1話 転生
五代は夢を見ていた。死んで夢を見ているとは不思議な感覚だったが、特に驚いて混乱することもなく、普通に受け入れていた。夢といっても自分の今まで歩んできた人生の総集編を見ている、と言った感じのものだ。色々あったなぁと自分の歴史を見ながらそう思う。
冒険ばっかりしていた自分。
クウガとして戦った自分。
たくさんの仲間が出来た自分。
ダグバと戦い死に掛けた自分。
結婚して子供が生まれ、幸せの絶頂だった自分。
冒険が世界的に評価された自分。
孫が生まれ更なる幸せを得た自分。
人生を謳歌して満足しながら死ねた自分。
五代は夢を見ながらまた冒険したいなぁと思い、自分は天国に行くのか地獄に行くのかどっちかに行くのかなぁとそんなことを考えていた。そのとき自分を光が包み、見えていた夢が見えなくなり真っ白になる。そして収まり眼を開けた。
「ウ…ン…。あれ俺は…え?」
五代は信じられない経験をしていた。
「あれ、何で死んだはずなのに、病院のベットにいたはずなのに森みたいな所にいるんだ?」
そういって起き上がろうとする。そのときまたまた驚いた。
「俺…子供になってる!!?」
辺りの木々や草と比較してなんか地面に近いなぁと思っていた。だが立ってみてようやく理解した。還暦を過ぎて皺としみのついた自分の手も若々しいきれいな肌色をしていた。よく見ると服も白いクウガTシャツにジーパンという服装だった。もうこれ以上驚くことはないだろうなと思い辺りを見回す。
「どこだろうここは」
辺りは鬱蒼と繁る森だった。どこから来たのか分からなかったため途方にくれる。そのとき遠くのほうで何かの音が聞こえた。ドーンやバーンといった工事現場を連想させる音だった。
「なんだろう。人がいるかも知れないな」
そう考え五代は行動を開始した。歩幅の小さくなった体で草木を掻き分けて進んでいく。昔子供の頃に妹のみのりや友達と一緒に、裏山みたいなところを探検したことを思い出し、懐かしいなぁと少し笑う。すると森が切れているところが見えた。どうやらそこは少しばかり急な坂になっているようだった。五代は持ち前の冒険心に駆られて走ってそこを出る。ここはどんなところなのか。そんな事を考え心が躍っていた。そこに出るまでは。
「なんだ…これ…」
少し遠くに街が見える。自然に囲まれた、見た感じヨーロッパ風建築の町だ。問題はそこではなかった。
「煙が出てる…」
そして先ほど聞こえていたのは工事現場の音などではない。五代はこの音が聞いたことがあった。一つはグロンギたちと戦っているときのやつらの技や警察官たちの発砲音。もう一つは昔五代は紛争の絶えない国に行ったのだ。そこにいる子供たちのために何かがしたいと思い。そのときに聞いた爆弾や砲撃の音と似ていたのだ。そこに心なしか悲鳴も聞こえた。その瞬間五代の行動は早かった。その急な坂を器用に降り、今出せる全速力でまだまだ続く森の中を走る。
「そんな…。なんで!」
ギリギリ、そんな音が聞こえてきそうなほど歯をかみ締める。若くなった恩恵か、どんなに走っても疲れない。近づくにつれ普通ではあまり嗅がない臭気が森の中にまで漂ってくる。焦げ臭く埃っぽい、そんな臭いだった。こんな焦燥はグロンギの事件と紛争地以来久しぶりだった。すると草に隠れていた木の根に躓いてしまい転びはしなかったが今まで全速力で走ってきた反動が出て息が荒くなってしまう。ふとクウガのことを思い出す。あれはあってはならない力だ、そう理解している。でもそんな力でも人は救えるのだ。しかしそんな力は今の自分にはない。ダグバとの戦いでアークルを壊してしまったからだ。今の自分は誰とも変わらない普通の人間だ。でもそんな自分にもできることがあるなら足掻いてでもやりたい、そう思っていた。
