No.567274

真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』其の二十六

雷起さん


得票数29の焔耶のお話です。
懐妊五ヶ月前、ひと月前、懐妊直後、そしておまけとなります。


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2013-04-18 08:12:57 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3357   閲覧ユーザー数:2580

第二章  『三爸爸†無双』 其の二十六

 

 

本城 後宮談話室             (時報:桂花一人目金桂 生後七ヶ月)

【焔耶turn】

 夏の日の朝。

 桔梗様が、先日お産みになった竜胆を抱いてお乳をあげている。

 その横では桃香様も、先月一歳のお誕生日を迎えられた香斗様にお乳をあげていた。

 赤ん坊は一年でこんなに大きくなるんだと、改めて実感する。

 璃々の時は比べる対象が居なかった所為かそれほど気にならなかったが・・・。

 

「焔耶お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「ん?ああ、璃々がこれくらいの頃を思い出してた。お前も大きくなったな。」

 ワタシは頭を撫でて微笑んだが、璃々は口を尖らせている。

「璃々はもう子供じゃないもん。お姉ちゃんなんだから!」

 そう言って指差す先では紫苑がやはり赤ん坊にお乳をあげていた。

 赤ん坊の服が桜色だから、あれは妹の方の崔莉(ちぇり)か。

 双子の姉の方の露柴(ろぜ)は赤い服を着て乳母車の中で眠っている。

「自分のことを『璃々』って名前で言ってる内は子供だな♪」

「そ、そうかな・・・・・?」

 ワタシと璃々のやり取りをみんなが楽しそうに眺めていた。

 二人を除いて。

「ちょっと焔耶!それってたんぽぽ達に対しての挑発のつもり!?」

「ねねに喧嘩を売ると言うのなら買ってやるのですっ!!」

 目を吊り上げて詰め寄る二人にワタシは椅子から立ち上がる。

「音々音はまだいいとして、お前はふた月前に向日葵を産んでいるだろうが。いい加減直した方がいいんじゃないのか?」

 ワザと呆れた口調で言ってやった。

「それを言ったら風だって直して無いし、地和だってそうじゃない!」

 こいつは自分の事なのに他人を引き合いに出してどうするんだ・・・。

「風は計算でやっていますので~♪」

「ちぃもアイドル引退した訳じゃ無いからねぇ。ファンには夢を与えなくちゃ。」

 二人は面白そうに言ってくる。

「だ、そうだぞ。まあ、お前にも何か考えがあると言うのなら別に構わんが・・・璃々はどうしたい?」

「璃々は・・・治そうかなぁ・・・・・露柴と崔莉のお姉ちゃんだもん。」

 指を咥えて呟く璃々を見て、音々音の顔色が変わったな。

「ね、ねねにも深~~い理由が有るのですよ!ひ、人には言えないですが・・・で、でもねねも子供ができたら恋殿みたいに、子供の前では媽媽と言うのです!」

「ああああーーー!ねねの裏切り者!」

 悔しそうに地団駄を踏むなよ。

「あのなあ、これはお前の為でもあるが、向日葵の為でもあるんだぞ。」

「???」

 分かってないのか・・・。

「子供っぽい母親なんて子供からすれば恥ずかしいだけだ。紫苑や桃香様の様に優しく包み込む母親と云うのが一般的な理想だな。まあ、ワタシには無理だから、ワタシが目指すのは桔梗様の様にその背中を見て自分もそうなりたいと思われる母親だ。」

「おお、焔耶!良い事を言うではないか♪」

 春蘭!

「その気持ち私もよく分かるぞ!」

 愛紗!

「うむ、良い覚悟だ、焔耶。」

 思春!

「うん、これは焔耶の言う通りだな、たんぽぽ。」

 翠!

