No.566137

ソードアート・オンライン 黒と紅の剣士 第三話 囚われの美女

やぎすけさん

遅くなりました。

2013-04-14 19:22:20 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2256   閲覧ユーザー数:2199

キリト視点

俺たちはそれまでの鬱憤を叩きつけるような大技の乱舞で黒ミノタウロスにトドメを刺した。

敵アバターの消滅し、爆散地点にドロップアイテムが次々と転がり落ちてくる。

だが、それらには目もくれずに、ぐるりと振り向いた刀使いが叫ぶ。

 

クライン「おらキリの字!デュオ公!オメエら何だよさっきのは!?」

 

その言葉が俺たちの使った【スキルコネクト】と【スペルコネクト】であることは明らかだ。

 

クラインの言葉に俺とデュオは顔を見合わせ、面倒くさそうな引き攣った笑みを浮かべてから言った。

 

デュオ「やっぱ・・・」

 

キリト「・・・言わなきゃダメか?」

 

クライン「ったりめえだ!見たことねえぞあんなの!!」

 

気付くと、俺たち以外の全員が沈黙している。

 

キリト「・・・システム外スキルだよ。【スキルコネクト】。」

 

デュオ「同じく【スペルコネクト】。」

 

一同(俺&アスナ&デュオ以外)『おお・・・!!』

 

そんな声がリズやシリカたちの口から流れると、不意にアスナが右のこめかみに指先を当てて唸った。

 

アスナ「う・・・なんかわたし今、すっごいデジャブったよ・・・」

 

デュオ「奇遇だなアスナ。俺もだ。」

 

左手の人差し指で顔を掻きながら、デュオはアスナの意見に同意する。

 

キリト「気のせいだろ。」

 

俺が肩をすくめていると、リズの隣にいたガッシュが言った。

 

ガッシュ「のんびりしてる時間はねえんじゃねえか?」

 

エルフィー「そうだね。リーファちゃん、メダリオンはどうなってる?」

 

リーファ「あ、うん。」

 

長剣を左腰の鞘に収めたリーファは、首に下げたメダリオンを持ち上げて言った。

 

リーファ「・・・今のペースだと、一時間はあっても二時間はなさそう。」

 

キリト「そうか。――――ユイ、このダンジョンは全四層構造だったよな?」

 

リーファの言葉を訊いた俺は、ユイに問いかける。

頭の上に乗ったままの小妖精は、はきはきと答える。

 

ユイ「ええ、三層の面積は二層の七割程度、四層はほとんどボス部屋だけです。」

 

キリト「ありがとう。」

 

右手を伸ばして、指先で頭を撫でてやりながら、俺は素早く状況を検討した。

今頃、遥か下方のヨツンヘイムでは、プレイヤーたちの動物型邪神狩りが勢いを増しているだろう。

クエストの参加人数は増えこそすれど減りはしないだろう。

そうなると、残り時間は一時間あるかどうかと見積もっておくべきだ。

フィールドの攻略自体はユイの案内でどうにかなるだろうが、問題はボス戦だ。

ラスボス、恐らくは【王スリュム】当人との戦闘に30分はかかると予想すると、残りの30分で三層、四層を突破しなければならないということになる。

 

リズベット「・・・こうなったら、邪神の王さまだかなんだか知らないけど、どーんと当たって《砕く》だけよ!」

 

背中をどーんと叩き、俺の思考を中断させたリズベットがそう叫ぶと、残る面々も一斉に「おう!」と応じた。

 

デュオ「こいつらの無軌道さはお前譲りだな。」

 

軽く笑って言うデュオに苦笑してから、俺は声を張った。

 

キリト「よし、全員、HPMP全快したな。そんじゃ、三層さくさくっと片付けようぜ!」

 

