No.587481

真・恋姫†無双~家族のために~#24汜水関の悪夢

九条さん

あんまり怖く書けなかった……。

文章量が平均の2倍になっておりますので、ご注意を

2013-06-15 13:33:44 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2237   閲覧ユーザー数:1997

 汜水関に到着した反董卓連合は公孫賛軍を先行させ、砦を偵察に向かわせた。

 布陣は、前曲を公孫賛軍、それを補佐するようにして劉備軍、右翼に袁術率いる袁術・孫堅軍、左翼に曹操軍、少し離れた場所に遊撃として馬超軍、その後方、輜重隊とほぼ同列に本隊である袁紹軍という形だった。

 劉備と公孫賛は旧知の仲らしく、連合には珍しい連携を取ろうとしている。

 

 公孫賛は先行して得た情報を全面開示。内容は、汜水関を守るは猛将華雄と神速の張遼、虎牢関に飛将軍呂布、洛陽に董卓がいるとのこと。

 これについては作戦通りといっておこう。ただし、少し足らない情報がある。

 汜水関にいる部隊は本来洛陽を警備していた俺の部隊だ。こと防衛に関しては董卓軍一を誇るといっても過言ではない。それに虎牢関には呂布のほかに、呂布付きの軍師陳宮、俺の従者である徐庶が控えている。二人は無名といっても変わりないから仕方ないんだけどな。

 

 公孫賛軍が偵察から戻り陣を整えている間に、劉備軍が最前線に進み、砦に張り付いた。

 汜水関は守りやすく攻めにくい、篭城されればひとたまりもない砦だ。守る二人には絶対に打って出るなと厳命したが、華雄がどれだけ耐えられるか……それが気がかりだな。根っからの武人の気質が強すぎ、そこを突かれると張遼でも抑え切れないと思う……。

 

 

 劉備軍が動いたのはそれから二刻経ったときだ。

 関羽、張飛が先行し砦に向かい何事かを叫び、関羽が矢を放ちそのまま後退してくる。すると砦から怒号のようなものが響き……開門した。

 

 出てきたのは華雄、そこから遅れるようにして張遼も飛び出してくる。

 華雄はそのまま劉備軍に突っ込んでいき、張遼は華雄に張り付こうとする者を片っ端から倒していた。

 どう見ても挑発に乗ったんだよなあ……予想の範囲内とはいえ二刻しか持たないとか……。とはいえ、このままこちらにいても情報は手に入りそうにもないし、頃合いだったかな。

 ん? 劉備軍はこのまま下がるのか? ……ああ、袁紹軍に一当てしてやり返すつもりなのか。なら俺は……。

 劉備軍の考えを読み取った深は混戦へと身を投じる。味方には気付かれぬように。

 

 

 

 

「華雄! どあほぉ! はよ砦に戻らんかい!」

 

「止めるな張遼! 武人の誇りを汚されたのだ、黙っていられるか!」

 

 ここは董卓軍の最前線、二人の将軍は口々に叫びあいながらも迫る兵をなぎ倒していく。

 

「ウチも武人やその気持ちは分かるで! でもな、軍師達……深の作戦を守らんわけにはいかんやろ!」

 

「ならば関羽を討ち取った上で戻る! それまで口を出すな!」

 

 これだけの説得をしても華雄は止まらない。張遼はこれ以上は自分達の被害も甚大になると思い、華雄を止めることをやめた。

 

「こんのぉイノシシ武者が! 誰かおるか!」

 

「はっ」

 

「ウチらは汜水関に戻るでぇ! 華雄のどあほうに付き合っていたらウチらも全滅してまう」

 

 そう伝令に伝え、自身も砦へと引き返していく。華雄がここで死のうと砦は守ると決意を新たにしながら……。

 

 

 去っていく張遼に一度振り返り、再び前を向いた華雄の目には関羽しか映っていなかった。

 

「華雄隊! ここからは私のわがままに付き合うことになる! 今ならばまだ張遼のあとを付いて戻ることもできる、去りたくば去れ!」

 

 華雄は自身の兵達を見ながら言い放った。だが去ろうとする者はおらず、副官が皆の心を代行するようにして言葉をかける。

 

