「作戦完了……と言いたいところだが、お前たちは独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐに反省文と懲罰用のトレーニングを用意してある、そのつもりでいろ」
「……はい」
一夏達が帰ってきた後、待っていたのは千冬のお説教だった
かれこれ30分はお説教が続いている
「織斑先生、そろそろその辺で……怪我人もいるわけですし……その治療を始めないと」
真耶の言葉を聞いて千冬はそっぽを向いてしまった
一度、休憩してから怪我人の診断をするため、お説教は中断された
「俺は部屋で待機しています」
すぐに一夏は立ち上がって、部屋に戻ることにした。怪我の診断をこの部屋でやるということらしいので自分がここにいるわけにはいかないだろうと考えていた
そのまま部屋に戻ると、気が抜けたのか眠り始めてしまった
それを見ていたジュディスは一言、お疲れ様という言葉を彼に残した
(それにしても……クンツァイトは一体どこに行ったのかしら?)
巨大魚を討伐した後、旅館近くまで戻り、船を岸に置いた辺りで彼の姿がなかった
同時にステルス機能も回収されていた
巨大魚の討伐メンバーで探してみたが、見つかることはなかった
一方、チェスターは、福音の操縦者である自分のパートナーのナターシャの近くにいる
現在彼女は、先ほどの戦いで体調が回復するまでIS学園が使用している旅館に泊まっている
今、彼女は眠っているらしく教員が見張っているらしい。もちろん教員にはチェスターの姿は見えない
(それにしても……暴走の原因は一体?)
チェスターは少し考えたが、すぐに答えが出ないと思い、考えるのをやめた
(とにかく今はゆっくり休んでくれ)
そう祈りながらチェスターは彼女を見守ることにした
「それで、どうなったの? 専用機持ち達は何してたの?」
「駄目だよ、機密事項だから。それに話したらいろいろ制約が付いちゃうけどいいの?」
「えーそれは困るな~」
事件から数時間後、夕食の時間になっていた
その席で、シャルロットがクラスの女の子を軽くあしらっていた
事件のことは基本的に関係者以外知られることはない
例外は本音のことだ。パートナーを通して、知っている
一夏もあの後しっかりと目覚め、夕食を食べている
もちろん、彼に質問する子もいるがシャルロットと同じ様に対応している
事情を知らない子達は専用機持ちに聞いても事情を話すことはできないという対応をしている
誰に聞いても同じような答えしか返ってこないということが分かったのかみんな諦めたようだ
皆より少し早めに食事を終えた一夏は、千冬に許可をもらい、浜辺を散歩することにした
それを偶然聞いたある生徒は食事を急いで終わらせていた
「いい風ね」
「そうですね。食事中に外を見た時、なんとなくよさそうだなって思ったんですよ」
近くの岩場に座って二人で風を感じていた
自然が多い異世界でよく感じていた心地よさに似ていた
その風をこちらでも感じることができて一夏は少しご機嫌になっていた
「い、一夏」
一夏が振り向くと箒が話しかけてきた。彼女は一夏と話そうと思い、急いで彼の後を追っていた
ジュディスは彼女の気配に気が付いていたため、見つかる前に姿を消している
「どうした? 何か用事か?」
「い、いや……その……怪我は……大丈夫なのか?」
箒は緊張しているのか、覇気がない話し方をしている
一夏は不思議そうに見ながら返事をする
「ああ、何とかな」
「そうか……すまなかった……あの時の私は……もうあんな事態を起こさないよう……」
「いや、いい」
急にさえぎった一夏の言葉に箒は首を傾げる
「クラス対抗戦の時に言ったよな? 無理をするなって」
「それは……」
「最初の福音戦の時、お前が何をしたのかわかっているよな?」
「二回目の福音戦の時も! 他の連中に止められたのに振り切ろうとしたよな?」
「ち、違……」
「……何だか……俺はお前の言葉が信用できなくなってきた……」
一夏の言葉と悲しそうな目に箒は相当ショックを受けた
「な!? どういうことだ!?」
「そのままの意味だよ。悪いけど、そろそろ部屋に戻る」
そんな風に拒絶されたがどうしても聞きたいことが彼女にはあった。そのため急いで彼を呼び止める
「……一つ聞きたい……今日は……何の日か知っているか?」
その質問に対して一夏は止まり、首を傾げながら答える
「? 七夕でもあり、お前の誕生日か? 悪いけどプレゼントは帰ってからな」
そのことを覚えていてくれた箒は一瞬嬉しくなったが、後半の言葉を聞いた時、彼女は信じられないというような表情をした
「何故だ!? なぜ持ってきていない!?」
「いや、取り上げられたら困るかと思ったから……話は終わりだろ? 悪いけど今度こそ俺、部屋に戻るから」
「お、おい……?」
箒の制止を聞かず、一夏は旅館に戻っていった
彼女は何を言われたのかわからないまま、その場に立ち尽くしていた。
(一体……私の何が悪いんだ……? 確かにあいつの言うとおり無理をしたかもしれない。だが、結果として福音に勝利した。それでいいではないか!? それなのに何故、私の言葉を信じられないなどということを……)
一夏の言うことに彼女は納得がいっていなかった。無理していたのは事実だ
しかし、そうでもしなければ福音に勝つことはできなかった
それが分からない一夏ではないだろう。そう箒は考えていた
