(華琳視点)
あれから、私たちが春蘭たちを戦場に残し、とある城にひきあげてから、3刻ほどが過ぎていた。
こんなことをして私はっ!そんな考えが何度も頭によみがえる。
あの状態で、彼女たちをおき去るのはそれは死守しろと命令しているようなものだ。
それを、私は、承認してしまった。
彼女たちの強い望みは確かにあった。
あの場所にのこり、私たちが撤退する時間をかせぐという、そんな望みが。
そして、あそこで私が引いていなけば、全滅は確かに時間の問題だった。
王の判断・・・
それを考えればあそこで退くのは当然だ。
けれど・・・・
私がそう考えていると、伝令が私のもとへとやってきた。
「夏侯惇様、典 韋様、無事に帰還しました。」
私はそう聞いた途端、その場所を飛び出していた。
そして、門の近くには流琉を背負いながら春蘭が立っていた。
「春蘭、流琉!」
私は、再び見ることができた彼女たちの姿に喜び、抱きついた。
「華琳様、・・・」
そんな私に驚いたのか、春蘭はただ、呆然としていた。
「よかった」
私は、ただそういうことしかできなかった。
もっと、言葉をさがせることができたのだろうけど、
そのときはただ、そういうことしかできなかった。
「はっ、ありがとうございます」
春蘭もようやく状況がのみこめたのか、そういいながら涙をしていた。
「流琉、お疲れ様、足は、大丈夫かしら?」
春蘭に担がれている流琉をみると、彼女は足にけがをおっていて、
動けないようであった。
「ありがとうございます、華琳様。 私は大丈夫です。」
「そう、 ごめんなさい」
「華琳様、謝らないでください。 こうして、私たちも無事に帰れたことですし。」
そう会話をしていると、だんだんと私の周りには将たちがあつまり、
お互い、よかったと、涙をしながら抱き交わす姿があった。
「それにしても、春蘭。 よく、あの状況から抜け出せたわね」
私は、みなの再会の挨拶が終わった後、そう春蘭にきいた。
「それは・・、呂布、恋があのあと、私たちの場所へ駆けつけ、その場を引き受けてくれたからです。」
「恋が?、それってどういうこと?」
状況が読み込めなかった。
蜀は今、五胡と剣を交えているはず、なのに、主力であるはずの
呂布がなぜここに・・・
「私には、わかりません。 しかし、恋がいなかったら、今頃私たちは・・」
その言葉を彼女は続けようとはしなかった。
それはおそらく、誰もがわかっていたからなのであろう。
「それで、恋は?」
「一応、ここの場所は教えておきました。 無事であるならば、まもなく恋もここに
くるはずです。」
無事であるならば・・・その言葉が再び私の頭の中に響く。
「そう、」
そうした話をし、ひと段落したあと、みなはもとの場所へと戻っていった。
「伝令です! 呂布様が、この城への入城を求めております」
ひと段落し、少しばかり時間がたった後、再び伝令が私のもとに来て
そう伝えた。
「入れなさい。 私も向かうわ!」
「はっ!」
さすが、恋だ・・・やはり三国無双といわれただけはある。
私は、そう思う。
「恋!」
私は、門に再び駆けつけると、そこにはふらふらとしながらも、
恋がこっちに向かってくるのが見えた。
「恋!」
春蘭、そして流琉をこんなにまでなってでも、助けてくれたことに
私の彼女の名前を呼ぶ声は叫び声に近くなっていた。
「か・・りん?」
私が、そう彼女のまえにたつと、彼女はふらふらとしながら
私の前で倒れた。
「ちょっと!恋!しっかりなさい!」
「ごめん、かりん。 すこしつかれちゃったみたいで。」
それはそうだ。あれだけの相手を一人で死守したのだ。
彼女の体のところどころには切り傷があった。
もう、たっているのは限界なんだろう。
しかし、とりあえずよかった。 彼女は無事みたいだ。
「恋、蜀は、大丈夫なの?」
「わからない・・けれど、恋はにいにいのためにきた。」
わからないって・・・それは、桃香たちも恋がここにいるってしらないっていうこと?
「にいにい? それって、呂白のことかしら?」
呂白。 蜀の反乱のとき、その名を一気にとどろかせ、
そしてそれ以来私は彼の名を聞いていなかった。
どこにいるのかも、わからずにいた。
「うん。 」
「呂白のためってどういうことかしら?」
「にいにいを、にいにいのかくごをけがしたやつがいた。 恋はそれが許せなかった。」
「呂白の覚悟?」
「うん、かりん。私は、それもつたえるためにここにきた。
かりんにいわなきゃいけないことがある。」
「私に言わなきゃいけないことがある?」
「うん。ほんとうはだまっているつもりだったけど、かりんは
にいにいのことを・・一番に・・」
「私が?呂白のことを一番に?」
ほしがっている?そういうことかしら?