「……将軍、自分達は将軍に付いてきたんです。今さら去ることをするわけがないじゃないですか」

 

「……そうか。……お前達の命、私が預かる! 死して共に果てるぞ!」

 

 

 兵と将軍、全てが一致団結し突貫をしかける。その勢いは退却していく劉備軍を追い立て、そのまま袁紹軍へと突っ込んでいった。

 

 張遼は下がったか……華雄を止められなかったということか。ほんと、仕事が増えて大変だよ……。

 俺は混戦の中を駆け抜け、袁紹軍の前曲、華雄の最前線へとやってきた。華雄はすでに視界に捉えた。近くに将軍はいないようだし連れ戻すなら今しかないか。

 

 

「華雄!」

 

「……この声、黒繞か!?」

 

 華雄が声に気付きこちらを振り向こうとした瞬間を狙い、俺は鳩尾に向け抜き手を放つ。

 

「ぐっ……なぜ……」

 

「作戦を崩壊させる気か。しばらく眠ってろ」

 

 そのまま気絶する華雄を片手で持ち上げ、彼女の乗っていた馬に乗せる。その後ろに自らも跨り、華雄の兵達に号令をかける。

 

「華雄隊の者達よ! 華雄将軍は黒繞が責任を持って汜水関へと連れ戻す! 将軍が生き兵達が死ぬことは許されん! 各自、死に物狂いで俺のあとに続け!!」

 

 突如現れた男により華雄将軍は一撃で倒され、半ば呆然としていた兵達はその号令により目を覚まし、攻めていた道を引き返していく。

 男は巧みな馬術で包囲が完了していない穴を通り、兵達もそれに追随する形で汜水関へと帰還していく。

 劉備軍はその鮮やかな手際を見過ごすしかなく、結果華雄隊の損害は最小限に抑えられることとなった。

 

 

 

 

 孫堅は華雄の撤退劇を遠くから見つめ、楽しそうに目を細めていた。

 

「相変わらず面白いわね、深。あの混戦から華雄を脱出させ、兵達の損害も抑える……あなたはどこまで羽ばたくのかしらね」

 

 その呟きは誰にも聞こえない。だが、孫策だけは孫堅の雰囲気が変わったことを感じ、何かが起きると胸を躍らせていた。

 

 

 

 

 曹操の目は袁紹軍から駆け抜けていく一騎の馬に注がれていた。

 

「彼……なかなかやるわね。突貫により混乱する戦場、張遼が引き返したことにより遅れた包囲網」

 

 曹操の後ろに控えていた荀彧が補足する。

 

「その二つが合わさる、絶好の機に飛び込む先見の明。猛将華雄を一撃で昏倒させる実力……認めたくはありませんが、あのブ男は相当の手練れです」

 

 頭の中に一人の男が浮かび上がるが、それを頭を振ることで隅へと追いやった。

 

「黒い外套の男……まさかね」

 

 曹操の呟きを聞き逃さなかった夏侯惇が問いかける。

 

「華琳様、あの男を知っているのですか?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

「は、はぁ」

 

 明らかにはぐらかした感じであったが、主君の言うことを疑うわけにもいかず、曖昧に返事をする夏侯惇。

 曹操の頭の中では、このまま反董卓連合にいても大丈夫なのか……そんな疑問が生じ始めていた。

 

 

 

 

 汜水関に戻った深は華雄の回復を待つ間、色々と報告をまとめていた。主に先程の損害についてだが。

 そんな深へ、申し訳なさそうにした張遼--霞が近付いてくる。

 

「な、なぁ深。ちょっとええか?」

 

「んー? なんだ?」

 

 深の一言一言にびくびくする霞。深はそんな霞の姿を見て思いっきり笑ってやった。

 

「くくくっ……はっはっはっは!」

 

「な、なんで笑うねん! これでもなぁ……」

 

「いやいや、ごめん悪かったよ。でも俺は霞を怒るつもりはないぞ?」

 

 そう、なぜ霞がこれだけびくびくしているのかというと、先程華雄を止められなかった非を認め、作戦に支障が出てしまったのでは……だとしたら怒られるのではないかと怯えていたのだ。