「……紅椿の稼働率はこんなものか……まあ、こんなもんだよね」
別の場所、空中ディスプレイを見ながら呟く女性がいた。束だ
すぐに別のディスプレイを展開していた。今度は白式のデータのようだ
「面白いことになったね、いっくんのIS。こんな風に進化するなんて予想外だよ」
さっきよりもご機嫌な様子だ。先ほどの福音戦の映像を見ていた
「それにしても不思議なこともあるんだね。操縦者の生体再生もあるなんてね。まるで……」
「まるで白騎士みたいだな。お前が心血を注いだ最初のISに」
そんな彼女の所に千冬がやってきた。お互いに顔を合わせずに話し始める
そんな状態でもお互いの表情が分かるのだろう
「やあ、ちーちゃん」
「おう。そういえばお前に話があるんだ、聞いてくれるか?」
「もちろん、何かな?」
「たとえば、ある天才が一人の男子の受験場所を意図的に間違わせることができたとする。そして、その時だけ男にもISが起動できるようにする。本来使えない男が使えるように」
「あはは、面白い話だね。でも、それってその男の子がISに興味を持っていなかったら失敗だよね? それに……いまだに何で動かせるかわかってないし」
千冬の予想とは少し違った答えだったが、そのまま話を続ける
「……まあいい、もう一つ話をしてやろう。ある天才が、大事な妹のために晴れ舞台を用意する。そこで専用機と暴走したISを用意した。それを鎮圧すれば、華々しくデビューできるからな」
「ふーん、そんなことできる人いるんだ? まさかとは思うけど、その人って巨大な魚まで操ったとでも言う気かな?」
束の言葉に再び、千冬は黙ってしまった
「……巨大魚のことは関係ない。そもそもあいつはいつの間にか消えていただろう? 特に作戦に支障はなかった。どういうやつかなんて興味はない」
その答えを聞いた束は少しつまらなそうな表情をする。無論、千冬からは見えていない
「……ねえ、ちーちゃん。何を思ってそんなことを話すかよくわからないけど……ひとつ忠告してあげる…………いつまでも自分が世界最強だなんて思っていない方がいいよ。学園の子達だって、私から見ても面白い原石がいる気がするよ、ちーちゃんを超えるかもしれない原石がね。何よりこの世で一番の天才と言われている束さんにだってまだまだ学ぶことがあるんだから」
そう言って彼女は姿を消した。千冬はその言葉の真意を確かめようと束を探したが見つかることはなかった
(……世界最強だと思うな……か、ふん。馬鹿馬鹿しい、少なくとも学園のガキ共に負けるわけがない。それはお前が一番よく知っているだろう……束)
(しかしあいつが他人に興味を示すとは……ふ、ありえないか)
束の考えを一蹴する千冬だった
次の日の昼
臨海学校で実施する作業が終了し、生徒たちを乗せたバスは、旅館を出発し、学園へと向かっている
一度昼食のため、サービスエリアに止まる。昼食を食べようとバスの外を出た時、一夏はある女性から呼び止められた
「こんにちは、君が織斑一夏君だね。私はナターシャ・ファイルス。福音の操縦者よ」
「どうも、織斑一夏です」
軽く挨拶をする二人
「怪我は大丈夫なのですか?」
「おかげさまでね。それよりもありがとう。福音を救ってくれて」
その言葉がどういう意味かよくわからない一夏
(福音が暴走しただろう? あのまま暴走していたら壊れていたかもしれないってことだ。ナターシャにとって福音は大切な物らしいからな)
彼女のパートナーであるチェスターが説明してくれた
納得する一夏に彼女は手を差し出した。それに答えるかのように一夏も握手をした
「今度は正々堂々、私の意識がはっきりしている時に戦いましょう。今回は君の勝ちってことにしておいてあげる」
(俺もいるからな、お互いに腕を上げようぜ)
一夏とジュディスに聞こえるくらいの大きさの声で話すナターシャとチェスター
もちろんという意味を込め、頷いた
この後、一夏は何を話していたのかということを問い詰められていたのはまた別の話
こうして、臨海学校は終了した
スキット
束の想い
千冬との会話の後、異世界へと姿を消していた束
すぐに自身の研究所に入る。そこにはパートナーのクンツァイトがいる
「束、巨大魚の討伐は何とか完了した。ステルス機能も回収しておいた」
「お疲れさま、ステルス機能は渡しても……いや、変に勘ぐられるか。さすがだね」
ステルス機能の作成者がばれてしまうことを恐れて回収したクンツァイト褒める束
「ん? どうした束? 千冬と会話をしていたのではなかったのか?」
「そうなんだけどね……ちょっとね」
束は少しため息をついていた
(なんか面白くなかったな。ちーちゃんと話していても……こういう時は)
「クンツァイト、久しぶりにマッサージお願い」
「了解した。どの部分を重点的にする?」
お任せと言って彼女はベッドに寝転がった
(あ~気持ちいい、やっぱり彼が来てから世界が変わったね。ちーちゃんや箒ちゃんも世界が変わるだろうな。世界樹大戦に参加したら)
そんなことを束はぼんやり考えていた
感想・指摘等あればよろしくお願いします
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今回で3巻は終了です
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