No.585304

楽しく逝こうゼ?

piguzam]さん

第31話~真剣で俺とバトりなさい!!ん!?何か違う!?その①

2013-06-09 08:19:38 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:16314   閲覧ユーザー数:14017

前書き

 

 

スイマセン、まず先に謝罪させて下さい。

 

ラインバレル様、FATE様、なゆた様、御三方のコメント記入を此方の手違いで拒否モードにしていました。

 

誠に、誠に申し訳ありません(土下座)

 

実は自分も今日気が付きまして……スマホでここのコメント欄見る時に連続タップして知らない内に登録されていた様です。もし今までの俺の作品で書き込もうとして出来ずに気分を害されていたらと思ったら、本気で顔から血の気が失せました。此方の手違いとはいえ今までの失礼な対応、誠に申し訳ございません。

前書きにて申し訳ありませんが、重ねて謝罪させていただきます。

 

そしてもう一つ、バトル描写下手でスイマセン(焼き土下座)

自分にはコレが限界です、前に別の作家さんに偉そうな事をのたまっておきながらこの体たらく。

陳腐な妄想しか浮かばねー自分の頭がマジで嫌んなるぜ……それでは、どうぞッ!!

 

「――さて……」

 

設定された時間帯は昼――そして場所は森林……いや、森林と『仮想』された空間だ。

 

俺と対峙する忠義の騎士は、その手に持つ相棒を俺に向けながら軽く息を吐きその歴戦の猛者を思わせる双眼を鋭く向けてきた。

対する俺も、何時も以上に体をリラックスさせてストレスを吐き出し、波紋の呼吸のリズムを刻んでいく。

 

「それでは見せて貰おうか、タチバナ……お前達人間が生み出した『未知の技術(ワザ)』とは、どれ程のモノなのか……」

 

彼女はそう言いながら俺に向けていた『剣』を両手で握り直し、自身の体を正眼の構えにして戦の合図を待つ。

それを見ていた俺も腕をファイティングポーズに変え、全身に余すトコ無く波紋を纏わせた。

調子は上々、波紋も呼吸もアゲアゲ状態ってな。

装備品の備蓄は充分、その所為でコートが少し重いが動くのに問題はナッシブル。

目の前にはかつて無い強敵、大して俺は少しばかり戦いを齧った程度の『波紋使い』、力の差は歴然だろうよ。

だが、そんな俺の表情は便器に落ちて溺れかけているネズミの様じゃ無い、いや寧ろニヤついた余裕ある笑みで目の前の敵を見ながら口を開いた。

 

「ケケッ。お望み通り色々とご覧に入れてやりますよぉ~~シグナムさん。…………人を馬鹿にしたテメーの態度を、文字通り打ち砕いてやるぜ」

 

「フッ、楽しみにしてるぞ……」

 

俺と対峙しているシグナムさんは、俺のニヤついた挑発に怒る事も無く、ただ悠然とした態度で皮肉を返してきた。

 

 

 

そして、俺とシグナムさんの言葉の応酬が終わってから数秒後――――

 

 

 

『二人共、用意はいいな?…………開始ッ!!!!!』

 

 

 

 

 

ここ、アースラの擬似空間投影型訓練室に、訓練室の外でモニターしているクロノの声が響き渡った。

 

「―――ハアッ!!!」

 

「ウオラァッ!!!」

 

それと同時に俺とシグナムさんは動き出し、シグナムさんの愛刀『レヴァンティン』と、俺の波紋を練り込んだ蹴りが交差する。

レヴァンティンに纏わせたシグナムさんの炎熱の魔力の熱を感じながらも、俺は刃の横合いにジャンプからのハイキックを繰り出す事で軌道を逸らし……。

 

「だりゃあッ!!!(ブォンッ!!)」

 

そのまま当てた足を軸に体を回転させて、反対の足を回し蹴りの要領でシグナムさんの顔目掛けて振るう。

小学生だからって運動神経甘く見んじゃねぇぜコラァッ!!!

その回し蹴りは吸い込まれる様にシグナムさんの綺麗な顔に近づき、もう2~3秒でぶち当たる感触が来ると、俺の中では確定してた。

 

 

 

……しかし、どうやら相手を甘く見てたのは俺の方らしい。

 

「ッ!?ふっ!!甘いぞタチバナッ!!!(ガンッ!!)」

 

「いぃっ!?」

 

だが、シグナムさんはその攻撃に少しだけ驚愕する様な表情を見せるも、そのまま剣を振るっていた手を持ち上げて俺の蹴りの軌道上に割り込ませ、柄の部分で俺の蹴りを受け止めた。

そこでシグナムさんに蹴りを止められた俺は、回転の力を失って減速してしまう。

勿論、そんな余りある隙を歴戦の猛者であるこの人が見逃す筈も無い。

 

「終わりだっ!!!」

 

何とこのシグナムさんは、俺の蹴りで塞がってるレヴァンテインから片手を離して、腰にあった鞘を打ち込もうとしている。

鞘を腰からそのまま真っ直ぐに抜いてビリヤードの球を打つキューの様な『物』を突くという使い方で、俺の顔面を真っ直ぐにブチ抜くつもりらしい。

しかも俺が重力で落ちる地点を瞬時に見抜いて、その落ちる地点にくるであろう顔面の位置を、だ。

チラリとシグナムさんと視線が合えば、彼女は既に「勝ったな」みたいな笑みを薄っすらと浮かべてやがる。

 

 

 

――だが、既に俺は次の段階へと進んでいるんだよね~~。

 

 

 

俺は今もまだ足先に触れているレヴァンティンに銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライヴ)を流しこみ、自分とレヴァンティンを足先のみで『接着』した。

簡単に言えば、俺の身体がレヴァンティンと平行に接着される事で、俺が落ちる原因は無くなるって寸法だ。

当然、俺が落ちる予定の地点に俺の体は落ちず上に固定され……。

 

「(スカッ!!)なっ!?」

 

シグナムさんの鞘は俺の身体の真下をくぐり抜け、そのまま俺の身体を背中から支える役目をする羽目になってしまった。

彼女の人外級の速度で放たれた突きだからこそ、俺の身体がフラつく前に動作が終了してしまうという、速すぎるってのがこの状況を作り出したワケだ。

この理解出来ない動きに、シグナムさんは驚きで身体が硬直してしまっている。

 

「へっへっへ~~、ちょうど良い支えをどうもッス。お礼にコイツを~~―――」

 

そんなシグナムさんの間の抜けた表情を、俺はレヴァンティンの鞘の上に寝そべりながらニヤニヤと眺めつつ……。

 

「食らいなッ!!波紋疾走(オーバードライヴ)キックッ!!!(ギュオンッ!!)」

 

「ッ!?(バキィッ!!)ぐっ!?」

 

空いた足を思いっ切り伸ばして、シグナムさんの横っ面を波紋を篭めた蹴りで蹴り飛ばした。

だが、やはりそこは大人と子供のリーチの差が大きく、寸前で首を後ろへ仰け反らせたシグナムさんには、クリーンヒットとまではならなかった。

ちっ!?思ったより波紋の通りが浅い!?あそこから飛び蹴りでも叩きこんでおけば良かったか!!

そのまま、蹴りの反動で俺とシグナムさんは一度距離を大きく開けて、互いに構えを取り直して再び対峙する。

俺の蹴りで口の中が切れたのか、シグナムさんは波紋の効力で少し煙が出ている口元を拭うと、油断を消した視線で俺を注意深く見ていた。

 

「……少しだけ驚いたぞ、さすがに言うだけはあるな。タチバナ(まさかレヴァンティンと自分の体を固定し、あまつさえその体勢から反撃するとは……もう只の小学生だとは思わん。主の手前もある、全力で貴様を倒させてもらうぞ)」

 

「へっ。これだけで驚かれちゃ困るッスよぉシグナムさん?(今の波紋疾走(オーバードライヴ)でサクッと決めらんなかったのはヤベエなぁ。あの調子じゃもう完全にゃ油断してくれねえだろうし……さて、どうすっか)」

 

互いに30メートル程の間隔を残し、俺とシグナムさんは互いに攻め込むタイミングを伺う形で硬直している。

 

 

 

 

 

時は新年も開けた1月、冬休みの最終日に、俺はヴォルケンリッターのリーダーであるシグナムさんとガチバトルを繰り広げていた。

 

 

 

 

 

……うん、何でさ?何でこんな事態に?……少し思い返してみよう。

 

 

 

 

 

――――俺がココでシグナムさんとガチなバトルを繰り広げている理由は、去年の大晦日まで遡る……。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、どうも皆さん、海鳴市のマスコットこと橘禅君です♪……嘘です。

 

いやぁ~、突然ですがあの爺ちゃん家でやった大宴会orリインとのイチャイチャは深く、深~く印象に残っております。

なんたってリインの可愛さはハンパなかったね、もうあのまま告白してもおかしくなかったってぐらいには☆

暫くはあの日の愛らしさを忘れられねえってぐらいに……フェイトとアルフの☆O☆HA☆NA☆SHI☆もディ・モールト、ディ・モールト心に刻み込まれました。

いやもうマジでアレはキツかった。まさかスタンド使いであるこの俺がアルフにオラオララッシュされる日がくるなんて、想像だにして無かったぜ。

しかもアルフにブッ飛ばされてからそのまま流れる様にフェイトにコンボが繋がってウルトラ上手に焼かれたし。

ホントあれだけは地獄だったぜ、マジであの状況から抜け出せるなら、下痢腹抱えて公衆便所探してる方がマシって心境を味わったよ。

 

 

 

しかもそれだけじゃ終わらなかったんだなコレが。

 

 

 

俺にぜー、はー、と肩で息をする勢いで☆O☆HA☆NA☆SHI☆を敢行した2人は、もうそれからずっと不機嫌状態。

なのは達から話しかけられたら普通に対応するんだけど、復活した俺が話しかけたらフェイトには思いっ切り無視されるし、アルフはガルルルと唸って威嚇してきた。

リインはリインで復活してからと言うモノ、俺との遣り取りを爺ちゃんとお袋にたっぷりと酒の肴にされて煙吹いていて、俺が話し掛けたら顔真っ赤にして逃げちまったし。

仕方なしに力也さんとか幹夫さん、クロノに俺が治したザフィーラを交えてフェイト達に関わらない様に話してたら、今度はそんな俺に悲しそうな視線を向けてくるフェイトとアルフ。

