No.548806

万華鏡と魔法少女 第三十四話 魔導師と悲劇

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2013-02-26 02:52:10 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:6430   閲覧ユーザー数:5871

 

 

 

 

 

ながらくお待たせしました(苦笑)こんだけ遅くなって本当に申し訳ないです

 

 

 

 

では、万華鏡と魔法少女どうぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつからだろうか、彼女がこんな風にかつてあったはずの優しさを偽りで隠し、それを甘さと戒めて管理局で働き出したのは…、

 

 

自分の慕っていた彼をその手で血に染めてしまった時か、それとも、再び愛してくれるようになった母親が病に侵され続け逝ったあの時からか、

 

 

自分にはその理由はよくわからなかった。だけど、彼女が一人になったその時に支える者がいなかったことは鮮明に覚えている。命を懸けた彼の代わりに彼女の兄となってからもこれといってなにもしてやることができていなかったと思う…

 

 

ただ、暗い部屋の中に一人、写真が入ったロケットを握りしめ涙を流していた彼女の後ろ姿をドアの間から覗き見るだけだったのだ

 

 

彼女が自分の事を最後まで案じていた彼を慕っていたこともその行動からもわかっていた。自分もそれは承知していたことだ。支えとして、恋慕うのと兄として本当に慕っていたんだろうと忘れられずにずっと抱えていたのだ。

 

 

だから、自分は彼から生きている知らせを受けた時、言葉にできないほどうれしかった

 

 

彼女にまた笑顔が戻ってくれるのではないかと、自分の母を含めた四人で幸せな日々、生活できるのではないかと…

 

 

だが、生きていた彼はそのやさしさ故に、抱えなくてもいい筈だろうそれをまた、その背に増やしていた。首を突っ込まなければいい事、そしていらない感情を抱いていた。

 

 

自分と言葉を交わした彼は、新たに背負ったそれを、その者達の事を彼女より優先させようとしていた。その顔つき眼差しは半年前に己の身を賭していたあの時と同じものだった。

 

 

基本的に無表情な彼だがなんとなくわかった。纏う空気に余裕がないことが…

 

 

 

だから、何も言えなかった、言い出したかった本音を、戻って来いと、そしてずっと彼女の傍にいてやってはくれないかと、自分に力を貸してはくれないかとその一言が出てこなかった。こんなものは本当なら自分で解決させなければいけないことだとわかっているはずなのに

 

 

自分では…何もできないのかと

 

 

…その時、改めて彼の姿が自分には届かない遠くに見えてしまったんだ…

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

意識が軽く飛びゆく中で、身体を血に染めたクロノは棒立ちのまま吐血し、走馬灯のようにいままでのことを思い返していた。非殺傷設定を付けずに繰り出されたバルディッシュの必殺の攻撃をまともに受けてしまったのだ当然と言っていい結果だろう

 

 

だが、バルディッシュにえぐられ落ちた右腕から重症と言える傷でも構わずに目の前にいる彼女に話をし始めた

 

 

「……お前は本当にこんなことを…望んだのか…フェイト…」

 

 

「…あ、…あぁ…」

 

 

バルディッシュを握る彼女の表情は揺れていた。半年前に受けたかつてのトラウマが再び堀り返されたようなそんな錯覚に陥ったのだ。

 

 

この光景を見ていたクロノの後ろに立っていたシグナムは、すぐさま自分をかばい右腕を吹き飛ばされ負傷した彼の元に寄ろうとする。

 

 

だが彼は反対に彼女のその行動を拒絶した。

 

 

 

「…来るな!!…」

 

 

 

「…っ!?」

 

 

 

クロノから一喝に近いそれを受けたシグナムの足は自然ととまる。

 

 

 

「…今のうちにこの場から失せろ…これは、警告だ…」

 

 

息を荒くし肩を上下にさせるクロノは重症の身体でそう告げた。彼は知っていたのだ親友であるあの男が新たに背負い込んだものの中に彼女がいることを、

 

 

だからあえて言ったこの場から逃すために…そして、彼のために…

 

 

 

「すまない」

 

 

彼女はそうお詫びの一言だけ告げて闇の空の中にへと消えて行った。

 

 

