No.566195

【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『シイナ、竜を退治する』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。 何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。 でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

今回は、シイナと魔法学園の生徒が、子供たちのためにお芝居をやります。
シイナは竜退治の騎士に扮し、綾はお姫様の役を演じます。

2013-04-14 21:38:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:436   閲覧ユーザー数:436

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

「お願い、お姫さまになって! 綾ちゃん!」

突然、シイナが綾に言いました。

 

ある日の夕方。

学校から帰った綾は、夕ごはんの支度をしていました。

 

そこへ、学校から帰ってきたシイナがやってきて、そんなことを言ったのでした。

 

「お姫さま? 私が? どういうこと?」

綾はさっぱりわけがわかりませんでした。

 

「あっ、ごめんごめん。 今から説明するね」

シイナは食卓の椅子に腰かけながら言いました。

 

シイナの説明とは、こんな内容でした。

 

シイナの通う魔法学園の課外授業で、幼稚園の子供たちに見せるお芝居を行うことになりました。

 

クラスの生徒たちがいくつかのグループに分かれて、それぞれお芝居を演じます。

 

シイナのグループは、囚われのお姫さまを救うために、竜を退治する騎士のお話を上演します。

 

シイナは、主人公の騎士役に決まりました。

 

魔法学園の生徒がするお芝居ですので、普通のお芝居とは一味違います。

 

魔法で本物そっくりの小道具や風景を作り、まるで現実と見紛うほどの本格的なお芝居になる予定です。

 

しかし、グループのみんなが競って小道具や舞台作りにのめり込んでしまったため、人手が足りなくなってしまいました。

 

一番の問題は、お姫さま役をやる人がいないことです。

 

みんなが、小道具や、舞台になるお城や、魔法で動く本物そっくりの竜を作るのに夢中で、大事な配役が足りなくなってしまったのです。

 

それでシイナは、綾にお姫さま役を頼むことにしたのでした。

 

「なるほど、そういうわけだったのね」

綾は、シイナの説明を聞いてやっと納得できました。

 

「でも、私にお姫さま役なんて、務まるかしら?」

綾が言いました。

 

「大丈夫! 綾ちゃんならお姫さまにぴったりだよ!」

シイナに太鼓判を押されて、綾はなんだか照れくさいような気分になりました。

 

「私でいいの? 私、演技なんてやったことないわ」

綾は念のため聞いてみました。

 

「平気、平気! 囚われのお姫さまの役だから、ずっと牢屋の中にいるだけで、ほとんどセリフはないよ!」

シイナが笑顔で請け合いました。

 

「そう… じゃあ、やってみようかしら」

綾はそう言いました。

 

「わーい! ありがとう、綾ちゃん!」

シイナは綾に抱きついて大喜びしました。

 

そんなわけで、綾はシイナたちの演じるお芝居に出演することになりました。

 

それから、お芝居が上演される日まで、シイナはとても忙しそうでした。

 

学校では小道具や大道具作りを手伝い、家では、主人公の騎士のセリフを練習しました。

 

綾も、自分のセリフを練習しようと思いましたが、お姫さまのセリフは、「騎士よ、救いに来てくれてありがとう。 感謝します」という一言だけなので、練習はすぐに終わってしまいました。

 

いよいよ、お芝居の当日がやってきました。

 

みんなで幼稚園を訪問します。

 

お芝居を楽しみにしていた子供たちが、歓声を上げてシイナたちを迎えます。

 

幼稚園の教室を借りて、グループごとにお芝居の準備をします。

 

綾はお姫さまの豪華なドレスを、シイナは騎士のよろいを着ました。

 

いよいよお芝居の始まりです。

 

五つの教室ごとに、入口にそれぞれ『シンデレラ』『3びきのこぶた』『せかいじゅうをたびするおはなし』『アラビアン・ナイト』『りゅうをたいじするおはなし』という看板が出ています。

 

子供たちは、自分の好きなお話をやっている教室に入っていきます。

 

綾は、子供たちが自分たちのお芝居を観に来てくれるかしら、と心配でしたが、『りゅうをたいじするおはなし』の教室にはたくさんの子供たちがやってきました。

 

「綾ちゃん、すぐ始まるから位置について!」

シイナにそう言われて、綾は自分のいるべき場所に行きました。

 

綾は囚われのお姫さまですので、助け出される場面までずっと、竜のお城の牢屋の中にいなければなりません。

 

綾は魔法学園の生徒が作った、本物そっくりの牢屋の中に入って、自分で鍵をかけました。

 

おとなしく出番が来るまで、牢屋の床に座っていることにしました。

 

すると、石畳の冷たい床に見えた牢屋の床が、座ってみるとふかふかしてとても暖かいことに気がつきました。

 

『なるほど、魔法で作ったお芝居の牢屋だから、本物じゃないのね。 これなら楽だわ』

綾はそう思いました。

 

『シイナは今頃どうしてるかしら』

綾は思いました。

 

一方そのころ、シイナは子供たちを引き連れて、お姫さまを救い出す旅に出かけるところでした。

 