もうね、一体どーすりゃいいの?って状況に陥っちまってたよホント。

その責める様で訴えかけるような真紅の弱々しいフェイトアイの眼光に苛まれるは俺の傍に居た男性陣諸君も同じだった様で、かなり居心地が悪そうだった。

フェイトの視線に負けた、というか音を上げたクロノとザフィーラの「何とかしろ」って視線に突き動かされてフェイトに視線を向ければ、またもやプイッとそっぽを向いて俺を視界から外してしまう。

それで男性陣との会話に戻ればまーた俺に悲しみの視線を向ける、以下エンドレス。

あん時程どうしたら良いか全く妙案が浮かばなかった俺の脳みそを恨んだ事は無かったぜ。

更に悪い事は続き、宴会が終わって皆を家まで送る道中ですら、フェイトとアルフは俺の事を徹底的に無視しちまうし、まるで取り付く島がありません。

そのままはやて達を送り届けて、何とかフェイト達のマンションに着くまでに会話を成立させようとしたんだが、結果は惨敗。

遂に終始会話する事無く、俺は家に帰ってきてしまったってワケです。

 

 

 

くっそ~~……まさか彼処まで徹底的に無視されちまうとは思わなかったぜ。

さすがに『今回』の事は自分が悪いと思ってるだけに罪悪感がハンパねっつうか、このままアイツ等が不機嫌なままってのは嫌だしなぁ。

 

 

 

と、そんな事を考えながら今現在俺が何をしてるかっつうと、だ……。

 

 

 

「禅~~?次はコッチの棚を持ち上げてくれるかしら~~?」

 

「あいあ~い。今行くよ、お袋」

 

俺は『ハタキ』を『クレイジーダイヤモンド』に持たせて天井近くの叩いていたゴミを片付けると、そのままお袋の声がした方に向かった。

はい、今日は12月31日、時刻は朝の9時程、只今橘家は大掃除の真っ最中ってワケです☆。

俺が声の聞こえた台所の方に向かうと、何時もの様に『ご婦人モード』発動中のお袋がニコニコしながらデカイ棚の前で俺を待っていた。

 

「コレとコッチの棚の2つなんだけど、お願いね♪」

 

「りょうか~い。持ち上げろ『クレイジーダイヤモンド』」

 

『……(グイッ)』

 

俺のやる気ゼロな掛け声と共に、背後に出していた『クレイジーダイヤモンド』が、目の前にある大きな棚を2つ一遍に持ち上げて、掃除の邪魔にならない位置に降ろす。

何か最近こんな雑用的な事に使ってばっかな希ガス。

 

「ありがとう♪毎年この辺りの掃除は信吾さんにしてもらってたから大変だったけど、今年は禅のスタンドのお陰で大助かりだわ♪」

 

お袋は嬉しそうに俺に声を掛けながら同時に手を動かし、床に溜まった埃を掃除機で吸い取っていく。

さすが家事スキルA(超スゴイ)なだけはあるぜ。

 

「ふんふ~ん♪『失ってしまった愛という名のillumination~仮に別の~~♪』」

 

手元の掃除機を巧みに扱いながら楽しそうに『ウェカピポ』を歌うお袋、ってなんつうファンキーな曲を!?しかも上手え!?

女ではまず出ないあの不思議ボイスを無理せず高いキーで歌うお袋に戦慄を隠し得なかった俺であった。

 

 

 

まぁ話を戻すと、既にあの(デス&スィート)な日から既に5日経ってるというから不思議♪

 

 

 

勿論この5日間の間に何度もフェイトとアルフに会って話をしようとはしたんだぜ?

でも会いに行けば居留守を使われ、電話を掛ければ無視されるという『20thCenturyBoy』並の絶対防御に阻まれたッス。

そんなこんなで気づけばもう今年も今日で終わり、何としてでも今年中にはアルフとフェイトの機嫌を治したいと思ってる。

さすがに来年まで不機嫌なのを引っ張られるのだけは避けたい。

ったく、今年もあと数十時間しか残ってねぇってのに、土壇場で随分でかい目標が残っちまったモンだ。

まぁ詰まるとこ、そんなモヤモヤを抱えながら、俺は家の大掃除に従事しているのだ。

 

「『~~♪』禅~~。コッチは終わったから、棚を戻したら玄関の外の雑草を片付けてちょうだい」

 

おっと、そうだな。サッサと掃除を終わらせん事にゃあフェイト達に会いにいけねえし……今回も居留守使われたら、俺にも考えがあるからな。

お袋から言われた通り玄関に向かい、外の埃を綺麗に叩きながら、俺は未だにプンプンしてるであろうあの2人との和解の段取りを着々と考えていくのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「えぇ~~っと……アイツ等は一体何処に……?」

 

さて、時間は進みに進んで只今の時刻は夜の11時50分。

現在、俺達橘家の3人は、近所にある久遠の住んでいない神社に来ていた。

何故かと言えば、今日も今日とて我が家と高町家、そしてリンディさんやプレシアさんの家族も交ぜての年越しをやろうってな具合になってるからだ。

どうにもあの大宴会の日以来、お袋達女性陣は馬が合った様で、何かと理由を着けては話し合いをしようと考えていたらしい。

そんでまぁ、もうすぐ今年も終わるし、外国どころか異世界出身のリンディさん達はこの地球の年越しの仕方を知らないそうなので、どうせなら全員で迎えようとなった。

プレシアさん達もここに住むんだし、こういった記念に残る祭り事は積極的に参加したいとかなんとか。

まぁ何とかフェイト達に会う事が出来た俺からすれば有難い事なんだがよ。

と、まぁそういワケで、俺は既に来ているであろうなのは達を探しているんだが……。

 

「おっ?来たみたいやな?コッチやで禅くーん!!」

 

「全く、こんな時間ギリギリに来るなんて、もう少し早く来なさいよ!!」

 

「ア、アリサちゃん。禅君のお父さんたちも居るし、少し抑えよう?」

 

少しの間キョロキョロと辺りを見渡していると、俺に笑顔で手を振りながら声を掛けているはやてを発見した。

その隣に居るアリサは腰に手を当ててヤレヤレって感じで怒ってるし、すずかはそんなアリサを諌めてる。

視線を向けてよく見てみると、そこにはなのは達も全員居て、俺達が最後の様だった。

 

「こんばんわ皆さん、少し遅れてしまった様ですいません」

 

「いえいえ、まだ充分時間前ですし、大丈夫ですよ」

 

親父は皆と合流して直ぐに士郎さんに話しかけ、そのままニコやかに話し始めた。

既にお袋も桃子さんやプレシアさん、リンディさん達と楽しそうにお喋りしてる。

さっき声を掛けてきたはやてを筆頭に八神家、グレアムさんとリーゼ姉妹(耳と尻尾を隠してる)、高町家とハラオウン家+エイミィさん。

更にすずかと忍さんにファリンさんノエルさんとアリサが居た。何やらアリサの両隣に金髪の男の人と女の人が居るが、多分アリサの両親だろう。

そして、いつも通りに若い男性からリーマンのおっさん連中に注目されまくってるプレシアさんと……。

 

「……(ぷくっ)」

 

「むぅ~……」

 

俺の事をなのは達から離れて少し膨れたお顔で見てるフェイトとアルフ(子供モード)がいらっしゃった。

その責め立てる視線に現在進行形で苛まれる俺は胃が潰れそうな気分を味わってます。

な、何とかしてこのお二人の機嫌を今年中に治さねーと、人生最悪の正月を迎えちまうぜ。

と、とりあえずニコやかに笑顔を携えてっと……。

 

「ん、んん゛ッ!!よ、よぉ。フェイト、アルフ。何かこーやって会うのも久しぶりだな?」

 

まずは軽く挨拶をして話しの中に何気なく……。

 

「……そうだね。私達、最近凄く忙しかったから、全然会う時間無かったもんね?」

 

「それにさぁ、ゼンも忙しかったんじゃないのぉ?例えば……アタシに内緒でこそこそ遭ってる雌狐のご機嫌取りとか、さぁ?」

 

2人は頬を膨らましたプリティフェイスで中々にドきついお返しを下さった。

どうしよう、かつて無いほどに2人の言葉が刺々しいッス。

何気なく会話に持っていく事すら不可能だったので、俺は挙げていた手を所在なく下げてしまう。

だ、だがまだ終わらん!!まだ終わらんよ俺は!!

 

「そ、そんな事ぁねーぞ?ここ最近はずっとお前等に会いに行ってたし、携帯にも何度もかけたんだぜ?なのに返信すらくれねーんだもんな……」

 

押して駄目なら引いてみろ!!もはや取り付く島すらねーんなら、コレが最後の手段だ。

そして、俺の言葉を聞いたフェイトはさっきから不機嫌一色だった表情をピクリと動かして、少しだけ焦る様な表情になった。

 

「だ、だってそれは……い、忙しかった……から?」

 

「いや疑問文で俺に聞かれても困るんだがなぁ……学校じゃ『疑問文には疑問文で答えろ』なんて教わっちゃいねーんだからよ、ちゃんと答えてくれ」

 

「そ、それは…………うぅ」

 

そこで返事に詰まったフェイトは、俺の顔を見たり右往左往と視線を辺りに彷徨わせて黙ってしまった。

元々フェイトは人を騙すとか、そんな卑劣な事が出来ない純粋な心を持った女の子だ。

だから俺の言葉に嘘で返そうにも、それらしい言葉が出て来ない上に、俺を騙す事への罪悪感が伸し掛かってるんだろう。

何かこの図だと、俺がフェイトを虐めてる様にしか見えねーが、もはや形振り構ってるワケにゃいかねえんだ。

ここはフェイト達の罪悪感に訴えかけて、何とか俺にイニシアチブを回さねーと!!

 

「大体よぉアルフ。俺は別にお前に対してやましい事なんざ欠片もしちゃいねえぜ?お前が俺にしこたま染み付けた匂い以外に、他の動物の匂いがするか?」

 

「う゛っ!?そ、それは……しない、けどさ」

 

「だろーが?ここ最近俺が抱っこして可愛がってる動物は、お前以外にはいねえんだからよ」

 

俺はフェイトと違って依然として睨んでくるアルフに多少のジト目を送りつつ、自分の無実をアピールした。

俺だって久遠をたっぷりと愛でてやりてえのに、ここ最近はお前達の事が気がかりで全く会いにいけてねえのにこの台詞だぜ?

