No.549859 【獣機特警K-9】K-9隊の一番長い日(終)【交流】2013-03-01 00:29:11 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:1009 閲覧ユーザー数:978 |
3月26日、13時35分。
「総監!しっかりしてください!総監!」
…額にクナイが刺さったまま床に倒れこんでいるアイヴィーの肩をゆすりながら、エルザが叫ぶ。
その隣ではクオンが大粒の涙をこぼしてすすり泣いていた…。
「そんな…なんでこんなことに…!」
その刹那、光を失っていたアイヴィーの瞳がうっすらと輝く。
途切れ途切れではあったが、それは間違いなく彼女の命の光だった。
「…エルザ…クオン、ちゃん…?」
「…総監?気がついたんですね…」
「よかった…総監が無事で本当に」
と、安堵のため息をつくエルザとクオンの言葉をさえぎるようにアイヴィーは言う。
「残念ながら…無事じゃ…ないみたい…」
「!?」
「そ、それはどういうことです…?」
「……さっきの一撃のせいで……
…そう。
先ほど額に時雨の一撃を受け、額から火花を散らし倒れたアイヴィー…。
さほど深く刺さらなかったこともあって、人格や記憶をつかさどるコアチップはすんでのところで損傷を免れたものの、
機体を制御する…つまり手足を動かすために必要な制御系の中枢回路を破壊され、身動きが取れなくなってしまったのだった。
「…悔しいわ…あと一歩、本当にあと一歩だったのに…!」
涙を流すアイヴィー。エルザとクオンはかける言葉も見つけられず、ただそれを黙って見ているしか出来なかった…。
そのまさに次の瞬間、クオンの耳に搭載されている通信機に時雨の声が響いた。
『さっきはやってくれたね。アタシのトラジをぶん殴ったんだ。覚悟は出来てるんだろうね』
「その声は!」
『こんなこともあろうかとこのビルに爆薬を仕掛けておいたのさ。あと10分でこのビルは瓦礫と化す。三人ともその一部になって仲良くあの世に逝っちまいな!』
「なんだと!?今すぐそれを止めろ!」
『アハハハ、この爆弾は一度作動すると外部からは止められない。せいぜい足掻いてみることだ。ムダだと思うけどね』
その言葉を最後に、時雨からの通信は一方的に切られた。
「クオン?どうしたんだ?」
エルザがクオンに声をかける。
「大変だよ…やつらはこのビルを爆破するつもりだ。あと10分以内に脱出しなきゃ、ボクたちはみんなスクラップだ…」
一同に緊迫した空気が漂う。エルザは拳を握り、歯を食いしばりながら空を睨む。
「ゴクセイカイめ…どこまでも卑怯な手を…!!」
「…逃げて…」
アイヴィーの声がエルザとクオンの耳に届く。
「総監?」
「…あなたたちだけでも逃げて。今なら…まだ間に合うわ…」
「何を言って…」
「さっきも言ったけれど、私はここから動くことが出来ない…。私のことはかまわず…」
と、言いかけたアイヴィーを、クオンがゆっくりと担ぎ上げた。
「…クオンちゃん…?」
「ダメだよ…みんなで生き延びなきゃ。帰るんだ…みんなで一緒に!そうでしょ?隊長!」
エルザは深く頷いた。
「…君の言うとおりだ、クオン。みんなで生き延びなくてはな」
そのやり取りを見ていたアイヴィーの目からは涙が流れていた。
「あなたたち…あなたたちは本当に…!」
「さぁ、泣くのはあとあと!脱出だ!」
運命の時間が迫る!タイムリミットはあと8分…。
13時38分、地上…。
「なんだって?隊長たちがまだ戻ってない!?」
アレクとフィーアは、リクから事情を聞いていた。
「大変だわ!すぐに戻らないと!」
「それが、悪い報せがあるんです。あと6分以内にあのビル、爆破されるって…クオンお姉ちゃんが…!」
…と、目に涙を溜め、そのまま膝をついて泣きじゃくるリク。
「リク君…」
爆発まで残り時間は5分をきっていた。今飛び込んでいったところで爆弾を解除するなどできはしないだろう。
見捨てるしかないのか…誰もが絶望しかけたその時、フュアが声をかけた。
「…信じようリク君。三人はきっと帰ってくる筈だ」
「え…?」
「考えてもみろ。あのビルの中にいるのは、突入作戦で一人の殉職者も出さなかったあのアイヴィー総監。そして今まで何度もピンチを切り抜けてきた私の妹、エルザ。それにクオンもいる…」
「フュアさん…でも、でも…」
「バーカ。あいつらが簡単にくたばるタマかよ」
と、いまだに泣いているリクの頭を軽く小突きながらウーが言う。
