『『The World 』の英雄と同じ名前か…』
――『はじまりの街』“初心者互助組織”MMOトゥデイ管理人シンカー――
(やってみる、と言ったのはいいが……さて、どーすっかな)
阿鼻叫喚、茫然自失の人々が残る《はじまりの街》中央広場。
その片隅で、俺は頭を悩ます。
クリアーを目指す為に、情報を集めるのは良い。
だが俺には、肝心のこのゲームの情報を集める当てが無い。
『The World 』では、それなりのプレイヤーだったとしても、このゲームは別物。
おまけに、今は、自分の命が懸かってるという笑えない状況だ。
保身に走る連中は間違いなく攻略するよりこの街で外部からの救援を待つだろう。
俺も何も知らなかったらそうするかもしれない。
(いや・・・俺に限ってそれはねぇか)
そんなことよりこれからどうするか。
あーでもない、こーでもな、と一人頭を悩ましていると、
「あの、すいません。…貴方はもしかしてβテストの方ですか?」
一人の男に話しかけられた。
「いや…俺はこのゲームは今日が初めてだ」
・・
「そう……ですか。いや、すいません。あまりにも普通だったので、てっきり経験者の方かと」
そういって頭を掻く男。
見た目は穏やかっぽく、体型はちょい太め。
ゲーマーといった雰囲気はしない。
「…アンタは?」
「あ、すいません。名乗りもしないで…私はシンカーと言います。……それにしても、大変なことになりましたね」
シンカーと名乗る男は深刻な表情で話す。
「そうだな。まさか、ゲームの世界に閉じ込められるとは思ってもいなかった」
「そうですよね。GM、茅場晶彦の言葉が真実ならクリアーまで誰も出られないですし、外からの救援も無理でしょう。…しかし、恥ずかしながら自分も含めて初心者の人が大半で、とても一刻一夕にこのゲームを安全に攻略できる実力はつかないでしょう」
シンカーの言葉は的を得ているだろう。
ワケありな俺や、βテスト参加者以外は、多少のネットゲーム体験者かまったくの初心者ばかりだろうことは、チョット想像すればわかる。
俺は、改めて、今回のこのゲームのクリアーの難易度がヤバいということに気付く。
クビア
(まだ、反存在と戦ってた頃のほうが楽だったな…)
俺は、思わず出そうになった溜息を堪えると、シンカーに問う。
「条件がキツ過ぎる……なぁ、シンカーさん。何か良いアイディアでも無いか?」
シンカーは小さく唸ると、シンカーと呼び捨てで構いませんよ、と前置きしてから、
「……そうですね、当面としては、初心者救済、情報共有のできるギルドのようなものを作って纏まること、ですかね」
「確かに、このゲームをクリアーするには団結が必要そうだな。なんせ100層だし」
さっき広場で叫んでいたヤツが居たが、βテストに参加するようなゲーマーが挑んでろくに攻略出来なかったとすると、このゲームの難易度は元々からかなり高いだろう。
そこに人数は増えたとしても、初心者が大半の現状ではプラスにはならない。
むしろ大きなマイナスだ。
おまけに一度失敗したら死ぬと警告されている。
こんな状況で、単独で動けるヤツは、現状をしっかり把握できていないか、よほど自信があるか、そのどちらかだ。
(とりあえず、カナードの時みてーにやるしかねぇか……って、ん?)
ふと、気になったことがある。
「そういえば、このゲームにギルドとかそういうのって無かったような気がしたんだが…」
俺の言葉に、シンカーは頷き、
「そうですね。このSAOにはプレイヤーが作れるシステム的な組織は存在しないと思います。あくまで現状では、ですが。Lv開放や階層によってはあるかもしれませんので、無いとも言い切れませんね。今、あえて言うなら、レイドがそれに近いですが、これはボス戦用の大人数パーティの為のシステムなのでやはり違いますね」
「なので、今はフレンド登録した各プレイヤー毎の任意でギルドのような関係を作らなければなりません」
(…なるほどね)
と、説明を聞いていて疑問。
コイツやたら詳しいが、もしかして?
「なぁ…シンカー。アンタはβテスターなのか?」
そう問いかけると、シンカーは首を振り、
「残念ながら。βテストには応募しましたが抽選から外れまして。…情報はβテスト参加者の方から教えてもらったものです」
「なるほどな。……その情報をくれたβテスターのヤツ、わかるか?」
「それも生憎……私のWebサイトに匿名で情報をくれた方だったので」
「サイト?」
「はい。MMOトゥデイというサイトで、主にネットゲームの情報を纏めてました」
「………!そうか。アンタがあの大型ニュースサイトの管理人だったのか!」
人は見かけによらないと言うか何と言うか。
俺もお世話になった某サイトの管理人とこんな場所で出会うとは。
広いようで狭い世の中だ。
俺の眼差しに照れたのかシンカーは僅かに顔を赤らめ、
「大型なんてとんでもないですよ。更新は遅かったですし、情報量もそこまでの規模では無かった」
「いや、謙遜することはねーと思う。俺もお世話になったしな」
そう言うと、シンカーは顔を綻ばせて、
「そうですか。役に立ったなら幸いです。…そう言えば、まだ貴方の名前を伺ってませんでしたね」
「あぁ…そういや言ってなかったな。すまねぇ…俺は、ハセヲだ。宜しく」
「ハセヲさん…ですね。では、改めて宜しくお願いします」
「こっちこそ宜しく。じゃ、話の続きをする前に…」
実は、さっきから気になってた。
壁の端からこっちを見てるヤツが居る。
「そこに居るヤツ…出て来いよ!」
いい加減鬱陶しい。
声が多少荒くなったのはしかたねぇ。
だが、声をかけた相手がまさかあんなのだったとは、思いもしなかった。
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ハセヲのSAOは始まったばかりである。
注意*この小説には作者設定、時系列改変、キャラ崩壊、その他諸々が含まれます。
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