まえがき コメントありがとうございます。蜀将模擬戦大会、終幕ですね。残ったのは鈴々、桔梗、愛紗、胡花、霞、恋、星、一刀。さて、誰が優勝するのでしょうか楽しみですね。はてさて、うちのヒロインの桃香と愛紗に頑張ってもらうことが来ました!それではごゆっくりしていってください。
第一回戦が終わり、勝利した俺たちは城の中の控え室で第二回戦まで少しばかりの休憩をとっている。
「お兄ちゃんの拳☆骨すごかったのだ!」
「気を上手く取り込めれば誰でも出来ると思うよ。」
「誰でも気を取り込めないから主が凄くなるのですよ。」
「わしも気を取り込むことは出来るが、お館様ほどではありませんな。」
「ご主人様、凄い。」
「恋にそう言われると、ちょっと誇らしく感じるな。」
飛将軍呂布なんだもんなぁ。普段の仕草からは全然そう見えないけど。
「? ご主人様、どうしたの?」
「いや、恋は今日も可愛いなぁと思ってね。」
「//」
頭を軽く撫でてやると、恋が擽ったそうに身をよじった。
「はぁ~~~~~。」
愛紗が破顔する。愛紗の可愛い物好きも相当なものだな。俺も好きだけどね~。
「愛紗はかわええなぁ♪」
「ん?」
霞も破顔してる・・・。その視線の先には愛紗の顔。
「ご主人様、ちょっと良いですか?」
「胡花? どうしたの?」
「霞さんは愛紗さんのことが好きなんでしょうか?」
「・・・。霞~、ちょっと良い~?」
「ん~? なんや~?」
「霞って愛紗のこと好きなの~?」
「なっ・・・。」
「・・・。」
「霞、愛紗のこと、好きなの?」
恋の純粋な瞳が霞を捉える。
「かわええなぁとは思うけど・・・//」
「い、いや・・・そう言われても私は・・・(ちらっ)」
ここで俺を見られても対処に困るよ。
「もしかして、聞いちゃいけないことでしたか?」
「そ、そないなことないよ。」
・・・なんか変な空気が控え室を包んでる。皆だんまりになっちゃったし。
「みなさーん!第二回戦を始めますよー!」
「う、うん!!」
明里の呼ぶ声で空気が払拭された。明里・・・グッジョブ!
・・・
「第二回戦、第一仕合。鈴々ちゃん対桔梗さん。」
「鈴々と対峙するのも久しぶりだな。」
「あの時は有耶無耶で終わったから、この場で白黒はっきりさせるのだ。」
「おうよ!わしとしても、あのままスッキリせぬ終わり方では納得がいかぬからな。」
「それでは・・・始め!!」
第二回戦の火蓋が切って落とされた。
「先手必勝なのだ!!」
鈴々が桔梗目掛けて突撃する。桔梗の武器、豪天砲は中距離からの砲撃を主とするものだ。距離が近ければ近いほど被弾する可能性が増すが、逆にほぼゼロ距離となれば鈴々に立ち回れる。丈八蛇矛は中距離、近距離では優位に立てる。突き、払い、斬り、そしてそのリーチの長さだ。それに加えて鈴々の身軽さからなる素早い立ち回り。それが鈴々の強みとなる。
「まっすぐ突撃してくるとはな。しかし、嫌いではない!」
桔梗が砲撃ではなく鈍器として向かってくる鈴々の突撃を弾き返した。武器の重量で言えば桔梗の豪天砲の方が重みがあるからな。
「今日は打ってこないのか?」
「鈴々に撃ち込んでも避けられるのが目に見えておるからな。それならば正面から鍔迫り合った方がやりやすいと思っただけのことよ。」
「鈴々もそっちの方がやりやすくて助かるのだ。」
丈八蛇矛と豪天砲のぶつかる轟音があたりに響く。傍観している俺でも相当な音量が聞こえてくるのだ。ぶつかり合わせている二人にはかなりの音量に違いないだろう。それから数十合打ち込んだ後、二人は一度距離を置いた。
「やはり喧嘩はこうでなくてはな。正面から正々堂々、これに限るわい。」
「それは桔梗に同感なのだ。」
いや、喧嘩じゃなくて模擬戦だからね。
「しかし、これではいつまで経っても埒が明かん。次の一合で最後にするぞ。」
「分かったのだ。鈴々、本気の本気で行くのだ!」
「よっしゃ!」
二人が同時に仕掛けた。二人の距離は一気に詰められ、丈八蛇矛と豪天砲がぶつかる。そして・・・桔梗の豪天砲が手から離れ、場外へと落ちた。
「・・・わしの負けだ。」
「桔梗さんの降参により、勝者!鈴々ちゃん!!」
第一仕合は鈴々が勝ったか。手に汗を握る仕合だった。一つ疑問に残るのが、なんで桔梗は砲撃を使わなかったんだろう?前に試したことでもあるのかな?
