No.58245

帝記・北郷:参之前~愛しき人への挽歌〈その軍師、最強〉~

帝記・北郷三話目

オリキャラ、パロネタが大丈夫な方だけどうぞ

今回は長いので三分割です。

2009-02-15 09:13:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:13469   閲覧ユーザー数:10679

帝記・北郷:参之前~愛しき人への挽歌〈その軍師、最強〉~』

 

 

 

幽州刺史・龍志、冀州を攻撃。并州刺史・梁習、それに呼応し壺関と箕関を封鎖。

その報告が、三国鼎立祭も半ばを迎えていた魏都・洛陽にもたらされた時、人々の反応は半信半疑であった。

確かに両州に不穏な動きがあることは前々から知らされていたが、それでも龍志、梁習の人柄と功績がその噂を根も葉もない戯言に留めていた。

故にその報告も何かの間違いであろうという意見が朝廷でも大半を占め、それよりも祭の開催と後始末の手配に追われてしまっていた。

もっとも、ここで動いていたとしても事態はさして変わらなかっただろうが。

翌日、洛陽のいたるところに檄文の掲げられた高札が発見される。

その高札には、現在の天下の不安定さと曹操に捧げた天下統一の夢を裏切られたことへの憤怒、またそれを夢見て死んでいった者達への哀悼が述べられ、三国鼎立を認めず我らは新しき世を求め維新をおこすという旨が書かれていた。

しかしそれよりも魏の首脳部を驚かせたのは、その檄文の最後に書かれていた一文であった。

 

魏国維新軍・盟主:北郷一刀。

 

 

「一体どういうことなのだ!!」

祭を終えた魏呉蜀の代表が揃う洛陽大会議場に、関羽の怒声が響く。

「私達に聞くな!こっちが聞きたいくらいだ!!」

それに引けをとらない大声で、春蘭が怒鳴り返す。

「あ、愛紗ちゃん落ち着いて」

「春蘭も落ち着きなさい」

それぞれの主君に言われ、二人は不満顔ながらも口を閉じた。

それを見て、今度は雪蓮が口を開く。

「とにかく、問題はその北郷一刀が本当にあの天の御遣いと同一人物なのかと、その維新軍とやらを率いる将がどれほどのものなのかよ…どうなの?華琳」

「そうね…一刀が本物かどうかの判断は現状ではできないわ」

「か、華琳様!?」

普段となんら変わらない調子で言った華琳に、魏の将たちは戸惑いを隠せない。

主ならば相手が偽物であると言いきってくれるという思いが、彼女たちにはあったのだろう。桂花や稟ですら驚いた顔で華琳を見ている。

「へえ、案外冷静ね」

「あたりまえよ。私事と公事を一緒にはしないわ」

さも当然という様に言い放つ華琳。

しかし傍らの夏侯姉妹には、その両手が小さく震えているのが見て取れた。

尤も、それが戸惑いによるものか怒りによるものかまでは二人にも読み取ることはできなかったが。

「では、その件は後にして龍志と梁習の二人についてはどうなのだ?」

孫策の傍らの周喩の問いに、華琳は深く溜息をつき。

「強敵…単純だけど、この言葉が最適でしょうね。并州刺史として辺境の行政だけでなく匈奴の進行を防ぎ巧くいなし続けている治政の達人・梁子虞。だけどもっと厄介なのは幽州の龍志だわ」

「それほどの人物なのか?そうであれば、我が国にも情報が来ているはずだが?」

「北方での活動が多く、中原に出てきても後方支援や治安の慰撫を主にしていましたから、蜀の皆様に名が知れていないのはいたしかたないかと」

関羽の問いに答えたのは稟であった。

「そういえば、我が国が魏の統治下にあった時に行政を担当した者の名が龍志であったと記憶しているが」

「その通りよ周喩」

「だとすれば…恐ろしい敵だな」

「どういうことだですか周喩さん」

「孔明よ…貴様ならばたかが数か月で一州の人民の声望を集めることができるか?しかも侵略軍の将としてだ」

「それは…難しいかもしれません」

「それをやってのけたのだよ龍志という男は…その男が幽州に帰還する時、呉の人民は涙で送り、呉の旧臣も少なからず同行を願ったらしい。尤も、本人の希望により皆残っているが」

