No.566710

真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~ 第三十六話 The Shock Of The Lightning 後篇

YTAさん

 どうも皆様、YTAでございます。
 今回は、奇跡的な早さで投稿出来ましたw

 では、どうぞ!!

2013-04-16 11:28:28 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:2401   閲覧ユーザー数:1915

                                  真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~

 

                               第三十六話 The Shock Of The Lightning 後篇

 

 

 

 

 

 

「ヴォォォォォ!!?」

 緑の魔人、青龍王――北郷一刀――の掌から放たれた(いかづち)で身を焦された化け蟹は、怒りと驚きの入り混じった咆哮を上げて、天を仰いだ。

「他所見をしてるんじゃあ――ねぇッ!!」

 両の掌から続け様に放たれる、幾筋もの紫電の閃光。その(ことごと)くが化け蟹の甲羅へと直撃し、化け蟹は最早、悲鳴を上げる事すら出来ずに大地に突っ伏した。

 

「よくも、俺の義妹(いもうと)の生まれ育った故郷(ふるさと)を!村の人々を!“想い出”を汚してくれたな、カニ野郎!!」

 故郷と言う言葉の“概念”は、十人十色だろう。『生涯最高の時間を過ごした場所だ』と言う人も居れば、『最も長く暮した場所だ』と言う人も居るであろうし、『自分が死ぬと決めた場所だ』とする人も居る。

 

 だが、故郷の“定義”と言うのは、実に単純明快だ。

 故郷の定義。それは、『生物学的に自分の産まれ(もしくは)育った土地』に他ならない。

 即ち、北郷一刀と言う人間が完全なる喪失を経験したモノであり、この外史(せかい)の何処にも存在しない場所。だから一刀に取って、定義に当て嵌まる“文字通りの故郷”と言う場所は、“無い”と言う事になる。

 

 そしてそれは、人間以外をも含む“生物”と言う存在として、本来、有り得べからざる事だ。例えば、イエスだろうがブッダだろうがムハンマドだろうが、“産まれ育った場所”は当然として存在し、どんな宗教学者やどんな狂信者も否定しようの無い、絶対の事実なのである。

 もしも、“故郷と定義しうる場所”を持ちえない存在が居るとするならば、それは全き神か、貂蝉や卑弥呼の様な“人間の形を借りた人間ではない者”しか有り得ないのだ――本来は。

 

 

 だが、北郷一刀は人間の身でありながら、世界で唯一人、その“有り得ない存在”に成ってしまった。今の一刀に残されているのは、“概念としての故郷”のみである。

 だから、何よりも大切だ。自分を愛してくれた人々の住む場所が。愛する人々との想い出に溢れる場所が。愛する人々が産まれ育った場所が。

それらは全部、北郷一刀の故郷だから。

 

「此処をこれ以上、貴様の(おぞ)ましい(ノロイ)なんぞで穢させはしないッ!!」

 決然とそう言い放った青龍王の右掌から、一際太く、一際激しい輝きを持つ雷が轟音と共に放たれる――が、しかし、雷は化け蟹の甲羅に届く事はなかった。化け蟹が、右手の巨大な鋏を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で、一瞬にしてその場を離脱したからである。

 

「なんだと!?」

 思わずそう叫んだ青龍王の一瞬の隙を、化け蟹は見逃さない。空中で、見た目からは想像も出来ない様な華麗な半回転をして身体を(よじ)ると、絶対溶解の呪詛が込められた泡を青龍王目掛けて連射した。

「ヴヴヴヴヴ!…・…ヴヴ!!?」

 着地し、勝利を確信して嗤い声を上げた化け蟹は、次の瞬間、無意識に半歩ほど()け反った。確かに青龍王の身体に命中していた筈の泡は、青龍王が掲げた両の掌の直前で、地面に垂れる事すらなく“制止していた”のだ。

 

 それも、不可視の壁か何かにぶつかったかの様に。青龍王は、両の掌から電磁波を放射し、それを盾状に固定して化け蟹の泡を受け止めたのである。目の良い者ならば、青龍王と泡の間に、か細い無数の紫電の糸が見えたであろう。

 ジュウジュウと音を立て、煙と共に蒸発していく泡には目も向けず、青龍王は、化け蟹の動向に全神経を集中していた。

 

「ちょっとばかり焦ったぜ。まさか、“蟹”が高速移動するなんてな。油断なんぞした心算(つもり)は無かったが、先入観てのはおっかないモンだ……だがな、俺は言った筈だぞ。『これ以上、此処を穢させはしない』と」

泡が全て蒸発してしまうと、青龍王はゆったりとした仕草で両腕を降ろし、そのまま握り拳を作って、両手を腰骨の横辺りに添える。2.3秒の時間が過ぎた後、握り拳は解かれ、青龍王の胸元で勢い良く合わせられた。

 

「むんッ!!」

 青龍王が、トランプを空中にばら撒く奇術師(さなが)らの仕草でその手を引き離すと、右手と左手の間に極太の雷の帯が現れ、瞬きの間に分裂して、青龍王の両手の中で、二つの巨大な光球に変化する。