 

「ほ、ほんまか?」

 

 と、頭に手をやりながら上目使いでこちらを見上げる霞。

 か、かわいい……なんかこう撫でたくなるような、守ってあげたくなるような……戦場とは全く違う雰囲気の霞。

 

「あ、ああ本当だ。まあ華雄には罰を与えるけどな……ふふふっ」

 

 その黒い笑顔を見て、また身体を竦ませる霞。

 そこへ本命の華雄が副官に連れられてこちらへ来たのを見つけると、霞は木の陰に隠れてしまった。

 

 

「やあ華雄。身体はもう大丈夫?」

 

「あ、ああ。わずかに痛みは残っているが、それもじきに治まるだろう」

 

 内心怒られると思っていた華雄は、身体を心配する深に戸惑っていた。だがそれも束の間のことで……。

 

「それは良かった。……さて、華雄。何か言うことがあるんじゃないか?」

 

「ぅっ……えっとな……それは、だな……」

 

 この私が気圧されるなど……しかし、なんだあの笑顔は! う、後ろになにかが……なんだか寒気までしてきたぞ……。

 

 そこへさらに追い討ちをかける深。

 

「ふ~ん、何も言うことはないんだね?」

 

「ひっ! す、すまなかった!」

 

 完全に気圧されました。

 

「何が悪かったのかなあ?」

 

「わ、私が敵の挑発に乗って……張遼の静止も聞かず飛び出したことです!」

 

 なぜか敬語になる始末。

 ちなみに木の陰にいた張遼は膝を抱え丸くなっている。

 

「……やっぱり分かってないな華雄」

 

 やれやれと、溜息を吐く深。

 その様子を見ながらも華雄はなんのことだか理解できていないようだ。

 

「俺は打って出たことを怒っているわけじゃないんだよ。……なあ華雄、今回だけで何人の被害が出たか……知ってるか?」

 

「!! ……そ、それは」

 

 その一言で理解した。つまり深は打って出たことにより、出さなくてもいい被害を出したことに怒っているのだ。今回、負傷いた者はいるが、圧倒的に死んだ者が多かった。

 

「お前はな……家族を死なせたんだ! それが分かったのなら、今も負傷して苦しんでいる兵達を労りに行け」

 

 それに対して何も言い返せなかった華雄は、すまん! と断り飛び出していった。

 華雄を見届けた深は作業に戻る。それは今回亡くなった兵達の名簿であった。すでに判らなくなっている者もいるが、深は出来るだけ兵達から情報を集め、ほぼ正確に記帳していた。家族にこの事を伝えるのは将の務めだというかのように……。

 

 

 

 

 

 華雄は負傷した兵達が集められている場所にいた。

 華雄は一人一人に声を掛け、己の愚行を謝罪していく。しかし彼女の隊の者達は皆、謝罪を遮り口をそろえてこう言う。

 

「俺達は自分の意思で将軍に付いて行ったんです。それで怪我をしようと死のうと、将軍の責にはならんでしょう」

 

 ……と。それを聞くたびに胸を締め付けられる思いだったが、それでも華雄は声を掛けていく。

 

 

 それらが全て終えたとき、深は華雄のもとに近付いた。

 

「……」

 

 華雄が話し始めることを促すように、深は何も言わない。

 しばらくすると華雄は口を開いた。

 

「私は……私のこの愚行を忘れはしない。私のために散って逝った者達を忘れない。私を生かした者達のため、私は……私はこの戦を生き残るぞ……」

 

「ああ、それでいい。お前は生き残らなくちゃいけない……家族のためにもな」

 

 二人は砦の外--散っていった者達がいる方向を向き黙祷を捧げた……。

 

 

 

 

 

 華雄、張遼が砦に戻ってからの汜水関は、まさに難攻不落の砦と化していた。

 城門に近付こうとすると城壁から岩を落とされ、城壁へ弓を射れば盾を持った部隊に防がれる。

 攻城兵器も近付けば岩に押しつぶされる恐れがあるため前線には出せず……劉備、孫堅、曹操の三部隊のみで行われる攻略戦は、早くも瓦解しかけていた。

 三部隊は結託し袁家の二人を煽ることにする。策は成り、まんまと前線に袁家の二人を呼び寄せることに成功した。

 それは、汜水関の戦いが始まって五日目のことだった。

 

