No.558923

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第五十八話 二人の『アリサ』

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-03-25 06:24:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:31616   閲覧ユーザー数:28226

 「確かに、アリサと瓜二つですね」

 

 「髪の色以外は見分けがつかないよ」

 

 「ただ、我等の知ってるアリサはもっと気が強い奴だがな」

 

 現在、放課後です…。場所は俺の教室。

 俺は4人を宥める事に成功し、無事に今日の授業を乗り越える事が出来ました。

 俺がアリサ(ローウェル)と二人でいた事を嫉妬に塗れた男子連中がシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリに嘘99%、真実1%の内容でチクり、教室で待ち構えていたのが昼休み(第五十七話ラスト)の出来事だった訳です。

 ちなみに真実1%というのは『俺とアリサ(ローウェル)が二人でいた事』だけです。他は

 

 『俺が早速口説き始めた』

 『俺が一目惚れしたアリサ(ローウェル)に教室内で告白した』

 『俺がキス未遂の事件を引き起こした』

 

 etcetc…。

 

 全く身に覚えがない事ばかり。

 

 「…シュテル達の俺に対する信頼感がどれ程のものなのか理解した気がする」

 

 こちらの言い分を最初はほとんど聞こうとせず、疑いの目で見てくる家族に絶望しかけた。

 アリサ(ローウェル)本人の証言でようやく信じてくれ、そこで丁度昼休みが終了したのだ。

 それから時間が流れ、放課後になって冒頭に戻る。

 

 「…シュテル、レヴィ、ディアーチェが言ってもあまり説得力が無いですよね」

 

 「…だなあ」

 

 なのは、フェイト、はやてという自分のオリジナル達がいるもん。

 謙介、誠悟、直博みたいな一般人からすりゃ、本当に『双子がこの街に大量にいる』という認識になるからな。

 

 「勇紀も言ってたけど、貴方達の知り合いのアリサって子、そんなに私に似ているの?」

 

 「「「ええ(うん)(うむ)」」」

 

 アリサ(ローウェル)の問いに3人同時に首を縦に振る。

 ちなみにアリサ(ローウェル)は俺の事『勇紀』と名前で呼んでいる。ただ、この呼ばれ方でシュテル達に睨まれたけど別に名前で呼ぶぐらい良いじゃん。友達なんだし。

 それと俺の場合、どうしよう?『名前で呼んでくれてもいいわよ』から『アリサ』と呼ばせて貰ってるんだけど…。

 アリサ(バニングス)とアリサ(ローウェル)が二人一緒に居た場合、どう呼べば良いのだろうか?

 …苗字で呼ぶのが無難か?

 

 「勇紀には『機会があれば』って言われたけど、そこまで言うならすぐにでも会ってみたいわね」

 

 「ならどうします?連絡を取って会ってみますか?」

 

 アリサ(ローウェル)はアリサ(バニングス)に興味津々の様で『今すぐにでも会ってみたい』という雰囲気を晒し出している。

 

 「じゃあ、僕がメールして聞いてみるよ」

 

 レヴィが携帯でメールを打ち始める。

 場所はまた翠屋になるのかねえ?俺としてはそろそろ出費を押さえたい訳なんだが。

 しばらく待っているとレヴィの携帯に返事が返ってくる。

 

 「んー…『今週は習い事とかあるから週末の土曜の午後からか日曜ならオッケー』だって」

 

 「レヴィ、曜日は日曜で場所は何処かお金のかからない場所にして貰えないか聞いてくれ。ここ最近、出費が激しいから」

 

 「えー!?僕としては翠屋が良いんだけど…」

 

 「じゃあ、自腹で払えよ」

 

 ここ最近は小遣いや生活費等を差し引いて、余ったら貯金する分のお金から支払っていたからな。

 余裕があるからといって無駄遣いや貯金をしなくなる癖が身に付いてもいかんし。

 

 「ぶー…ユウのケチンボ」

 

 そう言いつつも一応、メールで聞いてくれる。

 先程とは違ってメールはすぐに返ってくる。

 

 「『じゃあ、私の家でどう?』だってさ。ユウ、どうするの?」

 

 「俺はそれで良いぞ。アリサは?」

 

 「私は別にどこでも」

 

 「…という事らしい」

 