「覚悟しとけ……効くぜ、コイツはよ!!」

 

 

 青龍王が、警戒する化け蟹にそう言い放つのと同時に、二つの光球はノ―モーションで空中に解き放たれる。

「ヴヴ!!?」

化け蟹は、その軌道を読んで回避しようと姿勢を低くした瞬間、困惑と驚愕とを同時に込めた呻き声を上げた。

 

 化け蟹は、言葉を解せないだけで知恵がない訳ではない。故に、『引き付ければ二つ程度なら何とか躱せる』と踏んでいた。だが、光球は空中で再び一つとなり、更には、爆ぜるようにして五つに分離したのである。

 だが、真に化け蟹を思考停止に追い込んだのは、五つ光球の全てが、明らかに化け蟹の身体から1m以上離れた場所に向けて突き進んでいると言う事だった。

 

『制御出来ていないのか……?』そんな考えが頭を過った刹那、化け蟹の眼前に、“淡い光を放つ何か”が、忽然と出現した。敢えて表現するなら、光のヴェールとでも言おうか。

「なぁ……電子レンジって知ってるか?」

 事態を把握出来ずに混乱していた化け蟹は、青龍王の言葉で我に返り……そして、気が付いた。自分の周り――前後左右と頭上――に五つの光球が規則正しい距離を保って制止し、それぞれを点として、ピラミッドの如き完璧な“正四角錐”を形成している事に。

 

 光のヴェールと見えた物の正体は、その正四角錐の“面”の部分に発生した、薄い電気の幕であったのだ。化け蟹に、青龍王の言う“電子レンジ”なる物の知識はない。だが、百戦錬磨の罵苦(ばく)としての直感が、『此処から直ぐに離脱せよ』、と、強く警告していた。

 化け蟹が、その直感に従って鋏を地面に突き立て、先程と同じ高速移動の体勢に入る。

 

「遅い――!!」

 と言う青龍王の声が、静かにその場に響いた。仮面の中の口が不敵に歪んだ事など、本人以外の誰も、知る由はなかったが。

 瞬間、化け蟹の唸り声にも似た低い振動音が周囲に木霊して、五つの光球が一際激しく発光を始める。化け蟹が、全身を内側から焼かれるかの様な感覚を覚えたのと、その輝きが最高潮に達したのとは、ほぼ同時であった。

 

 光のピラミッド内に発生した指向性の超高出力マイクロ波が、化け蟹の身体の水分を振動させ、急速に“加熱”を始めたのである。

「ヴ……ヴォォォォォ!!?」

 化け蟹は、まるで光球の発する振動音とハーモニーでも奏でるかの様な断末魔の叫びを上げると、全身の間接から蒸気を吹き出しながら、光球の消失と共に、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。

 

 

青龍電磁獄(せいりゅうでんじごく)――食えもしない蟹なんぞには、似合いの最後だろ……」

 青龍王は静かにそう呟き、“鎧装(がいそう)”を解こうと『賢者の石』に神経を向ける。と、その瞬間、抑揚の無い不気味な声が、楼桑村に響いた。魔境は、未だ魔境のままだったのである――。

 

 

 

 

 

 

「見事だ……北郷一刀……」

「何者だ――何処に居る!!?」

 青龍王は、バイザー状の“龍王千里鏡(りゅうおうせんりきょう)”を起動させ、すぐさま周囲の索敵を開始した。が、周囲360度、索敵可能な範囲の何処にも、妖気を帯びた存在を検知する事は出来なかった。

 

「無駄な事を……そんな徒労をせずとも、私は“此処”に居る……そら、貴様の目の前に……」

 青龍王は、我が目と龍王千里鏡の性能を、同時に疑った。倒れ伏した化け蟹の影が見る間に“膨張し”、鏡をそのまま加工したかの様な仮面を被り、全身を紫の外套(マント)で包んだ人物が、這い出るかの様に出現したのである。

 

「(馬鹿な……こんなに近くで転移魔術を発動されて、全く感知出来なかっただと……!!?)」

 青龍王が、全身から噴き出した汗を堪えて歩再び構えを取ると、鏡面の人物は身じろぎ一つせずに、平坦な声で青龍王に語り掛けた。

「“四神”として抽象化した全く異なる力を状況に応じて使い分け、自身の姿をも変質させる……それが貴様の真の能力と言う事か……成程……“皇龍”とは、よく言ったものだな……」

 

「き……さま……!!」

 青龍王は、言い知れぬ圧力(プレッシャー)を受けて上手く動かない舌を叱咤し、(ようや)く声を捻り出した。先頃、自分を生死の境まで追いやった饕餮(トウテツ)にすら、こんな薄気味の悪い圧力を感じた記憶はない。

 

「ほぅ……我の存在に、恐怖ではなく不穏を感じ取るか……面白いな……北郷一刀……それが……“正史の人間”の感覚なのか……それとも、お前独自の感じ方なのか……何にせよ、饕餮が傾倒する訳だ……」

「――ッ!!?」

 青龍王は、首を傾げて(恐らく)自分を見詰めている鏡面の人物に対し、改めて戦闘態勢を取った。それは、自分の仇敵の名が語られたからではない。

 

