そして、ついにその日はやってきた。
ざわ・・・・・・ざわ・・・・・・
夜。街の外に作られた特設ステージは満員となっていた。
「満員だな。結局サクラ使ったんだっけ?」
「1/8くらいに減らしたけど、それでも無料との相乗効果でお客さんは呼び込めたみたいねん♪」
「後は美羽たち次第って事か・・・・・・」
「何か声でもかけに行く?」
「うんにゃ。ここまで来たら、余計な事はせずに見守ることにしようや」
「そうねん・・・・・・」
一方
「なんだかなあ・・・・・・」
一刀たちから少し離れた所に、雪蓮たち三人はいた。
「悲願の半分は果たせるはずなのに、なんだか厄介事を押し付けられただけのような気がするのはあたしだけ?」
「いや、あながち外れではないな」
雪蓮の言葉にため息交じりで答える冥琳。
昨日、一刀は美羽に雪蓮たちへの領地の明け渡しについて話した。
そう言われた美羽、七乃の反応は・・・・・・
「これから各地を回らなければならんのに領地の事を気にかける余裕なぞないわ」
「私も美羽様についていくわけですし、そうなるとここを治める仕事なんて出来ませんし」
二人ともこんな感じで、意外とあっさり承知した。
その後、一刀はその旨を雪蓮たちに伝え、いくつか条件を出した。
「美羽たちの部屋はそのままにしておいてくれ。帰る所は残しておいてもらいたいからな」
「ええ、それくらいなら・・・・・・」
「今は俺らが統治手伝ってるけど、引継ぎしたら後は全部任せるから、頑張ってくれ」
「う、うん」
「美羽の所の人間は基本自由に使っていいから。ああそれと、後々手伝ってもらいたい事があるからその時はよろしく。他には・・・・・・」
・・・・・・
「しかし、その辺りを差し引いても話が上手すぎる。何か裏があるとみるべきだ」
冥琳はステージの方を向いている一刀に対し、鋭い視線を向ける。
「まあ、警戒はしておくに越した事はないがのう」
「ま、その話はおいおいね。とりあえず今は・・・・・・」
暗闇に染まっていたステージの周りに明かりが灯されていく。
それが終わった直後、ステージ横から美羽と七乃が現れ、客から歓声(サクラが殆ど)が上がる。
「袁術のお手並み拝見といきましょうか」
ステージ中央へと歩を進める袁術たちを見ながら、雪蓮は笑みを浮かべて言った。
ステージ中央までやってきた美羽と七乃。
今回のステージ衣装は二人とも黒を基調としたもので、いわゆるゴシックロリータを模した服装であった。
「「・・・・・・」」
美羽と七乃は目を閉じ、深呼吸を繰り返していた。
気を落ち着けるため、そして文字通り呼吸のリズムを合わせるためである。
繰り返し、繰り返し、
そして、二人の呼吸が完全に一致して目を開いた時
周りの雑音は消え失せ
聞こえるのは自分達の呼吸と
静かに流れてくる、自分達の歌う曲だけとなった・・・・・・
「「果~て~しない時空を越えて~・・・こうし~て二人は巡り会えたの~壊れかけた砂時計は~・・・もう忘れて~~いい~~・・・・・・」」
二人の歌声が会場に響きわたる。
ざわついていた客も、いつのまにか静かになっていた。
皆、二人の歌声に聞き入っているようだ。
「短い間に・・・・・・よくここまで仕上がったもんだな・・・・・・」
一刀は心底感心した様子で小声で呟いた。
「私も驚きだわん・・・・・・」
「は?」
「確かに息は合ってたけど、練習のときはここまでじゃなかったもの。集中力も練習の比じゃないし・・・・・・」
「いわゆる本番に強いタイプって事か?」
「そうね、半分はそうかもしれないわねん」
「・・・・・・半分?」
「もう半分は・・・・・・美羽ちゃんを良く見れば分かるんじゃないかしら?」
「美羽を良く見る?」
改めて美羽たちを良く見てみる一刀。
すると、ステージ上の美羽と視線があった。
というか、美羽はずっとこちらを見つめ続けているような・・・・・・
「もしかして俺、ずっと見られてた?」
「ええ、歌が始まってからず~~~~っと」
「と、いう事は・・・・・・」
「もう半分はご主人様に感謝と想いを乗せた最高の歌を聞かせたいっていう美羽ちゃんのオ、ト、メ、ゴ、コ、ロ、よん♪」
ウインクしながら言う貂蝉。
「いや、じゃあ七乃は・・・・・・」
ちらりと、一刀は視線を七乃に移す。
すると、やはり七乃とも視線が合った。
七乃もまた、一刀を見つめ続けていた。
ただ、美羽とは視線の質が多少違うように思えたが・・・・・・
「乙女心の良く分かる貂蝉さん。七乃の俺に対する視線の意味は?」
「そうね・・・・・・少しの好意と感謝。それに嫉妬が混ざってるわねん」
「・・・・・・さいでっか」
一刀はどう反応すべきか分からず、苦笑いするのだった・・・・・・
「「こ~と~ばは沢山いらない・・・あなた~の感動が伝わ~るから~しばらくはここに座って・・・宇宙を感~じて~~・・・・・・」」
曲が終わり、辺りは沈黙に包まれた。
美羽は集中力が途切れたのか、目線をさまよわせ、不安そうにしている。
七乃は七乃で、そんな美羽を心配そうに見ている。
そんな中、
パチパチパチ・・・・・・
二ヶ所から拍手が聞こえた。
一刀たち、そして雪蓮たちがほぼ同時に拍手していたのである。
拍手の音はそこからどんどん広がっていき、最後には
パチパチパチパチパチ!!
