No.571026

真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ十一

一刀、事の経緯を説明するの事。

ヤナギの報復が先延ばしになり申し訳無いの事と、小劇場と言っておきながら長さ的に“小劇場”じゃなくなっているが、もう手遅れな事。

2013-04-29 05:27:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1382   閲覧ユーザー数:1166

小劇場其ノ十一

 

 信じられない事というのは、稀に連続して襲い掛かる時がある。

 一人の男は、今それを体感していた。

「……お、おじちゃん、ですと?!」

 足元にいる少女から投げかけられた言葉に、歪む視界と強い目眩を同時に感じていた。

 覚束ない両足を何とか踏みとどまらせて、頭を押さえながらリンダは口を開いた。

「そ、それは……私の事、でしょうか?」

 現時点で出来る限りの、最高に爽やかな笑顔を少女に向けて問いかける。

 

「おじちゃんの他に誰がいるの?」

 

-バキッ!!-

 

 純粋とは、時として残酷である。

 小首を傾げたその可愛らしさに、男は何も救われた実感がなかった。

 寧ろ、心に出来たヒビが、大きな音を立てて広がったのを感じた。

 同時に、最大級の災難を痛いほど予感した。

 そして、それは程なく的中する。

 

「アッハッハッハッハッハ!!!!」

 

 突如響く笑い声。

 出所は場外で、外野として観戦していたクルミであった。

「リ、リンダっちが……お、おじちゃんだって……お、おじちゃんって言われて……アハハハ、痛い痛い痛い……お腹痛い」

 言葉通り、お腹を抱えてその場に横たわり、爆笑しながらのたうち回っている。

「オイ、笑うな……失礼だぞ……いくら、おかしい……とは、ククククッ……いえ……ブフッ!!」

 止めようとしている言葉とは裏腹に、アオイの表情は緩みっぱなしで、時折吹き出す笑いも混じっている。

 そんな二人の様子に誘発されたのか、周りからもクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 そんな嘲笑の対象である状況に耐えきれなくなったのか、リンダはまたもや出来る限りの、余裕のある表情を作る。

「ま、まあ、子供ですから。こういう事もあるでしょうね……」

 口元に浮かべる笑みは、小刻みに震えているのが誰から見ても明らかだった。

「なるほど……では私がおじさんなら、他の二人も同様に……」

「期待している所をすまないが……。ここのお子さんは皆とても心優しく、そして心優しい人間がお分かりいただけるみたいでな。私は“ヤナギお兄ちゃん”と呼ばれているぞ」

「はーい! 右に同じく、私“アキラ兄ちゃん”でございまーす!!」

 

-ガラガラッ!!-

 

 口元を軽く手で押さえて笑いを堪えるヤナギ、ハキハキと調子良く名乗りを上げたアキラの二人に、リンダのプライドは崩れ始めていた。

「そ、そんな……。有り得ない、私が……老けている、など……」

 最初は片手だけだったのが、今では両手で頭をかかえている。

 そんなリンダに、トドメの言葉が降りかかる。

 

「ねーねー。ヘンな顔しないで、いっぱい笑わないと、早くおじいちゃんになっちゃうよ?」

 

「グハァッ!!?」

 

-ガラガラ、ガシャアアン!!-

 

 もはや欠片も残らずプライドを破壊されたリンダは、よろけてその場に跪いてしまった。

 ギャラリーと化していた周りの人間は、自業自得とはいえ同情したのか、苦笑を浮かべていた。

 場内の様子が少し心配になったのか、外野の役員数名に足早に近付いた一刀は、声を潜めて話しかけた。

「ね、ねえ。流石にいたたまれなくなっちゃったんだけど……」

「ああ、大丈夫っすよ。見てて下さい、今からアイツが吹っ切れますんで」

「……はあ?」

 アキラの予想外の言葉に、一刀は声を裏返した。

 そして、場内の満身創痍の男に目をやると、その身体は小刻みに震えていた。

 

「…………わ」

 その身体から発した声は、同じく震えていて、若干涙も混じっているようだ。

「……まだ…………だ」

「な、何だって?」

 途切れ途切れに聞こえてきた声に、一刀は思わず聞き返してしまった。

 

「俺はまだ北郷一刀さんよりも年下なんだーーーーー!!!!」

 

「………………はい?」

 響いてきたその声は、唐突に叫ばれた事もあってか、実に虚しく皆の耳に届いてきた。

 その為、言葉の意味を認識するのが遅れて、小さな衝撃が実にゆっくりと訪れていた。

「お、俺より年下なんだ…………」

「ええ、一応はそうっすけど……」

「あと、今リンダさん自分のことを“俺”って言って……」

「普段のアイツの一人称はそうですね。人前では気取って“私”って言ってたり、自己陶酔したりするんすけど」

 二人は、自分達の話題に上がっていた男を眺めていた。

 彼は力なく立ち上がると、トボトボと場外へと歩いていった。

「おーい、リンダ! 大丈夫かー?」

「……一人にしておいて下さい」

 ガックリと肩を落として脇を通り過ぎたリンダは、そのまま城内へ戻る方向に足を向けた。

「こりゃ相当ショックだったみたいだな……。アオイさん、クルミちゃん、あいつのフォローを頼む」

「……出来る限りやってみます」

「まったく。しょーがないなー、“おじちゃん”は!」

 渋々リンダの後を追った女性二人に、アキラは申し訳無さそうな顔をした。

 

 