 「じゃあ『アリサの家に行く』って返事するね」

 

 「これで日曜日はアリサの家に行く事が決まりましたね」

 

 既に日曜の予定を立ててるが

 

 「《お前等、訓練校は?》」

 

 念話で聞いてみる。まだ教室には一般の生徒が残っているから迂闊に言葉には出来ない。

 

 「《今週は大丈夫ですよ。ただ、来週はずっと通いますが》」

 

 「《来週で短期メニューが終わるからな》」

 

 「《本当に長い様で短かったです》」

 

 ついに短期メニュー終了か。

 て事は亮太と椿姫もこれでシュテル達同様に首都防衛隊配属と言う訳だ。

 ちなみに俺が首都防衛隊に行くのはまだ先の話だ。

 

 「じゃあ今週の日曜日に私そっくりのアリサって子の所にいくのね?待ち合わせとかどうするの?」

 

 「んー、何処が良い?」

 

 「私としては海鳴駅前がいいんだけど?」

 

 そういや、アリサ(ローウェル)は孤児院で過ごしてるんだよな。

 この辺りに孤児院なんてないから通学は電車使ってるって事かな?

 なら駅前で待ち合わせってのは悪くないか。

 

 「別に俺は構わんぞ」

 

 「私達はどうしましょうか?」

 

 「ユウと一緒で良いんじゃない?」

 

 「駅前で何か買って持っていくか?」

 

 「なら東雲堂のアイスで決まりですね♪」

 

 シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリも俺と同行…しかも東雲堂でアイス買っていくらしい。

 

 「自分で買えよ?」

 

 「「「「……………………」」」」(サッ)

 

 俺が見たら全員視線を逸らした。

 コイツ等、完全に俺にたかる気だったな?レヴィに関してはさっき言ったばかりなのに。

 …決めた!絶対に買わねー!!

 

 「ひょっとして貴方って苦労人?」

 

 「…かなりな」

 

 「…まあ、人生良い事もあるわよ。元気出して」

 

 その優しさが心に染みます。

 

 「それよりもいつまで教室に残るつもり?」

 

 「…そうだな。とっとと帰るとするか」

 

 ランドセルを背負い、皆揃って教室を出る。

 アリア(ローウェル)を見た時のアリサ(バニングス)の反応が楽しみだな………。

 

 

 

 …夜、俺はクロノに会いにアースラに来ていた。

 

 「クロノ、これ…」

 

 「何だ?………ってこれはジュエルシードじゃないか!!?」

 

 俺の手の上にあるジュエルシードを見て驚いた表情を浮かべるクロノ。

 

 「ど、何処で見つけたんだ勇紀!?」

 

 「道端に偶々落ちてた」

 

 「……それは嘘だろう?見た所封印処理もされてないし、この世界では魔法関連…しかも大きな魔力が流れる事件が多発したんだ。その時にジュエルシードが反応しなかったとは考えられない」

 

 やっぱりバレちゃった。駄目元で言ってみたけど。

 

 「…実は俺の友達が持っていたんで色々説明して譲って貰った」

 

 「色々とは?」

 

 「俺が魔法を使えるって事。管理局とかについては言ってないけど」

 

 クロノには正直に話しておくべきだよなあ。

 そう思った俺はアリサ(ローウェル)の身に起きた事を話した。

 

 「…以上だ」

 

 「そうか…。しかしジュエルシードの力で復活…頭が痛くなるな」

 

 「前例(アリシアの一件)があるだろ?」

 

 「まあ、そうだけどね…」

 

 「そもそも俺がなのはやフェイトに聞いた話とは違うんだが?ジュエルシードってそんな万能なロストロギアじゃないだろ?」

 

 「ああ、これは結果を最優先に叶えるため、そこに至るまでの過程は一切無視するからね。だからこそ歪んだ形で願いを叶えるロストロギアと言われる」

 

 「しかしアリシアの時と今回の件は正常に叶ってる…訳無いか。アリサ(ローウェル)にも一応、自分の経歴が変わってるという、ある意味良い方向で過程が歪められて生き返ってるし」

 

 「ああ…けどアリシアが生き返った時も上手く願いが叶った理由が分からないんだが?」

 

 「それについては仮説が一つ…」

 

 「何だ?」

 

 「その前に確認。『アリシア復活』を願ったのは西条なんだよな?」

 

 「そうだな。彼がジュエルシードを使って願いを言っていた」

 

 というか西条をロストロギアの無断・不正使用で逮捕しなかったのか?