 

「深~! なんや、金ぴかな鎧のやつらが前にでてきたんやけどー」

 

「金ぴか? ……袁紹か?」

 

「え~とな、金髪くるくると、似た感じのちっこいのがおるでー」

 

「それは袁紹と袁術だな。そろそろ次の作戦に移ろうか……」

 

 大して袁家に脅威を感じていない深は、指示を出そうと動こうとした。

 そこへ、何かの書簡を持った兵士が近付いてくる。

 それが深に届けられずにいれば、袁紹達は悪夢を見なくて済んだのかもしれない。だが、残酷にもそれは深に届けられ、逆鱗に触れることとなる……。

 

 

 書簡に目を通した深。突如として黙った深に違和感を感じた霞は、深に声を掛けた。

 

「どしたん……書簡に何か書いてあったんか? ……っ!!」

 

 覗き込んだ深の表情を見た途端、霞は物凄い勢いで距離を取った。

 感じたのは禍々しい殺気。見ただけで射殺せるような殺気だった。

 

「なんや……深、何が書いてあったんや……」

 

 喉がカラカラになるほど緊張しながらも、なんとか声を出す霞。

 その声が聞こえていないのか、深は全く動かない。そこへ異常を感じた華雄がやってくる。

 

「張遼? それに黒繞も、どうしたと……っ!」

 

 漂う殺気に、つい金剛爆斧に手を伸ばす華雄。

 

「これは……黒繞が放っているのか? 張遼、どういうことだ?」

 

「わからへん……でも、あの書簡が原因なんは確かや。問題は何が書いとったのか……」

 

 二人が書簡に目を向けた瞬間、深が口を開いた。

 

「……霞、華雄。打って出るぞ……」

 

 その言葉に今度こそ二人は固まった。だが、霞はすぐに回復し抗議する。

 

「何ゆうてんねん! あんたまで華雄と同じことするっちゅーんか!?」

 

「……ならこの書簡を見ろ」

 

 そして渡される書簡に目を通す霞と華雄。

 そこに書かれていたのは、董卓を言葉の限りに罵倒していた。

 董卓--月……ここにいる者は全て、この少女を助けるために立ち上がった。その少女は謂れもない噂で貶され罵倒され命を脅かされた。それがいままた、ご丁寧に袁両家の印の押された書簡により行われた。

 見終えた霞は歯軋りをし、華雄は無言で城門へと向かっている。

 

「異論はない……な。これは抑えられない……抑えてはいけない……」

 

 だが、深は冷静にもなっていた。彼は城壁の兵に合図のことを伝えると、霞・華雄と共に城門へと赴く。瞳はまだ赤く染まってはいない……。

 

 三人の将軍から放たれる気迫は周囲の兵達を巻き込み、動ける者は皆出撃の準備を始めていた。

 家族への冒涜。最もしてはならないことを、袁家の二人は犯してしまったのである……。

 

 

 

 

 

 

 異変に気付いたのは孫堅だった。彼女はすぐに袁術の部隊より離れ、後退する指示をだしていく。

 周瑜が不審に思い問いかけると「嫌な予感がする」といわれ、素直に指示に従った。

 

 それに呼応したのが曹操軍である。客将ではあるものの孫堅のことを危険視していた曹操は、彼女が軍を下げていることをいち早く察知し、何かあるのではないかと自身の部隊を後退させた。

 

 これにより袁紹・袁術の部隊は前線で孤立。劉備軍は損害の多さから輜重隊のそばまで下がっていたが、孫堅・曹操軍の後退にどこか異変を感じ取っていた。

 

 

 

 袁紹・袁術は董卓の罵倒を書き記した書簡を矢に包み放ち、汜水関の中に落ちるのを確認すると部隊へと引き返していた。

 この策は初日に関羽・張飛が行ったものと同じである。諸葛亮が輜重隊の近くに下がるため、敵をおびき出すためにはと、袁紹に献策したものだからだ。しかし、書かれている内容は袁家仕様になっており、それが直後の悪夢を生むことになるとは誰も想像していなかった。