それを見送った後に荒い息を吐くクロノは段々と意識が遠のいていくことを自覚していた。血が足りないのだ圧倒的にこうなってはバリアジャケットなんてものは役にたたない。吹き出した血を片腕で止血しようとするが止まらない

 

 

「…無理を…しすぎたか…」

 

 

「だ…、だめ、い、いや、そんななんで!?」

 

 

フェイトのその言葉を最後にこと切れたように宙から逆さになるまるで地面に下にへと引っ張られるかのようにクロノは落下してゆく…

 

 

…そうして、我に返った彼女は落下するクロノに合わせ急いで急降下しその身柄を抱えるように持ち上げた

 

 

「…兄さん!!しっかりして…」

 

 

ぐったりとしたクロノの身体は微かにその言葉に反応を示す。

 

 

彼の身柄を抱え、その目に涙を溜めながら必死で声を掛けるフェイト、彼の身体を支えるように宙に浮かぶ彼女のその手はクロノからの返り血でべっとりと赤く染まっていた。

 

 

 

彼は意識が朦朧とする中で傷だらけの自分を地面へと墜落させまいと必死で支えているフェイトの頬にそっと自身の左手を優しく添えた

 

 

涙を溜める彼女の頬に温かい感触が伝わる、そうしてクロノは気が遠くなる中でそんな彼女に優しく語りかけ始めた。

 

 

 

「…お前は…まだ…涙を流せる……心を…捨てるじゃない…」

 

 

 

彼女は語りだすクロノの話を黙って聞く、その話を聞くときの表情は真青で、またあの時のように自分が取り返しのつかないことをしてしまったという、イタチを殺めてしまった時のトラウマに今の状況を自分の中で完全に重ねてしまっていた。

 

 

 

「兄さん、私、私は…」

 

 

 

「…自分を…見失ってた…んだろう…? …俺も…お前の力に…なってやれなかった…からな…ッ!!」

 

 

 

彼は弱弱しく微笑みながらそうフェイトに告げると、無くなってしまった右腕から激痛に思わずうめき声を上げる。

 

 

…早く、医者の元にクロノを連れて行かないと手遅れになってしまうッ!!

 

 

しかし、フェイトのその身体ではクロノを担いだまま、病院へと運ぶのは時間が掛かるうえに、ここからは明らかに間に合うとは思えないほどの距離がある。この状況はこのままでは明白なまでに詰みと言わざる得ない状況であった。

 

 

 

…だれか、だれでもいい、クロノ兄さんを…

 

 

そんな、微かな願いを内に秘め、自身の震える手をクロノが自分の頬に添えている左手にそっと触れそうして強く握りしめる。

 

 

最初から、非殺傷であればこんなことにならなかったのに、自分は何を見失っていたんだろう、イタチが犠牲にしてまで与えてくれた筈の幸せを言葉をどうしてじぶんは…

 

 

どうしようもない自己嫌悪と自身が傷つけるつもりはなかったクロノを助けたいという願い、二つはまるで螺旋のように絡まり彼女の心を締め付けてゆく

 

 

だが、そんな焦りを感じ、クロノを助けたいというフェイトの思いが通じたのか

 

 

負傷しているクロノを抱える彼女の目に急速なまでにこちらにへと接近してくる人影が見えた、それはよく見知った顔で自分の親友である白い魔道服の少女

 

 

「…フェイトちゃん!…クロ…ノくん…?」

 

 

名前を呼び、二人の元へとスピードを上げるその少女は同じ管理局の魔法少女であり、フェイトの親友である高町なのはの姿だった。彼女は闇の書の騎士の交戦の報告を受け緊急な出動を要請され二人の元にやってきたわけであるが……

 

その現場に一足遅くついた彼女の前に示された現実は非情なものであった

 

 

彼女は空中でクロノを抱えたまま浮遊しているフェイトの傍まで近寄ると顔色が一気に青ざめた。

 

 

見知った少年の右腕が肩から先まで消えており、悲惨なことにその無くなった右腕は地面に叩き付けられその原型は留めておらず、さらに、右腕を無くした彼の肩からは血が留まることなく流れ出ているのだ。

 

 

だが、彼女は現状が一刻も争う事態だと把握するとすぐさま我に返り、フェイトに何があったのかと問いかける

 