 …無理か。当時は管理局員でも無かっただろうし、管理外世界である地球で管理局の法が通じる訳無いだろう。

 

 「…まあいいか」

 

 「???何がだ?」

 

 「いや、こっちの話だ。それより俺の仮説だがジュエルシードを使い、願いを叶えたのが西条だからじゃないのか?」

 

 「どういう事だ?」

 

 「いや、アイツ普段から『なのは達は俺の嫁!』とか『オリ主の俺様最強!』とか『俺の嫁に近付いてんじゃねえぞモブが!』とか人によっての態度の差が激しいし。ぶっちゃけ人として歪みまくってるだろ」

 

 「確かにな」

 

 俺の言葉に頷くクロノ。否定も弁護もしない辺りアイツへの好感度が窺えるな。

 

 「そんな『歪んだ奴』がジュエルシードを使ったんだ。元々歪んだ奴の願望を歪んだ形で叶えようとした結果、歪みに歪んで正常に叶ったんじゃないのか?」

 

 「………まさか」

 

 「あくまで仮説だからな?鵜呑みにするなよ?」

 

 「…ああ。だが、その仮説が妙にしっくりくるのが…な」

 

 この仮説が正しければ西条だけでなく『吉満、暁もジュエルシードを使うと正常に願いを叶えられるんじゃないか?』とも思えてくる。

 …当たっていてほしくないなあこの仮説。

 

 「まあ、報告は以上だ。それと最後に一つ…」

 

 「何だ?」

 

 「生き返ったアリサ(ローウェル)なんだけど…リンカーコアがあった(・・・・・・・・・・)。ランクにするとFランク位の僅かな魔力量だけどな」

 

 まさかリンカーコアがあるとは思わなかった。アイツ、幽霊の時に俺の訓練見てたって言ってたけど、その時俺の張った結界内にいたのってリンカーコアがあったからなのか?

 

 「そうなのか?」

 

 「まあ、これはまだ本人にも言ってないんだけどな」

 

 その時はアリサ(ローウェル)の事実やジュエルシードの事に意識がいってたんでリンカーコアがあるのに気付いたのはしばらくしてからだった。

 ただ、俺でも気付くのに少し集中しなければ分からない程の魔力の少なさだからシュテル達が気付いてるかは分からない…。

 

 「わざわざ言う必要無いかもと思って」

 

 「まあ、そうだな。それらの事は君に任せる。言う言わないも君の判断で決めてくれ」

 

 「おう」

 

 クロノの言葉に返事をしておく。

 それから魔力が空になったジュエルシードを渡した後、少し雑談をして俺は家に帰る事にした………。

 

 

 

 日曜日…。

 

 「「「「「本当に(ホンマに)アリサちゃん(アリサ)そっくり!!(そっくりやなあ!!)」」」」」

 

 駅前でアリサ(ローウェル)と合流し、バニングス邸へ来た訳だけど…

 

 「何でお前等も居んの?」

 

 メイドさんに案内されたアリサ(バニングス)の私室にはなのは、フェイト、はやて、アリシア、すずかがいた。

 俺、コイツ等には何の連絡もしてないんだけど?

 『誰か連絡したのか?』という視線でシュテル達を見るが皆首を横に振る。じゃあ何で?偶然?

 

 「レヴィが私に送ってきたメールをなのは達も見ていたのよ」

 

 『それで興味を持ったらしいから来たって訳』とアリサ(バニングス)が説明してくれる。

 

 「これで髪の色が同じだったらもう区別がつかないよ」

 

 「うん。私でも見抜けないかも」

 

 テスタロッサ姉妹は二人のアリサを交互に見比べて言う。

 

 「私からすれば貴女達にも同じ事が言えるのだけど?」

 

 アリサ(ローウェル)が言う『貴女達』というのは『なのは&シュテル』『フェイト&レヴィ』『はやて&ディアーチェ』の事だ。

 現状、何も知らない人が見極める方法としては髪形か髪の色ぐらいだ。

 