「また負けてしまったか・・・。しかし、次はわしが勝たせてもらうぞ。」
「次やっても鈴々が勝つのだ。」
「ははは!よう言うわい!」
桔梗は負けたけど、晴れ晴れとした表情を浮かべている。
「わしを負かしたのだ。優勝を目指すのだろう?」
「勿論なのだ!」
「その意気や良し!鈴々、頑張れよ。」
「応なのだ!」
鈴々は控え室へ行き、桔梗は俺の下へとやって来た。
「桔梗、お疲れ様。」
「いやはや、負けてしまいました。それにしても、鈴々は強くなった。以前に戦った時よりもかなりの実力を付けています。」
「前に戦ったって言うと・・・俺たちが巴郡を攻めたとき?」
「そうですな。あの時は決着が付かずじまいでしたが・・・まぁ、今度は負けませんがな。」
「桔梗はそうでなくっちゃね。」
「お館様とも一戦交えたかったのだがな・・・それは夜伽のときにでも取っておきますぞ。」
「う、うん//」
「お館様も初心ですな。まぁ、そこも魅力の一つだが。」
「桔梗、お手付きはいけませんよ。」
「分かっておるわい。」
紫苑がいつの間にか俺の隣にいた。全然気付かなかったんだけど・・・。
・・・
「それでは第二仕合。愛紗さんと胡花ちゃん、壇上に上がってくださーい。」
「はい!」
「応!」
次の仕合は胡花と愛紗か。初めての仕合じゃないかな?というか、胡花の模擬戦が初めて・・・さっきの蒼とのが初戦だな。
「胡花に愛紗の相手はきついんじゃない?」
「だが、胡花の動きも前に比べればとても良くなった。それは蒼に勝ったことで証明されているからな。まぁ、愛紗が相手となるときついというのは詠の言う通りだ。」
「愛紗ちゃんは私たちの将の中でも、五本の指に入るくらいに強いからね~。」
「ねぇ桃香、聞きたいことあるんだけど良い?」
「ん?なに?」
「漢女たちも将に入るの?」
「う~ん、どうなんだろうね~。ご主人様に聞いてみて。」
「そこはしっかり決めときなさいよ・・・。」
「えへへ♪」
「桃香様、もう一つ良いですか?」
「ん?」
「朝食の時に愛紗さんの様子が少しいつもと違うように見えたんですが・・・何かあったのでしょうか?」
「何か、ご主人様のことで悩んでるみたいなの。私も詳しくは知らないけど。」
「そうですか・・・。無理をしていらっしゃらなければいいんですけど。」
「心配ないんじゃない?今も見た感じでは何か悩んでるようにボクは見えないし。」
「う~ん・・・。私の気のせいなのかな~・・・。」
「まぁ、今の雰囲気だけ見たなら悩んでいる様には見えないがな。」
「ん?」
私が視線を愛紗たちの方に向けると・・・
「脇が甘い!もっと締める!」
「はい!!」
「・・・なんか、稽古みたいだね。」
「模擬戦じゃないわね。」
『一刀、愛紗たちをあのままやらせておいて良いのか?』
・・・俺に言われてもなぁ。二人とも夢中だから良いんじゃない?