 

 今、目の前に居る人物が、饕餮の名を“呼び捨てにした”と言う事が、一体何を意味するのか。その意味を、瞬時に理解したからである。

 どれ程の時間が経過したのか。不意に、“観察”の姿勢のまま固まってしまったかの様だった鏡面の人物は、「……ん?」と、訝しそうに呟くと、その鏡面を、ゆっくりと自分の足元に向けた。

 

 その先には、よろよろとした頼りない動作で、鏡面の人物に向かって(すが)る様に鋏を振り上げる、化け蟹の姿があった。重苦しい沈黙の中、青龍王が化け蟹の様子を注意深く見ていると、鋏はやがて、自重に耐え切れなくなったかの様に、肘の辺りから地面に“折れて”落ちてしまった。

 それを見た鏡面の人物の肩が、小さく一度揺れたかと思うと、何処からか、ずるり……と言う、粘膜の擦れを連想させる音が聴こえてくる。

 

「お前には……心底失望したぞ……夾人(キョウジン)……古の昔から……目を掛けて来てやったと言うのに……敗れたばかりか……無様に命乞いなどとはな……」

 瞬間、青龍王は息を呑んだ。鏡面の人物の外套の下から、粘膜を帯びた巨大な蛇の様なモノがゆっくりと這い出て来て、化け蟹――夾人――を、易々と自分の頭上まで持ち上げてしまったのである。

 

「(あれはなん――!?まさか……触腕なのか!!?)」

 青龍王は、夾人の身体に巻きついているものの存在を、信じられない思いで凝視していた。だが、如何に信じられなかろうと、その(ぬめ)りを帯びた軟体動物独特の質感と、今も夾人を締め付けている無数の“吸盤”の存在を見れば、それは、蛸や烏賊が持つ触腕以外の何物でもないと考えざるを得ない。

 

「ヴ……ヴ……ヴ……」

「我が偉大なる蚩尤(シユウ)様に仕える者に、無様を晒す弱卒は要らぬ……」

 不意に、夾人の身体が、巻き付いていた触腕と共に消失した。

「嘘だろ……おい……」

 

 青龍王は、自分が今、見た――見てしまったものが信じられずに、半ば茫然として鏡面の人物を見詰めるしかなかった。

「“喰っちまいやがった”……自分の……部下を……!!?」

 そう、喰らったのだ。この怪人物は、常人には視認すら出来ぬ程の速度で、触腕を夾人ごと外套の下に引きずり込んでしまったのである。

 

 だが、青龍王が“喰った”と認識した直接の要因は、夾人が引きずり込まれた事ではなく、直後に聴こえて来たバキッ、ボキッ、と言う怖気を震う様な“咀嚼音”と、もぞもぞと不気味に蠢く、外套の揺らめきからであった。

「愚か者……せめて我が贄となるが佳い……」

 

 

「有り得ねぇ……」

 青龍王は、込み上げて来る嘔吐感を堪えながら、どこか満足気な口調で呟きを漏らした鏡面の人物を睨む事しか出来ずにいた。“怪物が人間を喰う”と言うのなら、嫌悪こそすれ、まだ理解は出来る。そもそも怪物とはそう言う存在なのだし、何より、怪物に人間の倫理観など通用しないと“納得”する事が出来るからだ。

 

 だが、今の今まで目の前で行われていた行為は――互いに同種の存在として、また主従として明確に認識していながら、何の躊躇(ためら)いも無く“捕食する”などと言う事は――凄まじくその形を歪められてこそいるものの、“人食行為(カニバリズム)”以外の何ものでもない。思考がそう行き着いてしまうと、最早、青龍王の消化器官は、生理的嫌悪感と倫理的嫌悪感のダブルパンチが内側から嵐の様なラッシュを叩き込んでいるかの様な状態だった。

 

 更に言うならば、この怪人物は外套の下に、皇龍王の愛刀“神刃”ですら斬る事が叶わなかった頑強な外骨格すら易々と砕く“口”を持っているという事にもなる。青龍王が胃の内容物を逆流させずに済んでいるのは、一重に“命が掛っている”と言う現在の状況がそうさせているからに他ならない。

「……さて、何の話をしていたのであったか……あぁ、そうであった……」

 

 鏡面の人物は、『忘れ物を思い出した』とでも言う様な口調でそう呟くと、鏡面を青龍王に向け直した。

「我が名は“渾沌(こんとん)”――偉大なる蚩尤様を最もお傍近くで支える者にして、“四凶(しきょう)”最古の者……覚えておけ、天の御遣い……」

 鏡面の人物――渾沌――は、言うだけ言うと、青龍王の反応に一切の興味を示す事なく、鏡面をあちらこちらに向けてから、ゆらゆらと地面を滑る様に歩き出した。

 