会場の客全員が美羽と七乃に対して大きな拍手を送っていた。
「・・・・・・」
美羽は自分に送られる拍手に、思わず目頭が熱くなった。
「美羽様、まだ終わりじゃありませんよ?」
ポン、と七乃が美羽の肩をたたく。
「う、うむ。そうじゃのう」
美羽はゴシゴシと目をこすった。
そして
「二曲目、いくのじゃ!!」
「「「「ワーーーーーーーーー!!」」」」
歓声の中、美羽と七乃は二曲目を歌い始めるのだった・・・・・・
ステージは終わり、一刀たちは城への帰路についていた。
「く~~・・・・・・」
美羽はよほど疲れたのか、一刀の背中で寝息を立てている。
「やれやれだな」
「ご主人様、重いならアタシが代わりに背負うけど?」
「いや、全然軽いし、大丈夫だから」
そう言って、一刀は美羽を背負いなおす。
「七乃もお疲れさん。素晴らしい舞台だった」
「いいえ、全ては美羽様の力ですよ」
「それは言いすぎだ。一割くらいは七乃の力だ」
「・・・・・・それは少なすぎませんか?」
「冗談だよ。半分は七乃の力だ」
「それは多すぎですよ」
「どう言えっちゅうねん!!」
「し~~・・・・・・美羽様が起きちゃいます」
「・・・・・・」
一刀は渋面で七乃を見た後、再び正面を向いて歩く。
「三人はどうだった?美羽と七乃の歌は?」
やや後ろを歩いている雪蓮たちに一刀は問いかけた。
「そうね、少し、いやかなり袁術を見直したわ」
雪蓮の言葉に、冥琳、祭も首を縦に振る。
「そりゃ良かった。じゃ、領地の引継ぎは頼むぜ?美羽はこれから忙しくなるんだからな」
「ええ、任せておきなさい」
「ああ、任せる」
そんな話をしながら、一刀一行は城へと帰っていくのであった・・・・・・
おまけ
深夜、雪蓮は祭と酒を飲んでいた。
「ん~~・・・・・・」
「どうかされたか?策殿?」
「それがね、一刀からの頼みに完全週休一日制っていうのがあったのよ」
「誰に対してじゃ?」
「冥琳。一刀、呉で過ごしてて思ったんだって。あの仕事量は異常。休みもちゃんと取ってないし、あれは過労で早死にしそうだって・・・・・・」
「むう、一理あるが、冥琳は承知せぬじゃろう」
「させるわよ。一刀の出した条件なんだから、これを破ると関係が悪化するかもしれないとでも言うわ。祭も、冥琳が先に過労死する所なんて見たくないでしょ?」
「当然じゃ」
「ま、そのぶん私達がサボれなくなるけど、しかたないわよね・・・・・・」
「・・・・・・じゃな」
二人は苦笑いしながら、酒を酌み交わすのだった・・・・・・
どうも、アキナスです。
ほとんど月一の連載となってしまってますが、何とか更新です。
何を歌わせようかと悩み始め、いつのまにかこんなに時間が・・・・・・(汗)
結局知ってる人いないようなマニアックな曲になりましたけどね。
そんな所で次回に・・・・・・
「メギドラオン!!」
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美羽と七乃
二人の伝説が今・・・・・・始まる?