『満足するまでやらせるということで良いんだな?』
うん。
『了解。』
「短刀を使うならもっと早く動け!対峙している相手をもっとよく見る!」
「はい!!」
「二人とも、大会だってこと忘れてるよな?」
「そうだな。まぁ、楽しそうだから良いじゃねぇか。」
俺たちはしばらく愛紗と胡花の修行と化した模擬戦を観戦した。
「相手の攻撃を受けるときは足腰に力を入れろ!せやーーーーー!!!」
愛紗が胡花の短刀を狙って偃月刀を振りかぶった。偃月刀は短刀に直撃し、短刀は宙を舞い場外へと落下した。
「勝者!愛紗さん!!」
「?」
「あっ!」
愛紗の頭の中に今が大会中だということは、すっかり消えてしまっているらしい。
「次は愛紗が相手なのかー、腕が鳴るのだ!!」
「あ、あぁ。(しまった。胡花の動きを見ているとつい指摘したくなって・・・。)」
「愛紗さん、ありがとうございました。また時間があるときに、色々とご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いします。」
「言ってくれればいつでも見てやろう。蒼に勝てるだけの技量があるのだ、もっと意識すればもっと強くなれる。」
「はい!」
愛紗って良い先生になれると思うな。飴と鞭の使い分けが上手いしね。・・・鞭の方が多いのは言わずとも知れているけど。
・・・
「第二回戦、第三仕合。恋さんと霞さん。壇上に上がってください。」
「恋と模擬戦なんて洛陽にいた頃以来やっとらんからなぁ。楽しみでうち、頭ん中が沸騰しそうや・・・。」
霞の表情に笑みがこぼれる。しかし、あれは・・・戦時の、将と対峙した時の笑みだ。あの笑みは見覚えがある。婆ちゃんが爺ちゃんと対峙した時の笑みだ。戦うことが好きな・・・言い方を変えれば戦狂い特有のものだ。
「恋、今回はうちも本気でいくさかい、気ぃつけんと怪我するで。」
「大丈夫。恋、負けない。」
「余裕しゃくしゃくやな。」
恋と霞が対峙する。こちらまでプレッシャーがひしひしと伝わってくる。観戦席側に視線を送ってみれば月が少し困惑した表情を浮かべていた。
「う~ん、私はどちらを応援すれば・・・。」
「どっちも応援すればいいんじゃない?」
「・・・そうですね。二人とも、頑張ってくださーい!」
月の応援が鍛練場に響くも、今の二人にその声は届いていないようだ。
「今回も恋殿の圧勝に決まってるのです!さっきの蒲公英のようにぶっ飛ばしておしまいなのです!!」
「うっ!!ねね、わざと言ってるようね!?」
「事実を述べただけなのです。」
「ぐぬぬ・・・。」
「ま、まぁ、蒲公英も頑張ったよな。」
「ご主人様・・・それ、慰めにもなりませんってば~。」
「ごめんなさい。」
なんとなく謝ってしまう俺がいる。
「それでは第三仕合・・・始め!」
「先手必勝やーーー!!」
霞が恋に向かって突撃した。しかし、恋は目立った動きはなく視線を霞に向けているだけ。
「神速の一撃!躱せるもんなら躱してみぃ!!!」
霞の強みはその槍捌きのスピードだ。俺も初見はかなり危なかった。俺がそんなことを考えている間にも霞の飛龍偃月刀は着々と恋への距離を狭めていく。
「躱す必要、ない。」
恋は霞の突きを方天画戟で横薙ぎに一閃することで、霞を後方に弾き飛ばし距離を置いた。
「っつう!相変わらずの馬鹿力やなぁ・・・右腕に力が入らへんで。」
「もう終わり?」
「そないなことあるかい!まだまだこれからや!!」
「そう・・・じゃあ、恋の番。」
次は恋が霞に突撃していく。恋の三連突きが霞を襲う。
「ぐっ!」
どうにか耐えるも腕を痺れさせられたせいか、体勢を崩された霞。そこに恋が足払いを入れることで、霞が背中から地に倒れた。
「これで、終わり。」
方天画戟が霞の首筋に当てられる。
「ぐっ・・・うちの負けや。」
「勝者、恋さん!」
「やはり恋殿が勝ったのです。ねねの予想は必中なのです。」
なぜかねねがドヤ顔する。まぁ、恋に関してのことだからね。ねねは嬉しいんだろうな。
「恋の強さは相変わらずやなぁ。うちももっと修行せなあかんな。今度また付き合ってーな。」
「(こくっ)」
流石は三国最強、飛将軍と謳われるだけのことはあるってことか。
「霞さん、負けちゃいましたか・・・。」
「恋が相手なんだから、仕方ないんじゃない?お腹が空いてるなら勝機はあるんだろうけど、万全の恋が相手ならボクがいくら策を考えても勝てそうにないもの。」
「それなら恋ちゃんも軍師になれるんじゃない?」
「恋のあれは野生の勘よ。だから恋にしか理解出来ない。軍師ってガラではないわね。」
「へぇ~。」
・・・
「第二回戦、第四仕合。ご主人様と星さん。壇上に上がってください。」
「星、よろしくね。」
「はい。主よ、今日こそ勝たせていただきますぞ。」
「それはどうかな。俺も負けるつもりはないよ。」
まぁ、今日の霞は特に警戒しないといけないかな。一回戦の様子を見るに、明らかに気の高さが違う。何がそうさせているのかは分からないけど、下手をすれば一瞬でやられる。
「それでは第四仕合・・・始め!」
「先手必勝!はい、はい、はいぃーーー!!!」
「くっ!?」
は、速い・・・さっきの霞も速かったけど、星は一発一発の隙がほとんどない。受けたと思ったら次の一撃が繰り出される。
「まだまだーーーーー!!!」
反撃の隙が見つけられない。穂を掴みにいけば掌ごと貫かれそうな勢いだ。
「反撃などさせませぬぞ!!」
「く~っ!!」
このまま受け続けて星のスタミナ切れを待つか?・・・いや、その前に俺が場外に押し出されるな。それから少しずつ押され、あと数歩で場外のところまで差し迫ってきた。しかも、突きの速度は上がってきたよ。背水の陣ってこういう時に使うのかな?
