No.556231

【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『迷子の女の子』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

2013-03-17 19:25:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:404   閲覧ユーザー数:404

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

ある日の夕方のこと。

綾とシイナは、街の中心にある「妖精の丘」に散歩に来ていました。

 

妖精の丘は魔法の力に満ちた、不思議な場所です。

ここを歩くと、とても清々しい気分になれるので、二人のお気に入りの散歩コースです。

 

夕暮れの風が花の香りを運んで、いい匂いが二人を包みます。

 

散歩を堪能して、二人が帰ろうとした時。

誰かの泣き声が二人の耳に飛び込んできました。

 

「うっ、うっ、うぇーん、わぁーん」

声から察するに、泣いているのは小さな子供のようです。

 

綾とシイナは声のする方へ行ってみました。

 

ゆるやかな傾斜を登ると、金色のススキの穂が丘一面に広がっています。

 

そこにぽつんと、紺色の着物を着た子供が立っていました。

 

綾とシイナは足早にその子に近寄っていきました。

 

その子はきれいな黒髪をおかっぱにした、5歳くらいの女の子でした。

 

紺地に水色の柄の着物はとても上等なものに見えました。

ずっと泣いていたのか、涙の流れが襟元を濡らし、目尻と頬は真っ赤です。

 

「あなた、どうしたの? どこか痛いの?」

シイナが女の子に聞きました。

 

女の子はシイナたちの方を見ましたが、何も言いません。

 

「もしかして、迷子になったの?」

今度は綾が聞きました。

 

すると女の子は、こくりとうなずきました。

 

「迷子かあ」

シイナが納得したように言いました。

 

「あなた、お名前は?」

綾が女の子に聞きました。

 

「イヨ」

女の子が答えました。

 

「イヨちゃんか」

綾が言いました。

 

綾は屈んで、イヨと同じ高さの目線になると、

「私たちがお父さんとお母さんを探してあげるね」

と優しい口調でイヨに言いました。

 

イヨは、

「おじいちゃん」

とだけ言いました。

 

「おじいちゃんね、わかった。 じゃあ、おじいちゃんを探してあげる」

綾は言いました。

 

イヨは、こくりとうなずきました。

 

シイナはハンカチを出して、イヨの涙を拭いてあげました。

 

「イヨちゃん、自分のお家がどっちの方かわかる?」

綾はイヨに聞いてみました。

 

「森」

と、一言だけイヨは答えました。

 

「森ね。 妖精の丘の上にある、『妖精の森』のことかしら」

綾が言いました。

 

丘の上の、妖精の森はかなり大きな森で、人が立ち入ったことのないところもたくさんあります。

 

「行ってみようよ、綾ちゃん!」

シイナが言いました。

 

三人は、妖精の森に向かって登り坂を歩いて行きます。

 

綾に手を引かれて、イヨはおとなしくついてきます。

綾とシイナは、イヨの歩く速さに合わせてゆっくりと坂道を歩きます。

 

妖精の森の入口に着きました。

うっそうと繁る大木や下草で、昼なのに薄暗く、奥はよく見えません。

 

「イヨちゃん、自分のお家がどっちかわかる?」

綾がイヨに聞きました。

イヨは首を横に振りました。

 

「わからないか。 どうしようかしら」

綾が言いました。

 

「よし、魔法を使って探してみよう! 私にまかせて、綾ちゃん!」

シイナが言いました。

 

シイナが、ポケットから白い鳥の羽根を一枚、取り出します。

 

シイナは、イヨの頭の上に羽根を乗せると、

「この子のお家を教えて!」

と魔法の言葉を唱えました。

 

すると、白い羽根がふわりと浮き上がりました。

 

羽根はひらひらと空中をさまよって、森の中へ入って行きました。

 

「あっちだよ! ついて行こう!」

シイナが言いました。

 

三人は、下草をかきわけて森の中へ足を踏み入れました。

 

羽根は、どんどん奥へ進んで行きます。

 

けもの道を進んだかと思うと、大きな木の根っ子を乗り越え、邪魔な木の枝をよけながら、三人は深い森の中を歩いて行きます。

 

「だいぶ奥へ来たわね、私たちが迷子になっちゃいそうだわ」

綾が言いました。

 

「まだ着かないのかなあ」

シイナが言いました。

 

そのとき、イヨが声を上げました。

「お家!」

そう言って、イヨは駆け出しました。

 

「あっ、イヨちゃん、待って」

綾が呼びかけますが、イヨは森の中をすいすいと走って行きます。

 

「ひゃあ、なんであんなに速く走れるんだろ」

シイナが感心したように言いました。

 

シイナと綾は根っ子と下草をかきわけ、木の枝をよけながらイヨを追いかけますが、とても追いつけません。

 

シイナと綾は、なんとかイヨを見失わないように、必死でついて行きます。

 

イヨの後を追いかける二人は、大きく張り出してアーチのようになった木の根っ子をくぐり抜けました。

 

すると、二人の目の前にとても大きな杉の大樹がそびえ立っていました。

 

「わあ… すごい木…」

シイナがつぶやきました。

 

