No.552286

ガールズ&パンツァー 我輩は戦車である ~始動編~

tkさん

第1~2話を戦車視点で強引に振り返ると言う誰得話。
あら不思議、題名はガールズなのに男臭い話に。
………続きは未定という事で。

2013-03-07 18:57:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1116   閲覧ユーザー数:1079

 

 

 我輩は戦車である。

 名前など無く、このまま朽ち錆び行く末路が約束されている鉄屑である。

 

 

 そんな私にもいよいよ走馬灯の様なものが見え始めたのか。

 その中で私は砲火の中を全力で疾走していた。敵は後方に5両、チャーチルとマチルダⅡだ。

 多勢に無勢の上、今の私は75mm24口径の短身砲しか備えておらず、相手の装甲を貫徹するには心もとない。今は逃げる他に道はないが、これは我々の作戦の内でもある。…あった筈だ、よく思い出せないが。

 キューポラから身を乗り出している少女に砲弾が向かう。いかん、あの軌道は―

 

 そこで私の夢想らしき感覚は唐突に終わりを告げた。

 倉庫の扉から眩いばかりの光明が差し込んだせいだろう。私にとって実に久方ぶりの光だった。

 もっとも、それを与えてくれた少女達から私に向けられる言葉は散々なものであったが。

 確かに今の私が錆びだらけなのは事実だが、そもそもこれは維持管理を怠ったからこその結果だ。実に心外である。

 そんな中、一人の少女が私の履帯に触れる。そして安堵の息と共に彼女は告げた。

 

「装甲も転輪も大丈夫そう。これでいけるかも」

 

 他の少女達が小さな歓声を挙げる中、私は彼女の観察眼に瞠目していた。

 私自身でさえ錆びだらけで鉄屑同然と見ていた私の脚。

 それを彼女はまだ動けるのだと、まだ私は戦う事ができるのだと宣言したのだ。

 それは戦車である私にとってこの上ない喜びであり、鉄錆と共に埋もれていた誇りを呼び起こすには十分であった。

 

 こうして我々大洗女史学園の存亡を賭けた戦いは静かに幕を開けた。

 もっとも、その事実を知る者はまだ極一部の者だけであったが。 

 何はともあれ、まずは身だしなみである。

 約二十年に渡り放置され錆だらけになった我々を磨き上げる事が彼女達の戦車道のスタートであった。

 ………そのわりには真剣さが足りない気もするが、彼女達はどう見ても素人なので仕方がない事なのだろう。

 その中で、先ほど私を見出してくれた少女は時折浮かない顔をしていた。確か名を西住みほといったはずだ。

 どうも彼女だけ周りと少し雰囲気が異なるのだが、はて。

 

《いやぁ。文字通り身が洗われる思いですね》

 

 私の思案を絶ったのは同僚であるⅢ号突撃砲F型、略してⅢ突であった。

 二十数年ぶりに沼底から引き上げられても柔らかい物腰と気取った態度は相変わらずらしい。

 それと何だ今の物言いは。うまい事でも言ったつもりか。

《その様なつもりはありませんよ。こうして身を清められるのは喜ばしい事じゃないですか》

 否定はせんが、我々の本分は綺麗に掃除されて陳列される事じゃないぞ。

 むしろ搭乗者と共に泥と埃にまみれるのが仕事だろう。

《もちろんそこを履き違える気はありませんよ。それにしてもⅣ号さんは幸運ですね》

 そうだな。

 お前達と違い私はわりとましな状態で保管されていたからな。レストアもそう難しくあるまい。

《いえ、そちらではなく西住さんですよ。先ほどから見る限り、経験者は彼女だけのようです》

 ああ、確かにその様だ。

 彼女を始めとした4人でAチームとなり、私に乗り込むらしいな。

《きっと彼女が車長と隊長を兼務するでしょう。貴方が指揮車両ですよ、Ⅳ号さん》

 ………どうだろうな。彼女には向かないと思うが。

《はて? 他に適任者はいないと思いますが?》

 よく見てみろ。

 他の面々は実に楽しそうだが、その西住嬢だけは時折だが真逆の顔をしているぞ。

《…確かに、その様ですね》

 覇気に欠ける指揮官の下で、果たして我々は満足に戦う事ができると思うか?

《しかし他にできそうな方は…》

 生徒会長殿はどうなんだ。

 仮にも最上級生で我々を使い戦車道を復活させた立役者なのだろう?

 先ほどから武部嬢と五十鈴嬢の雑談を聞くかぎり、相当のやり手に思えるのだが。

 

《すまないが、それは無理だろう》

 

 私の提案を否定する声は丁度その生徒会長殿の方から聞こえた。

 声の主は彼女の搭乗する38(t)戦車、通称38t殿である。

《私に搭乗する予定の彼女達を見ろ》

 促されるまま、私とⅢ突は彼女達の様子をうかがう。ううむ、確かにこれは。

《なるほど、彼女には不向きそうですね》

 さもありなん、と納得するⅢ突。私も同意見だ。

 彼女達3人のうち、まともに38t殿の清掃に励んでいるのは副会長の腕章をつけたの少女のみである。

 残りの二人はまったく手伝う気がない。特に。

《ちなみに生徒会長の角谷杏殿は身長が心もとない御仁の方だ》

 その小さな暴君(らしい)会長殿は干し芋をかじりつつ完全にくつろいでいた。どう贔屓目に見ても他人を引っ張り陣頭指揮を取れる性分とは思えない。

《角谷さんは指揮官よりも軍師向きなのかもしれませんね》

《そうだな。…その役目も果たす気はない様だが》

 Ⅲ突のフォローに答える38t殿の沈んだ言葉には哀愁が漂っていた。

 一人で懸命に働いている副会長殿と共に実にいたたまれない光景である。

 