 「これですずかにも同じ容姿を持ってる人がいたらもう混沌(カオス)ですね」

 

 「あはは…」

 

 シュテルの言葉にすずかを除く一同が頷く。対してすずかは苦笑い。

 『リリカルなのは』にも『とらハ』にもすずかのそっくりさんなんていないから、それは叶わぬ願いになるだろう。もしいたら真っ先に転生者だと疑うぞ俺は。

 

 「でもでも、名前も同じ『アリサ』ちゃんなんだよね?」

 

 「二人が一緒におったらどう呼んだらええんや?」

 

 「苗字で呼ぶのが無難じゃないのか?」

 

 俺は思った事を口にする。

 

 「私としては却下ね」

 

 アリサ(バニングス)が即否定する。

 

 「何で?」

 

 「だって苗字で呼ばれたら何か距離取られたみたいな感じするじゃない」

 

 そういうもんか?俺としては全然そんなつもりは無いんだが。

 

 「それは分かるかも」

 

 アリサ(ローウェル)も首を縦に振って同意。

 

 「じゃあどうする?」

 

 他に良い案があるのだろうか?

 

 「私の方は『テレサ』って呼んでくれたら良いわ」

 

 「「「「「「「「「「テレサ?」」」」」」」」」」

 

 皆首を傾げ、疑問に思っている。

 

 「以前、私が記憶喪失だった時に孤児院の人に付けて貰った名前よ」

 

 「「「「「「「「「「記憶喪失!?孤児院!?」」」」」」」」」」

 

 特定の単語に反応する一同。

 アリサ(ロ-ウェル)は自分の身に起きた事を話し始める。といっても幽霊だった事やジュエルシードの事は省いて。

 一部真実を捏造する事にもなったが俺は口を挟まない。

 ここにいる連中は魔法について知ってるから話しても問題無いとは思うけど、アリサ(ローウェル)はその事知らないからな。言っておけば良かったか?

 

 「………とまあそういう事があってね」

 

 「…じゃあご両親は?」

 

 「現在も行方不明」

 

 あー、皆のテンション下がってお通夜みたいなムードに。

 

 「そこまで気にしてくれなくてもいいわよ。今は孤児院の皆がいるから寂しくはないし」

 

 慌てて皆をフォローし始めるアリサ(ローウェル)。

 

 「それに学校でも勇紀やシュテル達とも仲良くしてるから今の生活に不満とかも無いし」

 

 良い笑顔で答えるアリサ(ローウェル)。

 俺達どころかもう完全にクラスに溶け込んでいる。男女問わずに人気がありますよ。

 頭も良いし。ここは『とらハ3』の設定同様でIQ200あるっぽい。

 普通なら小学校通わなくても充分なのだが義務教育だから仕方ないよね。

 それに以前はその高すぎる知力と外国人だっていう理由で学校でも友達がおらず孤立してたらしいし。この辺も『とらハ3』と同じ。

 だからこそ今、友達が沢山出来た事が嬉しいらしく、毎日楽しそうに学校で過ごしてる。

 当然、男子達からはシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、椿姫同様の『天使』扱い。

 で、俺に話し掛けてきた瞬間、殺気を飛ばしてくるのはもうお約束になってる。

 こんな精神的イジメに遭っている俺が不登校にならないのは偉いと自分で自分を褒めても罰は当たらない筈。

 まあ、今はそんな事より…

 

 「じゃあ二人一緒にいる場合、こっちのアリサの呼び方は『テレサ』で良いのか?」

 

 アリサ(ローウェル)の呼び方についてだった。

 

 「そうね。それで良いんじゃない?ねえ?」

 

 アリサ(バニングス)が皆に尋ねると、皆も了承した様で首を縦に振って答える。

 

 「じゃあ、今度からアリサちゃんが二人いる時はアリサちゃんの事をテレサちゃんって呼ぶね。よろしくねテレサちゃん」

 

 「「「「「よろしくね」」」」」

 

 「こちらこそよろしく」

 

 こうしてアリサ(ローウェル)…もとい、テレサに新しく友達が増えた………。

 

 

 

 しばらくはアリサの部屋で雑談していたが天気も良いとの事なので、中庭で昼食&お茶会をする事になった。

 

 「それにしてもアリサの家には犬が多いわね」

 