 ワタシ達は五人で肩を組んで笑い合う。

 

「(ちょっと、桔梗!この脳筋五人衆をどうにかしてよ!)」

「(待て、蒲公英。これはわしの責任か!?)」

「(そうよ、桔梗!真夏で只でさえ暑いのに、更に暑苦しくなったじゃない!)」

「(桂花まで!?)」

 

「なんか気分が昂ぶって来たな♪璃々、稽古をつけてやろうか?」

「うん♪」

 ワタシと璃々は庭に飛び出した。

 璃々はメキメキ腕を上げてきているから楽しいんだろうな。

「おお♪わたしも付き合うぞ♪」

「ちょっと待て、春蘭!その前に私の鍛錬に付き合ってくれぬか?」

「望むところだ、愛紗!!」

「思春!あたしらもやろうぜ♪」

「翠は出産してひと月か。鈍った勘を取り戻させてやるぞ♪」

「舐めんなよ!って、言いたい所だけど、よろしく頼むぜ♪」

 

 目指す母親像か・・・・・。

 蒲公英にはああ言ったが、未だ妊娠すらしていないワタシが何を言っていると自分でも思う。

 分かっているさ・・・・・ワタシは焦っているんだ・・・。

 懐妊出来ない事に・・・・・。

 ワタシは焦りを忘れる為に、璃々との稽古に没頭した。

 

 

 

 

四ヶ月後

本城 正門広場                (時報:桂花二人目 妊娠四ヶ月)

【緑一刀turn】

 詠の不幸が起こした地震から五日が過ぎた。

 現在、地震による被害状況の報告をまとめている所だ。

 地震が発生した直後から、桃香、華琳、蓮華の三王が対策本部を立ち上げてくれたため、本城と房都での被害確認と対策は早急に進められた。

 本城内での物的被害は陶磁器の食器が床に落ちて割れたり壁にヒビが入ったりした程度だ。

 だが、人的被害は慌てて転んだ人が続出して、打撲者が大量に出てしまっていた。

 大陸では地震が滅多に起きないので、地震そのものに耐性が無かったからだ。

 揺れそのものは、俺の感覚では震度3くらいだと思うのだが、みんなの感覚では天地がひっくり返った程に感じている様だった。

 あの戦乱を乗り越えたみんなや兵はパニックを起こさず対処できたが、城に勤めている人達は・・・・・転んで怪我をしたのは全てそういう人達だ。

 房都の街も一時騒然となったが、こちらは対策本部から出された声明が功を奏して、すぐに落ち着いたそうだ。

 ただその・・・・・声明というのが・・・・・・。

 

大地支(だいちささ)える玄武(げんぶ)(あば)れるを、(てん)御遣(みつか)いが陽力(ようりき)()てこれを(しず)めたり。(てん)御遣(みつか)()(かぎ)大陸(たいりく)不安無(ふあんな)し。』

 

 なんか俺たち三人が地震を押さえ込んだみたいに宣伝されてしまっていた・・・・・。

 本当に地震を止めたのは白蓮の『存在感殺し(プレゼンス・ブレイカー)』なんだけどなぁ。

 何故こんな宣伝をしたのか?首謀者の華琳が言うには、

 

『地震を占星術と同じ様に天啓と捉える学問があるのよ。今はそれほど重要視されていないけど。でも、それを利用して今回の地震は晋を神が認めていない神託だと言い出し、反乱を起こす者が出る可能性があるの。前漢の宣帝などが救済策を(しょう)して善政を施した記録を読んでいたから私達も即座に対応が出来たのよ。今回はあなたたちの神秘性をより強固にするのに利用させて貰ったけどね。』

 

 だそうだ。

 さすが華琳。『治世の能臣、乱世の奸雄』の実力は衰え知らずといった所だな。

 で、俺たち三人はこれから、地震の次の日以来の恒例となった都の視察に出発する準備をしていた。

 住民のパニックは無かったけど、小屋の倒壊やボヤ騒ぎは起きていた。

 耐震なんて考え方が無いから震度3程度でも建物に影響が出ている。

 その修復と治安維持に兵を大量投入しているので、作業の進み具合の確認をする為と、朱里から『ご主人さまたちが姿を見せれば民は安心します』と言われたからだ。

 こんな俺たちの姿を見るだけで住民の皆さんが安心してくれるならいくらでも見てもらおう。

 そして更に、今日は街に出かけるのにもう一つ目的が有った。

 それは焔耶に褒美をあげる事。

 あの地震が起きた時も焔耶は後宮にいる桔梗を訪れていた。

 貂蝉と卑弥呼の指示も有ったが、焔耶は華雄や猪々子達と一緒に子供達を上に落ちて来た物から身を挺して守り抜き、揺れが収まってからは焔耶が一人で街へ飛び出し、火の出た場所を消して回ってくれた。