「ほらほら、みんな着いてきて! あんまりバラバラになっちゃだめだよー! こっちこっち!」

シイナの声が響きます。

 

教室の扉を開けて入ってきた子供たちが見たのは、どこまでも広がるお伽ばなしの世界。

 

本物そっくりの青空に太陽が輝き、街道が地平線まで伸びて、森からは木の匂いがただよってきます。

 

子供たちは大喜びであちこち駆け回ります。

シイナの声も耳に入っていないようです。

 

「参ったなあ。 これから竜退治の冒険に出かける筋書きなのに」

シイナがぼやきます。

 

「しょうがない、ちょっと予定を早めるか」

シイナはつぶやくと、空に向かって呼びかけました。

 

「おおーい! 竜! もう出てきてもいいよー!」

シイナの声が響きました。

 

すると、大空の彼方からばっさばっさとはばたく音とともに、巨大な竜が現れました。

シイナの声を聞いて、裏方の魔法学園の生徒たちが、予定より早く竜を登場させたのです。

 

子供たちは竜を見て、わあ、とか、きゃあ、とか叫んで、みんな大騒ぎしました。

それから、竜に挑むシイナを見つめました。

 

「我こそは偉大なる騎士シイナ! 邪悪な竜よ、我が剣の露となるがよい!」

シイナが威勢よくセリフを叫びました。

 

竜はごおぉ、とうなり声をあげてシイナを威嚇します。

 

竜の体は全身が鱗と棘におおわれ、大きく開いた口には鋭い牙がずらりと並び、息をするたび喉の奥から赤い炎がしゃあしゃあと吹き上げています。

 

竜はシイナに向かって、炎の息を吹きかけます。

 

シイナは、

「ふぅーっ」

と頬をふくらませて息を吹き出します。

 

すると、シイナの息がみるみる大きな風を巻き起こし、炎をはね返します。

 

竜は、自分の吐いた炎を全身に浴びて、

『アッヂャヂャ』

と悲鳴をあげました。

 

竜があわてているうちに、シイナはすたすたと竜の背後に歩いていきます。

 

「えいっ」

シイナが剣を振り下ろすと、竜の尻尾がぷつんと切れました。

 

『ピギャオーーン』

と泣き声を上げて、竜はどたばたと逃げ出しました。

 

子供たちが、わあと歓声を上げてシイナに駆け寄ります。

 

「さあみんな、お姫さまを助けにいこう!」

シイナが言いました。

 

シイナと子供たちは、囚われのお姫さまがいるお城まで歩いていきました。

 

「我は姫君を救いに来た騎士なり。門を開けよ!」

シイナが高らかに宣言すると、ギィィ〜と音を立ててお城の門が開きました。

 

シイナは綾がいるお城のてっぺんの牢屋まで、子供たちと一緒にやってきました。

 

シイナが剣を振ると、牢屋の鍵ががちゃんと音を立てて壊れました。

 

「姫よ! 助けに参りました!」

牢屋の扉を開け放って、シイナが言いました。

 

シイナはうやうやしい態度で綾の手を取り、牢屋の外へとエスコートしました。

 

「騎士よ、救いに来てくれてありがとう。 感謝します」

綾は自分のセリフを言いました。 ちゃんと練習したおかげで、間違えずに言うことができました。

 

シイナは綾の前にひざまずくと、騎士らしく綾の手を取り、手の甲に口づけしました。

 

綾はちょっとロマンチックな気持ちになって、ドキドキしてしまいました。

 

こうして、お芝居は大団円を迎えました。

 

子供たちは大喜びで、お芝居が終わった後も、よろいを着たシイナとドレスを着た綾のまわりから離れようとしませんでした。

 

シイナと綾は、子供たち一人一人と握手したり、一緒にデジカメで写真に写ったりしました。

 

結局、幼稚園が終わる時間まで、シイナと綾はお芝居の衣装を着て、子供たちの相手をしていました。

 

「はあ、たいへんだったねえ」

片付けが終わって家に帰る道すがら、シイナが綾に言いました。

 

「ふふふ、そうね。 でも、とっても楽しかったわ」

綾が言いました。

 

「子供たち、喜んでくれてたね」

シイナが嬉しそうに言いました。

 

「うん、よかったわ」

綾は笑顔で言いました。

 

「綾ちゃんのお姫さま、とっても素敵だったよ」

シイナが言いました。

 

綾は褒められて、嬉しさと照れくささが入り混じったような気持ちになりました。

 

「シイナの騎士もかっこよかったわよ」

綾が言いました。

 

「えへへ〜」

シイナは照れ笑いを浮かべました。

 

家の玄関に着くと、シイナは綾の手を取って、

「さあ、お姫さま。 お家の中へどうぞ」

と、うやうやしくエスコートしました。

 

綾はクスッと笑って、

「ありがとう、騎士よ。 お礼にお茶を入れてあげましょう」

と、おごそかな口調で言いました。

 

そうして二人は、綾の入れた紅茶で、なごやかなアフタヌーンティーの時間を楽しみました。

 

―END―

 


 
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