 

 

「こんなことで本当に敵が打って出てきますの?」

 

 疑問をぶつける袁紹に、顔良がおずおずと答える。

 

「でも、諸葛亮さんが初日はそれで出てきたと言ってますし……」

 

「劉備さん……でしたっけ? そんなどこの馬の骨とも知れない方達の策などたかがしれてますわ! おーっほっほっほ! これででてこないようでしたら、しばらく後ろでのんびりできますわね」

 

 いつもの高笑いを聞きながらも前方を確認していた文醜は、城門が開かれようとしているのに気付き、報告する。

 

「麗羽さまー。なんか城門が開くみたいですよー」

 

「所詮猪は猪なのでしょう。皆さん! 雄雄しく、勇ましく、華麗に返り討ちにしてしまいなさい!」

 

 その号令とともに袁紹軍は飛び出していく。呼応するように……いや、手柄を横取りさせまいとするように袁術軍も進軍を始める。合計すれば十万を超える軍勢が、汜水関より打って出た五千にも満たない軍へと迫っていった。

 

 

 

 

 時は少し遡り、汜水関の城門前。

 

 深は馬上のまま兵達のほうを向き、槍を持ち上げ声を張り上げる。

 

「もうすでに皆も知っていると思うが、袁両家より書簡が放たれた! 謂れのない虚言に踊らされ檄文を放ち、それだけでは飽き足らず、我らが主である董卓様をも貶め罵倒してきたのだ! この所業、誰が許せようか……否、我らが許せるはずがない!! これより我らは憎き袁家を叩く! だが! 死ぬことはまかりならん! 兵長共は撤退の合図、火矢を見逃すな! 死して報いることは許さぬ! 生き延び、連合を食い破るのだ!!」

 

 それは怒号、叫び……砦が揺れるほどの大号令であった。

 

「開門せよ!!」

 

 ぎぎぎ、と音を立て開かれる門。それが開ききった時、董卓軍は唸りを上げ連合軍へと突撃していった。

 

 

 

「華雄! 霞! 二人は袁術を頼む!」

 

「応っ!」

 

「任せときぃ!」

 

 馬上で頷いた二人は袁術の方向へ向かい、先陣を切っていく。

 

「邪魔する者は叩き潰す! 死にたくなければ道を開けろ!」

 

「神速とはウチのことやぁ! 袁術の雑魚ども、かかってきぃや!」

 

 深も速度を上げ袁紹軍と激突する。

 

「邪魔する者、投降する者、逃げる者すべてを叩き切る! 恐れぬ者はかかって来い!!」

 

 華雄は愛用の金剛爆斧で敵を薙ぎ払い、常に二、三人まとめて切り倒す。

 霞は神速の突きをもって近寄らせず、また馬を器用に操り一撃離脱の戦法を取っていた。

 されど歩みは止まることを知らず、刻一刻と迫る二人を止められないと、袁術軍から逃げ出すものがでる始末であった。

 

 最も悲惨であったのは袁紹軍である。

 深は宣告通り刃向かう者には短刀で屠り、逃げ出す者には槍を突き刺し、降伏する者は仲間の兵達に始末させた。

 深、霞、華雄の三人により、十万の大軍団は当初の勢いを失い、兵達の士気など崩壊し立て直せる見込みもなく、命令系統もむちゃくちゃにされていた。

 

「この先は……」

 

「通らせないぜ!」

 

 袁紹軍の中から深の前に出てきた者は、大槌と大剣を持っていた。

 

「……誰だ?」

 

 一騎打ちを挑むように躍り出た二人に問いかける深。

 

「アタイは文醜」

 

 ……と大剣を持ったほうが応えると、

 

「そして私が顔良です」

 

 続けざまに大槌を持ったほうも応えた。

 

「袁紹の二枚看板か……悪いがあんたらの相手をしている暇はないんだが」

 

 心底めんどくさそうに言い放つ深に、文醜は激昂する。

 

「なんだとぉ! 名乗りもあげないで偉そうだな。名はなんていうんだ?」

 

「……黒繞だ」

 

