…そうか、もう君も消えてしまうのか。
当たり前のようにそばにいたのに。
当たり前のようにいつも会えたのに。
…もう、いなくなってしまうのか。
遠い遠いところへ、行ってしまうのか。
君に出会ったのは、僕がまだ小学校に上がる前のことだったっけ。
ウグイス色の古い電車に混じって、生まれたての君は文字通りギラギラと輝いて見えた。
205系。それが君の名だった。
山手線によく似ている、でもどこかが違う。
ウグイス色のラインの下に、グリーンの細いラインが入っていて。
山手線と同じような顔をした君は、しかしそれでも別の路線なんだということをアピールしていた。
やがて時は流れ。
うれしい日もつらい日も、雨の日も風の日も、君は休まず走り続けた。
橋本から分かれる相模線に、君の弟が入ってきた日も、君は走り続けた。
東神奈川で顔を合わせる根岸線の車両が、いつしか103系から209系に置き換わったその日も、君は走っていた。
やがて八王子で出会う、中央線の電車が、E233系に変わったその日も、まだ君は走り続けていた。
…君は僕にとって、見慣れた存在だった。
毎日見ているうちに、少し飽きてきたこともあった。
新型車両が入るとしたらいつごろになるのだろう?と思ったこともあった。
根岸線の電車が中央線と同じE233系に換わると聞いたときは、209系が君のあとを継ぐのかもしれない。
そう思ったこともあったが、結局君はそのまま走り続けていた。
全部同じ形の君の仲間たちだったが、山手線から入ってきた君の先輩が2編成。
単調な横浜線の電車たちの中にあって、その2編成が来たときにはわずかながら心が躍ったのをよく覚えている。
それでも、君は当たり前のように走り続けるんだろうな。
そう信じて疑わなかった。
突然だった。
横浜線に新車が入るという報せを耳にしたのは。
…そうか、もう君も消えてしまうのか。
当たり前のようにそばにいたのに。
当たり前のようにいつも会えたのに。
2014年。
君が走り続けてきた横浜線に、とうとう新車が入る。中央線や根岸線と同じ、E233系だ。
一度投入されれば、ものすごいペースで先輩たちを追い出していく彼ら。
もし、彼らが入ってきたら、君たちはあっという間に横浜線を離れていくことになるんだろう。
…それでも君は。
不満ひとつこぼすことなく。
涙ひとつ流すでもなく。
ただただ、黙っていつものように、いつもの線路をひたすらに走り続けて。
決まってしまったことを、いまさらどうすることも出来ない。
まして僕は一人の乗客だ。君のためにしてあげられることは本当に少ないのかもしれない。
もしかするとただ、去っていく君を見送ることだけしか出来ないのだろう。
当たり前のようにそばにいた君。
当たり前のようにいつも会えた君。
そんな当たり前が、やがて思い出の彼方に消えていく。
君の後輩たちが、新しい『当たり前』を作っていく日も、もうすぐそこまで来ている。
いよいよあと1年。
まだ、今の時点では早いかもしれないが、慣れ親しんだ横浜線を去っていく君たちに、この言葉を捧げよう。
26年間おつかれさま、205系…。
そして…横浜線を支えてくれてありがとう。
君たちの勇姿は、決して忘れることは出来ないだろう。
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私の地元を走るJR横浜線。
そこを走る205系電車に捧げる駄文。