

過負荷に耐えられなくなった肩の関節が外れ、そのままその運動エネルギーは腕を伝って更に肘と手首の関節も外していく。

既に波紋の治癒エネルギーを流しこんである腕に痛みは無く、俺の腕はそのまま関節の駆動域を超えた地点から『リーチが伸びていく』

これぞ修行の成果その②の技!!そして波紋応用技の基本中の基本ッ!!ビックリドッキリ―――。

 

「『ズームパンチ』ィイッ!!!(グォオオオンッ!!!)」

 

「なッ!!?伸び(バキィッ!!)がぁっ!?」

 

そして、俺の拳は吸い込まれる様にシグナムさんの顔を殴り飛ばし―――。

 

「(ボォオオオオッ!!!)ア゛ッチャチャチャチャチャァァアアッ!!!?」

 

俺のパンチで身体が後ろにグラついたシグナムさんの剣筋は俺の身体スレスレを掠め、極大の炎が俺の身体に引火した。

ってギャーーーッ!!?俺のコートが燃える燃える燃えるぅううううううッ!!?

余りにも派手に俺のコートと服、そしてその下の皮膚まで燃やし始めた炎を、俺は地面に転がる事で消化を試みる。

 

「(ゴロゴロゴロッ!!)―――ッ!!?くぁっはあぁ……ッ!?ハァハァ!!……な、何とか消えたか!?」

 

身体に染みこんでくる火傷の痛みに顔を引き攣らせながら、俺はさっき殴り飛ばしたシグナムさんの居る方向に目を向ける。

そうすると、ちょうど向こうも殆ど同時に立ち上がったばかりらしく、炎の消えたレヴァンテインを杖にして身体を起こしていた。

 

「くっ……な、何だ今のは……(い、今の拳……手元でいきなり間合いが伸びただと!?どんな身体の構造をしているんだアイツは!?)」

 

今のズームパンチでも、シグナムさんを昏睡もしくは気絶させる様な波紋が送り込めなかったのが痛い。

段々と俺の呼吸が乱れるまでのペースが早くなってきてるからだ。

一度呼吸が乱れては整えなおし、また呼吸が乱れるまで波紋を使うの繰り返しだが、コレもずっと出来るワケじゃねえ。

こりゃ……そろそろマジで勝負掛けねえと、俺の自滅で終わっちまうぞ!?

お互いに呼吸やら体勢を整えながら、俺達は再び相手の出方を伺う為にその場で睨み合いの体勢に入る。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「な、何だ今のッ!!?アイツはもーどうなってんだよ!?ホントに人間か!?」

 

「て、手がいきなり……グーンって伸びた様に見えたけど……」

 

再び場所を変え、此方はブリッジの大型モニター前。

そこでは今の禅の攻撃を見た者達の信じられないといった声がそこらかしこから挙がっていた。

モニターの戦いから目を離さずに見ていたヴィータとシャマルも、一体何が起きたのか全く理解できずに困惑している。

 

「……パンチを放った時だけ、腕の長さが変わるって……アイツは一体何をしたんだ?」

 

それは今までの戦いを共に走り抜けたクロノですら理解出来なかった様で、彼も困惑の表情を見せていた。

 

「ま、まさか禅君てゴム人間なんか!?それともヨガを極めに極めた超・軟体人間っちゅー事なん!?」

 

「お、落ち着いてはやてちゃん!!禅君がヨガしてるなんて聞いた事も無いの!!ザ、ザフィーラさんは今のが何なのか判るんですか?」

 

「……いや……私はあくまで、タチバナの回避訓練を手伝っただけだ。あの様な技は知らん」

 

そして、それを見ていたはやては混乱を極め慌てふためくが、そんなはやてを隣にいたなのはが落ち着く様に諌める。

ヨガを極めて腕が伸びるのは世界広しといえど口から火を噴く路上喧嘩屋ぐらいなものであろう。

かくいうなのはも何が起きたのかサッパリだったので、禅の修行に付き合っていたというザフィーラに聞いてみるが、ザフィーラですら知らない様子だった。

更に驚いたのはなのは達だけでは無く、大人陣のリンディやプレシアですら目を丸くして驚愕している。

 

 

 

 

 

「――――『ズームパンチ』」

 

 

 

 

 

だが、その混乱極まるブリッジの中で、静かに、それでいて澄み渡る様な声が響き渡る。

その澄み渡った声に、アースラのブリッジに居る人間は誰もが一斉に目を傾けていく。

 

「ゼンが、私との修行で身に付けた技の一つだよ」

 

声の正体は先程からモニターから目を離さず熱心に見ていたフェイト・テスタロッサその人であった。

 

「フ、フェイトちゃんは、今の禅君の腕が伸びた理由を知ってるの?」

 

そして、その声に意識を引っ張られた内の一人であるなのはが、ブリッジの人間を代表してフェイトに問いを飛ばす。

質問を投げ掛けられたフェイトは、モニターから目を離してなのはに向き直った。

 

「うん。さっきゼンが使った『ズームパンチ』っていう技なんだけど……アレね?肩と、肘と手首の関節をパンチの時だけ外して、リーチを強引に伸ばす技なんだ」

 

『『『『『『はいぃッ!!?』』』』』』

 

「ち、ちょっと待ってフェイトさん!?関節を外したりしたら、靭帯や筋肉に重大な破損があるかも知れないのに、ゼン君はそんな技を平然と使ってるというの!?」

 

だが、フェイトが語った今の技の概要に全員が驚きを露わにし、代表してリンディが声を張り上げた。

それは正しく自分の身体を痛めつけながら行使する技であり、模擬戦で使っていい様な技ではなかったからだ。

 

「はい……でも、ゼンは関節を外した時に、腕に波紋の治癒エネルギーを流してるから問題無いって言ってました」

 

「そ、そう……本当にゼン君の波紋は使い勝手が良すぎるわね……お医者さん涙目になっちゃうわよ」

 

「ええ。身体の治療、生命エネルギーの増減、水分を操作する力、そして身体強化……私達の使う魔法のサーチャーや砲撃、転移は使えないけど、術式の構成やプロセスを踏む工程が一切無いから発動は自由自在、オマケに無機物有機物問わずどんな物にでも付与が可能だなんて……呼吸のリズムを一定に保てば使えると言ってたけど、その恩恵は計り知れないわ」

 

リンディの呆れた様な驚くような困った表情で出た言葉に、プレシアは冷静に科学者の視点から見解を告げる。

自分達管理局の管理世界に居る人間からすれば、正しく度肝を抜かれる恩恵の数々。

それはプレシアもリンディも、つい先日に禅から施された『エステ効果』によって身に染みて理解していた。

身体の不調を治すだけに留まらず、年数と共に失われた筈の髪の潤いと肌の艶や瑞々しさを取り戻せる、正に女性からすれば『究極の魔法』。

出来る事なら自身で波紋を会得したいと思った程だ。

だが禅の言葉によれば、波紋もかなりの適正や過酷な修行が必要らしく、彼女達は泣く泣く断念した。

その代わり年間幾らかで禅からあの極上とも言えるエステ効果を施してもらえるのは、他の女性達からすればかなりの好待遇だと言えよう。

何せ他ではアレに勝る程のナチュラルで身体に害の無いエステを受ける事が出来ないのだから。

 

「あっ!?2人が動き始めましたよ!?」

 

と、各々の人物が禅の波紋の応用力の広さに改めて驚嘆していると、モニターを見守っていたエイミィが声を挙げた。

それに従って、彼女達は思考の海から意識を引き上げてモニターに注目する。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、現在俺とシグナムさんは互いに呼吸も体勢も整ってまたもや膠着状態に入ったワケだが……。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

「ゼェー……ゼェー……うくっ……ハァ……は、波紋の呼吸を……スゥ……」

 

もう互いに幾ら呼吸を整えても疲労の色は隠せなかった。

何せここまでの攻防で頭は盛大に使うわ肉体は限界まで酷使するわで疲れがマッハでピークに達しかけてるんだ。

もう後10分も動けば、俺は波紋の呼吸すら出来なくなっちまう。

やっぱココで畳み掛けて、短期決戦を狙うしかねえ!!

