#39
全然長引くと思っていた汜水関・虎牢関の戦いも、数話で終わってしまい、俺は恋たん達と一緒に荒野を進む。俺の部隊に馬はいないが、霞たん部隊の予備の馬を借りたので、とりあえず走りながら馬についていくというデスマーチは回避出来ていた。
「さて、予定通りなら董卓ちゃん達の方が先行してるし、俺たちも合流予定地点に向かわないとな」
「ん…月たちに、早く会いたい……」
「おー、俺も董卓ちゃんに会いたいぞ」
「お前のは、何か変な意味合いが含まれてそうなのです」
恋たんに同意する俺の言葉に、ねねたんが毒を吐く。そうかそうか、ヤキモチか。可愛いなぁ、もぅ。
「ヤキモチなどではないのです! 勘違いするななのです!」
「ねねちゃん、こんな速度で馬が走ってるのに、手を離したら駄目っす!」
「にょわぁああっ!?」
波才の忠告も遅すぎた。まさに騎乗位の如く上下に激しく動いていた馬の背から、ねねたんの小さい身体が跳ね飛ばされた。
「落ちるので――――」
「ほいっと」
「みょぅっ!?」
だが、俺が腕を振るえば袖からクナイが飛び出し、ねねたんの襟に引っ掛かって落下を阻止。
「た…助かったのです……」
「あ、アタイは助かってないんですけど……」
血をダクダクと流す波才が口を開く。飛び出したクナイはねねたんの襟を巻き込み、波才の額に突き刺さっていた。
はっちゃんは特殊な訓練を受けているので、この後スタッフが美味しく(^ω^)ペロペロ
夜。
「おらぁっ! 準備が出来たぞテメェら!!」
「「「「「うぉぉぉおおおおおおっ!!!」」」」」
陣を張って、夕食を作る。今回は、特別に俺が自ら調理したものだ。メニューは甘辛い煮物(肉多め)に、根菜たっぷりの汁物。そして白米。最初は味付けも何もない料理に恋たんや霞たんの兵達は戸惑っていたが、濃く味付けしたおかずとの相性を知ってからは、米で腹を膨らませる方法を覚えた。
「恋たんのはコッチな」
「いっぱい…」
俺の部隊に命じて配膳させ、俺は恋たんの分を巨大な器に盛り付ける。涎を垂らしながら、恋たんは嬉しそうにそれを受け取った。米や汁も山盛りの丼で。
「ほいよ、ねねたん」
「いただくのです」
ねねたんは相変わらず恋たんにべったりなので、恋たんの隣に料理を持って座る。
「もきゅもきゅもきゅ……」
「ふーっ、ふーっ……美味しいのです」
大量に食事を口に放り込む恋たんの隣で、木製の器を両手で抱え、ふぅふぅと息を吹きかけて冷まそうとするねねたん。可愛いなぁ、もぅ。
「さて、俺も飯にするかな」
「えっ?」
全員に料理が行き渡った事を確認して、俺は自分の夕食を取りに調理場へと行く。波才がきょとんとした顔をした。
「どうした?」
「もう…料理はないっすけど……」
「えっ?」
…………えっ?
「テメェ! 血は何色だぁああああっ!!!」
「赤色っすけどぼらっ!?」
はっちゃんは特殊な訓練を受けているので、一食くらい抜いても大丈夫だろ。
「というのは冗談だ」
「じゃぁ、なんで殴られたんですか……」
「俺だって飯抜きはヤダよ。半分こしよーぜ。はい、あーん」
「恥ずかしいんすけど……」
「いらないのか?」
「いるっす! うぅ……」
「あーん」
「あ、あーん……んむっ」
「美味いか?」
「むぐむぐ…美味いっす……」
少し物足りないが、まぁ、明日の朝までの我慢だ。
そして更に数日。とある街の近く、郊外の森。
「月、詠……」
「恋さん! ねねちゃんっ!」
2人の少女が、恋たんとねねたんに抱き着いた。
「よかった…無事だったんですね……」
「ん、月も無事…よかった……」
「ねねも、お疲れ様」
「ふんっ、大した事はなかったのです」
1人は線の細い、薄幸な雰囲気を醸す少女。もう1人は、赤フレームの眼鏡をかけた、強気そうな女の子。
「なぁ、波才」
「なんすか?」
「どっちが董卓ちゃん?」
「いま恋に抱き着いてる方が董卓ちゃんで、眼鏡を掛けてる方が賈駆ちゃんす」
「へー」
波才に教えられ、俺は再び董卓ちゃん達を見る。
「……」
「どしたんすか、社長?」
「いや」
可愛いなぁ、もぅ。
感動の再会劇を終えた董卓ちゃんと賈駆ちゃんだったが落ち着きを取り戻し、俺たちの前にやって来た。
「お久しぶりです、波才さん」
「うっす。お2人もご無事なようで何よりっす」
「はい。そして、はじめまして、北郷さん。私が董卓です」
「ん、はじめまして。商談に乗ってくれてありがとう」
丁寧に自己紹介をする董卓ちゃん。可愛いなぁ、もぅ。
「いえ、こちらこそ助けて頂けるなんて…感謝の言葉もございません」