少しぐらいは言わせてもらっても罰は当たんねえと思う。

態度全体にやれやれって感じを醸しだした俺の言葉を聞いた2人は目に見えてオロオロとしてしまった。

 

「でもまぁ、2人が何でそんなに怒ってるかは判ってるし、俺自身ホントに悪かったとは思ってるけどよ……俺ってばこーゆうヤツなんだわ。この性格だけは治せねーし、治そーとも思わねえ」

 

「むっむむ……そーゆうの、卑怯だと思う……」

 

「全くだよ。『自分は雌ったらしです』なんて開き直るなんてさ……ズルいし、酷いよ。アンタって男は」

 

俺の言い分を聞いた2人はさっきまでオロオロとしていた態度を一変させ、またもや睨む様な視線を送ってくる。

でも仕方ないじゃない、可愛いモノは可愛いんだもん。

目の前で俺に対してむすっとした顔をしてる2人に、俺は苦笑いする事しか出来なかった。

 

「ズルいとでも卑怯とでも言ってくれて構わねえさ……そんで、俺がこの性格を治さねえって分かったんなら、フェイトとアルフはどぉする?俺と『サヨナラ』するの(ボフッ)っとと?」

 

俺が言いたい事を言い切る前に、アルフとフェイトは俺の両腕に突撃を繰り出し、そのまま俺の腕を痛いぐらいにギュッと抱え込んでしまった。

2人は俺の腕を思いっ切り握り締めると、そのまま顔を上げて俺をキッと睨みつけてくる。

 

「そんな事しないし、したくないよ……でもだからって、私達だってゼンのそういう所全部を納得したくないもん……だから、覚悟しててね?」

 

俺の片腕を占領したフェイトは俺を上目遣いの体勢で睨みながら、『決意』したかの如き眼差しを向けてくる。

……え?な、何すか覚悟って?あれ?何かトンデモない方向に話がブッ飛んでません?

イキナリ告げられた『テメー覚悟しとけやオラァ』宣言にビビる俺だったが、今度は反対に居るアルフに腕をかぷっと甘噛されて、そっちを見る事を余儀なくされた。

 

「アタシもフェイトと同じだ……今は許しても、その内アタシ達無しじゃ居られない様にしてやるから覚悟しときな」

 

アルフは少しばかり悪戯っ子な笑みを見せると、そのまま俺の腕をしっかりと握って、あの宴会の日にフェイトがしたのと同じ様に俺の腕を体全体で抱え込んでいく。

更に反対側に居るフェイトも少しだけ顔を赤く染めたまま、アルフと同じ様に腕を抱え込んで、頭を俺の肩にポフンッと預けてしまう。

そんな2人の行動に戸惑っていると、フェイトは少しだけ顔を起こして俺と視線を合わせてきて……。

 

「ゼンがほ、他の女の子を見なくなるまで……そうなるまで、私、ゼンにいっぱい甘えるからね?……ゼンが、いっぱい私を見てくれる様に……甘えちゃうもん」

 

そんな胸にズギュンズギュンと響く台詞を、ちょっと睨む様なわがままっ子を思わせる視線でもってプレゼントしてくれました。

ヤヴァイ、何だこの可愛い生き物。群生地は何処です?ちょっと乱獲してきたいんだが?

そしてフェイトの反対側で俺の腕に顔をスリスリしてらっしゃるこの子犬ちゃんも買い漁りたい。

と、とにかく!!まだ時間は0時6分前!!従って年内に2人の機嫌を治すって目標は達成できたぜ!!

 

 

……かなり、間違った方向に暴走しちまったけどな……。

 

 

 

 

 

―――所変わって。コチラは八神はやてと愉快な仲間達。

 

 

 

 

 

そこでは、何やら恥ずかしそうに禅の居る場所から隠れようと、はやての乗った車椅子の後ろに回るという無駄な努力をしているリインフォースの姿があった。

はやての周りに居るヴォルケンリッターの面々は、何とかリインフォースをはやてから引き剥がそうとするが、彼女は中々動かない。

 

『ほらリイン!!恥ずかしがっとらんと早く禅君に話し掛けるんや!!っていうか私さっきからデッカイおっぱいで頭ボコボコ殴られとるんやけど!?嫌味か!?嫌味なんか!?』

 

『で、ですが主…………う、うぅ……!?や、やはり恥ずかしくて私には出来ません!?』

 

余りにも恥ずかしがり屋な家族に念話で叱責を飛ばすはやてであったが、リインはソレを聞いても車椅子の影から出ようとはしなかった。

リインは沸騰したヤカンの様に真っ赤な顔で禅の顔をチラリと盗み見ると、更に顔を赤くしてはやての影に隠れ直そうとする。

彼女の胸元には、先日禅からプレゼントされたネックレスが着けられており、それはリインフォースの容姿と相まって良く似合っていた。

だが、先日の宴会の折、禅との熱烈なキスをした光景が頭の中を生々しく駆け巡っており、羞恥心の所為でリインフォースは禅の前に出る事を拒んでいる。

更に言えば、その後で気絶から復活して直ぐに禅の祖父である茂や母の佳苗に心ゆくまでイジられた事も要因となっているのだ。

 

『(後半無視かいな!?)……な、何言うとるの!!恋ってゆうのは情け無し情無し色有りの過酷な戦争や!!そんな弱気な様やと禅君が他の女の子になびいて、リインの事を見なくなるかも知れんのやで!?それでもええんか!?』

 

『ッ!?そ、それは!?それだけは嫌です!!!ゼ、ゼンには私を見ていて貰いたいです!!!』

 

はやては煮え切らないリインフォースに少しばかり発破を掛けるつもりで言ったのだが、リインフォースはその言葉を真面目に受け取ってしまい、はやての言葉を聞いて涙目になってしまう。

禅の性格を考えれば有り得ない事どころか充分に有り得るので、この場合は真面目に受け取ったリインフォースが正しかったりする。

そんなリインフォースの強烈な反応に、はやてはかなりの罪悪感を覚えるが「これも我が家の可愛いリインが幸せになるため!!」と免罪符を唱えつつ、言葉を続ける事にした。

 

『せやろ!?そうやろ!?せやったらはよ行動に移さんかい!!フェイトちゃんとアルフさんを見てみいな!!リインより行動が早かったから、もう禅君の隣は占領されとる!!』

 

『う、うぅ……も、もう間に合わないのでしょうか?』

 

『ボケエッ!!そこで終わったら永久に禅君の隣は取れんわ!!まだ年越し前やし、普通に話をするだけでも好感度は変わる!!『女は度胸』や!!はよ話し掛けてきい!!』

 

女は度胸、そして永久に禅の隣は取れないという言葉を聞いたリインは、少しだけ悩む素振りを見せたが、やがてしっかりと覚悟を決めた様だ。

その真紅に輝く瞳に決意を宿し、リインフォースはフェイトとアルフに抱きつかれて嬉しそうな顔をしている禅をその瞳で視界に捉えた。

そして2、3回程大きく深呼吸をし、彼女は自らの主に念話を返す。

 

 

 

『スゥ、ハァ……わ、わかりました!!『祝福の風』リインフォース。ゼンには、はな、ははは話し掛けてきましゅ!?』

 

 

 

台無しだった。

 

『噛みっ噛みじゃねぇか!?……ホントに大丈夫かよ、リインフォースの奴……』

 

リインフォースの余りにもテンパッた返事を聞いたヴィータは思わずツッコミを入れてしまうが、それすらも今のリインフォースには届いていない。

もう何時爆発しても良いんじゃないかという程顔を真っ赤にしたリインフォースは、手と足を同時に出してギクシャクした足取りで禅の元に近づいていく。

 

『わ、わからん……だが、今までずっと報われなかったリインフォースが、自分の意志でタチバナと結ばれようとしている……私達は、影から応援するしかないだろう』

 

『あらシグナム、影からだけで良いの?私達と同じ守護騎士だからこそ、私達も積極的に応援するべきじゃないかしら?』

 

ここでヴィータの呟くような念話を拾ったシグナムは、その呟きに対して何時に無く消極的な返事を曖昧に返した。

それを隣で聞いたシャマルは、どうして大々的にリインフォースを応援しないのかシグナムに問い返す。

それはザフィーラとヴィータも疑問に思ったようで、都合3人分の視線がシグナムに集まる。

 

『そ、それは……その……だな……』

 

『『『??』』』

 

何故か恥ずかしそうに顔をちょこっとだけ赤く染めたかと思うと、シグナムはおもむろに全員から視線を外して明後日の方を向き……。

 

『こ、恋というモノは良く分からん……経験した事が無いからな……わ、私はずっと、剣を振るってばかりだったし……どう応援して良いのか……』

 

と、それだけ言って、シグナムは黙ってしまった。

この中の4人+リインフォースなら、リインフォースが一番外の世界に触れ合う事が出来なかったにも関わらず、ヴォルケンリッターも殆どその辺りには疎い。

ある意味、リインフォースより外の世界に関しては先輩な筈の自分達がそれはどうなんだろうか?と微妙な気持ちになってしまう残りの守護騎士達なのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ゼ、ゼン……ひ、久しぶり、だな……」

 

「ん?よぉ、リイン。元気にしてたか?……つってもホンの4、5日しか経ってねぇけどな」

 

何やら可愛らしさ爆発状態のフェイトとアルフに両方を挟まれていると、やけに顔を赤くしたリインに話しかけられた。

彼女はあの時にプレゼントしたネックレスをして、視線をアチコチに彷徨わせながら落ち着かない態度を見せている。

ありゃりゃ……やっぱあれだけ熱烈にキスした後じゃそうなるか。

 

「そ、そうだな。と、とても元気だぞ?……そ、その…………お、おおお前、から……元気を、貰ったから、な」

 

リインはそう言って胸元にあるネックレスを柔らかく包み込んで、はにかんだ笑顔を浮かべる。

どうやら俺が贈ったネックレスはとても気に入られた様で良かったぜ。

 

「…………良いなぁ(ぼそっ)」

 

「ゼ~ン。リインフォースばっかりズルいぞぉ。アタシとフェイトにはくれないのかい?」

 

と、リインが俺の贈ったネックレスを嬉しそうに持っているのを見た二匹の甘えん坊さん達が俺につぶらな瞳を向けておねだりしてくるではないか。

俺はそんなちょいと拗ねてる2人に苦笑いを浮かべてしまう。

 

「いやっその、なぁ……今は材料が無えし、あれ一つの石の意味を考えるのも大変なんだぜ?やっぱ天然石は、贈る人間に合った意味を持った石じゃねえと意味がねえしよぉ……」

 

俺の苦笑いしながら言った言葉に、今度は目の前に居るリインがピクリと反応を見せる。

 

「じ、じゃあ、お前は私に合う石を、お前自身が選んでくれたのか?」

 

「そりゃ当たり前だろーに。その人に贈りたい意味を持っていて、それでいてファッションに合う天然石じゃなきゃ、作る意味なんて無えさ」

 

依然両手が塞がっているので、俺は首を竦めてリイン達に言葉を返す。

別に石の意味なんて考えずにプレゼントするなら、それこそ店で買えば良いしな。

何か特別な意味で贈るなら、それこそ心を篭めて、その人に贈りたい言葉の意味が伝わってくれなきゃ困るぜ。

そんな事を頭の中で考えながら、未だ両隣で膨れっ面をしているフェイト達に俺は笑顔を見せた。

 

「まぁそんなワケで、お前等にピッタリな天然石が見つかるまで、少しだけ待っててくんね?そん時は心を篭めて作るからヨォ」

 

「む~……まぁ、アンタがちゃんと作ってくれるなら……癪だけど、待つよ」

 

アルフは少しばかり納得いかないって感じに唸ってたけど、最後はちゃんと納得してくれた。

一方でフェイトの方は、怒ったり拗ねた表情では無いが、何故か少しばかりの含みを持った笑顔で俺を見てらっしゃる。

おんやぁ?何故にそんな「失言したね?」みたいな笑顔をしますかフェイトさん?