 

「スゥ……ハァ…………コォオオオオオオオッ……ッ!!(ダッ!!)」

 

そう決意した俺は、崩れそうにガクガクと震えてる足に波紋を流し込んで強化し、俺を待ち構えてるシグナムさんに向けて駆け出していく。

 

「やはり来るかタチバナッ!!ならば私はお前を迎え撃つまでだッ!!レヴァンテインッ!!」

 

『Schlange Form!!(ガシャコンッ!!)』

 

すると、俺の考えを見抜いて同じ結論に達したのか、シグナムさんは立ち上がるとレヴァンテインからカートリッジを1発ロードした。

そしてシグナムさんの周りに紫色の魔力が漂うと、レヴァンテインは形を連結刃のフォームに変えて空中に軌跡を描き始めた。

今までの近接オンリーだったシグナムさんの射程距離が、コレを機にグンと伸びてしまう。

このままじゃ俺が射程距離に入るより早く、シグナムさんの連結刃が俺に届いちまう事になる。

くそ!!仕方ねえ!!この距離から攻撃してシグナムさんが連結刃を操るのを邪魔してやらあ!!

俺はシグナムさんに向かって走るのを止めずに、コートの内ポケットに手を入れて『紐に付いたリングに指を通して』から新たな武器を取り出す。

ソレは俺の指に通ってるリングから2本の糸が伸びている物で、先端には俺の拳大くらいの大きさを誇る『鉄球』が取り付けられている。

そう、神様からプレゼントとして貰ったジョジョの武器の中で唯一使ってなかった最後の武器『鋼鉄のアメリカンクラッカー』だ。

今までは持ち運びが面倒だったから家に置いていたけど、今回の模擬戦では絶対に必要になるって思ったから持って来た。

しかもこのクラッカーは少しばかりカスタムされていて、クラッカーに繋がる糸は波紋伝導率100%の糸になってる。

これなら波紋を帯びさせたままでの投球が可能だ。

手に持ったクラッカーをシグナムさんに見えないよう背中で思いっ切り回転させつつ、俺はシグナムさんとの距離を縮めていく。

シグナムさんはそんな俺をレヴァンテインを踊らせながらキッと睨みつけている。

真っ向正面から迎え撃つってか!?上等だぜ!!

 

「うぉおおおッ!!!逝くぜこのヤロォオオオオオッ!!!」

 

「来るがいいッ!!私の連結刃で、お前を捕らえ、斬り倒してやるッ!!」

 

彼女は俺に宣言しながら、レヴァンテインの柄を腰だめの位置まで下げていく。

今まで観察して分かった事なんだが、レヴァンテインのあのモードはシグナムさんの手の動きと、そこから放出される魔力で軌道を変えている。

自然の力には影響されないで振るえるから、あの動きでも精密に敵を狙えるんだろう。

なら、シグナムさんが次に剣を上に掲げるモーションは多分、剣を振り降ろす前段階。

そこにクラッカーを投げ込めば、シグナムさんの動きが中断されてレヴァンテインの軌道も硬直する筈!!狙いはソコだ!!

 

「ハァアアアッ!!!」

 

そして、段々と距離が縮まった頃、遂にシグナムさんはレヴァンテインの柄を上に掲げた。

おっしゃ今だ!!

俺は背中に隠していたクラッカーを振り上げて、力の限りシグナムさんに向かって振り込む。

 

「食らいやがれッ!!!『クラッカーヴォレイ』ーーーッ!!!(ブォオオオンッ!!!)」

 

波紋を込めて力いっぱい投擲したクラッカーヴォレイは風を切って俺の手から離れ、紫電を奔らせながら飛来していく。

しかも投げる前に回転させて力を込めていたから、クラッカーには回転の力がプラスされていて、ブーメランの様に回っている。

そして、レヴァンテインを振り下ろそうとしていたシグナムさんは、少しだけ驚いた顔をするが直ぐに顔を引き締め――――。

 

「ハァアアアアアアッ!!!(ガギィイイインッ!!!)」

 

「ゲッ!!?マジかよッ!?」

 

空いた片方の手で鞘を構えると、その鞘でクラッカーヴォレイを受け止めてしまった。

 

「ぐ、ぐううううッ!!?(ギャリギャリギャリッ!!!)」

 

それでも、クラッカーヴォレイに付与された波紋の力と遠心力はかなりのモノだったらしく、シグナムさんは苦しい顔で体勢を崩した。

受け止められはしたが、ちゃんとダメージは通ってる!!このまま突っ込むしかねえ!!

クラッカーヴォレイを止められてスピードを落としていた俺だったが、シグナムさんの体勢が崩れた事でもう一度加速し直す。

 

「ぐっ!?……これは――返す、ぞッ!!(ブォオオンッ!!!)」

 

「はぁああ!?ちょっ!?ウソだろ(シュルルルッ!!)ってどわぁああああッ!!?(ズデェンッ!!)」

 

しかし、それは完全な悪手だった。

何とシグナムさんは、俺のクラッカーヴォレイを鞘に引っ掛けて俺に投げ返してきたんだ。

しかもタイミングの悪い、いや多分シグナムさんの狙い通りに、クラッカーヴォレイは俺の片足に引っ掛かって、俺はド派手に転倒してしまった。

ヤ、ヤバイ!?これじゃシグナムさんの連結刃が飛んでくる上に、クラッカーヴォレイの所為でまともに動けねえ!!

思わず地面に転げた俺は、直ぐに膝立ちの格好でシグナムさんの居る方向に視線を向けるが――――。

 

「少しだけ焦ったが、もうお前の周りは包囲した……360度、お前に逃げ場は無い」

 

「……SHIT」

 

俺の周りは既に、レヴァンテインの連結刃によって円形に包囲されていて、後はシグナムさんの振り下ろしで円が狭まるという状況だった。

シグナムさん本人は、先ほどのクラッカーヴォレイの一撃を返してきた時にしくじったのか鞘が明後日の方向に飛んでいるが、それ以外は変わっていない。

まだ直ぐに迫ってくるワケじゃねえだろうけど、それでもこれは俺にとって正に絶体絶命。

 

「お前から降伏宣言を聞きたい所だが……お前は土壇場まで何をするか分からん。だから――――」

 

シグナムさんはそこで言葉を切ると、天に掲げていたレヴァンテインの柄を握る手に力を込めて……。

 

「確実に仕留めるッ!!!(ギュオオオオオオッ!!!)」

 

一気に振り下ろし、俺を囲っていたレヴァンテインの包囲網を狭めてくる。

このまま何もしなければ、俺は迫り来るレヴァンテインに切り刻まれて終わるだろう。

なら、ヤケッパチでも行動を起こす!!

