No.547929

ガールズ&パンツァー 我輩は戦車である ~激励編~

tkさん

カチューシャとノンナさんのコンビは実に書きやすいです。
同じくらいに生徒会の面々も扱いやすいです。
………いえ、あんこうチームも好きなんですけどね。

2013-02-23 22:37:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1206   閲覧ユーザー数:1163

 我輩は戦車である。名をチーム名にちなんで『あんこう』という。

 『Ⅳ号戦車D型』という制式もあるが、先日改修を受けG型仕様となった。厳密には『IV号D型改』もしくは秋山殿いわく『マークⅣ スペシャル』だそうだ。彼女達に会ってからというもの、我ながら随分と様変わりしたものだと思う。そして私に搭乗する彼女達もまた、少しずつだが変わっていった。きっとそれは喜ばしい事なのだろう。

 それとは対照的に、在り方がさして変わらない御仁達もいる。

 

「ミホーシャはいるっ!?」

「あ、はい。今日はどうしたんですかカチューシャさん」

 

 射撃練習中の我々の元へ突如として姿を現したのは、プラウダ高校の隊長であるカチューシャ女史と。

「そちらは黒森峰との決勝戦が近いとの事。大会前に我々と黒森峰の練習試合がありましたので、今日はその映像をお持ちしました」

 澄ました顔で彼女を肩車する副隊長のノンナ女史であった。

 それにしても、ヘリで校庭へ直接降り立ってくるとは豪快な御仁達である。

 …ああいや、そういえば我々の指導をしている蝶野教官も似た様な事をしたか。

 あちらはヘリから戦車で降下した挙句、学園長の所有車をひき潰したのだから始末が悪い。閑話休題。

「カチューシャとしては黒森峰にあっさり優勝されるのは面白くないの。それを見てせいぜい健闘して頂戴」

「は、はい。ありがとう」

「…ふん」

 あくまで高飛車な態度を崩さないカチューシャ女史であるが、謙虚に受け止める西住隊長には調子が狂う様だ。

 カチューシャ女史の態度は先の準決勝における試合前のやり取りからは若干の変化が見られる。

 あの試合は彼女なりにも思うところがあったのかもしれない。

「用は済んだし帰るわよノンナ!」

「少しゆっくりされてはどうですか? さっきまで会うのを楽しみにしていたではありませんか」

「う、うるさい! 帰るったら帰るのよ!」

 もっとも、根底のところは変わっていない様子だが。

 相変わらず自分の決断を取り下げない御仁である。

「…До свидания(ダ スヴィダーニァ)」

 ロシア語で再会を願う言葉と共に、ノンナ女史はきびすを返す。

「このカチューシャの支援を受けておいて無様な戦いをしたら承知しないわよ!」

「はい! 頑張ります!」

 彼女の肩の上から激励を飛ばすカチューシャ女史に西住隊長ははっきりと答えた。

 これでまた一つ、我々が負けるわけにはいかない理由ができた。

 …それはさておき。

 

「…今の、不法侵入にならないのか?」

「う、うーん。どうなんだろう」

 冷静にツッコミをいれる冷泉殿に曖昧な笑みを浮かべる西住隊長。他の面々はというと。

『………』

 突然に来訪し、それと同じくらい唐突に帰っていくマイペースな御仁達の行動に呆気にとられていたのであった。さもありなん、これが普通の反応である。

「…学園艦に対空装備とかを配備しましょうか?」

「いんや、多分お金の無駄だと思うよ」

 河嶋殿と角谷会長殿の投げやり半分な会話にそれがよく現れていたと思う。

「ミホーシャはいるっ!?」

「…はい。カチューシャさん、その」

 

 翌日。

 カチューシャ女史は再び我々の元へ姿を現した。その理由を察しているのか、西住隊長の表情は優れない。

「昨日渡したアレは違うの! アレはその、ちょっとしたロシアンジョークで…」

「そ、そうですよね! 良かった、カチューシャさんなりの冗談だったんですよね!」

 必死に誤解を解こうとするカチューシャ女史とそれをフォローしようとする西住隊長。

 それは気まずさと哀愁を感じさせる光景であった。

「隊長。正直に昨日渡したのは極秘のぶら下がり健康法の記録映像だったとお話しては…」

「黙りなさいノンナ!」

 

 そう。先日カチューシャ女史から渡された映像には戦車道のせの字もなく、ただカチューシャ女史本人が鉄棒にぶら下がる光景が続くのみであった。理由は我々にも容易に推察できる。できてしまった。

 

「言っておくけど、カチューシャは自分の背のことなんて微塵も気にしていないわ! 勘違いしない事ね!」

「はい。分かってます」

 頷く西住隊長の微笑はどこまでも優しかった。ありていに言うと憐憫の表情だった。

 カチューシャ女史の背丈は非常に心もとない。我々の生徒会長である角谷殿も体格に難のある人物だが、彼女はそれ以上であった。ともすれば小学生と間違われても仕方のないレベルと言えば、諸兄にも分かってもらえると思う。

 加えて言うならば、その映像はすでに我々全員の目に触れてしまっているのだった。今後の参考にと倉庫にプロジェクターを持ち込んでまでの大上映会をしてしまったのである。そのせいか、西住隊長以外の面々も一様にカチューシャ女史に対して気の毒そうな顔をしていた。これでは公開処刑にも等しい扱いである。