「こくじょう? ……なんかどっかで聞いたような」

 

「ちょっと文ちゃん! 黒繞さんって確か黄巾党の残党を一人で……」

 

 過去の黒繞の成果をきちんと把握していた顔良は、しかしその続きを伝えることは叶わなかった。

 深がそれよりも早く顔良の懐に潜り込み、一刀のもと意識を刈り取ったからだ。

 

「まさか知っている人がいるとはなあ、人の口に門は立てられないか……」

 

「っ! アタイの斗詩に何をした!」

 

 さらに激昂する文醜に目もくれず、静かに顔良をその場に寝かせる深。反応しない深に刃を向ける文醜……だが背を向けているはずなのに隙が見当たらず、飛び込むことができない。

 深はそんな文醜を一瞥し、袁紹がいる方角へと顔を向ける。それを好機とみた文醜は、深に切りかかった。

 

「……武器は破壊させてもらうよ」

 

 まるで耳元で囁かれるように声が聞こえた直後、文醜の武器に大槌が叩きつけられ、あまりの衝撃に双方の武器は破壊された。

 

「な、なんで斗詩の武器を……」

 

 その言葉を最後に、文醜の意識は途絶えた。

 

 深は顔良・文醜を馬に乗せ、堂々と袁紹軍の中を歩いていく。

 兵達は将軍達が討ち取られたことに驚愕し、誰も遮ろうとすることはできなかった。結果、袁紹まで兵達が道をあけるように整列していたのである。

 深は抜刀したまま二人を乗せた馬を先導し、袁紹へと迫る。対する袁紹はこの光景に半ば呆然としていたが、深がだんだん近付いてくるとようやく恐怖を感じ始めたのか、親衛隊に指示を出し守らせようとする……が、親衛隊は動けない。袁紹軍はその半数をたかだか二千ほどの兵により、文字通り飲まれたのだった。

 

 

 

 

 

 深が袁紹軍を食い破り始めたとき、同時に袁術軍も華雄・張遼の手によって大混乱に陥っていた。

 

「袁術はどこにいる!」

 

「袁術はどこやぁー!」

 

 もはや袁術軍にとって二人の将軍は恐怖そのものだった。華雄に近付けば二、三人が同時に叩き伏せられる。ならば張遼をと挑めば巧みな馬術に追いつけない、それでいて縦横無尽に駆け回っては神速の名に相応しい一撃を繰り出し、確実に命を奪っていく。二人が武器を振るうとそれだけで死傷者がでるのだ、これが恐怖でなかったらなんなのだろうか。

 

 伝令によって自身の軍の前線を把握していた張勲は、周囲にいた兵達を集結し袁術の壁になるように配置。味方を全て置き去りにし孫堅のいる後方へと撤退の準備を始めていた。

 

「美羽様~。これはちょっとまずいので、孫堅さんのところに逃げちゃいましょう♪」

 

「そ、そうじゃの。ではさっさと下がるのじゃ!」

 

「では兵士のみなさんは壁になってくださいね~。美羽様、いきますよ~」

 

 どこか緊張感の抜ける会話であったが、それはすぐさま変化することになる。

 

「ウチがみすみす逃がすと思っとったんか!」

 

 そこには前線を華雄に任せ、大きく迂回してきた張遼がいた。霞は壁になるように配置された兵士の合間をぬい、ときには薙ぎ払いながら袁術へとまっすぐに進む。

 

「ななななな、七乃! これはどうするのじゃー?」

 

「え、えーと、美羽様? あんなの私には止められませんよ~!」

 

 恐怖のあまり抱き合うようにして座り込む袁術と張勲。その二人に飛龍偃月刀を突きつけながら、霞は情けだといわんばかりに問いかける。

 

「あんたが袁術か?」

 

「そ、そうじゃ! 妾は袁術、ぶ、無礼じゃろう!」

 

「え、えーっと、神速の張遼さん? ここは一つ見逃して欲しいかな~なんて思うのですが……」

 

 この期に及んで逃げようとする張勲の行く手に刃を向ける。「ひっ」と張勲は小さく声を上げ動けなくなってしまった。

 