「ありがとう、みんな。助かったよ」

 勝利に導いた小さな英雄たちに近寄って、一刀は優しく頭を撫でていた。

 全員嬉しそうに、甘えるような微笑みでそれを受け入れている。

「お見事です、北郷一刀様。あのリンダに隙を与えてしまうとは!」

 一刀に近寄ってきたヤナギは、賞賛の拍手を贈っていた。左の一の腕には、まだリンダのコートが架かっている。

「大したことはしていないさ。それに、活躍したのは璃々ちゃん達だよ。だから、その拍手はみんなにあげてくれるかい?」

「フフッ、なるほど……。では、改めて。此度の皆様のご活躍、素晴らしかったです!」

 しゃがんで少女達に目線を合わせたヤナギは、さっきよりも大きめの拍手をした。

 それに対して少女達は、恥ずかしそうに笑ったり、その照れ故か一刀の後ろに隠れたりした。

「璃々。お母さん達の手助けをしてくれて、ありがとう……」

「あっ、おかーさーん!」

 いつの間にか近くにいた、リンダと対峙していた紫苑達も、少女達を笑顔で褒め称えていた。

 璃々は華やかな笑顔で、母親である紫苑の元へ駆け寄って来た。

「あのおじちゃん、暗い顔してたけどだいじょーぶかなぁ?」

「フフッ……大丈夫よ。あのお姉ちゃん達が励ましてくれるみたいだから……」

 男の戦闘中の姿から、現在の変わりように少し可笑しく思いつつも、璃々の頭を撫でながら優しく笑いかける。

「そんで北郷一刀さん。あれって結局、注意を引き付ける為の作戦だったんすか?」

 何となくでしか状況を把握していないのか、アキラは眉間に皺を寄せて問いかけた。

「うーん、きっかけは何となくの予想だったんだけど。リンダさんの戦い方って皆を挑発して攻撃させるようにしてただろ?」

「確かに、我らに色々ふっかけていましたな……」

「それで皆の攻撃を全部避けて、そしてまた挑発しての繰り返し。そこで気付いたんだよ。リンダさんって自分から攻撃を仕掛けてこないんだ」

「そういえば……」

 一刀の言葉に亞莎は思い当たった。攻撃していたのは、いつも自分達の方だった事を。

「で、考えてみた。もしかしたら“攻撃しない”んじゃなくて“攻撃できない”、もっと言えば“防御や回避は上手くても、攻撃はあまり自信がない”んじゃないかって」

「そんな馬鹿げた事……」

「俺もそう思ったけどさ。でもリンダさんの役目って諜報活動だろ? それで優先される任務ってのは、情報を確実に依頼者に渡す事だ。相手と闘って命を落とすのは、その依頼者にも危険が及ぶ事になりかねない……。それよりは、無駄な戦闘や反撃とかは回避して、いち早く逃げる方が得策だ」

 訝しげに口を挟んだ思春に、その反応を予想してか苦笑いで更に意見を付け足す一刀。

「天の国にも昔そういう事をしていた“忍者”っていうのがいたんだけどさ。物語とかの中では華麗に刀を振るっているけど、実際にはさっき俺が言ったように逃げ延びることを優先してたらしいし」

「なるほど……ご主人様の言う事にも、一理ありますわね」

「だからリンダさんには、皆が今にも向かっていきそうな雰囲気を見せておいて、後ろから璃々ちゃん達がこっそり近付くようにしたんだ。もし攻撃できないんだったら、相手の攻撃を防ぐ事と回避する事に神経を集中するハズだし」

「ですが、璃々様や他の皆様に危険が及ぶ可能性が……」

「そこは璃々ちゃん達の方が上手だったからね」

「と仰いますと?」

 眼鏡の奥の瞳を見開いて、更にヤナギは一刀に問いかける。

「璃々ちゃん達には遊びとして参加して貰ったのさ。“あの人に後ろから近付いていって、気付かれないように触れたら勝ちだ”って言ってね。遊びに関して言えば、子ども達の方が何枚も上手だからね」

「あのー。もしかしてリンダを“おじちゃん”って言わせるようにしたのも……」

「俺の差し金だったりして」

 アキラの薄笑いの問いかけに、悪戯が成功したように笑う一刀を見て、一同は妙に納得したように頷いた。

「いやはや、感服いたしました。リンダの隙をつく作戦を、これほど見事に……」

 本当に感動しているのだろう、やけに嬉しそうな笑顔でヤナギは一刀を褒め称えている。

「そんな大したモンじゃないって。成功したのは皆がしっかり動いてくれたからだし……」

 一刀は照れ臭そうに後頭部を掻きながら、ヤナギの言葉を受けている。

「主任。リンダ達をほったらかしにしてて良いんすかね?」

「おっ、そうだった! 皆様への無礼に対して、灸を据えなければ……!」

 笑顔から一転、叱責の準備に取り掛かろうと部下の男と同時に駆け出していく。

「あんまり手荒な事はしないでねー!」

 一刀のささやかな忠告を背に、男二人はそのまま離れていく。

 

「ふむ、何やらまた面白そうな按配ですな……」

 いつの間にか一刀の隣に立っていた星が、ニヤニヤと笑っていた。それを見た一刀は、少しウンザリしたような顔になる。

「また見物に行くのか?」

「いけませんかな?」

「また星が馬鹿にされないかが心配なんだよ……」

「…………」

 溜め息混じりに呟いた一刀の言葉に、星は瞳を見開いた。

「どうした? そんな顔して」

「いやなに。主の女誑しの術は相変わらずだと思いましてな……」

「なんだよ、それ」

「その術は、後ろで黙り込んでいる人間に施すべきではありませんかな?」

 

 一刀の肩に手を置きながら、星は後ろを見るよう促した。

 その視線の先には、一人の少女の姿があった。

 

 先程から会話に参加せずに、俯いたままの、黒髪の美しい少女が。

 

 

 

 

 

 

-続く-


 
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