俺は直ぐには外せないクラッカーヴォレイの絡まりを解くのを諦めて、再びコートから武器を取り出す。

それはこの試合で通算3本目となるコーラの瓶、しかもこれがラストだ。

だが今が最後のチャンス!!シグナムさんはレヴァンテインを振り下ろすモーションに入ってるから防御魔法は使えない筈!!

更にさっきまで防御に使ってた鞘は今シグナムさんの手元には無い!!ならこの一撃を防御する手はねえ!!

俺は地面に片膝を付いた体勢のまま、拳銃を構える格好で、シグナムさんに照準を合わせる。

狙いはシグナムさんの顔面のみ!!

 

「口ン中狙ってブチ込んでやるぜぇえッ!!!(ドバォオオンッ!!!)」

 

波紋を篭めたコーラの蓋が弾け飛び、それは銃弾の如き速度で、狙い澄ましたシグナムさんの顔面へと突き進んでいく。

俺を囲っているレヴァンテインの包囲網から抜けだして、遂にシグナムさんを捉えた。

良し!!いっけぇええええええッ!!!

これで勝負と状況が逆転する貴重な一手になると踏んでいたコーラの栓は――――。

 

 

 

「――――ッ!!(ビュオオオオオオッ!!!)」

 

 

 

シグナムさんが『大空へと飛び上がった』事で、明後日の方角へスッ飛んでいってしまった。

それこそ地面に居る俺からしたら、一切の武器が届かない高度に。

……あ。……そういやこの人って……。

 

「……お前との戦いでは空へ飛行しないつもりだったが――――それだけ私が追い詰められたと思ってくれ」

 

空を飛べる『空戦魔導師』だったっけ――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

チュドドドドドドドドドドドッ!!!!!

 

禅が居た箇所とその周りの地面、木々に至るまでを破壊し尽くした豪音を聞きながら、シグナムは空を舞っていた。

その胸中に少しばかりの『後悔』の念を覚えながら。

 

「……まさか本当に、飛ぶ事になろうとはな」

 

シグナムはそう呟いて、悔しさから目を瞑って己を叱責する。

情けない、油断があった、慢心した……そんな厳しい言葉を自分自身の心に課しながら。

シグナムがこの戦いにおいて空を飛ばないと誓ったのは『公平な勝負』をする為だ。

禅は魔導師では無いので空を飛ぶ方法が存在しない。

ならば、戦うなら地上のみと限定される。

そんなハンデが最初からありながら、自分が空へ飛んで戦う事など、シグナムの騎士としてのプライドが許さなかったのだ。

勿論、禅がトランプ等を空へ固定する事で、空戦は可能となる事は知っている。

つまり、禅がトランプ等を用いて空での戦いを繰り広げたのなら、シグナムはその時こそ飛ぼうと考えていた。

それまでは、自分から空へ逃げよう等という事はしないと。

だが、結果は最後の最後、土壇場で自分は禅の攻撃を避ける為に空へと飛んでしまった。

それは禅と戦ってる中で芽生えた『なんとしても勝ちたい』という思いの生んだ結果。

シグナムはその思いに恥ずべき所が無いと分かっていても、こんな勝ち方には納得がいかなかったのだ。

 

「……リンディ艦長殿」

 

『は、はい。何でしょうかシグナムさん?』

 

だからこそ、彼女は自分の思いを納得できるモノに変えたいと願った。

もう一度、今度は互いに一切の出し惜しみの無い、制限の無い戦いで勝ちたいと。

 

「タチバナの治療をお願い出来ますか?私は治癒魔法には疎いので、治す事は出来ませんし、何より――――」

 

 

 

 

『アンタの次の台詞は、『私を見ると悔しがるから』――だ』

 

 

 

 

「私を見ると悔しがるでしょうから――――なっ!!?」

 

驚愕、驚嘆、呆然――――そんな表現がピッタリ似合う程、シグナムは口を大きく開けて驚きに満ちた声を上げる。

何故なら、聞こえる筈の無い声が――――。

 

「そんなアンタに贈る俺の台詞はこうだ――――」

 

「ッ!!?(バッ!!!)」

 

空中に居る自分の『頭上』から聞こえたのだから――――。

まるで弾かれた様に、シグナムは自分の頭上に顔を向け、ソコに居た声の主を視界に納める。

そして、シグナムの頭上に居た『波紋使い』は、肘から先を上に広げていた手を思いっ切り振り下ろして――――。

 

「寝言が言いてえんなら寝かし付けてやんぜぇーーーーーーッ!!!(ドシャオォンッ!!)」

 

「(ズドゴォオッ!!)ぐあぁああッ!!?」

 

背中に隠していた合計4つのクラッカーヴォレイを、全てシグナムの腰や腹部に叩き込んだ。

突然禅の背中から現れたクラッカーヴォレイはとんでもなく重い威力を誇っており、シグナムはその四撃全てを1度に喰らってしまった。

その重い攻撃による激痛で、シグナムはレヴァンテインから手を離してしまう。

そうすると、シグナムが展開していた飛行魔法が強制的に解除され、シグナムはゆっくりとした速度で地面へと落ちていく。

ここで重要なのは、空戦魔導師である彼女がデバイスを手離してしまった事だ。

本来魔導師が使う魔法スタイルは大きく分けて2つあり、デバイスを使うか使わないかに分かれる。

デバイスを使わなくとも魔法の行使が可能な魔導師やデバイスを持つ事を好まない者はこの分類に分けられる。

近しい人間で言えばユーノ・スクライアがこの分類に入る。

勿論デバイスを使う方が効率が良いのだが、単純に資金面での困難からコチラに分類される者も少なくない。

一方でシグナムは効率化だけではなく、デバイス本体を武器として扱うアームドデバイスの保持者に当たる。

このアームドデバイスを扱う者は近年では珍しいベルカ式の魔法を扱う者だけなのだ。

彼女の様なタイプの魔導師がどれだけ優秀であろうと、ダメージを負った状態でデバイスを手離す事はすなわち魔法が使えない事を意味する。

 

「――――がはっ!?」

 

すなわち、今のシグナムは飛行魔法を展開する事が出来ない状況にある。

この状態で地面に叩きつけられれば、最悪死を招く。

そんな窮地に陥ったシグナムが、落下しながら空中で見たのは――――。

 

「よっほっはっと……俺の勝ちッスね♪」

 

軽快な足取りで、何も無い空中を『歩行』している笑顔の禅が、自分に向かっているという珍妙なワンシーンだった。

そのまま禅は落下しているシグナムの背中と足に手を入れて『お姫様抱っこ』の形でシグナムを抱えると、空中に『立ち止まる』。

シグナムはその光景に目を見開いて驚き、声を出す事を少しの間忘れてしまった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「えぇええええええええええッ!!?」」」」」」」」」」

 

「ど、どどどういう事だ!?ゼ、ゼンが空を……飛んでる!?」

 

そして、この有り得ない光景を映し出していたブリッジの方で、正しく驚愕一色に染まった叫び声が響いた。

 

「な、何でや!?禅君は空を飛べないんちゃったんか!?足元にはトランプそころか、鰻すら出てないで!?」

 