「うん、かりん・ あの、ね・・・それは・・」
「ちょっと!恋!」
そういいかけながら、彼女は疲労が限界にきたのか、そこで意識を失ってしまった。
呂白・・・・
ここにきてまた名前をきくなんてね。
それより、なんなのだろうか、恋がここまで必死に言おうとしていたことは・・・
それより、恋がここにいるということは呂白もここにいるということかしら。
なんなんだか、さっぱりわからない・・・
「華琳様! 敵が迫ってまいりました」
そう考えていると桂花が私の元へかけてきてそう伝えた。
「やはり、きたのね。 救護兵! 呂布を救護室へ!」
「御意!」
私はそう伝えると、桂花に向き直る。
「戦闘態勢はいいかしら?」
「はい。もうできております。」
「そう。 桂花、いままでありがとう」
「はっ、もったいないお言葉です」
そういった私の言葉を彼女が否定しなかったのは
おそらく、彼女が優秀な軍師であるとともに、私のことをよく知っているからなのであろう。
「さあ、いくわよ。 桂花。」
「御意」
私は彼女にそういい、城壁へと上っていった。
壮観であった。
敵は、その白の十文字の旗をたなびかせながら、私たちの前に、大軍を率い
ならんでいた。
一刀・・・そう、交差する複雑な思い。
絶対に彼ではないと思う気持ちと、それをどこか疑ってしまう自分。
そして疑う自分を嫌う自分がまたいて・・・
何が何だがもうわからなかった。
後ろのほうには白い服をきた大将が周りに指揮をしているのが見える。
その顔は、布で覆い隠され見えない。
あれが、一刀を名乗っているものなのであろう。
これが、最後の戦いになるのね。
私はそんな複雑な気持ちとともに、前へとでる。
それとともに、大将らしき男もその馬をすすめ、前へ出てきた。
「貴様は何者だ!」
私はそう覇気をにじませながらそのものに尋ねる。
「私は、天の御使いに選ばれしもの。」
「名を名乗れ! 私は魏の王。曹操である!」
「わかっておりますよ。敵の大将の名など。」
「質問に答えよ! そして、今、貴様らのいう天の御使いはどこにいる!」
「天の御使いはその役目を果たし、天へと帰還した!」
男はそう堂々と叫んだ。
そう、そうきたかっ、わたしはそんな敵の考えに驚きもした。
周りではこの男の叫びに動揺が広がっている。
そう、やはり天の御使いなどいなかった。あえていうのなら、この男が天の御使いを
演じて見せていた。
天の御使いとともにあれ、そんな大義とともに軍を編成。
そして、三国に不満をもっている勢力を天という大義のもと次々にまきこむ。
そして、今、彼らが言う天の御使いは役目をおえ、
天へと帰還した。
役目、それは彼らの言う、三国への宣戦布告と三国を自らのものにすること。
そして、その天の御使いがこの戦いの前にすでに役目を終えたといえば、
彼らの勝利は天によってもう証明されたということになり、こちらの
大義はなくなるどころか、天にそむいているただの賊になりさがる。
そして、一番の目的は、天の御使いが戦いを終わる前に去ったということは、
その大将を信頼し、認めたと同じこと。
つまり、彼は、天の御使いでなくとも、天に恵まれたという名を担ぐことができる。
そうか、すべてはこのために・・・
事実、この世界で天より強いものは存在しない。そしてそれに誰もが近づこうとする。
今、彼だけがこの世界で天というなをもてる存在になってしまったということだ。
偽りの天を掲げ、人々の中の本物の天を手に入れる。
それが彼の考え。
「あなたは、何者なの?名を名乗りなさい!」
「名などよいではありませんか。私は天に選ばれしもの」
その言葉に、敵の軍隊から次々と雄たけびが聞こえる。
その言葉のどれもが、天は我らにありというものだった。
「名を名乗れといっている!それとも、天に選ばれたものは
名をも名乗れぬ愚か者なのか?」
「そのような挑発にのっかるのはいささかですが、ここは素直に乗ってあげましょう。
私の名は、司馬 懿。 天とともに歩むもの」
しばい・・ね。 そう。あなたなのね・・・
直接会ったことはなかったがその才はあの諸葛亮にも及ぶとも言われていたもの。
うわさでしか聞いたことなく、何度か捜索してみたけれど
結果、見つけることはなかった。
こんなかたちで、会うことになるなんてね・・・
「そう、あなた、なぜこの状況で、三国に対抗しようとしているのかしら?」
「対抗?言葉をお間違えでは? 私たちは天の意思のもと、ただその御心のままに
行動しているまでですよ。」
ちっ、あくまでその言葉を貫き通すみたいわね。
「では、その天の意思とはなんなのだ。天の御使いは魏を天下に導いた。
そして、今、その魏を滅ぼそうとしているのか!