「これで、トドメです!!」
もう引けないところまで来てもなお襲いかかってくる龍牙。・・・鈴の体液が入ってるって言ってもあんまりしたくはないけど、やんないと勝てないかなぁ。出来ることがあるのにやらないのは星にも失礼だし・・・やるか。俺は龍牙の穂先にわざと左手を差し伸ばし・・・自身の掌を貫通させた。
「ぐっ!!」
「なっ!?」
「ひっ!!」
観戦席から聞こえる悲鳴。掌から止めどなく溢れ出る鮮血。痛みも凄まじいが、気にしちゃあいられない。俺は貫通した手で龍牙を掴み、星の動きを止めた。
「これで・・・突けないよね。」
星は俺の奇行に戸惑いを隠せないでいたようで、動きを止めていた。
「・・・このまま続けたら主が何をしでかすか分かりませんからな。今日は私の負けを認めましょう。」
「・・・。」
「朱里、仕合終了の合図をお願い。」
「は、はい!しょ、勝者!ご主人様!」
とりあえず、刺さったままの龍牙を抜いた。やっぱり自然回復が早くなっても痛いもんは痛いんだね。血も止まんないし。
「一刀、一応包帯を巻いて止血だけでもしておくから救護室に来い。」
「あぁ、よろしくね。」
「私も同行しますぞ。」
「うん。」
俺は星と華佗と一緒に救護室へと向かった。
「ご主人様、大丈夫でしょうか?手、貫通してましたし・・・。」
「私の体液を飲んでおるから明朝には傷は塞がっておるだろうが、今日は剣を握ることも難しいだろうな。」
「それでは第三仕合は明日にしましょう。愛紗さんたちもそれで良いですか?・・・愛紗さん?」
「愛紗ちゃんなら救護室へ鈴々ちゃんと行きましたよ。桃香様も。」
「いつの間に・・・。」
・・・
俺は華佗に包帯を巻いてもらうと、とりあえず寝台に座った。ちょっと休憩。
「主よ、前に無理をしないよう言ったはずだが?」
「あぁしないと勝てないかなって思ったんだよ。」
「それで槍を貫通させるなど、非常識にもほどがあります。戦ならまだしも、模擬戦でそこまでせずとも・・・。」
「どうせやるなら勝ちたいじゃない。」
うっ・・・私はどうも、ご主人様のこの無邪気な子供のような笑みに弱いようだ。
「はぁ・・・今日は大人しくしておいてくださいね。」
「はーい。」
俺は愛紗と詠の監視の下、俺の部屋で晩御飯まで待機中。う~ん、手持ち無沙汰だ。
「詠、何か面白いことない?」
「なんでボクに聞くのよ?」
「詠なら何か面白い発想が浮かぶかなーって思って。」
「・・・あんた、軍師を馬鹿にしてるでしょ?」
「そんなことないけどなぁ。」
「ふん。まぁ、遊びたいのなら璃々でも誘えば?」
「その手があったか!流石詠だな!」
「こんなことで褒められても嬉しくないわよ。」
「ご主人様、部屋を抜け出して遊ぶなどと・・・私が見逃すとお思いですか?」
「愛紗も一緒に・・・」
「お断りします!というか、そういう問題ではありません!」
「詠、愛紗が怒ったよ。どうすればいいかな?」
「一緒に恋の部屋にでも行けばいいじゃない。」
「うっ・・・」
「そっか。それなら外で何かする必要ないもんな。愛紗、俺おとなしくしてるから一緒に恋の部屋に行こう!恋と動物たちの可愛い姿を堪能出来るぞ!」
「ぐっ・・・(負けるな私!ご主人様を出歩かせては何が起こるか分からんのだぞ!だが・・・ご主人様の上目遣いを前に誰が断れようか!否!いるはずがない!)分かりました。」
「堕ちたわね。」
「やったね!じゃあ早速三人で行こう!」
「気を付けて行きな・・・ってぇ!なんでボクも一緒なのよ~~~~~!!」
俺は右手で詠の腕を掴み、恋の部屋へと三人で向かった。
「詠、諦めろ・・・。」
「はぁ・・・頭痛がしてきた。」
・・・
夕飯を食べ終え、陽が沈み結構経った頃、私は一人で城壁の上まで来ていた。
「まさか主に怪我をさせてしまうとは・・・。」
穂先を潰していたと油断していた。打撲程度で済むだろうと慢心していたのが仇となった。あそこで何故私の龍牙が主の掌を貫通したのかは分からない。だが・・・あの瞬間、掌を貫通した瞬間は生きた心地がしなかった。主の前では平静を保っているように見せれていたのだがな・・・。