「隊長、お気になさらないでください。貴女はそのままでも十分愛らし…魅力的ですわ」

「うるさーい! そもそもあんな映像撮ったのは貴女じゃないノンナ!」

「隊長の活動を記録し、後世に残すのも副官の役目ですから」

「余計なお世話よっ!」

 ううむ。

 この二人、口論をしつつも普段からの定位置である肩車の体勢は微塵も乱れが見られない。

 果たして仲がいいのか悪いのか、判別に困る。

「とにかく、本物の模擬戦記録はこっち! さあ帰るわよ!」

「…До свидания(ダ スヴィダーニァ)」

 ロシア語で再会を願う言葉と共に、ノンナ女史はきびすを返す。

 それは先日とまったく変わらぬ光景であった。

「こ、このカチューシャの支援を受けておいて無様な戦いをしたら承知しないわよ!」

「は、はい。頑張ります」

 彼女の肩の上から激励を飛ばすカチューシャ女史に西住隊長は曖昧に答えた。

 今さら威厳を示そうとしても、気まずい雰囲気は急に改善できるものではない。

 …それはさておき。

 

「…会長もしてはどうでしょうか。ぶら下がり健康法」

「かーしまー。次言ったら一人で艦橋掃除させるかんね」

「は、はいっ!」

 河嶋殿と角谷殿の主従関係を端的に表す会話を耳にしつつ、私は根拠もなくこれで終わりではない事を予感していた。

「…ミホーシャ」

「はい。分かってます」

 

 さらに明くる翌日。

 カチューシャ女史は再び我々の元へ姿を現した。その理由を察している西住隊長は微笑で答えた。

「カチューシャさんはいつもお昼寝を?」

「………悪い?」

「いえ、いい事だと思います。やっぱりお昼を食べたら眠くなりますよね」

 すらすらとカチューシャ女史を笑顔でフォローする西住隊長。昨夜の間に相当の練習をしたに違いない。

 もっとも、その優しさこそがカチューシャ女史には一番の苦痛ではないかと私は思うのだが。

「隊長。正直に昨日渡したのは昼食後のお昼寝記録映像だったとお話しては…」

「黙りなさいノンナ!」

 

 そう。先日カチューシャ女史から渡された映像はまたもや戦車道のせの字もなく、ただカチューシャ女史が豪華なベッドで眠るだけの光景が続くのみであった。理由は…まあ、粗方想像がつく。

 

「最近の研究だと昼寝はとっても良いらしいのよ! ちょっと試しただけなんだから!」

 昨日、私はカチューシャ女史をともすれば小学生と間違われても仕方のないレベルと評したが訂正しよう。これでは幼稚園児と誤解されても弁解ができないと思われる。

 そして当然というべきか、その映像はすでに我々全員の目に触れてしまっているのだった。今度こそ今後の参考にと倉庫にプロジェクターを持ち込んでまでの大上映会をしてしまったのである。そのせいか、西住隊長以外の面々も一様にカチューシャ女史に対して微笑ましい表情をしていた。それは母、もしくは姉が幼子を慈しむ表情であった。

「隊長、お気になさらないでください。貴女はそのままでも十分愛おし…素敵ですわ」

「うるさーい! そもそもあの映像を撮ったのも貴女じゃないノンナ!」

「隊長の活動を記録し、後世に残すのも副官の役目ですから」

「余計なお世話よっ! というか残す必要ないわよ!」

 ううむ。

 この二人、実はこの寸劇を我々に見せつけたいだけなのではないだろうか。

 でなければノンナ女史の言動に一抹どころではない不安を覚えるのだが。

「とにかく、本物の模擬戦記録はこっち! さあ帰るわよ!」

「…До свидания(ダ スヴィダーニァ)」

 ロシア語で再会を願う言葉と共に、ノンナ女史はきびすを返す。

 それは先日、昨日とまったく変わらぬ光景であった。

「こここ、このカチューシャの支援を受けておいて無様な戦いをしたら承知しないわよ!」

「はい。頑張ります」

 彼女の肩の上から激励を飛ばすカチューシャ女史に西住隊長は聖母の微笑で答えた。いかん、西住隊長の中でカチューシャ女史の位置づけが『友人』から『愛すべき小動物』へクラスチェンジしている様な気がする。

 まあ、それは置いておくとして。

 

「会長もしてはどうでしょうか。昼寝は成長にも効果があると…」

「かーしまー。今度こそ艦橋掃除ね、小山は手伝わないよーに」

「は、はいっ!」

「桃ちゃん、だからやめた方がいいって言ったのに…」

 生徒会の面々はいつも仲が良いとつくづく思う私であった。

 

 

 ところで、カチューシャ女史から受け取った黒森峰との練習試合の映像なのだが、詳細について私からはノーコメントとさせていただく。あえて言うならばその時の西住隊長の姉君、西住まほ殿は本物の鬼神あるいは悪鬼であったと記載しておく。プラウダの包囲網を貪り食い破る彼女の奮闘ぶりはまさしく人外の域であった。

 『あんなに怒ってるお姉ちゃん、初めて見た』

 視聴後に語った西住隊長のこの一言がどのような意味を持つのか、今の私には想像もつかない。

 とりあえず瞳からハイライトが消えているのは色々と拙いと思いますので、戻ってきてくれませんか隊長。


 
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