「おう、すっかり忘れていた……」

「――何だ。やっぱり、遣り合う事にしたのか?」

 不意に立ち止まって振り向いた渾沌に青龍王が油断なくそう問い掛けると、渾沌は僅かに鏡面を左右に振った。

「そう急くな、北郷一刀……私は唯、貴様に褒美を()れてやろうと思っていたのを思い出しただけだ……」

「“褒美”だと?」

「然り……貴様は、古の時代より数多の敵を(ほふ)って来た我が“八魔”、夾人を見事破って見せた。故に、彼奴(きゃつ)(かどわか)した人間共を、貴様に返してやろうと言うのだ……」

「!?やっぱり、村人を攫っていたのはお前達だったのか……だが、何故それを素直に返す気になったんだ?」

 

 

 青龍王は、渾沌の意図が読み切れず、仮面の下で訝し気に眉を寄せた。渾沌はそれを感じ取ったのか、僅かに喉を鳴らす。

「特に他意がある訳ではない……夾人への褒美として残しておいたのだが……もはや、不要になった……それだけの事だ。私が喰ってやっても良かったのだが……何分、思わぬ“間食”をしてしまったのでな……今は、満腹なのだ……人間共は、此処から北東に二十里ほど行った山中の入り口に三本の木が並んで立っている洞窟に居る……」

 

「ッ!!」

 青龍王は、渾沌の“間食”、“満腹”と言う表現に思わず総毛立つものを感じて、奥歯を噛んだ。渾沌は言うべき事を言い終わると、もう青龍王に興味を無くしたのか、再び滑る様にして歩き出し、崩れた民家の瓦礫の影の中でピタリと足を止めた。青龍王が様子を見ていると、渾沌はそのまま底なし沼みでも嵌ったかの様に地面に沈んで行き、瞬く間にその姿と気配を消してしまった。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 一刀は鎧装を解くと、嘔吐感と圧力から解放された反動で粗くなった息を整える為、両手を膝に当てて、ひたすら地面の一点を見詰める事に集中する。一刀は渾沌の存在が消失して初めて、自分がどれだけ渾沌に嫌悪感を抱いていたのか、渾沌が自分に、どれだけの圧力を与えていたのかを、改めて理解していた――。

 

 

 

 

 

 

 その後、一刀は義妹達と合流し、手分けして盗賊団のアジトと(くだん)の洞窟に向って、それぞれの場所に居た人々を村まで連れ帰った。三日後、李洪の傷の回復を待ち、関係者達の事情聴取を終えた一刀は、急遽、(しつら)えられた簡易法廷の判官席に座り、眼前で平伏する簡擁と李洪を、じっと見詰めている所であった。

「李洪、傷の具合はどうだ?」

一刀がそう尋ねると、李洪は小さく肩を震わせてから、平伏したままで答えた。

「はい。御蔭様で、大分、良くなりました」

「そうか。しかし、万が一と言う事がある故、椅子に座る事を許す」

一刀がそう言って、傍に控えていた関羽こと愛紗に目配せをすると、愛紗は小さく頷いて(あらかじ)め用意していた椅子を持ち、李洪の所まで行って、座るよう指示した。

 

 

 

「畏れ入ります……」

李洪は、更に深々と頭を下げてから、愛紗に支えられて椅子に腰を降ろした。その額には、薄っすらと汗が滲んでいる。緊張も無論あるのだろうが、やはり、傷が痛む様子であった。

「では、これより開廷とする。李奉(りほう)公智愛(こうちあい)の子、李洪。調べに拠れば、お前は楼桑村を襲い金品を強奪せんとした盗賊、『泰山の徐完』一味と共謀し、その企みを手引き。捜査状況を盗賊どもに伝える役割を担っていた――とある。左様、相違ないか?」

 

一刀が調べ書きに目を通しながらそう問うと、李洪は驚いた様な表情で目を見開き、一刀を見返した。

李洪が何か言いかけると、愛紗がその肩に手を置いて「訊かれた事に、簡潔に答えるだけでよい」と、耳元で囁く。

李洪は戸惑いながらも、その言葉に小さく頷いた。

 

「はい。間違いありません」

「山間の川で溺れていたところを助けられ、その恩を返す為とあるが……これは、お前が進んで申し出た事なのか?」

「いえ、進んでではありません。でも、おいら魔が差して――」

 

「李洪。私は、お前の心情については尋ねていない。盗賊どもがお前に共犯となるよう強要したのか、それとも、お前が進んで共謀を申し出たのか、と訊いているのだ」

 一刀が、李洪の発言を遮ってぴしゃりとそう言うと、李洪は僅かに震えた後、小さな声で「強要……されました」と答えた。一刀は、その答えに頷くと、議事録を取っていた役人の方に僅かに顔を向ける。

 

「宜しい。書士、被告の発言の余分な部分は削除するように」

 一刀は書士が頷くのを確認してから、再び李洪に視線を戻す。

「今、お前の隣に居る関羽将軍を村の中で撒いたのも、お前なのだな?」

「はい」

 

「では、その他、開廷前に確認するよう申し付けた公訴内容について、間違いはあるか答えよ」

「ありません。でも、あの……」

「李洪、裁きの場であるぞ。同じ事を何度も言わせるな」

 一刀の僅かに語気を強めた言葉で、李洪は何事か言い掛けた口を慌てて閉じる。その瞬間、李洪の後ろの扉が僅かに開いて、劉備こと桃香が顔を覗かせ、滑り込む様にして入室して来た。