目の前のモニターに映る光景を見ながら、はやてはパニックになりかけながらも言葉を紡ぐ。

しかもそれははやてだけが分からないのでは無く、このブリッジに居るメンバーの殆どが同じ気持ちだった。

特に、試合の最初で禅が飛ぶ事が出来ないと指摘していたヴィータは驚きで顎が外れたかの如く口をあんぐりと開けてしまっている。

また、八神家のメンツだけで無く、前回のジュエルシード事件の折に共に戦ったなのはやユーノ達までもが信じられないといった表情を浮かべていた。

 

『もっしもぉ~し?聞こえてます、シグナムさ~ん?』

 

『…………はっ!?な、何故お前が空を!?お前には飛ぶ術が無かった筈だぞッ!?』

 

そして、モニターの向こうで禅にお姫様抱っこを敢行されているシグナムも、ブリッジに居る面々と同じ疑問を禅にぶつけていた。

今にも掴みかからんばかりの勢いで言葉を投げ掛けてくるシグナムに、禅は片方の口を釣り上げて笑みを浮かべていく。

 

『へっへ、生憎それはこの間までの俺の事ッスよ……俺は遂に、フェイトとの修行で『空中を自在に動く術』を身に付けたってワケでさぁ♪』

 

『テ、テスタロッサとの修行で、だと?』

 

備え付けられたスピーカーから流れてくる音声に、ブリッジに居る人間は今話しに上がった人物に視線を向けるが……。

 

「……(シグナムをお姫様抱っこするなんて……私だって、して欲しいのに……ばか)」

 

「シ、シグナムの奴ぅ……アタシだってゼンに人間形態であんな風に抱っこされた事無いのにぃ!!羨ましい!!今直ぐ代われってんだよー!!」

 

「あ、あんな大きな身体(成人的な意味で)を抱えるなんて(ま、まさか……!?シグナムまで、口説いてしまうのか?……私では、お前の好みに合わないのか?)」

 

話題に出てきた当のフェイトはと言うと、モニターの先で禅にお姫様抱っこされているシグナムを羨ましそうに見ていた。

更にアルフに至っては声を大にしてシグナムに文句を言い、リインフォースは何故か悲しそうな顔を浮かべてしまう。

この時点でブリッジの全員がフェイトから話を聞くのをためらってしまうが、やはり禅が空中に浮かんでいる謎を知りたくて、彼女に視線を向けていく。

だが、まず誰も今のフェイトに話しかけようという猛者はおらず、只時間だけが過ぎてしまう。

 

『ふっふっふ。俺の足元をよ~くご覧になって下さいッス』

 

『……?……ッ!?こ、これは……!?』

 

誰もフェイトに話しかけないまま時間が進むと、モニターの向こうの方で動きがあった。

その禅の言葉、そしてシグナムの驚きに満ちた声を聞いて、誰もがモニターに視線を向け直すと――――。

 

『足を中心に――――波紋が流れている!?』

 

禅の何も無い足元―――その足の裏から5センチ位の空間に、小さな波紋が波立っていた。

驚きで目を見開くシグナムを他所に、禅は笑顔を消して上を見つめ、遠い目をしながら口を開く。

 

『シグナムさんと戦うって決めて修行をしていたある日の事ッス……その日俺は、フェイトに修行の相手を頼んで魔力弾の回避の特訓をしていました……』

 

いきなりゆったりと、しかし何処か達観した様な口調と声音で話す禅に、シグナムは口を挟む事が出来ずお姫様抱っこされたまま禅を見つめていた。

それは訓練室をモニターで見ている面々も同じで、禅の語りに引き込まれる様な現象が起きていた。

 

『その修行の休憩時間、何をトチ狂ったのか俺は……「最近デビューしたアイドルの真奈ちゃんておしとやかでサイコーだよなぁ♪アレこそ正に天使と言えると思わねえ?」……と、何気な~くフェイトに聞いちまったんです……』

 

「「「「「「「「「「うわぁ……」」」」」」」」」」

 

そして語られた、余りにも馬鹿丸出しなエピソードに、ブリッジに居る人間が同時に「ないわ~」という感情が詰まった声を上げる。

禅に抱きかかえられているシグナムまで「お前それはないだろう」という冷めた表情を浮かべていた。

そんな冷たい視線をモノともせず、禅は更に口を開いて語り続ける。

 

『気付いた時にはもう既にアウト。俺の言葉にプッツンしたフェイトから繰り出される魔力弾の数は、休憩前と比べておよそ30倍はあろうという絶望的な数に変わっていた……フッ、一気に修行レベルを10段階ぐらいブッチしてスタートするフェイトのスパルタっぷりに、思わずブルッちまったモンだぜ』

 

『いや、というかだな……良く生きていたな。お前』

 

禅の語りを聞きながらシグナムが微妙な表情で発した言葉に、ブリッジに居るフェイト以外の人間も「うんうん」と頷いていた。

心なしか禅の目尻に水滴が小さく光って見えるのは、気の所為では無いだろう。

だがそんな周囲の反応や禅の表情を見ても、フェイトは頬をぷっくりと膨らまして「あんな事を聞いてくる禅が悪いんだもん」と視線を逸らしてむくれている。

そのフェイトの言葉に、アルフとリインフォースもマジな表情で深く頷いていた。

ちなみにその修行をしていた時のフェイトの表情と纏う空気を説明するなら、病んでいた時代のバーサーカーモードなプレシアそっくりだったとしか言い様が無い。

あの時程、禅が「やっぱフェイトはプレシアさんの娘だぜ。確かな血の繋がりを感じる」と思った時は無い程だった。

 

『俺は走った……戦おう等とは考えなかった……走って、走って、走りまくって……そして、等々逃げ場を失った時、俺の追い詰められた本能が爆発して、俺は空中に飛び上がったんス……』

 

静かに、辛い思い出を必死な表情で思い出しながら語る禅の姿は、もはや小学生には見えなかった。

ただ、話してる内容が馬鹿過ぎるので、周囲の人間は一切同情の眼差しは向けていないが。

 

『学校の授業で習ったけど、空気中には目に見えない埃や微生物が大量に漂っているらしいッスね?……あの時、俺の追い詰められた本能は、その埃や微生物に波紋を流し込んで、俺の足が触れた時だけ固定したんすよ』

 

「「「「「「はぁああああッ!!?」」」」」」

 

禅の語った歩行術の正体に、子供組やヴィータ、シャマルの驚愕に満ちた叫び声が木霊する。

言ってる事は理解出来るが、まさかそんな方法を土壇場で実践してしまう辺りが、禅の非常識っぷりを思わせてくる。

逆に、大人組のプレシアやリンディ、そして冷静沈着なザフィーラ等は、今目の前で起こってる現象に納得がいった様だった。

 

「なるほどね……確かに、空気中には沢山の微粒子や目に見えない微生物が漂ってる……それを波紋で足に触れた箇所だけ固定すれば、理論上は其処に足場が出来るわ」

 

「わ、私達の様に空を『飛ぶ』事は出来なくても、空を『跳ぶ』事が可能って事ね……また1つ、波紋の応用力が増えちゃったわけだ」

 

「我々の様な3次元的な軌道を取る事は出来なくとも、地に足が着いている感覚で空中でも戦う事が出来るのは、タチバナの様な格闘戦主体の者にはうってつけでしょう」

 