 大量の犬に囲まれながら昼食を摂った後、その内の一匹の子犬を撫でながらテレサが言う。

 中庭に来る際、別室にいた犬達も一緒に連れてきたのだが数の多さでいえばすずかの家で飼われている猫の数にも引けを取らない。

 

 「まあ、私は犬好きだしね」

 

 椅子に座って紅茶を飲みながら答えるアリサ。

 

 「それにしてもテレサちゃん、犬に凄く懐かれてるね」

 

 「ホンマやな。アリサちゃんよりも好かれてるんとちゃう?」

 

 テレサの足元に集まる犬の群れ。撫でられている犬も気持ち良さそうにしている。

 

 「この子達が人懐っこいだけでしょ?アリサの躾がいいからじゃない?」

 

 「それでも初対面の人間にそこまで懐きはしないわよ」

 

 「アリサと見た目が似てるから懐いておるのではないのか?」

 

 「それは無いでしょう。犬の嗅覚は人間とは比べ物にならないぐらいのモノです。アリサとテレサの違い位、臭いで判別出来る筈ですから」

 

 「つまり純粋に好かれてるって事だよね?」

 

 テレサの元に集まる犬の群れを見て皆、色々口にする。

 

 「猫には好かれるシュテるんも犬相手だとそれ程近寄ってこないね」

 

 「そうですね。ですがアレはアレで大変なんですよ」

 

 思い出すのは月村邸での一幕…。

 猫に囲まれるシュテル。あの時はリスティさんやリニスさんも居たっけな。

 

 「あの時のシュテルは困った表情浮かべて助けを求めてたっけ」

 

 思い出すと少し笑いが込み上げてきて『クックック』と笑う。

 

 「ムッ…。ユウキ、笑うとは失礼にも程があります」

 

 「ああ、ゴメンゴメン。でも困った表情を浮かべたあの時のシュテルは可愛かったぞ」

 

 「「「「「「「「「なあっ!!?」」」」」」」」」

 

 何故か周りの皆が驚愕の表情を浮かべ、シュテルは固まったままコチラを見ている。

 

 「ん?どうしたシュテル?」

 

 「……………………」

 

 返事が無い。

 

 「んー?」

 

 シュテルの前で手を振ってみるが効果は無い。

 

 「………ハッ!!?いけません!意識が飛んでいました!!」

 

 おお!?いきなり再起動したよ!?

 

 「目が覚めたか?」

 

 「え、ええ。ご心配をお掛けしました//」

 

 「そうか。いきなり固まったのでどうしたのかと思ってな」

 

 「私は大丈夫ですよ。…それより、さっき言った事は本当ですか?//」

 

 「ん?」

 

 「そ、その…私が可愛いって言ってくれたじゃないですか//」

 

 「だって、シュテルの困った表情なんて滅多に見れないからな。レア物だったぞ」

 

 感情表現が増えてきたシュテルだけど困った時とかに表情を変えるなんて事はホント無いんだよ。

 

 「////////」

 

 そういや、こういう恥ずかしそうな表情はよく見る様になったなあ。

 

 「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」

 

 …そして皆さんは何故無表情で俺を見るの?

 

 「うーん。本当に良い子達ね」

 

 テレサは犬達と戯れていてこっちの様子に気付いているであろうが関わろうとはしない。

 

 「ふ…ふふっ。そうですか。私の困った表情は可愛いのですか////」

 

 嬉しそうにしてますねシュテルさんや。

 でもテレサを除く他の面子は俺から君に視線を移し、凄く貴女の事睨んでますよ?今にもO☆HA☆NA☆SHIしそうな勢いだけど。

 ……けどシュテルなら逆に全員捻じ伏せそうだな。

 

 「…俺も犬と戯れよう」

 

 今の皆に声を掛けられる勇気が俺には無い。

 俺はテレサの側によって皆の雰囲気が元に戻るまで犬を撫でまわして時間を潰していた………。

 

 

 

 しばらくするといつの間にか皆の表情も元に戻り、雑談に花を咲かせている。

 

 「(女の子の心情ってのは理解出来ん)」

 

 今みたいに楽しそうな雰囲気の時もあれば一転して凄まじいプレッシャーを放つ時がある。感情の揺れが激しいんだな女の子って。

 女子一同を眺めながら俺は思う。

 

