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万華鏡と魔法少女 第三十三話 騎士と魔法少女

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-12-06 00:43:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7250   閲覧ユーザー数:6539

 

長かった、ギガ疲れました(迫真)ようやく更新できて私も嬉しい限りです

 

 

 

では、万華鏡と魔法少女、第三十三話どうぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死は誰にでも訪れる、

 

 

 

それは、前触れもなく目の前に現実として突きつけられる…彼もまたその人間の一人であった

 

 

 

争い合う事を望んだりしていない、人を殺したいなんて嫌でもしたくなかった

 

 

じぁあ、自分は今何故ここに居るのか…

 

 

なんで、大切な友人が、家族が、上司が、愛し合っていた筈の恋人が…血塗れで倒れて居る

 

 

月の光で薄っすらと眠る様に綺麗な瞳を閉じた大事な人の顔が見えた

 

 

苦しい、引きちぎれそうなほど締め付けられた、心が…

 

 

涙が流れない、虚ろな光景だけが映る…自分には実感がなかった己を大切にしてくれた繋がりを全て切り捨てたという実感が…

 

 

里から離れた森の中、血塗れの腕を改めて見つめ直して俺は震えが止まらなかった

 

 

自分が一体何者か、分からなくなった…

 

 

 

うちはイタチという人間は裏切者の偽善者、里を救う為に自らの大事な人間を躊躇わず切り捨てた非道の男

 

 

 

どうしてなんでこんな…事を里を救う為になんて酷い事をしてしまったんだ…

 

 

母や父の身体から流れ出た鼻にくる鉄の匂いが離れない…洗い流しても落ちない赤い血が…

 

 

「…………ッ!」

 

 

俺は必死になって何度も何度も腕や衣服に付いた赤い付着物を川の水で洗い落としていた

 

 

何度も何度も、もう赤いそれは落ちているというのに一人、里外れの夜の河原で昂ぶる感情を抑えながら……

 

 

「……………血…か……」

 

 

肉を抉る様なあの気持ち悪い感触とそれによって浴びた大量の返り血を思い返し彼は静寂に耐え切きれずふと、独り言のように俯いたまま言葉をこぼした

 

 

己に心の中で言い聞かせる、取り返しのつかない事をし終えた事ともう元には戻れない現実を……

 

 

そうして知る、自分の手元にはもう何も残っていない事も、感情も思い出も愛した者全てを…唯一、憎しみを植え付けた弟をのこして

 

 

 

そうして彼は何も無い空間で、その罪悪感に耐え切れず地面にぶちまける様に胃の中で燻っていた汚物を吐く、耐え切れずに膝を折り地面に手をつきながら

 

 

この状態では平常心を保ってられないのを悟ったのか、彼は苦無をポーチから取り出しそれを自分の手の甲に迷わず刃を突き立ててそれを思いっきり突き刺した。

 

 

痛みが伝わり、勢いよく手の甲から血が噴き出るのと一緒に頭がクリアになってゆくのがわかる。

 

 

彼は声を挙げないまま、突き刺した苦無を勢いよく抜くと、その場所を布で覆い、力いっぱい拳を握りしめた。

 

 

そうして、冷静さを取り戻した彼はポーチから取り出したもう一つの布で口元を拭い、黒く染まった空を仰ぐ、その光を失った眼からは頬を伝うように透明な雫が流れていた

 

 

「……………っ!!」

 

 

彼は蹲り、地面を何度も拳で叩きつけた共にその瞳から雫を流した、誰にも見られる事なく一人でだけで悲しみを吐き出すしかできなかったから

 

 

家族を奪ったあの里を怨む事は出来ない、あの里に住む人々の笑顔と引き換えに自分は己の仲間であった一族を裏切った

 

 

やり切れない…、言い表すことのできない感情が心の底からあふれ出すように後から後から滲み出てくる

 

 

人々の命を片っ端から奪い去った彼はそんな罪深い自分を照らす月をただ見上げるしかできない

 

 

 

 

彼にはもう何も無い

 

 

そんな己を攻める言葉を吐くしか戒める事が出来ないから

 

 

何も変えることができず止めることができなかった自分を責めて現実を耐え忍ぶしか方法が見出せなかった

 

 

苦しい、悲しい、それでも、前に進むしか自分には道が残されていなかったからーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の寝室に横になる小さな幼い可憐な少女

 

 

 

先日、彼女から出て行けと罵倒された赤い雲の衣を纏う忍はふと昔の事を思い返していた

 

 

 

今、彼はとんでもない選択肢を頭の中で考えていた

 

 

まさに究極の手段と取れるやり方といっても相違ない強引なやり方、それもかなり手荒で非道な外道の所業

 

 

この街に住む人々を護ると共に闇の書を封印する、イタチが考えたある一つの方法…

 

 