 ボヤで済んだのは本当に焔耶のおかげだ。

 この報告を受けた俺たちと三王は直ぐ様焔耶に褒美をあげようとしたが、焔耶が『ワタシは独断で命令も待たずに勝手な行動をした』と言って頑なに拒否されてしまった。

 そこで俺たちが今回も焔耶に服をプレゼントする事にしたのだ。

 これなら焔耶も受け取ってくれる筈だよな。

 今の俺たちは護衛として付いてくれる焔耶を待っている処だ。

 

「今回はどんな服を焔耶に勧めようか?」

「前のやつも可愛いかったが、今回は更に甘ロリ風にしてみるか?

「和ロリなんかも似合いそうだよな♪」

 普段がボーイッシュな焔耶だから、ギャップ萌狙いでついロリィタ系で考えてしまうな。

 もっと違う物もいいかも・・・背が高くあのスタイルだ。何でも似合いそうだから却って迷うぞ。

 但し、黒のスーツに黒マントだけは避けようと思う・・・・・絵的にヤバそうだから。

 

「ご主人さまー♪」

 

「「「ん?」」」

 呼ばれた声に振り向くとたんぽぽ、そして一緒に桔梗がこちらに歩いて来ている。

「お館様、今日はわしらもご一緒させていただきますぞ。」

「ひまわりと竜胆はみんなが見てくれてるから心配ないよ♪」

「「「ええと・・・それはいいんだけど・・・・・今日は視察よりも焔耶へのご褒美を買うのが目的だけど・・・」」」

「解ってるよぉ・・・焔耶がさ・・・ひまわりを守ってくれたから、そのお礼をね♪」

 成程、そういう事か。

「服を選ぶの手伝ってくれるんだ♪」

「それもあるのですがな・・・」

 桔梗は服以外にも何か買ってあげるつもりなのかな?

「えっとねぇ、ご主人さまたち・・・・・先に謝っておくね。」

「「「・・・・・・・・なにを?」」」

 たんぽぽは謝ると言っておきながら、その笑顔にはそんな雰囲気はどこにも無い。

「前に、もうしないって約束したけど、今回は特別って事で許してね♪」

 たんぽぽが俺たちとした約束・・・・・それは・・・。

「わしらが焔耶に贈るモノは『お館様たち』です♪」

「正確には赤ちゃんだけどね♪」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

「これは皆の総意であり、桃香様、華琳殿、蓮華殿からの命令でもありましてな。」

「「「ま、まさか・・・・・今日の朝飯も・・・・・・」」」

「丁度戻ってきた頃に効き始めるよう調合したと華琳殿は言ってましたなぁ♪」

 

 やっぱりかああああああああああああああああっ!!

 

「わしも房中術を解禁して協力させていただきますぞ。こんな形ではありますが、お館様にようやく親子丼を共せますな♪」

「たんぽぽもたっぷり協力するからね♪」

 二人共・・・・・口元は笑ってても、目が獲物を狙う獣のそれになってるんですけど!

 

「お館ぁ!遅れてすまん!」

 

 絶妙のタイミングで焔耶がやって来た・・・・・。

「さあ、街の人達がお館の来るのを待っているぞ。急ごう♪」

 ああ・・・・・こんなに信頼しきった目で笑いかけてくれるようになった焔耶に・・・。

 でも、焔耶が急いでくれるのは有り難い。

 何しろ今の俺たちは股間に時限発射装置をセットされ、カウントダウンが始まってる様なものだから・・・・・・。

 間違っても街中でカウントゼロを迎える訳には行かないぞ!