 「アンタはさっきから会話してる私達を眺めてばかりね」

 

 そんな俺に声を掛けてくるのはアリサ。皆の輪から抜け出して俺の側までやってきていた。

 

 「いや、お前等は何故ああも雰囲気がコロコロ変わるものかと…」

 

 「???どういう事?」

 

 「さっきはシュテルに敵意を向けたかと思うと今はもう普通に接してるし」

 

 「……………………」

 

 「それでいてガチの喧嘩にならないのも凄いなあと」

 

 「……………………」

 

 「まあ、喧嘩されても困るけどな」

 

 「(コイツ、実は私達の気持ちに気付いててワザと言ってるんじゃないでしょうね?)」

 

 何やらジト目で俺を見るアリサ。

 

 「???」

 

 首を傾げる。そんな目で見られる理由が分からないのだが。

 

 「(…それは無いか。この鈍感過ぎる所が勇紀らしい訳だし)」

 

 今度は一人で何やら『うんうん』と首を縦に振って納得した様子。ホントに何なんだ?

 

 「で、アンタは会話に混ざらないの?」

 

 「向こうの話題についていけないから混ざりたくても混ざれないんだよ」

 

 皆、女の子らしい会話の内容をしているので男の俺には理解出来ない様な内容なんだ。

 

 「それに今日の目的はお前とテレサを会わせる事と友達になってもらう事だったし。もう友達になっただろ?」

 

 「ええ、良い子よテレサは」

 

 「なら俺の目的は果たしたんだ。後はそっちで交流を深めてくれ。その間に俺は犬達と戯れて癒されておこうかな」

 

 「何言ってんのよ。それだとアンタだけ仲間外れになってるじゃない」

 

 「いや、そうは言ってもね…」

 

 「じゃあ、アンタも会話に加われるような内容にすればいいのね?」

 

 「いいけど、あるのかそんな内容?」

 

 「そうね…じゃあ勇紀、アンタ自身の事を教えなさい」

 

 「んんんっ?」

 

 何で俺の事?

 

 「シュテル達も知らない様なアンタ自身の事を知りたいと思ったからよ」

 

 アイツ等も知らない様な事…か。

 …俺が『転生者』とか?

 いや、これは言うべきじゃないし。

 宝物庫に入ってる宝具の事?

 …止めとこう。なのは達がうっかり喋ったりしたら間違い無く管理局に取り上げられる。

 

 「そ、そうね。例えば…//」

 

 何やらアリサの頬が若干赤い様な…?

 

 「あ、アンタの好みのタイプについて聞きたいわね//」

 

 「「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」」

 

 「好みのタイプって…」

 

 「い、いるでしょ?『こんな性格の子が良い』とか『こんな容姿が好み』とか…//」

 

 「そんなの考えた事ねーよ」

 

 「嘘よ!私のクラスの男子達はそんな会話をしょっちゅうしてるわよ!!」

 

 他の男子と俺を同じ目で見られても…。

 

 「あー…でも海小(ウチ)の男子達も似た様な事よく言ってる様な…」

 

 「でしょ!?少なくとも私達ぐらいの子ならそろそろ意識し始める頃なのよ!!」

 

 力強く肯定されても困るんですけど?個人差があるでしょ。

 

 「だ、だからアンタも興味がある筈なのよ!!//」

 

 「いや、ホントに今まで考えた事無いから好みのタイプと言われても…」

 

 「じゃあ今考えなさいよ!!//」

 

 「「「「「「「「「(ユウキ(ユウ)(勇紀君)(勇紀)の好みのタイプ…気になります(気になるなあ)(気になる)(気になるの))」」」」」」」」」

 

 「(この反応…皆勇紀を好きって事かしら?だとしたら凄い競争率ね)」

 

 物凄い剣幕で俺に迫るアリサ。

 いつの間にか他の皆は聞き耳立ててるし。アイツ等も興味あんのか?