 

 

 一刀が、何かを問う様な視線を投げると、それを受け取った桃香は親指と人指し指で輪を作り、満面の笑みを浮かべる。一刀は僅かに微笑み返すと、表情を引き締めて李洪を見詰め、再び厳かに口を開いた。

「では、裁きを申し渡す。李洪――お前を強盗幇助(ほうじょ)、及び共謀罪とし、又流(島流し)十五年の刑に処す――」

 

「……御遣い様!!」

 刑罰の内容を聞いた簡擁が慌てて顔を上げると、一刀はそれを視線で制して、言葉を続ける。

「ただし、初犯である事。主犯である徐完に命を助けられて、恩義を感じていた事。並びに警備隊長、高仁(こうじん)を、我が身を省みず救おうとした事などを(かんが)み、十分に更生の余地ありと判じて、島流し一年、及び、この楼桑村十里四方、所払(ところばら)いを命ずる」

 

 一刀は、書士が判決内容を書き終わり、筆を置くのを確認すると、先に退出するように促し、姿勢を楽にしてから、表情を緩めて李洪に微笑んだ。

「さて、堅苦しい事は大体終わりだな。さっきから、何か言いたい事があるみたいだが?」

 

「いえ、あの、おいら……どうして……こんな軽い刑に……」

「何だ、不服か?」

「め、滅相もないです!すごく、ありがてぇと思ってます!!でも、おいら、御遣い様と桃香ねえ……いえ、劉備様を、その……殺す手伝いをしちまったのに……」

 

「うん?俺と桃香を?何時?」

「え!?」

 一刀の惚けた言葉に、李洪は驚いて俯いていた顔を上げた。隣で平伏していた簡擁も、まじまじと一刀を見詰めている。

 

「いや、だって……あの、四日前の夜に……」

「四日前?……あぁ!そう言えば、確かに夜、暴漢に襲われたな。だが、あいつが盗賊どもと関わりがあるなんて、俺は“初耳”なんだが――桃香、愛紗、お前達は?」

「ん~。私も、そんな事は全然知らなかったなぁ。ねぇ、愛紗ちゃん?」

 

一刀に水を向けられた桃香が、人差し指を口に当ててそう言うと、愛紗も表情を変えずに頷いた。

「はい、桃香様。私も、初めて聞く話ですね」

「――だ、そうだよ?盗賊共も審議の時に何も言ってなかったし、お前が何か思い違いをしてるんじゃないか?」

 

 

一刀は、未だ状況が呑み込めていない様子の李洪にそう言うと、また、表情を引き締めた。

「李洪……お前の親父さんとお袋さんな……自害しようとしたんだよ。幸い、大事には至らなかったがな」

「え!!?」

「お前が“手伝った事”の仔細が村の外に知れれば、例え華琳……曹操が咎めなったとしても、世間はそうは行かない。分かるな?」

 

 李洪は、弾かれた様に目を見開いて、真っ青になった顔を震わせながら何度も小さく頷いた。桃香の出身地でもある事から物理的な迫害を受ける事こそ無いだろうが、『天の御遣いと蜀の大徳を暗殺しようとした大罪人が出た村』と言うレッテルを一度貼られてしまえば、関わりを恐れた周辺地域の人々からは、“村全体が”村八部にされてしまうだろう。

 商人の行き来がなくなり、作物や特産品も買い取ってもらえなくなれば、必然、真綿で首を絞められるが如く、村人達は生活が出来なくなる。よく考えてみれば、そんな中で、当の大罪人の両親が大手を振って生きていられる筈もないのだ。

 

「李洪。俺は、お前の為に目こぼしたんじゃない。俺の義妹の故郷と、そこに暮らす全ての人達の為に、お前のした事を目こぼしてやる。だから良いか、お前は生涯二度と、この楼桑村の土を踏むな。そして四日前の夜の事は、お前が墓の中まで持って行け。それが、皆の為だ……分かったな?」

「……はい」

 

「よし――では、愛紗。李洪を病室へ戻してやれ」

 一刀がそう言うと、愛紗は小さく頷き、労わる様な仕草で李洪を椅子から立たせてやる。愛紗に付き添われた李洪が、力無い足取りで部屋を出ようとした時、一刀の声が、李洪の背中を呼び止めた。

「おい。李洪」

 

「はい。なんで御座いましょう?」

「俺は今、都に別邸を建てていてな。もうじき、それが完成するんだ」

「はぁ……」

 李洪が、一刀が何を言いたいのか分からずに困惑した表情を浮かべると、一刀は謎めいた微笑みを浮かべて、言葉を継いだ。

 

「そこに、義母上(ははうえ)を御呼びしようと考えていたのさ。しかし、長年住み慣れたこの地を離れ、遠い所で知り合いも無く生活するんでは、義母上も心細いだろうと思ってな。この村で、都まで来て住み込みで働いてくれる使用人を探していたんだ。そうしたら、ついさっき、桃香が見つけて来てくれたんだよ。『一人息子が長い旅に出るから、夫婦二人揃って住み込みで働いても良い』って言う人達が」