 ちなみに、残りの同僚である八九式中戦車甲型及びM3中戦車リー(共に八九式殿、M3と私は呼んでいる)は―

 

《お家再興、実に素晴らしいではないか! わしも今こそ本気を出さねばなるまいて! ハーッハハハハ!》

《お家じゃなくてバレー部だっつのじいさん。にしてもピチピチの一年生が六人とか、俺ってばマジハーレムじゃね? ハーレム最高ぉ!》

 

 こちらも二十年前からまったく変わりない様子であった。

 果たしてこれに安堵するべきか嘆くべきか、私は判断に窮するのであった。

 明けて翌日。

 自動車部の驚異的な技術力で即稼動可能になった私は学園内の演習場を疾走していた。

 彼女達には感謝してもしきれない思いである。現在、我々戦車側としての殊勲賞は間違いなく自動車部であった。

 それはさておき。

 

「もうやだ~! 逃げよ~!」

 

 という武部嬢の叫びの元、我々は敵前逃亡の憂き目にあっていた。車長の判断は絶対である。きっとこれは戦略的撤退なのだ。多分。

 現在、私に乗り込んでいるAチームの編成は。

 

 車長、武部沙織。

 通信手兼装填手、西住みほ。

 操縦手、五十鈴華。

 砲手、秋山優花里。

 

 以上四名、過不足なく機能しているといえる。

 本来私は五人乗りなのだが今回は校内での模擬戦の為、通信手の負担が少ない。

 よって現状の乗員でも支障なく戦闘が可能だ。現在の問題は。

 

《ははは。逃げの一手とはらしくありませんねⅣ号さん》

《これも戦の常。悪く思うなⅣ号!》

 

 Ⅲ突と八九式殿の二両に後方から砲撃を受けているというこの状況にある。

 向こうは唯一の経験者である西住嬢を警戒しての共闘なのだろうが、こちらはたまったものではない。

 二人がかりで後方から奇襲するとは恥を知れ、恥を。

《なにを暢気な。我々は戦車、彼女らは戦車乗りぞ。勝つために策を練らず何をする!》

《そういうわけです。僕達の乗り手も良い資質を持っているようで安心しましたよ》

 くそ。八九式殿の言葉はまったくの正論だ。

 そして試合開始から即座に決断し行動に移したⅢ突の搭乗者達も大したものだ。

 こちらはその西住嬢が受動的な為か積極的な攻勢に出る事もできない。

《貴方の見解は正しかったみたいですね。西住さんが車長を務めないのでは我々と大差はありません》

 ああ、その通りだ。

 彼女の事情は知らないが、やはり今の西住嬢に戦闘指揮など無理がある。

 というわけで、一度退いてもらいたいのだが。

《お断りします。そもそも我々戦車に行動の決定権はありませんし、あっても退く理由がありません》

 だろうな。まったく、いつもながら底意地の悪い奴だよお前は。

《褒め言葉として受け取っておきます》

 Ⅲ突の慇懃無礼な声にうんざりしつつ私は疾走を続ける。周囲の確認は通信席から身を乗り出した西住嬢が担当していた。

 彼女も決して非協力的はないのだ。むしろ不慣れな武部嬢と五十鈴嬢を指導しつつ、うまく立ち回っているといえる。そも彼女がいなければ、私は発進直後に倉庫の壁面と熱い接吻を交わしていたことだろう。Ⅳ号戦車、復帰後初の始動から数メートルで故障により戦線離脱。うむ、実に笑えない。

 ともあれ、このまま追撃を許したままでは敗北は目に見えている。一度相手の射程から離れ、反転した後に攻勢にでなければ。それでもⅢ突の射程と貫徹力を考えれば勝機は薄いが、八九式殿の砲撃は当たり所の問題だろう。

 

「あぶない!」

 

 西住嬢の言葉に埋没気味であった私の思考は再度覚醒する。見れば前方の木陰に寝転ぶ少女の影が見えた。

 五十鈴殿がブレーキを踏み、私は足に軋みをあげて速度を落とす。まったく、病み上がり同然の身に無理をさせてくれる。

 木陰の少女はそんな我々に気づいたのか、おもむろに立ち上がり。

「………」

 ひょい、と。軽い跳躍で私の上部装甲に取り付いた。真、大したものである。

 いくら減速していたとはいえ走行中の車両に飛び乗るなど、並の運動神経と度胸では出来ない事だ。

 そんな彼女は西住嬢の言葉に従い車内へと乗り込み、装填手席に寄りかかった。

 

 一先ずの危機は脱したが、後方からの砲撃は続く。

 我々はかん発いれず再加速して戦略的撤退を再開する。

 その間、件の少女を目にして西住嬢と武部嬢が驚き声を上げた。どうやら見知った相手らしい。

 

 私は後に知る事になるのだが、小さな体躯と長い黒髪に白いカチューシャが映える彼女の名は冷泉麻子。

 抜群の感性によって我々チームの操縦手として活躍するのだが、それは僅かに先の話である。

 

 

 To Be Continusd?


 
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