 

「ふ~ん?……それじゃあ、ゼンは私達にピッタリな意味の石が見つかる様にちゃ~んと、私とアルフの事を見ていてくれるんだよね?……他の可愛い女の子達を見ないで、ね♪」

 

「なんですとっ!?」

 

フェイトの言った余りにも理不尽な台詞に、俺は目ン玉をひん剥いて驚愕した。

つ、つまり他の子の事を俺が見ないという強引な解釈を持ってして、俺の視線の向きを限定したってのか!?

何たる理不尽!!何たる独裁政権!?こんな揚げ足の取り方、超悪徳闇金融だってしねえぞ!?

ま、まさかさっきの言葉をそういう風に解釈して俺を封じてしまうとは……!?

驚愕の余り言葉も出ないと言った様子の俺に、フェイトは更に笑みを深め、フェイトの言葉の意味を理解したアルフも同じ様にニヤァっと笑い出す。

しまった!?まさかの連携プレーか!?

 

「ふふっ♪もう言質は取っちゃったから……約束、破っちゃダメだよ♡」

 

「そうそう♪ゼンは女の子との約束を破る様な悪党じゃ無いもんねぇ?約束した事はちゃんとシテくれる『紳士』な男だって知ってるぞ♪」

 

『Sir,Because I recorded it well(サー、しっかりと録音しておきましたので)』

 

「うん♪ありがとう、バルディッシュ♪」

 

『Yes,Sir』

 

なんてこった、まさかのバル君まで俺の敵だったとは……この包囲網は突破出来ねえのか!?

 

「ゼ、ゼンが私にピッタリな天然石を見繕ってくれた……と、とという事は……ゼンは私の事を深く理解してくれているとなるワケで……~~~~~ッ!!??(ボンッ!!!)」

 

あるえ!?何かリインちゃんたら爆発してらっしゃる!?

ダ、ダメだぁ……!!もうこの状況を覆せる様な切り札はねぇ……俺の負け、か……。

 

 

 

 

 

どうしようも無い状況を理解した俺は、その時ちょうど鳴り響いた0時00分のアラームと共に、新年の訪れを感じた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

――――以上が、俺の波瀾万丈な1年の締めくくりだったワケよ。ドゥーユーアンダスタンドゥ?

 

 

 

 

 

え?シグナムさんと戦ってる理由が1発も分からなかったって?仕方ねえ4発だ。

 

 

 

 

 

1,新年迎えて早々、シグナムさんに『クレイジーダイヤモンド』『だけ』と試合したいと申し込まれる。

2,俺は?と聞けばお前弱いだろう?と舐め腐った発言イタダキ―。

3,上等ブッ殺。『クレイジーダイヤモンド』抜きでテメーブッ潰す、おk受けて立つ。

4,4て数は縁起が悪いんだよぉーーーーーーッ!!!?

5,今ココ↓

 

 

って事です、おk?

 

 

 

つまりは、フェイト達と仲直りして気分良い時に『タチバナ本体は小学生と然程変わらないんだから別に良い』発言ですよ?

もう新年早々軽くプッツンきちゃいまして♪それならばと模擬戦を逆に申し込んだワケなのさ。

だからこそ、今回の模擬戦では『クレイジーダイヤモンド』を使えない、いや逆に使ってやらねえ。

俺自身の波紋と『もう一つの技術(ワザ)』だけで、シグナムさんに泥を付けてやんよ。

そのために新年早々フェイト達から誘われた遊びも、翠屋の手伝いも全部キャンセルして、今日まで全部の日を修行に当てた。

だからこそ、この模擬戦だけは負けるワケにゃいかねえんだ!!

この模擬戦をする事となったキッカケを思い出しながら、俺は間合いを取ったシグナムさんをどうブチのめすか着々とプランを立てていく。

 

「(とりあえずはシンプルに……結界の中へおびき寄せるか)」

 

俺は構えを解かずに斜め横に少しづつ動き、シグナムさんとの間合いを小さくし始めた。

 

「…………(スッ)」

 

すると、俺の横向きの動きで視界から少しづつ外れようとする魂胆を見抜いたのか、シグナムさんも正眼の構えのまま、俺と同じ方向に少しづつ動いていく。

時折、仮想空間で設置された森林の木に互いの身体が隠れたりするが、何とか見失わずに済んでいる。

だが、その木が全身を隠してくれる一瞬だけ、俺はさっきの攻防中に地面に落としておいた『隠者の紫(ハーミットパープル)』、というか波紋の伝導率100%の糸を歩く足先で引っ掛けていた。

謂わば相手が突撃してきた時に張れる波紋の結界を組み上げ、その通しが2本目の木まで作る事に成功していた。

 

 

 

OKOK、このままもう一回さっきの木に戻して、俺の目の前を囲う様に糸で結界を組めば、咄嗟の防御には使え――。

 

 

 

「――――ハァアアッ!!!(ドギュゥウウンッ!!!)」

 

だが、そのまま作った結界の中に戻ろうとした刹那、シグナムさんが烈火の雄叫びをあげながら突撃してきてしまった。

マズッ!?こ、この場所からじゃ糸の結界に戻れねえ!?

自分の作戦の失敗を悔いるも、既にシグナムさんは俺との距離を3メートルまで縮めていて、回避以外の選択肢は消されていた。

 

「だあぁっ!!!(ブォオンッ!!!)」

 

「あ、危ねえぇっ!?(ジョリッ!!)って掠ったぁああッ!?」

 

とても豪快な風切り音と共に、シグナムさんは大根切りの様な振りかぶりから真っ直ぐにレヴァンティンを振り下ろしてきた。

シグナムさんの剣速、そして飛行魔法を使った速度の強化で振り下ろされたレヴァンティンは、身を投げ出す様に回避した俺の背中を少し掠る。

っていうか今ジョリッ!!とか言ったんですけどぉ!!?怖ぁ!!?ザ、ザフィーラに回避の特訓頼んでなきゃアレで真っ二つだったぞ!?

だが剣を回避したのも束の間、俺の片足に結びつけていた波紋の糸が足元を隠していた茂みから、俺の足に引っ張られて露わになり、レヴァンティンに切断されてしまった。

 

「……ン?」

 

「(ゴロゴロゴロ、ズザァッ!!)し、しまった……!?」

 

飛び込みの要領から地面を転がった俺が見たのは、俺の片足から伸びていた糸がプッツリと切断され、その切れ端が木に結びついているのを訝しげに見ていたシグナムさんだった。

彼女はその切れ端を見ると、その先を目で追って、それが木に結びつけて有るのを確認していく。

 

「……成る程……間合いをズラす様に歩いていて、その実は木に糸を結びつけて即席の波紋を使った結界を拵えていたのか……だが、くだらん。確かにその空間に飛び込めば少々厄介だが、ネタが割れればどうという事は無い」

 

シグナムさんはそう吐き捨てる様に言うと、更に木と木の間に結んでおいた糸を一閃して切断してしまう。

そのままシグナムさんはレヴァンティンを横薙ぎの形で構えて、徐々に腰を落としていく。

 

「私が戦いたいのは、ザフィーラを瞬殺する程の力を持ったお前のスタンド、『クレイジーダイヤモンド』だ……お前が自分の力のみで戦いたいと言ったその心意気、そして先程の予想もつかなかった反撃は称賛に値するが……魔導師で無いお前は、私には勝てない」

 

彼女はそこで言葉を切り、地面を強く蹴ると、立ち上がってから摺り足をして後ずさりながら構えたばかりの俺に襲いかかる。

 

「お前がスタンド能力を使いたくないと意地を張るならそれでも構わん……ッ!!……この場で私が、使わざるを得なくさせてやるッ!!!」

 

その叫びと共に、シグナムさんは横薙ぎに構えていたレヴァンティンを薙いで、俺の身体をスライスする様に剣戟を繰り出した。

くそっ、糸でハムのごとく縛ってキャッチ作戦は失敗――――だと思うかよ?

俺はシグナムさんが剣を振るより早いタイミングで身体を思いっ切り後ろに飛ばして、逆ダイビングの要領で地面に飛び込む。

その後先を考えない回避方法は、とりあえずシグナムさんの第一撃を回避する事に成功するが、そのまま地面に背中から着地して逃げ場が無くなる。

 

「その体勢では、もう避けられんぞッ!!(ギュオンッ!!)」

 

そうして躱した横薙ぎだったが、その後を追う様に、シグナムさんはレヴァンティンを大上段から振り下ろす。

だがもう遅いぜ?やっとアンタは俺の『テリトリー』の中に入ったんだからよ?