まわりの大木が小さく見えるほどの、圧倒的な大きさの杉の樹です。

 

「おじいちゃん!」

イヨは大樹に駆け寄ります。

 

すると、大樹の上から声がしました。

「おお、イヨ。 どこにいったかと心配しておったぞ」

 

シイナと綾が上を見上げると、大樹の枝がガサガサと音を立てて、杉の葉の奥から一人の老人が姿を現しました。

 

老人はロープもなしに、杉の樹の上からゆっくりと空中をただよいながら下りてきました。

 

綾はそれを見て、

『この人は、どうやら普通の人ではないみたいだわ』

と思いました。

 

「おじいちゃん」

イヨは老人に抱きつきました。

 

「おお、よしよし。 一人で遊びに行ってはいかんと言うておったのに」

老人はイヨを抱きしめて、頭を撫でてやりました。

 

「お前さんたちがイヨを連れてきてくれたのかな?」

老人が綾とシイナに言いました。

 

「あっ、はい」

綾は答えました。

 

「ありがとう。 この子はいずれ、この森の主になる大事な跡取りじゃからのう」

老人はそう言いました。

 

その言葉を聞いて、シイナは、はっと何かに気がついたようでした。

 

シイナが綾にそっと耳打ちしました。

「綾ちゃん、この人、たぶんこの森の主だよ。 杉の樹の神様だよ」

「神様?」

綾は聞いてびっくりしました。

 

『ということは、イヨちゃんは森の神様の子供だったのね。 道理で森の中を走るのが速かったわけだわ』

綾はそう思いました。

 

よく目をこらして見ると、おじいさんはうっすらと輝く光に包まれています。

イヨの体も、杉の樹の近くだと輝いて見えます。

 

綾は、神々しく輝くおじいさんとイヨの姿に、つい見入ってしまいました。

 

そのとき、森の樹々がざわめいて、ガサガサと音がしました。

まるで森全体が揺れ動いているようです。

 

「森の木たちもお前さん方にお礼を言っているようじゃの」

おじいさんは言いました。

 

「いえ、そんな。 たいしたことはしてませんから」

綾は謙遜して、そう言いました。

 

「お前さん方に何かお礼をしないといかんのう」

おじいさんが言いました。

 

「お礼なんていいからさ、私たちを森の入口まで連れてってくれないかな?

帰り道がわかんなくなっちゃったの。 もうすぐ晩ごはんだから、そろそろ帰らなきゃ」

シイナが言いました。

 

「おお、そんなことなら、お安い御用じゃ」

おじいさんは言いました。

 

おじいさんが腕をさっと一振りすると、綾とシイナの足元から風が巻き起こり、葉っぱや枯れ草と一緒に、二人の体を宙に舞い上げました。

 

「わあ、これは快適だ」

シイナは嬉しそうに言いました。

 

まるで風で出来た布団にくるまれているようで、とても心地よい気分です。

 

「おねえちゃん、さよなら」

イヨが綾とシイナに言いました。

 

「じゃあね、イヨちゃん!」

二人はイヨにお別れを言いました。

 

風はあっという間に二人を森の木より高く舞い上げます。

 

「ひゃあ!」

強い風にあおられて、シイナと綾は目を閉じました。

 

気がつくと、そこは森の入口でした。

 

「ふう」

シイナが一息つきました。

 

「不思議な体験だったわね」

綾が言いました。

 

「うん。 あ、お腹すいちゃった! 早く帰ろ!」

シイナが言いました。

 

二人は妖精の丘を下って、家路につきました。

 

綾とシイナは家に着くと、玄関をくぐってキッチンに行きました。

 

「あっ!」

綾とシイナは、驚いて声を上げました。

 

キッチンのテーブルの上には、アケビに梨、リンゴに栗、どんぐりなど、様々な森の木の実がこぼれ落ちそうなくらいに乗っていました。

 

「神様がお礼にくれたのね」

綾が言いました。

 

「どんぐりは食べられないなあ」

シイナが笑いながら言いました。

 

「どんぐりは飾っておきましょう。 他は食後のデザートにいただきましょう」

綾が言いました。

 

晩ごはんの支度ができたころ、綾のお父さんとお母さんが仕事から帰ってきました。

 

お父さんとお母さんは、晩ごはんの豪勢なデザートを見てびっくりしましたが、綾とシイナから事情を聞いて、とても喜びました。

 

四人で、晩ごはんに秋の味覚をたっぷりと堪能しました。

 

綾はリンゴをたべながら、イヨとおじいさんの仲むつまじい姿を思い出して、ちょっと幸せな気分になりました。

 

シイナは、いろいろな果物をあれこれ味見したあげく、

「お腹いっぱい、もう食べられない〜」

と悲鳴を上げました。

 

お父さんとお母さんは、こんなに美味しい果物は今までたべたことがない、と感嘆の声を上げました。

 

それを聞いて、綾とシイナはとても嬉しい気持ちになりました。

 

その日の晩ごはんは、とても楽しいひとときになったのでした。

 

―END―

 


 
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