「はわわ…」

それがどれほど難しいことであるかを知る者たちは、驚きを隠せない。

「そんな立派な人がどうして反乱なんかを……」

「解らないわ。ただ少なくとも言えるのは、龍志はその仁徳と治世の才に加えて軍略も戦国の四君の一人信陵君に匹敵し、武勇も西楚の覇王・項羽に並ぶ言われている……もしも彼が後漢の動乱に応じて兵を挙げていたら、今頃天下は彼のものだったかもしれないわね」

冗談めかして華琳は言うが、その眼はまったく笑っていなかった。

「それだけではない。龍志には蒼亀がいる」

重々しく口を開いたのは秋蘭だ。

「蒼亀?」

「ああ、歳は龍志とさして変わらんが、その智謀は太公望・呂尚や孫子呉子といった古の名相達に勝る」

秋蘭はわけあって蒼亀とは懇意にしている仲であった。そのため、普段は龍志の陰に隠れている蒼亀の才略を誰よりも知っている。

「その他にも、おそらく幽州、并州の武将たちは反乱に参加しているでしょう。となると、その勢力は反乱軍とはいえ……」

「一国に匹敵する」

稟、桂花と続けた言葉を最後に、会議場に沈黙が下りた。

正直、呉蜀の代表者たちの多くはこの反乱など私心に溺れた者が起こしたとるに足らないものと思っていた。だが、聞けば聞くほどこの反乱がそんな生易しいものではないということがひしひしと伝わってくる。

もう一つ、彼女たちを暗澹たる気持ちにさせるのは二人の人物のことであった。

風と霞。魏国の重鎮たる二人は、その両州に行きそれきり戻ってきていなかった。

二人がそう簡単に死ぬとは思えないが、その可能性も否定はできない。

いや、その可能性が高いと多くの者は思っている。希望的観測など何の役にも立たない。

現に、裏切るはずのないと言われていた者達が叛意を翻したのだ。

「……とにかく!!」

沈黙を破ったのは春蘭だった。

「反乱の理由も、北郷が本物なのかも戦わなければ解らん。何も手を打たずに奴等の好き勝手にさせておくわけにはいかん!華琳様、すぐに派兵のお達しを!!」

「おお」

「へえ」

春蘭の発言に桂花と稟があっけにとられた反応をする。

「ど、どうしたのだ?」

「いや、珍しく的を得たことを言ったなぁって感心しただけよ」

「??」

「とりあえず、間違ってはいないということだ姉者」

「そ、そうか」

そんな春蘭の姿に、沈んでいた場の空気が柔かなものに変わる。

「そうね…桃花、雪蓮。あなたたちはどうするつもりなの?」

「う~ん。ちょっとした反乱だったら静観するつもりだったけど、そう言うわけにはいかないみたいね……下手に放置していたら呉の不平分子も動き出すだろうし、三国の為にも参戦させてもらうわ」

「私もです。きっとその龍志って人も理由があるとは思いますけど…せっかく平和になった世の中を乱すなんて許せません!!」

「ふふ、ありがとう。私も本当はこれは魏の問題だって言いたいところだけど、正直この乱は出せるだけの戦力をもって当たらないと泥沼になるわ」

「賢明な判断ね…じゃ、細かいとこは冥琳お願い」

「私も…朱里ちゃんお願いね」

その言葉に片方の軍師は額を抑え、片方の軍師は笑顔で答えていた。

そうして対維新軍の会議が始まったのだが……。

「………」

「………」

「………」

魏の三羽烏こと凪、真桜、沙和は終始黙ったままであった。

 

 

幽州を出発した龍志率いる精鋭部隊は、冀州に侵攻。龍志の類まれな軍略と武勇、それに躑躅、紅燕の神算鬼謀、そして藍々の的確なサポートと事後処理によって破竹の進撃を続け、冀州の州都・信都