「お礼の気持ちはお仕事の方で見せてくれればいいさ。それで、そっちの君が賈駆ちゃん?」
「そうよ。ボクからも礼を言うわ。月を助けてくれてありがとう」
「いやいや、お礼を言うのはまだ早いさ。まずは、安住の地へ着く事を考えよう」
「そうね」
賈駆ちゃんが、ほんの少しだけ瞼を下ろす。俺は、その変化を見逃さない。
「……」
「…何よ……ひゃぁ!?」
俺は、賈駆ちゃんの頭を撫でた。
「い、いきなり何する――――」
「頑張ったんだね」
「――――えっ?」
「恋や霞、ねね、それに華雄だって頑張った。でも、1番頑張ったのは君だ。武は使えない分、智を使い、朝廷の腐った奴らから董卓を守ってきたんだろう? 誰よりも、ずっと気を張って」
「あ…」
「だから、少しだけ休めばいい。こっからしばらくは、俺がその役を引き受けてやる」
賈駆ちゃんの反応に、董卓ちゃんがはっとした表情を浮かべる。言われて、初めて気づいたというところか。
「……詠、ちゃん」
「月…」
「ごめんね、詠ちゃん。詠ちゃんが頑張ってる事は知ってた…でも、心のどこかで、詠ちゃんは私と違うんだと思ってた……ずっと強い娘だと思ってた……」
「月ぇ……」
「でも…でも、それじゃいけないんだよね。頼ってばかりだと、親友なんて言えないよね……」
「そ、そんな事ない! 月はボクの親友なんだから!」
「ありがとう…でも、それだと私が自分を許せないの。だから……だから、今度は私が詠ちゃんを守る番なの」
「……うん」
さて、感動的なシーンだが……賈駆ちゃんの頭に乗った俺の手は、どうすればいいのかね。
この日はそのまま、休息も兼ねて森でゆっくりと過ごす。
「美味しいね、詠ちゃん」
「えぇ。一刀って、強いうえに料理も得意なのね」
「総合商社の社長だからな」
「そうごう…何でも屋だっけ」
「有り体に言えば、そうだな」
で、いまは夜の食事中。月たんと詠たんも、俺の料理にご満悦だ。ちなみに、真名は許してくれた。
「社長は凄いっすよ。料理以外にも、服を作ったり大工みたいな事もできるっすし」
「凄いですね」
「ホントに何でも屋なのね」
「もきゅもきゅもきゅ……」
「恋殿、おかわりを持ってきたのです!」
恋たんとねねたんは自由だ。
「さて、話は変わるけど」
それはいいとして、ストーリーを進める為に、話題を変える。
「目的地はさっき話した通りだ。ただ、このまま軍として行動するのは難しい」
「えぇ。恋の部隊と洛陽から連れてきた護衛部隊。数が多すぎるわ」
「だから、こっからは部隊ごとに別れて行動する。それぞれ商隊としてな」
「ちょっと待って! ここに居るのは兵たちなのよ? 商隊のフリは出来ても、万が一関や街で問い詰められたら、隠し切れないわ」
詠たんが素早くツッコミを入れる。ねねたんよりも反応が早いところを見ると、やっぱ詠たんの方がまだ実力が上らしいな。
「おいおい、何の為に俺が部隊を率いて虎牢関に助っ人に行ったと思ってんだ」
「そりゃ、自分の部下が居た方が動きやすくなるから…」
「たかだか100人で? 敵は20万なのに?」
「それは……」
「結局は恋たんの部隊と一緒に戦ったが、それなら俺と波才だけでも十分だ。だが、そうはしなかった。何故だ?」
俺の説明に、詠ちゃんが目を見開いた。ようやく俺の意図を理解したらしい。
「まさか、これを見越して……?」
「むしろ、こっちが
「確かに、時間はかかるけど、軍として行動するよりもずっと安全ね。疑われる可能性もぐっと減るわ」
どうだ、いい考えだろ?
おまけ
「そうそう、当然の話なんだが……」
「はぃ?」
「なに?」
食事を終えた月たんと詠たんに、俺は告げる。
「2人にも商人としての教養を叩き込むから」
「は?」
「お勉強……へぅ」
困ったような顔の月たんが可愛かったです。
…………ホントに口癖が『へぅ』だ。
あとがき
という訳で#39でした。
世間はGWとか言って、酷いトコだと10連休だとか抜かしてるのに、
一郎太はどう転ぼうともそんな事にはならないんだぜ。
まえがきにも書いたけど、
前回の『#40』は反董卓連合編が、ってことね。
まだゆっくり書いてくよー。
ではまた次回。
バイバイ。
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#39。
ようやく虎牢関の戦いも終わったぜ(短かったけど)
あと前回の前書き、後書きについてのお詫び。
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