それほど天というものは矛盾した行動をとるものか!」
「確かに。 天の御使いは魏を天下に導いた。 しかし、あなたはその天を
つかまなかった。天下三分というやりかたを用い、三国同盟という滑稽な茶番劇を
し始めたのです」
「聞いてあきれるわね。 天は、北郷一刀はそれを望んだ。
彼に出会う前の私であったら、きっと天をつかんでいたでしょう。
しかし、彼はその考えを変えてくれた。」
そう、一刀はともに道を歩むことの大切さを教えてくれた。
「では、ききますが、なぜ彼は魏から姿を消したのですか?」
「それは、彼が彼の役目を・・」
彼の役目・・・言おうとした言葉が私の心に突き刺さる。
役目を終えた・・・だから私たちの前から消した・・・
彼は果たして、それを望んでいたのだろうか?
彼は、ただ自分が消えることに理由がほしかっただけなんじゃないだろうか?
そしてそれは私も・・・私たちも・・
そうだ。天の役目?そんなの関係ない。 私が、私たちが彼とともにありたい。
そして彼もそれを望んでくれている。
それだけで、十分なんだ。
「言葉につきましたか・・・彼は、確かにあなたを一度認めた。
しかし、今はこちらを認めている。 そして彼がわれわれのもとから姿を消したのは、
私を、彼が認めたからである。 事実、私たちに反抗する勢力はあなたたちしかいない。
天は私を選んだ。 あなたのもとを去ったのは天があなたを認めたからではない。
あなたに絶望したからだ。」
「あなたがかたるちっぽけな天など、私には興味はない。
しかし、貴様ごときが北郷一刀の名を持ち出し、彼の生き様を侮辱することは
私が許さない。」
そう、わたしにとって、天などどうだっていい。確かに一刀は天の御使いといわれているけれど、
私が彼を私の隣に置いたのは、彼が天からきたからという理由ではない。、
一刀が、どこまでも、一刀だったからだ。
「まあ、どうだっていいですよ。 あなたはここで滅びる運命だ。
せめて、最後の足掻きくらいみせてくださいよ。
覇王とうたわれた、曹操の最期にふさわしく、ね。」
そう司馬 懿はいい、自軍へともどっていった。
くっ、こんなやつに・・・こんなところで・・・
あいつの言っていることはでまかせだ。そんなのわかっている。
そしてなにより一刀を利用しているのが私は許せない。
でも、この戦力をめのまえに、どうすることもできない、自分の
無力さが、もっと許せない。
「華琳様?」
私が握りしめているこぶしを見たのか、
後ろにいた桂花がそう心配そうに声をかけてくる。
「ごめんなさい。私としたことが、あんなやつをあいてについ熱くなってしまったわ。」
でも、これが・・・私の最期になるのね・・
自分の愛する男を侮辱されたまま、私は・・・
「いえ・・・」
「それでは、華琳様。」
「ええ・・・」
あんなやつに、あんなことを言われたが、ここで、でていってしまったら
瞬時に軍は瓦解するであろう。
しかし、ここで、守りを固めてもそれはおそらく時間の問題だ。
「桂花、戦闘の準備を。」
「御意」
私がそう桂花に声をかけると、彼女は指揮をするために、もとの場所へと戻っていった。
なんで、なのよ・・・
一度緩めたその手にまた自然と力が入る。
今、あなたが必要なのよ・・・一刀。
どうしようもなく、あなたが必要なのよ・・・
なんで、私が必要としているときにきてくれないのよ。
愛しているって言ってくれた言葉は、私のそばにいてくれるっていってくれた言葉は
うそなのっ!
うそだけは、あなたはつかなかったじゃない・・・
一刀・・・
私は、自分でした約束を再び思い出す。
「次に会えたときは、別れてからの話、
たくさん聞かせてもらうわよ。
だから・・・だからね、一刀、いつかまた会える時まで
私も胸を張って生きるわ。
私らしく、あなたに笑われないようにね・・・。じゃぁね!また会いましょう、一刀!」
そう、あの、三国で宴をやった日にした彼との約束。
私は、あれから、胸をはって生きていただろうか?生きてこれただろうか?