俺は地面に大の字に倒れた体勢から、片足を思いっ切り横向きに開脚する。

 

 

 

――――すると。

 

 

 

「(シュルルルルッ!!)なっ!?こ、これは!?」

 

「気付いた時にはもう遅えかなぁ~~」

 

驚愕するシグナムさんを他所に、俺はシグナムさんが驚いている『原因』に視線を向けた。

俺とシグナムさんの見ている先、それはシグナムさんの足元で、俺の上に立ち上がっているシグナムさんの両足を囲うようにして『巻き付いている』……。

 

「せ、切断した筈の――――『糸』がッ!?」

 

さっきシグナムさんが切った筈の、波紋を通す『糸』だった。

 

「(やりぃ!!何とか上手くいったぜ!!)」

 

俺の真上で糸を見て驚愕しているシグナムさんを見ながら、俺は心中でほくそ笑む。

簡単に説明すると、シグナムさんが切った糸は『囮』つまりはデコイってワケだ。

俺があの時地面に放り出した波紋の糸、実は『二巻』あったってネタで、俺はその片方を木の間に結界を組むつもりで引っ張っていた。

そしてもう片方の糸は、最初の木にだけ結びつけて、後で斬られたり糸が足らなかった時の保険で2本目の木には結びつけずに、オーバーハングする様に放置。

勿論、あの結界がこうも早く破られたのは想定外だったがな。

だから俺は飛び込むように最初の斬りつけを回避した後、足の裏で糸を引きずって構え直し、さっきの逆ダイビングの後で足に引っ掛けた。

そして、最初の回避の時にわっかになっていた糸の中でシグナムさんが止まる様に地面に倒れこんで、その中に入った今、弛んでいた糸を引いてシグナムさんの足を囲えたんだよ。

俺の上に立つシグナムさんの両足に巻き付いた糸に波紋を送り込みながら、俺はニヤニヤと笑った面でシグナムさんに指を突きつける。

 

「アンタの次の台詞は――『貴様の波紋より先に、私の突きで終わりだッ!!』――と言う、だぜ」

 

その言葉で意識をハッとさせたシグナムさんは鋭い眼で俺を見ながら、途中で止めていたレヴァンティンを逆手に持ち替えた。

 

「貴様の波紋より先に、私の突きで終わりだッ!!」

 

多分無意識で気付かなかったんだろうが、俺が言った通りの台詞を言ったシグナムさんは、俺の意識を刈り取らんと突きを繰り出してくる。

だが生憎、もう俺の波紋は糸を伝わり始めてるんだよ!!

 

「コォォオオオッ!!波紋疾走(オーバードライヴ)のBEEEEEEAT!!!(ジュビビビビビッ!!!)」

 

間一髪、正にその表現が正しいだろう。

シグナムさんのトンデモなく速え突きより先に、俺の足先から流した波紋が、シグナムさんの足から全身にスタンガンの様な音を発しながら駆け巡った。

 

「(バリバリバリッ!!!)ぐぁぁああああああああッ!!!?」

 

駆け上がる波紋の紫電が全身に行き渡ると、シグナムさんは苦悶の叫びを挙げながら目をギュッと瞑っていく。

しかし体勢はさっきと殆ど変わらず、未だに俺の真上で剣を突き刺そうと構えたままだ。

けっ!!女の人の叫び声も辛そうな表情も見たくねえが、これは模擬戦だからな!!今だけは心を鬼にして追い打ちさせてもらうぜーッ!?

俺は倒れた体勢のままから、更に波紋の通っている糸を手繰り寄せ、シグナムさんの上半身にも巻き付けていく。

これでシグナムさんは、全身の動きを波紋の糸で阻害される事になる。

 

「(このままもいっちょ追撃をカマしてやらあッ!!)」

 

シグナムさんの動きを完全に止める事に成功した俺は、コートの内ポケットに差し込んでいた『武器』に手を延ばす。

 

 

 

――――だが。

 

 

 

「ぐ、ぐうぅぅうううッ!!?レ、レヴァンティンッ!!!」

 

『Jawohl!!(ガシャコンッ!!)』

 

突然、シグナムさんは自分のデバイスに声を掛けたかと思うと、レヴァンティンはその声に応じてカートリッジを1発排莢した。

 

「オイッ!!この状況で妙な真似すんじゃ――」

 

俺が忠告しようとした声に重なる様に、レヴァンティンに炎が纏わりつき――――。

 

「(ゴォオオオオオオオオオッ!!!)くう゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああッ!!?」

 

「んなッ!?何やってんだアンタァーーーーーーーーーーーッ!!?」

 

その炎は主であるシグナムさんの身体を伝わり、全身に駆け巡っていった。

俺はその光景に目を丸にして大声で叫んでしまう。

だが叫んでも目の前の出来事は変わらず、俺の真上に佇むシグナムさんの身体は、俺の波紋と自らの炎による二重の責め苦に苛まれている。

イ、イカレちまってんのかこの人はッ!?何で自分の身体に炎を……はっ!?

自分で復唱した事実に、まさか、有り得ないと思いつつも、俺は今頭に浮かんだブッ飛んだ考えを予想してしまった。

 

 

 

 

 

ほ、炎を全身に纏ったって事は――――シグナムさんが着てる騎士甲冑とかも燃えてあられもない姿に!?

ま、まさかのお色気作戦か!?俺そーゆうのもう何時でも大歓迎ッス!!

 

 

 

ってンなワケねえだろーが!?よく脳みそ回して考えろスカタンッ!!

 

 

 

炎がシグナムさんの『全身を焼く』って事は……!?

 

 

 

「ぐ、うぅあ…………ハァ、ハァ、……これで、糸は『無くなった』ぞ……ッ!!」

 

 

 

俺が巻いた『波紋の糸』も『燃やされてる』って事じゃねぇかッ!!?

 

 

 

もはや口も塞がらないってマヌケ面を晒す俺の真上に居るシグナムさんは、息も絶え絶えって感じで言葉を紡いだ。

テンパッて忘れていたが、フェイト達魔導師が使う魔法ってのは非殺傷設定があり、それは痛みだけを伝えて相手を殺す事が無い。

シグナムさんの今の炎も同じで、軽い火傷なんかはするが、死ぬ様な事にはならないんだ。

その証拠に、シグナムさんの美しい足を惜しげ無く晒すデザインの騎士甲冑から見える肉付きのナイスな足は、軽い火傷だけで済んでいた。

だが、俺が纏わり付けていた波紋の糸は消し炭が残らないレベルまで燃やされていて、もはやシグナムさんには波紋は伝わっちゃいない。

くそっ!?この土壇場で形勢逆転かよッ!?こりゃマジにヤバイって!?

 

「この距離で……避けれるかッ!!?(ボッ!!!)」

 

「うぉぉおおおおおおクソッタレがぁああああああッ!!!?」

 

遂に放たれたシグナムさんの突きを前に、俺が出来る事はポケットに入ってた『武器』を翳す事だけだ。

あんまりにもらしくねえ雄叫びを挙げながら、俺は藁にも縋る思いで、突きを放つシグナムさんへと武器を向けたまま、首を最大限横に捻る。

躱せるかはこの一撃がヒットするかどうかに掛かってる!!ヤルしかねぇッ!!!

俺がシグナムさんに必死の思いで突き出したのは、『ガラス製の容器』に並々と注がれた赤黒い色の液体が入った『ビン』。

ビンの横に掘られた『since1936』という年号がこのビンの中身の長い歴史を感じさせる1本。

 

 

 

その名も――――『Cora・Cola(コラ・コーラ)』。

 

 

 

敢えて突っ込まん!!もう狙いを付ける時間はねえから適当に撃つ!!撃つぜ撃つぜ撃つぜぇぇええええッ!!!

目測でシグナムさんに向けて突き出したコーラのビンに、俺は手からありったけの波紋を流し込んだ。

 

「波紋コーラァアアアッ!!!(ギュボォンッ!!!)」

 

およそ、ビンの蓋が外れたとは思えない豪快な音が鳴り響き、栓を押し上げたコーラの飛沫が、波紋を混じらせながら噴き出る。

だが既にシグナムさんのレヴァンティンは俺の首元に真っ直ぐ突き刺さりかけ、もはや一刻の猶予も無い。

ま、間に合えぇぇええええええええええッ!!?

 

「ッ!!?(ズバァッ!!)ぐぁッ!!?」

 

「(ザシュッ!!!)いぎえっ!!?」

 

俺とシグナムさんの苦悶の声が、ほぼ同時に口から吐き出されると同時に――――。

 

「ぐうっ!?ハァ、ハァ、ハァッ!!!?」

 

俺はシグナムさんの足の間から転がって這い出て、抉る様に首の傍を通ったレヴァンティンに着けられた傷を抑えた。

一方でシグナムさんは、その場から動きはしなかったが、地面から起き上がった俺を鋭く睨みつけている。

彼女の方は俺とは違って、さっき撃ったコーラのビンの蓋が掠ったこめかみの辺りを抑えていた。

 

「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!(あ、危ない所だったぜ……!?ギリギリ掠ってくれたから、何とかレヴァンティンに串刺しにされずに済んだ!!)」

 

肺が空気を欲しがって暴れるが、俺は少しづつ波紋の呼吸を整えなおしていかなくちゃならない。

何故なら目の前の戦士が宿す目の光は、全くもって闘志を無くしていねえからだ。

しっかし、参ったぜ……このシグナムさん、グレートにブッ飛んだ行動を平然としやがる。

いくら非殺傷設定の魔法でも、自分に自分から炎纏わせたりしねえだろ?マジにヤベエよこの人。

 

「…………正直、見誤っていた……お前の言う波紋の技術……たかが管理外世界の人間が生み出した技術(ワザ)等、我らの使う魔法には劣るだろう、と……自惚れていたワケだ」

 

行き成りシグナムさんは俺を睨んだままゆっくりと語り始めたかと思うと立ち上がって剣を自然体のままにした。

正直、俺はそんなシグナムさんを見てチコッとだけビビってたりする。

窮地を脱出する為なら自分すら焼く覚悟、その戦いに対するトンデモねえ覚悟が、俺に二の足を踏ませちまうんだ。

 

「だが、そんな三流以下の考えを持って戦いに臨んだ結果がコレだ……全力で倒すと心に決めながら、策に嵌められ、自身の炎に焼かれ、自らより遥かに幼いお前にニ撃三撃と手痛い攻撃を食らうという……主には見せられん筈の失態だ」

 

『Schlange Form!!(ガシャコンッ!!)』

 

シグナムさんのゆったりとした呟きに、レヴァンティンは何かを叫ぶと、カートリッジをまた1発排莢した。

そんな光景を見ている俺は、やっと治まってきた肺の爆発するような鼓動と入れ替えで波紋の呼吸を整えていた。

 

「……済まなかったな、タチバナ……お前の事を碌に見もせずに、お前のスタンド『だけ』に試合を申し込む等と、馬鹿な真似をして……」

 

と、この試合をやる原因だったシグナムさんの言葉をあろうことかシグナムさん自身が撤回してしまった。

何やら自嘲めいた笑みを見せながら、シグナムさんは自然体に構えていたレヴァンティンを――――。

 

「……ッ!!(ビュオォオンッ!!!)」

 

 

 

無言のまま上向きに一閃すると、レヴァンティンの『形』が変わっていた。

 

 

 

「……OH MY GOD(なんてこったい)

 

その余りにも形が変わってしまった剣の描く『軌跡』を見て、俺は思わず悪態を吐いてしまう。

レヴァンティンの新たな形――――それは、自由自在に動く『蛇腹剣』だった。

その名の通り、蛇が這いずる様な弧を描く動きを見せるレヴァンティンは、通るルートにあった大木を物の序でと言わんばかりに切り落としてしまう。

なんてこった……レヴァンティンにゃこんなモードまであったのかよ!?