八神はやてを殺害し、それと共に闇の書を万華鏡写輪眼、天照で燃やし尽くす、または十拳剣で封印するというものだ

 

 

彼は寝息を立てる彼女を他所にそんな非道なやり方について考えていた

 

 

この街、海鳴町での闇の書の騎士たちによる蒐集によって一般人にも被害が及んでいるという現実

 

果たして、一人の少女によって何も知らない一般人達を無下にしていいのか…下手をすれば彼女が原因で他の人間から死人が出るかもしれない

 

 

それだけは許されない、だが…

 

 

「…俺は彼女を救うと決めた、幾ら犠牲にしようと止まる事なんて出来ない、何を今更…」

 

 

選択肢を迷う自分がいるのか、答えは既に決めた筈なのに

 

 

イタチは彼女のベッドの傍に立ちながら懐から苦無を取り出してそれを病院の窓から差す月明かりに照らし合わせる

 

イタチは儚げな瞳をベッドで寝息を立てる彼女に向け、深い溜息をついた

 

自分が果たして正しい選択肢を取っているのかという疑問、違和感はなんとも言い表す事が出来ない

 

 

(…時間か…)

 

 

 

イタチはふと病室にある時計を一目見て確認すると静かに瞳を閉じてベッドに横たわり寝息を立てているはやてから踵を返す

 

 

……自分が実行する事に必要な下地の準備をする為に……

 

 

それは恐らく、ベッドに眠る少女が望んではいないシナリオであると知りながらも

 

 

「…約束…、破ってしまうかもしれないが、許せはやて…」

 

 

彼は静まり返った病室で悲しげな表情を浮かべたままそう告げた

 

 

それが何を意図するものかは定かでは無い、だが、彼は自分の中で踏ん切りを付ける為か眠りにつく少女にそう言葉を残した

 

 

そうして、忍はまた夜の闇の中にへと消えてゆく

 

 

 

 

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イタチが夜の病室に訪れてから二日が経ち、

 

 

 

ところが変わってここは深夜海鳴町、上空

 

 

この本来ならば静かな月夜の中である筈が、二人の人物の熾烈な戦闘により辺りに火花が飛び散っている

 

 

一人は髪を結び特徴的なツインテールをしたデバイスという魔法を扱う武器を片方に構える金髪の少女

 

 

もう片方は軽く桃色がかった髪を後ろに束ね、数ある戦闘を今日(こんにち)までこなしてきたと言わんばかりの雰囲気を醸し出し剣を構える美女

 

 

彼女らは互いに見合い得物を構える、その状態はまさに一触即発と言っていい程緊迫した空気が張り詰めていた

 

 

「…何故貴方達は無関係の人を巻き込んでこんな事を…」

 

 

「…問答など不要だフェイトテスタロッサ互いにこうして武器を構え合ったならやる事は一つだろう?」

 

 

武器、刃の鋭い矛先を少女に向けた彼女は不敵な笑みを浮かべてそう言い放った。

 

 

実にシンプルな答え、だがしかし妙なことだがそれは闘争を好むその言葉を言い放った彼女自身にはそれだけで目の前に立つ少女と一戦を交えるには十分な答えであった。

 

 

使命の邪魔になるというのなら戦う、主の命を脅かす要因になるならそれを排斥し取り除き、勝利を得て全うする。

 

 

そのことに基づいて常に行動している闇の書の騎士たる彼女は、それの対象としてフェイトを敵とみなした。なら、後は闘争しかない、わかりきった結果である。

 

 

 

「…はぁ!!!!!!」

 

 

 

「……あう!」

 

 

シグナムから声とともに素早く打ち出された重い剣の一撃を体を逸らし捌くフェイト、彼女はその鋭い剣の一撃に驚きながらもなんとかそれを上手く避けた

 

 

愛用のデバイスであるバルディッシュから伝わる衝撃は予想外に響き、デバイスを握る彼女の手は痺れ震える。

 

 

 

震える手を見つめ、彼女は冷静に心中でこの闇の書の騎士、シグナムの実践における能力ついての脅威を改めて悟った。

 

 

…なんて一撃だ、その上素早さも兼ね備えてる…本当に手の抜けない厄介な相手

 

 

 

痺れる手に力を込め直し、バルディッシュを握りしめたフェイトは静かに低く構えを取り始める

 

 

それは、空気抵抗を少しでも無くし、素早さに特化した自分が対峙する彼女よりも早く動くための姿勢であった。確かに彼女(シグナム)より力は劣っていて恐らく技術も五分かそれ以下かもしれない、なら自分がずっと今まで信じてきたスタイルで対抗するのが一番の攻撃手段、速さは誰にも負けない自信がある。

 

 

 

彼女はこの半年間、その間にさまざまな事を経験し、そして失ってきた。成長をする環境過程は十分にあったのだ、そうあの日から目の前から去ってゆく大事な人達を失ってから------------------------