「ふぅ・・・。」
主の姿が見えなくなった途端、私の中で不安がどんどん溢れてきた。だから今もこうして熱を冷ましに涼みに来ているのだがな。
「・・・星ちゃん?」
「桃香様でしたか。どうなされた?」
「ううん、星ちゃんがここに上がっていくのを見かけたから。風に当たってたの?」
「えぇ。今日の模擬戦のことで主に小さくない怪我をさせてしまいましたので。その反省といったところです。」
「そっか・・・。」
それ以上は何も聞かずにいてくださったのは桃香様の優しさに感謝だ。
「ところで、桃香様は主の下へ行かれないで大丈夫なのですか?」
「さっきちょこっと顔を出してきたから大丈夫。ご主人様は模擬戦と、恋ちゃんたちと遊んで疲れたって言って今はもうお休みしてるよ。」
「主は元気ですな。怪我人とは思えぬ。」
桃香様の話を聞いていると、私が主の心配していたのが馬鹿らしく思えてきた。
「星ちゃんは、ご主人様のこと・・・どう思ってる?」
「藪から棒にどうしたのですか?」
「愛紗ちゃんね、何かご主人様のことで悩んでるみたいなの。それで、皆はご主人様のことどう思ってるのかな~って思って。」
「そう言う桃香様はどうお思いなのですかな?」
「私はね~、ご主人様の一番になりたい!って思うよ。皆のことを好きでいてくれるご主人様が好きだけど、たまに私だけを見て!って思うもん。」
「なるほど。私は・・・勿論、桃香様のように主を独占したいとは思いますぞ。しかしそれ以前に、私は主を守る。その為には主より強くならねばいきませんのでな・・・なかなか追いつかせてはくれませんがね。」
「ご主人様強いもんね~。」
「えぇ。」
それからしばらく二人で他愛ないことを話し続けた。
「桃香様、酒の肴にメンマでもどうですかな?」
「ま、また今度いただくね。」
・・・
ふぅ・・・今日は疲れた。恋の部屋に遊びに行ったら動物たちが寝ていたので恋とねねとのんびりした時間を過ごした。詠はねねと喧嘩してたけど、なんだかんだ仲が良いんだなぁっていう感想を覚えたね。
「一刀、手の怪我はどう?」
「もう傷は塞がったから、明日には傷跡も残ってないんじゃないかな。」
今日も薔薇と寝台で横になっている。
「あんたの回復力って相当なものよね。」
「俺って気の扱い方を知ってるから、それを応用して人間の傷の治り方とかも教わってるんだ。それに加えて鈴の力が俺の中にあるからね。それで人よりちょっと自然治癒が早いんだよ。」
「それ、ちょっとじゃないわよ・・・。」
ん~、爺ちゃんや婆ちゃんは傷の治りとか相当早かったからなぁ。昔はあれが普通だと思ってたし。
「薔薇はお昼何をしてたの?」
「清羅にお料理を教わってたわ。」
「料理?」
「えぇ。私、立場上料理をすることなんてなかったから。ちょっと興味が湧いたの。未だに包丁を使うのは少し怖いけど。」
「時間があるときに俺も教えようか?」
「ほんと!?・・・いや、遠慮しておくわ。」
「なんで?」
「な、なんだっていいでしょ!(一刀に教わったら、一刀を美味しいって言わせる計画が崩れるじゃない。)」
「?」
俺も教えたいのになぁ。・・・こっそり厨房に覗きに行ってみるか。
「とりあえず、今日はもう寝るわ。一刀も一応怪我人なんだから、大人しく寝ときなさいよ。」
「はーい。お休み、薔薇。」
「お休み、一刀。」
俺は瞼を閉じると夢の世界へと誘われてた。
「む・・・出遅れた。今日は一刀に相手をしてもらってなかったからな。・・・明日こそ。」
二人が眠りについた頃、少し拗ねた様子の鈴がいたそうな。
・・・
ついに朝が来てしまった・・・。先日はご主人様の怪我のために中断されたが、私が鈴々に勝てばご主人様と当たってしまう。もし私が先日の星と同じようなことをしてしまったら・・・あぁ、考えたくもない。私なら立ち直れそうもない。
「愛紗、どうしたのだ?珍しく浮かない顔をしているのだ。」
「珍しくは余計だ。・・・それより鈴々、一つ聞いてもいいか?」
「うにゃ?なんなのだ?」
「鈴々はご主人様と決勝で戦うことになったら、ご主人様に槍を向けることができるか?」