もう一度声を合わせ、俺たちは同時に床を蹴ると、ボス部屋の奥に見える氷の下り階段目掛けて走り出した。

ユイの言葉どおり、第三層は上のフロアに比べると狭かった。

逆さまのピラミッドを下っているのだから当然なのだが、しかしそのぶん通路は細く、入り組んでいる。

普通に攻略しよう思ったら、道に迷って右往左往していただろう。

だが、俺の頭上には地図データにアクセスすることのできるナビゲーション・ピクシー様が鎮座ましましているのだ。

俺たちはユイの指示に従って、複雑な通路を駆け抜け、パズル系のギミックを思考時間ゼロで片付けていく。

もしも外からこの様子を見ている者がいたら、最速クリアでのタイムアタックだと思ったに違いない。

途中に二回の中ボスを挟んでも、18分で第三層のボス部屋まで到達した。

そこで待ち構えていたのは、上層のボスたちの二倍近い体躯を誇る、長い下半身の左右にムカデよろしく10本もの足を生やした大変気色悪い巨人だった。

物理耐性はさほど高くなかったが、その分攻撃力は天井知らずで、ボス戦開始直後の攻撃で危うく壊滅する直前まで追いやられたが、ガッシュがタゲを取り、その間にアスナ、リーファ、エルフィー、デュオまでもが回復役に回り、どうにか体勢を立て直すことが出来た。

その後は、デュオが1人でタゲを取り続け、その間に全員で巨人の足をすべて切り落とし、最後は動けなくなったところを、【スキルコネクト】、【スペルコネクト】を含む多重ソードスキルで仕留めた。

そのままの勢いで、ボス部屋の奥の通路に踏み込んだ俺たちの眼前に―――判断に迷う、1つの光景が出現したのだ。

それは、細長いツララで壁際に作られた檻だった。

地面と天井から、鍾乳石よろしく鋭く伸びる氷の柵の向こうに、1つの人影がある。

巨人サイズではない。

床に倒れているので正確なところは不明だが、身長はウンディーネのアスナとほぼ同じくらいだろう。

粉雪のように白い肌に、長く流れる深いブラウン・ゴールドの髪といった姿をしている。

体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸部は、この場の女性プレイヤーを圧倒している。

なよやかな両手両脚には、無骨な氷の枷が嵌る。

予想外の光景に足を止めた俺たちの気配に気付いたのか、うつ伏せに臥していた。

囚われの女性は、ぴくりと肩を震わせると、青い鎖を鳴らして顔を上げた。

瞳の色もまた、髪とよく似た金色だった。

顔立ちは、このゲームでは珍しい西欧風の気品溢れる美貌で有り得ないほど整っている。

長い睫毛を一度上下させてから、女性はか細い声で言った。

 

?「お願い・・・私を・・・ここから、出して・・・」

 

ふらり、と氷の折に吸い寄せられた刀使いの、後ろから垂れるバンダナの尻尾をがしと掴み、引き戻す。

 

キリト「罠だ。」

 

シノン「罠よ。」

 

リズベット「罠だね。」

 

俺たち3人が同時に言うと、びくんと背中を伸ばしたクラインは、振り向くと実に微妙な表情でがりっと頭を掻いた。

 

クライン「お、おう・・・罠、だよな。・・・罠、かな?」

 

往生際の悪い刀使いに、俺は小声で「ユイ?」と訊ねた。

頭上のピクシーから、即時の応答。

 

ユイ「NPCです。ウルズさんたちと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。ですが、一点だけ違いが。この人は、HPゲージがイネーブルです。」

 

Enable,すなわち《有効化されている》ということだ。

通常NPCはHPゲージが無効化されており、ダメージを受けない。

例外が、護衛クエストの対象であるか、あるいはそのNPCが実は―――

 

アスナ「罠だよ。」

 

シリカ「罠ですね。」

 

リーファ「罠だと思う。」

 

エルフィー「罠だと思いますよ。」

 

4人が同時に言った。

眉を八の字に寄せ、目を見開き、口をすぼめるという複雑怪奇な表情で固まるクラインの肩を叩き、俺が口を開こうとした時、デュオが背中の剣に手をかけた。

 

デュオ「クレイジーバーン!」

 

抜剣と同時に声が響き、刀身からオレンジ色の球体が氷の檻に向かって放たれた。

オレンジ色の球体は勢い良く飛んでいくと、檻に激突して爆発を引き起こした。

 