 

 

 

「…この一撃は私が考えた新しい技、正直、悪いけど貴女に止められる気は一切しない」

 

 

 

ゾクリ、とそう告げる彼女の眼を見た瞬間、対峙するレヴァンテインを構えるシグナムの背筋に悪感が走った。

 

 

彼女の見たフェイトの眼差し、それは光がなくまるで殺気に満ち満ちた不気味な眼であった。

 

 

例えるなら漆黒、深い暗闇…

 

 

そう、これはそういえばどこかで見覚えがあった確かイタチと対峙した時に彼が自分に向けて見せたあの目に何処か、いや間違いなく似ている。殺すことに覚悟をもった言うならば漆黒の意思、もしくは殺意

 

 

 

明らかに構える両者の場の空気が一瞬にして変わった。自分もかつては戦場を駆け命を奪った事は多々ある。その漆黒も垣間見たこともあったがここまで明確なものはイタチとこの少女が初めてだ。

 

 

 

「確かテスタロッサと言ったか? なるほど、好敵手として申し分ないな、なら、その気迫に免じて私もこの一撃を送らせて貰おう、命の保証はしないぞ?」

 

 

 

「最初からないですよ、なのはと違ってもう私には感傷はないですから、捨てましたから甘さは、時空管理局の所属ですけど目的の邪魔になるなら排除します。…あの日から私は変ったのだから…」

 

 

 

彼女は冷静な口ぶりでそういった。そうして一切の感情を感じさせないその物腰にシグナムの頬からは冷ややかな汗が流れ地面にへと落ちていった。それと同時に歓喜に近い笑みを零して。

 

 

彼女はこの好敵手に嬉しさを隠せずにいた。

 

 

なんという威圧感のある空気を纏っているのだろうか、これほどまでに戦い甲斐のある人物に心躍っている。斬りたいあの少女を倒せば自分は今よりもっと高みに…

 

 

 

ふと、そこで彼女の思考は一時停止した。今自分は心の中でなんと思ったのだろうと、

 

 

殺したいと思ったのか、あの自分の主と大差のない少女を斬り殺したいとおもってしまったのか今、自分は…

 

 

 

試合を申し込んで戦ったときのあのイタチの蔑んだ言葉と表情が頭を過った。戦いを求めるなら戦場に行けとそこなら誰の咎めも受けない、正義も悪もない、その分だけ悲劇があるだけだと、自分は主を守るための使命を忘れるなと言われた。

 

 

 

この時になってようやく彼女は悟ったのだ、そして同時に恐ろしくなった自分の性を…

 

 

恐らくはイタチは見抜いていたのだろうかこの自分の悪しき意思を、[主など守るのではなく、只々、己が高みに近づきたいが為に戦いを望む!殺し合いを!己がために…]という殺人衝動に近い思惑を抱いた狂人になりつつあると…

 

 

 

それに気づいた彼女は徐々に自分の手から力が抜けてっていることに気付いた。あの心優しい主を自分は理由に戦うことに快楽を得るために動いていたと悟った瞬間にこの勝負を投げてしまったのかもしれない

 

 

 

(…使命か、主は私にとって…一体なんだったんだろう…)

 

 

 

そう、心の中で呟いていた刹那――――――

 

 

 

 

 

彼女の目の前には雷を纏った少女が信じられない速さで猛進してくるのが見えた。シグナムが先ほどまで構えていたはずの剣は地面を向き最早、その投げた意思と同じく役割をはたそうとしない

 

 

 

「…千鳥」

 

 

 

早かった、そして、その一撃はまさしく相手を必殺するための殺すために繰り出されたフェイトからの一撃であった。そう、避けることなどできない一撃

 

 

 

返り血は地面に飛び散りその周りを鮮血で染める。安全装置なんてものは存在しないなんせ殺すために出した技なのだから、それはシグナムもわかっていた、だから死をその瞬間覚悟したのだ

 

 

そう、自分と彼女との間に庇うように現れたその血に染まった仲介人を見るまでは―――――――――

 

 

 

「…ゴフ…う…」

 

 

「…え?…」

 

 

それは黒い魔道服を身にまとった少年だった。右腕は電撃の一撃とともに吹き飛び、肉の焼ける匂いとそこからは絶えなく血が流れ出ている。それはフェイトもよく知っている人物の姿であった

 

 

正気に戻った彼女は目の前に立つ人物に眼を白黒させ、信じられない光景に膝をついた

 

 

 

そうして、呼ぶ、自分のもう一人の兄である彼の名を…

 

 

 

「…クロノ…にいさん…」

 

 

 

そう、クロノ、時空管理局の執務官でありフェイトの兄であるクロノハラオウンがバルディッシュによって引き裂かれその身から血を吹きだして目の前に立っている光景であった。

 

 

 


 
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