まだ子供組ほど驚いていないプレシア達は、冷静に科学者や騎士、そして魔導師としての観点から禅の起こしている現象を理解するが、それでも無茶苦茶な事には変わりない。

つまり禅が今使っている歩行術は、完全に微生物等が存在しない無菌室レベルの環境でない限りは使用が可能という事なのだ。

その尋常ならざる本能から生まれた技の性質に呆れているのは彼女達だけではなく、現在進行形で体験しているシグナムもだった。

 

『自業自得から生まれた技にしては、便利過ぎるだろう……』

 

『まぁ、飛び上がった次の瞬間にはチュドンされましたけどね?――この技はまんま、『Sky Walk』って名付けてます』

 

『スカイ・ウォーク……空を歩く、か。確かにそのままだな』

 

禅の肩を竦めながら発せられた言葉に、シグナムは呆れでは無く苦笑しながら返事を返す。

そんなシグナムに対して禅も笑顔を浮かべ、モニターの向こうは和やかな雰囲気に包まれていく。

 

『ところでシグナムさん……この勝負は、俺の勝ちって事で良いっすよね?』

 

と、ここで禅は、少しばかり悪戯な笑みを浮かべながら今も抱きかかえたままのシグナムに問いかける。

そう、まだ試合終了の宣言は誰も出してはいないのだ。

ここでシグナムはハッと意識を戻し、少しの間黙ってしまったかと思うと、再び苦笑を浮かべた顔を禅に向けた。

 

『こんな状況になっておきながら、再開を促す程バカでは無いさ……お前の勝ちだ。タチバナ』

 

シグナムの降伏宣言と共に、禅は悪戯な笑みを深い喜びに満ちた笑顔に変えていく。

今ここに、波紋使いと魔導師との戦いに終止符が打たれたのだ。

 

『うし、ほんじゃあ降りますか……だ、段々と腕が痺れてきましたし(ガシッ!!)ぐえぇッ!?』

 

『ほほ~う?それはつまり、私が抱えてられん程重いと?肉が付き過ぎだと、そう言う事か?ん~?(ギリギリギリッ!!!)』

 

『おぐげげげげッ!?や、やめでやめで絞まるう゛ぅッ!!?』

 

又もや発せられた禅のデリカシーの欠片も無い言葉に、シグナムは青筋を立てたまま笑みを浮かべて禅の首を締めにかかる。

やはり騎士と呼ばれるシグナムであっても、体重の事はNGの様であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さっきシグナムさんにキュ~っと絞められた首を軽く回しながら、俺はシグナムさんを抱えて地面に向かって歩いて降りていた。

チラッとシグナムさんを見てみれば、さっきの俺の一言が癪に障ったらしく、俺とは目も合わせようとはしない。

や、やっぱ女性に重いはNGワードだったか?後で謝んなきゃなぁ。

しっかりと波紋を籠め直して強化した腕に重みを感じながら、俺は一歩一歩下に向かって降りていく。

それにしてもこのスカイウォークはかなり便利な技だぜ。

神様に強化してもらった波紋の固定するという新しい技術。

元は第5部に登場したスタンドの『クラフト・ワーク』の能力をヒントにして改良して貰ったが、こーゆう使い方は思い浮かばなかったよホント。

空気中の微生物とか埃は目に見えなくても、波紋を流せばその存在自体を固定できる。

なら、俺が足を置いた瞬間に波紋を流し、離した時に解除すれば、波紋はそこまで必要ない。

さすがに空中で立ち止まる時は流し続ける必要があるが、それでも微々たる量で済む。

……ビミョーに納得はいかねえが、あそこまで追い詰めてくれたフェイトに感謝しねえとな。

 

「……おい、タチバナ」

 

と、そんな事を考えながら地上まで後5メートル程の所まで降りてくると、かなり不機嫌そうな声がシグナムさんから発せられた。

チラッと視線を送ってみれば、少々睨みを効かせた視線ががががが。

 

「な、何すかシグナムさん?」

 

とりあえず平静を装って聞きなおすも、まだシグナムさんの眉は吊り上がったままだ。

内心気にし過ぎだろとしか思えねえ。

 

「下に降りたら、私の傷を治せ……お前の最後の攻撃で受けた波紋のお陰で、碌に身体が動かないんだからな(……何時までもこんな体勢でいられん……前にテレビで見た、結婚した男女でもあるまいに)」

 

「へ?あ、ああ。ソイツぁ判りましたけど……」

 

俺はそこで言葉を区切って、腕で何とか抱えてるシグナムさんを良~く観察してみる。

確かに最後に俺がクラッカーヴォレイに乗せて放った波紋の力の所為なのか、シグナムさんはさっきほどは身体に力が入らなくなってる。

 

 

 

俺の首に回してる腕も段々と力が抜けてるし――――ってあれ?でもコレって――――悪戯するチャンスでね?

 

 

 

その時、普段は怠けて働くのを拒否してる俺のニート脳がフルスロットルで回転し始めた!!

碌に動かないシグナムさんの身体=抵抗出来ない。

破れた騎士甲冑=あられもない姿が絶賛大公開状態な大人の美女。

しっかりと鍛えぬかれた大人の身体=肉付きの良いムッチリとした感触の触り心地。

俺の力で治す=触れる事が合法的に可能。

あのシグナムさんにこんな事が出来るチャンス=滅多に無い。

久遠テラ可愛ユス。

 

 

 

そこから導き出される答え――――ちゃ~んす(ゲス顔)

 

 

 

俺は目の前に転がり込んできた最大にして超レアなチャンスに顔を喜色満面な笑みに染めていく。

後の仕返しとか制裁とかそんなチャチなモンはどーでもいい……今ここで立ち上がる者こそ、真の漢なり!!(違います)

とりあえず電撃的にやる事を思いついたので、俺は地面に降りてからシグナムさんを地面に寝転がして、両手の指関節をポキポキと鳴らした。

ふっふっふ、楽しんで頂くとしましょうかぁ?シ~グナムさぁん?

その時の俺の顔は相当ヤバかったんだろう、地面に降ろしたシグナムさんは俺の顔を見るなり顔を盛大に引き攣らせたし。

 

「タチバナ……貴様、この状態で不埒な真似をしてみろ、それこそ酷い目に合わせてやるからな?」

 

「おいおいシグナムさ~ん?これから治療しようっていう心優しー少年に言う言葉じゃねぇでしょ?ヒッデエなぁ(ニヤニヤ)」

 

「ならそのニヤついた笑みを止めろ……!!」

 

シグナムさんは動かない身体では碌に抵抗出来ない上に、俺が何かしようとしてるのを悟ったのか、怖い顔で睨みを効かせている。

おっとっと、あんまりニヤついてると怪しまれるわな、反省しよう。

俺は顔の筋肉に力を入れて、なるべく普通な表情を浮かべる様に努力しながら、寝転ぶシグナムさんの横に片膝を付いた体勢で屈みこむ。

 

「さて、今からシグナムさんを治すワケですが……」

 

「あぁ、お前の『クレイジーダイヤモンド』が私に触れれば良いだけだろう?『クレイジーダイヤモンド』が……な?」

 

暗に「テメエ触るんじゃねぇコラァ」という感情をありったけ乗せたシグナムさんの言葉に、俺は残念そうな表情を見せる。

 

「残念ながらソイツは無理なんスよ……何故なら、今シグナムさんの身体が動かねえのは普通の傷の所為じゃ無くて波紋傷の力の所為だからっす」

 

「……それで?」

 