を攻略。降兵のうち希望者のみ軍に編入しつつ、かつて袁紹の本拠であった南皮、劉備にも縁の深い平原を次々と攻略、巨鹿の要塞にて毛玠と辛毗の両名と対峙していた。

「……困ったな」

丘の上から巨鹿城を見つつ龍志は眉をひそめた。

ここまでは奇襲や事前に潜入させておいた間者を使って快進撃を続けてきたが、ここにきて頑強な抵抗にあっていた。

毛玠と辛毗の両人はどちらかと言えば文官だが、兵の扱いにかけてはそこらの将では太刀打ちできないものであり、事実この城は連日の猛攻にも見事に耐えきっている。

「兵糧攻めをする時間はなく…地下道や攻城兵器を作るのも時間がかかる……」

維新軍の当初予定では、一気にかつての趙の都・邯鄲まで龍志率いる別動隊が接近し、それと共に主力が壺関を出て邯鄲を共に包囲し陥落させ、魏郡にて魏国の主力と交戦するということになっていた。

普通に考えれば無理がある戦略だが、長い間積み上げて華北での龍志への信頼は大変なものであり、幽州との境にはそれ程兵士がいなかった為に維新軍の軍師はこれを可能と見たのだ。

そしてここまでは予想外に早く行った…いや、行き過ぎた。

あまりの快進撃に疑問を抱いた龍志達はすぐにある事実に気づき冷汗をかく。

敵軍は下手に個々の城で抵抗するのではなく、兵を集結させ巨鹿で維新軍を迎え撃つつもりだったのだ。

実際に目の前に情勢がそれを示している。

とはいえ、龍志もただ手をこまねいているわけでもない。

邯鄲を守る魏将にして華琳の親族にあたる曹洪は巨鹿の危機を知り、自らが援軍を率いてこちらに接近しつつある。

逆に言うと、邯鄲の防備は手薄になってしまったのだ。并州からの攻撃に備えてそれ相応の防備は残していた曹洪だったが、まさか維新軍が并州に兵力の多くを温存しているとは思わず、邯鄲は維新軍の主力により陥落していた。

ここにおいて曹洪は邯鄲の奪取よりも巨鹿を華琳の援軍が来るまで保持することを選んだらしく、こちらへと進撃を続けていた。

「龍志様。曹洪軍が五十里の所まで迫りました」

「…来たか」

藍々の報告を受けて、再び龍志は巨鹿城を見る。

援軍の到着を知れば、必ず城兵はここぞとばかりに打って出る…その隙に躑躅と紅燕率いる別動隊が城を奪取する手筈となっていた。

とはいえ、龍志と藍々率いる本軍は一時的に挟撃を受ける形になる。もしも城が陥落しても、数に勝る敵が死に物狂いで本隊を掃討しにかかれば全滅の可能性もあった。

だが、龍志は勝率は高いと踏んでいた。

平地戦になれば、騎馬民族と戦いを続けその馬術と戦法をとりいれた龍志率いる騎兵『飛龍兵』を中心とする騎馬部隊はその実力をいかんなく発揮できるであろうし、もう一つ幽州から運んできた秘密兵器を使うのにも適していた。

その秘密兵器とは、戦車である。

戦車と言っても現代で言うタンクではない、チャリオットの方だ。

しかしただの戦車では秘密兵器と言わない。幽州の戦車にはサスペンションがついているのだ。

一刀が一度消える前に龍志にサスペンションのことを話したのだが、龍志は蒼亀と語らって現代の物に比べれば性能は劣るがサスペンションの開発と実用化に成功していた。

これにより兵糧の輸送、戦場での戦車の有効性共に飛躍的に上昇していたのだ。

そしてこの技術は龍志が謀反を起こすと決めてから完成されたものであり、まだ魏軍には知られていない。

「北郷様よりいただいた知識により作り上げたこの兵器と、北方でつちかわれたわが騎馬軍の精強さによって……この戦、勝ってみせる」

すでに当初予定よりも行軍は大幅に遅れている。

はやる気持ちを抑えながら、龍志は部隊の指揮をとるべく丘を下りて行った。

 

                   ~中編へ続く~

 


 
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