「そろそろ出発の時期だな……」
流琉に旅に出ると言ってからそろそろ約束の一ヵ月が過ぎようとしている。
もう親父さんにも旅に出ることは話している。
……もちろん流琉もだ。
俺の予想通り流琉はその意思が変わることなく一緒に旅に行くことになりそうだ。
もう俺としても開き直ってしっかり守ってもらおうかなと思っている。
細かいことは気にしないようにしている。情けなくなるから。
まあ助けたり助けられたりと相互で色々なことを補っていけたらと思う。
でもなんだろうな、ありがたいし心強いけど一生流琉には頭が上がらなくなりそうな気がする……
とそんな事を考えていた時だった。
ある二人の少女が店にきたのは……
<<無双恋姫 ―御遣い再臨―>>
第三話
「いらっしゃい!」
その少女たちは初めてみる顔だった。
一人はふわふわの髪の毛の上に太陽の塔に似ている人形をちょこんと乗っけている。
もう一人は眼鏡から鋭い目がきらりと光るクールビューティーな感じ。
どちらも商人にも見えないしこの時代にしては珍しいなぁ
「ご注文は決まりましたか?」
「私は餃子と炒飯を。風はどうするのですか」
「そですねー 風はラーメンをお願いするのですよー」
「餃子と炒飯、ラーメンそれぞれ一人前ですね。少々お待ちください!」
時間はお昼の繁忙期を少し過ぎたころ。
ちょっと余裕がある俺は他のお客に料理を運びながら二人を観察する。
二人は店の中を隅々まで眺めながら何か色々話しているようだ。
何だろうあの雰囲気。和気あいあいと楽しげな話をしているようには見えない。
かといえばぴんと張り詰めた感じでもない。観察している様な感じかな。
そうだ、朱里と一緒に警邏に行っている時に似ているんだ。
あの時は町のふとしたことからその町の情勢や不備、改善点を思いついていく姿は圧巻だったな。
という事はこの二人もそっち方面なのか…… それともどこかの間諜とかか?
「兄様、餃子と炒飯、ラーメンが出来上がりました」
「了解。運んでくるよ」
と流琉から料理を受け取ってその二人に届ける。
「お待ちどうさま!」
「おおー おいしそーですね」
「そりゃあウチの店はどれも逸品だよ」
元の世界では寮の食堂で食べていたりと自炊の経験があまりない俺が言える立場かわからないけど、親父さんの料理は本当においしい。まあ、これこそ大きな声で言えないけど流琉の料理はもっとおいしい。
「確かにおいしいですね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
料理の評価を自分の事のように喜んでいるとふわ髪の女の子が俺に話しかけて来た。
「お兄さんはこの町の育ちなんですか?」
「いやここにきたのは最近なんだ。二ヶ月ほど前からかな」
「おや、そうなのですか。このお店に馴染んでいるように見えたのでもう長いのかと」
「そう見えたんだったらそれはこの町の人たちがとても良い人たちだったからだろうな」
「確かに良い町ですねー」
「見ず知らずの俺に対してもみんな気さくに話してくれるし暖かい人たちばかりだよ」
「…………」
「ん? どうかした?」
「いえー お兄さんに対して気さくに話しかけてくれるのはお兄さんの人柄もあると思っただけですよー」
「俺の?」
俺の人柄って、別にどこにでもいるような一般人のそれと変わらないけどな。
そう女の子に伝えるとその子は一瞬きょとんとした顔をして――
「お兄さんは面白い人ですねー」
と言って笑った。
「とそう言えば二人って旅人かな。女の子二人って珍しい気がするけど」
ついでなので気になっていたことを聞いてみる。
すると今度は眼鏡の女の子が答えてくれた。
「ええ、各地を旅していました。少し前までもう一人一緒だったんですが別れました」
「へぇ、それでも凄いね。俺も後二、三日くらいしたら旅に出ようと思っててさ」
「あなたが……ですか? 何故またそんな」
「うーん、どう言ったらいいかな。まあ目指している場所があるからその為……かな」
「かなり抽象的ですね」
「難しいんだよ。どう説明したらいいのか」
正確に話すと壮大な話になってしまうし。
「けど良い顔してましたよー ねぇ稟ちゃん」