波紋については俺の方がよっぽど詳しい事を理解しているのか、シグナムさんはとても疲れきった声で俺に問い返してくる。

俺はその問いを聞いてから神妙に、大袈裟に頷いて言葉を紡ぎだした。

 

「つまり、その身体が動かないって現象を治すには、正反対の治癒の波紋エネルギーを流さなきゃならねえんスよ……だ・か・ら・♪」

 

俺はそこで言葉を切って波紋の呼吸を整えると、前に使った癒しの波紋エネルギーを手の平に集めて、シグナムさんの身体に近づけていく。

 

 

 

――――但し波紋の強さはアルフに使った時の8倍はあるけどな☆

 

 

 

つまり、そんな高威力な強さの波紋で、例えばシグナムさんのお腹に触れれば――――。

 

「――――んぁああああああああああああああああッ!!?(ビクンビクンッ!!)」

 

こんな艶の乗りまくったあられもねえ声が出ても仕方ねえ、仕方ねえのさ♪

俺の手の平が触れた瞬間、かなり大きな声量で悩ましい声を出したシグナムさんは、地面に身体を横たえた状態で身体を痙攣させてしまう。

うぅ~む、実に良い光景ジャマイカ。

視界の先で赤く上気した女の顔を浮かべるシグナムさんを見ながら、俺は顔をニヤニヤさせていく。

 

「この癒しの波紋で『ちょっとずつ』シグナムさんの身体に残ってる波紋を洗い流していくしかねえって事なんスよ」

 

「は、はぁあう……ッ!!?……ち、ちょっとずつだと……ッ!?……や、止めろ……ッ!?私に、触る、なぁ……ッ!?」

 

今の波紋で少しだけ身体の自由が効く様になったのか、シグナムさんは身体をずらして俺から逃げようとするが……。

 

「あっあぁ~♪動かない方が良いッスよ?……ご自分の格好理解してますかい?」

 

「な、に?……こ、これは……ッ!?」

 

少しだけ身体の自由が戻っただけでは辛いのか、大分ゆったりとした動作で自分の身体を見下ろしたシグナムさんは驚愕に目を見開く。

シグナムさんの今の格好……それは、下半身だけ途轍も無く扇情的な……要はエロい格好になってるです、はい。

さっきまで彼女の騎士甲冑である左右のスカートアーマーは、俺の『シャボンランチャー』の集中爆破を受けてミニスカレベルしか残って無かった。

それだけでも何かとんでも無い格好だったんだけど、さっきのトドメに俺の『クラッカーヴォレイ』を受けて、そのスカートアーマーは完全に吹き飛んでしまってた。

つまり、今のシグナムさんの格好は真ん中のスカートの余りの様な部分以外何も残って無いのさ♪

その所為でシグナムさんのくびれた悩ましい腰の辺りから横尻の部分まで、惜しげ無くおっぴろげられた状態。

分かりやすく言うなら、DOAの霞の衣装みてーな感じだね。

今の自分の格好がどれだけあられもない格好なのか理解したシグナムさんは顔を羞恥で真っ赤に染め上げて動くのを止めた。

下手に動いたら色んな意味で人生終わっちゃうもんな。

――――まぁ、俺は更に念を入れておきますけどね?

 

「まぁつまり、下手に動かれると治療しにくいんで……ちょっと暴れない様にしときますね♪『隠者の紫(ハーミット・パープル)』(シュルルッ!!)」

 

「なっ!?ち、ちょ、ちょっと待てッ!!?せ、せめてもう少し優しく、優しくシテくれタチバナッ!!」

 

「だ~から無理なんスって。騎士なんだから騒がないで下さい」

 

俺が『隠者の紫(ハーミット・パープル)』を使って両手を上に引っ張る様にしてまだ訓練室に出ている木に結びつけると、シグナムさんは慌てた様子で俺に懇願してきた。

しかし、俺はその訴えに耳を貸さずに言葉を返しながら、残った両足も同じ様に木に括りつける。

これで、シグナムさんが完全に全回復しない限りは、暴れてナイスハレンチにはならねえだろう……既に絵的にはナイスハレンチだけど。

そして、やっと始まったお楽しみタイムを満喫する時間も来たってモンよ♪

 

「さぁ、ゆっくり時間を掛けて治療していきますんで……楽しんで下さいや♪」

 

「ッ!?あ、あぁ……!?ダ、ダメだ……!?私の……!!私の――――」

 

 

 

 

 

――――私の傍に近寄るなぁあああーーーーーーーーーーーーッ!!!?

 

 

 

 

 

滅多に見られないであろう涙目でイヤイヤと首を振るシグナムさんの弱り切った姿とボス的な叫びをBGMに、治療を始める俺であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「は、離してなのはッ!!ヴィータッ!!もう我慢出来ないッ!!(ジタバタッ!!)」

 

「お、落ち着いてフェイトちゃん!!ってもうバインドが砕けちゃう!?ヴィータちゃんもっと魔力上げて!!」

 

「無茶言うなぁ!!もうこれでいっぱいいっぱいだっての!?アタシのほぼ全力の魔力を篭めたバインドとなのはの全力のバインド掛けられて、何でフェイトは動けるんだよ!?」

 

そして、先ほどの様子を眺めていたブリッジルームでは、今正に飛び出さんとする金髪の少女が居た。

そう、禅が大好きな少女フェイトちゃんその人である。

何やら凄い妖しい展開になり始めた訓練室の様子を見ていたブリッジの男職員の殆どは、シグナムの扇情的な格好と嬌声に前屈み状態真っ盛りだった。

しかし、そんなモニターの向こうが面白く無い『2人の乙女』は、あの光景と職員の想像する幻想の根源をブチ壊さんと、戦闘状態で飛び出そうとしていた。

だがしかし、今アースラのトレーニングルームは少なくないダメージを受けている状況。

この状況で高ランクの魔導師2人に暴れられたら、軽く無い被害が出てしまう。

そう咄嗟に判断した艦長のリンディは、この場に居る戦力に『2人の乙女』の捕縛を命じた。

これは勿論、2人の母親から何とか了承を得ている。

 

「ガルルルルルルルッ!!あんのエロゼンめッ!!アタシにはシテって言ってもシテくれない癖にぃ……ッ!!!アンタ等このバインド外しなッ!!今直ぐアッチ行って、ゼンにガブッとしてやれないだろーが!!」

 

「だ、だから今はダメなんだと言ってるだろう!?今君等に暴れられでもしたら、アースラに尋常じゃない被害が出て(ビキィッ!!)マ、マズイ!?二人共もっと出力を上げろ!!」

 

「コッチは最初から全力だよ!!コレ以上の出力なんか出るかぁーーーーッ!!?」

 

「我とて全力で拘束している……ッ!!早くシグナムの治療を終えてくれッ!!タチバナッ!!」

 

そして、なのはとヴィータが全力でフェイトを拘束している傍で、唯一前屈みにならなかった男性陣のユーノ、クロノ、ザフィーラが懸命にアルフを抑えていた。

既に狼形態に変化したアルフは、自分に纏わりつくチェーンバインドを鬱陶しそうに身を捩って振り払おうとしている。

そんな猛獣と呼ぶに相応しい暴れ方をするアルフを、3人は必死な思いで押さえ込んでいた。

主にあの馬鹿野郎には、後でめいっぱい奢らせてやるという怒りにも似た気持ちを抱え込みながら。

 