「大丈夫よ、あの人たちはきっと帰ってくるね」
と、それに続いてグーテ。
「……信じる」
と、シス。
「大丈夫、あの三人ならきっと帰ってきますわ…」
と、イシス。
やがてその場にいた警官隊全員が頷きあう。
それを見ていたリクは涙をぐっと拭い、こう言った。
「…みんな…。わかりました、ボクも信じます!」
爆発まで残り時間は3分を切っていた…。
13時44分。
「いよいよだね…」
「あぁ、ここを抜ければ脱出だ」
全力で階段を駆け下り、どうにか入口付近までたどり着いた三人を待ち構えていたのは巨大な影。
「!!」
「なんだあのデカい影は!?」
「…こんなところにまで新手が…」
それはゆっくりと歩み寄ると、腕を伸ばし始める。
「…っ!」
「くっ、これまでか…!」
三人が死を覚悟したそのときだった。
「…ご無事ですか、アイヴィー総監」
聞き覚えのある声。そして逆行ではっきりしなかった影の正体は、画体のいいクマ形のロボットだった。
「…ヴィルマー警部…?」
「エルザ、それにクオンも無事のようだな」
と、微笑むヴィルマーにエルザは苦笑いを浮かべながら言う。
「なんだ君か。あまり人を驚かすんじゃない」
「な、なんだってなんだよなんだって…それよか早く離れたほうがいいと思うぞ。もう爆発まで15秒しかねぇぞ」
と、ヴィルマーはアイヴィーの体をそっと抱き上げると彼女に一言。
「総監、少し乗り心地は悪いかもしれませんが…ちと我慢してもらいますよ」
「えぇ…お手柔らかに頼むわね」
やがてビルの最上階から轟音が響き、次々に爆薬が爆発していく!
「さァ!行きますぜ!うおぉぉぉぉおおおおおお!!!」
アイヴィーを抱きかかえながらヴィルマーが走る!
「よし!我々も走るぞ!!」
「うん!」
続いてエルザが、そしてクオンが一直線に走り出した!
爆発の衝撃で支えを失ったビルはやがて崩落し始める。
そして四人が安全圏まで離脱した直後…ビルは跡形もなく崩れ去った…。
かくて13時47分。惜しくもトラジほか3人は取り逃してしまったが、他の幹部はほとんどが連行され、突入作戦は幕を閉じた。
ともあれ、この作戦がゴクセイカイに強烈な打撃を与えたことは言うまでもないであろう。
…3月27日。ラミナ市ロボット病院の407号病室…。
「失礼します」
と、ラミナ警察署のマキ署長、それにK-9隊の面々が病室に入ってくる。
「…あら、みんな来てくれたのね…ありがとう」
ベッドの上にはパジャマ姿のアイヴィー。まだ修理中なのか額の傷は完全に塞がれてはおらず、動きもどこかぎこちなかった。
「総監の額にクナイが刺さったときは焦っちゃったよ。死んじゃったかと思ったもん」
「でも本当によかった…総監って本当にタフなお方なんですねw」
「やめてよもう…(///)あと3センチ深く刺さってたら本当に死んでたところだったのよ?きっとこうしてみんなとお話することも出来なかったかもね」
と、頬を赤らめるアイヴィーを見て、マキの顔にも、K-9隊一同の顔にも笑みがこぼれる。
「総監、昨日の突入作戦における殉職者はゼロです。どうか今は安心してお休みになられてください」
と、エルザが言葉をかける。
「そうね…一日でも早く修理を終えて復帰できるようにがんばっちゃうわよw」
「そういえば総監はコーヒーがお好きでしたよね?」
と、リク。
「えぇ、そうだけど」
「だったら、もし修理が終わったらヴォルペに来てくれませんか?ヴォルペのコーヒーはとっても美味しいですよ!」
「そうね、こんなところでぐったりなんかしてられないわね!よぉし、早く元気に…」
と、勢いよく立ち上がったアイヴィーの額から再び火花が散った!
「…ぎゃぁぁぁ!い、痛い痛いっ…><」
「ちょっと総監!まだ修理も済んでないのにムリしちゃだめですって!」
額を押さえ込んでうずくまるアイヴィーを、マキが必死になだめる。
その様子を見ていたK-9隊一同も、思わず苦笑いを浮かべる。
…まるで昨日の壮絶な作戦を忘れさせるかのように、春の日差しはうららかであった。
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大変長らくお待たせしたかな?
スペクタクル巨編、堂々の完結です。
■出演
K-9隊のみなさん
アイヴィー総監:http://www.tinami.com/view/401918
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