 

 

 この後、俺たちは馴染みのオヤジさんの服屋で三人が一着ずつ服を買ってあげ、焔耶は恥ずかしそうにしながらも、とても喜んでくれた。

 その影で桔梗とたんぽぽがエロ下着まで買ってたのを知ったのは城に戻ってからだった・・・・・。

 

 

 

 

ひと月後

本城 皇帝執務室               (時報:桂花二人目 妊娠五ヶ月)

【焔耶turn】

 今のワタシには翠の気持ちが良く解る・・・・・。

 翠の懐妊が分る前に、翠がお館を避けていた気持ちが・・・・・。

 あんなコトの後ではお館たちの前に出るのが恥ずかしくてしょうがないじゃないか!

 それに蒲公英も桔梗様も・・・蒲公英とは乗せられて何度か張り合っていたからまだアレだが・・・・・桔梗様があんなに・・・うあああああっ!思い出すな!ワタシっ!!

 

「ほらほら、焔耶ちゃん。恥ずかしがってないで扉叩いて♪」

 

「と、桃香様・・・・」

「ふふ、ホント可愛いわね。このひと月焔耶の可愛い姿を堪能させて貰ったわ♪」

「もう、華琳ったら、そんなに言っては可哀想よ。」

 華琳様と蓮華様まで・・・・・このお二人も桃香様同様に王として敬ってはいるが・・・こうして懐妊の報告にまで一緒に居られては恥ずかしくて・・・・・。

 しかし、いつまでも扉の前でお三方を待たせる訳にもいかない。

 ワタシは意を決して扉を叩いた。

 

「お、お館!ほ、報告の儀があって来た!は、入ってもいいか!?」

 

『『『ああ、入ってくれ。』』』

 扉を開けると部屋の中ではお館三人が微笑みながら立って出迎えてくれていた。

 その姿を見て、ワタシの鼓動が高鳴り、胸の奥が暖かい物で満たされる。

 ワタシがいつもお館を愛していると実感する瞬間だ。

 昔は『好き』という気持ちさえよく分かっていなかったワタシだが・・・・・今は素直にそう思える。

 

「お、お館・・・ワタシ、魏延文長は先程、典医華佗元化より懐妊と診断されました。」

 

 ワタシは裾の長い旗袍(チーパオ)を着た姿でお館に礼をした。

 この旗袍(チャイナドレス)は先月、赤のお館が買ってくれた物だ。黒い生地に赤い大輪の花と金の葉が刺繍されている。

 桃香様がこれに着替えて報告した方が、お館たちが喜ぶと仰ってくださったので着てみたのだが・・・・・。

 

「「「ありがとう、焔耶。その服着てくれたんだな。思ったとおり似合ってるよ。」」」

 

「そ、そんな・・・ワタシこそ・・・・・その・・・色々と迷惑をかけてしまって・・・」

 照れ隠しの言い訳を言っている間にお館が順番にワタシを抱きしめてくれた。

 

「さてと・・・華琳、桃香、蓮華。これで満足か?」

 緑のお館が怒った口調で・・・でも少し笑いを含んで桃香様達に言った。

「そうね、焔耶が褒美を受け取ったのを確認できたし♪」

「焔耶ちゃんの可愛い服も見れたしねぇ♪」

「自分達でけしかけておきながら、少し妬けてしまったわ。」

 褒美?

「あ、あの・・・褒美とはこのお腹の子の事ですか?」

「あら?聞いて無かったの?でも、貴女が一番望んでいたモノを用意したつもりだけれど?」

 ワタシは赤面しながらも頭を下げた。

「あ、あの・・・・・ありがとうございます!この子の命はお三方からも頂いたもの。必ずや強い武将に育ててみせます!」

「うん。頑張っていいお母さんになってね、焔耶ちゃん♪」

 桃香様の言葉にワタシは既に母親なのだという自覚が湧いてくる。

「「「でも、あれだな。三人が焔耶を連れて来るとは思わなかったよ。」」」

「桃香様達もワタシと一緒に検診を受けられていたからそのまま・・・・・」

「それはほら!さっき華琳が言った通り焔耶への褒美の確認がしたかったからで!」

「桂花ちゃんが二人目を授かってるからわたし達ももしかしたらって」

「「桃香っ!!」」

 桃香様達の話にお館たちがジト目になった。

「「「もしかして麗羽みたいに薬膳の余波を期待したのか・・・・・・?」」」

「え、え~と・・・」

「そ、それは~・・・」

「さあ焔耶!後宮に行きましょうか!話しておかなければいけない事が沢山あるのよ!」

「うわあ!」

 華琳様にいきなり腕を引っ張られて、転びそうになりながら部屋から連れ出される。

 

 桃香様達は二人目を授かりたいと思っているのか・・・・・ワタシもそう思う日が来るかもしれないが・・・・・。

 

 でも今はこの子を元気に産んであげることに専念しなければ!