その瞬間自身の腹部が熱くなった。この感覚にはとても覚えがある。
「こ、これってまさか!?」
そこには破壊されたはずのアークルとアマダムがあった。なぜかは分からない。だが五代は自分がやらなければならないことが何か理解した。あの時からもう40年がたっている。うまく出来るか不安だったがそれは杞憂だった。左手を右脇腹に、右手を突き出し腰を少し落とす。そしてあの一声を言う。
『変身!』
その瞬間自分が別の自分に変わる。そこには黒い手足に金色の装飾のある白い筋肉のような装甲と手甲と足輪を身につけ、小さな金の二本角をつけ大きな複眼をした異形がいた。
「本当にクウガ…。でもなんで赤じゃないんだ?」
五代は極めて驚いていた。できるかどうか半信半疑、むしろ出来ないという心のほうが大きかったのだ。しかもクウガの状態は生前の身長と同じようで体も大きくなっていた。
「まぁ今はいいか。よし、行くぞ!」
五代は白のクウガ、別名グローイングフォームで森の中を駆け抜ける。先ほどの子供状態とは比較にならないほど速い。すると町が見え逃げ惑う人々が見えてきた。クウガは走り近づいていく。すると町の人間が気づき驚愕と恐怖が混じった顔でクウガを指差す。
「ま、魔物だー!?」
「そんな!?こんなときに!」
どうやら化け物と間違われているようだった。人型とはいえ異形の存在がものすごい速力でしかもこっちに近づいてきたら驚くに決まっている。人々がクウガの進行ルート上から逃げようとしたとき両親と手を繋いでいた少女がクウガの進行ルート上で転んだ。その瞬間街の人々、両親、少女も恐怖に染まり、自身の無力さを呪った。クウガが少女の前で止まった。『殺される』そう思ったのだろう、両親は泣き叫び周りの人々から行くなと抑えられ、少女は恐怖のあまり眼をギュッと瞑り涙を流す。するとクウガは手を伸ばしながらこう言った。
「大丈夫?立てるかい?」
「え?」
話すとはまったく思っていなかったようで、心底驚いた顔でクウガを見つめた。
「驚かせちゃったね、ごめん。大丈夫だよ、君を襲ったりしない」
「ホント?」
「うん、ホント」
そう言うと恐る恐るクウガの手を握り、クウガはその手を持って少女を立たせる。周りの人々も信じられないものを見るような顔でその光景を食い入るように見る。
「じゃあ俺はあっちに行かなくちゃ。気をつけてね」
そういってクウガは戦場と思われるところへ走り出そうとする。
「まって!!」
それを先ほどの少女とは思えない大きな声でクウガを止めた。
「あ、あなたの名前は?」
まだ少し怖いのだろう。震える足で体を支えながら名前を聞く。
「クウガ。クウガだよ」
そういって今度こそ走っていった。
「クウガ…」
少女は覚えるように何度もその名前をつぶやいた。
少し時間が戻もどった地方都市ロレント。