あなたは、ここまで、歩いてきた私を笑わない?
でもっ・・・・
ここで、わたしはあんなやつにっ、私たちはこんなところで・・・
もう、その約束が、守れなくなると思うと、胸から熱いものがこみ上げる。
「あんなやつにこの誇りを、彼のほこりをけがされて終わるくらいなら・・私は!」
私は気持ちが高ぶっていたのだろうか・・知らないうちに思ったことは声に出ていた。
「あんなやつに、負けたくない。」
「だったら、私は・・・」
「だったら、どうするんだ・・・?」
「だったら、私は誇りとともにこの命をかけるわ!」
私は、そんな質問に自分の答えを返した。
そう私が叫ぶと、私の頭にポンっとやさしく手がのせられた。
「違うぞ、華琳。 負けっていうのは、その命がなくなったときのことをいうんだ。
たかが、一回の負けを、負けって言うな。
命があれば、次がある。 だったら、次に勝てるように、今を生きるんだ。
どんなに悔しくても。
それが、その思いが、きっと次につながるから。
だから、君は、まだ負けてなんかいないさ。
だって、君は、生きているだろう、華琳。」
え・・・・・
う、そ、でしょ・・
あの懐かしい言葉に、初めて怒られたときとそっくりな言葉に、
私の頭の中に、彼との思い出がよみがえる・・
これは、私の幻想なのだろうか。
弱い私が、そうみせているのだろうか?
でも・・・
「かず・・と?」
私は私の頭に乗せられたその手をゆっくりととり、後ろを振り向いた。
「ああ」
それは、幻想などではなかった。
確かに彼は、そこにいた。
二年前、私の前から姿を消した彼が、確かにそこにはいた。
「・・・」
なにもいうことができなかった。
私はただ、彼の目を見ていることしかできなかった。
おそらく、それはまだこの光景を信じていない自分がどこかにいるからなのだろう。
「ただいま、華琳」
けれど、私はその言葉に、すべてが現実に戻ってくるのを感じた。
「もう、遅いわよ。一刀。 どれだけ、まったとおもってるの?」
そういって、強がって見せる私だったが、おそらく、目から流れる涙を
とめることはできてはいなかったであろう。
「ごめんな」
「どれだけ、心配したと思ってんのよ」
「ごめん」
「どれだけ、あなたのことで、みんなが悲しい思いをしたとおもってるの?」
「ごめん」
「なんで、なんの連絡もなかったのよ」
「ごめん」
「ごめん、ごめんって・・・・ なにかいいなさいよ・・・」
「・・・・・」
「ばか、私にこんなこといわせないでよね。・・・・おかえり、一刀。」
「ああ、ただいま。 華琳。」
そうして、私は彼のことを抱きしめた。
腕の中の彼は、二年前の彼より随分たくましく、そして勇ましく感じられた。
「それで、一刀。 敵はあなたの名を名乗っているのだけれど」
「そう、みたいだな。」
「その言い方だと、まったく関係がないようね。」
「あたりまえだ。」
「それで、何? ここにきたってことは、よい策でもあるのかしら?」
「いや、ここにきたのは、華琳にあいたかったからだ。」
「ちょっ、なにいっているのよ。こんなときでもあなたは種馬なのっ!」
「いや、本心だ。華琳、俺に初めて会ったときのことを覚えているか?」
「ええ、貧相な男がうろうろしているから私たちが拾ってあげたのよ」
「ははは、そうだったな。 それからだよな、華琳」
「ええ、そうね。」
「言葉では語りつくせないたくさんのことがあった。」
「ええ。 感謝しなさい。」
「ああ。 華琳には本当に感謝してもしきれない。
華琳がいてくれたから、俺はこの世界で、君と、いや、みなと道を
歩めることができた。
華琳がいたから、この世界のすばらしさを知った。
君がいたから、この世界の厳しさを、そして悲しさを知った。
君がいたから、俺は、前に進めることができたんだと思う。」
「わかっているじゃない」
「ああ、本当にそうだ。」
「だから、華琳。 こんどは俺が君に、その恩を返す番だ。だから」
「恩を返す番って、一刀。 それってどういうことかしら?」
そういいながら、一刀は腰から、細い刀を取り出した。
それは彼が昔、説明してくれた日本刀の形をしていた。
「ここは、俺にまかせてくれ、華琳」
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最終幕第2話です。 皆様のいろいろな意見をもらえるとうれしいです。