「う、うぅ……私では、ダメなのか……シグナムの様な凛々しい女性の方がゼンは好みなのか……(しょんぼり)」

 

「だ、大丈夫よリインフォース!?ゼン君はちゃんと貴女の事を好いてるわ!!だからしっかりして!!はやてちゃんも言ってたでしょ!?そんな弱気じゃダメだって!!」

 

そして、禅に恋焦がれる3人の乙女達の中で唯一暴れていないリインフォースは……ネガティブになっていた。

元々自分に全く自信が無い上に、自分の身内が愛しい男の興味を引いてるかの様な光景を見せられて、自分では駄目なんだろうと悲しい気持ちに支配されかかっている。

そんな可哀想なリインフォースを、八神家の良心(台所以外限定)であるシャマルが必死になって慰めていた。

この状況で、はやては何故か動かず、目を瞑って何かを考えこんでしまっているので、必然的にシャマルがその役をやっている。

 

「し、しかしシャマル……私はシグナムの様に凛とした雰囲気は無いし……ア、アイツの前では泣いてばかりだ……それが鬱陶しがられているのかも(オロオロ)」

 

「そんな事あるワケないです!!もし、ゼン君がリインフォースの事をそんな風に思ってたりしたら、そんな素敵なネックレスなんてプレゼントしたりしないでしょう!!フェイトちゃんとアルフさんですら貰ってない代物……」

 

「「がおーーーーーーーーーッ!!!(ゴォオオオオッ!!!)」」

 

「にゃーーーッ!!?フ、フェイトちゃんが恐竜にぃーーーーーッ!!?」

 

「おい馬鹿シャマルゥーーーーーッ!!?コイツ等をコレ以上刺激すんじゃねぇーーーーッ!!?」

 

「ま、まだ魔力と力が上がるのかッ!?一体君達はどうなってるんだーーーーッ!!?」

 

「ぐ、ぐむぉおおおおお……ッ!!?こ、これ以上は保たんぞッ!!?」

 

「ぼ、僕、もう魔力が切れそう……ッ!?」

 

カオス。その一言に尽きるであろう。

目の前で不安になってオロオロしているリインフォースを慰める為に言った言葉が、別の2人に活力を与えてしまった。

 

「あっ……ご、ごめんなさい皆……と、とにかく!!それだけリインフォースは、ゼン君にとって特別なのよ!!だからそんなに不安にならなくても大丈夫!!」

 

「そ、そうだろうか……私は、自信を持っても良いのか?」

 

そして、気を取り直してシャマルがリインフォースに励ましの言葉を掛けると、少しだけリインフォースの表情から不安が薄れてきた。

自分の言葉とリインフォースの表情に手応えを感じたシャマルは、今が好機とばかりに畳み掛けていく。

 

「勿論よ!!自信を持って、リインフォース♪貴女は自分が思ってるより、遥かに素敵な女性なんですから♪」

 

シャマルの見る人を安心させる柔らかな笑顔と言葉を貰って、リインフォースは少しの間黙りこんでしまう。

だが、次にリインフォースが顔を上げると、その顔は先ほどより幾分か晴れやかな表情を浮かべていた。

そんなリインフォースの様子に、シャマルはホッとした気持ちで、目の前の家族の一員を立ち直らせた事に達成感を感じた。

 

「……ありがとう、シャマル……心が軽くなった……私も、ウジウジしていないで、少しだけ自分に自信を――――」

 

 

 

 

 

『ああッ!?タ、タチバナ……!?もっと……優しく――そ、そこは、ダメッ!?ダメッ!!ダメッ!!ダメェッ!!っあぁ!?や、優しくしてッ!!優しくッ!!んぅっ!?ふ、服を、脱がせる、なぁ……ッ!?感じて、しまうぅあああッ!?ダメッ!!もう――――だめぇええーーーッ!!!?』

 

 

 

 

 

「――――」

 

その時、ブリッジルームの時が止まった。

さっきまで元気よく暴れていた筈のフェイトとアルフまでピタリと止まってしまった事に、押さえ込んでいる者達は嫌な汗を掻いてしまう。

それは正しく――――嵐の前の静けさに酷似していたから。

誰かが動けば、誰かが爆発する……そんな一種の膠着状態、しかも爆弾(彼女達)は時限式でもある。

もはや爆発するのは遠くない未来だろうと、ブリッジの全員が息を飲んだその時――――。

 

 

 

「――――リインフォース、主としての命令を出すわ」

 

 

 

先ほどまで目を瞑って何かを考え、一切の口を開かなかったはやてが、何時もとはかけ離れた雰囲気で声を出した。

主としての命、それは忠義を誓う騎士達にとって最も重要な事であり、何に置いても優先する事だ。

従って、今の絶叫を聞いたリインフォースは悲しみに支配されかけている心を押し殺して、はやてに向き直る。

一体この状況で何を命令するつもりなのか、固唾を飲んで見守るはやて以外の面々は、ただその光景に視線を向けるだけだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……(ピクピク)」

 

「フゥ……治療完了っと。お疲れ様っした、シグナムさん♪」

 

俺は目の前で息を荒げたまま赤い顔で虚空を見つめているシグナムさんにイイ笑顔で声を掛けた。

少しばかりそのまま何も答えずにいたシグナムさんだが、息が整ってくると、目に光を宿して俺を憎々しげに睨んでくる。

 

「き、貴様ぁ……後で覚えてろ……ッ!!この様な屈辱、騎士として許してはおけん……ッ!!」

 

そう言って俺を力強く睨んでくるシグナムさんだが、ぶっちゃけ今のシグナムさんに恐怖は感じない。

何せ凄い台詞を色々と喋ってたからな、この人。

俺はメンチを切ってくるシグナムさんに対して笑顔を崩さず、そのままイイ笑顔で言葉を返した。

 

「はて?俺は治療をやっただけッスからねぇ~?それで責められる言われは無いと思うんスけど?」

 

「よ、よくも抜け抜けとその様な事を……ッ!!」

 

「いやぁ~♪あの凄まじい乱れっぷり、『だめぇ~~』でしたっけ?随分可愛らしい悲鳴を上げてたじゃないッスか?」

 

「~~~~~~~~~~ッ!!!?」

 

俺の畳み掛ける様な言葉に、もはやトマトの如く赤く染まった顔で、シグナムさんは声にならない絶叫を上げてしまう。

まぁ自分があんな声っていうか悲鳴を上げるなんて、この人の性格上想像も付かなかったんだろうけどな。

そんなシグナムさんを堪能した俺は、屈んでいた身体を起こして背伸びをする。

やれやれ、今日は疲れたぜホント、さっさと帰って風呂にでも浸かりましょ「ゼンッ!!」……か?

と、この後家に帰ってからゆっくりしようと考えていた俺の頭に、シグナムさんでは無い第3者の声が聞こえてきた。

一体何事だろうと何気なく声の聞こえた方向に視線を向ければ……。

 

「ゼンッ!!私のお願いを聞いてくれッ!!(ニコニコ♪)」

 

そこには、何時に無く嬉しさ全開といった表情のリインが居た。

何故か騎士甲冑を纏って、魔力をコレでもかと全力で放出しながら――――は?