そこは常に穏やかな時間の流れる、とてもやさしい空気に満ちた街だ。主に農業と七曜石の鉱石の採掘が産業で時々魔物騒ぎがあるだけで荒事とは無縁のところ。そこに帝国軍が攻めてきたのだ。この事実は平和そのものだったロレント市民にとって絶望そのものだった。万が一のときのために避難場所は決めておいたが、本当に来るとはあまり考えてなかったのだ。そのため市民は混乱し、避難経路などあってないようなものとなってしまった。皆急いで安全な場所まで逃げていく。その中にブライト親子も混じっていた。悲鳴と怒号、そして銃声が聞こえるところをレナ・ブライトは娘であるエステル・ブライトをつれて一直線に避難場所まで逃げる。後ろからは帝国軍が戦車と共にやってくる。速く逃げないと、そう思って必死になって走っているとすぐ近くの時計台に戦車の榴弾が命中し、時計台を破壊した。街のシンボルであった時計台は人を脅かす凶器として様変わりし、ブライト親子に襲い掛かる。
「(この子だけでも!!)」
ラナが自らを犠牲にわが子を助けようと決心する。その瞬間二人が何かに抱き上げられ、瓦礫の落下地点から遠ざかった。レナとエステルはなにが起こったか分からず、抱き上げた人を見た。
否、それは人であって人でなかった。
黒い手足、白い装甲、金の装飾と角に大きな複眼。まさに見たことの無い異形だった。二人とも続いて起きた出来事に驚き言葉が出なかった。
「ここはまかせて逃げてください!!」
異形が言葉を発した。するとその異形はすぐ近くまで来ていた帝国軍を相手に戦いだしたのだ。その驚異的な身体能力でもって兵士たちを圧倒していく。銃弾を浴びてもダメージはないようで、帝国兵を無力化していく。レナとエステルはなにが起きているのか分からずその光景を呆然と眺めていた。
「この化け物が!!」
そういって戦車の砲手はクウガに狙いを定め、その必殺の砲撃を打ち出した。レナとエステルはそれに悲鳴を上げ、クウガはそれをモロに受け思いっきり吹き飛ばされた。そして倒れ子供の姿に戻ってしまう。
「え!?こ、子供!?」
レナは驚いた。人生でもトップスリーに入るくらいに。なにせ自分を救った大きな異形がエステルより少し大きいくらいの、あんな小さな子供だったとは誰が想像できようか。
「クソ…赤の…クウガだったら」
倒れながら五代は込み上げてくる血反吐を吐きながら考える。なぜ赤のクウガ、マイティフォームになれないのか。それは意外とすぐに結論が出た。
「(俺に…戦う覚悟が…足らなかったから…)」
朦朧とする意識でそう結論付ける。彼はその優しい性格のため人を殴る、傷つける行為をとても嫌う。グロンギを相手にしてもそれが変わらないほどに自らの根底に根付いた強い思いだった。それでも彼は人間と遺伝子上ほぼ一緒であるグロンギたちと戦った。それはなぜか。一言で言うと笑顔のためだった。理不尽な暴力で関係ない人々の笑顔を奪っていく、そんな彼らを許せず、人々とその笑顔を守ろうと決意してクウガになることを選んだのだ。今の自分はグロンギではないただの人間を相手にしていたため、無意識のうちに人を殴ること、クウガになることを拒絶していたのだ。そう五代は推測した。
「(ああ…そうか。あの時と一緒なんだ)」
それはグロンギの未確認生命体第3号コウモリの怪人ズ・ゴオマ・グと初めて対峙したときのことだった。あの時までは浮かんだイメージに任せるかのようにアークルを装着し、未確認生命体第1号クモの怪人ズ・グムン・バと戦い、その後も何とかなると楽天的に考えていた。しかしその考えはグロンギに重症を負わされた刑事の一条薫の言葉、そして父親をグロンギに殺された少女、夏目 実加の涙によって悔い改めるものとなり、自分の考えの甘さを思い知らされるものとなったのだ。
「そうだ…あの時…言ったじゃないか…一条さんに、心配してくれたみんなに…」
五代が立ち上がりながらそうつぶやく。
『こんなヤツらの為に、これ以上誰かの涙を見たく無い! みんなに笑顔でいてほしいんです!