「お兄ちゃんは強いから模擬戦で当たるのは楽しみなのだ!」
「楽しみ・・・か。」
今はそういう考えを持てる鈴々が少しだけ羨ましい。
「決勝の前に愛紗と模擬戦するのも楽しみなのだ!」
「そうだな。」
義妹の前でみっともない姿を見せるわけにはいかないからな。私は頬を軽く叩き、気合を入れ直した。
・・・
皆が昼食を摂り終わると昨日の続き、もとい準決勝から大会が再開される。
「準決勝、第一仕合。鈴々ちゃん対愛紗さん。壇上に上がってください。」
「いざ、尋常に勝負なのだ!」
「あぁ、来い!」
お互いを知り尽くしている二人の勝負だな。
「二人とも~、頑張って~!」
桃香の声援が観戦席から聞こえてくる。声色が嬉しそうだ。
「せりゃ~~~!!」
鈴々が猛攻を敢行した。
「ふっ、お前の動きを既に見切っている。」
愛紗は鈴々の横薙ぎを軽く躱してみせた。
「次は私の番だ!はあああ!!!」
「うりゃーーー!!」
青龍偃月刀と丈八蛇矛のぶつかる金属音があたりに響く。どちらも一歩も引かない攻防戦が繰り広げられる。
「ぐーたらしてても腕はなまっていないようだな。」
「ちょっとやそっとじゃ負けないのだ!」
二人とも十数合打ち合っているが、動きが落ちることはない。むしろ苛烈をきわめていく。
「なんだか二人とも、楽しそうだな。」
「うへぇ。蒲公英、姉様と模擬戦しても楽しいなんて感じたことないよ~。」
「それは蒲公英の修行量が足りないだけだろ。あたいは増やしても一向に構わないんだぜ。」
「勘弁して~!」
「兄貴、うちの妹たちをどうにかして女の子らしく出来ねえか?月ちゃんほどとは言わねぇが、流琉ちゃんくらいには・・・。」
「妹の面倒を見るのも兄の仕事だよ。頑張って!」
「他人事のように言いやがって・・・並みの妹じゃねえんだぞ。」
「うん、知ってる。」
「・・・はぁ。」
蒼の溜息を聞きつつも、視線は鈴々と愛紗に向けていた。おっ、ここで鈴々が仕掛けるか。
「今なのだ!うりゃりゃりゃーーーーー!!!!!」
鈴々が大振りに一撃で決着をつけに行った。あれは長坂の時に夏侯惇さんに使った技か。
「その大振り、待っていたぞ!」
そこで愛紗も前に出た。
「我が魂魄を込めた一撃!受けきれるものなら受けきってみろ!青龍逆鱗陣!!!」
「にゃっ!?」
愛紗の放った一撃は鈴々を襲い、咄嗟に防御体勢をとった鈴々だったが勢いを殺しきれずに場外へと吹き飛ばされた。
「勝者!愛紗さん!!」
「う~、負けたのだ・・・。」
「相手が私だったのが悪かったな。」
「けど、次は絶対愛紗をぎゃふんと言わせてやるのだ!!」
「ふっ、返り討ちにしてやる。」
愛紗が鈴々の手を取って立ち上がらせる。その時には二人とも笑顔で、仲睦まじい姉妹へと戻っていた。
「二人とも、お疲れ~。」
「鈴々、負けちゃったのだ・・・。」
「大丈夫だよ。今日負けた分は次勝てばいいんだから。ね?」
「そうだけど・・・悔しいのだ!鍛錬の時間をもっと増やすのだ!」
「その意気だ。模擬戦ならいつでも付き合ってやろう。」
桃香が応援席から降りてきて愛紗たちと談笑している。微笑ましいなぁ。
「準決勝、第二仕合。恋さん対ご主人様。壇上に上がってください。」
俺の番か。
「ご主人様、手の怪我、大丈夫?」
「うん、もう完治したから大丈夫だよ。」
「良かった。これで恋、本気、出せる。」
「俺も今日は鈴がいないからね。油断せずにいこう。」
俺が聖桜、恋が方天画戟を構える。あ~・・・恋からのプレッシャーが凄いことになってる。
「お館様と恋の仕合か、これは見逃せんな。」
「なんて闘気だ、ただ見てるだけでさえ尻込みしてしまいそうだ。」
「胡花、恐ろしいのは分かるが俺の背中に隠れても何も変わんねぇぞ。」
「だ、だって・・・いざと言う時に蒼さんが守ってくださるかと。」
「俺に兄貴や恋の攻撃の副産物を蹴散らせってか?それは俺には荷が重いぜ・・・。」
「それでは仕合・・・始め!」
「行く。」
恋が開始早々、俺に突撃してくる。まずは一撃を耐えよう。上段から襲いかかる攻撃を受ける。