 

「…フェイトちゃん!なにがあったの!」

 

 

なのはは慌てて、辛うじて彼の身体を支えているフェイトに近づきクロノの傷口を見てはっきりとした口調で言った。だが、フェイトは震えた眼が虚ろになっており、とても返答に期待が持てそうではなかった。

 

 

なのはは直ぐにクロノの傷に魔法で作ったバインドを巻き付け限界まで締め上げるといった荒業にでた。元々は拘束用の魔法であるが緊急時で頭が働いたのか、機転を利かし止血という手段をこのとき取ることができた。

 

 

「フェイトちゃん!これから二人で全速力で病院にクロノ君を運ぶよ!手遅れになる前に早く!」

 

 

なのはは訴えかけるようにフェイトにそういった。だが、彼女はそれに応えることはせず虚ろな目で呆然とクロノを見ているだけだ。

 

 

 

無反応に近い女の態度になのはは再度声をかける

 

 

 

「何してるの!早く行くよ!フェイトちゃん!」

 

 

 

しかし、彼女からの返答はないただ黙ったまま目を虚ろにしてぐったりとしているクロノを見つめているだけ…

 

 

 

だが、いつまでもこのままではクロノの命は間違いなく尽きてしまうのはもはや明確である、急がなければクロノは重症であり助けられるのは自分たちしかいないのだ。

 

 

一刻の猶予もないこの状況になのははついに痺れを切らし、クロノを抱えている彼女の頬を握り拳をつくり思いっきりぶった。

 

 

ゴッ!という鈍い音と一緒にフェイトの唇から血が静かに流れ出る

 

 

頬を抑える彼女を他所に、なのはは眼に涙を溜め大声で目の前にいるフェイトをに怒鳴りつけた

 

 

「いい加減にッ眼を覚ましてッ!また大切な人を失いたいのッ!?」

 

 

 

まるで鬼気迫る怒号と反するように暫く固まる様に二人の間に訪れる静寂な空気

 

 

それと共にフェイトの唇から流れる赤い血は目を覚ますために殴ったなのはからしても、とても痛々しく感じられた。

 

 

悲痛ななのはの叫びはフェイトに唇の傷と共によく心に沁みる言葉であった。彼女もあのとき自分が勝手に暴走した結末のせいでイタチを失い苦しんだ一人なのに今自分の目を覚まさせるためにそして、兄であるクロノを助けるために精一杯がんばってくれている。

 

 

なのに自分はどうだ…?

 

 

今の自分はなにをやっているんだこんなところでッ!

 

 

その時、微かに笑ったイタチの顔がフェイトの脳裏に過った。フェイトはこの時改めて、自分のまた犯そうとした過ちに気付くことができた。

 

 

「ごめんなのはッ!?…わかった、急ごうッ!」

 

 

言葉と痛みでようやく我に返ったフェイトはなのはの言葉に触発されたように大きな声で返事を返しなのはにまっすぐな視線を向けた、それを見たなのはは嬉しそうに頷きそれに応える。

 

 

急速なスピードでクロノを担いだまま滑空する二人は魔力を全て移動する速さにへと変換し、全速力で病院へと向かう

 

 

二人が上げた急スピードの加速で通りすぎる夜景はまるで走馬灯のようであった

 

 

そのフェイトの様子を彼女の腕の中で見ていたクロノは薄れゆく意識の中で微かにこう呟いた。それはうわ言の様な言葉ではあったが、フェイトにとってそれは聞き逃せ無いほどのインパクトのあるものであった

 

 

「…イ…タチ……生き…て…」

 

 

 

「……え…?」

 

 

 

その声は微量だがクロノの危機に直面したフェイトの耳が僅かに拾った…

 

 

すぐさま、呟いたと思われる抱えたクロノの顔を彼女は覗き見るが、ぐったりとしたようにクロノは完全に意識を手放していた。

 

 

 

 

 

闇夜に起こった悲劇、だがこれは始まる闇の書の事件のプロローグに過ぎない

 

 

 

 

修羅の道への片道切符は、うちはイタチという忍一人

 

 

 

友に起こった悲劇を彼はまだしらない……

 

 

 

 

 

 

 


 
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