 

「……リ、リイン……どったの?一体?」

 

今までに見た事が無いぐらいにテンションアゲアゲ状態なリインに、俺はそう返すのがやっとだった。

いや、コレがまだ目の笑ってない笑顔なら分かるよ?でも今のリインの笑顔は本当に嬉しそうで、怒りとか他の感情は一切見えていない。

だからこそ分からない……そこまで良い笑顔のリインが、騎士甲冑纏って戦闘準備オールOKな意味が。

 

「あぁ!!私とも戦ってくれッ!!お、お前と戦いたいんだッ!!全力全壊でッ!!!」

 

「――――WHAT?」

 

あれ?オカシイナー?俺の耳が悪くなったのかしら?今、「戦ってくれ」と聞こえたんだが?それも二度も。

まず普段のリインなら絶対に言わないであろう言葉を聞いて、俺の脳みそが聞き間違いだと結論付けたがる。

良くも悪くも、リインはとても穏やかな性格をしている。

なのにそんな優しい心を持ったリインが戦いたがる筈が無いじゃないですかー。うん、俺の聞き間違いだろう。

 

「タチバナ、現実を見ろ」

 

うっさいよシグナムさん!?見たく無いモンに蓋をするのは世の常識でしょうに!!

どうやら俺の脳みそが出した結論は間違ってるらしく、目の前のリインは依然としてニコやかな笑顔を浮かべた戦闘モードだったよ。

ヤッヴァイ、手が震えてきた。

 

「……な、何でリインはいきなり、俺と戦いたいと思ったんだ?」

 

震える心と身体を叱責して、俺はニコニコ顔のリインに問う。

何時もは大人しいリインがここまでアグレッシブに行動するんだ、ゼッテエ何か深い理由があるに決まって……。

あの、リインさん?なしてそんな恥ずかしいけど嬉しいみたいな表情を浮かべなさるんで?

俺の質問を聞いたリインは何やら照れた様な嬉しい様な笑顔を浮かべたままに、頬をちょっとだけ赤く染める。

 

 

 

「あ、主はやてと高町が教えてくれたんだ……戦う事で、お互いの事を深く理解出来ると、凄く分かり合えると教えてくれた。だから、お前と戦いたいッ!!」

 

 

 

「はやてぇえええええええええええええええッ!!!?なのはぁあああああああああああああああッ!!!?」

 

もうなんか色んな意味で殺意が芽生えた感情を思いっ切りのせて、俺は訓練室をモニターで見ているであろう馬鹿娘2人に怒りの絶叫を上げる。

あんの馬鹿共はこんな純粋なリインちゃんに何て事を吹き込みやがるんだッ!?

もう撤回なんざまるで意味が無いってレベルで信じこんじまってるじゃねぇか畜生ッ!!

あーなるほどそれであんなに嬉しそうな笑顔のままで魔力が轟々と唸りを上げてた訳ね納得出来るかぁああああああッ!!?

 

「わ、わわ、私は、ゼンの事をもっと知りたいッ!!もっと私の事を知って欲しいッ!!……ふ、深い、所まで……私を、感じて欲しいんだ……だ、駄目、か?(真っ赤)」

 

「なっ……がっ……ぐぅ」

 

さすがにこの申し出を断ろうとした矢先、リインの混じりっ気の無い純粋な言葉が、俺のハートに杭を撃ち込んだ。

その胸キュンな姿に、俺は心臓を抑えながら後ずさってしまう。

元はなのはとはやてに乗せられたにしても、今のリインは純粋に俺の事を知りたくて、そして俺に自分を知って欲しいからこそ戦いを挑んできている。

恥ずかしさで顔を赤くして、真っ赤に染まった耳から蒸気を大量に吹きながらも、リインはその恥ずかしさを抑えこんで俺に真っ直ぐな気持ちをぶつけてるんだ。

心なしか、目の端に涙が光って見えるのは間違いじゃねえだろう……プルプルと恥ずかしさを我慢して身体が震えているのも……。

 

 

 

「――――か」

 

 

 

「……?……ゼン?」

 

 

 

そんな真っ直ぐな想いを――――。

 

 

 

 

 

「――――か――――かかってこいやぁああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

『(ズギュゥウウウウンッ!!!)オォオォオオオオオッ!!!』

 

 

 

 

 

俺が受け止めなくて、誰が受け止めるってんだよぉおおおおおおおッ!!!

今しがたリラックスし始めた身体に鞭打って波紋を流し込み、更には『クレイジーダイヤモンド』を呼び出す。

しかも使ってる波紋は『山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライヴ)』だ。

あれから更に修行したおかげで気絶する様な事は無くなったが、それでも使用してから1日の間は全身筋肉痛に苛まれる。

だが構わねえ、たった1日の筋肉痛ぐらい、リインの想いを受け止める為なら快く差し出すぜっ!!

 

『くっくっく。計画通りや(ニヤリ)(散々ビビらされた仕返しをさせてもらうでぇ、禅君♪……自分の大事な女の子に、黄泉路への扉を開いてもらうがええわ!!ザマァ!!)』

 

……どっかで関西弁の腹黒少女が笑ってるのを感知したが、今は気にしないでおこう。

俺の本気の構え、そして俺が呼び出した『クレイジーダイヤモンド』を見て、リインはその綺麗な顔を喜色に染め上げた。

あぁもう……この笑顔が見たいのは本心だけど……こんな方法じゃねぇ方がなぁ。

 

「あ、ありがとうッ!!本気で戦ってくれるんだなッ!!――――な、なら、受け止めてくれッ!!私の想いをッ!!!」

 

俺のヤル気を見たリインは少しだけ空に浮上し、手を俺に向けて真っ直ぐに翳すと、そこに膨大な魔力を集め始め……っておいッ!?

その光景を見た瞬間、俺の心に物凄い焦りの気持ちが表れ始めた。

何故か集まる魔力はリインの紫色では無く『ピンク』、そして周りの空間からまるで流れ星の如く『収束』していく光景。

こ、こここ、コレってもしかしなくとも、なのはさんの『アレ』じゃないッスかぁああああああああッ!!?

 

「さて、私は先にお暇させてもらうぞ……運が良ければ、また会おう(キュウウンッ!!)」

 

俺の傍に居た筈のシグナムさんは危機を感じ取ったのか、一人だけでサッサと転移魔法を使って訓練室から消えた。

しかも最後にボソッと不吉で素敵すぐる言葉を残して……あながち否定出来ない所が余計に怖えよ。

それを呼び止める間も無く、リインは輝く様な笑顔のまま手を上に翳して――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがッ!!私のッ!!(船を壊さない程度の)全 力 全 開 だ ッ ! ! !スターライトッ!!!ブレイカーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り下ろされたリインの手に従って、俺に降り注ぐ魔力の超巨大な塊。

さて、ここで射程距離のおさらいをしておきましょう♪

 

 

 

俺、『クレイジーダイヤモンド』

 

射程距離2メートル。

 

飛び道具、無し。

 

 

 

リインフォース、『スターライトブレイカー』

 

太さ、直径7キロメートル。

 

射程距離、無限大。

 

 

 

あ、俺死ん――――。

 

 

 

プチッ☆

 

 

 

最後に桃色の閃光に全ての視界を塗りつぶされて、俺は意識を失った。

 

 

 

後書き

 

はいッ!!!今回は「楽しく逝こうゼ?」一年という事で、前回予告してたワンサマーを1話だけズラさせて頂きましたが、次回からまたワンサマーを更新していきますッ!!

TINAMI様ですと交互に連載すると読み難いかも知れませんが、何卒ご容赦下さいッ!!

 

 

 

 


 
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