だから・・・見てて下さい!オレ、変身!!』
『俺「中途半端」はしません!きちんと関わりますから!!』
『だってやるしかないだろ? 俺、クウガだもん!』
自分が前世で言った、覆してはならない数々の言葉、約束。今目の前で平和に笑っていた人々を蹂躙する人たちがいる。そんな人たちから逃げる人々を護れなくて自分はクウガを名乗れるのか。それは断じて否である。なら自分がやるべきことは決まっている。五代は全身打撲のような傷を無視し大地に力強く立ち上がった。その姿にレナは焦り、エステルは驚きながら、それでいて泣きそうな顔で五代を見つめる。五代はその二人に気づく。
「大丈夫です!!早く避難してください!!」
彼は笑顔でサムズアップしながら二人にそう言い放った。
「君なにをいって…!?」
レナはどうにかして少年も逃がそうと考えるが、急に雰囲気が変わった少年に気圧され言葉が続かなかった。その母の様子にエステルが不安そうに抱きつく。
「お母さん…」
「大丈夫…大丈夫よ。絶対にあの子も一緒に助かるから」
そう諭すが状況は最悪に近い。歩兵の多くは無力化できたがまだ戦車や後続の部隊が残っており、どうすれば助かるか考えても答えが見つからない。そう思い少年を見た。するとその少年から目が離せない、そんな錯覚に襲われた。少年は腹部に両手を当てる。するとそこにベルトが出てきた。親子はその光景に驚き少年を心配そうに見つめる。そしてすぐに左手を右脇腹に、右手を前に突き出し重心を落とすようなポーズをとる。そのまま左手を左の腰で握り、右腕を少し開き子供には似つかわしくない厳しい声でこう言った。
「変身!!!」
その瞬間右手を左手の握り拳に重ねるようにもっていく。するとそれに連動するかのように、彼のベルトの中央にある大きな宝石のような石から、何かが回転するような音が聞こえてきた。少年が自然体に戻ったとき、そこには少年の姿はなく先ほどの白い異形とも違う存在がいた。黒い手足や金の装飾品は変わらないが、その筋肉のような鎧の色は白から赤に変わり、二本の角も白のときより長く力強いものになっていた。
「赤い…姿…」
「ほえぇぇぇ」
レナとエステルはもう何度目かと思うくらいに驚いた。子供の姿からあのような姿になり、まさに威風堂々といった気迫を滲み出している。するとあの異形が走り出した。
「ハァァ!!」
その速さは白のときとは段違いの速さだった。兵士たちの銃撃は当たらず、通ったと思った瞬間殴り飛ばされ気絶する。戦車のその速さに翻弄され照準が合わせずらい。そこで通ると思われるところに砲撃をする。すると案の定クウガは射線上に入った。その瞬間戦車の中の乗員全員がよしと心の中でガッツポーズをした。だが予想外の出来事がおきた。クウガはそれを素手で掴んだのだ。しかも片手で。その光景に帝国兵士もブライト親子も目を丸くして驚愕した。クウガがゴトンと砲弾を落とし戦車に迫る。それに気づいた操縦手はひき殺そうと前進する。しかしクウガのほうが一枚上手だった。クウガは戦車の砲塔を横殴りにしてひん曲げ、さらに戦車を押し返したのだ。
「ウォォォォォ!!!」
クウガの雄たけびに帝国兵全員背筋が凍ったように戦慄した。相手は全力前進している戦車を押し返しているのだ、ビビッてしまって当然だろう。これを受けて帝国の指揮官が撤退命令の信号弾を撃つ。帝国兵はクウガから逃げるように、撤退していった。その光景をレナとエステルは呆然と見てるしか出来なかった。帝国軍が見えなくなった瞬間五代は変身を解いた。それに気づいてブライト親子が走って近づいてくる。しかし五代は体の限界かそのまま意識を失い倒れてしまった。
「君、大丈夫!?ひどい怪我…すぐに医者に見せないと」
「おきて、おきてよ~!!」
レナは五代のその大怪我に焦り、エステルは少年の隣で泣きじゃくっていた。こうして五代はロレントの街を帝国軍から護り抜くことに成功したのだ。その顔は満足そうに微笑んでいた。
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五代さんっぽさを出すのが難しいなぁ。
ちょっと知識不足のより軌跡の年代と出来事に違和感が出てくるかもしれませんがそのときはご指摘お願いします。