デュオ「このやり取りだけで結構なタイムロスだ。」

 

ベルトに剣を戻しながら言うデュオを、クラインが睨み付ける。

 

デュオ「安心しろよクライン。ちゃんと檻だけ狙って撃ったから、あのNPCにダメージは無い。」

 

クライン「な・・・!?」

 

デュオ「どうしても助けたいなら、枷を外しに行ってこいよ。」

 

デュオの言葉を聞いた瞬間、クラインは全速力でNPCの美女の元へ向かう。

 

キリト「なんで、助けようと思ったんだよ?」

 

クラインが走っていってから、俺はデュオに訊ねてた。

 

デュオ「あのまま無理やり連れて行こうとしても、クラインが、はいそうですか、って動いたとは思えない。だったら、好きにさせてやったほうがいい。」

 

最もな意見ではあるが、罠だった場合の対処は考えていたのだろうかは微妙なところである。

だが、それを訊くより先に美女を連れたクラインが戻ってきた。

なにやら、情けない顔つきをしている。

話を聞くと、この女性は、一族の宝をスリュムに盗まれ、それを取り戻すためにこの城に忍び込んだのだが、門番に捕らえられていたらしい。

そして、宝を取り戻すまで帰るわけには行かないので、俺たちに同行したいということらしい。

話を聞き終えると隣で、アスナが小さく囁く。

 

アスナ「なんか、キナくさい展開だね・・・」

 

キリト「だなぁ・・・」

 

頷き返した俺を、美女の隣に立つクラインが情けない顔つきのままで言った。

 

クライン「おい、キリの字よう・・・」

 

キリト「・・・あ~も~、解った。こうなりゃ最後までこの分岐(ルート)で行くしかないだろ。まだ百パー罠って決まったわけじゃないし。」

 

俺がそう答えると、クラインはニヤリと笑い、美女に威勢良く宣言した。

 

クライン「おっしゃ、引き受けたぜ姉さん!袖すり合うのも一蓮托生、一緒にスリュムのヤローをブッチめようぜ!」

 

?「ありがとうございます、剣士様!」

 

金髪の美女がクラインにむぎゅっとしがみつくと同時に、パーティーリーダーである俺の視界にNPCの加入を認めるかどうかのダイアログ窓が表示された。

 

キリト「ユイに妙なことわざ聞かせるなよなー!」

 

ぶつくさ言いつつ、俺は窓のイエスボタン押す。

視界左下から下に並ぶ、仲間たちのミニHP/MPゲージの末尾に、11人目のゲージが追加される。

美女の名前は【Freyja】となっていた。

フレイヤと読むのだろうが、どこかで聞いたような名前だ。

HPもMPも相当高いが、とくにMPは驚愕の数値を示している。

おそらくはメイジ型だろうか。

 

キリト〈これで最後まで仲間でいてくれたらだいぶ助かるんだけどなぁ。〉

 

そんなことを思いながら、リーファの胸のメダリオンを一瞥した。

残り時間は、先の目立てどおり30分あるかないかといったところだ。

 

キリト「ダンジョンの構造からして、あの階段下りたら多分すぐラスボスの部屋だ。いままでのボスより更に強いだろうけど、あとはもう小細工抜きでぶつかってみるしかない。序盤は、攻撃パターンが摑めるまで防御主体、反撃のタイミングは指示する。ボスのゲージが黄色くなるとこと赤くなるとこでパターン変わるだろうから注意してくれ。」

 

こくりと頷く仲間の顔を見渡し、俺は語気を強めて叫んだ。

 

キリト「―――ラストバトル、全開でぶっ飛ばそうぜ!」

 

一同「おー!!」

 

このクエスト開始以来三度目の気合いに、俺の頭上のユイと、シリカの肩にとまるピナ、そしてNPCのフレイヤまでもが唱和した。

あとがき

書き溜めがなくなってしまった上に、学校が始まって忙しくなったため、なかなか投稿が出来ません(泣)

(ある程度まで画力が上がったので)来月あたりから挿絵を載せようと思っています。


 
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