状況は俺にとってますます不利になってきた、俺が初めて見るレヴァンティンの新しい動き、そして戦い方。

オマケとばかりに底冷えしそうなぐれーにクールな思考を持って戦いに臨もうとするシグナムさん。

ドレもコレも俺にとっちゃバッドニュースばかりだ。

 

「意識を改めよう――――タチバナ・ゼン。私はお前を倒す事に全てを注ぐ……お前に届かない様では、お前のスタンドと戦う資格は無いからな――――ヴォルケンリッターが1人『烈火の将』、騎士シグナム。推して参るッ!!!」

 

シグナムさんは再び目に強い輝きを宿しながら、自身の内包する魔力を存分に撒き散らして、俺に視線を送ってくる。

彼女の名乗りに合わせて周りの大気が応援するかのように強く吹き荒み始めた。

……くそっ、上等だ、こうなったらトコトンやったろうじゃあねえかよ。

手元に持ったままでいたコーラボトルの中身をグイッと飲み干して、俺は脇にポイッとビンを捨てた。

そのまま軽くファイティングポーズを取りつつ、俺はシグナムさんに向かって口を開く。

 

「へッ!!生憎とよぉ~~ッ!!こちとらアンタが覚悟決める前から、それこそ最初(ハナ)っからクライマックスよッ!!――――『波紋使い』橘禅ッ!!アンタに俺のビートを刻み込んでやるぜッ!!!」

 

俺達は互いにもう一度名乗りを上げて、このプライドを掛けた模擬戦の第2幕をおっ始めた!!!

 

 

 

「……と、言ったものの(俺にはこの距離で立てれる対抗策が無えし……マジどうしよっかなぁ?)」

 

 

 

こんな調子で俺、勝てるのかしらん?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ハァ~……凄い攻防でしたね~今の。私、手に汗握っちゃいましたよ」

 

「えぇ、砲撃魔法や射撃魔法を使っていないから、そこまでの派手さは無いけど……」

 

「至近距離での目眩く攻防、そして2転、3転と代る代る互いの有利不利が入れ替わる……正直、戦闘というよりも、チェスの駒の潰し合いというのがしっくりくるでしょう」

 

シグナムと禅がお互いに意識を改めて第2ラウンドを開始していた頃、この訓練室をアースラのブリッジでモニターしていたクロノ、リンディ、エイミィの3人は、モニターを見つめたまま話しをしていた。

更に、今現在トレーニングルームで行われている戦いを見ているのは、この3人以外にも大勢いた。

それはこのアースラに乗艦しているスタッフや武装隊、オペレーターの事でもあるが、勿論地球の魔導師組の事も指している。

 

「ゼンーーーッ!!カッコイイぞーーーー♡!!いけいけーーッ!!」

 

「……凄い……あのシグナムを出し抜いてる……やっぱり、ゼンは強いんだ」

 

モニターの向こうで、何時ものふざけた空気を全く出さずに戦っている禅の姿に、アルフは手を大きく振って満面の笑顔で応援していた。

少しばかり顔が赤い所を見るに、モニターに映る禅の姿に見惚れていたのだろう。

更にその隣りで戦いを見守っていたフェイトも、先程の攻防を思い返しながら純粋に驚きを露にしている。

しかもフェイトの場合、相手が既に3度も戦い苦戦してきたシグナムだからこそ、驚きは倍増していた。

 

「えぇ、確かにゼン君は、シグナムさんをあしらっていたわね……でも……」

 

「はい。プレシアさんが予想している通り、ココからはゼン君にとってかなり厳しくなると思います」

 

モニターの先に映る戦いを娘と同じ様に観戦していたプレシアは何かを感じたのか少しだけ苦い顔をしてしまう。

それはプレシアの隣りに立っていたシャマルも同意見の様で、プレシアの言葉に真面目な顔付きで相槌を返していた。

とても宴会の日に料理を否定されて涙目になってた人物と同一とは思えない。

 

「え?何でなんシャマル?今はシグナムより禅君の方が押しとると思うんやけど……」

 

プレシアとシャマルの言葉を理解出来なかったのか、はやてが疑問顔でシャマルに問いかける。

確かにシグナムがシュランゲフォルムを出した瞬間に状況は禅にやや不利になっている。

だが、それでも禅が受けた攻撃の蓄積ダメージはシグナム程では無いとはやては感じていたのだ。

 

「違うよはやて。確かにあんにゃろーはシグナムより攻撃を食らっちゃいねーけど、さっきまでの間に当てられるだけ当てなきゃいけなかったんだ」

 

「さっきまでの間って……今からは禅君の攻撃が通らんって事?」

 

「いや、全く通らねーってワケじゃねえんだけどさ……何ていうか」

 

はやての疑問に答えたのは、守護騎士の中ではやてにもっとも懐いているヴィータだ。

彼女は、はやてにも判るように説明しようとするが、自分の考えを上手く言葉に纏めれないのか、二の句を告げられなかった。

次第に考えが纏まらないのがじれったくなってきたヴィータは、顔を赤くして恥ずかしそうに唸ってしまう。

そんなヴィータの様子を更に隣りで見ていたザフィーラだが、もどかしい気持ちになっているヴィータを哀れに思った様で助け舟を出す事にした。

 

「主。ヴィータが言いたいのは、タチバナはシグナムが油断を完全に無くす前に、動けなくなる程のダメージを与えるべきだった。という事です」

 

「そうそう!!それだそれ!!」

 

ザフィーラの補足にヴィータはドヤ顔で胸を張るが、ザフィーラはそんなヴィータにヤレヤレと首を振っている。

もう少し勉強しろ、と言いたい様だ。

 

「ふーん?でも、油断が無くなったからもうダメージを当てにくい、なんて少し考えすぎちゃうん?さっきから禅君、ビックリする様な攻撃ばっかりやで?それでシグナムが驚けば……」

 

「確かに主の仰りたい事は頷けます。ですが、タチバナのそのトリッキーな戦い方が、今のシグナムにダメージを与えにくくする要因の一つなのです」

 

「へ?え、え~っと?……どういう事なん、ザフィーラ?もうちょい判りやすく教えてぇな」

 

しかしザフィーラの言葉を聞いたはやてはますますワケが判らないという顔になり、もう少し詳しく教えて貰おうと聞き返す。

それは今の話しを聞いていたなのはやアルフ、ユーノも同じ様だ。

逆に戦いに慣れているヴォルケンリッターやリンディ、クロノといった面々はザフィーラの言葉の意味を理解している様で、そこまで不思議そうな顔ではなかった。

 

「はい。我はここ暫くタチバナの修行に付き合っていましたので、その観点から話しをさせて頂きます……まず、タチバナのバトルスタイルは先程申し上げた通り、実にトリッキーな動きや攻撃で相手を翻弄するモノです。これはよろしいでしょうか?」

 

ザフィーラの聞き返しに頷く聞きたいメンバー達。

その頷きを見届けてから、ザフィーラは更に言葉を続ける。

 

「そして、その戦い方の根幹は『相手から冷静な判断力を奪う』事にあります。相手が冷静さを失えば、自ずとミスをしたり、行動が単調になる事や注意散漫にも繋がります……その心の隙を突いて、相手の注意が回っていない箇所へ攻撃を集中させたり、相手を煽って過剰に怒りを誘う事も戦術になるのです」

 

「えーっと、それって……相手を馬鹿にしたり、怒らせて動きを単調なモノに制限しつつ、自分の戦術に嵌めるって言えば良いのかな?」

 

「あぁ、スクライアの言った事で間違いは無い。タチバナのバトルスタイルは、謂わば『相手を怒らせる事から始まる』と言っても過言では無いからな」

 

ザフィーラのその言葉で、ユーノ以外の気付かなかった子供組はハッとする。

思い返せば禅が最初に言ってた皮肉も、攻撃が決まった時のニヤついた笑みも、どれもこれもが相手の不快感を煽る様なモノだったことを。

更にあの『アンタは次に――と言う、だぜ』という予言じみた言葉すら、相手を怒らせてアクションを単調な物にしているのではないかとすら思える。

ある意味で一番恐ろしい戦い方だと、はやて達はこの時点でやっと気付いた。

もし自分が戦えば気付いた時には、いや恐らく気付かない内に、禅のやりやすい様に誘導されていたのではないか。

まさしく型に嵌ればどこまでも波に乗っていける『先の見えない戦法』であるという事に。

 

「ですから、タチバナの戦い方は1度術中に陥れば抜け出すのは非常に困難でしょう……しかし」

 

ここで言葉を切ったザフィーラは徐にモニターに視線を移し、他の全員もそれに従ってモニターを見た。

そのモニターに映るシグナムの表情は憤怒でも焦りでも傲慢でも無く、只々冷静に相手を観察するクール過ぎる表情だった。

 

「今のシグナムの様に油断を持たず、心に余裕を持って冷静に対処してくる相手とは滅法相性が悪い。それは『怒らせる、波に乗る』という最初の段階を潰してしまうからです」

 

そのザフィーラの言葉を最後に、ブリッジは沈黙に包まれてしまう。

確かにザフィーラの言う通り、今のシグナム相手に小細工を使う様な戦法が通じるとは誰もが思えなかった。

しかしそれだけでは終わらず、今度はヴィータまでもが指摘を飛ばす。

 

「それだけじゃねー。戦い方もそうだけど、何より一番不利なのは、アイツは『自由に空を飛べない』って事だ」

 

ヴィータのこの尤もな指摘に、今まで共に戦ってきたなのは達はまたもやハッとなってしまう。

禅は自分達と同じリンカーコアを使用する『魔導師』では無く、地球の人間の手で生み出された技術(ワザ)を使う『波紋使い』。

その波紋には、自由に空を飛び回る術は存在していないのだ。

禅が今まで空中を行き来していた時は、波紋を篭めたトランプを空中に固定して、その上を走るという動きに制限がある空中歩行術だった。

恐らく今のシグナム相手に空へ飛ばれたなら、波紋を篭めたトランプを空中に固定した瞬間を狙われてしまう。

この状況は正に詰め(チェック)という状況に近かった。

片やシグナムの勝利を疑わない者、そしてこの模擬戦の行方を固唾を飲んで見ている者。

 

 

 

 

 

 

「――――大丈夫」

 

 

 

 

 

そして――――。

 

 

 

 

 

 

「確かにゼンは今ちょっとだけ不利だけど……勝負は、まだ分からない」

 