「……ッ!!?」

 

 

一刀の言葉に含まれるところを察した李洪の頬に、血の気が戻って来た。目が、どうしようもない程の勢いで滲んで、涙が溢れ出すのを止める事が出来ない。

「しかしまぁ……その二人も、義母上以外の誰かと故郷の昔話をしたくなる事もあるだろう。刑期が明けて綺麗な身体になったら、都に会いに来てやれ――“必ず”だ。良いな?」

 

「はい……必ず……必ず、参りますッ!!」

「あぁ。話はそれだけだ。もう、行っていいぞ」

 一刀は、深々と頭を下げる李洪に向かってそう言うと、愛紗に、李洪を連れ出す様に目配せをした。愛紗は、何故か悪戯っぽい微笑みを一刀に返すと、頷いて、李洪を手伝いながら部屋を後にするのだった――。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。あんまり遅いから、説得に失敗したのかと思ったぜ、桃香」

 一刀は、懐から煙草を出して火を点けると、李洪の後ろ姿を見送っていた桃香に向かって、微苦笑を浮かべた。

「えへへ♪ごめんね、ご主人様。李洪君のご両親、凄く恐縮しちゃってて……それに、ご主人様の別邸って言ったら、宮殿みたいな所を想像しちゃったらしくてね、『私達に“宮仕え”なんか出来ません~』って。だから、思ったよりも時間が掛っちゃって」

 

「いや、今のは冗談さ。ありがとう桃香。良くやってくれたよ」

 一刀は桃香の言葉に答えると、窓を開け放って、咥え煙草のまま大きく伸びをした。封健社会に於いての“連帯責任”と言うものは、現代のそれとは比較にならない程に強く大きい。

この国では『族誅(ぞくちゅう)』と呼ばれ、重犯罪者の遺族の犯罪や謀反を防ぐと言う名目で、一族皆殺しなど当たり前だったのである。しかも、下手をすれば『九族』、即ち、犯罪者から見た高祖父・玄孫を含めた、九親等の一族を処断する事も、ままある話であった。

 

 日本に於いても、江戸時代には『縁座』と言うものがあり、重犯罪を犯した者の家族は同罪と見なされ、犯人と同じ刑罰が適応されていたと言う。これは、徳川吉宗や大岡越前の活躍した天文の頃まで続き、以降も親殺しと主殺しに限っては適応され続けた。

 そう言う事情であるから、国に罰せられる前に身時から命を断ち、謝罪の気持ちを表そうと言う犯罪者の家族は多く、一刀自身、仕事柄もあって、何度もそうした人々を見て来たが故に、『念の為に』と李洪の両親の元に張飛こと鈴々を送り出してみれば、案の定、二人は互いの喉を突き合おうとしている直前であったと言う訳だった。

 

 

「まぁ、本当は、李洪の関わりそのものを隠せれば良かったんだろうけど……流石に、被害に遭った警備隊員やその家族の手前、全部を揉み消す訳にも行かなかったからなぁ……」

「そうだよねぇ……警備隊の人達はみんな、李洪君が高仁さんを守ったのを見て、お咎め無しにして欲しいって嘆願はしてくれたけど……」

 

「仮にそうしたとしても、誰かが事件に李洪が関わってた事をポロっと洩らしちまったら、平然と暮らしてる李洪やご両親に対して逆に強い反感を持って、下手すれば禍根を残す事になるだろうからなぁ……。でも、義母上にも悪い事しちまった。何だか、李洪のご両親を助ける為のダシに使って、故郷を追い出す様な事になっちゃったもんなぁ……」

 一刀が、煙草を携帯灰皿で揉み消して申し訳なさそうにそう言うと、桃香は嬉しそうに笑って首を振った。

 

「そんな事ないよ。お母さん、意外とノリノリで鈴々ちゃんと荷造りしてるしね♪私も、お母さんと義兄妹――家族五人で暮らせるなんて、凄く嬉しいもん」

 李洪の両親が自害を図ったと聞いた一刀は、考え抜いた揚句、義母である梅香(まいか)に事情を話し、頭を下げる事にした。どの道、もうこの村では暮らせなくなるであろう李洪の両親が再び自害を図ったり、村八分になるのを防ぐ為、『都で梅香の世話をする使用人を探している』と言う名目を使い、二人を都に連れだそうと言う算段だったのである。

 

 そうすれば、どの道、故郷の土を踏む事は出来なくなる李洪とも会わせてやる事が出来る。桃香は、先程まで梅香と二人、李洪の両親の説得に赴いていたのであった。

「そうかなぁ。無理……してないか?何せ、桃香のお母さんだし……」

「ちょっとぉ!それ、どう言う意味?」

 

「い、いや、深い意味なんて無いさぁ!ははは!」

「むー!ワザとらしいぃ~」

 桃香に、じっとりとした眼差しを向けられた一刀は、乾いた笑い声を上げてから、全く以てわざとらしい咳払いを一つすると、苦笑いを浮かべて桃香に言った。

「まぁ、それは兎も角、簡擁の親父さんと俺に茶でも持って来てくれないか?堅苦しい事したから、喉がカラカラでさ!」

 