「そうですね。あなたがその場所に対して真面目に考えているというのはわかりますね」
「あ、ありがとう」
思わぬところで褒められてちょっと照れるな。
「とそう言えば、自己紹介がまだだったね。北郷一刀っていうんだ。ちなみに姓が北郷で諱が一刀ね」
「普通、店の店員と客が自己紹介すると言う事はないと思うのですが…… とはいえ名乗られたのに返さないわけにもいきませんね。私は戯志才といいます」
「風は程立といいます。よろしくなのですよー」
戯志才は聞いたことがないけど、程立はあるな。
太陽を掲げる夢を見て程昱って名前に改名したって言われている魏の軍師だったか。
となるともう一人の娘も実は魏の軍師になるはずの娘だったりして。なら戯志才っていうのが偽名だったら面白いかな。
俺が知っている魏の軍師って荀彧、司馬懿、程昱、賈駆、郭嘉くらいしかいないから消去法で郭嘉か……
と妄想もそこまでにしておくか。
そしてその後も二人と様々な話をした。
その日の夜――
「まずは南かな……」
俺はメモに戯志才と程立から聞いた話をまとめながら呟く。
「結構大盤振る舞いしてくれたよな」
この時代、情報は何より貴重な財産だ。
その中で俺の欲しがっている各地の英傑の話を聴けたのは大きい。
まず関羽、張飛はまだ表舞台には出ていなかった。ということは俺の予想通りまだ各地を旅している可能性が高い。
あの二人が活躍し始めたら絶対に話題になるはずだから。
念のため劉備という人も表舞台に出ていない。けどこれは存在しているのかどうか自体わからないから判断がつかないな。
次は曹操。曹操は既に陳留の州牧の地位についているようだ。ごく最近、この町も管轄するようになったらしい。これは俺もびっくりした。まだその情報はこの町に伝わっていないからだ。けど最近っていう事は前任者との引き継ぎやこの町が僻地であることを考えるとその情報がここに伝わるのはまだ当分先だろうなと結論づけた。
そしてその部下には夏侯姉妹が控えていて荀彧もすでにいるらしい。
あとは許緒もいることがわかっているからすでに前回の主要メンバーが全員揃っている事になる。
もし敵対する事になったら前回同様最大の存在になるだろうな。
そして孫権というか呉の人たちと言った方がいいのかな。
どうやら全員袁術の客将をやっているらしい。母親の孫堅が亡くなったどさくさに土地を奪われてしまって古くから突き従っていた将は相互に人質となるよう分散して配置されている状況のようだ。
ここは孫策が生きている時点でどのような軍になるか想像もつかない。ただ、前回よりは確実に強固な布陣になるのは明らかだな。
あとは袁紹、公孫賛、馬騰は前回とほぼ同じ環境で袁術が荊州の太守として存在しているのが前回と違うところかな。
とここで一息つく。
ちょうどその時、流琉が俺の部屋にやってきた。
「兄様、まだ起きてたんですね」
「ああ、今日店に二人組の女の子きてただろ。あの二人に色々教えてもらったことを纏めてたんだよ」
そう言って俺の横に座った流琉にメモを見せる。
「これはなんて書いてあるんですか?」
「え? あっそうか、ごめんごめん」
しまった、このメモ日本語で書いていたっけ。
前の世界もそうだったけど話すのは日本語なのに文字は漢文なんだよな。
というか白文って言った方が正しいかもしれないけど。
俺は前の世界で鍛えられて読むことはできるようになったし、書くのも簡単な文なら問題なく書ける。
「これは俺が生まれた国の言葉なんだ。日本語って言うんだけど。」
「日本語…… これが天の国の言葉なんですね」
じっくり俺のメモを見る流琉。
自分の書いた文字をまじまじと見られるとちょっと恥ずかしい気持ちになる。
「同じ漢字も使っているから雰囲気はわかるかも」
「確かに一部読めるところがあります。そうだ兄様。私にこの日本語を教えてくれませんか」
ずいっと顔を俺に近付けてお願いしてくる流琉。
「兄様の事を、天の国の事をもっと知りたいんです」
「流琉が覚えたいって言うならよろこんで教えるよ」
あっさりと了承する。
約一ヶ月前に一緒に旅に出ることを押し切られて以降、俺は流琉のお願いを断ることができなくなっていた。
それは流琉が思った以上に頑固なことをその時知ってしまったからだ。