禅の事を信じている者も居る。

何時に無く強い心が滲み出ているフェイトの言葉に、この場に居る誰もが目を向けた。

そして、そんな数多の視線が集中しても、フェイトはその視線を一切モニターからズラさなかった。

 

「それに、ゼンはまだ修業して身に付けた『技』を殆ど使って無いから……油断してたら、あっという間にビックリさせられちゃうよ?」

 

フェイトは何処か悪戯な微笑みを浮かべたまま、誰とも言わずに意味深な言葉を紡ぐ。

その誰に宛てられたか理解できない言葉を聞いて、ブリッジの全員が再びモニターに視線を向けていく。

モニターに映る禅は、圧倒的不利な状況にも関わらず、ニヤリとした悪戯小僧の様な笑みを浮かべていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……まるで動じないのだな……それとも、何かこの状況を引っくり返す手でも持っているのか?」

 

森林のド真ん中で対峙している俺を見たシグナムさんは眉に皺を寄せて、ニヤリと笑う俺と視線を交わす。

 

「あぁ。あるぜ?……橘家に伝わる伝統的な戦いの発想法がな」

 

「……」

 

俺達が言葉を交わしている間にも、レヴァンティンは空中で蛇の如く踊り続けて辺りの木をドンドン丸裸にしていく。

やれやれ、対策が見つからねえ以上、今はあの方法に頼るしか手はねえか。

俺の言葉を聞いたシグナムさんは、空中に漂わせていたレヴァンティンを軽く柄を動かす事で制御し、何時でも俺に切り込める体勢を作っていた。

そんなシグナムさんの体勢を見て、俺は足を中心に波紋を流して強化し、次の行動に備える。

 

 

 

――――そう、皆大好きあの戦法。

 

 

 

「俺にひとつだけ残された戦法……それは――――」

 

「でぁああッ!!!(ジャラララララララッ!!!)」

 

俺が全てを言い切る前に、シグナムさんはレヴァンティンを縦に振り下ろして、頭上から連結刃を唸らせる。

レヴァンティンの動きは柔軟且つ不規則でありながら、さっきの剣撃と変わらない速さで迫り落ちていた。

……しかし、そのレヴァンティンの縦薙ぎは、俺の真横僅か3センチばかりの場所に『ズレて』叩きこまれた。

 

「ッ!?」

 

この至近距離で、『何故か』剣を外してしまった事に驚愕するシグナムさんを他所に、俺は最後のフレーズを刻む。

 

「逃げるッ!!!(ダダダダダダダダダダダッ!!!)」

 

隣で叩き付けられた連結刃も、ポカンとした顔で呆けるシグナムさんも無視して、俺は背中を向けて戦場から逃げ出した。

それこそ脇目も振らず、ただひたすらに加速して森林の中へと隠れていく。

 

「(ふうぅー!?う、『上手くいって』良かったぜ!!何とかあの場を凌げる程度のモンだったが、今はとりあえず体勢を整える!!)」

 

何とか間一髪であの場を出し抜けた事に冷や汗を大量に掻きながらも、俺は心中でガッツポーズをした。

幾らあのレヴァンティンの連結刃がこの空間の木をバターみてえに斬るとしても、こんだけの数の木を丸裸にするまでは時間が掛かる。

その時間を有効利用してあの連結刃の特性を見抜けば、多少なりとも対策の取り様は見つかるだろう。

さあて、出来る限り離れてあのレヴァンティンを観察しつつ、作戦を練るとします――――。

 

 

 

『――――飛竜』

 

 

 

その時、遥か後ろに居るシグナムさんの凛とした声が、静かに俺の耳元に染み入ってきた。

それと同時に、タマキンが縮み上がる程の『威圧感』が俺の全身を襲ってくる。

くそッ!!?ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!!?

多分、人間の危険本能みたいなモンだったんだろう。

俺はその嫌に激しく頭の中に響き渡る警報に従って、全力で明後日の方向に飛び込んだ。

 

 

 

――――そして、飛び込みの体勢のまま、後ろの方向へ視線を向ければ。

 

 

 

『一閃ッ!!!(ドギャァァアアアアアアアアアッ!!!)』

 

強烈な破壊音と共に、眩いばかりの光の奔流が、俺のさっきまで居た場所を大きく削りとって蹂躙してしまう。

目が眩みそうな光景の中で、その光の正体がシグナムさんからの『砲撃魔法』だと気付くのに時間は全く必要なかった。

ま、まさか俺の居た場所まで一直線に『吹き飛ばす』だと!?は、発想のスケールで負け――――ッ!?

その暴力の塊であるシグナムさんの砲撃は更に威力を増し、光の端に逸れていた俺は、その力の流れに巻き込まれて吹き飛ばされた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……外した、か」

 

手元に持つレヴァンティンの柄から伝わる振動に手応えを感じなかったシグナムは、用心深く今自分が吹き飛ばした森の一角を見ていた。

そこには土煙が立ち篭め、一見しただけでは森の様子は全く分からない。

 

『Es ist damit, ob es ein guter Plan ist, einen Schaden zu schlagen, vor das Verstecken wieder, obwohl es kein direkter Schlag ist.(直撃ではありませんが、ダメージはあります。再び隠れられる前に叩くのが上策かと) 』

 

だが、そこをカバーするのが彼等魔導師が使うデバイスの役目だ。

シグナムの愛機であるレヴァンティンもその例に漏れず、立ち昇る土煙の中の生命反応が強く反応している事から、レヴァンティンは禅が気絶していない事を主に進言した。

この模擬戦の勝敗は殺すか殺されるかではなく、相手の敗北宣言か気絶によって決まる。

よって、まだ戦いは終わっていないのだ。

 

「うむ、お前の言う通りだな……また奴に隠れられたら、それこそ手が着けられん」

 

シグナムは永い時を共に戦ってきた相棒の言葉に相槌を返すと、シュランゲフォルムのレヴァンティンを基本形態であるシュベルトフォルムへと戻す。

これは戦いは終わったからと気を抜いているのでは無く、これから森へ降りて禅を叩くなら、シュランゲフォルムでは不利になると考えての行動だった。

何故ならシュランゲフォルムは、連結刃と成る事で刀身での受けが困難になるため、防御能力が大幅に低下するからだ。

圧倒的に伸びたリーチは咄嗟の奇襲や死角からの攻撃に弱く、また受けに回る事が出来ない。

シュベルトフォルムが近接での一能特化型の形態なら、シュランゲフォルムは一気呵成に攻め込むための形態と言える。

先ほどと同じ様に西洋の片刃剣に戻ったレヴァンティンを油断なく構えると、シグナムはゆっくりとした速度で地を滑空し始めた。

 

「(奴に逃げられる前に斬り込んだレヴァンティンの斬り込みは、何故かは分からんが僅かに逸れた……目の前に居た筈なのに目測を『ズラされた』のか?)」

 

シグナムは吹き飛ばした森の辺りから周りを見渡しながら、先ほどの自分の攻撃が外れた理由を考えていた。

今まであの距離に居た敵を討ち逃した事など一度も無かったシグナムとしては、何故あの距離で外してしまったのかがとても気に掛かっている。

 

「(負傷の所為で見誤った?いや、それは自惚れだ……間違い無く、あの時タチバナは、『何か』をして私の目測をズラしたのだろう)」

 

シグナムは自分の感覚が鈍っただとか、怪我の所為で外れたという考えを直ぐに捨て去った。

それはひとえに、『タチバナなら何をしでかしてもおかしくはない』という先程までの戦いで負った負傷から学んだ結果だ。

普段の彼女なら嫌がる考え方だが、禅が相手ではそんな事を言ってられる余裕も無いと感じている。

それだけ、禅の攻撃は何処から、どんな方法で何時襲ってくるのか検討が付かないとも言える。

そんな事を考えながらも、周囲の警戒を怠らずに辺りを見渡すシグナムだったが……。

 

 

 

――――シーン。

 

 

 

何処からも、襲い掛かってくる気配が無かった。

だが、レヴァンティンから送られてくる大まかな生命反応の位置は、間違い無くこの近辺だ。

だからこそシグナムは、今居る位置から動かずに辺りの警戒を怠らない。

 

「……」

 

無言のまま感覚を最大限に研ぎ澄まし、辺りの気配を探るが、それでも禅の気配は感じ取れずにいる。

まさしく膠着状態に陥ったのだ。

この動きが取れない状況に、シグナムの心に少しづつ焦る気持ちが募り始める。

 

「……マズイな(このまま奴が時間を稼げば稼ぐ程、奴は私を追い詰める作戦を考えだすだろう……仕掛けず、場所を悟られない様に何処かで此方を伺っている……女を焦らせて平然と観察するとは、したたかな男だ)」

 

その焦る気持ちを何とか抑えつつも、シグナムの視線は注意深く辺りを見渡す事を止めなかった。

そうして膠着の形を取り始めてから早くも3分の時間が過ぎていく。

 

「……(今の様な睨み合いが始まれば、奴は先ほどの飛竜一閃で負わされたダメージをゆっくりと時間を掛けて回復すればいいワケだ……奴に『したたかさプラス冷静な態度』を感じる……)」

 

正しくこの状況に至るまで、禅の考えた作戦なんじゃ無いかと疑う程、状況はシグナムにとって不利になる。

シグナムの持つ遠・中距離攻撃は先程の『飛竜一閃』の他、最大威力を誇るボーゲンフォルムから撃ちだす『シュツルムファルケン』の2つしか無い。

ドチラも魔力消費量がバカにならない上に隙が大きいという弱点も存在する。

対して、禅の使う波紋は、無機物から有機物に至るまで幅広い応用能力を持つ為、どんな攻撃が来るか予想が着かない。

それがシグナムの心を、余計に焦らす。

 

「……仕方無い(賭けという無謀な行いは、戦いにおいて唾棄すべき事だが……このままジッとしていても、状況は私に有利にならん……)」

 

そして、遂に我慢の限界を超えたシグナムは勝負に出た。

今居る場所から身体を動かさず、愛機であるレヴァンティンに魔力を送り込んで、術式を起動させていく。

それと同時に、魔力カートリッジシステムから一発、薬莢を排出させる事も行った。

そのまま彼女は、実行された術式である炎の魔力をレヴァンティンに帯びさせ、剣を思いっ切り振りかぶった。

 

「(奴自身が出てこないと言うのなら、この辺りの木を一掃して炙り出すまでッ!!)スゥ……『紫電、一っせ』――――ッ!!」

 

そして遂に、その炎に包まれた魔剣が、周りの光景を焦土に変えようと振られた――――。

 

 

 

ドバォオオンッ!!!