 

「……もぅ、すぐにそうやってはぐらかすんだから……まぁ、良いけど」

 桃香は、僅かに不満そうにしながらも、部屋を出て台所へと向かって行った。何だかんだで、素直なのである。

「いやぁ。最近、桃香もキビしくなって来たなぁ……あ、親父さん。もう立って、椅子に掛けてくれよ。裁判は終わったんだからさ」

 

「恐れ入ります……こう言う事だったのですね。ここまで急いで、裁判を開いたのは。御自分で判決を下し、横槍が入らぬ様にと」

 簡擁が椅子に腰掛けながらそう言うと、一刀は微笑んで二本目の煙草に火を点けた。

「まぁね。俺や桃香達が捕まえた下手人を裁くとなったら、許昌から超が付くほど有能な判官が送られてくるのは目に見えてるからな。詮索されたくない所まで、根掘り葉掘り御開帳されちゃうでしょ?幸い、俺には警備隊の総取締として、“独自の裁量で刑事を行う事が出来る”って特権があるからね。ま、本当は、『凶悪犯を捕まえる時に危ないと判断したら、犯人斬り倒しても良いですよ』って位のもんなんだけどさ。拡大解釈すれば、今回のは適応内でしょ」

 

「しかし、この事は曹操様のお耳にも届く筈。()の御方が、見過ごす事などあるでしょうか?」

「さぁ……ま、みんな揃ってすっ惚ければ、大方は察してくれるんじゃないかな?」

「はぁ……」

「だいじょーぶ大丈夫!確かに華琳は、やるとなったら徹底的にやるけど、決して冷酷非情で融通が利かないって訳じゃないよ。盗賊共にしたって、余罪だけでも十分に極刑確定だし、今更、罪を上乗せしたってしょうがない。どうせ、人間は一回しか死ねないんだから」

 

 一刀は、簡擁の不安そうな相槌を明るく笑い飛ばすと、二本目の吸い殻を灰皿に突っ込んで簡擁を真正面から見返した。

「で、親父さんに此処まで来てもらったのは、ちょっと確かめたい事があったからなんだけど」

「……はい」

 

「親父さんさ、俺の所に李洪の話をしに来てくれた時、盗賊共と李洪を殺して、自分も死ぬ気だったんじゃない?」

「!!それは……」

「さっき李洪にも言ったけど、もし俺と桃香の暗殺の件が明るみに出れば、この村に未来はない。でも、自分一人じゃ盗賊共を皆殺しになんて出来ない。だから、俺達に協力を仰いだ上で盗賊を捕縛させ、その後、もし生きていれば消耗している筈の警備隊の付き添いと増援の要請を俺達に頼み、自分は捕まえた李洪と盗賊達の所に残る――そうすれば、身動きの取れない人間を殺すのなんて、訳はない。よしんば警備隊が殺されていたとしても、一流の隠密である貴方の事だ。睡眠薬入りの水を俺達に飲ませるとか、幾らでも機会は作れた筈だもんな?」

 

 

 一刀の推測が図に当たっていたのか、簡擁は、じっと眼前の卓の天板を見詰めたまま沈黙を守っていた。

「……その上で、『自分と李洪の命に免じて件の事は内密に』とでも書いた内容の遺書を残して置けば、俺達の性格上、決して無碍(むげ)にはしないだろうと踏んだ……。囚われていた警備隊は暗殺の事までは知らない筈だし、そもそも、実行犯が全員死んじまえば、表沙汰にした所で誰も得なんてしない。増してや、捜査なんかしようもない。違う?」

 

「一から十まで、仰せの通りで……畏れ入りまして御座いまする……」

 簡擁は絞り出す様にそう言うと、卓にくっ付きそうなほど深く頭を下げた。

「やっぱりそうか……話に来てくれた時の貴方の雰囲気が、あんまりにも清々しいって言うか、決然としてる様に感じられたもんだから……全部、この村の為に?」

「それは勿論で御座いますが……やはり、桃香ちゃんと梅香さんの為に、でしょうか……」

 

「…………」

「私はね、あんなに気高い親子は見た事がありません。桃香ちゃんの言葉や行動に、どれほど心洗われたか。その桃香ちゃんを立派に育てる為に、梅香さんがどれ程の苦労を、泣き事一つ言わずに笑顔で乗り越えて来たか……」

 一刀は、黙って三本目の煙草に火を点け、簡擁の喋るがままに任せた。

 

「もしも李洪の事が世間に知られれば、先程、北郷様が仰られていた通りの事が起きるでしょう。そうなれば、あの親子の事。きっと、一生涯、自分を責め続ける事は容易に想像も付きます。例え、自分達のせい何かじゃ、これっぽちも無くてもね。そりゃあ、私達の死も嘆いてくれるでしょうが、故郷が世間から忌み嫌われ続ける事に比べれば、随分、小さな傷で御座いましょう……ですから……」