「なぁ、あんの書簡はどっちの策や?」

 

 袁術は腰を下ろしている地面を流れ出る水で濡らし、張勲は口をパクパクと動かすだけ。その様子に怒りを表しつつもさらに催促する霞。

 

「あんたか袁紹、どっちの策か聞いとんのや! はよ答えんかぃ!」

 

 もはや耐え切れなくなった袁術は喚くように叫ぶ。

 

「わ、妾は印を押しただけじゃ! 全ては麗羽じゃ! 麗羽が悪いのじゃー!」

 

「簡単に仲間を売るんか……呆れてものも言えんわ。まあええ、あんたらはさっさと死んどきぃ!」

 

 袁術の行動に呆れる霞だが、もう用は済んだとばかりに容赦なく偃月刀を振るう。

 しかしその刃は袁術の首を切り落とすことなく、目の前の人物に止められていた。

 

「……誰や?」

 

「私は孫堅よ、よろしく」

 

「あんたが孫堅か……ウチは張遼や、深から話は聞いとるでぇ」

 

 そう言うと止められている偃月刀を引き、構えなおす。

 

「……でもな、今のは止めたらアカンやろ」

 

「コレは私に取っても大事なの。あなたに討ち取らせるわけにはいかないのよ」

 

 二人の間に異様な空気が流れ始める。そこへ華雄も合流し、一触即発の状態になるかと思われたが、そこへ華雄の伝令が到着する。

 

「華雄将軍、報告します! 砦より三本目の火矢が放たれました!」

 

 その報告を聞いた華雄と張遼は構えたままではあったが、そこには戦意が失われていた。

 

「ちっ、ええところやったのになぁ……孫堅! あんたもわかっとるやろ?」

 

 孫堅はそれに頷く。

 

「ならウチらは撤退する!」

 

「全軍撤退!」

 

 号令を聞いた董卓軍は即座に反転、砦に戻っていった。孫堅は追撃を命じず、袁術軍はただ恐怖が去ったのだと安堵に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「黒繞様! 砦より三本目の火矢が放たれました!」

 

「そうか……撤退の準備をしろ!」

 

 黒繞--深は袁紹に剣を突きつけたまま受け応える。一瞬だけ伝令に目を向けた深だったが、即座に袁紹に戻すと周囲には聞こえないように伝える。

 

「……次また俺の家族を侮辱してみろ、今以上の悪夢を見ることになるぞ」

 

 その一言を聞いた袁紹は緊張が振り切ったのか気絶した。そんな袁紹の傍に、馬に乗せていた顔良・文醜を放り投げ、そのまま馬に跨り撤退していった。

 

 

 袁紹・袁術両軍は当初の兵数の七割を死傷し、全滅といっても過言ではない被害を受けることとなった。しかもその半数を、たった三人の武将による被害だったというのだから、もとより士気の高くなかった連合軍はかなりの痛手を負ったことだろう。

 今回の愚行により連合内での袁紹・袁術の発言力はほぼなくなり、今後は曹操が代わりに仕切ることになる。曹操は両名を後方に下げ手出しをさせないようにした。それが後々暴走を引き起こすのだが、このときの曹操達は今後どのようにして汜水関を落とすか、これに気を取られ気付くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【あとがき】

 

梅雨は雨ばっかで気分も乗らないですね~。

皆さんこんにちは。九条です。

 

今回改行とか含めると1万字超えているそうで……

やっぱ2話に分けるべきだったかなぁと若干後悔し始めている状態です。

 

前話でのnaku様のコメントに応えさせていただきました!

なんというか……袁術は怯えるのはわかるのですが

袁紹は無駄に度胸がありすぎて……悩んだ結果が気絶という方法でした。

心象とか書ければもっとよかったのかなぁとか、書き終わってから思いつく次第……。

 

汜水関でかなり時間を取っていますが

本来、華雄が飛び出さなければこれだけもったのでは? と。

 

火矢の合図きましたよ!

これでやっと話が進められる(笑)

 

 

稚拙な文、行き当たりばったりな進行ではありますが

支援してくださる方々、読者の皆様、いつもありがとうございます。

 

また次回も楽しんでいただければ~


 
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