「ぐっ!?」
お、重い。俺の足場が少し陥没したぞ!?このままじゃ力押しで場外まで持って行かれてしまう。
「くっ・・・こっ・・・のお!!!」
俺は聖桜を両手に持ち替え、押し返すことで恋と距離を置くことに成功した。今分かったことは、恋相手に受けは非常にまずい。単純に力押しだけなら大丈夫だが、恋の動きは規則性や頭で考えられるものではない。そう、猛獣と同じなのだ。持ち前のスピード、パワー、第六感をフルに活かし、状況によって戦闘スタイルを変える。一番対峙したくない部類だ。
「まだ、終わらない。」
またもや恋が突撃してくる。ここで待っていたら堂々巡りするだけだ。なら・・・こちらも攻めに転じるのみ!!
「はあああああ!!!」
俺も前に出て剣を振るう。たまにフェイントで体術を織り交ぜているのだが、引っかかってはくれないよなぁ。俺のフェイントには引っかかってくれないのに、恋は嫌なところで蹴りや足払い、殴打を織り交ぜてくる。一発もらえば残るは死あるのみと思わざるを得ないほどの。
「な、なぁ・・・あの二人の剣閃、見えるか?」
「み、見えない・・・。」
「ご主人様、気を使わずとも恋ちゃんと対等に戦えるのね。」
俺と恋は約半刻の間、至近距離での死闘を続けていた。壇上は抉れた瓦礫が散乱している。分かるとは思うが、壇上は凸凹になってしまい、仕合を開始した当初の面影は微々たるものしか残っていない。
「いま。」
恋が砕いた壇上の瓦礫を方天画戟で打ち放ってきた。数にして約二十。躱せない数ではないが、その間に恋が攻撃してこないとは限らない。ならば・・・
「っ!?」
俺は飛んでくる瓦礫の半分を拳で打ち砕き、残りは剣の腹で恋に向かって弾き返した。まぁ、そこは恋も読んでいたようで、弾き返した分を難なく打ち砕かれた。ここまで来て俺たちの距離はほぼ零。恋が俺を討とうと突きを放ってくる。隙を突くなら今かな。
「っ!? どこ?」
「ここ。」
俺は縮地を使って恋の背後に回った。後は聖桜の鞘でちょんと恋の背中を突くだけ。
「恋・・・負けた。」
「勝者!ご主人様!」
「なんですとーーー!!!???」
ねねの大絶叫が鍛錬場に木霊する。あまりの声量にうちの軍師たちが驚いて一瞬飛び上がったのが視界に入った。
「ご主人様、強かった。」
「ありがと。けど、恋も十分強いからね。一発当たれば俺の負けだったんだから。」
「(こくっ)ご主人様・・・」
「ん?」
「(きゅ~~)お腹空いた・・・。」
少し弱ったような表情を見せる恋。耳が垂れてる子犬を彷彿させるのは気のせいではないだろう。
「あはは。じゃあ大会が終わったらお昼ご飯、食べに行こうか。」
「!(こくっ)」
おぉ~、喜んでる喜んでる。尻尾があったらふりふりしてそう。可愛いなぁ。思わず頭を撫でてみる。
「♪」
擽ったそうにしちゃって・・・ういやつめ~。
・・・
「決勝戦!愛紗さん対ご主人様。壇上に上がってください。」
ついにここまで来てしまった・・・。私は壇上に上がり、ご主人様と対峙する。
「愛紗、よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします・・・。」
「それでは仕合・・・始め!」
開始の合図が取られた。武器を構えなければならないのだが・・・。
「・・・愛紗?」
愛紗は武器を構える素振りも見せない。というか・・・闘気を全く感じない。
「もしかして、どこか調子が悪いとか?」
「い、いえ・・・そんなことはありません・・・。」
「?」
俺も構えを解き、愛紗の様子を伺うことにした。
「もしかして俺、何か気に障ることでもした?」
「違います!ご主人様は・・・ご主人様は何も悪くないのです。」
「なら何が・・・。」
ご主人様が困った表情を見せる。私はご主人様にこのようなお顔をしてほしくはないのに・・・。だが、私は槍を向けることも出来ない。
「愛紗、どうしちゃったのだ?様子が何か変なのだ。」
「なんですの?さっさと始めなさいな。」
「・・・麗羽様、これ(空気)、読めますか?」
「・・・からけ?」