 

 

 

 

翌日

本城 中庭

【緑一刀turn】

 今日は俺たち三人がまる一日焔耶と一緒に居る日だ。

 ここしばらく、懐妊報告の次の日は俺たちと出かける様になっていたのだが、焔耶は出かけずにこの城内で過ごしたいとリクエストしてきた。

 そして連れられて来た場所がこの中庭。

 季節は初冬。

 風は冷たいが抜けるような青空の下、焔耶は紫の買ってあげたカウガール風の服を着てくれていた。

 厚手の綿のシャツに茶色の革のベスト、スカート、ロングブーツ。頭にはテンガロンハットも被っている。これでリボルバーの拳銃かライフルでも持って、焔耶の愛馬『黒毛』に跨ればそのまま西部劇に出れそうな感じだ。

 紫は普段から着れる丈夫な服で、可愛いくなる物と云うコンセプトで選んだらしい。

 俺たち三人は寒さ対策にいつもの制服の上にカーキ色のコートを着ていた。

 そしてこの中庭には俺たちと焔耶以外にも数人が集まっている。

 まずは璃々ちゃん、美以、ミケ、トラ、シャム。

 璃々ちゃんはピンクのノースリーブのシャツと紺のミニスカート・・・・・本人は寒くないと言っているが、見てるこっちが風邪ひきそうだよ。

 美以、ミケ、トラ、シャムは南蛮人だけあって寒さに弱く、厚着をしていた。

 四人が着ているのは、まるで着ぐるみみたいな服。

 その見た目は正に猫!

 明命と炙叉がこの場に居なくて本当に良かった・・・・・見つかるのは時間の問題だと思うけど・・・・・。

 更に三人、恋とねねと生後八ヶ月の恋々。

 このメンバーが揃うと次に出てくるのは、

 

「わんわんっ!」

「バウ!」

 

 セキトと張々である。

「焔耶お姉ちゃん、本当に大丈夫?」

 璃々ちゃんが心配そうに焔耶を見ている。

「だ、大丈夫だ!セキトを抱っこ出来る様になったんだ・・・張々に触るくらい・・・」

 いつもの様に口では強がっているが腰が完全に引けている。

「無理はせんほうがいいと思うじょ。」

「えんやしゃんは前もおなじこといってたにょ。」

「ぎえんはちょうせんしゃにゃ!」

「えんや様はがんばりやさんにゃん♪」

 美以達も張々相手と云う事でさすがに心配したり応援したりしていた。

 コーギーのセキトとは違い、セントバーナードの張々はとにかくでかい!

 でかさと怖さで言ったら、シャオの飼っている白虎の周周の方が上だが、焔耶にとっては犬である事が恐怖を呼び起こすのだろう。

 焔耶なら人喰い虎や人喰い熊も倒せるだろうからな。

「なあ、焔耶。せめてもう少し小さい犬の方がいいんじゃないか?鈴々の飼ってるコリンとか・・・」

 焔耶は集中して俺の言葉も聞こえないのか、じっと張々を睨んでいる。

「・・・・・お館・・・ワタシは・・・」

 聞こえてたみたいだ・・・。

「ワタシはお腹の子が生まれるまでに犬を克服しておきたいんだ。」

「えんやは子供にカッコイイとこを見せたいにゃ?」

 美以が茶化して言うが、焔耶の顔は真剣だ。

「ち・が・うっ!城壁の外では野犬の群れに出会うかも知れない。戦で犬を使って攻撃してくる奴がいるかも知れない。そんな時に犬が怖くて戦えませんでしたなんて言い訳が通ると思うか!?」