 

「成程ね……」

 一刀は、簡擁の話を最後まで聞き終わると、三度吸い殻を灰皿に突っ込み、ボリボリと頭を掻いた。

「で、親父さん。実際の話、出来たと思うかい?」

「は?」

 

「いや、つまりさ。俺があの時、貴方に何も話し掛けずに出て行ったとして……殺せたかな?李洪を――」

「それは……」

 簡擁は、一刀の問いに俯きながら黙考し、ゆっくりと首を振った。

「――出来なかった、でしょうね。お笑い下さい、北郷様。赤ん坊の頃から見てきたあの子が血だらけになっているのを見た瞬間、私は恐ろしくなってしまいました。死んでしまう、死なせてしまうと思ったらもう……どうやら長く生き過ぎたせいで、自分でも知らぬ内に、“百足(ムカデ)”の毒もすっかり枯れてしまっていた様で……」

 

 

 簡擁は、椅子を立って再び一刀の前に平伏すると、床に擦り付ける程の勢いで頭を垂れた。

「北郷様のご信頼を仇で返す様な真似を謀りました事、お詫びの仕様も御座いませぬ。()くなる上はこの老体、如何様(いかよう)な罰もお受け致しまする所存……!」

「罰って言われても……結局、まだ何もしてない訳だしなぁ……」

 

 一刀は困った様にそう言って、簡擁を立たせようとした。しかし簡擁の身体は、根でも張ったかの様にびくともしない。

「いいえ!寛大な御言葉、恐悦至極なれども、それでは私が私を許せませぬ。どうか……どうか!!」

「やれやれ……どうあっても、命を以って償いたいと」

 

「はい。老い先短いこの命で購える事とは到底思えませぬが……私には、これ位しか差し上げられる物が御座りませぬ故……」

一刀は、「ふぅん……」と、納得とも溜息とも着かぬ様な呟きを漏らして、(しば)し床にひれ伏す簡擁を見詰めると、やがて(おもむろ)に口を開いた。

 

「つまり、俺に命をくれるって事なんだな?で、どう使っても良いと」

「はい」

「了解了解……ま、そうまで言うなら仕方がないな。では、望み通り罰を与えよう」

「はっ、有り難き幸せ」

 

「簡擁。これよりはこの北郷一刀に仕え、その力の全てを以って尽くせ。俺が良いと言うまで、勝手に死す事は(まか)りならん。以上!」

「はっ!……はっ!!?」

 簡擁が思わず顔を上げて、困惑の表情を向けると、一刀は面倒そうに頭を掻いて片眉を上げた。

 

「なんだよぉ。まだ文句があんのかい?」

「いや、しかし……!!」

「命くれるんだろ?男に二言は無いよな?」

「は、はい……。しかし、私は、漢の王朝に追われていた身でもあります。その様な咎人を――」

 

「そんな事まで一々考えてたら、俺の方が先に死んじまわぁ。俺は、漢の王朝になんて大した義理がある訳じゃなし。第一、もらったモンを俺がどう使おうと俺の勝手じゃないか。はい、この話はこれで終了。もうすぐ桃香が戻って来るだろうから、早く座ってくれよな」

 一刀は、照れ臭そうに言い捨てると、簡擁の目に浮かぶ涙を見ない振りをして、改めて簡擁を立たせるのだった――。

 

 

                      あとがき

 

 はい!今回のお話、如何でしたか?

 いやぁ、こんなに早いペースで投稿出来たのは、何時以来でしょうかw

 バトル回だったので、勢いが無くならない内に出来るだけ早く、とは思っていたんですが、久し振りに休日に何の予定も入っていなかった事もあり、一気に書き上げられました。

 

化け蟹の名前の由来は、中国の『夾人虫』と言う蟹の妖怪から取りました。中国の事だから、蟹の妖怪も居るんじゃないかとネットダイブしてみたら案の定だったので、これ幸いと即採用しましたw

青龍王のバトルパートは、書いていて本当に楽しかったです。何せ、『電気』と言うエネルギー自体、もの凄い拡張性と汎用性を兼ね備えているので、あれもしたいこれもしたいと考えてしまい……でも、詰め込み過ぎてしまうと次回以降の戦闘が面白くなくなってしまいますし、流石に蟹さんも可哀想なので、必死で欲望を押えましたw

 

 渾沌との遣り取りも、彼自身、私が今まで書いて来た敵とは違う方向性のキャラクターだったので、とても楽しかったです。

後半のエピローグパートは、もう少しボリュームがあったのですが(梅香さんとかも出て来る予定だった)、やる事が多過ぎてゴチャゴチャすると、エンディングのテンポが悪くなってしまうかなぁと思い、こんな感じになりました。梅香さんも簡擁の親父さんも、これからは都に居るので何時でも動かせますしねw

 

 敵幹部との遭遇も一通り済ませたので、次回からはもう少し自由にな展開が出来るかなぁと、自分では思っています。でも、そろそろ消化しないといけないイベントも結構溜まってるので。どうなる事やら……(汗)

 

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 では、また次回、お会いしましょう!!

 


 
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