「ダメだこりゃ。」
愛紗は俯いたまま俺の方を見ようとしない。
「え、えと・・・明日に回してもいいんだよ?」
「・・・・・ない・・・・・。」
「え?」
「出来るわけ、ないではありませんか・・・。」
「!?」
ようやく愛紗が顔を上げてくれたと思ったら・・・泣いていた。笑顔なのに・・・泣いていたんだ。
「あなたは私のご主人様なのですよ。とても優しくて、頼りがいがあって、いつも助けてくださる。こんな無骨な私を可愛いと言ってくださった。それに、あなたの前では将である前に一人の女でありたいと、そう思うようになっていた自分がいるんですよ。」
愛紗の笑顔が次第に崩れていく。
「私の大切な・・・大好きなご主人様なんですよ。そんな方に槍を向けるなど・・・恐ろしくて・・・出来るわけ・・・ないではありませんか。」
「愛紗・・・。」
俺は聖桜を置いて愛紗の下へと駆け寄った。
「すみません・・・私にご主人様との模擬戦は・・・無理のようです。」
「ううん。俺こそ、愛紗に無理させてごめんな。」
俺は愛紗をそっと抱き寄せた。
「それと、ありがとうな。俺のことを好きでいてくれて。」
愛紗はしばらく俺に抱きしめられたまま涙を流し続けた。
・・・
あの後、愛紗の様子から大会は途中で打ち切りとなり、優勝は俺と愛紗ということになった。今は愛紗と共に俺の部屋でお話し中。鈴々は準決勝があったせいか、早くも自室で眠りについたようだ。薔薇は月の部屋へと行ってしまった。気を遣わせてしまったかな?
「落ち着いた?」
「はい。・・・お見苦しいところを見せてしまいました。」
「見苦しくなかったよ。俺は嬉しかったんだから。」
「え?」
「大好きなご主人様って・・・言ってくれたからね。」
「あ、あれは・・・//」
「俺も愛紗のこと大好きだからね。」
「はぅ・・・//」
顔を真っ赤にしちゃって・・・可愛いなぁ。
「ご、ご主人様。一つ、お願いがあるのですが・・・よろしいでしょうか?」
「ん? どうしたの?」
「キス・・・していただけませんか?」
「・・・随分といきなりなんだね。」
「す、すみません。その・・・安心したいのです。」
「安心?」
「模擬戦でご主人様に槍を向けたらと思うと怖くなってしまって・・・この恐ろしさを払拭してもらいたいのです。・・・ダメですか?」
「ふふっ、分かった。愛紗、目を瞑って。」
「は、はい。」
少しずつ愛紗の顔が近くなっていき・・・俺は愛紗の唇を奪った。
「ちゅっ・・・っ・・・はぁ。」
俺と愛紗の舌から糸が引かれて・・・途切れた。
「安心した?」
「・・・安心はしましたが、恥ずかしいですね//」
愛紗は一層、顔を赤くしていた。そして、今まで見た中で一番綺麗な笑顔だった。
「じゃあ、そろそろ寝ようか。」
俺は寝台をぽんぽんっと叩く。」
「はい、失礼します//」
寝台に愛紗を招き入れ、愛紗に毛布を掛けた。
「今日は色々と大変だったね。」
「はい。・・・え~と、大会の景品はどうなるのでしょうか?」
「景品?」
「その・・・ご主人様を独占できるという、あれです。」
「そこは愛紗の自由にしちゃっていいんじゃない?」
「・・・分かりました。」
愛紗が、くすっと笑ったのは何か考えがあるのだろうか?まぁ、明日になれば分かりそうだからいっか。
「じゃあ愛紗、お休み。」
「お休みなさい、ご主人様。」
俺が瞼を閉じると、愛紗が少しだけ俺にしがみついてきた。俺の意識が朦朧とする中・・・一言だけ何か聞こえたのだが、うまく聞き取ることは出来なかった。
「ご主人様・・・いつまでも、お慕いしております。」
あとがき 読んでいただきありがとうございます。大会と言う名の拠点はいかがでしたでしょうか?今回は星、愛紗にスポットを当ててみました、さて次回 でぇと。ステップアップ! でお会いしましょう。次回をお楽しみに。
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何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。