 普段身近に居るので忘れがちだが、犬は猛獣なのだ。その犬を戦で使うというのも別に変な事ではない。現代にだってドーベルマンという超有名な『軍用犬』が居るのだから。

 焔耶が犬と直接戦わ無くても兵に駆逐させればいいと思うかも知れないが、恐怖と云うのは体と思考の両方を萎縮させる。そんな状態でまともな指揮が出来る筈がないので、最悪の場合、部隊全滅と云う事も有り得る。

 

「この子を含め、みんなの子供を守る為に・・・・・お館たちの為にも・・・・・ワタシは絶対に犬を克服しなければならんのだっ!!」

 

 焔耶は昨日、華琳から外史の事を聞いたからか・・・・・。

 その決意がひしひしと俺たちにも伝わってくる。

「・・・焔耶、焦っちゃダメ。」

 焔耶の決意に恋も感じ入るものが有ったらしい。焔耶の手を取って、張々の頭に導いた。

「・・・焔耶は犬に好かれやすい。焔耶が犬に慣れれば敵が操る犬も味方に出来るかも知れない。」

 なんか方向が180°ひっくり返る話だな。

「それは恋も出来るんじゃないのか?」

「ううん、ご主人さま。犬は自分の主を簡単に裏切らない。恋がやっても敵の犬は逃げ出すだけ。」

 そうかなあ?恋が本気になったら、犬は逃げるのも諦めて服従のポーズを取りそうな気がするぞ。

「犬は序列をはっきりと認識する生き物ですからな。自分の方が格上で有ると分からせるのが大事なのです。犬の散歩で犬に引っ張られているのをよく見ますが、あれは人間を格下に見ているいい例なのです。その点、張々はねねを主人と認め言う事をしっかり聞くのです♪」

 ねねがいつもの様にふんぞり返って張々の背中をポンポンと叩いている。

 こっちは別の意味で疑わしいな。張々は我侭な娘を見る母親の様な気持ちで接してるんじゃないのか?

 当の張々は焔耶の微かに震える手で頭を撫でられ、目を閉じて大人しくしていた。

 そしてその背中では恋々がしがみ付いて、ふかふかの毛並みにご満悦の様子だ。

「要はワタシの方が強いと分からせろと云う事だろう?結局はワタシが犬を怖がらない様にならなければ・・・・・」

「う~ん・・・そうでも無いんじゃないか?」

「どういう事だ、お館?」

「恐怖心は簡単に消せる物じゃ無い。その恐怖心を越える勇気を出せるかって事だな。俺たちは戦の時いつもそうだったよ。心の中では恐ろしくてガタガタ震えてたけど、必死になって冷静な振りをしてたんだ。」

「そう・・・なのか?」

「「「俺たちが踏ん張れたのはみんなが居てくれたからだよ。みんなが助けてくれるって信じてたから勇気を出せた。だから・・・」」」

 俺たちは焔耶の空いている方の手を握る。

「「「今は俺たちが焔耶の支えになるよ。」」」

「・・・お館・・・」

 焔耶の手の震えが止まった。

 肩の力も抜け、俺たちが見つめるその表情も幾分柔らかくなっている。

 

 こうして、俺たちは焔耶の特訓を見守って一日を過ごした。

 途中で他の犬達も集まってきたが、この日は焔耶が走って逃げ出す様な事は無かった。

 

 

 

 

おまけ

焔耶の娘 魏覚(ぎがく) 真名:焔香(えんか)

三歳七ヶ月

本城 中庭                   (時報:桂花 六人目 妊娠七ヶ月)

【緑一刀turn】

 春の中庭は桜が満開だ。

 後宮に桃を植えたので、この中庭には俺たちの希望で桜を何本か植えさせてもらった。

 桜の花びらが舞い散る中、俺は一本の桜の木の根元に座り子供達を眺めていた。

 

「ほら、焔香ちゃん。怖くないよ♪」

 

 眞琳が一匹の仔犬を抱えて焔香に近付いて行く。

 焔香は涙目になってアウアウしていた。

 その様子を香斗、蓮紅、烈夏、愛羅、恋々が見守っている。

 眞琳の抱えている仔犬はセキトの子供の一匹だ。

 仔犬ながらも父親によく似た三角耳をしている。

 

「きゃんきゃん!」

「ひぅっ!」

 