 テレサだけが俺や皆の顔を交互に見て、何か考えてる様だけど。

 

 「は・や・く!!答えなさい!!(少しでも好みについて知っていればアピール出来る方法も絞られて来るし)//」

 

 「分かった!分かりましたから急かすな!今考えるから!!」

 

 「「「「「「「「「「(つ、遂にユウキ(ユウ)(勇紀君)(勇紀)の好みのタイプが明らかに!?)」」」」」」」」」」

 

 うーん…好みのタイプかあ…。

 

 「「「「「「「「「「(ドキドキ…)」」」」」」」」」」

 

 「…強いて言うなら」

 

 「「「「「「「「「「強いて言うなら!!?」」」」」」」」」」

 

 俺は一呼吸置く。皆は生唾をゴクリと飲み込み俺の言葉の続きを待つ。

 …そんなに知りたいのかよ。別に俺の好み知った所で得する訳でも無いだろうに。

 

 「料理が一人でちゃんと出来る子はポイント高いかな。後、俺の好物の一つである親子丼作れたら尚良いね」

 

 「「「……………………」」」(グッ!!)

 

 「「「「「「「……………………」」」」」」」(ガクッ)

 

 俺がそう答えると満足そうな表情で小さくガッツポーズするシュテル、ディアーチェ、はやて。

 逆に肩を落として落ち込んだレヴィ、ユーリ、なのは、フェイト、アリシア、アリサ、すずか。

 

 「他には無いの?ポイントの高い女の子の条件」

 

 テレサが犬を撫でながら尋ねてくる。

 

 「優しい子…かな?自分の家族を大切にする様な」

 

 「「「「「「「……………………」」」」」」」(キュピーン!)

 

 …つい今しがた落ち込んでいた7人の目が輝きだす。

 

 「容姿とかで好みは無いの?」

 

 「見た目は気にしない」

 

 「外見よりも中身で決めるって事ね?」

 

 「そうなるな」

 

 テレサの質問に頷いて答える。

 

 「(料理が出来て家族思い。こ、これは私に充分当てはまるではないですか。先程も『可愛い』と言ってくれましたし…)////」

 

 「(僕、料理は無理でも家族思いだよね?なら僕にも可能性があるじゃん)////」

 

 「(わ、我なら掃除や洗濯も出来る。言葉遣いがアレでも家族は大切にするタイプだ。なら我はユウキの好みのタイプとしてご、合格ではないか?)////」

 

 「(わ、私なら料理もお手伝い位は出来ますし、ユウキやシュテル達の事も大事に思っています。家族思いの筈です)////」

 

 「(私はお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんと仲良いの。料理だってこれからお母さんに習えば挽回出来るし…うん、問題は無い筈なの)////」

 

 「(料理なら母さんやリニスに教えて貰っている最中だからいつか出来る様になるよね。それに私は家族皆を大事に思ってるから…)////」

 

 「(いける!!わたしは一人暮らし長かったから家事については完璧や!!それにシグナム達の事も大切な家族で仲良うしてる。勇紀君の提示した条件は満たしとる!)////」

 

 「(料理は今後覚えていけばいいし…フェイトやお母さん、リニス、アルフとも仲良く出来てるから家族面では問題無いね)////」

 

 「(わ、私は料理出来ないけどパパやママは勿論、鮫島を始めとする家の使用人の事も大切に思ってるから最低限の基準はクリアしてるわよね?)////」

 

 「(最近はノエルのおかげで簡単な料理だったら一人で出来る様になったから、今度は親子丼の作り方覚えないと…。家族思いって事なら大丈夫!私は皆の事大好きだって言える自信もあるし)////」

 

 …皆さん何やら物思いに耽ていらっしゃるが、こんなん知ってどうするんだ?

 あくまで俺の好みであってこれが他の男子達と同じ意見とは限らないのに。

 紅茶を口にし、他の皆を見ながらそう思う。

 

 「…良いの?彼女達を放っておいて」

 

 「何と声掛けたらいいか分からないんでしばらくは放置かな?」

 

 「そう…(勇紀は鈍感なタイプなのね。何だか勿体無い)」

 

 他の皆の表情が段々とだらしないものになってきている。

 …この調子だと思考中の世界から帰って来るのは大分先になりそうだな。

 

 「「「「「「「「「「ワンワン!ワンワン!」」」」」」」」」」

 

 俺の足元に寄って来た新しい犬達の頭を撫でてやる。

 とりあえず皆が再起動するまでは犬達の癒しを堪能しておきますか………。

 


 
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