「ふぅ…… 何とかなったね。皆、怪我はない?」
ユウヤは辺りを見回した。
「まあ、何とか、ね」
「……疲れたけど、無事」
「こちらも大丈夫です」
と、仲間たちが応える。
「しかし、ありがちな罠とはいえ、毎回ほんと手こずらせてくれるわよねぇ」
レンゲが嘆息するのも無理はなかった。
宝箱を開けた→魔獣が飛び出した なんていうのは、使い古された王道パターンだが、度々ユウヤ達を苦しめてきた。
「さて、中身は確保できたし、そろそろ帰ろうか」
「……」
立ち上がりつつユウヤは声をかけるが、皆の反応が悪かった。
「あれ?どうした?」
「……あれ」
シノが目線で示す方向を見れば、通路の入り口が落石で塞がれていた。
「どうやら、魔中との交戦中、何らかの衝撃でこうなったのかと」
レンに言われて、ユウヤも納得した。
(確かに、あれだけ暴れたらこうなるのもしゃーなしかもね)
レンゲは改めて、自分たちを苦しめた元凶ともいえる宝箱を睨み付けた。
事態はこうだ。
『洞窟が新発見されたので、中の様子を見てきて、可能ならマッピングもして欲しい』という依頼を受けたユウヤ達一行は、そに洞窟に足を踏み入れた。
道中、強敵に出会うことも、何かトラップがあることもなく、ユウヤ達は拍子抜けしていた。
難なく辿り着いた最深部に、これ見よがしに宝箱が1つ。
正直、『物足りない』と思っていたユウヤ達は、あからさまに怪しい宝箱を開けた。
案の定強い魔獣が現れて、ユウヤ達は追い詰められるも、なんとか討滅成功。
しかし、交戦中に魔獣の尻尾が壁に激突し、そこが崩れて入り口が塞がったと。
「さて、どうしようか?」
誰にへでもなく、ユウヤは問いかける。
ざっと部屋の中を見渡してみるが、入り口は塞がれた場所しかない。上を見上げても、遥か彼方に天井が見えるだけ。壁を登って脱出という案はない。
「一か八か、ここ、飛び降りてみる?」
レンゲが言うのは、入り口とは反対側にある崖。試しに照明魔法を使ってみるが、当然底まで光は届かずに、暗くて何があるかここからでは見えない。
「止めておいたほうが賢明だと思います。ここまで1本道だったので、仮にこの下が通路だったとしても、どこかで合流できるとは思えません」
「まあ、そうだよな」
レンの応えに、ユウヤも相槌を打つ。
「定番だけど、あれ、壊すのがいいんじゃないかな」
ユウヤが指し示すのは、入り口を塞いでる岩々。
「また、どこかが崩落する危険性もありますが?」
「そのときはその時じゃん。今はこれしか方法考え付かないし、やってみてもいいんじゃないか」
勤めて明るく言うユウヤに、皆は同意することにした。
「セイッ ハッッ ヤァッッ!!」「――総てを滅ぼす業火よ 今我にその力の欠片を―― フレアボムッ!!」「アハハハハ 砕け散れぇッッ」「行きますよシャムキャット レッグカットです」
剣、魔法、拳、召喚獣と、皆の力を合わせながら岩を砕いていく。
続けること20分程――
ピシッ ガラガラガラ
ついに一番大きな岩に亀裂が入った。
「よし、このままいくぞ」
「えぇ」「了解です」「はい」
更に続けること5分
とうとう、壁の向こう側が見えた。
「今だ。行け、みんな」
ユウヤの声に、仲間たちが走り抜ける。
(よし、俺も――)
そう思った時だった。
ガラガラガラ ドンッ ズザザァー
壁の、さらに上の部分が崩落を始めた。しかも、先ほどの比じゃない大崩落を。
そのまま走り抜けていれば、ユウヤは間に合ったかもしれない。しかし、剣士の癖か、音に反応して一瞬足を止めてしまっていた。
「ユウ、上よ」
「チッ」
落ちてきた岩を回避するために跳躍。しかし、出口が余計に遠くなってしまった。
間の悪いことに、着地予定地点も、崩落を受けて岩が流れ込んでくる。
「う、わぁぁぁ」
成す術もなく、そのまま岩の雪崩れに巻き込まれるユウヤ。
「ユ、ユウヤァァァッッ」
普段は物静かなシノが、悲鳴に近い大声を張り上げる。走り寄ったレンとレンゲは手を伸ばし、ユウヤを掴もうとする。
が……
キーンコーンカーンコーン
教室に、午後の授業開始前の予鈴が鳴る。
「どうやら、昼休みはここまでのようだね」
男子生徒Qはそう言って、手にしていたノートを閉じる。
「えぇ~ 今いいトコだったのに……」
「そうですよ。これじゃあ、続きが気になって、授業どころじゃありませんよ」
「……ヒドぃ」
途端、不満げな顔をする3人の生徒。
「まあまあ、放課後にまた続きするから。それに、午後の授業、君たちはレポート提出あるんでしょ」
なだめるように言いながら、Qは机の上を片付けていく。
「……放課後、絶対ですからね。約束ですよ」
やがて、観念したように1人が言う。
「もちろん。待ってるよ」
穏やかな声でQは約束する。
「分りました。じゃあ、授業行ってきます」
立ち上がった1人を追うように、残り2人も教室を後にした。
残されたQは1人、ポツリと呟いた。
「これが、普通のTRPGで終わればいいんですけどねぇ……」
その呟きに応える者はいないが、Qが手にしたサイコロが一瞬、紅い光を放った……ように見えたのは、誰も知らない話である。
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単発ネタ帳です。思いついたシーンをあげているだけですから……