 そんな仔犬の挨拶にも竦んでしまう焔香。

 はは♪昔の焔耶みたいだな♪

 眞琳は仔犬を更に焔香へと近づける。

 焔香は目を閉じて固まってしまっていた。

 

ぺろ。

 

 仔犬が焔香の頬に流れた涙を舐めた。

 何回か舐められて焔香が恐る恐る目を開くと、仔犬は舐めるのを止める。

 

「きゅ~ん。」

 

 仔犬と目を合わせた焔香の顔が笑顔になっていく。

「焔香は犬を克服出来そうだな。」

「ああ・・・ワタシと同じ苦労はさせたく無いからな。」

 俺の隣に座る焔耶。

 焔香を身篭ってから伸ばし始めた髪が、桜の花びらと一緒に春風に揺れている。

 着ている服もいつもの物ではなく、黒のロングスカートに白いシルクのブラウス、ピンクのカシミアのベスト。

 スカートとブラウスは俺が四年くらい前に買ってあげた物で、ベストは桃香の手編みだ。

 あの時想像した以上に、落ち着いた大人の女性の雰囲気を醸し出していた。

「あの頃は大変だったよな♪」

「その甲斐は在ったさ♪」

 

 眩しいものを見るような目で微笑む焔耶。

 その笑顔に微笑み返す俺。

 

 俺たちの周りには十数匹の犬達が春の柔らかい日差しを浴びて、安らかな寝息を立てて寝そべっていた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

デレ焔耶をお送りしましたw

 

焔耶の目指す母親像って、これはもう父親像ですね。

そして蒲公英曰く、脳筋五人衆

愛紗まで入れてしまうという命知らずな発言

本来なら体育会系と言うべきでしょうが、頭に血が上って口が滑った様ですw

 

 

焔耶が華琳と蓮華を様付けで呼ぶのは

この外史の流れを考えると、こうじゃないとおかしいと思ったからです。

脳内再生いてると違和感ありまくりでしたが

ここはどうかご了承下さい。

 

旗袍

日本で言うチャイナドレスですが

雷起はロングで深くスリットの入った物が大好物ですwww

 

 

張々の犬種

イベントイラストからセントバーナードと判断しましたが

アニメ版ではどうでしたっけ?

レトリバーだったような気もしますが・・・

所でみなさんはセントバーナードをリアルで見とことがお有りでしょうか?

雷起は高校生の時に初めて見ました。

年賀状配達のアルバイトの最中に、住宅街の道のど真ん中でデーーン!と立っているのを。

最初は何が居るのか判断出来ませんでしたねw

自分の頭に有る『犬』の範疇をはるかに超えた生物でしたよ。

動物好きでは有りますが、流石にあれはビビりましたwww

 

 

《次回のお話&現在の得票数》

 

☆小蓮    30票

 

という事で、次回は小蓮に決定しました。

 

以下、現在の得票数です。

 

ニャン蛮族29票

音々音  28票

明命   26票

猪々子  25票

星    24票

亞莎   21票

璃々   21票

真桜   21票

春蘭   20票

華雄   20票

穏    19票

斗詩   19票

二喬   19票

稟    19票

沙和   19票

霞    14票

季衣   14票

紫苑②  7票

冥琳②  5票

思春②  6票

桂花②  6票

雪蓮②  4票

鈴々②  5票

風②   2票

音々   2票

凪②   1票

 

※「美以と三猫」「大喬と小喬」は一つの話となりますのでセットとさせて頂きます。

②は二回目を表します。

一刀の妹と息子の登場回は以下の条件のいずれかを満たした場合に書きたいと思います。

1・璃々以外の恋姫全員のメイン話が終了した時

2・璃々のリクエストが一位になった時

3・メイン二回目の恋姫がリクエストの一位になった時

4・華琳のリクエストが一位になった時

※条件に変更があった場合、あとがきにて報告致します。

 

リクエスト参戦順番→猪々子 穏 亞莎 ニャン蛮族 小蓮 明命 斗詩 二喬 春蘭 音々音 華雄 稟 星 璃々 真桜 季衣 冥琳② 霞 沙和 思春② 紫苑② 鈴々② 桂花② 風② 雪蓮② 凪② 音々