それにあきらかに理不尽や間違っている事なら俺も断るけど、流琉のお願いはどちらかというと俺のためを思っての内容が多いから余計に断れない。いや断る理由が無いって言った方がいいのかな。
「よしじゃあ、さっそくはじめようか」
「えっ、いきなりですか」
「善は急げっていうじゃないか」
そう言って日本語のレッスンを始めた俺だった。
「そういえば兄様、今は光る服をきてるんですね」
レッスンが一息ついたとき、流琉がふと言った。
「うん、旅の間は基本この服でいようと思ってね」
この一ヵ月悩んで決めた事のひとつがこれだ。
天の御使いの象徴たるこの服をずっと着続けることによって俺を天の御使いだと示す。
帝に喧嘩を売っているような行為だけど、何もない今の俺が持っている一番の武器がこれだから。
それによって余計なトラブルに巻き込まれるかもしれない。けど前回も俺が天の御使いだったからこそ出会いがあって乱世を潜りぬけることができたから。
あとは前回の乱世の真っただ中にいたときの感覚、覚悟を思いだす意味も込められている。
だから最近は一人の時には着るようにしていた。
「それにしても今日兄様が話していた二人組の人たちって凄いですね。こんな事を見聞きしながら旅を続けているなんて」
俺が見せたメモを見ながら流琉が言った。
メモの内容は日本語のレッスンの時に説明してある。
「そうだね。おそらく今後どこかの城につかえて軍師として大活躍するんじゃないかな」
「それは天の国の知識ですか?」
「う~ん、そう思ってもらっても良いかな」
「そんな人たちだったら一緒に旅に出ることができたらいいですね」
流琉のそんな一言にはっとする。
確かにそうだな。あの二人と一緒に旅に出ることができたらより良い旅になるだろう。
俺がこれから向かおうとしている所もあの二人が言っていない所から行こうと思っているし。
「まだ数日は滞在するって言っていたか聞いてみるよ」
そう言って二人で他愛もない話をした後、流琉と別れて布団に入った。
そして旅の間もこんな感じになるのだろうかと思いながら睡魔に身を任せていく。
丑三つ時、鐘の音がが町中に響きわたるまでは――
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無双恋姫 ―御遣い再臨―の第三話をお送りしました。雅岩です。
危なかった…… この話を書き終わった段階で満足してしまってモチベーションが無くなってちょっと危なかったです。
何とか四話を完成させてこの三話を投稿できてよかったです。
今回は風と稟が本格登場の回でした。星とはもう別れた後の設定です。
なんかもう初めの時に一人目の仲間を星から流琉に変えた段階で星をこのタイミングで出すのが難しく《私主観》なってしまったのでこうなってます。
そして一刀君がちょっとずつ前向きになってきてます。(そう見えてたらいいなぁ)
早く覚醒してくれないとちょっと書きにくいので頑張ってほしいなぁ。
まあ一刀君がヘタレなのは私のせいなんですけどね。
大まかな話を考えた後、流れに任せて書いていたらどんどんヘタレていってしまう……
流琉との関係も一刀君にイニシアチブがあるようにしたかったのにやり込まれてしまったし。
今後に期待してください。
あとどうでもいい設定ですが、一刀君って本人が思っているより高スペックです。
ある意味二週目なんですから当たり前と言えば当たり前なんですが。
武力も一般兵以上。知力も曲がりなりにも一国の主をやっていたのでそれなりに。
そして人たらしの能力はカンストしてます。
ただ周りの恋姫キャラ達のスペックが高過ぎてそう思えてないだけだったりします。
とそんな感じで次回をお待ちいただけたらと思います。
最後に凪たちが義勇軍として戦っていた時の華琳の地位や城がある地域ってどこでしたっけ?
もし教えていただける奇特な方がいらっしゃいましたら泣いて喜びます。
それでは~
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二話からさっそく一ヵ月すぎて旅立ちの時が近づいてきました。
がそんな時、新たな出会いが待っていた。とそんな感じのお話です。