 

 

 

刹那、シグナムの左斜め後ろから『何か』を発射された音が聞こえてきた。

 

「ッ!!?レヴァンティンッ!!!」

 

『Panzer Geist!!』

 

それを耳で確認した瞬間、シグナムはレヴァンティンにもう一つ待機させておいたプロセスを実行し、その魔法を腰に差していた『鞘』に送り込む。

新たに実行された魔法は紫色の光を放出しながら鞘に纏わり、鞘に高い『防御効果』を施す。

それこそ、シグナムの使う魔法の中で最も強い防御魔法、パンツァーガイストだ。

このパンツァーガイストは本来、術者の周りに展開される陣形型の防御魔法だが、彼女はソレを刀身と同じ硬度を持つレヴァンティンの鞘に纏わせる事で展開中の移動を可能にした。

 

「ハァァアアアアアッ!!!」

 

正に烈火、その表現を体現するかの如く、シグナムは腰に差していた鞘を片手で抜き、振り返り様に逆手持ちのまま自身に迫っているであろう飛来物を弾こうと動く。

それは正に、迫り来る飛来物と迎え撃つシグナムの剣速、ドチラが速いかの純粋な勝負になった。

 

「ぉおおおおおおおおおッ!!!(ブォンッ!!!)」

 

ガギィイイインッ!!!

 

そして、シグナムは『勝った』。

一瞬の交差地点で振りぬかれた強化状態の鞘は、迫る飛来物を明後日の方向に弾き飛ばしたのだ。

だが、シグナムはその弾き飛ばした飛来物の正体をチラッとだけ見ると、直ぐにその物体が発射された地点に飛び込んだ。

弾き飛ばした物体は、『コーラの栓』だったのだ。

彼女はソレを視認した瞬間、もはやコンマ数秒の休憩も取らずに身体を動かしていく。

 

「(飛来したのは飲み物の栓ッ!!なら、発射された位置に、タチバナは確実に居るッ!!賭けは私の勝ち!!そして……ッ!!)」

 

シグナムは乱雑に棲息する木の幹部分を見て、そこに片手で構えていたレヴァンティンを振るう体勢に入る。

既にレヴァンティンには先程と同じ炎が纏わっており、何時でもこのシュベルトフォルムから繰り出す必殺技『紫電一閃』が放てる状態だ。

 

 

 

「位置は分かるッ!!そこだタチバナァーーーーーーーッ!!!(ブォオンッ!!!)」

 

 

 

シグナムは気合の雄叫びを挙げたままレヴァンティンを振り下ろし、木の陰に居る禅を討とうと迫る。

 

 

 

「――――――――――――ハッ!!?」

 

 

 

…………だが、彼女の剣が振り下ろされた先には、禅は『居なかった』。

しかし、シグナムを襲った飛来物、コーラの栓は確実にこの地点から発射されている。

それは飛来したコーラの栓の角度、すり抜けて来た木の配置角度の逆算では間違いないのだ。

 

「なッ!?そ、そんなバカなッ!?」

 

だからこそ、シグナムは盛大に焦る。

位置を間違えたからとか計算を間違えたから等という猜疑心が生まれたからでは無い。

この地点に禅が居ない事こそが、シグナムの心を揺さぶる。

 

「この場から以外では『撃てない』んだッ!?な、なのにココに居ないという事は……」

 

禅がココに居ない=『禅の攻撃はまだ続いている』。

その確定された事実と、その謎が分からない事が一番重要であり、シグナムが早急に解かねばならない『謎』であった。

そして、シグナムはもう一つ、『何時始まるか分からない禅の攻撃』に備える必要もあった。

 

「くッ!?(ス、スグにここを離れなくて……こ、これは……ッ!?)」

 

そして、このままこの場所に留まる事は危険だと長年の戦闘経験から来る感が、シグナムにこの場所からの退避を訴える。

その感覚に従って空へ逃れようとし、軽く辺りを見渡している時に、ソレはシグナムの目に留まった。

 

「(コーラのボトル……ッ!?そ、そして、そのボトルの先に『結び付けられている』のはッ!?)」

 

ソレは、地面に斜めに埋められたコーラのボトル……そして――――

 

 

 

――――そのボトルの先に結び付けられた、『波紋を流す糸』だった。

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛

 

そして、その糸から時折電気の様に走っているのは、青緑(ターコイズブルー)に輝く光の迸り。

正に驚愕といった心境のシグナムは、その糸が伸びている先を視線で辿り――――。

 

「ゼェー……ゼェー……やっと……ハァ……やっとこさ……捕まえたぜぇ?」

 

木の幹に腰を預けたまま、体中の至る所に擦り傷を負いポタポタと血の雫を流している禅を、その眼で発見した。

シグナムは負傷しながらも力強い瞳で自分を睨みつける禅に驚きから冷や汗が流れるも、直ぐに振り下ろさず構えていたレヴァンティンの切っ先を禅に突き付けた。

 

「捕まえた、だと?その糸の事を言っているのか?……なら私は触れてもいないし、むしろ捕まえられたのはお前の方だぞ」

 

「……ハァ……ハァ……」

 

既に先ほど掻いた冷や汗は引いたシグナムは、冷静に目の前で息を荒げている禅に視線を送る。

地面に腰を降ろしている禅の手に握られているのは、すぐ近くのコーラボトルに結ばれた糸のみで他には何も無い。

つまり禅は、少なくとも反撃できる体勢では無いのだ。

 

「その疲れきった身体では、コートから武器を取る事にさえ時間が掛かる……どう足掻こうとも、私の剣がお前を捉える方が速い……私の勝ちだ」

 

そして、彼女はその言葉を禅に突きつけると共に、最後の一撃を加えんと歩み出す。

今度こそこの『好敵手』に、自分の勝利を刻み込まんが為に。

 

 

 

 

 

――――この時、もしシグナムの傍に主であるはやてが居たなら、シグナムにこう言ったであろう。

 

 

 

「アカン、それフラグや」――――と。

 

 

己の勝ちを確信して歩み寄ろうとするシグナムだったが、禅の様子がおかしい事に気付いた。

 

「……へ……へへへっ」

 

何と、禅は笑っていたのだ。

現状に諦めた乾いた笑みとは違う……腕を組み、目を閉じたまま余裕のある笑みを見せていたのだ。

さすがにこの禅の笑い方はおかしいと感じたシグナムは、歩み寄ろうとしていた足を止めて後ろへ下がってしまう。

それこそ、先ほどの『波紋コーラ』を不意打ちで撃たれても、直ぐに対応できる距離を取る。

 

「…………何がおかしい?諦めた様でも無い……何だ?その余裕を思わせる笑みは?」

 

さすがにいきなり笑われた事に訝しげな表情を浮かべて尋ねるシグナムだったが、それこそが『間違い』だった。

その後退り、その場に留まらせる事こそが、禅の『狙い』だとも知らず……。

 

「おかしい?おかしいって?……あのなぁ……こーやって、腕を組んで目を閉じる笑いってのはよぉ……『勝利の笑み』ってヤツだぜ?」

 

「……何?」

 

シグナムからすれば余りにも異質なその答えに、彼女は声に険を宿して問い返した。

しかしそんな声を聞いても、禅は只笑いを深めるだけで、シグナムはますます意味が分からなくなってしまう。

 

「わからねぇか、シグナムさん?……おかしいとは思わなかったのか?さっきアンタが連結刃で俺を攻撃した時、『何で俺に攻撃が当たらなかった』とかをさぁ?」

 

「ッ!!?」

 

「へへっ。教えてやるよ……ありゃあな。俺の波紋で作った『シャボン』の膜が、光を屈折させて俺とアンタの間に『天然のレンズ』を作ってたからなんだよ」

 

「レンズだと?……何故、この場でそれを教え――――」

 

まるで「悪戯成功」といった様子で楽しそうに語る禅にシグナムが問い詰めようとした時――――。

 

 

 

ボワァアアアアン。

 

「なっ!?」

 

「おっと、タイムアップの様だぜ?」

 

目の前で起こった奇妙な現象に、シグナムは目を見開いて驚愕してしまう。

何と目の前で会話をしていた筈の禅の身体が『グニャグニャ』とボヤけた像に変化してしまった。

しかし、それに気付いた時にはもう手遅れな状況に追い込まれていた。

 

「こ、これはッ!!?」

 

シグナムが追い込まれた状況――――それはシグナムの周りを取り囲む様にして漂っている『無数のシャボン玉』が作った包囲網だった。

そう、禅のお気に入りの技、『シャボン・ランチャー』とその応用技、『シャボン・レンズ』である。

そのおびただしい数のシャボン玉一つ一つに、相手が死なない程度の波紋が籠められているのだ。

 

「俺が波紋コーラを撃ったのも、それを糸で発射したのも、俺が木の上から動けないからだと思ったっしょ?」

 

既に輪郭の面影すら無い禅の像は、そのまま形を変えつつシグナムに話を続けていた。

 

「だけどそれは間違い。俺の目的は、シグナムさんをそのシャボン群生地帯に誘い込んで、尚且つ留める事だったっつーワケっすよぉ」

 

そして、遂に全ての輪郭が消えると、その先の景色が鮮明に映りだし――――。

 

「そこが一番シャボン・ランチャーを纏めて吹き飛ばすのに最適な場所だったからこそ、俺は敢えてシグナムさんに姿を晒す方法を取った……つってもまぁ、ダルいから動きたくなかったのは当たってるんスけどね」

 

「くうぅッ!!?……さ、策士めが……ッ!?己の油断が招いた結果とはいえ、これ程の辛酸を舐めさせられる等……ッ!!!」

 

先ほど禅が居た場所より、2本先の木に腰掛けている禅の姿がソコにはあった。

だが、シグナムは禅に斬り掛かろうと動こうにも動けない。

既にシャボンは彼女の上下左右あらゆる場所を取り囲み、少しでも動けば連鎖的にシャボン・ランチャーの餌食になってしまうからだ。

 

 

 

――――そして、動けないシグナムを見ていた禅はゆっくりとした動作で立ち上がり。

 

 

 

「まっ、俺からの情熱(パッション)が篭ったそのシャボン玉、全部受け取って下さいな♪(パチッ)」

 

 

 

(バグシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!)

 

 

 

指パッチン一つで、全てのシャボン・ランチャーを爆破させた。

その光景を見ていた禅は、徐に後頭部をガリガリと掻き毟りながら笑顔を見せ……。

 

 

 

「ついでにエラソーな事言わせてもらうならよぉ、シグナムさん――――相手が勝ち誇った時、既にソイツは敗北しているんだぜ?」

 

 

 

堂々と、決めの台詞とポーズを決めた。

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 


 
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