 

過去にメインになったキャラ

【魏】華琳 風 桂花 凪 数え役満☆シスターズ 秋蘭 流琉

【呉】雪蓮 冥琳 祭 思春 美羽 蓮華 七乃

【蜀】桃香 鈴々 愛紗 恋 紫苑 翠 蒲公英 麗羽 桔梗 白蓮 月 朱里 雛里 詠 焔耶

 

子供達一覧

1)華琳の長女 曹沖(そうちゅう) 眞琳(まりん)

2)桃香の長女 劉禅(りゅうぜん) 香斗(かと)

3)蓮華の長女 孫登(そんとう) 蓮紅(れんほん)

4)思春の長女 甘述(かんじゅつ) 烈夏(れっか)

5)愛紗の長女 関平(かんぺい) 愛羅(あいら)

6)風の長女 程武(ていぶ) 嵐(らん)

7)桂花の長女 荀惲(じゅんうん)金桂(きんけい)

8)雪蓮の長女 孫紹(そんしょう) 冰蓮(ぴんれん)

9)冥琳の長女 周循(しゅうじゅん) 冥龍(めいろん)

10)祭の長女 黄柄(こうへい) 宴(えん)

11)恋の長女 呂刃(りょじん) 恋々(れんれん)

12)紫苑の次女 黃仁(こうじん) 露柴(ろぜ)

13)紫苑の三女 黃信(こうしん) 崔莉(ちぇり)

14)蒲公英の長女 馬援(ばえん) 向日葵(ひまわり)

15)翠の長女 馬秋(ばしゅう) 疾(しつ)

16)麗羽の長女 袁譚(えんたん) 揚羽(あげは)

17)桔梗の長女 厳逹(げんたつ) 竜胆(りんどう)

18)凪の長女 楽綝(がくりん) 濤(なみ)

19)七乃の長女 張路(ちょうろ)八倻(やや)

20)天和の長女 張甲(ちょうこう) 九蓮(ちゅうれん)

21)地和の長女 張大(ちょうだい) 四喜(すーしー)

22)人和の長女 張吉(ちょうきつ) 一色(いーそー)

23)炙叉の長女 迷当(めいとう) 直(なお)

24)白蓮の長女 公孫続(こうそんしょく) 白煌(ぱいふぁん)

25)秋蘭の長女 夏侯衡(かこうこう) 鈴蘭(すずらん)

26)月の長女 董擢(とうてき) 春姫(るな)

27)桂花の次女 荀俁(じゅんぐ) 銀桂(ぎんけい) 

28)朱里の長女 諸葛瞻(しょかつせん) 龍里(るり)

29)雛里の長女 龐宏(ほうこう) 藍里(あいり)

30)詠の長女 賈穆(かぼく) 訓(くん) 

31)焔耶の長女 魏覚(ぎがく) 焔香(えんか)

桂花の三女 荀詵(じゅんしん) 丹桂(たんけい) 

桂花の四女 荀顗(じゅんぎ) 連翹(れんぎょう)

桂花の五女 荀粲(じゅんさい) 黄梅(おうめい)

桂花の六女 荀淑(じゅんしゅく) 來羅(らいら)

春蘭の長女 夏侯充(かこうじゅう) 光琳(こうりん)

A)鈴々の長女 張苞(ちょうほう) 爛々(らんらん)

B)流琉の長女 典満(てんまん) 枦炉(ろろ)

C)美羽の長女 袁燿(えんよう) 優羽(ゆう)

※アルファベットは仮順です

 

引き続き、皆様からのリクエストを募集しております。

リクエストに制限は決めてありません。

何回でも、一度に何人でもご応募いただいても大丈夫です(´∀`)

よろしくお願い申し上げます。

 

 

【今回のマヌケ晒し】

 

翌日

本城 中庭

【緑一刀turn】

 今日は俺たち三人がまる一日焔耶と一緒に居る日だ。

 ここしばらく、解任報告の次の日は俺たちと出かける様になっていたのだが、焔耶は出かけずにこの城内で過ごしたいとリクエストしてきた。

 

 


 
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